映画見てきました。
ガピヤ星人サデスはデアボリックを食いすぎじゃね?
『状況を聞こう』
『偉大なるドン・ノストラ……地球にはウルトラマンオーブがいます』
『ひと思いに、ぶっ壊してやりましょう!』
『早く奴を何とかしなければ……』
「だが奴は決して無敵ではありません」
「本来の力を失ったオーブは、ウルトラマンのカード二枚と地球人の手を借りて変身しています」
「奴より強力な手札を持てばいいのです」
「合体超獣、アリチクス!!」
『闇を砕いて、光を照らす!!』
「最後に笑うのは誰かな……?」
『切り札を持つ者だ』
――地球の衛星軌道上。
数々の人工衛星や、地球の引力に引きつけられれば隕石となる固体物質、宇宙塵やガスなど様々な物体が漂う空間の中に――。
――銀と赤と青の超人が描かれた、一枚のカードが人知れず混ざっていた――。
「ふーん。これが今噂になってるっていう、『HARUKAの夢日記』なの?」
「呼んだ?」
伊織のひと言で、春香がにゅっと顔を出した。
「呼んでないわよ」
「なーんだ」
春香は首を引っ込めた。
「夢日記って何ですかぁ? どうして噂になってるんですか?」
デスクを囲む伊織、あずさ、やよい、貴音の内、やよいが律子に質問した。律子は四人にパソコンの画面を見せながら解説する。
「HARUKAっていう人のサイトなんだけど、今までに出現した怪獣のことが事前に日記に書かれてるのよ! こんなサイトがあったのを今まで知らなかったなんて、私の情報網もまだまだ穴があるわね……」
「事前に、ですか?」
よく意味が分からず首を傾げるあずさ。とにもかくにも、四人は実際のサイトの内容に注目する。
サイトにはそれぞれの記事に、怪獣のスケッチが載せられていた。伊織が記事の文章を読み上げていく。
「『空から巨大怪鳥、降臨』。『地を揺るがす獣がビルを沈める』。『水を穢す魔物、上陸』。……ホントに今までの怪獣が全部載ってるわ!」
マガバッサー、マガグランドキング、マガジャッパ、マガパンドン、ハイパーゼットンデスサイス、アリチクス、バニアボラスら、ガーゴルゴン……スケッチは各怪獣の特徴をよく捉えていた。
「どれもすっごく上手に描けてるね!」
「そこ感心するところ?」
やよいの言葉に伊織は肩をすくめた。律子が説明を追加する。
「ただのスケッチじゃないのよ。これら全部が、怪獣の出現の一日前に更新されてるの!」
それにあずさ、貴音らが仰天した。
「一日前にですか!? それってつまり……」
「予知となりますね。何とも面妖な……」
「後から更新日を改竄したんじゃないの?」
疑う伊織だが、律子は首を振る。
「私もそう思ってサーバーの情報を調べてみたんだけど、改竄の痕跡は見つけられなかったわ。私の目をごまかすのは常人には不可能よ」
「ってことは……このハルカっていう人は、あらかじめ怪獣を夢で見てるってことなの!?」
「すっごーい! 予知夢っていう奴!?」
一気に興奮するやよいたち。律子も同様だった。
「第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンは暗殺される数日前に、自分の葬儀を夢に見たと言われてるわ。けどこれはそれよりはるかにはっきりとした予知夢! そのメカニズムを解き明かすことが出来れば、開発中の未来予測システムに応用できるかも! システムが完成すれば765プロは向かうところ敵なしっ! 流行を常に先取りして印税はガッポガッポ! トップアイドルへの階段を驀進よぉー!!」
目の形を¥にして叫ぶ律子をよそに、伊織はサイトの最新記事を確認する。
「ちょっと、今日の分の更新があるじゃない! じゃあ明日にまた怪獣が出現するってこと!?」
最新記事は『つばさぞう公園にて霧の中から巨大怪獣が出現』というタイトルで、霧の中で眼光を輝かせる、首元に三日月型の模様を持った怪獣のシルエットの絵が載せられてあった。
怪獣出現、と聞いて律子は我に返る。
「だったら今日中にコンタクトを取って、詳しい話を伺った方がいいわね。でも何て言葉で誘いかけようかしら……」
「あの、そのハルカっていう人なんだけど……」
話を傍から聞いていた春香が、再度話に入り込んできた。伊織がそちらへ振り向く。
