THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ニセモノ夜を往く(A)

 

「世の中は連続して怪獣が出現するようになってしまったわね……」

「あれが深海で暴れてて避難してきたんだって!」

「怪獣も、どうしてわざわざ私たちの前に出てくるのかしら」

「あんたの絶望してる心が、あそこで泣いてるんだ!」

「世界はあらゆるバランスが崩れた混沌の時代を迎えるという確証も得た!」

「あんなでっかい生き物が、これからまだまだ現れるってこと!?」

「怪獣だって人間の前に出てきたくないはずだ」

「あの親子、しあわせだね」

 

 

 

『ニセモノ夜を往く』

 

 

 

 地球の衛星軌道上に潜んでいる円盤内で、惑星侵略連合が話し合いを行っている……。

 

『ウルトラマンオーブが強い理由は何か? それは、人間たちとの絆の強さだ。人々の希望が奴に力を与えている……』

 

 ノストラの意見に対して、ジャグラーが進言する。

 

「それは同時にオーブの弱点でもあります」

『ん?』

「何より彼は、戦いの最中人間を傷つけることを恐れます」

 

 ジャグラーの言葉を受け入れたかどうかは定かではないが、ノストラはこの場に一人の宇宙人を呼びつける。

 

『ババルウ星人ババリュー! 来い』

 

 金色の鬼のような姿の怪人が現れてノストラの前にひざまずく。――変身能力に関しては宇宙一とも言われるババルウ星人だ。

 

『ドン・ノストラ、お呼びで?』

『お前の変幻自在の能力で、ウルトラマンオーブに変身し、地上を攻撃するのだ。そしてオーブと人間の信頼関係を、壊してしまえ!』

『かしこまりました……』

 

 立ち上がったババルウ星人ババリューの姿が、一瞬にしてオーブ・スペシウムゼペリオンのものに変化した。――あらゆる角度から本物との違いが全くない、完璧な変身である。

 ババルウ星人はその変身能力で撹乱や破壊工作を最も得意とする。ウルトラ戦士を同士討ちさせたことまであるのだ。そしてその恐るべき能力を、今度はオーブに対して仕掛けようとしている――!

 

 

 

 765プロ事務所では、春香がアイドル仲間たちにケータイの写メを見せている。

 

「見て見て。この子、はとこのアナスタシアちゃん。こないだ346プロにスカウトされてアイドルデビューしたんだって。私たちの後輩ってことになるんだよ」

 

 画面に映っているのは、スラヴ系の美少女の顔写真。春香の説明に、真が意外そうに聞き返す。

 

「え? この子がはとこって……春香って家系にロシア人がいるの?」

「あれ、言ってなかったっけ? 私、ひいひいおばあちゃんがロシア人なんだよ。ロシアで色々あって日本に移住してきたんだって」

「えぇ!? そうだったんだ!」

 

 驚く雪歩に春香は胸を張る。

 

「そうだったのよ! 普通普通なんてよく言われる私だけど、実はロシア人の血を引いてるの! すごいでしょ?」

「でもそれっぽい要素全くないじゃない。春香、あんたロシア語話せるの?」

 

 伊織のツッコミに春香はうっとうめく。

 

「い、いや、全然……」

「じゃあ威張るほどのことでもないわね。やっぱり普通じゃない」

 

 手厳しい伊織にがっくりうなだれる春香。と、その時、事務所の玄関の方からキンキン響く声が起こる。

 

「こんにちはー!!」

「わっ! 大きな声! 誰?」

「今の声は……!」

 

 相当な声量に驚かされる雪歩の一方で、春香には心当たりがあるようだった。

 そして事務所に入ってきたのは、三人の少女……たち。真ん中の小柄だが元気がその身から溢れ出ているような子が、よく通る声で挨拶する。

 

「春香さん、来ちゃいましたー!! この間はどうもお世話になりましたー!!」

「やっぱり、愛ちゃんっ! 相変わらず大きい声だね」

「春香、その子はどなた?」

 

 伊織の質問に、少女の紹介をする春香。

 

「日高愛ちゃん。この前公園でたまたま知り合って、アイドルを志望してるっていうから876プロを紹介してあげたの」

「ああ、ウチと業務提携してるとこ」

「はいっ!! 無事にデビューさせてもらえたんです!! あたしがアイドルになれたのは春香さんのお陰ですっ!!」

 

 うるさいくらいに声の大きい愛は、一緒にいる二人の少女……のことも紹介する。

 

