「……ってぇことはつまり、この人たちが不審者だってのは、春香ちゃんたちの勘違いだったって訳かい?」
オーブとエックスによる怪獣軍団との戦闘後、通報を受けてやってきた渋川相手に春香が釈明をしていた。
「そ、そうなんです。ごめんなさい叔父さん」
「おいおい、しょうがねぇなぁ~。こっちだって暇な訳じゃないんだからさ、しっかりしてくれないと困るぜ? 特に今は、二人目のウルトラマンの出現でビートル隊はてんやわんやしてんのに」
「すいません、渋川さん。お手数お掛けしまして」
大きく肩をすくめた渋川に頭を下げたガイに続いて、高木も謝罪する。
「悪いね、渋川君。このお詫びは今度するよ」
「いや、何事もないんならそれが一番ですよ。君たちも災難だったね! まぁお仕事頑張んなさいな!」
「は、はぁ……」
渋川に呼びかけられたダイチとスバルが苦笑いを浮かべた。
「そんじゃあ俺はこれで。あばよッ」
渋川は最後に二本指を立てて格好つけた敬礼を残し、事務所から去っていった。
その後で、高木はダイチとスバルに振り向いて話しかけた。
「いや、しかし、驚いたよ。オーブ以外の本物のウルトラマンが現れたかと思えば……ウチの事務所に訪れた記者がそうだったなんてね」
「正確には、そちらのダイチさんがお持ちの端末の中にいるのが、ウルトラマンエックスさんだそうです」
補足する小鳥。ガイはダイチが手にしている端末――エクスデバイザーに顔を向けた。
「はじめまして、エックスさん。紅ガイです。先ほどは助けていただいてありがとうございました」
『礼を言われるようなことじゃないさ。君がこの星を守るウルトラマンなんだね?』
「いや、俺は……」
変に歯切れの悪いガイを押しのけるように、亜美真美を始めとするアイドルたちが興味津々にダイチとスバルに押し寄せた。
「ねぇねぇダイチ兄ちゃんにスバル姉ちゃん! 別の宇宙から来たって話だったけど、別の宇宙ってどんな感じなのー!?」
「はるるんたちに聞いたけど、変身とかしたんだって!? どゆことー!?」
「みっどちるだってどういうところなんですかー!?」
「何でエックスさんはケータイの中に入ってるんだ!?」
「ち、ちょっとみんな、質問は一つずつでお願い……」
「こらこら! お二人が困ってるじゃない!」
興奮気味のやよい、響たちをたしなめた律子が、ダイチたちから聴取した話を整理し始める。
「一旦、話を最初から纏めましょう。まず、ダイチ・オオゾラさんとスバル・ナカジマさんはこの太陽系から遠く離れた別の宇宙にあるミッドチルダという星の人で、エックスさんはその星のウルトラマンということでいいんですね?」
「ああ。大体そういうことになるね」
ダイチとスバルが首肯する。
「ミッドチルダは地球よりもずっと技術や社会制度が発達した星で、宇宙人との交流も行われてる。でも当然中には悪い宇宙人もいて、『Xio』という警察みたいな組織に所属してるお二人は監獄から脱走した宇宙人を追いかけて地球にやってきた……。それがスバルさんの捕まえた二人の宇宙人なんですね?」
「そういうこと」
スバルが認めると、ダイチが後を継いでアイドルたちに告げた。
「ザラブ星人とマグマ星人が地球に逃げ込んだところまでは掴んだけれど、以降の足取りがさっぱり分からなかった。そこで手掛かりを求めて、一番情報を持っていそうなここに、記者と偽って接触したんだ」
