「最近の四条さん、何だか元気がないように見えない?」
「わたくし、今日限りでこの765ぷろを辞職させていただきます」
「わたくしは故郷、一族の元に帰ります」
「みんなで力を合わせて、貴音を守ろう!」
『さぁ、私めとともに帰りましょう』
『「お願いです! 四条さんを連れていかないで下さい!」』
『お嬢さまは、もうしばらく地球に滞在してよいということだ』
『我らが統治者より、お前に月の秘宝を授けるよう言付かった』
「これは、ウルトラマンエースさんの力!」
「どうか、最後までわたくしの運命と共にあって下さい」
765プロ事務所で、小鳥の見ている中、ガイがデスクの上に今まで入手したウルトラフュージョンカードを並べていく。
「いっぱい手に入りましたねぇ、プロデューサーさん! もう世界中のほとんどのものを集めたんじゃないでしょうか?」
一番新しく手に入れたエースのカードを最後に並べたガイに小鳥が尋ねる。
「そうですね……後は『例の場所』にある一枚くらいでしょうか」
答えたガイの口調のトーンが妙に重いので、小鳥は気に掛けた。
「どうかしたんですか、プロデューサーさん? こんなにウルトラマンの先輩方のカードが集まったのに、嬉しくないんですか?」
と聞くと、ガイは神妙な面持ちで返答した。
「……俺の手元にあったカードは、長らくティガさんとウルトラマンさんの二枚だけでした。それなのに、この最近で一気にこれだけの数が集まるなんて……偶然とは思えません」
「と言うと?」
「……これらのカードが必要となるような、『でかい事件』が近くに起きるんじゃないか。そんな気がするんです……。カードが集まるのはその予兆じゃないかと……」
ガイの発言に小鳥はドキリとする。
「そ、そんな! 考えすぎじゃないでしょうか? プロデューサーさんも言ってたじゃないですか。魔王獣はみんなやっつけたから、『中心の奴』はもう安心だって」
「そのはずですが……」
そんな話をしているところに、雪歩と真が駆け込んできた。
「ぷ、ぷ、プロデューサー! 大変ですぅ~!」
「? どうしたんだ、騒々しいな」
彼女らに心配を掛けないように表情を平常に戻したガイが振り向くと、真が手に持っていたものを突きつけた。
「これっ! これ見て下さい! 大変なことが書いてますっ!」
「何だって? どれどれ……」
真が持ってきたのは、一冊の芸能雑誌だった。その見開きのページを注視したガイと小鳥がギョッと驚く。
「こいつは……!」
「ええっ!? 嘘でしょう!?」
そのページに載っている写真に写っている人物は、貴音。彼女が一人の老紳士とレストランで談笑している写真であった。
そして煽り文には、『エルダーレコードオーナー、アイドルと密会! 引き抜きか!?』などと書いてあるのだった。
事務所に呼び寄せられた貴音は、このスキャンダルによって事務所に駆けつけたアイドル仲間たちに質問攻めされていた。
「貴音、これはどういうことなの!? この写真の人、ほんとに大手のとこのオーナーじゃない!」(伊織)
「そんな偉い人とどうして一緒にいたんですか!?」(春香)
「まさか、ほんとに引き抜きを持ちかけられたんじゃないでしょうね!?」(律子)
「ひきぬきって何ですかぁ?」(やよい)
「別の事務所に移籍して、ここからいなくなっちゃうってことだよ!」(真)
「えぇー!? そんなのヤだよお姫ちーん!」(亜美)
「ついこないだ月に帰らなくてよくなったのに、そんなのなしっしょー!?」(真美)
「四条さん、いなくならないで下さいよぉ~!」(雪歩)
大勢で押し寄せられては、流石の貴音もたじたじであった。
「皆、落ち着いて下さい……。わたくしとて一辺には答えられません……」
「貴音ちゃんの言う通りよ、みんな。質問するのはプロデューサーさんたちにお任せしましょう」
あずさになだめられ、一旦引き下がったアイドルたちの代わりにガイと小鳥が貴音と向かい合った。
「まずは事実確認だ。貴音、この記事の内容は本当か? つまり、引き抜きの話を持ちかけられたのかってことだ。正直なところを話せよ」
アイドルたちはゴクリと固唾を呑んで見守る。もしそれが本当ならば、写真の表情からして、貴音の感触は悪くないということになってしまう。
