THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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First Fight!!(A)

 

「こんなことが起きちゃったら、超常現象だのUMAだの言ってらんないわね」

「あのオーブは、私とプロデューサーさんが変身したものなの!」

「真の姿は、オーブの支援組織だったのだよ!」

『「ミキが……きらきら煌めく星に……!」』

「どんな相手でも私は、弟たちのおやつの時間を取り戻すために戦いますっ!」

「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです」

「伊織、ナイスファイトだったよ」

「真こそ、お見事だったわ」

「あんたの知らない俺たちを見せてやるよ!」

 

 

 

『First Fight!!』

 

 

 

 ――どことも知れぬ、薄暗い怪しい空間の中、二人の異形の怪人に対して、どこからともなく男の声が響いてきた。

 

『では、状況を聞こう』

 

 すると二人の内、身体全体が縦に細長く、サイケデリックな色彩をした怪人がそれに答えた。

 

『偉大なるドン・ノストラ……タバコを吸う人間は減少の一途をたどっております。幻覚タバコ作戦は、中止せざるを得ません……』

 

 サイケな怪人の報告に、最初の声は大きくため息を吐いた。

 

『時代は変わったな……。今は、自分の快楽のためには星を売ってもいいと思う奴らばかりだ……』

 

 姿の見えている怪人のもう一人、白い身体に赤い球体がいくつも埋め込まれたような怪人が好戦的に進言する。

 

『いっそひと思いに、ぶっ壊してやりましょう!』

 

 それに苦言を呈するサイケな怪人。

 

『だが、地球にはウルトラマンオーブがいます。早く奴を何とかしなければ……』

 

 だが発言の途中で、白い怪人は腰のホルスターから銃を抜いて背後に銃口を向けた。

 

『誰だッ!』

 

 それに応じるかのように、黒いスーツの男がこの場に足を踏み入れてきた。――ジャグラスジャグラーだ。

 

「惑星侵略連合の皆さん、お初にお目にかかります。私の名はジャグラー」

 

 「惑星侵略連合」と呼ばれた者たちの内、声だけの者がジャグラーに聞き返す。

 

『君の噂は聞いているよ。我々に何の用だ?』

 

 それにジャグラーは、淡々と答えた。

 

「奴は私にお任せ下さい」

 

 

 

 ――雪歩は気がつくと、見たことのない景色の中を飛んでいた。

 

「う……ここは……?」

 

 とても日本とは、いや現代の地球上に存在するとは思えないような世界。見渡す限りの大地は荒寥としているばかりか溶岩の河が至るところに走っていて、有史以前の時代を思わせる。

 そんな世界の中、蛇のように手足のない細長い胴体の怪獣と、赤い光に包まれた巨人が激しく戦っていた。雪歩はその、胸部に黒いラインと青い発光体を持つ巨人のことをよく知っていた。

 

「ウルトラマンさん……?」

『ジュアァッ!』

 

 光の巨人――ウルトラマンは抱え込むように頭を下げると、頭頂部に光子が集まり、光のムチと化した。それを怪獣に向けて発射することで、怪獣を一撃の下に爆散させた。

 怪獣を打ち破ったウルトラマンは、気がついたかのように雪歩の方へ振り返った。雪歩とウルトラマンの視線が合う。

 じっとウルトラマンの瞳を見つめる雪歩の耳に、かすかに自分の名前を呼ぶ声が届く……。

 

『……雪歩……雪歩……!』

 

 

 

「雪歩っ!!」

 

 はっ! と目を覚ました雪歩の顔を、真と春香が心配そうに覗き込んでいた。

 

「ああ、よかった! 気がついた!」

「大丈夫? 頭打ってない?」

「うっ……私、どうしてたんだっけ……」

 

 ゆっくりと身体を起こす雪歩。自分は事務所の床に倒れて気を失っていたことを理解する。周りにはガイたち765プロの仲間が、真と春香と同じように雪歩を案じて視線を向けていた。

 失神する直前まで何をやっていたのか思い出そうとする雪歩の視線の先に、ずんぐりとしたセントバーナード犬がぬっと顔を出した。

 

「バウっ」

「……」

 

 ワンテンポ遅れて、それが何か理解した雪歩がズザザザザッ! と腰を落とした姿勢のまますごい勢いで後ずさった。

 