「つまり、偽記者ってところは本当なのね」
「なーんだ……。期待して損しちゃった……」
伊織と真があからさまにガッカリするので、罪悪感を覚えたダイチが平謝りする。
「ごめんね……。だけど身分を明かす訳にはいかなかったんだ。下手に次元世界の外の社会にミッドの文明の話を教えたら、悪影響を及ぼしてしまうかもしれなかったから」
「あたしたちの宇宙でも、管理外世界にその話はご法度だもんね。……だけど、この765プロがウルトラマンオーブさんの支援組織だって最初から分かってたら、みんなを騙しちゃうこともなかったね」
スバルは興味深げに居並んだ765プロの面々の顔を見渡した。
「ここにいるみんながウルトラマンのことを最初から知ってて、全面的に協力してるなんてすごいなぁ。ちょっと羨ましい」
「ナカジマさんたちの組織は違ったんですか?」
千早が聞くと、スバルは若干恨めしげにダイチを横目でにらんだ。
「そうなの。ダイチったら何度も一緒に戦ってたのに、エックスに変身してたってこと、ずぅーっと内緒にしてて。ひどいと思わない?」
「だ、だからそれは謝ったじゃないか……」
たじろいだダイチが話をそらすように、アイドルたちへ目を向けた。
「それで、君たちがこのガイさんとユナイトしてオーブになってるんだね。さっきもオーブの中に、そこのやよいちゃんと真ちゃんがいたけど」
「ゆないと?」
雪歩たちが聞き慣れない単語に首を傾げた。エックスが回答する。
『ウルトラマンが人間の力を借りて変身すること……転じて、人と人が強い絆でつながっていうことを、私はそう呼んでいるんだ』
「絆……絆かぁ……えへへ……」
「ミキとハニーがつながってるなんて……いやんなの♪」
春香や美希が何を想像しているのかにやけたり身体をくねらせたりしている。それを置いて、ガイがエックスに問いかける。
「それで、脱走した宇宙人は再逮捕したから、エックスさんたちはもう元の宇宙にお帰りになるんですか?」
「えー!? もうちょっとここにいなよー!」
「亜美ちゃん、エックスさんたちにもやることがおありのはずよ。引き止めたら悪いわ」
言い聞かせるあずさだが、ダイチは首を振る。
「いや、確かに脱獄犯は二人とも捕まえましたが、所持が確認されたスパークドールズの内の最後の一つを持っていなかったんです。それを回収するまでは、帰る訳にはいきません」
「すぱぁくどぉるず……人形化された怪獣ですね」
聞き返した貴音に肯定を返すダイチ。
「その通り。しかも普通のスパークドールズとは違うものみたいなんだ。そんなのが、悪い人の手に渡ってなければいいんだけど……」
――765プロ事務所のある街の近隣地域に立つ、廃ビルの内部に、ジャグラスジャグラーが侵入をしていた。
「……」
彼は無言で、一フロアの床の真ん中に、ノストラから受け取った金色のスパークドールズを置いて少しばかり距離を取った。
そして自身のダークリングと――マガグランドキングのカードを取り出し、スパークドールズに向ける。
「マガグランドキングよ……お前に今一度、暴れる肉体をくれてやろうッ!」
ジャグラーがカードをリングに通し、カードが暗黒の『魂』に変化。それはスパークドールズに向かって飛んでいき、その中に入り込んでいく。
スパークドールズの細い両眼が赤い閃光を放ち、小刻みに振動を起こし始める――!
