THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ULTRA READY!!(B)

 

 竜巻から命からがら生還した春香、美希、律子。そして春香がケータイで撮影した巨鳥と巨人の戦いで、765プロの名は一躍有名になるものかと思われた。

 しかし……。

 

「はるるん……これ自撮りモードになってるよ……」

「はるるんの顔しか映ってないよ~……」

 

 呆れ顔になっている亜美と真美。ケータイの映像には、大声でわめき立てる春香の顔のアップしか捉えられていなかった。

 そう、春香はインカメラになっているのに気づかないまま撮影していたのだ。これに響と伊織が大きなため息を吐く。

 

「もう、春香ったらドジなんだから。これじゃ何が何だか分かんないぞ」

「せっかくの大スクープだったのにねぇ」

「ぢゅいッ」

 

 響の肩の上でハム蔵もうなずいていた。呆れられた春香は小声で言い訳する。

 

「だ、だって……咄嗟だったから……」

 

 気落ちする春香を、やよいが慰める。

 

「元気出して下さい、春香さん。スクープよりも、春香さんたちが無事に帰ってこれた方が大事ですよっ!」

「う、うぅ、やよい~! 優しいのはやよいだけだよ~!」

 

 涙目になった春香がガバッとやよいに抱きついた。

 律子が仕切り直すように告げる。

 

「まぁ、過ぎてしまったことはしょうがないわ。それよりみんな、これを見て」

 

 律子のデスクの周りに集まるアイドルたち。デスクのパソコンの画面には、古めかしい絵巻物の画像がいっぱいに表示されている。

 

「プロデューサーの言ってた『悪魔の風』と『マガバッサー』について調べてみたんだけど、太平風土記に、悪魔の風を吹かせる“魔王獣禍翼”という妖怪の記載があったのよ」

「マガバッサー! プロデューサーさんの言ってたのと同じだ!」

 

 驚く春香。

 

「ええ。“禍翼来たり、嵐で地上の全てを滅ぼさん”とあるわ」

「今の状況と全部合致してますね……」

 

 感心するあずさ。真が律子に聞き返す。

 

「じゃあ、律子たちの見た怪獣がその妖怪、世界を滅ぼすマガバッサーってこと?」

「科学的には妖怪とか怪獣なんてのは認めたくないけれど、現実的にはそう考えて問題ないわね。それに、これからの天気予報なんだけど」

 

 律子がキーを叩くと、パソコンの画面が切り替わって東京の天気図が表示された。

 あろうことか竜巻のみならず大雨、雷、初夏の季節にも関わらず雪のマークまで各所にあった。雪歩、貴音が仰天する。

 

「な、何ですかこれぇ!? 天気が滅茶苦茶です!」

「面妖な……」

「大変! 帰ったらすぐ洗濯物取り込まないと!」

「そういうことじゃないでしょ、やよい」

 

 やよいに伊織が突っ込んだ。

 

「これだけじゃないわ。世界に視点を広げたら、太平洋上には台風が七つも発生。エジプトは猛吹雪の真っ最中よ」

「どうしてこんなに大きな影響が……?」

 

 千早の疑問に律子が解説する。

 

「バタフライ効果よ。地球を取り巻く大気はつながってて、小さな蝶の羽ばたきも巡り巡って地球の裏側でハリケーンを起こすという考え方なんだけど、あの鳥の羽ばたきは蝶なんかとは比べものにならないわ! あの鳥が、世界中の気象を乱してるとして間違いない!」

「じゃあ、今の状態が続けば世界は……」

 

 雪歩のつぶやきに、アイドルたちはその想像をしてゴクリと息を呑んだ。

 

「……ともかく、放っておくことは出来ないわ。このことを知ってるのは私たちだけ。明日、私たちであの怪物の追跡調査を行いましょう。春香、美希、いいわね?」

「わ、分かりました」

 

 春香はうなずいたものの……美希はソファの上にうつ伏せになって嫌々と頭を振った。

 