「何よ春香。自分と同じ名前だから、それつながりで面会を申し込む気?」
「いや、そうじゃなくて……その人、怪獣の夢を見るんだって?」
「ええそうよ。それがどうかしたの?」
律子の聞き返しに、春香は語る。
「実は私も、子供の時に不思議な怪獣の夢を見たんです。どこか知らない光景で、ゼットンみたいな怪獣とウルトラマンが戦ってる夢を……。それでもしかしたら話が合うんじゃないかなぁって思って」
「そうだったの。奇遇なものね。じゃ、春香、あんたがメール書いてみて」
「分かりました」
律子に頼まれる春香だったが、取り掛かる寸前、それまで会話に加わっていなかったガイが呆気にとられた顔で自分を見つめていることに気がついた。
「……? プロデューサーさん、私の顔に何かついてますか?」
「あ、いや……何でもない。気にするな」
ガイは適当にごまかして顔をそらすと、誰にも聞こえないほど小さく独白した。
「……まさかな。ただの偶然だろう」
春香は訳が分からずキョトンとしていたが、気を取り直してハルカ宛てのメールをタイプしていく。
『ハルカ様。あなたの夢日記に興味を持ちました。私も、幼い頃に夢を見て、現在、頻発する怪獣出現について調べてます。あなたに特別なシンパシーを感じます。急な話になりますが、直接会って話をしませんか?』
春香の招待により、夢日記の著者である霧島ハルカが765プロ事務所を訪問した。
「芸能事務所だなんて聞いてないんですけど……。取材はちょっとお断りしてるんで……」
一番に不平を口にしたハルカに対して律子が取り成す。
「いえ、記事にはしませんからご心配なく。私たちの個人的な興味ですから」
「どうぞ、お茶です。ごゆるりとなさって下さい」
ソファで春香と向かい合ったハルカに小鳥がお茶とケーキを出した。他の者が一旦退いてから、春香とハルカの対談が始まる。
「それじゃあ霧島さん、いつから予知夢を見るようになったんですか?」
「子供の頃から……不吉な前兆をよく夢に見ていたんです。それが最近、怪獣の夢ばっかり見るようになって……」
「じゃあ、今朝の日記もですか?」
「はい……」
「夢の通りなら、明日、つばさぞう公園に怪獣が現れるってことですよね?」
「でしょうね……」
「でしょうねって……」
ここでやよいが興奮気味に話に入ってきた。
「すごいことじゃないですか! 怪獣の出現が先に分かるんなら、たくさんの人を助けられることにもなりますよね!」
「無理……」
「え?」
今のひと言に春香たちは呆気にとられた。
「明日は見えても、明日を変えることなんて出来ない……」
「どういう意味ですか……?」
春香が問い返すと、ハルカは暗い面持ちとなる。
「運命には逆らえないってこと……! こんな力があっても、今までいいことなんて何もなかった……」
その様子に伊織は眉をひそめて、隣の貴音に囁きかけた。
「何だかネガティブな人ね……」
「人と異なる才能を持つ者は、往々にしてその才能で思い悩むものです」
ハルカは春香を見つめ返して問いかける。
「天海さん、あなたは違うんですか?」
すると春香が、自分の夢に関して語り出す。
「私の場合はですね、小さい頃に、光の巨人の夢を見たんです。アイドルになろうと思ったきっかけも、光り輝く巨人のまぶしさに憧れの気持ちを持ったからなんです。あんな風に、私も輝けたらなって、そう思って」
どこか明るい顔で語る春香の言葉を、ハルカは神妙な面持ちで受け止める。
「あの夢にどんな意味があるのか、それはまだ分からないけど、ウルトラマンオーブとは何かつながりがあるんじゃないかと感じてるんです。霧島さん、あなたの見る予知も、もしかして誰かの運命に関係があるんじゃないでしょうか?」
「……」
ハルカが黙ったままでいると、我関せぬ顔で雑誌をめくっていたガイが声を発する。
「明日は晴れか。やよい、格好の洗濯日和だぞ」
「あっ、そうなんですか? ありがとうございますプロデューサー!」
「ちょっと、今取り込み中なんですよプロデューサー!」
律子が咎めたが、ハルカは席を立ってしまう。
「もういいですか? 私はこれで……」
「えっ?」
「失礼します」
「あっ、ちょっと待って!」
「ケーキいらないんですかー!?」
