「よもや、『その時』が来たというのかね?」
「ここから離れろ。悪魔の風が来る……!」
「き、巨人!?」
「春香、行くぞッ!」
「えぇぇっ!? 行くってどこにぃ!?」
『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』
「何なのあれは……!?」
「ウルトラマンオーブ」
「輝く銀河の星。光の戦士って奴」
「『スペリオン光線!!」』
突如都内に降臨した光の巨人、オーブが異常気象の原因、怪獣マガバッサーを撃退したその日の夕暮れのこと。765プロ事務所では、アイドルがガイの前に勢ぞろいしていた。
春香が開口一番に、ガイに告げた。
「みんな集まりましたよ。さぁ、プロデューサーさん教えて下さい。あなたのこと、オーブのこと!」
そう言った春香に、千早が顔を向けて尋ねた。
「春香、オーブってあの光の巨人……ウルトラマンオーブのこと?」
「……実はね、千早ちゃん」
千早と顔を向き合わせた春香が、おもむろに打ち明けた。
「あのオーブは、私とプロデューサーさんが変身したものなの! 私たちが怪獣をやっつけたんだよ!」
「えぇ!?」
アイドルたちは一気に騒然となった。
「それ本当のことなの!? 確かにオーブがいる間は、連絡も取れなかったけれど……」
「何ですか? 何の話をしてるんですかー?」
「春香ちゃんとプロデューサーがあの巨人に……えっ?」
「わ、訳が分かんないよ。一体どういうこと?」
「いや、そんなことある訳ないじゃないの。春香、頭どうかしちゃったんじゃないの?」
「ええ……。人間があんな巨人になるなんて、あり得ることじゃないわ。質量保存の法則はどこに行っちゃったのよ」
話を呑み込めないやよい、雪歩、真や、そもそも信用しない伊織、律子など、アイドルたちはそれぞれ戸惑った反応を見せた。
「ガイ君、臨時ニュースで見ていたよ。天海君の力を借りて、完全なオーブの姿になったんだね」
皆が困惑しているところに高木と小鳥がやってきた。高木は一番に、ガイにそう話しかける。
「その通りです、社長。春香のお陰で、マガバッサーを討ち取ることが出来ました」
ガイも、さも当然といった風に高木に返答した。二人のやり取りを見て、あずさが高木に尋ねかける。
「待って下さい、社長。社長たちはオーブという巨人のこと、事前に知ってたんですか?」
高木はあっさりと首肯した。
「うむ、そうなのだよ三浦君」
「みんな、今まで黙っててごめんなさい。でも、先に話してもとても信じてもらえないから、結果的に教えられなかったの」
小鳥までそう話した。彼らの反応に律子は狼狽しながら質問する。
「社長! プロデューサーも小鳥さんも、これはどういうことなんですか? この事務所は何なんですか!?」
律子の言葉はアイドルたちの総意だった。これを受けて、高木が口を開く。
「うむ。今こそこの765プロダクションの真実を教えよう。あまりに現実離れした内容だが、現実に現れた怪獣と、それを打ち倒した巨人を目撃した今の君たちならば受け入れられるだろう」
と前置きして、高木は765プロの真実なる話を始めた。
「もう三十年以上も前の話となる。当時の私は芸能業界の関係者ではなく、民俗学者を夢見る若者だった。私の名前を後世に遺すことを夢見て、情熱の赴くままに新発見を求めて日本中を駆け回っていた」
「そういえばパパから聞いたことがあるわ。社長は民俗学者から芸能事務所の社長に転職した、異色の経歴の持ち主だって」
高木の話を聞いて伊織がつぶやいた。
「うむ。だが、私は常軌を逸した新発見をしてしまったのだ。人智を超える生命体、怪獣の実在の証拠だ! 更にはあの禍翼のような魔王獣の復活を皮切りとして、怪獣たちが現代の世に蘇り、世界はあらゆるバランスが崩れた混沌の時代を迎えるという確証も得た!」