少々時間はさかのぼり、ひと通りの情報交換を済ませた765プロアイドルは、ダイチとスバルから色々と彼らの話を伺っていた。
「へぇ~。これが、さっきスバルさんたちが倒して人形にした怪獣ですか」
春香たちはデスクの上に並べられた、ネロンガ、恐竜戦車、そしてもう一つ、三日月型の角が生えた怪獣のスパークドールズに好奇の視線を向けていた。
「こっちの怪獣は?」
「ゴモラだよ。さっきのデバイスゴモラは、このゴモラの分身なの。ゴモラはダイくんの大親友なんだよ!」
「怪獣が親友? そもそも、どうして倒さずに人形にするんですか?」
千早が尋ねると、スバルは少し誇らしげにその理由を語り出した。
「怪獣も、人間と同じ世界に生きる尊い命。ダイくんの夢は、人間と怪獣が共存できる社会を作ることなの。スパークドールズは、人間と怪獣が分かり合う時間を作るためにエックスがくれた力なんだ」
「人間と怪獣が、分かり合えるんですか?」
「もちろん! あたしたち人間もエックスも、何度も怪獣たちの力に助けてもらったし、今ではダイくんの夢も叶ってきて、怪獣の共生区もあるんだよ!」
スバルは柔らかな視線をゴモラに注ぐ。
「ゴモラはダイくんの夢の出発点でね……子供の頃から一緒だったんだ。もうダイくんの家族みたいなものなんだよ」
「……そっか……。怪獣と家族なんだ……」
響が何かを考え込むようにつぶやいた。
アイドルたちがスバルと話している一方で、ダイチは律子から彼女の発明品の数々を見せてもらっていた。
「へぇ! これ全部、君が一人で作ったのかい?」
「は、はい。一応……」
ストームチェイサーやSAPガンなどを手に取りしげしげと観察したダイチが、感心深げにため息を吐いた。
「すごいね。一個人がこれだけのものを作る技術を持ってるなんて、ミッドにもなかなかいないよ」
「律子さん、こんなに褒められたの初めてじゃないですか?」
小鳥が半分からかうように呼びかけたが、律子は妙に暗い顔でうつむいている。
「……律子さん?」
「……ダイチさんたちの作ったものと比べたら、こんなの子供の玩具みたいなものですよ」
己を卑下する律子に、ダイチは顔を向けた。
「見せてもらったデバイスっていうの、私には何が何だかさっぱりでした……。モンスジャケットというのも、ダイチさんの作ったものなんですよね。怪獣共生区と言い、ダイチさんの力は世界を動かすほどなのに……私の力なんて、誰の役にも立たないものです……」
ダイチと己を比べて、ひどい劣等感に苛まれる律子。
そんな彼女に、ダイチは優しく呼びかける。
「そんなことはないよ。第一、俺一人の力が世界を動かしてるなんてことは全くない」
「え……?」
「たとえばデバイス怪獣は、成功するまで何度も、何十回も失敗したし、俺一人の力しかなかったら今も成功することはなかった。グルマン博士やシャーリーさん、マリーさんの協力とか、アインハルトちゃんが俺の間違いを気づかせてくれたこととかがなかったらね……。それ以外のたくさんの人たちの力と、もちろんエックスの力がなかったら、そもそもの俺はとっくの昔に夢ごと「無」になって消えてた」
瞳の中を覗き込むようにしながら、諭していくダイチ。
「分かるかい? 俺だけではここに来れなかった。何一つ、誰一人、絶対欠けてはいけなかったんだ。――大切なのは技術じゃない。人と人、心と心のつながり……ユナイトだ!」
いつしか、アイドル全員の目がダイチに集まっていた。彼女たちにもダイチは呼びかける。
「夢っていうのは、自分だけで叶えられるものじゃない。みんなの手を取り合えば、未来を開けるよ!」
断言するダイチに、アイドルたちはすっかりと感動に呑まれていた。そんな中で、エックスがダイチに言う。
『随分とたくましくなったな、ダイチ。最初に会った頃は、高いところ駄目だとか言って頼りない印象だったのに』
「ち、ちょっとやめてよエックス! カッコつかないじゃないかぁ!」
『しかし事実だ。そう思わないか、スバル?』
「そうだねぇ。昔はなよなよしてたもんね、ダイくん」
「スゥちゃんまで! もう、意地悪だなぁ二人とも!」
からかわれて憤慨するダイチにエックスとスバルはくすくすおかしそうに笑った。そんな彼らとアイドルの様子を、高木が満足そうにながめる。
「彼らとの交流は、みんなにいい影響を与えてるようだ。なぁガイ君」
「そうですね……」
うなずくガイだが、一方でどこか遠い目で宙を見つめた。
「心のつながりか……。『あいつ』とも、それがあれば……」
――だが、不意に鋭い目つきとなって窓へと駆け込んだ。エックスもまた、突然ダイチに警戒を促す。
『ダイチ、気をつけろッ! 強大な闇の波動を感知した!』
「えッ!?」
一気に騒然となる事務所内。そしてガイが開け放った窓から見える街並みの中より、突如黒い稲妻がスパークしたかと思うと――廃ビルを突き破って、金色の巨大な怪獣が飛び出してきた!