「ヤーなーのー! ミキ、あんな危ない目に遭うなんて聞いてなかったのー! もう危ないことしたくないのー!!」

「美希、さっきからこの一点張りで……」

 

 千早が困ったように律子に告げた。律子も息を吐く。

 

「仕方ないわね……。それじゃあ千早、美希の代わりに助手、お願いしてもいいかしら」

「分かったわ……」

 

 こうして律子、春香、千早の三人で『マガバッサー』の追跡を行うことが決定した。それからやよいが伊織を相手に言う。

 

「それにしてもプロデューサー、たいへーふどきなんてのを知ってたんだね。物知りだよね」

「……その問題のプロデューサーなんだけど、どこ行っちゃったの?」

 

 小鳥の方へ振り返って尋ねると、小鳥はこう答えた。

 

「『やることがある』と伝言があったまま、まだ戻ってないわ」

「つまり、一人でどっか行っちゃった訳? 765プロ唯一のプロデューサーなのに、勝手なことされたら私たちが困るじゃない」

 

 伊織は呆れ返って肩をすくめた。

 

「プロデューサーのやることって何だろうね」

「全然分かんないぞ。あの人、考えてることが訳分かんないさー。自分たちに変なダンスの練習させたりとかね」

 

 真と響が話し合っている後ろで、春香は奇妙な行動を見せ続けていたプロデューサーに思いを馳せて、宙を見上げた。

 

「プロデューサーさん……」

 

 また一方では、千早が律子に尋ねかけていた。

 

「そういえば、マガバッサーというのと一緒に現れたっていう巨人のことは分からないの?」

 

 律子は肩をすくめる。

 

「そっちは何も。でもかなりおぼろげだったし、よく考えたら、いくら何でも科学的にあんな身長の人間が存在するはずがないわ。雲か稲光を見間違えたというところでしょうね」

 

 

 

 翌日、春香、千早、律子はストームチェイサーを使い、マガバッサーが現れると思しき地区にやってきた。

 

「まだ現れる気配はないですねー、律子さん」

「ねぇ律子、これどうやって使うの?」

「だからさっき言ったように……。ほんと千早は機械に弱いわねぇ~。人選ミスったかしら?」

 

 千早にタブレットの使い方を教えている律子が、春香に振り返って頼んだ。

 

「春香、ちょっと喉乾いたから近くで飲み物買ってきて。三人分」

「ええ!? 私、ちょっと今月のお小遣いピンチなんだけど……」

「後でお金払うから。ほら早く」

 

 せがまれ、春香はしぶしぶ喫茶店を探しに出かけた。

 

「もう、律子さんったら仕事は出来ても、人遣い荒いんだから……」

 

 三人分のコーヒーを買ってぼやきながら歩いていたら、前からやってきた男に身体がぶつかった。

 

「うわわっ!? わぁぁっ!」

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「いたた……あぁ!?」

 

 春香が転んだ拍子に、コーヒーが投げ出されて男の着ているスーツに掛かってしまった。慌てふためく春香。

 

「ご、ごめんなさいっ! 私ったら何てこと……!」

 

 ハンカチを取り出して拭こうとしたが、男はにっこり笑って手で制した。どこか妖しい雰囲気を纏う、不思議な男であった。

 

「大丈夫。それじゃ」

「だ、大丈夫じゃないですよ! せめてクリーニング代を……!」

 

 立ち去ろうとする男を春香が止めかけたその時、遠くから雷の音が聞こえたような気がした。

 

「! 今のは……!」

「嵐が来そうだね」

 

 男は春香の考えたことが分かったかのようにそう言った。

 

「は、はい。変な天気が続きますし……」

「僕は嵐が好きだよ。退屈な世界から心を解き放ってくれるからね」

「は、はぁ……」

 

 急におかしなことを言う男に、春香は呆気にとられた。

 更に鳥の羽ばたきのような、風のうなる音が春香の耳に入る。

 

「!! やっぱり……!」

「――Un coup de foudre」

 