「それって、あんなでっかい生き物が、これからまだまだ現れるってこと!?」
「ぢゅいッ!?」
響が仰天し、ハム蔵はおびえて身をすくませた。高木はおもむろにうなずく。
「このままでは人類は怪獣の猛威によって滅亡してしまう。だが私に、その事態に対処する力などない……。悩みながらも怪獣の研究を行っていたある日に、私は巡り会ったのだ。そう、ここにいる紅ガイ君……光の巨人、オーブに!」
ガイのことを改めて紹介した高木。それについて疑問を持つ亜美と真美。
「えっ? 社長が民俗学者やってたのって、三十年も昔のことなんでしょ?」
「その時出会ったって……兄ちゃん一体何歳なの!?」
「ガイ君は見た目通りの年齢ではない。いや、それどころかこの地球の人間でもない。遠くの星から、この地球を救うためにはるばるやってきてくれた戦士なのだ」
「みんな、今まで黙ってて悪かったな」
ガイが別の星の人間……つまり宇宙人だということを聞かされて、アイドルたちは驚き果てた。やよいがつぶやく。
「そんな……プロデューサーが宇宙人だなんて……」
「まぁでも、どことなく超然とした雰囲気があったし、そう言われてもちょっと納得かも」
伊織はそう発した。
説明を続ける高木。
「私はガイ君、オーブのことを知り、この地球の救世主であると確信した。そして私も彼の力になるべく、この765プロを創立したのだ。……そう、芸能プロダクションというのは表の顔。真の姿は、オーブの支援組織だったのだよ!」
「な、何だってー!?」
亜美と真美の声がハモった。他の皆も驚きを露わにしている。
「ど、どうして一個人でそんな大それたことを……。そんな重要なことは、国とかもっと大きなところに任せればいいじゃない」
伊織のその疑問には、律子が回答した。
「大きな人間の集団は、信用できないから。そういうことじゃないですか、社長?」
「流石は律子君だ、察しがいい。オーブの力は、私たち地球人には強すぎる。強い力は人を惑わせるもの。この地球のために、ガイ君が悪しき考えを抱いた者に利用されるような事態にはしたくないのだ」
高木は律子の推測を全面的に肯定した。
「それで、私がプロデューサーさんと一緒に変身して怪獣を……」
春香が語った時、千早が高木達に問うた。
「待って下さい。どうしてそこで春香……いえ、春香だけでなく私たちも戦いに駆り出されることになるんですか? 私たちは、本当は……そのために集められたということですね?」
するとガイが申し訳なさそうに頭を垂れた。
「本当は俺一人で戦うべきなんだが、俺は……昔の戦いの後遺症で、自分一人では満足に戦うことが出来なくなってしまったんだ」
言いながら、腰に提げたカードホルダーから二枚のカードを取り出す。スペシウムゼペリオンへの変身の際に使用した、ウルトラマンとティガのカードだ。
「今はこのカード、ウルトラマンさんたちの力の結晶から光の力を借りないと、オーブに変身すら出来ない。それでも、俺だけでは完全に力を引き出すことが出来ない現状なんだ」
「そういえば、竜巻の中ではプロデューサーさん……オーブ、半透明でしたね」
春香が最初に見たオーブの姿を思い出した。全身すけすけで、今にも輪郭が崩れてしまいそうだった。
高木もまた残念そうな表情をしている。
「私も、本当なら自らガイ君とともに戦いたい気持ちなのだが、歳を取って私の身体はすっかり衰えてしまった。とてもじゃないがオーブの戦いにはついていけん。そのため、若くて未来への希望溢れる君たち若者の力が必要なのだよ」
「そうだったんですか……」
「騙す形になってしまったのはすまなかった。だが私たちには、この地球を怪獣から救うためには、君たちが必要なのだ! 無理を言っているのは承知している。危険も押しつけることにもなる。その上で……どうか私たちに協力してほしい!」
