空間の歪みによって春香たちからはぐれてしまい、単独になってしまった雪歩はビクビクと身体を震わせながら、恐怖でしきりに周囲に目を走らせる。
「い、いや……春香ちゃん、律子さん、亜美ちゃん、真美ちゃん……どこ行っちゃったの……? 一人にしないでよぉ……」
周囲に誰の姿もなく、か細い声でおののく雪歩。そこに森の奥から、草木が荒々しくかき分けられる音が響いてきた。
『ハッハッハッ! 獲物はどこかなぁ~? どこまで逃げても無駄だぜぇ~!』
「ひっ……!」
ナグスの声だ。銃を片手に、自分を殺そうとしている者が近づいてきているという事実に、雪歩は恐怖と絶望のどん底に陥った。
「も、もうやだ……。私、ここで死んじゃうんだ……!」
ネガティブ思考になり、頭を抱えてうずくまる。固くつむった目から、ポロポロと涙の雫がこぼれた。
「誰も助けてくれる人はいない……。もう駄目なんだ……おしまいなんだぁ……」
どうして自分がこんな目に遭うのか……。やはり、こんな自分がアイドルになろうとしたこと自体が間違いだったのか……。みんなに、迷惑かけてばっかりだし……と、雪歩の脳裏に後ろ向きの考えが湧いて出てくる。
「こんなことになるんだったら……765プロに来るんじゃ……」
オーブのことを聞かされた時に、辞退していたら……と思った時に、ある台詞が脳内によみがえった。
『わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!』
「!!」
他ならぬ、自分が口にした言葉だ。あの時、確かにそう宣言した。
周りが次々と意志を表明していた、その流れに押されて言った部分もある。だがしかし、これは紛れもない本心から出た言葉であった。そして、誰かのためだけでなく、自分自身のためを思っての言葉でもあった。
自分は臆病で、何事にも一歩を踏み出せない、駄目な女の子。それをどうしても変えたいという想いが、765プロに来た一番の理由だ。――今変わらなくて、どうするというのだ。
「……!」
思い直した雪歩はまだ震えが止まらないながらも毅然と立ち上がり、愛用のスコップを握り締めた。
宇宙人たちは、自分だけではない、春香たちの命も奪おうと狙っている。自分が助けてもらうのではない。自分が、春香たちを守るために立ち向かう。その意気で立ち上がらなければ、自分は一生変わることは出来ないだろう――。
その想いを胸に、雪歩は己を奮い立たせるために言い放った。
「く、来るなら来いっ! 私がやっつけてやるんだから!!」
そして勢いのままにスコップを足元の地面に突き刺した、その時!
雪歩を中心にして、地面に光の線が走って円を作った!
「えっ!? な、何!?」
突然の事態に面食らった雪歩が――光の円の内側の地面がすっぽりと抜け落ちたことにより、彼女もまた奈落の底に向かって転落した。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」
雪歩が穴の中に落下していった直後に、ナグスたちが草をかき分けてこの場に現れた。
『ここかぁ!? ……あん?』
その時には、穴は何事もなかったかのようにふさがって、地面は元通りになっていた。
『変だな……。確かに獲物の気配を感じたんだがな』
訝しんだナグスだが、気のせいだと思い直してすぐに別の者たちを追いかけて離れていった。
どこまでも続いていて底が見えない垂直の穴を、雪歩は真っ逆さまに転落していく。
「どこに向かってるのぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!?」
穴はやがて光のトンネルに変わり――それを抜けた先は、気絶中に見た夢の光景そのままの世界だった。
その世界の中心に、夢で見たのと同じウルトラマンがいて雪歩を見下ろしている。
「ウルトラマンさん!」
夢のウルトラマンの姿を目にした雪歩は、咄嗟に叫んだ。
「私の友達が危ないんです! どうか私に、悪い宇宙人たちと戦えるような力と……勇気を下さい!」
思いが赴くままに懇願する。