「このお二人は水谷絵理さんと秋月涼さんです!! あたしの同期ですっ!!」

「こんにちは……」

「こ、こんにちは」

「秋月? それってまさか……」

 

 真が言い終わる前に、愛の声で何事かとやってきた律子が涼の顔を見て驚きを浮かべた。

 

「涼! あんたどうしてここに?」

「あッ、律子姉ちゃん!」

 

 涼という少女……が律子を「姉ちゃん」と呼んだので、伊織が律子に振り向いた。

 

「律子、妹がいたの? でもこの前は一人っ子って言ってなかったかしら?」

「いとこよ。涼、その子たちは確か876プロから新しくデビューした子よね。ってことはあんた、ほんとにアイドルになったんだ。でもその格好は……?」

「あーあーッ!」

 

 涼が妙に慌てて律子の口を手でふさいだ。

 

「律子姉ちゃん、これには訳が……」

「?」

 

 涼の様子に首を傾げる愛たち。その内にガイもこの場にやってきた。

 

「何だ何だ、騒がしいな。一体何事だ?」

「そうそう。愛ちゃん、今日はどうして765プロに?」

 

 春香が聞き返すと、愛はグーの拳を振り上げながら答えた。

 

「実はあたしたち、今ウルトラマンオーブのことを調べてるんです!!」

「えっ、オーブの? そっちもそんなことやってるんだ」

「ウルトラマンオーブは今、一番ホットなワード?」

 

 と言う絵理。真は愛に尋ね返す。

 

「それで、普段からオーブを追ってるボクたちから話を聞きたいってことかな?」

「いえ、それもありますけど……」

 

 すると愛はじっと強い眼差しで春香たちを見回した。

 

「実はあたし、この765プロにウルトラマンオーブがいるんじゃないかと思ってるんです!!」

 

 そのひと言にガイたちはブーッ!? と噴き出した。春香は動揺しながらもとぼける。

 

「な、ななな、何を言ってるのかな愛ちゃん? おかしなこと言って……」

「だって春香さんたち、いつもオーブが現れる現場に居合わせるじゃないですかー!! それで突撃取材って訳です!!」

「そ、そんなの偶然だって。私たちも常日頃から謎を追い掛けてるから、オーブと遭遇しやすいってだけで……」

「いーや!! きっと何か秘密があるんじゃないですか? どうか教えて下さいっ!!」

「ごめんなさい……。愛ちゃん、言い出したら聞かなくって……」

 

 絵理や涼は愛の言うことを信用していないようでペコペコ謝るが、春香たちは内心バクバクだ。

 

「も、もう。おかしなこと言わないでよね。びっくりしたじゃない……」

 

 伊織が渇いた笑いを発しながら目をそらしたが――その先の窓の向こうで、不自然な発光が起こった。

 

「あら? あれは何かしら……?」

「え?」

 

 全員の注目が窓から見える光景に集まると――発光からはオーブが出現する!

 

「あっ、ウルトラマンオーブです!!」

「えぇっ!?」

「嘘!?」

 

 春香と真は思わずガイに首を向けた。ガイは冷や汗混じりに違う違うと手を振る。

 

「こんなところに現れるなんて!! すぐに行きましょー!!」

「あッ、待って愛ちゃん!」

 

 いち早く事務所を飛び出した愛に続く涼と絵理。春香たちも慌てて三人の背中を追いかけていく。

 

「これどういうことですか!? 何でプロデューサーさんここにいるのに、オーブが……!?」

 

 愛たちに聞こえないように春香が問うと、律子が深刻な表情で答えた。

 

「可能性は一つ……あれは姿を真似た偽者よ! 悪い宇宙人が、ウルトラマンオーブの名前を貶めようとしてるんだわ!」

「大変ですぅ! 早く止めないと!」

 

 焦る雪歩。――実際律子の言う通りで、あのオーブの正体はノストラより地上攻撃を命じられたババルウ星人ババリューなのだ!

