THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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涙よgood bye(A)

 

「七人以外の巨人がその力を用いて、世界のバランスを安定させたとあるの」

「ウルトラマンのカードって、他にもあるのかな?」

「エックスさんの力……! 確かに受け取りました」

「ガーゴルゴンを封印してたのは、ウルトラマンコスモスさんの力でしたか!」

『ウルトラマンダイナさんのカード! 宇宙から飛んできたのかッ!』

「これは……ウルトラマンマックスさんとヒカリさんの力!!」

「あの人は、これを必要にしてる人にこそ本当の力になると言ってたわ」

「ウルトラマンアグルさんの力……!」

「これからお世話になります」

 

 

 

『涙よgood bye』

 

 

 

「プロデューサーさん……」

 

 小鳥がガイのデスクの上に、書類の束をドサドサッ! と置いた。

 

「この書類全部にミスがありました。訂正して下さい」

「えッ!? これ全部ですか!?」

「はい」

 

 うげッ! と思わずうめくガイ。彼に傍らの伊織が白い目を向ける。

 

「もう、また記入ミスなの? それもそんなにたくさん! 毎度毎度よくやるわね」

「お、俺だって好きでやってる訳じゃねぇよ」

「兄ちゃん、デスクワークはほんとダメダメだよね~」

「ね~」

 

 亜美と真美も呆れ顔だ。伊織は深い深いため息を吐く。

 

「全く、肝心のプロデューサーがいつまでもこんな頼りない調子じゃ、私たちいつになったらトップアイドルになれるのかしら」

「そんなこと言うことないだろ! 俺は元々風来坊だからな、机に向かうより足を使う方が性に合うんだよ……」

「そんなこと言って、外回りでも大して成果上げてないじゃないの」

「ぐぅッ!」

 

 痛いところを突かれてうめくガイを、見かねた真が擁護する。

 

「ま、まぁまぁ伊織、お手柔らかに……。プロデューサーも、正義の味方で大変なんだからさ……」

「今の私たちに必要なのは正義の味方じゃなくて敏腕プロデューサーよ」

 

 辛辣な伊織にガイはすっかりたじたじだった。

 

「くそぅ……こんな時に律子がいたら、仕事手伝ってもらえるのに」

「担当アイドルにいつもカバーしてもらうのだって情けないんじゃないの?」

「うぐ……」

 

 伊織にやり込められるガイの一方で、亜美は律子のことを気に掛けた。

 

「そーいえば、律っちゃんどこ行ったの? レッスンとかお仕事とかはないはずだよね」

「律子さん、以前バイトしてたところに行ってるみたいよ」

 

 亜美の疑問に小鳥が答えた。

 

「前にバイトしてたところ?」

「そう、ウチに来る前にね。確かお船だかキツネだかそんな名前の……」

「でもどうして今更そんなとこに? 何の用事なの?」

 

 と真美が言った直後に、ガイのケータイに着信があった。

 

「律子からだ。噂をすればって奴か?」

 

 ガイはすぐに応答する。

 

「俺だ。律子、何かあったか? ……えッ? ああ……分かった。そういうことなら……」

 

 ある程度話をして電話を切ったガイに、真が尋ねかける。

 

「プロデューサー、律子は何て?」

 

 それに対してガイの答えは、

 

「何でもすぐ来てほしいってことだ。あいつの行ってる先で、おかしな事態が起きてるそうでな」

「おかしな事態……?」

「これはまたミステリーの匂いがしますなぁ」

「またまた真美たち765プロの出番ですかな」

 

 亜美と真美が格好つけて言った。ガイは小鳥に振り向く。

 

「そういうことなので音無さん、俺が戻るまで仕事の方、またフォローお願いします」

「えぇっ!? またですかぁ!?」

 

 ガビン、とショックを受ける小鳥。

 

「もう、これじゃまた残業ね……。正義の味方の支援も大変だわ……」

 

 ぼやく小鳥に留守を任せて、ガイたちはすぐに律子の元へと出発していった。

 

 

 

 765トータス号は町外れにある小さな工場、「コフネ製作所」の前に停車した。

 

「ここだな」

「へぇ~。律っちゃんここでバイトしてたんだ」

「町工場なんて、如何にも律子らしいわね」

 

 ガイは亜美、伊織たちを連れて工場のインターホンを鳴らした。

 

「すいませーん、ここに来てる秋月律子に呼ばれた紅ガイという者ですが」

『プロデューサー、待ってましたよ! そのまま上がって下さい』

 