「私は、あなたが欲しい!!」
と雪歩が叫ぶと、ウルトラマンはおもむろに彼女に両手をかざした。
「私に、力を貸してくれるんですか……?」
雪歩も同じように両手を伸ばすと……ウルトラマンの姿が光に包まれ、一枚のカードの形にまで縮小されて、雪歩の手の中に収まった。
自分が手にしたカードを見つめた雪歩の視界が、赤と青の輝きで覆われていく――。
亜美と真美は、仄かな光を放つ木製の祠に恐る恐る近づいていく。祠は不思議なことに、人が立ち入らないような場所にも関わらず朽ちた様子がない。
「何だろう、これ……? 光ってるよ……?」
「そう言えば、社長が言ってたよね。二人の英雄を祀った祠が、森のどこかにあるって……」
真美のひと言に、二人は顔を見合わせた。そして亜美が提案する。
「……開けてみよっか!」
「えぇ!? 大丈夫かな……。危ないかもしんないよ?」
「なるようになるってぇ!」
危惧する真美を押して、亜美は観音開きの戸に手を掛け、紐の結びを解いて開いた。
祠の中に祀られてあったのは……二枚のカードだった。
「えっ、カード……?」
「しかも……兄ちゃんが使ってるのと同じタイプみたいだよ!?」
絵柄は、それぞれ水色のクリスタルとV字の黄色いクリスタルを身体の各部に備えた……紛れもないウルトラマンのものであった。亜美が水色のクリスタルの、真美が黄色のクリスタルのウルトラマンのカードを手に取る。
「そっか……! 二人の英雄って、ウルトラマンのことだったんだ……!」
「亜美……!」
真美が顔を向けると、亜美は重々しくうなずいた。
「うん! これ、兄ちゃんに届けよう!」
と言うと、二枚のカードからほんのりと光が発せられ、それが一方向に向けられた。
「亜美たちを導いてくれてるみたい!」
「よーし! あっち行ってみよー!」
「おー!」
亜美と真美はカードの導きのままに、木々の間を抜けて駆けていった。
「きゃああぁぁ―――――!」
春香、律子、渋川の三人は延々とナグスたちから逃げ続けていたが、やがて前方から足元に弾丸を撃ち込まれる。
「きゃああっ!?」
『そろそろ終わりにしようかぁ?』
いよいよ追いつめられた三人。だがその時に横を見やった春香が声を上げた。
「あの人っ!」
春香の視線の先では、先ほどの白い着物の女性が手招きをしていた。その姿はスゥッと消える。
「こっちおいでって……。行ってみよう!」
「あっ、ちょっ、春香ぁ!?」
春香が迷わずその方向に走っていくので、律子と渋川もそれを追いかけていった。
そうして三人は、森に入った場所に脱け出た。
「やった! 出られたぁぁぁ~!」
「もう大丈夫だわ!」
「おーい! はるるーん! 律っちゃーん!」
別の場所からは亜美と真美が森から出てきて、春香たちの元に駆け寄ってきた。
「亜美、真美! 二人とも無事だったのね!」
「うん! でも雪ぴょんは?」
「雪歩は……」
「おい! 来たぞ!」
悠長に話している暇はなかった。後ろを見た渋川が、ナグスたちも森から出てくるのを目撃したのだ。
『どうやって幻惑装置を振り切った? まぁいい。行け』
ナグスの命令で、黒服二人が春香たちを挟撃する!
「わぁぁぁ―――――! 来たぁぁぁぁぁぁっ!」
「下がれ下がれ下がれ下がれッ!」
五人はあっという間に黒服と、ナグスに囲まれて逃げ場を失った。
『お前らはもう袋のネズミだ!』
銃を突きつけてくるナグスに、渋川は急に笑い出した。
「タッハッハッハッハッ……! ワッハッハッハッハッハッ! この私の柔道五段、空手三段の腕を見せてほしいようだな。行くぞ、手加減しないぞ! ハァー……!!」
長く息を吐いて精神を統一した渋川が、一気呵成にナグスへ飛びかかっていく!
「うぉッ!」
だがパンチはあっさりといなされ、ヘッドバッドの三連撃を食らった。
『おらッ! おらッ! おらッ!!』
「ぎゃあッ!!」
渋川は返り討ちにされて春香たちの元に戻ってくる。
「叔父さぁんっ!」
「渋川のおっちゃん全然ダメじゃん!」
「強い! 強いよあいつ!」
このまま五人ともナグスの手にかかってしまうのか?