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ! グワアアアァァァァァァァァ!」
「あれは!?」
美希がガイに振り向く。
「ハニー! あれ、ミキたちがやっつけた怪獣と似てるの!」
「グランドキングか……!」
しかし出現した怪獣はマガグランドキングと違い、全身が暗い黄金色に輝き、角は伸びて悪魔のように歪曲している。そして右腕が大剣と化していた。
それが持ち込まれた最後のスパークドールズの正体。暗黒の帝王兄弟の怨念によって生まれ、ジャグラスジャグラーの手でマガグランドキングの魂を入れられることで遂に起動してしまった、スーパーグランドキング・スペクターだ!
「奴からはすさまじい闇の力を感じる……!」
このままではいられない。ガイは春香と美希に視線を向けた。
「春香、美希! 行くぞッ!」
「は、はい!」「了解なの!」
『ダイチ、私たちも行くぞ!』
「ああ!」
ガイが春香と美希を連れて飛び出していく後に、エクスデバイザーを手に取ったダイチが追いかけていく。
「あっ! 待って下さいプロデューサー!」
「ダイチ、あたしも!」
それにカメラを握った律子たちと、スバルも続いていった。
大勢の市民が急いでスーパーグランドキング・スペクターから避難していく中、無人の場所まで到着したガイたちとダイチが即座に変身を行う。
「ウルトラマンさんっ!」
[ウルトラマン!]『ヘアッ!』
春香がガイのオーブリングにウルトラマンのカードを通す傍ら、ダイチはエクスデバイザーのスイッチを押し込んで金縁をX状に開かせた。
「ティガっ!」
[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』
美希がティガのカードを通し、ダイチは現れたエックスのスパークドールズを握り締める。
「光の力、お借りしますッ!」
ガイがリングのトリガーを引き、ダイチがスパークドールズをデバイザーにリードさせた。
[フュージョンアップ!]
『シェアッ!』『タァーッ!』
[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]
「エックスーっ!!」
ガイたちがウルトラマン、ティガのビジョンと融合し、ダイチはX字の光に包まれる。
[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]
「イィィィーッ! サ―――ッ!」[エックス、ユナイテッド]
そうして変身を遂げたオーブ・スペシウムゼペリオンと、ウルトラマンエックスが並んで街を蹂躙しつつあるグランドキングの前に降り立った!
オーブはダイチに聞く。
『そいつがユナイトか』
『「はい! そっちこそ、それがフュージョンアップなんですね!」』
グランドキングは二人のウルトラ戦士を見据えると、すぐに猛って腹部にエネルギーを集め出した。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
『来るぞッ!』
『「あの時のようにはね返してやるの!」』
美希の判断でオーブは鏡状のスペリオンシールドを作り出し、相手の光線の軌道を予測して構える。
「グワアアアァァァァァァァァ!」
だが放たれた破壊光線は、マガグランドキングのそれとは比較にならないほど膨大な量であり、シールドは一撃で粉砕されてしまった!