 男の突然のつぶやきに、思わず振り向く春香。

 

「え?」

「日本語で何を意味するか分かるかな?」

「いえ……」

「雷の一撃。――出会い頭のひと目惚れさ」

 

 その言葉の直後に赤い稲妻が瞬き――男に異形の影が被さった。

 稲妻の閃光に、反射的に目をつむった春香。目を開けると……目の前にいたはずの男が忽然と消えていた。

 

「あ、あれ?」

 

 辺りをキョロキョロ見回す春香のケータイが、律子からの着信を知らせた。

 春香が電話に出ると、律子が声を荒げた。

 

『春香、すぐに戻ってきて!』

「え?」

『ストームチェイサーが反応してるの! 竜巻の発生は――そっちよ!!』

 

 ハッと、真上を見上げる春香。頭上の空では――急激に暗雲が渦巻いて、竜巻が地上に向かって降りてきた!

 

「きゃああああああああああっ!!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 たちまち辺りは大混乱に陥り、地上のあらゆるものを吹き飛ばし始める竜巻から人々は必死に逃げ回ったり建物にしがみついたりする。

 春香も同じようにしようとしたが――その身体が浮き、竜巻に向かって吸い込まれていく。

 

「きゃあああああ―――――――――――――――っっ!!?」

 

 どんどん地上から離れ、竜巻の中に吸い寄せられていった。逆巻く暴風にいいように弄ばれて悲鳴を上げ続ける春香だが――その視界が、こちらに向かって近づいてくる人影を捉えた。

 

「全くお前は……! 世話焼かせるなッ!」

 

 紅ガイが春香の身体をしっかりとキャッチした。

 

「プロデューサーさん!? 何やってるんですかぁっ!?」

「いいから、目ぇつむってなッ!」

 

 春香とガイは、竜巻によって空高く飛ばされていく!

 

「わああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!! わっ、ひゃっ、ひゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!! わわっ!! きゃっ!! い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!! 落ちるぅぅぅぅぅぅ―――――――――――――――っ!! やっやぁぁぁぁああああああああああああ――――――――――!! きゃああああああああああああああああっ!! あっ!! あぁっ!! ああああっ!! あああああ―――――!? ……あれ?」

 

 気がつけば、自分はガイにお姫さま抱っこされた姿勢で地上にいた。空まで吹っ飛ばされたはずなのに、怪我一つない。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 

 唖然としている春香に、まるで何事もなかったかのように尋ねたガイ。

 その前方に、空から青い羽毛と額に真っ赤で禍々しい輝きを放つクリスタルを持った巨大な鳥が降ってきた!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「ま、マガバッサー……!」

 

 春香はすぐに、竜巻の中にいた巨鳥と同じものだと理解した。

 すなわち、風ノ魔王獣マガバッサー!

 

「お出ましになったな!」

 

 マガバッサーを見上げたガイは、次いで春香の顔に目を落とすと、何かを決心したように大きくうなずいた。

 

「春香、行くぞッ!」

「えぇぇっ!? 行くってどこにぃ!?」

 

 自分の状態も理解して真っ赤になった春香に構わず、ガイは逃げ惑う人々から離れるように近くの建物の陰まで駆け込んでいった。

 

「よし、ここにしよう」

 

 そして証明写真機を見つけると、その中に春香を連れ込んでカーテンを閉めた。

 

「ぷ、プロデューサーさん、何するつもりなんですかぁ!? こんな狭いとこに連れてきて……!」

「時間がない! 今は俺の言う通りにするんだ!」

 

 ガイはどこからか、春香が見たことのないようなリング状の物品を左手で取り出すと、春香には赤と銀色の超人が描かれたカードを差し出した。

 

「春香、これをこのリングの中に通すんだ! “ウルトラマンさん”と言いながらな!」

「う、うるとらまんさん? プロデューサーさん、何の話……」

「早くッ!」

 

 ガイに急かされて、カードを受け取った春香は言われた通りにそれをリングの間にかざした。

 

「う、ウルトラマンさんっ!」

 

 するとカードが光の粒子に変わり、春香の真横に回り込んでいく。

 

[ウルトラマン!]