「俺からも頼む。みんなの力を、俺に貸してくれ!」
「みんな、どうかお願い! この地球の救世主になって!」
高木、ガイ、小鳥の三人から頭を下げられて頼まれ、アイドルたちは戸惑いを覚える。
「そんなこと、いきなり言われても……」
「……私は、プロデューサーさんと一緒に戦うよ!」
そんな中から、春香が一番に申し出た。
「春香!?」
「そりゃあ最初は驚いたけど……誰かがやらないと、今回みたいに街が滅茶苦茶になっちゃうんだよね? だったら、私がやるよ!」
春香に続いたのは貴音だった。
「わたくしもプロデューサーのお力になります。義を見てせざるは勇無きなり、です」
それから他のアイドルたちも続々と賛同した。
「自分も、家族を守るためなら何だってやるぞ!」
「うっうー! 私も、家族のために頑張りますっ!」
「ボクも、悪い奴らの好きにはさせません! ボクの空手の腕がちょっとでも力になるのなら!」
「アイドルになりに来て、こんなことに巻き込まれるなんて……。でもやらなきゃ世界が危ないっていうのなら、やってあげないこともないわよ!」
「亜美たちも、兄ちゃんたちと一緒に怪獣とバトっちゃうよー!」
「真美たちが世界を救うヒーローなんて、チョーかっちょいいもんね!」
「……歌を歌うためには、まず何よりも世界が存続してることが第一よね」
「あまりに非科学的な話の連続だわ……。でも、現実は机上の理論に勝る。やらなきゃいけないのなら、私だってひと肌脱ぎますとも!」
「あらあら。じゃあ僭越ながら、私も」
「わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!」
「みんな、ありがとう……!」
それぞれが悩んだ末に、答えを出していった。ガイは協力を申し出たアイドルたちに感謝するが、
「――冗談じゃないのっ!」
美希だけは、バンッ! と机を強く叩いて反発した。
「変身して怪獣と戦う? そんな話、全然聞いてないの! 騙すなんてサイテーなの! 社長もプロデューサーも、嘘吐きなのっ!」
「うッ、申し訳ない……」
「み、美希、ちょっと落ち着いて……」
興奮する美希を真がなだめようとしたが、美希はその手をはたいた。
「ミキ、もうあんな危ないことしたくない! こんなどうかしてるところにはいられないのー!!」
「ミキミキ! そんな推理小説なら次の被害者になるようなこと言って……!」
真美の制止も待たずに、美希は走り出して事務所から飛び出ていってしまった。なす術なくその背中を見送った伊織がため息を吐く。
「もう、美希ったら意気地なしね」
「まぁ、あれが普通の反応だと思うけどね」
響のぼやきにハム蔵がうなずいた。
「社長、どうしましょう……?」
小鳥が困り果てて尋ねると、高木もうなりながら腕を組んだ。
「まぁ、無理強いも出来ん。美希君が嫌だと言うのなら、私たちには止めることなど出来んよ。残念だが……」
「美希……765プロからいなくなっちゃうつもりなの……?」
春香が寂しげに美希の出ていった事務所の玄関を見つめた。
一方で、律子がガイにこう呼びかける。
「ところでプロデューサー。私、まだ誰も知らなかったオーブのことを「ウルトラマンオーブ」と呼んだ男の人と会ったんです。ねぇ千早」
「ええ……。どういうことか、あの人はオーブのことを事前に知ってたことになるわね」
律子の報告にガイは唖然と目を見開く。
「プロデューサーは何かご存じないでしょうか」
「……その男というのは、どういう奴だったんだ?」
「黒のスーツに薔薇を一輪胸に挿した、如何にもキザっぽい澄ました感じの人でした。髪は天然パーマみたいで」
特徴を聞いたガイが、あらぬ方向に目をやって小さくつぶやいた。
「まさか……あいつが……」