 

『さぁババリューよ、地上を破壊するのだ!』

『かしこまりました……』

 

 円盤からのノストラの命令により、オーブに化けたババリューが今にも町を破壊しようと身構える。絵理と涼は疑念を抱く。

 

「何だか、様子が変……」

「そうだね……。怪獣も出てないのに……」

 

 一方でガイは春香たちとともに人気のない場所で変身しようとしていた。

 

「よし、行くぞ!」

「はいっ! 偽者なんて許せません! ボッコボコにやっつけちゃいましょう!」

 

 真が一番に名乗り出て、後は誰がフュージョンアップするか――それを決める前に、急に地面が揺れて彼女たちは思わずよろけた。

 

「何なに!? 偽者が暴れ出したの!?」

「いえ違うわ……これは……!」

 

 律子のつぶやきの直後に、ババリューの背後の地面から怪獣が飛び出してくる!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 地底怪獣テレスドンだ! これに目を丸くする伊織。

 

「何で怪獣まで出てくるの!?」

「恐らく、たまたま下で眠ってたところに奴が現れたことで、その影響で目覚めちまったんだろう」

 

 ババリューのうろたえる様子を観察してガイが推測した。実際、ババリューはノストラに指示を求めていた。

 

『これはどういうことですか!?』

『分からん……! 想定外だ!』

『私は、どうすればぁぁッ!?』

 

 テレスドンはババリューの背面にタックルを入れて、ババリューは思い切り突き飛ばされて転倒した。そこにノストラがようやく指示を出す。

 

『自分の身は自分で守れッ!』

『そんなぁ!?』

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 襲い掛かってくるテレスドンを必死で抑え返すババリュー。――その背後には、腰を抜かして動けない子供二人がいた。

 

「怖いよぉーッ!」

「あそこに子供たちが!?」

 

 叫ぶ愛。ガイは子供たちに気づくと、迷うことなく飛び出していく。

 

「あっ、プロデューサー!」

 

 ガイはすぐに子供たちの元へと駆けつけ、二人を助けようとする。

 

「大丈夫か!?」

 

 その時に、テレスドンが熱線を吐いてババリューを攻撃する!

 

『うぎゃあーッ!?』

 

 熱線をもろに食らったババリューだが――それがたまたま子供たちとガイをかばう形となった。

 

「あっ!! オーブが子供たちを守りましたー!!」

 

 それに愛は思い切り誤解した。

 

『あっちぃー! もう勘弁ならねぇー!』

 

 一方でキレたババリューは作戦も忘れ、テレスドンに飛びかかってボカボカ殴りつける。

 

「オーブが怪獣と戦ってます!! がんばれオーブー!!」

 

 愛は純粋にオーブ=ババリューの応援をするが、絵理と涼は訝しげにババリューを見つめた。

 

「オーブってあんな感じだっけ……?」

「断じて違うわ」

「あんなダサくないわよ……」

 

 律子と伊織が憮然とつぶやいた。

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 ババリューにタコ殴りにされたテレスドンは戦意を失い、穴を掘って地中に逃げていく。その背中に毒づくババリュー。

 

『どうだこのヤロー! 二度と来んなッ!』

 

 テレスドンをどうにか追い払ったババリューだったが、それで体力を使い果たしてしまい、変身が解ける前に巨大化を解除していった。それを目にした愛が言う。

 

「あの辺りで消えました!! 今ならオーブの正体が分かるかも!! いっくぞー!! とやーっ!!」

「ああ、愛ちゃんッ!」

 

 涼が制止するのも聞かず、愛は全速力で駆け出していく。その先で、等身大のサイズにまで縮んだババリューがヘロヘロになっていた。

 

『はぁー、妙なことになっちまったな……』

「いた!! あなたがウルトラマンオーブですね!?」

 

 そこに早くも駆けつけてくる愛。焦ったババリューは咄嗟に地球人の姿に化ける。

 

「何の……ことかな?」

 

 金髪のヤンキー風の姿になったババリューに詰め寄る愛。

 

「とぼけないで下さいっ!! この辺にはあなた以外誰もいません!! ってことはあなたがウルトラマンオーブっ!!」

「わわッ、声がでかい! お、俺はこの辺で……」

 

 面倒なことになりそうだと判断したババリューはそそくさと立ち去ろうとするが、愛は呼び止める。

 

「あっ、待って下さい!! せめてお名前だけでも!!」

 

 振り返ったババリューは、愛をあしらうべく即興で名前を考えた。

 

「ババリュ……いや……馬場竜次」

「ババリュウジ? ……なるほど!! ヒーローは正体を知られちゃいけないっていうのが昔からのお決まりですもんね!! 世を忍ぶ仮の姿って奴ですね!?」

「そ、そんなところだ」

「分かりました!! このことはあたし、絶対秘密にしますっ!! 誰にも言いません!!」

「そ、そうだよ! 俺と君だけの秘密だ! いいね?」

「はいっ!! 約束します!!」

 

 ババリューはどうにか話を合わせて、愛に約束させて早足で立ち去っていった。……この様子を、陸橋の上からガイがじっと観察していた。

 

 

 