 応対したのは律子当人であった。彼女に促されるまま工場に立ち入っていくと、ガイたちを律子と豪放な雰囲気の中年男性が出迎える。

 

「おお、よく来てくれましたなぁ! あなたが律子ちゃんの事務所のプロデューサーさんですか。そっちの子たちは律子ちゃんの同僚ですかな?」

「紅ガイです。失礼ですがあなたは?」

「私はこの製作所の社長の小舟惣一です。どうぞお見知りおきを」

 

 社長の小舟という男性の背後には両手の指で数えられる程度の社員と思しき人たちがいて、数人はおどけた様子でこちらに手を振っていた。亜美と真美は面白がって手を振り返す。

 伊織がぼやく。

 

「社員はこれで全員なの? ちっさいとこなのね」

「伊織、失礼だよ! ちっさいのは人のこと言えないんだし……」

「すいません! ウチの奴が失礼なことを……」

 

 伊織の失言を謝るガイだが、小舟は気を悪くするどころか豪快に笑った。

 

「ワッハッハッ! なーに本当のことだから構いませんよ。ウチは創業以来バネひと筋なもんでしてな、バネに関しては右に出る者はいないと自負してますが、その分会社はいつまで経っても小ぢんまりとしたまんまで!」

「小舟さんは大体こういう方なんです」

 

 律子がそっとガイに囁きかけた。

 小舟と挨拶を交わしていたガイたちの元に、社屋の奥から扇子を煽いでいる人物が一人。

 

「まぁた来たのかい、765プロさん。まぁ秋月ちゃんがいる時点で分かってたけど」

「あっ、渋川のおっちゃんもいたんだ」

「おっちゃんは何の用なのー?」

 

 真美が質問すると、渋川は扇子をパタパタ煽ぎながら答える。

 

「このコフネ製作所には、ゼットビートルの緊急脱出装置用のスプリングを作ってもらってるんだ」

「へぇ~、キンキュー脱出装置!」

「本当ならスプリングのチェックと受け取りのはずだったんだが……ここで巷を騒がしてる怪事件に遭遇しちまうなんてなぁ」

 

 真が律子に顔を向ける。

 

「巷を騒がしてる怪事件って?」

「ニュースか何かで見なかった? 各地の工場から、金属がごっそりと消えてしまう事件が相次いでるって。それが今度はここで発生したのよ……!」

「うむ! 詳しいことは私から話しましょう」

 

 大きく顔をしかめた小舟がガイたちに事件のあらましを説明する。

 

「始業してすぐのことだった。今日も私たちはバネ作りに取り掛かろうとしたんだが、ふと気づくと材料の金属がいつの間にか煙のように消えてなくなっていた! これじゃ仕事にならねぇ、大損だ! と弱り果ててたところに、渋川さんよりも先に律子ちゃんがやってきた。ウチの奴の一人が連絡を入れたということでしてな」

「私たちは超常現象を追ってますから、事件の謎を究明できるんじゃないかと考えてくれたみたいです。私としても、色々とお世話になった小舟さんとここの方たちをどうにかして助けてあげたいんです。プロデューサー、どうか知恵を貸して下さい」

「なるほど……。そういうことならいくらでも手を貸すさ」

「ありがとうございます!」

 

 話を纏めるガイと律子の間に渋川が割り込んでくる。

 

「おいおいおいおい! だから民間人があんまり首を突っ込むなっての。こういうのはプロ、つまり俺に任せとけって」

「でも渋川のおっちゃん、まともに事件を解決したことがあったっけ?」

「いっつもビートル隊はオーブに助けてもらってるじゃないの」

「ぐッ!? 痛いとこを的確に突いてくるじゃねぇかよチクショウッ!」

 

 亜美と伊織のひと言に、渋川は左胸を押さえた。

 

「どっちでもいいから、とにかく早く事件の謎を解き明かして下さい! また金属が消えるようなことがあったら、バネを作るどことじゃありませんからな!」

 

 小舟に頼まれ、ガイと律子は早速事件の推理に取り掛かり出した。

 

「まずは犯人像の特定なんですが……やっぱり犯人は宇宙人と見ていいでしょうか。一瞬の内に工場の金属全部を消してしまうなんて、人間業じゃないですから」

「ああ、そう見ていいだろう。もっとも、現段階じゃどんな手段を用いたのかとかは分からんがな」

「宇宙人の金属泥棒……。何が目的でしょうか」

「妥当なところを考えるとすりゃ、宇宙船かロボットの修理に必要な材料を集めてるってとこか……。けど全部の事件が同一犯とするなら、量がやたらと多い気もするな。もしかしたら別の用途なのかもしれん……」