 

 光の粒子は、カードの絵柄と同じ姿の超人のビジョンへと変化した!

 

『ヘアッ!』

「えぇぇっ!? 誰!?」

 

 気がつけば、周囲も宇宙空間のような景色に変わっている。

 

「ここどこぉっ!?」

 

 ガイは何も答えず、赤と紫と銀色の超人のカードを出した。

 

「ティガさんッ!」

 

 それを、春香にやらせたようにリングの中にかざす。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 そのカードも光の粒子に変わり、超人のビジョンがガイの右側に出現した。

 

『ヂャッ!』

 

 混乱し切る春香を置いて、ガイはリングを頭上に高々と掲げた。

 

「光の力、お借りしますッ!」

 

 リングの取っ手のトリガーを引くと、両翼部が開き、リングから水色と黄色の光が溢れ出る。

 

[フュージョンアップ!]

 

 リングから水色、黄色、そして紫色の光の波動が発せられ、ガイの姿も輪郭がはっきり見えない超人のものに変貌した。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

 

 二人の超人のビジョンは春香を巻き込んで、姿を変えたガイと一体となり、また別の姿を形作る。

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 二つの逆巻く渦巻きを突き破り、赤い光と青い輝きを伴いながら超人が飛び出していく!

 

 

 

 ――春香が目を開けると、先ほどは山のように巨大だったマガバッサーが、自分と同等の大きさにまで縮んでいるのが見えた。

 いや違った。街も縮尺を小さくして、眼下に広がっている。つまり、自分がとんでもなく巨大化しているのだ!

 

『「えええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?」』

 

 もっとよく状況を確かめてみたら、正確には自分は『巨人の中に』いて、その感覚とつながっているのだということを理解した。

 銀色と赤と紫、黒。先ほどの二人の超人を足したような容貌に、リング型の発光体が胸に燦然と輝く巨人。それは竜巻の中で見た巨人と全く同じであったが、あの時の半透明のものとは違い、はっきりと姿が現れている。

 しかも直感で、この巨人は紅ガイそのもの、彼が変身したものだと感じ取った!

 

『「プロデューサーさん、一体全体どういうことなんですかぁぁぁっ!?」』

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

『「――いや意味分かんないですよっ!」』

『悪いが詳しく説明してる暇はない! 奴が来るぞッ!』

 

 堂々と胸を張った巨人――オーブに、マガバッサーが羽を広げて飛びかかってきた!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 オーブはマガバッサーの頭を押さえて突進を止める。

 

『「きゃああああっ!!」』

 

 悲鳴を上げた春香にガイ=オーブが呼びかける。

 

『怖気づくな春香! 俺たちでこいつと戦い、世界を守るんだッ!』

『「戦うぅ!? でも私、喧嘩なんてしたことないですよ!?」』

『大丈夫だ! 俺がお前たちにやらせてたダンスレッスンがあっただろう!』

『「ありましたけど……」』

『あの中にオーブの戦いの動きを盛り込んでおいた! レッスンを思い出せば戦うことが出来るんだ!』

『「そうだったんですかぁ!? 道理で変なポーズが多いと……何してくれたんですかプロデューサーさんっ!!」』

『文句なら後で聞く! 今は戦いに集中しろ!』

 

 マガバッサーは猛りながらオーブを押してくる。最早後戻りは叶わないらしい。

 

『「えーいっ! こうなったら破れかぶれだぁーっ!」』

 

 腹をくくった春香の動きがオーブと連動。マガバッサーの首を押し上げ、その胴体にストレートキックを入れた。

 

『「やぁーっ!」』

『いいぞ春香! その調子だッ!』

 

 春香の奮闘を励ますオーブ。しかしマガバッサーも負けじと反撃してくる。

 

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 クチバシの刺突を咄嗟に受け止めるが、がら空きのボディに翼の叩きつけが入れられた。