「ひぃぃぃぃっ! いぬ美ちゃんっ!?」

 

 雪歩に思い切り怖がられた犬、響の飼っているいぬ美が怖がられたことにショックを受けてズーン……と落ち込んだ。それを飼い主の響とハム蔵が慰める。

 

「げ、元気出していぬ美。雪歩も悪気がある訳じゃないんだぞ」

「ぢゅいッ……」

 

 いぬ美の顔を見ただけでガクガク震えて涙目の雪歩の様子に、千早が大きなため息を吐いた。

 

「萩原さんの犬恐怖症、一向に良くなりませんね……」

「全くだな……。どうしたもんか……」

 

 ガイも弱り果てた様子で腕を組んだ。

 先日降郷村の夏祭りでのステージ出演が決定した765プロアイドルたちだが、その前に一つ大きな問題に直面した。それがこの雪歩のことである。

 雪歩は男性も怖いのだが、それに輪を掛けて犬が怖い。そして降郷村には如何にも男らしい青年団もあれば、犬を飼っている家庭も多い。ステージ出演中、彼らと遭遇しないはずがない。今の怖がりな雪歩のままでは、舞台に立つことすらままならないだろう。そういう訳でそれまでにどうにか雪歩の恐怖症を治そうと試行しているのだが、まるで改善しないのが現状であった。

 ちなみに先ほどは、実際に犬に触れさせて慣れさせようと響にいぬ美を連れてきてもらったのだが、その結果は雪歩の卒倒であった。

 

「もぉ~! 雪歩、真面目にアイドルやる気あるの? ライブはもう二日後なのよ! こんな調子じゃ間に合わないわよっ!」

 

 苛立った伊織が強い口調で責めると、雪歩は半泣きになって言い訳する。

 

「ひ~ん……! 好きで怖がってる訳じゃないよ~……! 私だって、男の人とも普通に話がしたいんだけど……」

「伊織ちゃん、落ち着いて。雪歩さん、焦らずゆっくりやってけばいいですよ」

 

 やよいが雪歩をかばうが、伊織はそれに反論した。

 

「ゆっくりやってたら間に合わないからこんなことしてるんじゃない。そもそも、そうやって雪歩を甘やかしてばっかだったからこんな羽目になってるんじゃないの?」

 

 他の面々も雪歩をどうしたものかと頭を悩ませている。

 

「ハニー、この際雪歩はお休みさせた方がいいんじゃない? それで次の機会ってことで……」

 

 美希が進言するが、ガイは渋い表情。

 

「けどなぁ……初めての全員出演のステージだぞ? その晴れ舞台に、一人だけ欠席ってのも後味悪いしな……」

「あまりずるずると先延ばしにするのも、雪歩の為になりません」

 

 貴音も同調した。が、だからと言って妙案は思い浮かばない。

 皆が思い悩んでいる一方で、亜美と真美は小鳥とともにパソコンの画面で日本太平風土記の挿絵をながめていた。そして真美が小鳥に質問する。

 

「ねぇねぇピヨちゃん。兄ちゃんの持ってるウルトラマンのカードって、倒した魔王獣からゲットしたものだけどさ、他にもカードあるのかな?」

 

 それに小鳥は次の通りに答えた。

 

「社長の調査とプロデューサーさんの言によると……他にもまだ世界のどこかに眠っているカードがある可能性は大よ」

 

 小鳥はマウスを操作して、太平風土記をスクロールする。そうして巨人が描かれている部分で止めた。

 

「太平風土記によれば、魔王獣は七人の巨人の力で封印されたけど、世界は魔王獣の影響で荒れたまま。そこで七人以外の巨人がその力を用いて、世界のバランスを安定させたとあるの」

 

 画面には、胸に黒いラインの走る銀色と赤の巨人が荒れ果てた大地を平定している構図の絵が表示されている。

 

「それが他のウルトラマンで、世界の安定のために同じように力をカードにして使用したとするのなら……」

「今もどっかにカードが眠ってるってことだね!」

 

 言い当てる亜美。

 

「ええ。でもそれがどこにあるのかということまでは流石に分からないわ」

「そっかー。でもどうせなら、全部のカードが亜美たちのところに来てほしいよね」

「そしたら真美たちもオーブに変身できるかもしれないもんねー」

 