――そこに、春香たちにとって聞き慣れたハーモニカの音色が鳴り響いてきた。
「こ、この音色は……!」
喜色満面となる春香たちと対照的に、ナグスたちは苦悶の表情とともに頭を抱えた。
『何だこの曲は!? 頭が痺れる……! どこだ!? ……あそこだッ!』
ナグスが指した先の建物の屋上に、ガイの姿があった!
「プロデューサーさぁぁぁーんっ!」
「わーい! 兄ちゃんだぁー!」
「助かったぁぁーっ!」
「お前ら、待たせちまったな」
大喜びの春香たちに、ハーモニカを仕舞ったガイが、片手を挙げて応じた。
『テメェまで森から脱け出てやがったか、舐めた真似を……!』
ナグスは激昂してガイに銃口を向けたが、それを制してガイが飛び蹴りを仕掛けてナグスを蹴り飛ばした。
『うおぉッ!?』
「やったぁー! いいぞ兄ちゃーん!」
亜美たちの応援を背に、ガイが勇猛果敢にナグスたちと戦い始める。
『くッ!』
ナグスは銃撃を浴びせるがガイは素手で光弾を弾き、距離を詰めて強烈なアッパーカットをぶち込んだ。ナグスは吹っ飛ばされて地面の上を転がる。
『ぐあああッ!』
部下の黒服二名が左右からガイに襲いかかるも、ガイは数の差を物ともせずに黒服にパンチを入れて瞬く間に叩きのめした。
『ちくしょうがッ!』
起き上がったナグスが飛びかかっていくも、銃ははたかれて照準をそらされ、肉弾攻撃の猛打を入れられて返り討ちにされる。
『ぐはぁッ!!』
先ほどまでとは逆に、ナグスの方が追いつめられる立場に置かれていた。
ナグスの苦戦により、ジャグラスジャグラーが独断で行動して森の中に現れた。握り締めたダークリングに、昆虫型の怪獣のカードを通す。
[アリブンタ!]
カードが暗黒のエネルギーとなって地面に照射される。
更にジャグラーはもう一枚、ウサギ型の怪獣のカードを通した。
[ルナチクス!]
二枚目のカードも暗黒のエネルギーとなって、先のエネルギーと地中で混ざり合う。
「合体超獣、アリチクス!!」
暗黒のエネルギーが実体化していき、森の真ん中から大怪獣が出現した!
「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」
昆虫型の怪獣――いや、超獣をベースに、ウサギ型の超獣の白い毛皮と長い耳を生やしたその姿。
大蟻超獣アリブンタと満月超獣ルナチクスをダークリングの力で融合させた、地底合体超獣アリチクス!
「ッ!」
ナグスを叩き伏せていたガイは、手を止めて出現したアリチクスを見上げた。
『覚えてろ……!』
その間にナグスたちは素早く退散していった。
「お前たち逃げろ! 逃げろッ!」
渋川は春香と律子をアリチクスから避難させていくが、亜美と真美はガイの方へと走っていった。
「あッ! お前たち!」
「叔父さん危ない! 怪獣がこっちに来る! うわぁぁぁっ!」
「キィ―――キキキッ!」
アリチクスはうさぎ跳びで春香たちの方へ接近してきながら、口から霧状の蟻酸を噴出してきた。
「きゃあぁっ!」
春香たちは必死に走って、危ないところで蟻酸をかわした。彼女たちの背後の工場施設が代わりに蟻酸を浴び、瞬く間にドロドロに溶けて消滅した。
春香たちが危険な中、亜美と真美がガイに駆け寄ると先ほど手に入れたカードを差し出した。
「兄ちゃんこれ! 森の中で見つけたの!」
「これは……ギンガさんとビクトリーさんのカード!」
更にそこに、雪歩もガイの元へと駆けつけてきた。
「プロデューサー!」
「雪歩! 無事だったか!」
「これを……!」
雪歩もまた、赤と銀に黒い胸部プロテクターを持ったウルトラマンのカードを差し出した。
「ウルトラマンガイアさんのカード! 雪歩、お前も見つけてきたのか……!」
差し出された三枚のカードの内、ガイアとビクトリーのカードが共鳴して光っていた。それを見たガイがうなずく。
「雪歩、真美! 変身して戦うぞ!」
「は、はいっ!」「うんっ!」
指名された二人は即座に応じ、それぞれカードを構えた。
「真美、雪ぴょん! ファイトぉー!」
亜美の応援を受けながら、まずは雪歩がガイアのカードをガイのオーブリングに通す。
「ガイアさんっ!」
雪歩の横に、ガイアのビジョンが出現。
[ウルトラマンガイア!]『デュワッ!』
続いて真美がビクトリーのカードをリングに通した。
「ビクトリー兄ちゃんっ!」
ガイアと同じように、真美の隣にビクトリーのビジョンが現れた。
[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』
そしてガイがリングを掲げ、トリガーを引く。
「大地の力、お借りしますッ!」
[フュージョンアップ!]
