(♪タケダアワーのオープニングテーマ)
ナムコナムコナムコー♪
ナムコナームーコー♪
765プロ
――夜の闇と降り積もった雪に覆われた深い森の真ん中で、光り輝く巨人と、禍々しい光を放つクリスタルを顔面の中央に埋め込んだ黒い怪物が激しく戦い合っていた。
『ゼットォーン……』
『テヤッ! オリャアッ!』
人智を超えた巨躯の生物同士による、超常的な争いを、一人のスラヴ系の少女がじっと見上げている。
『グッ……ウゥッ……!』
少女は固い面持ちで、黒い怪物の前に劣勢に立たされる光る巨人に対して何かを叫ぶ。
『ゼットォーン……』
黒い怪物は顔面のクリスタルから膨大な熱量の光球を生み出し、それを光る巨人に向かって飛ばした。
『オワアァァァァァッ!』
光球の直撃を食らった光る巨人が吹っ飛ばされる。だが被害はそれで留まらなかった。
『きゃああ――――――!!』
戦いを見つめていた少女が、光球の爆発の余波を浴びたのだ。少女の姿が、爆炎の中に呑まれて見えなくなる。
『アッ!?』
それに気がついた光る巨人は、黒い怪物に対して激しい憤怒の眼差しを向けた。
『ドゥウウアッ!』
そして激情のままに光る剣を手にして、頭上に円を描く。剣の軌道が光の線となって残り、そして剣自体に集中し、
『デヤァァァァァァッ! ドゥアアアアアアアアアッ!!』
黒い怪物に向けられた剣から、光線が荒れ狂う暴風のようにほとばしった。
光線が黒い怪物に直撃し、光る巨人はそのまま剣から光線を発し続けたが――剣自体がその手の内より抜け出て、黒い怪物に突き刺さった。
黒い怪物は剣ごと爆発。その規模は尋常ではなく、周囲の広大な森を丸ごと呑み込んでいく。
――一瞬にして焼け野原に変わった森の中で、光るリングを片手にした男がよろよろと起き上がった。男が降ってきた一つの光の塊にリングをかざすと、光はそのリングの間を通って、赤と銀の超人が描かれたカードに変化した。
男は超人のカードを腰に提げているホルダーの中に収め、必死に辺りに目を走らせる。
しかし、視界をさえぎるようなものがほとんどなくなったにも関わらず、先ほど戦いを見つめていた少女の姿は――どこにもなかった。
『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
その事実を理解した男は、焼け焦げた森と暗い夜の空に慟哭を轟かせた――。
――ここは東京都大田区矢口2丁目1番765号に建つ雑居ビルに居を構えた、芸能プロダクション『765プロ』の事務所。
「――さんっ! プロデューサーさん……!」
デスクに座ったままうたた寝をしている男を、甲高い声が呼ぶ。
「起きて下さいっ! 紅ガイプロデューサー!!」
ひと際大きな声で呼ばれ、「紅ガイプロデューサー」と呼ばれた男が目を開き、声の主に振り返った。
「……春香か。どうした?」
「どうしたじゃないですよっ!」
紅ガイが呼び返すと、春香という少女は声を荒げた。首を振る度に、頭の左右の髪を結った赤いリボンがピコピコ揺れる。
「ボードに書かれてる、今日の予定っ! また私が『アンバランスQ』の司会進行役をやらなくちゃいけないんですか!?」
春香が指差した先にあるのは、月間予定表になっているホワイトボード。その今日の日付の欄に、「春香 アンバランスQ司会進行」と書いてあった。
ガイは当たり前とばかりに答える。
「ああ。嫌なのか?」
「嫌ですよ! だって何だか私ばっかりがやらされてません!? この際だから言わせてもらいますけど、私、アイドルやるためにここに来たんです! UMAだとか怪奇現象だとか、そんな胡散臭いものを追いかけるためじゃないんですよっ!」
「そうは言っても、お前のリアクションが一番面白いと視聴者からは好評だからな」
「だから、私はアイドルです! リアクション芸人みたいな扱いしないで下さいっ!」
ムキー! と吠える春香。相当フラストレーションがたまっている様子だ。
そんな彼女の名は天海春香。この芸能事務所765プロが自信を以て売り出しているアイドルの一人だ。……と言ってもまだまだ駆け出しの新人アイドルなのだが。