 現在ガイの元にあるカードとは波長の合わない亜美真美は、そうなることを夢見た。

 一同がそんなことをしていると、高木が律子を伴って姿を見せた。

 

「やぁ諸君、調子は……あまりよくないみたいだが、ここで一つやってもらいたいことがあるんだ」

「社長?」

「先ほど、渋川君から依頼があってね。律子君、例のものを」

「はい、社長」

 

 高木に言われて律子が写真をデスクの上に広げる。アイドルたちがそれを覗き込むと、あずさがのほほんと言った。

 

「あら、雪歩ちゃんのグラビア写真じゃないですか。よく撮れてますねぇ」

「ええ、よく撮れてますよ。ほら……ここに飛んでるのがはっきりと」

 

 律子が指し示した一枚の写真の一点、雪歩の頭の右上辺りに……赤いピスタチオを二つ連ねたような物体が小さく写り込んでいた。響が仰天する。

 

「ユ、UFOだぞー!?」

「また空飛ぶ円盤が撮れちゃったんだ、雪歩……」

 

 呆然とつぶやく春香。雪歩は何故か写真を撮ると、未確認飛行物体が写る確率が異様に高いのだった。

 当の雪歩が語る。

 

「これ、市民公園で撮ったものです……」

「うむ。その公園に隣接する行政の管理区の小さな森林には、昔からある噂が流れていてね」

 

 高木が解説を始めた。

 

「高貴な人物の墓陵や、二人の英雄を祀った祠がどこかにあるというものの他に、一度足を踏み入れて帰ってきた者は一人もいないという言い伝えから、江戸時代から『入らずの森』という仇名で呼ばれていたようだ」

「流石元民俗学者だけあって、お詳しいですね」

 

 感心する千早。

 

「萩原君の写真だけでなく、最近この森の付近でUFO写真が何枚も撮れているということだ。鑑定でも作り物ではないと出たが、これだけではビートル隊が正式に調査するには至らないということで、渋川君が一緒にこの『入らずの森』を調べてほしいとお願いしてきたという訳だ」

「なるほど……これが次の『アンバランスQ』の題材ってことね」

 

 伊織がうなずく一方で、響きが不安がる。

 

「でも危険じゃないの? 帰ってきた人がいないなんて物騒な言い伝えがあるし、何よりUFOなんて……。こないだ悪い宇宙人に狙われたばかりだぞ」

「しかし、わたくしたちにはプロデューサー……オーブがついています」

 

 と述べたのは貴音。律子はガイに振り返って意見を求める。

 

「プロデューサー、どうですか? ウルトラマンオーブの目から、この円盤は本物でしょうか」

「……」

 

 写真を見つめていたガイが口を開いて答えた。

 

「見たところ、本物の宇宙人の宇宙船のようだな。だがそれが森とどんな関係があるかっていうのは分からん」

「そうですか……」

「それにこの森は……」

 

 何か言いかけたガイの顔を律子たちが訝しげに見上げる。

 

「……いや、ひとまず調べてみる価値はあるだろうな」

「それじゃ決定ね! この調査、誰かやりたい人はいるかしら?」

 

 ガイの言葉を受けて決めた律子は、調査員を募る。それに応じたのは亜美と真美だった。

 

「はいはーい! 亜美たちやるー!」

「『入らずの森』なんてチョー面白そー!」

「それじゃあその二人ね。それと、雪歩、あなたも入りなさい」

 

 指名された雪歩がビクッ! と肩を跳ね上げた。

 

「ど、どうして私なんですかぁ!?」

「ちょうどいいから、肝試し代わりよ。二日後のライブに向けて、ちょっとは度胸つけてきなさい。拒否は認めないから」

 

 強制参加を命じた律子がもう一人指名する。

 

「後は春香、あなたもね」

「えぇっ!? 別に嫌って訳じゃないですけど、どうしていつも私ばっかり駆り出されるんですか!?」

「何言ってるのよ。『アンQ』のプロジェクトリーダーなんだから当たり前じゃない」

「いつの間にそんなポストに!?」

「他のみんなは明後日のステージに向けて、引き続き練習しててね!」

 

 一方的な律子の指名により、この四人と律子、ガイによる『入らずの森』の調査が決定した。しかし今から震えている雪歩を、真と貴音が激励する。

 

「頑張って、雪歩! 大丈夫、プロデューサーがついてるんだから」

「明後日に控えたらいぶに備えて、益荒男にも負けぬ度胸を育んでくるのです」

「う、うん……」

 

 うなずく雪歩であったが、内心ではやはり危険があるかもしれない森林の調査に大きな恐怖を抱いていた。

 それを紛らわそうとして、ふと先ほど気を失っている間に見た夢のことを振り返った。

 

(そういえば、あの夢に出てきたウルトラマンさんは誰だったんだろう……)

 

 夢のウルトラマンは、明らかにオーブではなかった。しかしカードの絵柄のものとも姿が違った。では何故見たこともないウルトラマンが夢に出てきたのか?