 

「グワッ!」

『「うあぁっ!」』

 

 ジャンプしたマガバッサーが滑空して襲い掛かってくるが、オーブは前転してその下をすり抜けた。

 

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 振り向いたマガバッサーにオーブが低く跳んで空手チョップを叩き込む。

 

「オォォリャアッ!」

「ミィィィィ――――!」

 

 ひるんだように見えたマガバッサーだが、こちらも跳んで空中からオーブに連続キックを仕掛けた。

 

「ウアァッ!」

 

 よろめいたオーブを、着地したマガバッサーが翼に叩きつけで張り倒す。

 

「ウワァァッ!」

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 更に倒れたオーブを踏みつけ、飛び上がっては踏みつけを繰り返す。

 

『「痛い痛いっ!」』

『痛くないッ! 今のお前の肉体は鋼鉄の強度だ。これくらいは何ともないぞッ!』

 

 叫ぶ春香をオーブが一喝して我に帰らせた。

 

『「あっ、ほんとだ……。なら!」』

 

 オーブはマガバッサーが浮いた瞬間に起き上がり、その脚にしがみついてマガバッサーを捕まえた。

 

『よしッ! そのまま投げ飛ばせ!』

『「えぇぇーいっ!」』

 

 オーブはマガバッサーを捕らえたままその場で回転し、マガバッサーを振り回して遠心力をつける。そして、

 

「オリャアアア―――――ッ!」

 

 ジャイアントスウィング! マガバッサーは背面から地面に叩きつけられ、かなりのダメージを受けた。

 

 

 

 千早と律子は声がなくなるほど驚きを抱えて、マガバッサー相手に奮闘するオーブの姿に目を奪われていた。

 

「何なのあれは……!?」

「あ、あり得ないわ……! 私は夢でも見てるのかしら……? あの巨人はどこから現れたというの!? 一体何者なの……!?」

 

 律子が目の前の現実にうろたえながら口走ると、その脇から一人の男がぬっと現れる。――先ほど春香がぶつかった男である。

 

「ウルトラマンオーブ」

「ウルトラマンオーブ?」

 

 男の存在に気がついた千早が繰り返した。

 

「輝く銀河の星。光の戦士って奴」

 

 訳知り顔で語る謎の男を、千早と律子は怪訝に見つめた。

 

「プァァ――――――! ミィィィィ――――!」

 

 その時にマガバッサーが翼を大きく羽ばたかせて突風を引き起こした。オーブがよろめく他、千早たちも強風にあおられる。

 

「きゃっ……!」

 

 二人が顔を上げた時には――男の姿は忽然となくなっていた。

 

 

 

 オーブは春香に反撃を指示する。

 

『春香、両腕を左右に伸ばせ!』

『「左右に!?」』

 

 ダンスレッスンの内容を思い出しながら、胸に当てた腕を左右に開くと、右手にノコギリ状の刃が生えた光輪が現れた。

 

『それを投げつけるんだ!』

『「てやぁっ!」』

 

 春香が指示通りに振りかぶり、オーブが光輪を投げ飛ばした。だがマガバッサーは空高く飛び上がって光輪の軌道から逃れる。

 

『「! この場合は……!」』

 

 春香は一瞬考え――前に全開で踏み出した。

 オーブが紫色の輝きに包まれながら全力で走って一瞬で光輪に追いつき、キャッチしたそれを逃げるマガバッサーの方向へ投げ直した。

 

『「こうだっ!」』

『上手いぞ春香ッ! 次はジャンプだ!』

『「ジャンプ!?」』

 

 春香が言われた通りにジャンプすると――。

 

「シュワッ!」

 

 オーブは全身で翔ばたき、マガバッサーを追いかけてぐんぐん空を駆けていく!