果たして、貴音の答えは。
「……いいえ。そのお方とはたまたま街ですれ違ったところ、お財布を落とされたので拾って差し上げたら、お礼と言って食事に誘われただけのことです」
「本当だな?」
「誓います」
その言葉にほっと胸を撫で下ろすアイドルたち。貴音は秘密主義ではあるが、嘘を吐いたりする人物ではない。彼女がこう言うからには、間違いはないのだろう。
「なーんだ、この記事の間違いってことかぁ。安心だぞ!」(響)
「でもどうして、ただお話ししてただけなのにこんな話になっちゃったんですかぁ?」
やよいの疑問に千早と律子が答える。
「この記事を書いた記者がでっち上げたに決まってるわ」
「この業界には、雑誌を売るためにはほんのちょっとしたことでも面白おかしく騒ぎ立ててスキャンダルにしようとする性根の悪い記者があっちこっちに転がってるのよ。私たちも変な写真撮られないように気をつけないとね」
小鳥も貴音に注意を促した。
「貴音ちゃん、これからは安易に男の人の誘いを受けちゃ駄目よ? 別に変なことじゃなくても、今回みたいなことになっちゃうからね」
「申し訳ありません、軽率でした……」
「ご飯美味しかったの?」(美希)
「美味しゅうございました」
小鳥はガイに向き直る。
「プロデューサーさん、事務所的にはどう対応しましょう?」
「そうですね……。こっちから下手にコメントすると、また変な勘繰りを受けるかもしれません。とりあえずエルダーレコード側と話をつけて、それまでは表立った行動は控えましょう。話は社長に通してもらいましょう」
「分かりました。それじゃあ連絡しますね」
小鳥が高木に電話を掛ける中、ガイがアイドルたちに呼びかける。
「この話はこれでおしまいだ! もう気にする必要はない。みんな、いつも通りの活動に戻るように。誰に何を聞かれても、変に慌てた答え方をするんじゃないぞ」
「はーい」
ガイの注意を最後にアイドルたちはそれぞれ解散していく。
「いやー、何もなくてひと安心だね」(春香)
「ボクは最初からそう思ってたよ」(真)
「何よ、あんたが一番慌てふためいてたじゃない」(伊織)
あはははははは、と他のアイドルたちが談笑して散っていく中で、貴音はそっとガイの袖を引いた。
「もし、プロデューサー……」
「ん? まだ何かあるのか?」
「……一つ、大事なお話しがあります。これは皆にはご内密に……」
貴音は真剣な面持ちで、そう告げた。
翌日、アイドルたちは事務所でテレビに食いついていた。これからエルダーレコードオーナーによる、スキャンダルについての記者会見が行われるのだ。伊織が息を吐きながらつぶやく。
「これで疑惑は完全に晴れるわね」
「でも、いやに対応早いですね。それほど重要視されてた訳でもないのに、昨日の今日で会見なんて」
「きっと先方も私たちに配慮してくれたのよ」
千早のひと言にそう推察した律子が、キョロキョロと辺りを見回した。
「ところで、肝心の貴音はいないの? プロデューサー殿もさっきから姿が見えないんですが」
「何でも、大事な用があるんですって」
小鳥が肩をすくめて答えた。
「何ですかそれ? こんな時に、一体何の用が……」
「あっ、始まるよ!」
律子がぼやいている途中で、テレビの画面の中でレコードオーナーがカメラの前に出てきたので美希が指差した。それで律子も画面に集中する。
会見が始まると、早速記者の一人が質問した。
『記事によりますと、別事務所のアイドルに直々に移籍の話を持ちかけられたとのことですが、それは本当のことでしょうか?』
アイドルたちは、オーナーが否定をしてくれるのをわくわくしながら待った。
が、しかし。
『ええ、本当です』
「……ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
今の発言でカメラのフラッシュが激しく焚かれる一方で、アイドルたちは皆目が飛び出さん勢いで仰天した。それを余所にオーナーは続ける。
『私、この四条貴音さんにひと目惚れしてしまいましてな。彼女も移籍の話を快諾してくれましたよ。間違いありません』
「う、嘘でしょ!? どういうこと!?」
「四条さんの話と丸っきり逆じゃない!」