 

 ガイと律子が話し合っている一方で、亜美と真美がヒソヒソと小舟に尋ねかける。

 

「ねーねー小舟のおじさん、律っちゃんといつ、どこで知り合ったの? おせーておせーてぇ~」

「おッ、何だいお嬢ちゃんたち。律子ちゃんとの昔話に興味あるのか?」

「うんうん! 真美たち律っちゃんのこと大好きだかんね~♪」

「そうかそうか! 律子ちゃんは友達に大分好かれてるんだなぁ。いやぁ実にいいことだ!」

 

 それに気がついた伊織と真が亜美たちをたしなめる。

 

「ちょっと何やってるの。そんなことしてる場合じゃないでしょ?」

「人のことを勝手に探ろうとするなんて、お行儀が良くないよ」

 

 しかし亜美は言い返した。

 

「でも二人も、あの律っちゃんが昔どんなだったかとか、興味ないのー?」

「それは……」

「まぁ、ちょっとは興味あるけど……」

「ハハハ、責任なら俺に任せとけ。律子ちゃんのこと、ちょこっとだけ話してあげようじゃねぇか」

 

 小舟は亜美たち四人を連れて社長室に移り、そこで話を行う。

 

「律子ちゃんと最初に会ったのは、もう十年も前になるかな。その時俺は、小学生ロボットコンテストの審査員として招かれてた。律子ちゃんはそのコンテストで、惜しくも入選を逃した」

「ええ? あの律っちゃんが?」

「意外ね……」

 

 驚きを露わにする真美と伊織。

 

「誰だって何でも上手くやれる訳はねぇさ。誰だって壁にぶつかるもんだ! で、コンテストの終わり、俺はたまたま律子ちゃんが隠れて泣いてるところを目撃した。相当悔しかったんだな」

「あの律子が、号泣だなんて……」

 

 真が唖然としながら長い息を吐いた。

 

「俺はそれがほっとけなくて、励ましてあげた。すると俺のことを知ったあの子は、自分にロボット作りを教えてほしいと頼んできた。かなり必死な顔だった。今でもその時のことははっきり思い出せるよ。その熱い気持ちを気に入った俺は、力を入れて律子ちゃんを指導してやった! 時には厳しく接して、律子ちゃんを泣かす時もあったがなぁ」

 

 あの律子を泣かすとは、どれだけ厳しい指導だったのだろうと四人は内心考えた。

 

「だが人間は涙の分だけ大きく成長する! 次の年のコンテストでは、律子ちゃんは見事最優秀賞に輝いた! こいつはその時の写真だ」

 

 小舟は写真立てに飾られた、小さい律子と写っている写真を取り出して亜美たちに見せた。

 

「わぁ~、律っちゃん小さい!」

「そんな経緯があったんですね」

「それからも俺は律子ちゃんと交流を持って、あの子が困った時なんかには度々アドバイスをあげた。そして律子ちゃんが高校生になった時には、この会社でアルバイトをしてたのさ」

 

 今度はコフネ製作所の社員たちも入った写真を見せる小舟。

 

「あの子の腕は正社員顔負けだから、辞めたのが今でも惜しいくらいだ! しかし、ウチのアイドルだった律子ちゃんが本当のアイドルになるなんてなぁ」

「そこのとこ、実は前からちょっと不思議に思ってたんだよね」

 

 不意に真美がつぶやく。

 

「何で律っちゃん、アイドルになったの? そのまんまここにいるか、発明家の道を進んでたらよかったんじゃない?」

「そうよねぇ。私も、自分の才能を伸ばす方向に進もうとは思わなかったのかって思ってたわ」

 

 その理由を、小舟が語る。

 

「実は律子ちゃん、思春期に入った辺りから悩み出してな。自分が周りから女の子として見られないってな。それどころか、あまりに他人と違う自分が疎まれてるようだと。それで俺は、別嬪なんだから人に愛されるアイドルなんかに挑戦してみたらいいんじゃねぇかって言ったのさ。いやまさか本気にするとはなぁ」

「えっ、そういう理由だったんですか!」

「ほんと意外ね……。律子がそういうこと気にするなんて……」

 

