THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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しあわせの半魚人(A)

 

「小さい頃に、光の巨人の夢を見たんです」

「あの夢にどんな意味があるのか、それはまだ分からないけど」

「あんな風に、私も輝けたらなって、そう思って」

「『空から巨大怪鳥』」

「『地を揺るがす獣がビルを沈める』」

「『水を穢す魔物、上陸』」

「ウルトラマンオーブとは何かつながりがあるんじゃないかと感じてるんです」

「もしかして誰かの運命に関係あるんじゃないでしょうか?」

 

 

 

『しあわせの半魚人』

 

 

 

 とある海辺の、砂浜が近い小ぢんまりとした漁港。一人の漁師が魚の水揚げをしていると、別の漁船が隣に停泊して漁師仲間が呼びかけてきた。

 

「おーい源! 源三ろーう!」

「んッ、何だい?」

 

 源三郎と呼ばれた漁師が顔を上げると、漁師仲間はこう聞いてくる。

 

「お前んとこは獲物掛かったか?」

「まぁ~ぼちぼちってとこだい」

「いいじゃねぇかよぼちぼちでも。こちとら今日もボウズだぜ!? これじゃおまんまの食い上げだよ!」

 

 漁師仲間はお手上げとばかりに大きく肩をすくめた。

 

「まぁったく、ここ最近妙に魚が少なくなっちまった。原因は一体何だってんだ? ……そういや母ちゃんが村で半魚人を見たなんておかしなこと言ってたけどよ、もしかしてそいつが悪さしてんのかもな」

「えッ!? あ、ああ、どうだろうな」

 

 半魚人、と聞いた源三郎が一瞬ビクリと震えたが、漁師仲間はそれに気づかなかった。

 その後源三郎は収穫した魚の何匹かを見繕って、港の倉庫に持っていく。そうして周囲に人目がないことを確認してから中に滑り込んでいった。

 真夜中で暗い倉庫内を、ランプの明かりのみを頼りに移動しながら、源三郎は声を発した。

 

「遅くなっちまったなぁ。今日はいい魚が釣り上がったよ! 坊や! 腹ペコかい? 坊やー!」

 

 誰かを呼ぶ源三郎の背後から、爛々と光る真ん丸とした眼の、魚のような人間のような異形のシルエットが近づいてくる……。

 

「キャアアァァァッ!」

 

 そしてランプに照らされて姿がはっきりとなった、明らかな半魚人が腕を振り上げて源三郎に影を覆い被せた! 振り返った源三郎はッ!

 

「……何だ。誰かと思って隠れてたのかよぉ全く!」

 

 至って普通の反応を返した。ランプを壁に吊るすと、持ってきた魚を入れている冷凍ボックスを半魚人に手渡す。

 

「ほら、これを食べな。坊やは?」

「キャアーッ!」

 

 源三郎の後ろからいきなり、ひと回り小さい半魚人が現れて彼を突き飛ばした。しかし源三郎はこちらにもまるで動揺しない。

 

「おぉっと!? やったなこいつめぇ! おりゃおりゃ!」

 

 源三郎が小さい半魚人の脇をくすぐると、半魚人はキャッキャと笑った。源三郎は小半魚人に、ボックスの中から出した漁船の模型を差し出す。

 

「坊や。はい、お土産だ!」

「キャ? キャアー……キャキャキャキャ!」

「おぉー嬉しいか!」

 

 模型をもらった小半魚人は小躍りして喜びを表した。源三郎と大半魚人はその様子ににっこり笑っていた。

 

 

 

 ……春香は、怪獣の攻撃によって瓦礫の下敷きになっていた。身動きの取れない中、かすれた声を振り絞って助けを求める。

 

「助けて……誰か……!」

 

 すると何者かが春香の元にやってきて、瓦礫を取り払って彼女の上体を抱え上げた。春香がうっすら目を開け、その人物の顔を視界に収める……。

 ジャグラスジャグラーだった!