律子ややよいが引き留めようとしたが、ハルカはスケッチブックと荷物を持ってそそくさと事務所から退散していってしまった。
「ああ……! ちょっとプロデューサー、あなたが変な茶々入れるから逃げられちゃったじゃないですか! まだ未来予知のメカニズムは全然解析できてなかったのに!」
律子がガイに文句を入れるが、ガイは平然と言い返した。
「ふんッ、俺は予知で稼ごうなんてせこいやり方には反対なんでね」
「せ、せこいって何ですか! 私はこの事務所のためを考えてですねぇ!」
律子がギャアギャア喚いているのとは別に、やよいはあずさを相手につぶやく。
「何だかあの人のこと、心配です。ずっと悲しそうな顔をしてました……」
「そうね……。何か、大きな悩みごとでも抱えてるのかしら……?」
心優しいが故に気に掛ける二人は、ハルカの出ていった玄関の扉をじっと見つめたままでいた。
――つばさぞう公園を中心に、霧の中に蠢く怪獣が町を破壊していく。
――それを前にして、ガイとやよい、あずさがリングにカードを通す。
――三人が合体したオーブが、怪獣の前に立つ。
「……!」
つばさぞう公園の中で、石段に腰かけたままうたた寝していたハルカはハッと目を覚ました。――周囲には怪獣の影もなく、人々は穏やかな時間を過ごしている。
「平和だなぁ」
不意にそんな声がして、ハルカが顔を横に向けると、そこにガイとやよい、あずさの三人が同じように腰を下ろしていた。あずさが微笑を浮かべながら小さく手を振る。
「明日、ここに怪獣が現れるなんて誰も知らない。こんな穏やかな日常が明日も、明後日もずっと続けばいいのに……。あんたもそう思わないか?」
「プロデューサー、私にもラムネ下さいっ」
「私にもお願いしますわ」
「はいよ。どうぞ」
ガイたちがラムネの壜に口をつけていると、ハルカが三人を指差した。
「ウルトラマンオーブっ!」
ガイたちはそろってラムネを噴き出した。
「ごほごほっ! むせちゃいました……」
「いきなり何言い出すんだッ!」
「今夢で見たの! 明日あなたたちがウルトラマンオーブになって怪獣と戦う姿を!」
「そ、それはただの夢ですよ」
あずさが冷や汗垂らしながらもごまかそうとしたが、通用しなかった。
「あなたたちは不思議なリングとカードを持ってた! その力でウルトラマンになるんでしょ? ……そうか! あの事務所はそのためのもの……!」
「そこまでお見通しとはッ……!」
「お、恐ろしいですぅ~……!」
戦慄するガイとやよい。
「じゃあホントにウルトラマン……!」
「バカ! 声がでかい!」
「すごーい! みんなは救世主とか光の巨人とか言ってるけど、正体がアイドルとプロデューサーなんて! こんな身近なところにいたんだ!」
「何なにー!? ウルトラマンオーブ?」
「な、何でもないですよみんなー! オーブってカッコいいよね~!」
「う、うふふ、みんな仲良さそうでいいわねぇ」
近くの子供たちが騒ぎを聞きつけて集まってきたので、やよいとあずさが必死にごまかした。
子供たちを解散させて一旦仕切り直すと、ガイが改めてハルカに名乗った。
「俺の名は紅ガイ。あんたの力を借りたい」
「えっ?」
「明日から現れる怪獣からこの町を救いたいんだ。夢のこと、詳しく聞かせてくれないか?」
と頼むガイだが、ハルカはため息を吐くばかりだった。
「言ったでしょ? 明日は見えても、明日を変えることは出来ないって……」
「どうして言い切れる?」
ガイが尋ね返すと、ハルカは語り始めた。
「子供の頃から、見るのは決まって不吉な夢ばっかりだった。初恋の男の子が転校して失恋する夢とか……パパとママが喧嘩して、家族がバラバラになる夢とか……。しかもそれは全部現実になった! 運命はあらかじめ決まってるんだって思い知らされた……。どうせ運命を変えられないならこんな力、初めからなければよかったのに……」
「……本当にそう思うか?」
ハルカの言葉をさえぎるように聞き返すガイ。
「えっ……」
「だったら、何故絵を描き続けてる。何故夢日記のサイトを始めた。あんたは、心のどこかで信じてるんじゃないのか? その絵が……いつか誰かの運命を変えられるんじゃないかって」
指摘するガイだが、するとハルカは逆上したように声を荒げた。