そして『アンバランスQ』とは、765プロが手掛けているウェブテレビのチャンネルであり、この世の様々なミステリーに765プロのアイドルが突撃取材するという趣旨の番組なのだが、東海道に出没する原始哺乳類だとか伊豆半島の大猿とか地球に贈られてきた火星ナメクジだとかのガセネタばかりを追いかけさせられて結果的に視聴者の笑いものになるというのが実質的な内容であり、しかも視聴数が稼げているとは言えないありさまなので、当のアイドルたちからの評判は良くないのである。
「とにかく、私ばかりがこんな仕事やらされるのは嫌です! 真、代わってよ」
春香が後ろにいる少年……いや、ボーイッシュな少女に頼んだが、彼女もしかめ面になった。
「えぇ? ボクだって嫌だよ。ボクももっとこう、かわいくてしゃんしゃんぷりぷりー☆ ってしたお仕事がしたいのに」
菊地真。男よりも美少年と言われることも多いが、当人はかわいい女の子に憧れている、難儀な娘である。
「あふぅ……相変わらず真君の言うかわいさはズレてるの……」
ソファの上でごろ寝している金髪の少女がボソリとつぶやいた。
星井美希。ビジュアルも良くあらゆることをセンス一つでこなせて教えられたことの吸収力も高いという天才児だが、やる気に欠けるのが難点。お昼寝が趣味と公言するほどしょっちゅう寝ている。
「亜美たちはアンQのお仕事も嫌いじゃないけどねー。面白いし!」
「でも普通のアイドルっぽいこともやりたいよねー」
顔が瓜二つの、髪を結っている位置が違うくらいしか見比べるところのない少女二人が顔を見合わせて言った。
双海亜美と双海真美。双子のアイドルでどちらも面白いもの好き。悪戯をしては誰かに叱られるのがほぼ日課になっている。
「うぎゃー! ハム蔵、どこ行ったー!? 出てきてくれー!」
その後ろでは大きなポニーテールを後頭部に垂らした、焼けた肌の少女が涙ながらに叫んでいた。
我那覇響。アイドルになるために上京してきた沖縄っ子。動物が大好きで多数の動物を飼っているが……。
「もうご飯勝手に食べないからー! 許してくれー!」
「響、またペットの餌食べちゃったの? 仕方ないわねぇ」
ウサギのぬいぐるみを抱えた少女が呆れて肩をすくめていた。
水瀬伊織。水瀬財閥の長女である生粋のお嬢様だが、自力で何事かを成し得るために765プロにやってきた。カメラの前ではかわい子ぶっているが、実際はかなり気の強い性格。
「ハム蔵ー! どこ行ったんだー!」
事務所内をウロウロ探し回る響を呆然とながめるガイ。
「全く、響の奴は毎度騒がしいな……。雪歩もそう思わないか?」
「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」
呼びかけながらショートボブカットの少女に手を伸ばしたガイだが、その子はビクッ! と怯えて後ずさった。
萩原雪歩。極度に男性が苦手で、それを解消するべくアイドルを志望したのだが、まだまだ改善の兆しは見えていないようだ。
後ずさった雪歩の背中が、ツーテールでカエルのがま口を首から提げている少女にぶつかった。
「わわっ! 雪歩さん、大丈夫ですか? プロデューサー、雪歩さんを驚かせちゃダメですよ」
高槻やよい。家が貧乏で、家計を支えるためにアイドルを志望した、出来た娘。最年少は亜美と真美だが、二人は色々ませているのでやよいが一番幼く見える。
「悪い悪い……。雪歩も相変わらずだな」
「プロデューサーさん、こっちの話に集中して下さい! 今日という今日こそは、断固としてお断りしますからねっ!」
むすーっ、と頬を膨らませ、腕を組んで拒絶の意思を示した春香にガイは参ったように頭をかいた。
「しょうがないな……。じゃあ千早、代わりにやってくれよ」
「私も嫌です……。それより、歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか? また今度って先延ばしにしてばかりじゃないですか」
ロングヘアの少女がガイに冷めた視線を向けた。その胸は平坦だった。
如月千早。765プロアイドルの中でも抜群の歌唱力を持っており、ファンからは“765プロの歌姫”と称される……予定。
「うッ、それはだな……」
「あらあら。みんなから色々注文されて、プロデューサーさん大変そうですねぇ」
千早ににらまれて言葉を詰まらせているガイの様子に、ショートヘアの妙齢の女性が苦笑いした。その胸は豊満であった。