 

「な……何であなたが!? 放して……! 放してっ!」

「大丈夫だ。俺が助ける」

 

 暴れる春香だったが、気がつけば自分を腕に抱く人物は、ガイに変わっていた。

 

「プロデューサーさん……?」

「飛ぶぞ」

 

 ガイはひと言告げると、春香を抱えたまま天井を突き破り、ものすごい勢いで空高くに飛び上がった!

 

「きゃあああああああ――――――――っ!?」

 

 

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「ち、ちょっと春香、大丈夫?」

「急にひっくり返ってどうしたのよもう」

 

 正面には燦々と輝く太陽が見え、千早や伊織、響らが目を丸くして自分の顔を覗き込んでいた。自分は地面にひっくり返っている、と春香は気がついた。

 

「はぁ……はぁ……夢か……。びっくりした……」

「びっくりしたのはこっちだぞ。ねぇハム蔵」

「ぢゅいッ」

「こんなところでお昼寝してたって訳? せっかく海に来たってのに、美希みたいなことするのね」

 

 と伊織の言う通り、本日の765プロアイドル一行は事務所を飛び出し、砂浜にやって来ていた。

 

「わーい海だー!」

「食らえやよいっち~!」

「やんっ! もぉ~亜美ったら~」

「よっつ四つ葉のクローバ~♪」

 

 亜美と真美が水鉄砲でやよいに水を掛けたり、雪歩がひたすら砂浜に穴を掘っていたり、貴音が海の家でジャンボラーメンを三杯完食したりと皆思い思いにはしゃいでいる。もちろん全員水着姿で、追いかけっこして遊んでいる美希とあずさは豊かな胸が弾んで男たちの視線を集めていた。

 

「くっ……」

「もう、みんなすっかりバカンス気分になっちゃって。ここには一応取材に来たってのに」

 

 仲間たちのはしゃいでいる様子に、パラソルの下で日差しを避けている律子が肩をすくめた。この砂浜には本来『アンバランスQ』の取材で赴く予定だったのだが、夏の真っ盛りに海に行くということで、亜美真美を中心に取材にかこつけた慰安旅行にしてしまったのだった。

 伊織が律子に尋ねる。

 

「それで、今度はどんなネタだったかしら?」

「半魚人の目撃情報よ」

「半魚人ねぇ……。いつにもまして胡散臭いじゃないの」

「でもこの土地には海底原人ラゴンの伝説があるのよ」

 

 海原の一画を指し示す律子。

 

「五十年くらい昔、あの辺に一つの島があったんだけど、地殻変動で沈んでしまったの。それと前後して海底原人が現れたと言い伝えられてるわ」

「ふーん……? まぁ何だっていいけれど」

「それに現在、太平洋で魚が急激に数を減らすという異常事態も発生してるわ。これは半魚人と関係があるのか、それともまた怪獣が出現したのか……調べてみる価値はあると思うわよ」

 

 怪獣、と耳にして、千早がぼやく。

 

「社長の言った通り、世の中は連続して怪獣が出現するようになってしまったわね……」

「全く迷惑な話よね! 怪獣も、どうしてわざわざ私たちの前に出てくるのかしら。迷惑ったらありゃしないわ」

 

 ぷりぷりと不機嫌になる伊織だったが、そこに荷物番のガイが寝転がったまま口を挟んだ。

 

「怪獣だって人間の前に出てきたくないはずだ」

「え? それってどういうこと?」

 

 響が振り返って聞き返すと、ガイはこう言った。

 

「ちょっと歩き回っただけで攻撃してくる危険な生き物の生息している場所に、誰が好き好んで踏み入ってくる」

 

 その言葉に、春香たちは思わず無言になった。

 響は肩の上のハム蔵に呼びかけた。

 

「……そうだよね。今まで敵としてしか見てなかったけど、怪獣も生きてるんだよね」

「ぢゅ……」

 

 神妙な空気になっていると……千早がふと振り返り、ある人物が漁村を駆け抜けていくところを目撃した。

 

「あれ、渋川さんだわ。こんなところにいるなんて……」

「えっ、叔父さん?」

 