 その理由は全く以て分からなかった。

 

 

 

 翌日。問題の『入らずの森』の入り口の手前で、ガイたちは渋川と合流した。

 

「この森にはUFO以外にも、幽霊が出没するって噂も流れてるんだ」

 

 銛をながめながら切り出した渋川に顔を向ける春香たち。

 

「幽霊?」

「ああ。周辺で聞き込みをしたんだが、何でも昔、近所の中学生が肝試し中に着物を着た女の幽霊を見たんだそうだ」

「UFOとか幽霊とか、色々出る森なんだねー」

 

 亜美がは~、と息を吐いてつぶやいた。

 

「兄ちゃんは幽霊のこと知ってた?」

 

 真美が顔を上げると、ガイが顎に手をやって変に黙っているのに気がついた。

 

「兄ちゃん?」

「……」

 

 ガイのことは置いて、渋川が続けて話す。

 

「まぁとにかく、調査は早い方がいいな。この辺りは、行政の再開発地点に入ってるからな」

 

 その言葉にガイが過敏に反応した。

 

「どういうことですか?」

「もうじき、この森が消えるってことだよ。跡地には高層マンションが建つ予定なんだ」

 

 渋川からの情報に、ガイはやや険しい表情となった。

 

「そういうことなら、早いところ調べてしまいましょう」

 

 律子のひと言で、一行は森の中に立ち入っていこうとする。しかし雪歩は足がすくんでいてなかなか一歩を踏み出せない。

 

「うぅ……」

 

 怖気づいていると、春香が励ましの言葉を掛ける。

 

「大丈夫だよ、雪歩。私たちがついてるんだから! 一人じゃないんだよ」

「そーそー!」

 

 春香の後に亜美真美がうんうんとうなずく。

 

「春香ちゃん、亜美ちゃん真美ちゃん……」

「こういう時こそ元気よく行こうっ! 765プロ、ファイトー!」

「おーっ!」

 

 握り拳を振り上げて森に向かっていく春香たち。三人に励まされて、雪歩も彼女たちの背中についていった。

 そんな雪歩たちの様子をながめて、難しい顔になっていたガイは少しだけ表情をほころばせた。

 

 

 

 『入らずの森』に踏み込んでいった一行の様子を、巧妙に隠されたカメラ越しに監視している者たちがいた。

 

『ふん。まぁた興味本位の人間どもがこの森の中に入ってきやがったか』

 

 映像の中のガイたちを見つめる二人の怪人と、ジャグラスジャグラー。――怪人たちはジャグラーが接触した、地球を狙う宇宙人が結託した組織『惑星侵略連合』の幹部である。ナックル星人ナグスと、メトロン星人タルデ。

 

「ほう……」

 

 ガイの顔を確かめたジャグラーが面白そうに口の端を吊り上げた。

 

「奴らはウルトラマンオーブとその仲間ですよ」

『何ぃ? 奴らがそうか。まさかこの土地に乗り込んできやがるとはなぁ……』

 

 ジャグラーの報告に、ナグスは腰の銃を抜いて撫でる。一方でタルデは人数を数えて言った。

 

『八人か……』

 

 するとナグスが怪訝に振り向く。

 

『八人? 七人じゃないか?』

『少し離れたところに、白い服の女が』

 

 ナグスは思わず腰を浮かせて、モニターに食い入った。

 

『女? そんなものはいねぇぞ?』

 

 

 

 森に入ったガイたちは、霧が立ち込める中を注意深く探索していた。

 

「お前たち、足元気をつけろよ」

「うーん……霧が深くて上手く撮れないよ~」

 

 カメラを持つ真美がぼやいている一方で、律子はストームチェイサーを改造した手持ちのレーダーで森を分析する。

 