「ウワアアアアアッ!」
『「「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?」」』
オーブは光線によって大きく弾き飛ばされ、春香も美希も衝撃のあまり金切り声を発した。
『ぐッ……効かなくなってる……!』
「ヘアァッ!」
倒れたオーブに追撃の光線を仕掛けようとしているグランドキングに、エックスが飛びかかって阻止する。
だが勇敢な戦士のエックスでさえ、スーパーグランドキング・スペクターの前では貧相な身体つきに見えてくる。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「グアァァッ!?」
案の定、エックスは易々とグランドキングに振り払われてしまった。
「グワアアアァァァァァァァァ!」
咆哮を発するグランドキング。それだけですさまじい衝撃波が生じ、周囲のビルが倒壊してしまった。
「ウゥゥッ!」
オーブもエックスも、衝撃波に押されてグランドキングに接近することすら出来ない。
スーパーグランドキング・スペクターの圧倒的な暴力の前に手も足も出ない状況のオーブとエックスを、律子たちが実況を交えながら撮影している。
「二人のウルトラマンをも怪獣は全く寄せつけません! 金ぴかになったのは伊達じゃないということでしょうか!?」
「頑張れー! ウルトラマーン!」
「負けないでオーブ! エックスー!」
真美ややよいたちは声を張り上げて必死に応援しているが、オーブたちはグランドキングの体当たりではね飛ばされてしまう。
スバルはエックスたちの加勢のために、バリアジャケットを纏って再度デバイスゴモラを召喚しようとした。
「ゴモラ、あたしたちも行こう!」
「――そうはさせるかッ!」
だがいきなりジャグラーが刀で斬りかかってきて、スバルは咄嗟にプロテクションを張って斬撃を防いだ。
「あなたは……!?」
ジャグラーから距離を取ったスバルに、慌てて彼女の後ろへと回り込んだやよいと千早が教える。
「はわっ! あの人、すっごく悪い人なんですぅ!」
「今日はやたらと攻撃的ね……!」
「余計な茶々を入れられたらたまらないんでね。邪魔立てする者は斬り伏せる……!」
腕を胸の前で交差し、中腰に構えながら威嚇するジャグラー。スバルはアイドルたちを守るためにも、ジャグラーとの交戦を開始した。
「リボルバーシュート!」
リボルバーナックルから射撃魔法を放ったが、ジャグラーはあっさりとそれを切り払う。しかし射撃は牽制であり、スバルはその間にウィングロードを展開して自分に有利な場を作った。
「ウィングロードっ!」
「小賢しいッ!」
魔力のロードの上を駆け回って翻弄しようとしたスバルだが……ジャグラーは刀を振るい、ウィングロードを断ち切った!
「わっ!?」
ロードが崩壊して地面に投げ出されたスバルに、ジャグラーが袈裟斬りを見舞う。強固なプロテクションを張って防御しようとしたスバルだが……背筋に悪寒が走って咄嗟に背後へ倒れ込むように身を投げ出した。
ジャグラーの剣は、障壁をも真っ二つに切り裂いた! かわさなかったらスバルも危うかっただろう。
「強い……!」
貴音たちはジャグラーの実力に息を呑んだ。スバルは宇宙人たちを叩き伏せるほどの実力者なのに、ジャグラーはそれと互角以上の力を見せている。
「ウィングロードだけじゃなく、プロテクションまで簡単に一刀両断するなんて……。恐ろしい切れ味だね……」
「当然! 天下の豪剣、蛇心流だッ!」
独特な構えを取って見得を切るジャグラーだが、スバルは彼の太刀筋を分析する。
「でも、それを抜いても力ずく過ぎるんじゃないかな。肩に力が入り過ぎてるよ。まるで、何かを強引に振り切ろうとしてるみたい……」
と言われると、ジャグラーの目の色が急に変わった。様子の変化に訝しむアイドルたち。
「……?」
「――知った風な口をッ! 斬り伏せてやるッ!」
「はぁぁぁっ!」
ジャグラーの風を切る振り下ろしを、スバルは飛び込みながらの鉄拳で迎え撃った。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「ウワアァァッ!」
強大な敵を相手に、ひるむことなく挑み続けるオーブとエックスだが、スーパーグランドキング・スペクターは一方的に二人をねじ伏せる。最早戦いにもなっていないと言っていい力の差だ。
『「プロデューサーさん……全然歯が立ちません……!」』
『ぐッ……このままじゃ……!』