 

『「飛んでる……! 私、大空を飛んでるっ!」』

『そうだ! 俺たちは飛べるんだ、この空をッ!』

 

 先にマガバッサーに追いついた光輪が、片方の翼を半ばから切断して切り落とした。

 

「ミィィィィ――――!」

 

 翼が半分になったマガバッサーの速度がガクンと落ちたことで、オーブは後ろからしがみつき、動きを封じて首を捕らえる。

 そのまま真下に向けて一気に引きずりおろしていく!

 

「オォォォォッ! リャアァッ!!」

 

 マガバッサーを高空から真っ逆さまに地面に叩きつけたことで、すさまじい衝撃が発生。その風圧は離れている千早たちにも掛かるほどだった。

 

 

 

 オーブと春香が戦っている中、変身する際に入った証明写真機の待ち時間を示すタイマーが一分を切った。

 

[出来上がりまで、あと、一分]

 

 

 

 オーブの胸の光るリングの色が、青から赤に変わった上に点滅を始めた。

 

「ウッ、ウゥッ……!」

 

 途端にうめき声を上げるオーブ。その身体から、融合した二人の超人のビジョンが一瞬苦しそうに抜け出た。

 

『「な、何なに!? 何事ですか!?」』

『そろそろフュージョンアップの限界が近いんだ……! 決着と行くぞ!』

 

 マガバッサーの方も先ほどのダメージが響いて、動きが大きく鈍っている。絶好のチャンスだ。

 

『決めのポーズだ! 分かるな!?』

『「決めのポーズっ……!」』

 

 春香は教えられたように、右腕を頭上に高く掲げ、次いで左腕を横にピンと伸ばした。

 同じポーズを取るオーブの右腕を軸に光の輪が生じ、輝きがどんどん増していく。そして両腕を十字に組み直すと、心が完全にリンクした春香とオーブが叫ぶ。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 オーブの右手より、猛烈な勢いの光の奔流が放たれる!

 

「ミィィィィ――――!! プァァ――――――!!」

 

 光の奔流の直撃を受けたマガバッサーが、大爆発を起こす。宙に飛び散った羽毛を残し、跡形もなく消滅したのだった。

 

『「や、やったぁっ!!」』

『ああ。初めてにしては上出来だったぞ、春香』

 

 歓喜した春香を称賛したオーブは、腕を高く振り上げて空高くを目指し、この場から飛び去っていった。

 

「シュウゥワッチ!」

 

 

 

「……巨人が、怪獣をやっつけた……」

 

 戦いの一部始終を見届けた千早と律子が、オーブの去っていった先を見上げたまま立ち尽くしていた。

 

「とても信じられない……。でも、全部本当のことだったわ。それともう一つ、確かなことがある」

「ええ。――お陰で、世界は救われたのね」

 

 律子と千早が顔を見合わせていると、空の彼方より青と銀の丸っこい航空機が飛来して、二人の頭上を越えていった。

 

「ビートル隊! もう、今頃来ても遅いわよ」

「渋川さんに文句言ってやらないとね」

 

 律子のひと言に、二人はおかしそうに笑いをこぼした。

 

 

 

[ご利用、ありがとうございました]

 

 その後、写真が出来上がったタイミングで、元の証明写真機からガイと春香の二人が出てきた。

 

「す、すごかった……。あっ、プロデューサーさん!?」

 

 ガイは呆けている春香を置いて、どこかへと走り去っていく。追いかけようとした春香だが、写真に気づいてそれを取り出した。

 写真をひと目見て唖然とする春香。

 

「う、うわぁ……ほんとに私、あの巨人、オーブに変身してたんだ……」

 

 写真には、ガイと春香が融合し、オーブになっていく経緯がはっきりと写されていた。

 これは誰にも見せられないな、と春香は写真を懐に突っ込んだ。

 

 

 

 ガイの方は、マガバッサーの爆散した跡地で足を止めていた。その中央には、マガバッサーの額に埋め込まれていた真っ赤なクリスタルが地面に刺さっている。

 ガイがオーブに変身する際に使用した、オーブリングをクリスタルに向けると、クリスタルが弾けて、内部の光の粒子がリングに集まっていった。

 光の粒子がリングをくぐると、一枚のカードに変わる。赤と銀の体色で、胸に菱型の発光体が埋め込まれた超人の絵柄だった。

 