 春香たちも渋川が慌ただしく走っていく姿を目の当たりにした。

 

「どうやらお仕事みたいね……。これは当たりみたいだわ。バカンスはここまで! 私たちもお仕事と行くわよ! ほらプロデューサーもさっさと起きて!」

 

 眼鏡を光らせた律子が上着を羽織りながら皆に呼びかけ、ガイを叩き起こした。

 

 

 

 ……水面下五千メートルもの深海の世界。ここに五十メートルを越える全長の巨大生物が二体もいて、角と角を激しくぶつけ合って争っていた。

 

「グビャ――――――――!」

「キイィィーッ!」

 

 一方は背面が黄色と黒のまだら模様で鼻先の角がドリル状になっており、もう一方は全体的に水色の体色でノコギリザメとクジラを混ぜ合わせたような形態だ。

 ――そしてこの争いを、深海にも関わらず生身で観察している男が一人。

 

「縄張り争いか。それとも、餌の取り合いかな?」

 

 ジャグラスジャグラーだった。

 

「怪獣同士で喧嘩してても得することなんてないぜ? よぉし、俺が仲直りさせてやろうじゃないか……」

 

 そううそぶいて取り出したのは――ダークリング……。

 

 

 

「おーい! 源ッ! 出てこーいッ!」

「源さんっ! あんた半魚人をかくまってるんじゃないのかい!?」

 

 閉め切った源三郎の自宅に、村民が大勢押しかけて怒号を上げていた。彼らは村に出没した半魚人――海底原人ラゴンがこの家に入っていくのを目撃して押しかけてきたのだ。

 彼らの声を背景に、源三郎はラゴンを叱る。

 

「何やってんだよもう! 見られちゃ駄目だって言ったろ!?」

「キャアアァァァッ!」

 

 しかしラゴンは身体をバタバタ動かし、子供のラゴンの動きのジェスチャーをして源三郎に何かを伝えようとし出した。

 

「え? 坊やが?」

 

 がっくり肩を落としてうなだれるラゴン。

 

「分かんない……か?」

 

 ぶんぶん手を振って否定を示す。

 

「えッ、何? 坊やが……元気がない」

「キャアアァァァッ!」

「何? ……坊やが、病気か!!」

 

 ラゴンは当たりだというようにコクコクうなずき、壁の魚拓を指差した。

 

「魚? 魚がどうした」

 

 魚拓を食べるジェスチャーをするラゴン。

 

「魚を、食べたいのか!?」

「キャアアァァァッ!」

「違う? 坊やに……坊やに、魚を食べさせたいのか!!」

「キャアアァァァッ!」

 

 ラゴンが肯定を示すと、源三郎は忙しく動き出す。

 

「分かった! 冷凍ものなら保冷庫にあるかもしれない! 今取ってきてやるからな!」

 

 と言う源三郎だが、その時に家のドアが激しくノックされ、渋川が外から大声を張り上げた。

 

「おーい! こちらビートル隊! この家の中に、怪物のような怪獣がいるという目撃情報がある! 開けなさーいッ!」

 

 それに色めき立つ源三郎。

 

「まずいな……魚持ったら裏口からこっそり出よう! こいつで姿隠しながら……」

 

 ラゴンに船の旗を被せて、自身はコウモリ傘を手に取った。

 

 

 

 源三郎の家に渋川や大勢の村民が押しかけている様子を、春香、律子、伊織、響がこっそり隠れながら観察していた。765プロ一行はいくつかのチームに分かれ、半魚人を捜索することにしていたのだった。

 

「うーん、今すぐ突撃取材したいところだけど、渋川さんが張りついてるのがちょっと厄介ね……」

「見つかったら叔父さん、また危ないことするなーってうるさく言うだろうなぁ……」

 

 春香が辟易していたら、伊織が家の裏手の方を指して報告した。

 

「見て! あそこから、如何にも怪しいのがコソコソ出てくる!」

「あっ、ほんと!」

 

 四人は裏口から、旗と傘で姿を隠している二人組が人目を避けながらどこかへ去っていく様子を目撃した。しかも旗を被っている方の脚には、ヒレが生えているのだ!