 翌日。偽者のオーブのことは、惑星侵略連合の思惑とは異なる形で世間を賑わせていた。

 

『昨日お昼頃、市内に怪獣が出現しましたが、ウルトラマンオーブの活躍によって、怪我をした人はいませんでした』

「……変なことになっちゃったね……」

 

 ニュースの内容にぼんやりとつぶやく雪歩。律子たちがうんうんとうなずく。

 

「まさか、本物と誤解されたままもてはやされるなんてねぇ」

「あの偽者、これからどうするつもりなのかしら?」

 

 伊織がぼやくと、真がいきり立って席を立った。

 

「昨日はこんな結果だったけど、またどこかで悪さしようとしてるに決まってるよ! プロデューサー、捜しに行きましょう!」

「随分やる気だな、真」

 

 ガイがやや気圧されながら聞き返す。

 

「ボク、こういう卑怯なことって大っ嫌いなんです! 人の振りして汚名を着せようなんて許せることじゃありません! 絶対やっつけてやりましょう!」

「分かった分かった。分かったから少し落ち着けって。気合い入り過ぎだぞ」

 

 興奮しすぎている真をガイがなだめている一方で、春香がふとつぶやいた。

 

「そういえば、愛ちゃんはどうしてるんだろ。昨日はオーブの正体を確かめるーなんて飛び出していっちゃったけど……」

 

 

 

 その頃、ババリューは真の言った通りに作戦の再開を目論んでいた。人間態で町に潜り込み、ビートル隊の基地周辺に忍び寄る。

 

「確かこの辺りにビートル隊の基地があったはずだが……。まぁいいや、この辺りからぶっ壊すとするかぁ」

 

 独りごちながら歩いていたのだが、ちょうどその時すれ違ったのが渋川であった。

 

「おい、おい君!」

「はい?」

 

 耳聡く聞き止めた渋川が引き返してくる。

 

「君、ここで何してるの?」

「別に……何もしてないです」

「怪しいな……。身分証か何か持ってる?」

「な、何言ってるか分かんねぇヘヘ……」

 

 笑ってごまかそうとするババリューだったが、渋川に捕まって陸橋の手すりに抑えつけられる。

 

「痛ぁッ!」

「おいッ! 危ないもん持ってないか!?」

 

 ババリューのボディチェックを始める渋川だったが、そこに愛が走ってきた。

 

「馬場さーん!! こんなところにいたんですかー!!」

「え? 君、この人知り合い?」

「はい!! テレビ局の人で、時々誤解されるようなこと言っちゃうんです!! さぁ馬場さん行きましょうっ!! スケジュールが差し迫ってますよ!!」

「あッ、ちょっと……!?」

 

 渋川をごまかし、ババリューの腕を引っ張ってどこかへ連れていく愛。公園に入るとふぅと息を吐いた。

 

「危ないとこでしたね。もう少しでビートル隊に正体が知られちゃうとこでした!!」

「ああ、助かったよ……。けど、君は何の用?」

 

 とババリューが聞いたところに、絵理と涼がやってきた。

 

「愛ちゃん、言われた通り子供たちを集めてきたけど……」

「ありがとうございます!! みんなー!!」

「わぁー!!」

 

 愛が呼ぶと、昨日の二人を含めた近所の子供たちが愛とババリューの周りに集まってきた。

 

「な、何だよこのガキ……いや子供たちは!?」

 

 ババリューが目を白黒させると、愛は子供たちに言い放つ。

 

「この人が、ウルトラマンオーブの馬場竜次さんだよー!!」

「えぇッ!? お、俺と君だけの秘密だって言ったろ!?」

 

 昨日の今日で早くも約束を破られたババリューが怒鳴るが、愛は笑っているだけだった。

 

「助けられた子供たちがどうしても会いたいって言ってたんですよー!! ヒーローらしくサービスしてあげて下さい!!」

「そ、そんなこと言われたって……何とかしてくれよぉ!?」

 

 子供たちに纏わりつかれてババリューが困り果てると、愛は子供たちをなだめて落ち着かせる。

 

「はいはいみんなー!! 一人ずつお話ししよー!! じゃあ、馬場竜次さんに質問がある人っ!!」

「はーいッ!!」

 

 一斉に手を挙げる子供たち。一人がババリューに質問をぶつける。

 

「僕、逆上がり出来ないんですけど、どうすればいいんですか?」

「は?」

「それはもちろん、あきらめず練習することだよ!! オーブだってそうやって強くなったんだから!! ですよね、馬場さん?」

 