「マガバッサーを封印してたのは、ウルトラマンメビウスさんの力でしたか。お疲れさまです!」

 

 ガイはカードに一礼すると、それを腰に提げたカードホルダーの中に収めたのだった。

 

 

 

 千早と律子は、春香の姿を捜して駆け回っていた。

 

「春香ー! どこ行っちゃったのー!? 春香ー!」

「まさか竜巻に吹っ飛ばされちゃったんじゃないでしょうね……。春香ー!」

 

 懸命に捜していると――前方から春香とガイが歩いてくるのを発見した。

 

「あっ、いたわ! プロデューサーと一緒よ!」

「プロデューサー、どうしてここに……」

 

 春香は少々険しい顔つきで、ガイにしつこく纏わりついていた。

 

「プロデューサーさん、説明して下さい! オーブって何なんですか? プロデューサーさんは一体何者なんですかー!?」

「まぁまぁ、そう焦るなよ。どうせ教えるなら、みんなに纏めて教えてやるからさ」

 

 ガイはそしらぬ顔で、独特な形のハーモニカを取り出してそれを奏で始める。

 

「またハーモニカ吹いてとぼけちゃって! もぉーっ!」

「春香、どうしたの? 何の話?」

「千早ちゃん、律子さん! 聞いてよ! プロデューサーさんったら私を……!」

「おいおい、外で言うのは勘弁してくれ。話は事務所に帰ってからだ」

 

 興奮する春香とは対照的にひょうひょうとしているガイ。そんな二人の様子に首をひねった千早と律子も交えて、彼らは765プロの事務所へと帰っていったのだった。

 

 

 

 ――春香とぶつかった男が、手にガイのオーブリングと瓜二つのリングを握り締めている。ただし、その色取りは暗黒のような黒一色であった。

 

『ミィィィィ――――! プァァ――――――!』

 

 男のリングの間に、マガバッサーの幻影が現れる。そして男は、リングから創造されたマガバッサーの描かれたカードを引き抜いた。

 

「オーブ……。お前は希望の光か? それとも……底知れぬ闇、かな?」

 

 カードを見つめた男はそうつぶやいて、にやりと口の端を吊り上げた……。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「天海春香です! 今回ご紹介するのは、ぼくらのヒーロー、ウルトラマンさんですっ!」

春香「ウルトラマンさんは1966年放送の『ウルトラマン』の主人公! その名の通り、五十年も続くウルトラマンシリーズの始まりとなった、最初のウルトラマンです! この方から歴史は始まったんですよ!」

春香「でもウルトラシリーズとしての最初は、前番組の『ウルトラQ』です。これは「テレビで見られる怪獣映画」がコンセプトだったので、怪獣は出てきてもヒーローはいませんでした」

春香「それで子供たちが憧れるヒーローが必要だということになり、ウルトラマンさんが作られたんですよ! その人気はもう言うまでもないのはお分かりですよねっ!」

ガイ「そして今回のアイマスの曲は『READY!!』だ!」

ガイ「これはアニメ版『アイドルマスター』の前期オープニングテーマだ。765プロのアイドル全員で元気いっぱいに歌い上げる、アニメの始まりとして文句なしの一曲だぞ!」

ガイ「ところでアイマスのアニメといえば、これの前にもう一つ別の奴があったような……」

春香「そ、その話は色々長くなるのでよして下さいっ!」

春香「それじゃあ次回も、また見て下さいね」

 




 如月千早です。私たちはプロデューサーから衝撃的な話を打ち明けられました。私たちが、ウルトラマンオーブになって怪獣と戦うと……! でも美希だけはそれを拒否して765プロから逃げ出してしまいます。けれどその美希が、次の魔王獣復活をたくらむ謎の男を見つけてしまい……!
 次回『フューチャーをつかめ!』。美希は大丈夫なのかしら……?

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