三浦あずさ。765プロアイドル最年長で、恋愛願望が強く、「運命の人に見つけてもらう」ために765プロに入社した。
「それもプロデューサーの奮励が足りない故です。精進なさって下さいませ」
銀髪の、ある意味ではあずさよりも大人びている少女がガイに手厳しい意見を寄せた。
四条貴音。ファンは愚か、765プロの仲間たちまでも彼女のことを多くは知らない、謎に包まれたアイドルである。
「ハッハッハッ、みんな楽しそうだね」
ガイが春香と千早に詰め寄られてタジタジになっているところに、恰幅の良い中年男性がやってきた。この765プロの代表取締役、高木である。
春香は高木に抗議した。
「楽しくなんかないですよ、社長! そもそも、どうして視聴率が低いオカルト番組をわざわざ撮り続けなくちゃいけないんですか!? 確か企画したの、社長ですよね!」
高木はその問いかけの返答に言いよどむ。
「えッ、あー、それはだね……何と言うか……今は伸び悩んでいても、いずれ人気番組に成長する! と私の勘が告げているからであって……」
「ほんとですか~?」
春香は極めて疑わしそうだ。他のアイドルたちもそうだった。
「社長の勘が鋭いのは知ってますけど、こればかりは外れだと思いますよ。どうせやるなら、もっとアイドルがやるような番組にしましょうよ」
「いやぁ、しかしだね……」
高木が渋っていると、ガイが話に割り込んだ。
「何はともあれ、吉立市で百メートルを越えるマンモスフラワーを捜索するってのは前回の予告で出しちまったんだ。こっちの事情で勝手に打ち切りになんてしたら、信用に関わる。その撮影だけはどうしてもやってもらうぞ」
「プロデューサーさん、残念ですが少なくとも今日撮影するのは無理そうですよ」
そこに765プロ唯一の事務員、音無小鳥がタブレットPCを手に告げた。
「どうしてですか? 音無さん」
「見て下さい、今しがた入ったニュースです」
小鳥が見せたタブレットの画面に、ガイとアイドルたちが注目する。
画面には、東京吉立市上空で竜巻群が発生したというニュースが表示されていた。滅茶苦茶に崩壊したビル街の航空写真も添付されている。
「すごい被害です……。たくさんの人が怪我しちゃったんだろうな……」
人一倍心優しいやよいが、この惨状に胸を痛めた。
一方で伊織がつぶやく。
「こんなことが起きちゃったら、超常現象だのUMAだの言ってらんないわね」
「それがそうでもないのよ」
後頭部の左右から三つ編みのおさげを生やした、眼鏡の少女が口を挟んだ。
秋月律子。765プロきっての才女アイドルである。彼女が持っているタブレットには、大手掲示板のスレッドが表示されており、その中に竜巻群の写真が載せられている。
「ほら見て、この写真の片隅。竜巻に混じって、鳥みたいな影が写ってるでしょ?」
「あっ、ほんとだ」
「ネットの一部では翼を持ったUMAと騒がれてるわ。今ホットな話題のこれ、取り上げない手はないわよ!」
張り切る律子に対して、伊織は肩をすくめる。
「そんなのどうせコラ画像なんじゃないの? よくあるじゃない」
「いいえ。それを抜きにしても、竜巻群は晴天にも関わらず突然発生して瞬く間に消滅してることが調べて分かったわ。普通の自然現象ではありえないことよ。少なくとも、調べる価値はあるわ!」
「律子さん、何でそんなに張り切ってるんですか?」
春香が尋ねると、律子は自信満々に返答した。
「私の作った765ガジェット第一号、CD販売数予測プログラムを改良した視聴率予測プログラムが、これを取り上げたらアンバランスQの視聴率が一気に三倍に跳ね上がると答えたのよ!」
「何だ、律子のみょうちきりんな発明品が根拠なの。そんなのアテになるの?」
疑わしそうな伊織に律子は言い切る。
「小学校時代にカオス理論の高次元定理を発見したこの秋月律子の頭脳を信じなさい! そういうことだから、プロデューサー、番組内容を変更してこのUMAの突撃調査をしましょう!」
律子が提案するが、ガイはいやに険しい表情で鳥の影を捉えた写真をにらんでいた。
「……プロデューサーさん?」
ガイの不審な様子に、春香たちは不思議そうな顔になった。彼女たちの視線に気がついたガイは、気を取り直して律子に答える。