 勝手に話を進める愛に、ババリューはとりあえず合わせた。

 

「そう、だね……。あきらめちゃいけない!」

 

 適当な回答を返すと、次の子供が質問する。

 

「僕もウルトラマンのようなヒーローになれますかぁ?」

「いや、それは流石に……」

「なれますよね!?」

 

 愛にさえぎられ、ババリューは仕方なくうなずいた。

 

「なれ……るよ。夢を持ってれば、君のなりたいものにきっとなれる……!」

 

 そんな感じで盛り上がっている愛たちの様子を、絵理と涼は遠巻きにながめていた。

 

「絵理ちゃん……あの人、本当にウルトラマンオーブなのかな?」

「うーん……何だか、冴えない感じ?」

 

 二人は信じ切っている愛と違って半信半疑であった。

 またこの状況を、ガイと真、春香の三人がこっそりと観察していた。

 

「愛ちゃん、あの人がオーブだってすっかり信じ込んじゃって……」

「プロデューサー、早く止めましょう! あの偽者、調子のいいこと言ってみんなを騙すなんて!」

 

 逸る真を制止するガイ。

 

「待て。多分ここで飛び出していったら、俺たちが悪者だぞ。しばらく様子を見よう」

「うっ……しょうがないか……。でもあいつが悪さする素振りを見せたら、すぐにとっちめてやるんだから……!」

 

 真はしぶしぶと引き下がったが、依然としてババリューに強い敵意の眼差しを向けていた。

 

 

 

 しかし真が思うようなことは起こらず、ババリューは愛に振り回されっぱなしのままで時間が過ぎていった。

 

「今日はご苦労様でした」

 

 夕方になった頃にようやく解放されてどっと座り込んだババリューを、愛がねぎらう。

 

「いや……」

「馬場さん、これ」

 

 と言って愛が差し出したものは……子供たちからのオーブへのプレゼントの数々であった。

 

「何だよこれ……」

「子供たちからの感謝の気持ちです。是非もらってあげて下さい」

 

 愛の差し出したオーブの似顔絵を、戸惑いながら受け取ったババリューは、愛に問いかける。

 

「あの、さ……一つ聞いてもいいかな?」

「何でしょ?」

「ヒーローってさ……そんなにいいものなのかな?」

 

 愛は即座に肯定する。

 

「もちろんですよ!! あたしも、小さい頃からずっと憧れてました!!」

 

 瞳を輝かせながら、己の話を始める愛。

 

「あたしのママ、色々とすっごい人なんです。だけど大きくなるにつれて、それが重荷に感じてきちゃって……。何をするにしても、自分はママよりずっと出来が悪いんじゃないかって……。だからどんな状況でも、どんなピンチの時でもあきらめずに起き上がり続けるヒーローに憧れてました。だけど、現実にはそんな思うようには出来なくって……。そんな時に、奇跡のヒーローが現実に現れたんです!!」

「……そうか……」

「あたし、この出会いがほんとに嬉しいです。あたしは馬場さんみたいに人の命を守ることは出来ませんけど……どんな時もあきらめないことを、みんなに伝えられたらいいなって思ってるんです」

 

 愛の言葉を聞きながら、ババリューは複雑な表情で似顔絵に目を落とした。

 

「愛ちゃん……」

「……」

 

 愛とババリューの会話しているところを、離れたところから春香たちが見守っている。

 真は、様子の変化してきているババリューの背中を、こちらも複雑な眼差しで見つめていた。

 

 

 

 ババリューは元の姿に戻って円盤に帰還した。会議室の椅子に腰を落としてからも、もらった似顔絵をじっと見つめている。

 

『どした、ババリュー』

『うあッ!?』

 

 そこにナグスがやってきたので、慌てて似顔絵を後ろ手に隠した。

 

『あいや、別に……』

『変な野郎だぜ』

 

 訝しむナグスに対して、ババリューはこんなことを尋ねかける。

 

『なぁおい、人に憎まれるより、喜ばれる方が何倍も気持ちがいいもんだよな……。そう思ったことはないか!?』

 

 だが、ナグスの反応は素っ気ないものだった。

 

『何を言ってんのか、さっぱり分かんねぇなぁ』

『そ、そうか……』

『何でもいいが、早いとこ作戦を始めろよ? ドン・ノストラがまだかまだかって待ちかねてるぜ』

 

 そうとだけ告げて、ナグスは立ち去っていった。

 一人残されたババリューは、似顔絵を抱えて椅子にもたれかかり、長い息を吐いた……。

 


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