ガイアとビクトリーは雪歩、真美を巻き込んでガイと融合!
『ジュワァッ!』『オリャアッ!』
[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]
赤い輝きの中でV字にクリスタルの壁を砕き、巨大な拳を振り上げてオーブが飛び出していく!
春香たちを狙うアリチクスの前に立ったオーブは、上半身が岩石のようにゴツゴツと発達した姿となっていた。頭頂部にはV字のクリスタルが黄色く輝き、胸部に黒いラインが走る。
これぞガイアとビクトリーの大地の力を持ったウルトラマンたちの力を借り受けることで誕生した、フォトンビクトリウム!
『俺たちはオーブ! 闇を砕いて、光を照らす!!』
オーブのお陰で危機を脱した律子たちは、カメラでその勇姿を収める。
「オーブ! また新しい姿ね! すごくゴツいわ!」
「お、おい! あれ見ろ!」
渋川が指差した先の森の中から、写真に写っていた円盤が浮上した。
「UFO!? 本物だわぁっ! 大スクープ!!」
「律子さんあれっ! さっきの女の人が!!」
春香が指差した先では、白い着物の女性の霊がオーブを見上げていた。
「幽霊まで!? もぉーどれ映したらいいのよぉ!」
律子がてんてこ舞いになっている間に、オーブはアリチクスとの戦闘を開始する。
(♪ガイアの戦い)
『行くぞ雪歩! 真美!』
『「はぁいっ!」』
『「ラジャー!」』
うさぎ跳びで迫ってくるアリチクスに、オーブが肥大化した豪腕を振り下ろした。重量のある拳の打撃は合体超獣といえども受け切れずに押し飛ばす。
「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」
アリチクスが鉤爪状の腕で殴り返してくるが、オーブは頑強なボディで難なく受け止めた。そして両腕で相手の身体を鷲掴みして、巨体を軽々と持ち上げた。
「シェアァッ! オォォリャアッ!」
そのまま地面に向けて叩きつけた! だが一回だけに留まらず、何度もアリチクスを捕らえては投げ飛ばす。執拗に相手を投げつける様はまるで投げの鬼だ。
「キィ―――キキキッ!」
一方的に叩き伏せられていたアリチクスだが、そうそう簡単には参らない。口から蟻酸を噴射してオーブに浴びせる。
「ウッ!」
アリチクスの蟻酸は強力な溶解液だ。フォトンビクトリウムのボディでも耐え切れずにダメージを負う。
「ゴオオオオォォォォ!」
見計らったアリチクスは火炎攻撃に切り替える。このまま攻撃を食らい続けるのはまずい、とオーブは横に転がり込んで回避した。
「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」
だがアリチクスの攻撃の手は止まらない。今度は複眼が点滅したかと思うと、眼窩から射出された!
撃ち出された眼球は着弾すると炸裂し、オーブに爆撃を食らわせる。
「ウワァッ!」
眼球は撃たれる端から充填され、連射されてオーブを苦しめる。
『「うあうあー! 目ん玉飛び出してるよー!?」』
真美もオーブと連動して苦しむが、雪歩は夢で見たウルトラマンの攻撃の光景を思い返した。
『「真美ちゃん! 合わせて!」』
『「よし来たっ!」』
オーブは眼球攻撃の合間に頭部を抱え込む。すると後頭部から長い光のムチが生じた。
「「『フォトリウムエッジ!!!」」』
飛ばされた光の刃が、眼球ミサイルを空中で爆砕しながらアリチクスに命中!