「大分地磁気が乱れてるわね。でも100メートル四方にも満たないこの場所だけ、どうして地磁気に異常があるのかしら……」

 

 怪しんでいた律子は、レーダーの画面を見つめてもう一つのことに気がつく。

 

「ん? ちょっと待って。この地下には、人工的な空洞がいくつもあるわ」

「人工的な空洞? そりゃどういうこった」

 

 渋川が聞き返したが、それに律子ではなくガイが発した。

 

「古墳だ……」

「古墳?」

「確かに! この配置、四世紀頃の円墳に酷似してるわ」

「ってことは、この森に古墳が眠ってるってことか?」

 

 渋川の問い返しに肯定する律子。

 

「すっごーい兄ちゃん! 大当たりじゃん!」

「ホントかよぉ? いきなり古墳だなんてさ」

 

 亜美は興奮するが、渋川は半信半疑。それを尻目に、春香はふと気配を感じて首をその方向へ向けた。

 すると――森の真ん中に、白い着物姿の神秘的な女性がたたずんでこちらを見つめているのが見えた。

 

「え……?」

「春香ちゃん、どうしたの?」

 

 春香の妙な様子に雪歩が尋ねると、春香は白い着物の女性を指差す。

 

「それが、あそこに白い服の人が……」

「え?」

 

 だが春香が視線を戻すと、女性の姿が急激に薄れて、最初から誰もいなかったかのように消え失せた。

 

「……消えた……」

「ええ? 俺には何も見えないけど?」

「まさか、ホントに幽霊出ちゃった!?」

 

 真美たちが盛り上がるのをよそに、ガイは訳知り顔で小さくつぶやいた。

 

「やはりあなたでしたか……玉響姫」

 

 

 

 タルデが色めき立つ。

 

『消えた……? どういうことだ!?』

『オイオイオイ! 気味の悪いこと言うなよ!』

 

 ぶるぶる震えて席を立ったナグスが、側に控える部下の黒服二人に命じる。

 

『奴らを空間幻惑装置で、この森に閉じ込めろ! 久しぶりの人間狩りだ』

 

 ジャグラーもまた立ち上がろうとしたが、ナグスに制止された。

 

『テメェは見物してな! 新参の馬の骨に、惑星侵略連合のやり方ってもんを見せてやるぜ』

「……本当に大丈夫ですか?」

 

 挑発するジャグラー。短気なナグスはすぐに煽られて苛立った。

 

『ほざけッ! ここにテメェの席なんか本当はねぇってことを教えてやるからな! 行くぞッ!』

 

 黒服を引き連れて退室していくナグスの背中を、ジャグラーは薄ら笑いを浮かべて見送る。そのジャグラーの様子を、タルデが用心深く観察していた。

 

 

 

 律子の見ていたレーダーの画面が、突然ブラックアウトして動作しなくなった。

 

「あら? どうしたのかしら?」

「どうした? 大丈夫か?」

 

 異常を察した渋川が尋ねかけた。律子はレーダーの調子を確認する。

 

「おかしいわね……。充電が切れるには早すぎるわ……」

「みんなッ!」

 

 途端、ガイが全員に警告を発した。

 

「気をつけろ。どうやら向こうからお出ましのようだ」

「え?」

 

 ガイの言葉の直後に、霧の中から黒服を連れたナグスが銃を構えながら接近してきた!

 

『ハハハハハハ……!』

「ひゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? で、出たぁぁぁ~!!」

「侵略宇宙人かッ!?」

 

 亜美たちが悲鳴を発し、渋川が即座にスーパーガンリボルバーを抜いた。が、ナグスの早撃ちによって弾かれてしまう。

 

『馬鹿め。そんな貧弱な銃で俺に敵うと思うな?』

 

 銃を構えたままにじり寄ってくるナグスたちに対し、皆をかばうように前に出たガイが渋川に告げた。

 

「渋川さんはウチの子たちを森の外までお願いします」

「えッ!? 君はどうすんの!?」

「俺は奴らを食い止めます!」

「お、おいおい! ビートル隊が、民間人を置いていける訳が……!」

 

 慌てて食ってかかる渋川だったが、亜美と真美に腕を掴まれる。

 

「渋川のおっちゃーん! 早くー!」

「765プロ、退避ー!」

「あッ、ちょっとおいッ!」

 