既にひどく痛めつけられているオーブたちのカラータイマーは赤く点滅している。今のままでは全く勝ち目がないと、オーブは強い焦りを抱えた。
しかし、そんなオーブたちにダイチが告げる。
『「大丈夫だ!」』
『「えっ……?」』
『「希望の光は、どんな時にも瞬いて消えることはない! 虚無の前でも、地獄の前でも……! それが俺たちのたどり着いた光だ!」』
言いながら、ダイチはフュージョンカードとは異なるウルトラマンとティガのカードを取り出した。
『「その光で、あの闇を砕いてみせるッ!!」』
ダイチがカードをデバイザーに挿入すると、デバイザーからエクスベータカプセルとエクスパークレンス、レイジングハートのビジョンが出現。その三つが混ざり合って、一本の杖と化した。
ダイチが杖を握り締めると、エックスの左右にウルトラマンとティガのビジョンが現れる。
『ヘッ!』
『シェアッ!』
ビジョンは肩部を覆う装甲に変わり、エックスはエクシードXに変身。そして全身が白と銀色のバリアジャケットに覆われ、エックスは長杖を手にした。
[ベータスパークハート、セットアップ]
「イィッ! シェアッ!」
完成したベータスパークハートからまばゆい桃色の光が発せられて、グランドキングは一瞬目がくらんで立ち止まった。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
美希たちもまた、今のエックスの姿に目を奪われた。
『「あれも、ウルトラマンの力なの……!」』
『「すごい……! 綺麗で温かい光……!」』
『ウルトラマンさんとティガさんは、彼らにも力を貸してたのか……!』
(♪熱い戦い)
「『ベータスパークザンバー!!」』
エックスの額のエクスディッシュが輝くと、杖が光の大剣に変化し、それを振り下ろしたエックスの斬撃によってグランドキングの体表から大量の火花が飛び散った。
「グワアアアァァァァァァァァ!」
それまで前進し続けていたグランドキングが、初めて後ずさった。
「ヘェェェアッ!」
続くベータスパークザンバーの光刃と、グランドキングの大剣が交わる。だがエックスは渾身の力を以て、グランドキングの剣を押し込んでいく。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
だが敵もさるもので、左腕のクローを振り上げてエックスを攻撃しようとする。
「セアッ!」
だがそこにオーブが飛びかかり、背後に回り込んでクローをひねり上げた。
『俺たちだって、見てるだけじゃいられないぜ!』
『「はいっ!」「なのっ!」』
オーブが食い止めている間に、ザンバーがグランドキングの剣にめり込んでいき、
「テヤァーッ!」
エックスが更なる力を込めたことで、大剣は綺麗に両断された!
「グワアアアァァァァァァァァ!」
武器を失ってひるむグランドキングの腹部を、エックスとオーブが同時に蹴りつけて押しのける。
『よし! 今だダイチ!』
『「ああ!」』
エックスはザンバーをベータスパークハート・ブラスターモードに変形させ、先端をグランドキングに向けると虹色の光の球が生じた。
それと同時に、765プロのアイドルたちの身体から光の粒子が溢れ出て、虹色の光球に集まっていく。
「こ、これは……!?」
「私たちから、光が出てる……!」
オーブの中の春香と美希からも光が生じ、オーブの身体を通して虹の光球を大きくしていく。
『「この光は……」』
『「これが君たちの心にある光だ! 夢を追いかける心の強さ、希望をあきらめない精神こそが、ウルトラマンの力となって君たち自身の未来を照らし出すんだよ!」』
ベータ―スパークハートの光球から発せられる光を浴びて、オーブにも力が沸き上がってきてカラータイマーの輝きが青に戻った。
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
グランドキングはエックスたちが行動に移る前に吹き飛ばしてしまおうと、腹部から超絶破壊光線を発射してきた!
だがそれは、虹の光に当たると霧散していく!
「!!?」
光が最大限に高まると、ダイチとエックスはいよいよ必殺の攻撃を繰り出す。
『「今だッ!」』
『俺たちも行くぞ!』
オーブも腕を頭上と左側にピンと伸ばし、必殺光線の構えを取った。
「『ベータスパークライト・ブレイカーッッ!!」』
「「『マリンスペリオン光線っっッ!!!」」』
二人の虹色に輝く超威力の光線が宙を貫いて飛んでいき、グランドキングに直撃!