 

「ビンゴね! どこへ行くのかしら。後をつけましょう!」

「どうする? みんな呼ぶ?」

「いえ、大勢でゾロゾロ移動してたら気づかれるわ。ここにいるのだけで行きましょう」

 

 響の問いかけに律子が答え、四人だけで二人組――源三郎とラゴンを追跡し始めた。

 

 

 

 その頃、別の場所では、ガイ、千早、美希、真のチームが突然の揺れに驚いていた。

 

「な、何? 今の地震?」

「すごく短かったけど……」

 

 つぶやく美希と真。その直後に、道路に並ぶマンホールがいきなり下から水に押し上げられて吹っ飛んだ!

 

「わぁっ! びっくりしたぁ!」

「危ないわね……!」

「何なに? 水道管の故障なの?」

 

 突然の事態に面食らう千早たち。一方でガイは足元の道路を険しい表情で見下ろす。

 

「いや……そんな生易しいもんじゃないみたいだ」

「え?」

 

 顔を上げた先は、漁港の倉庫区域であった。

 

「確か、あっちの方には春香たちが……。お前らは他のみんなと合流しておけ!」

「あっ、プロデューサー!」

 

 千早らが止める間もなく、ガイは漁港に向かって全速力で駆け出した。

 

「もぉ~! また一人で行っちゃってぇ! ハニーったら!」

 

 置いていかれた美希がぷくーっと頬を膨らませた。

 

 

 

「ここに入ってったよね……」

 

 春香たち四人は源三郎たちの後をつけて発見した倉庫への侵入を果たしていた。懐中電灯で暗い倉庫内を照らし、探索を開始する。

 

「この倉庫のどこかに、半魚人が潜んでるのよね」

「どこにいるのかな?」

「大丈夫よ。このUMA探知機があればどこに隠れていようと……!」

 

 律子の手の中には、円筒型の装置が電子音を鳴らしていた。伊織が肩をすくめる。

 

「小四の時の自由研究で作ったって言ってたかしら? 昔からそういうの好きだったのね」

「クラスでツチノコ探しが流行ってたのよ。結局見つからなかったけど、性能は保証するわよ」

「どこからそんな自信出てくるのかしら……」

 

 それはともかく、倉庫の中を奥へと進んでいくと、探知機の音が次第に大きくなっていく。

 

「反応が強くなってきたわ! 近づいてるわよ!」

「いよいよご対面なのか!」

「ぢゅいッ!」

 

 探知機の反応に比例するかのように興奮を増していく響。律子は探知機をあちらこちらに振り回す。

 

「こっちよ! いえ、こっちみたい。それともこっち!」

「もう、どっちなの!?」

「静かに! これは……後ろみたい……!」

 

 四人が恐る恐る振り返ると……。

 

「キャア……!」

 

 ラゴンの顔が明かりに照らし出された!

 

「――きゃああぁぁぁ―――――――――――――!!?」

「ぢゅうぅッ!?」

「キャアアァァァッ!!」

 

 仰天した春香たちは散り散りになって逃げる。ラゴンも。

 

「……って逃げてどうするのよ! あれ探しに来たんでしょ!?」

「そうだったわ! ついノリで!」

「キャアァー……」

 

 同じ方向へ逃げた伊織と律子が立ち止まるが、背後の旗の下から変な音が聞こえたので振り返った。

 

「今の、鳴き声っぽかったわよね……」

「ここからしたわ! えいっ!」

 

 律子が旗をめくると――先ほどのラゴンよりひと回りほど小さいラゴンの姿が露わになった。

 

「――ラゴンの子供!!」

「いやいやいや!」

「人間!?」

 

 すぐ近くから源三郎も出てきた。彼は子ラゴンをかばうようにしながら告げる。

 

「病気なんだよ! 乱暴なことはしてあげないでくれるか!?」

「病気ですか!? ちょっと診せて下さい」

 

 と言って律子が取り出したのは聴診器。驚く伊織。

 