 春香の号令で、ガイを除いた全員がくるりと回れ右して逃走し出した。渋川も引っ張られて連れていかれる。

 後に残ったガイは身構えて、ナグスたちを正面からにらみつけた。

 

「この森で何をやってるかは知らないが、あいつらに手出しすることは許さないぜ」

 

 今にも飛びかかっていきそうなガイだが、ナグスは冷笑を浮かべる。

 

『テメェはメインディッシュだ。他の奴らを狩り終えるまで、この森を延々とウロウロしてな!』

「人の話聞いてたのか!?」

 

 バッと一足飛びでナグスに頭上からキックを仕掛けるガイ。

 だが急に宙がグニャリと歪んだかと思うと、ガイは何もない場所で着地する。

 

「何!?」

 

 慌てて辺りを見回すが、ナグスたちの姿がどこにも見当たらなかった。

 

「しまった、空間歪曲か……! 早いとこ出口を見つけねぇとッ!」

 

 春香たちが危ない。ガイは即座に踵を返して、霧の立ち込める森の中を駆け出した。

 

 

 

「逃げろー!」

「早く早くっ!」

 

 全速力で走って、森からの脱出を図る春香たち。だがしかし、

 

『ハハハハハハ……!』

 

 その行く手にナグスたちが待ち構えていた。

 

「ええっ!? 何でこっちにいるの!?」

「そっくりさん!?」

「反転! 反てーんっ!」

 

 大慌てで来た道を引き返していく六人。が、その先にもナグスたちが回り込んでいた。

 

『ハハハハハハ……!』

「いつの間にー!?」

 

 すぐに方向転換して逃げ続ける春香たちの後ろ姿に、ナグスはせせら笑いを向けた。

 

『馬鹿が。逃げれば逃げるほどテメェらはドツボにはまるのさ』

 

 それからも森の中を必死に逃げ回るものの、行く先々にナグスたちが先回りしている。渋川と春香が絶叫する。

 

「どうなってんだよ!? 逃げても逃げても待ち伏せされてるぞオイ!?」

「それにどうしてどこまで行っても森から出られないのぉ!? 小さな森のはずなのに!」

「空間が歪められてるんだわ! そうか、入った人が二度と帰ってこなかったってこういうこと……!」

 

 律子が発したその時、春香が何かにつまずいてしまった。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「は、春香ちゃん!」

「春香、大丈夫!?」

「いたた……何これ?」

 

 自分の足が引っ掛かったものを見つめる春香。それは地面から突き出た石板だった。表面に刻まれている文字を見た律子が驚く。

 

「これって石碑じゃない!? 玉響比売命……すごい! 大発見よ! やっぱりこの森には古墳が眠ってたのよ!」

「そ、それより……雪歩と亜美と真美は、どこ行っちゃったの?」

 

 春香が辺りを見回して気がついた。名前を挙げた三人の姿がなくなっている!

 

「さっきまでいたよな!?」

「まずいわ! 逃げ回ってる内に空間の歪みで離ればなれにされちゃったんじゃ……!」

 

 泡を食う律子たちだが、そんな彼女たちをナグスたちが追いかけてきた。

 

『ハハハハハハ……!』

「あぁーっ! こっち来たぁーっ!」

「とにかく今は逃げましょう!」

 

 捕まったら命がない。三人はとにかく必死で逃げ続けた。

 

 

 

 律子の読み通り、亜美と真美、雪歩は空間歪曲に巻き込まれ、森の別の場所に飛ばされてしまっていた。

 

「ま、まずいよぉー……みんなとはぐれちゃったよぉ……」

「ふぇ~ん……兄ちゃん、助けてぇ~……」

 

 流石に心細く、二人は怯えながら森の中をあてもなく彷徨う。

 しかしそんな中で、視界の端に仄かな光が差し込んでくるのに気がついた。

 

「あれ……? 何だろ、あの光……?」

「宇宙人じゃないよね……?」

 

 二人がその方向に顔を向けると……光は、ポツンと立っている小さな祠から発せられているものだと気づいた。

 

 

 

 雪歩はまた別の場所で、独りきりで森を彷徨っていた。

 

「み、みんな、どこ行っちゃったの……? 誰か、助けて……」

 

 命を狙われる恐怖に苛まれ、雪歩は己の身体をギュッと抱きしめた――。

 


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