「ああ、律子の言う通りだな。早速出掛けよう。春香、美希、行くぞ」
「やっぱり私が行くことになるんですかー!?」
「ええー!? どうしてミキもなのー!?」
「ほらほら早く準備しなさい! 美希も、ぐうたら寝てないで働きなさい!」
嫌がる春香と美希だったが、律子に引っ張られて有無を言わさず準備をさせられた。
……その一方で、高木がガイに、アイドルたちから離れて彼女らに聞こえないように囁きかけた。
「ガイ君……よもや、『その時』が来たというのかね?」
ガイは重々しくうなずく。
「ええ、社長……まず間違いないです」
「そうか……。出来ることなら、来てほしくはなかったのだが、仕方ないか……。すまないが、この地球のこと……どうかよろしく頼んだよ」
高木に何かを託されたガイだが、迷いの目でアイドルたちを一瞥した。
「……まだ躊躇いがあるのかね?」
「……」
「まぁ、無理もないことだ。しかし、この事務所は『そのため』のものだ。いざという時は、遠慮なく力を借りたまえ。皆いい子だ。必ず、君の気持ちに応えてくれるとも」
と高木は告げたが、ガイの視線からは迷いの色が払拭されていなかった。
「ハム蔵ー! こんなところにいたのかー!」
ただ一人、響だけは相変わらずペットのハムスターを探し続けていた。
ガイと春香、美希、律子の四人を乗せた765プロ専用マイクロバスは、都内を走る河ののどかな河辺に来ていた。
「律子」
「さん」
「……さん、ほんとにこんなところに竜巻が発生するの? っていうか、どうしてそんなことが先に分かるの?」
美希の疑問に、律子はごてごてとしたアンテナのようなものを見せながら答えた。
「こんなこともあろうかと作っておいた気象追跡マシン、名づけてストームチェイサー! これでどんな竜巻も事前にキャッチできるって訳」
「そんなガラクタの寄せ集めを信じていいのぉ?」
「何よその目は。科学の力を信用しなさい!」
「それはいいんだけど」
春香が、離れたところでじっと空を見つめているガイに目を送りながら口を開いた。
「プロデューサーさん、どうしたんだろう。さっきから妙に口数が少ないけど……」
「あふぅ。あの人の考えてることってよく分からないの」
美希があくびをしていると、彼女たちの元に『VTL』という刺繍が施された制服を纏った男性が駆け寄ってきた。
「ヘイヘイヘイヘイお前たち! またこんなところで、変な撮影してんのか?」
「あっ、渋川のおじさんなの」
「叔父さん……!」
春香に叔父と言われた渋川という男性は、三人をジロジロと見回す。
「こないだの停電も、お前たちの事務所の仕業じゃないのか?」
「違います、失礼なこと言わないで下さい!」
律子が渋川に噛みつく。
「ビートル隊の仕事が遅いから、私たちが割を食ってるんですよ。そのくせ機密機密で隠しごとばっかり! ほんとに働いてるんですか?」
「何だとぅ!? 聞き捨てならねぇな。姪っ子の春香ちゃんがいるから大目に見てやってるけどなぁ、それも限度ってのが……」
「春香の叔父ってのは関係ないでしょ!」
律子と口論になっている渋川が、ガイの方を向く。
「そこのプロデューサー君も、しっかりしてくれないと困るよ……」
だが話している途中で、どこからか不気味な鳴き声のような音が彼らの耳に入った。
「プォォォ――――――……」
「……? 今の音何?」
「風の音じゃないの?」
春香と美希が顔を向き合わせていると、ガイが振り返って告げた。
「みんな、ここから離れろ。悪魔の風が来る……!」
「へ? 悪魔の風?」
春香たちが呆気にとられている間に、ガイはいきなりどこかへと走り去っていく。
「プロデューサーさん!? どこ行くんですかー!?」
「ここから離れるんなら、ミキたち何しに来たのー!?」
ガイを呼び止めようとした春香たちだが、その時に律子の手にしているストームチェイサーがけたたましい電子音をかき鳴らした。
「920ヘクトパスカル!? あり得ないわっ!」
「律子さん、どうしたの!?」
「低気圧が猛烈な勢いで発達してるの! ここから三百メートル……複数の竜巻が発生……! 風速、百五十メートルっ!」
春香たちが見上げた先の空で急激に黒雲が渦巻き、複数の竜巻が街の真ん中に伸びてきた!