「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
虹の輝きに呑まれたスーパーグランドキング・スペクターは耐え切れずに爆散。壮絶な爆風が一帯に広がり、アイドルたちは思わず目をつむって顔を背けた。
「きゃあっ!!」
「わっ!」
スバルも一瞬視界が閉ざされた。
すぐに目を開いたが、この一瞬の間にそれまで戦っていたジャグラーの姿が忽然と消えていた。
――引き際をわきまえて、スバルの前から早々に退散したジャグラスジャグラーは、ダークリングを掲げてスーパーグランドキング・スペクターから脱け出たマガグランドキングのエネルギーをかき集めた。魂はカードの状態に戻っていく。
「ちッ……。やはり、魔王獣のカードは本来の用途に使用した方がいいか」
リングからカードを引き抜いたジャグラーが、不快そうに大きな舌打ちをした。
戦闘後、ガイたちはダイチ、スバルとともにまだ人気の戻らない公園に来ていた。
「もう行かれるんですね……」
律子が少々残念そうにダイチたちに聞いた。二人はそれにうなずき、エックスが述べる。
『出来るなら、うら若き年頃にしてこの星を守る君たちの手助けをしてあげたいが、モンスター銀河の方角から不審な怪獣群のミッドへの接近をキャッチした。私はそれに対処しなければならない』
「それがウルトラ戦士の役割ですからね……。お疲れさんです、エックスさん」
エックスの労をねぎらって頭を下げたガイに、エックスは告げた。
『その代わりに、私が他のウルトラ戦士たちにそうされたように、私から君たちの助けとなる力を贈ろう。どうか役立ててくれ』
エクスデバイザーから光の塊が飛ばされ、ガイはオーブリングでそれを受け止める。光はリングをくぐり、エックスの絵柄のカードに変わった。
「エックスさんの力……! 確かに受け取りました。ありがとうございます!」
ダイチとスバルはアイドルたちの方へ最後のエールを送る。
「あの怪獣を倒すことが出来たのは、君たちの光もあったからだ。みんな、自分たちの光を忘れないで、君たちの夢を追いかけ続けてくれ。追い続ければ、夢は叶うから!」
「遠い場所からだけど、あたしたちはずっと応援してるからね!」
「はいっ! ありがとうございます!」
ガイや春香たちに見送られながら、ダイチたちは彼らの宇宙に帰還していく。
「それじゃあみんな、元気でね!」
ダイチは再びエックスとユナイトし、エックスはスバルを手の平の上に乗せながら宇宙に向かって飛び上がっていく。
「さよーならー!」
空の彼方へ去っていったエックスたちを、大きく手を振り上げながら見送ると、ガイがアイドルたちに呼びかけた。
「さぁッ! それじゃあ俺たちも、一躍有名になる時を目指して頑張るぞ!」
「はい! 765プロ、ファイトー!」
「おぉー!!」
春香の号令に、手を振り上げて応じる仲間たち。――律子を始めとして、皆の表情はとても晴れやかなものになっていた。
『765プロのウルトラヒーロー大研究!』
伊織「にひひっ♪ 伊織ちゃんよ。今回紹介するのは、ウルトラセブンの息子、ウルトラマンゼロよ!」
伊織「ゼロが最初に公開された時は、テクターギアという鎧で顔を隠した謎の戦士という形だったわ。その正体は何だろうと想像をかき立ててから、ウルトラセブンの実の子供だと紹介されて大きな話題を呼んだのよ。そして2009年の映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』で映像作品にデビューしたわ」
伊織「それまで優等生タイプの性格が多かったウルトラマンの中で、ゼロははねっ返りが強い異色のキャラクターをしてたの。だけどそれが却って新鮮で、『ウルトラマン列伝』のナビゲーターを長く務めたこともあって高い人気を博す結果となったわね」
伊織「特に中国での支持が強くって、『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』というテレビ番組まで制作されたわ! これは現在日本で放送中ね!」
ガイ「そして今回のアイマス曲は『IDOL POWER RAINBOW』だ!」
ガイ「これはiTunes Storeで配信された歌で、元祖アイマスと、シンデレラガールズ、ミリオンライブ、三つの企画を代表する三人ずつの計九名によるコラボソングとなってるぞ! 虹を三つの作品の間を取り持つ架け橋と見なしてる訳だな!」
伊織「ま、私たち765プロのアイドルは一応、三つ全部に出演してるんだけどね」
伊織「それじゃ、次回も見なさいよねっ!」
亜美だよ~。うあうあー! みんなが復活した魔獣に、石に変えられちゃったよー! 無事なのは兄ちゃんの他に、亜美と律っちゃんだけ。こうなったら、亜美たちで魔獣をやっつける他に方法はないよっ!
次回『私だってウルトラマン』。律っちゃん、勇気を出して立ち向かおー!