「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」
大ダメージを受けてよろめくアリチクス。オーブの形勢逆転だ。
『「まだまだ行っくよー!」』
真美の宣言通り、オーブの攻勢はどんどん続く。
(♪ウルトラマンビクトリーのテーマ)
今度は片足に黄色いエネルギーを纏わせ、キックの要領で脚を振るう。
「「『フォトリウムスラッシュ!!!」」』
脚から飛ばされる光の刃がアリチクスを撃つ。
「キィ―――キキキッ!」
「シェアッ! ダァッ!」
光刃が連続して撃ち込まれ、アリチクスを更にひるませた。
そして隙を見てジャンプ。空中からのハンマーナックルを叩き込む!
「オリャアァァッ!」
「ゴオオオオォォォォ!」
アリチクスは弾かれたように吹っ飛び、ゴロゴロと転がる。それでもまだ攻撃を耐え、起き上がろうとする。
しかしここにおいて、オーブもいよいよとどめの一撃を繰り出そうとしていた。
『決めるぞ雪歩! 真美!』
『「はいっ!」「オッケー!」』
オーブは右腕にエネルギーを集中。輝く巨大な拳を地面に着けると、それを引きずりながら前に駆け出しアリチクスに肉薄していく。
走りながらエネルギーが更に高まり、頂点に達すとまばゆい閃光を発した!
「「『フォトリウムナックル!!!」」』
そして最大威力の拳打を、アリチクスに打ち込んだ!
「キィ―――キキキッ!! ゴオオオオォォォォ!!」
アリチクスはくの字に折れ曲がって、遂に爆散。オーブの勝利であった!
「やったぁぁぁ――――――っ!!」
大喜びの亜美、春香たち。しかしオーブが戦っている間に、円盤はいつの間にか姿を消していた。退散したようだ。
「シェアッ!」
とりあえずは敵がいなくなったことにより、オーブは空に飛び立って去っていった。
『入らずの森』からの帰還後、事務所で高木がアイドルたちに、渋川からの連絡の内容を告げた。
「どうやらあの森の再開発計画は中止になるみたいだ。新しい古墳が発見されたからね」
「そーなんだ! よかったぁ~」
「自然がなくなっちゃうのって、寂しいからねー」
亜美と真美が胸を撫で下ろしていると、律子もまたこう言った。
「色んな発見があったけれど、あの森はそっとしておいてあげましょう。玉響比売命には危ないところを助けてもらった恩があるしね」
「ところで、そのお姫さまとウルトラマンの兄ちゃんたちって、何か関係があるのかな? 亜美たち、あそこでカード見っけたよ」
亜美の質問に、律子は腕を組んだ。
「今のところは分からないわね。玉響比売命って後世に名前しか伝わってない、伝説の姫だもの。そういうことも、古墳を調べてみたら何か分かるかもしれないけど」
「ロマンのある話だねぇ。若い頃を思い出すよ」
玉響姫や古墳の話を聞いて、高木が昔を懐かしんだ。
その一方で雪歩が、冷や汗まみれになりながらもいぬ美に手を伸ばしていた。
「よ……よしよし……!」
そして意を決して、雪歩の手がいぬ美の毛皮に触れて短い時間でも撫でることに成功した。この結果に春香たちは喜ぶ。
「やったぁっ! 雪歩が犬に触ったよぉ!」
「よかったね、いぬ美。これで765プロのみんなとお友達だぞ!」
「バウっ!」
「これでひとまずは安心ってとこかしらね。どうにかステージまでに間に合ってほっとしたわ」
雪歩は戦いの後、怖がりの性分が幾分か解消された。いぬ美に改めて自分から触りに行ったのも、犬恐怖症を克服するためだ。他のアイドルたちは雪歩の成長に、喜んだり息を吐いたりしている。
ガイは満足そうに雪歩に呼びかけた。
「よく頑張ったな、雪歩。偉いぞ」
「プロデューサー……ありがとうございます」
男嫌いも幾分か改善され、特にガイに対しては普通に接することが出来るまでになった。雪歩は柔らかな微笑を浮かべながら、ガイに告げる。
「これもガイアさんが、私に勇気をくれたからです」
「いや、勇気ってのは自分の心から生じてくるもんだ。ガイアさんは、その後押しをしただけ。お前が変われたのは、紛れもないお前自身の力によるものだよ。大したもんだ」
「そ、そうでしょうか? えへへ……」