 伊織が思わずつぶやくと、小舟は苦笑を浮かべた。

 

「君たちは知らんかもしれんが、あの子は結構純情だよ。決して周囲に無頓着な人間なんかじゃねぇさ。人の自分を見る目を気にするし、かわいいと言われたら喜ぶ。まぁ恥ずかしがりなんで、認めようとはしねぇけどな!」

「そーだったんだぁ」

 

 今まで知らなかった律子の一面を聞き、感心する亜美たち。すると真美がこんな質問をする。

 

「じゃあさじゃあさ、小舟のおじさんはどーしてバネひと筋なの? さっき言ってたけど」

「ん?」

「ロボットコンテストの審査員やるくらいなら、もっと色んなもの作れるんじゃないの? それなのにバネだけ作ってるなんて」

 

 と聞かれて小舟は大きく笑う。

 

「そいつは俺が、バネが好きだからさ!」

「えぇー? バネが好きなんて変なの」

「こら、真美!」

 

 たしなめる伊織だが小舟は手を振る。

 

「構わんさ。よく言われることだよ。けど、バネってのは人間と同じなのさ! どんな苦難に押し潰されようとも、それをはねのける力がある!」

「へぇ~! 面白いこと言うねおじさん」

 

 面白がる亜美。小舟は更に話を続ける。

 

「今度はちょいと俺のことを話そうか。俺は今ではこんなだが、子供の頃は正反対で、なよなよしててすぐに泣き出しちまう弱虫だった! 今でもちょっと恥ずかしいくらいのな」

「えっ、そうなんだ!」

 

 意外すぎる話に目を丸くする真美たちであった。

 

「そんなだからクラスではいじめられて、一時期は毎日が真っ暗だったよ。だがそんな時にあの人と出会った!」

 

 小舟の遠くを見る目に尊敬の色が混じる。

 

「坊さんの格好をしてたあの人は、弱虫だった俺を慰め、励まし、鍛えてくれた! 厳しい人で叱られたことも何度もあったが、そのお陰で俺は自分の力でいじめっ子たちを見返し、苦難をはねのけられる人間に成長できたんだ! あの日叫んだ涙に、Good bye! ってぇ訳だ!」

 

 社長室に飾られているバネの一つを手に取る小舟。

 

「そしてバネに着目した! バネは何度潰されようと元に戻る。あの人の教えを体現してるってな! それで今でもバネを作り続けてる。世界最高のバネで、世界中の人を助けて守るためにな!」

 

 小舟の言葉に感服を覚える真だが、一つの疑問も浮かぶ。

 

「でも、ゼットビートル用のバネも作ってるんでしたよね? ビートルって戦闘機、戦うための兵器でしょ? それをよくオーケーしましたね」

「そこはあの渋川さんの言葉と熱意に胸を打たれたのさ。ゼットビートルはただの戦闘機じゃない、人間の命と暮らしを救うための槍であり盾だというな!」

「渋川のおっちゃん、そういうこと言ったんだ」

 

 ただの面白おじさんじゃなかったんだ、と失礼なことを考える亜美だった。

 

「もちろん、戦争するためだけの代物だったらゴメンだったぜ。俺はそういうの大っ嫌いだ! 戦うためだけの用途だったら、心が闇に染まっちまうってもんだろ?」

 

 小舟が言い切ったその時、社長室の扉が勢いよく開け放たれた。律子であった。

 

「ちょっとちょっと! あんたたち、こんなところにいたの! さっきから姿が見えないと思ったらぁ!」

 

 振り返った亜美たちの顔をジロジロとにらみ回す律子。

 

「小舟さんから何か変なこと聞いてないでしょうね?」

「ううん、何も?」

「小舟さん、どうなんですか? 何かおかしなこと話してないでしょうね」

「何もおかしなことなんてねぇよ? なぁ」

「ね~」

 

 とぼける真美たち。怪しむ律子であったが、そうはしていられない事態が直後に発生した。

 

「うわあぁぁッ!?」

「何だ!?」

 

 突然、製作所の社員の悲鳴が起きたのだ。小舟が一番に飛び出し、律子たちが慌てて後に続く。

 社屋の玄関前で、怯える社員たちの前にガイと渋川がかばうように仁王立ちしている。そして二人のにらみつける先には――明らかな異形の怪人がいた!

 

『ホホホホホホ!』

 

 全身にトゲを生やした、金属質のボール状の胴体の、明白な宇宙人であった!

 


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