「私は救世主じゃない! あなたたちみたいに運命を変える力なんて――」
「俺だって同じだッ! 救世主なんかじゃない」
きっぱりと言ったガイに、話に立ち会っているやよいとあずさが振り向いた。
「プロデューサー……?」
「……かつて救えなかった大切な命もある。その時に、本当の姿と、力を失っちまった。今は他のウルトラマンと、こいつら765プロの仲間の力を借りて戦ってる」
やよいたちは、そうだったのか、という表情でガイを見つめていた。
「過去は変えられない……。けど、未来は変えられるんだ」
ガイの説得の手助けをするように、やよいもハルカに呼びかける。
「私たちも、未来はきっと輝いてる。そう信じて、どんな敵が相手でもプロデューサーと一緒に戦ってます。少し不安もあるけれど……それでも大丈夫、未来は変わるって。ハルカさんも……私たちを信じてくれませんか?」
あずさもまた説得に加わった。
「この世に意味のないものなんてないって、私思うの。あなたの力も、何か出来ることがあって神さまから与えられたものだと思うわ。だから、まずは自分自身を信じてみてちょうだい。未来を変えることは、そこから始まるものよ」
説かれたハルカは、深く悩みながらも考え込んで、己の腕の中のスケッチブックを抱き締めた――。
事務所では、春香に呼ばれた渋川がケーキをぱくつきながら夢日記のサイトを見せられていた。
「へぇ~? 夢日記ねぇ」
「叔父さん、ホントなんです! 霧島さんの予知夢は当たります。ビートル隊でも明日に備えて、対策をお願いします!」
春香の懇願に、渋川は苦笑しながらうなずいた。
「分かった分かった。上に報告しとくわ」
「お願いします!」
「そんじゃあ俺はこれで。ケーキご馳走さん!」
ケーキを完食して事務所から立ち去っていった渋川について、伊織が小鳥に尋ねる。
「渋川のおっさん、ホントにどうにかしてくれるかしら? あんまり真面目に話聞いてたように見えなかったんだけど」
「まぁ、無理もないと思うけどね……。傍から見たら、突拍子もないことに映るだろうし」
「何にせよ、今出来ることは全て行いました。後は天命を待つのみです……」
貴音が胸に手をやりながら結論づけた。
その日の夕方、アイドルたちの帰宅間際、ガイとやよい、あずさは律子と話をしていた。
「律子さん、霧島ハルカさんのサイトはどうなってるでしょうか?」
やよいが質問すると、サイトの更新状況を確認した律子が答えた。
「新しい記事がアップされてるわ。つばさぞう公園に怪獣が現れることで、読者に警告の伝播を促す内容よ。彼女は自分の予知夢が、人命を救うことにつながるよう働きかけたみたい」
「そうですか!」
やよいとあずさはそれに喜んだが、ガイは難しい顔のまま律子に問い返す。
「それを実際に読んだ人たちの反応は?」
すると律子も同じように難しい表情となった。
「残念ながら、芳しくありませんね……。そもそも予知夢を信じない、不吉な予知夢を糾弾する、怪獣出現の責任をなすりつける、そんなコメントばかりです」
「そうか……」
「まるで炎上した時の私たちのサイトみたいな様相で……」
律子から知らされたことに、やよいとあずさは一転して落胆した。
「残念です……。霧島さんも、きっと落ち込んでますよね……」
「せっかく、私たちを信じてやってくれたのにね……。彼女の元気がますます失われると考えたら、辛いわ……」
二人はハルカのことを、己のことのように考えて、深く心配していた。
そして深夜――問題のつばさぞう公園に、怪しい雰囲気の霧がもうもうと立ち込めていた。
『ウアアアア……アアアアアア……』
濃霧の中で、大きな人型の影がゆらりゆらりとゆらめいている。そしてこれを、興味深げに観察している者がいた。
ジャグラスジャグラーであった。
「ほぉう……マイナスエネルギーで一匹の怪獣が生まれようとしている。しかもかなり濃厚なエネルギーだ……。これは面白いことになりそうだな」
つぶやきながら、ジャグラーはダークリングを取り出す。
「お前の誕生を、この俺が祝福してやろう。こいつはお祝いのプレゼントだ……!」
リングに続いて手にしたのは、首元に三日月型の模様を持つ、三本の牙を生やした怪獣のカードだった……。