翌日、美希は一人で町の中をぶらぶらと散歩していた。本当ならレッスンをしている時間のはずなのだが、そんな気分になれずにサボタージュしているのであった。
「はぁ……昨日は勢いで飛び出したけど、これからどうしよう……」
冷静になってから、今後自分がどうすべきかについて悩み、景色の真ん中に建つオフィスビルを見やった。すると、
「――すっかり変わっちまったなぁ、この町の風景も。昔はあのビルの向こうに、綺麗な夕陽が見えたもんさ」
後ろからやってきたガイが、美希の隣に並んでそう語った。
振り向いた美希はジトッとにらみつける。
「……ミキを連れ戻しに来たの?」
「いいや。無理を言ってるのはこっちさ。お前が事務所を辞めるというのなら止めはしないし、アイドル活動だけやるってのならそれで構わない。少なくとも、俺はお前の意見を尊重するぞ、美希」
「……」
ガイの言葉に、美希は無言の返答をした。
「ただ、一つだけ注意しておくことがある。今日はそれを伝えに来た」
「注意しておくこと?」
「こいつだ」
美希に一枚の紙を手渡すガイ。それは、春香たちが出くわした黒い男の人相書きであった。
「この人誰?」
「ジャグラスジャグラーっていう名だ。昔、こいつと色々あってな……危険な奴なんだ。もし見かけたら、関わり合いにはなるな」
「……」
美希が人相書きを注意深く観察した、その時――。
二人が先ほどながめていたビルが、突如轟音を立てて「真下」に落下していった。
「えっ……!?」
目の前で起こった異常事態に声を失う美希。ガイもまた、固まりながら消えたビルに目をやっていた。
『本日発生した大規模な地盤沈下。私は、今その現場に来ています』
地中に消えたビルの件は、すぐにニュースに取り上げられていた。テレビの画面には、オフィス街の中央にぽっかりと大きく綺麗に開いた穴が映し出されている。
「うわぁ……大変なことになってる……」
「地面に穴開けるのはゆきぴょんだけで十分だよー……」
春香たちは異様な現場を映すテレビ画面に釘づけになっていた。その後ろで、小鳥が高木に尋ねかける。
「社長、これもまた魔王獣の仕業では……!」
「うむ……明らかにただごとではない。新たな魔王獣が活動を開始したということは十分に考えられるね」
魔王獣の名前を聞いて、やよいが目を伏せた。
「そんな……またたくさん犠牲になる人が出ちゃうんですか?」
「そんなことは許さないわ。私たちで次の魔王獣の情報を集めて、これ以上の被害を防ぐわよ!」
律子の音頭に、アイドルたちはそれぞれうなずいて意欲を見せた。そして高木が指令を発する。
「では臨時の『アンバランスQ』、「地底怪獣の謎を追え!」の取材開始だ! 君たち、よろしく頼んだよ!」
「『アンQ』ってこのための番組だったんだね」
「そういうことなのだよ」
亜美の聞き返しに高木は満足げに首肯した。
美希はオフィスビル跡の巨大な穴の前までやってきていた。穴の周りは警察が囲っていて立入禁止にしている。
「すごいことになってるの……。あれ、プロデューサー?」
ふと気がつくと、一緒にいたはずのガイの姿が側にない。辺りを見回したら、どうやったのか警察の目をくぐって穴の縁に立っているのを見つけた。
「あっ! あんなところに!」
ガイは光の届かない穴の底に向けて手をかざし、意識を集中した。
そうすることで、地中に潜む巨大な気配を感知する。
「やはり、土ノ魔王獣か……」
ガイが確信を得ていると、渋川が駆けつけて注意する。
「おい、君! 765プロのプロデューサー君じゃないか。ここは立入禁止だ。勝手に入っちゃ駄目じゃないか」
「いつも地球の平和のため、お勤めご苦労さまです」
ガイはペコリと頭を下げて挨拶する。
「ご丁寧にどうも。けどそんなことより、危ないから下がりなさい。また地盤沈下が起こる可能性も……」
渋川が言いかけた時、またも背景のビルが音を立てて地中に沈んでいった!