「律子あんた、そんなスキルあったの!?」

「子供の頃の夢第一位は平和を愛するスーパーロボットの開発、第二位はタイムマシンの発明、第三位は獣医だったの」

「ガラリと方向性変わるわね!」

 

 源三郎のランプで明かりを確保する中、律子がペンライトで子ラゴンの口の中を覗き込む。

 

「ちょっとお口開けてねー」

「アアアァー!」

「こら大人しくして! 伊織ちょっと抑えてて!」

「何で私が……!」

 

 暴れる子ラゴンを伊織に抑えつけてもらいながら診察する律子。そこに春香、響、親ラゴンもやってきた。

 

「キャッ!?」

 

 親ラゴンは子供がいじめられていると誤解し、腕を振り上げて律子に襲いかかる!

 

「キャアアァァァッ!」

「ストーップっ!」

 

 だが響に制止され、思わずピタリと止まった。

 

「律子はあの子の病気を治そうとしてるんだぞ。分かる?」

「キャアアァァァッ」

「うんうん、分かってくれたならいいよ。ところで君たちはどうしてこんなところに?」

「キャアアァァァッ」

「へぇ~、深海はそんなことになってたんだ。大変だったね」

 

 親ラゴンと会話する響に源三郎は仰天。

 

「嬢ちゃん、そいつの言ってることが分かるのか!?」

「ハム蔵とも明らかに会話するし、響ちゃんって何者なんだろう……」

 

 冷や汗を垂らす春香。そうこうしている間に律子の診断が終わった。

 

「この子の足先を温めてあげて下さい。それから、毛布でも何でもいいから、身体に巻きつけて暖を取って」

 

 伊織は律子の指示を疑う。

 

「そんな誰でも言えるようなことでほんとに良くなるの!?」

「誰でも言えるようなことが大事なものなのよ。ほら早く!」

 

 律子が急かすので源三郎とアイドルたちは子ラゴンに倉庫の旗を巻いてあげるが、子ラゴンが暴れるのでなかなか上手く行かない。

 

「これじゃ埒が明かないわ! 大人しくさせる方法はないの?」

「音楽を聞かせれば、落ち着くんだけどなぁ……! いつもラジオを聞かせてるからね……!」

 

 伊織のぼやきに源三郎はそうつぶやいた。律子は春香の方に振り向く。

 

「音楽! 春香、何か子守唄でも歌って!」

「ええ!? そんないきなり!」

「一曲くらいすぐにでも口ずさめるでしょ! あんたアイドルでしょ!?」

「私たちみんなそうじゃないですか!」

 

 突っ込みながらも、春香は何かを思い出したように唄を歌い始めた。

 

「ルゥー……ルルルルルゥー……」

 

 ゆったりとしたメロディに、子ラゴンは急激に大人しくなり始めた。それに感激する源三郎。

 

「すごい! こんなすぐに効果が出るのは初めてだよ!」

「この歌……?」

 

 春香が知らない歌を口にすることに、響らは唖然と振り返った。春香はそれに構わずに唄を続ける。

 

「アァー……アアアーアアアー……アーアーアアアーアァー……」

 

 春香の唄で子ラゴンはすっかり落ち着き、また呼吸も整った。

 

「おぉ!? 元気になったかぁ!? よかったよかった!」

 

 源三郎と親ラゴンが喜ぶ傍ら、響と伊織は春香に尋ねかける。

 

「春香、今の唄は何?」

「765プロの歌じゃないわよね」

「小さい時、病気で伏せった時とかにママがよく歌ってくれたの。ママもおばあちゃんから聴かせてもらってたみたいだけど、この唄を聴くと不思議と気持ちが落ち着いて気分が良くなるんだ。それを思い出したの」

 

 春香の説明に耳を傾けながら、律子は腕を組んで考え込む。

 

「……何か、どこかで聴いた覚えのあるような旋律だったわね……」

「あっ、それ自分も思ったぞ」

「私も。でもどこだったかしら……」

 

 悩む三人だったが、この時には思い出すことは出来なかった。

 


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