「ひゃああっ!?」
「大スクープよぉ! 二人とも、すぐに車にっ!」
律子が春香と美希を引っ張るようにしてバスに走っていった。
「おいお前たち!? 危ないぞ――!」
三人を止めようとした渋川だが、ちょうどその時に飛んできた新聞紙が顔に被さった。
「おわッ何だこりゃ!? 前が見えないッ!」
渋川がもたついている間に、律子たちはバスの車内に乗り込んだ。律子が運転席に着いて、美希にハンディカメラを渡す。
「美希、撮って!」
「ミキが撮影するの!?」
「私は運転するでしょうが!」
「律子さん、危なくないですか!? プロデューサーさんは離れろって……!」
「大丈夫よ! この765トータス号を信じなさい! それじゃ発進っ!」
三人を乗せたバスが、街を荒らす竜巻群に向けて走り出す!
いくつもの竜巻に襲われて、阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込まれている街の中を走るマイクロバス。その鼻先すれすれを風に流される看板が横切っていった。
「危ないっ! 律子、ちゃんと運転してよっ!」
「さんをつけなさい! それより美希もちゃんと撮ってるの!?」
「うぇぇぇーんっ! やっぱり逃げましょうよぉ~!」
「ここまで来て泣き言言わないっ! さぁて、お目当てのUMAはどこに……!」
きゃんきゃんと喚き立てる律子たち。――するといきなりフロントガラスに、ガイが逆さに張りついた。
「お前らぁッ! 離れろって言っただろ!」
思い切り面食らう春香たち。
「プロデューサーさん!? あなたこそ何やってるんですか!?」
ガイはバスの屋根の上に乗って、春香たちを覗き込んでいるのだ。
「いつの間に……きゃあっ!?」
律子の気がそれた一瞬の間に、バスは竜巻に持ち上げられて空中に浮き上がった! そのままどんどんと上昇していく。
「きゃああああああ――――――――――――っ!? さ、流石にこれはやばいんじゃないですかぁぁぁ――――――――!?」
「律子の馬鹿ぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!」
「さんをつけなさいっ! ってそれどころじゃないわぁぁ――――――――っ!!」
パニックに陥る春香たちの前を、突如巨大な青い生物が横切った。
「ミィィィィ――――!」
「な、何あれ!?」
「目的のUMA!?」
「鳥……!?」
ギョッと言葉を失う春香たちの一方で、ガイが異常に巨大な鳥をにらんで言い放った。
「風ノ魔王獣、マガバッサーか!」
「ま、マガバッサー!?」
ガイはバスの屋根を蹴って、竜巻の中に姿を消した。
美希は巨鳥の姿をよく撮ろうと窓からカメラを持つ手を外に伸ばしたが、突風によってカメラが吹き飛ばされてあっという間に見えなくなった。
「あぁっ! カメラ落としちゃったの!」
「なら私のケータイで……!」
春香は咄嗟の判断で自分のスマホを取り出し、撮影モードにした。
巨鳥が再び彼女たちの前に姿を現す。――今度は光に包まれた、半透明の巨人がその首にしがみついていた。
「何あれぇぇぇぇっ!?」
「き、巨人!?」
「すごすぎるわ! 大発見よぉぉっ!」
次から次への現実離れした出来事に大興奮の三人。春香は、半透明の巨人が巨鳥と争い合っているように見えた。
「戦ってる……!?」
「でも二人とも、撮影はここまでみたい……!」
「えっどうしてなの!?」
「そろそろ竜巻の頂上よ! つまり……」
マイクロバスは竜巻から弾き出され――地表へ向けて真っ逆さまに転落していく。
「落ちるぅぅぅぅぅぅぅ―――――――――――――――――――!!!」
もう駄目だと目を固くつむる春香たち。
そのため、バスの車体を光る手が受け止めたところは誰も見ていなかった。
「……あれ?」
春香が恐る恐る目を開けると、バスは何事もなかったかのように道路の上に停まっていることに気がついた。
「な、何がどうなったの……?」
「ミキたち、生きてるの? ここは天国じゃないの……?」
「科学的に言えば、あの世なんてものは存在しないわ……」
春香たちは生きていた。しかし先ほどの出来事が夢ではないことは、至るところから黒煙が立ち上る街の様子が物語っていた。
「取り逃がした……」
マイクロバスの真後ろから、ガイがひょっこりと姿を出した。――彼は左手に握り締めたリングに目を落として、悔しげに舌打ちした。
「やはり、俺だけの力じゃ、『完全』には無理か……」