動揺しまくる響と千早たち。その間にも会見は続き、オーナーは765プロ側に不利なことをどんどんと話していく。
「そんな……四条さんが私たちに嘘を言ってたんですかぁ!? どっちが本当のことなの……!?」
「お、落ち着いて雪歩!」
ショックのあまりよろめいた雪歩を慌てて抱き止める真。律子はバッと小鳥に振り返った。
「い、今すぐエルダーレコードに問い合わせましょう! プロデューサーにも、大事な用とか言ってられません! すぐに連絡を……!」
『そこまでですっ!』
いきなり貴音の声が響いた。しかしそれは事務所からではない。テレビからであった。
「あぁっ!? 貴音さんがテレビに出てますぅ! プロデューサーも一緒にいますよ!」(やよい)
「ええええ!? どうしてそんなところに!?」(春香)
「大事な用って、まさかそういうこと!?」(律子)
渦中の人物の貴音の乱入に、記者たちは更に興奮してカメラのシャッターを切りまくる。一方でオーナーは動揺を顔に浮かべていた。
そして乱入者は二人だけではなかった。
『へいへいへいへい! この記者会見待ったッ!』
「あれ叔父さん!?」
「何で渋川さんまでいるの!?」
ガイたちとともにいる渋川に驚愕する春香と真。律子は薄々勘付いてきた。
「まさか……!」
記者たちの注目を集める中、貴音が彼らに呼びかける。
『皆さま、騙されてはなりません。今あなた方の前にいる殿方は、えるだぁれこぉどのおぉなぁではございませんっ!』
まさかの発言に一気にどよめく記者たち。オーナーは貴音の言うことを即座に否定しようとする。
『一体、何を訳の分からないことを……』
『下手な芝居はよしなッ! 証拠は挙がってるんだぜ!』
それを渋川がさえぎり、会場の出入り口に向かって呼びかけた。
『さッ、お入り下さい』
渋川に促されて入ってきたのは……エルダーレコードオーナーだった!
「えぇーっ!? オーナーさんが二人!?」(真美)
「双子だったの!?」(亜美)
「ベタなボケはいいから! これってまさか……!」(伊織)
記者たちも驚愕とともに混乱している中、今入室してきたオーナーがマイクを渡されて口を開く。
『皆さん、私は二日前から今までずっと、あそこの私になりすましている男に監禁されていました。そこをこの二人に助けてもらいました』
オーナーがガイと貴音をそう紹介した。
『私を監禁している間、あそこの偽者はこのお二人に迷惑を掛けていたみたいですな』
『スキャンダルを書いた記者も、お前が雇ったんだってな。そいつが全部吐いたぜ』
とガイが突きつけると、立ちすくんでいたにせオーナーは、うつむいた後に肩を揺すって笑い出した。
『クックックッ……こうなったからには仕方ないッ!』
そして顔を上げると……その顔面には悪魔を思わせるきついメイクが施されていた!
「何で厚化粧!?」(春香)
『そうともッ! 俺はエルダーレコードオーナーではない! とうッ!』
にせオーナーは老齢とはとても思えない異常な跳躍で記者たちを飛び越えて非常口の前に着地すると、その姿が歪んで真っ赤な体色の頭部がやたらと大きい怪人に変身した。
『ファイヤー星人テーペ! それが俺の名前だぁぁッ! うはははははははッ!』
『きゃあああああっ!?』
宇宙人の正体を明かしたにせオーナーに、記者たちが一斉に悲鳴を上げた。
『やっぱりそうだったかッ!』
渋川がスーパーガンリボルバーを抜くが、それより早くファイヤー星人テーペが三連装の銃から射撃を行った。ガイは咄嗟に側の貴音と渋川、オーナーの頭を下げさせながら身を伏せ、銃撃から逃れた。
その間にテーペは非常口を蹴破って会場の外に逃走。銃撃に集まった記者たちがパニックになる中、ガイと貴音がテーペを追うように会場から飛び出し、渋川も少し遅れて飛び出していったのをカメラが片隅に捉えていた。
この一連の事態の急変を唖然としながら見ていたアイドルたちだが、律子がハッと我に返って叫んだ。
「こうしちゃいられないわっ! 私たちも現場に急ぎましょう!」
「は、はい! プロデューサーさんと貴音さんが危ないっ!」
春香たちがうなずき、彼女たちは慌てて出動と撮影の用意を整えて765トータス号を発進させていった。