ガイに褒められてはにかんだ雪歩は、彼に向かって約束する。
「でも私はまだ、私にとっての最初の戦いを始めたばかりです。でもいつかきっと、誰もが振り返るような素敵な人になります……!」
「そうか……じゃあ、一緒に頑張ろうな! まずは明日のステージの成功からだ!」
「はいっ!」
すっかりと元気になった雪歩は、力強くうなずいて応じたのだった。
――惑星侵略連合の円盤内。ジャグラーの前でナグスとタルデ、その二人に挟まれた上座の席に銀のマントを羽織った黒い身体の怪人が、おもむろに腰を下ろした。
『我が身内のために、貴重な超獣カードを使ってくれて、悪かったな』
この怪人こそが、惑星侵略連合の首領。メフィラス星人ノストラである。
ナグスはノストラに報告する。
『ウルトラマンオーブ……聞きしに勝る力です』
「だが奴は決して無敵ではありません」
それにつけ加えるようにジャグラーが進言した。
「本来の力を失ったオーブは、ウルトラマンの力を宿したカード二枚と地球人の手を借りて変身しています。つまるところ、奴より強力な手札を持てばいいのです」
断言したジャグラーは立ち上がり、ノストラたちに告げた。
「では皆さん、今宵はこれにて、失礼……」
ニヒルに笑いながら、ノストラたちの面前より立ち去っていくジャグラー。……その姿が完全になくなってから、タルデがノストラに問うた。
『偉大なるドン・ノストラ……あのような者を仲間に加えてよろしいのですか? 奴は元々、光の勢力に身を置いていたと聞きます。我々の寝首をかくつもりかもしれません……』
忠告するタルデだが、ノストラは冷静に告げた。
『最後に笑うのは……切り札を持つ者だ』
マントを翻して出した手に握られているのは……漆黒のウルトラマンのカードであった。
『この宇宙には、光と闇のカードが眠っている。ジャグラーは強力な魔王獣カードを六枚持っている……奴からそれを頂戴する……!』
丑三つ時の暗黒の空を飛び去っていく円盤を見上げたジャグラーが、独りつぶやいた。
「さぁて……最後に笑うのは誰かな……?」
『765プロのウルトラヒーロー大研究!』
雪歩「は、萩原雪歩ですぅ。今回ご紹介するのは、地球が生んだウルトラ戦士、ウルトラマンガイアさんですっ!」
雪歩「ガイアさんは1998年放送の『ウルトラマンガイア』の主人公です。この作品は、二十世紀末でノストラダムスの大予言などの人類終末論が流行してた当時の世相を反映して、地球を滅ぼそうとする根源的破滅招来体にガイアさんたち人間が立ち向かうという構図を最初から最後まで通して描いてました。シリーズではほぼ初めて、連作風味のシナリオでした」
雪歩「また科学考証をふんだんに作品に取り入れたことで作中に専門的用語が飛び交ったり、中盤までライバルの立ち位置となるもう一人のウルトラマンが登場したり、先述の通り宇宙ではなく正真正銘地球がウルトラマンを生み出したりと、それまでのシリーズになかった要素や概念が導入されました。これらは今もガイアさん独自の個性となってますね」
雪歩「動物愛護の思想を取り入れたことで、怪獣がただ倒されるだけの敵役から脱却するようになってます。この概念は次作の『ウルトラマンコスモス』で完成されることになります」
ガイ「そして今回のアイマス曲は『First Stage』だ!」
ガイ「アイドルマスターにおいて初の雪歩のソロ曲で、自分に自信を持てない女の子が勇気を出して変わっていくという内容の歌詞となってるな。まさしく雪歩そのものの歌詞だ」
ガイ「ちなみにこの歌が意識された『First Step』という曲もあるぞ。こいつは『アイドルマスター2』の雪歩ルートで確認してほしい!」
雪歩「いわゆる挿入歌で、ステージでプレイできる曲ではないのでご注意下さい」
雪歩「次回もどうぞよろしくお願いしますね」
三浦あずさです。東京に出没した円盤を追う私たち765プロに、男女二人の記者さんが取材に来てくれました。……けれど、その記者さんたちの会社は実在してなかったんです! どういうことかしら……?
次回、『ETERNAL POWER RAINBOW』。あなたたちは、誰ですか……?