「あぁッ!? 何てこったいこれ! えぇ!?」
ガイはすぐさま新たに沈んでいったビルの方向へ駆け出していく。
「あッ、君!」
「プロデューサー!」
慌てて呼びかけた美希に、ガイは短く告げた。
「美希はどこか安全なところに避難してろ!」
それだけ言い残して、ガイは瞬く間に走り去っていった。美希は呆然と、手を伸ばしかけた姿勢でその背中を見つめていた。
その後、立て続けに三棟目のビルも地中に消えていった。それをニュースで知った律子が眉間に皺を刻んだ。
「すごい早さで被害が拡大していってるわ……。早く何とかしないと!」
「律子さん、次に被害に遭う建物だけでも分かりませんか?」
若干焦った口調で春香が尋ねた。律子はタブレットで、被害現場周辺の地図を確かめる。
「初めは断層に沿って地盤沈下が起きてると思ったんだけれど、三箇所目は断層の上じゃないわ。じゃあどういう法則で……」
「龍脈に沿っているのではないでしょうか」
貴音が話に割って入って意見した。亜美が振り返って質問する。
「お姫ちん、リューミャクって何?」
「風水の思想に基づく、地中の気の流れです。気の流れが乱れた時、大地に災いが起こるのです。この東京の地には、世界でも特に多い数の龍脈が走っているのです」
「龍脈……パワースポット……それだわ!」
律子がタブレットを操作し、昔に描かれた東京の地の龍脈図と現代の地図を重ね合わせた。
「ビンゴ! 被害現場と、龍脈の集まる地点が完全に一致したわ。貴音の言う通りね!」
「律子さん、太平風土記にそれらしい妖怪……魔王獣の記述を発見しました!」
パソコンで太平風土記の内容を調べていたあずさと小鳥が報告した。
「“角を持ちし赤き巨人が、土を禍々しく乱せし巨大な魔物、禍蔵鬼を、龍脈を以て地の底に封印せし”とのことです」
「赤き巨人……ウルトラマンのことだね!」
「ウルトラマンはずっとずっと昔にもう地球に来てたんだ……」
真と響が言った。律子は龍脈図の一点を指差す。
「まだ一箇所、破壊されてない龍脈のポイントがあるわ。多分ここを沈められたら、二体目の魔王獣が完全復活する!」
「大変です! すぐにこのこと、プロデューサーにお伝えしましょう!」
雪歩がすぐにガイのケータイに電話を掛けた。律子は春香と千早に首を向ける。
「私たちも現場に急行しましょう。春香、千早、行くわよ!」
「はい!」
「ええ……!」
「がんばってねー!」
律子に連れられ、春香と千早が事務所を発っていく。仲間たちは応援しながらそれを見送った。
その頃美希は――偶然にも最後の龍脈の地点の付近にいた。
「避難しろって言っても、安全なとこがどこかなんて全然分かんないの……」
ぼやきながら歩いていると……ちょうどすれ違った黒服の男に振り返った。
「今の人……!」
一瞬視界に収めた顔が、人相書きのものと同じだということに気がついたのだった。
『もし見かけたら、関わり合いにはなるな』
ガイの言葉が脳裏によみがえったが……同時に、地中に沈んでいったビルの光景が浮かび上がった。
あれで少なくない数の犠牲が発生したはずだ。そして放っておけば、被害はどんどん増えていく……。
そんな考えが生じると……美希は思わず黒い男、ジャグラスジャグラーの後を追いかけていた。
ジャグラーは無人のオフィスビルの地下フロアに侵入していった。尾行する美希もまた、ビルの地下に入っていく。
そして地下駐車場で、ジャグラーが黒いリングの間にカードを次々と通している様子を発見した。
『ギャオオオオオオオオ!』
通されたカードは黒い粒子となり、更に地中深くに向けて消えていく。
「何をやってるの……?」
美希には分からなかったが、彼女の感覚は雰囲気からしてとても良くないことをしているのだということを告げた。
「あの人のこと……とりあえず、プロデューサーに伝えよう……!」
柱の陰から監視しながらそう判断した美希は、ジャグラーの姿を捉えようとケータイをカメラモードにしてジャグラーの姿を写そうとする。
が、少し目を離している隙に、ジャグラーの姿が忽然となくなっていた。
「あれ?」
戸惑った美希の、その背後から、
「やぁお嬢ちゃん。こんなところで何をやってるのかな?」
ジャグラーの首が伸び、美希の背後からその肩に顎を乗せるようピッタリと張りついた。