マックス達は職員へのプレゼントを配り終えたので、サーヴァントへのプレゼントを補充する為に一度集まった。
「見つかったサンタはどれくらい位いる?」
マックスが集まった隊員達に聞くと、10人ぐらいのサンタが手を挙げた。
「多いいな...まったく、スニーキングミッションだったというのに。」
マックスはやれやれと言わんばかりに頭を振った。見つかったサンタの大半はオルガマリーのトラップのせいなのだが。マックスは
「ここまでは準備運動みたいなものだ。これからの配達は命に関わる。すでに脱落者が出ているが、気を締めていけ。」
そう言いながら周囲をみたが、隊員達はつけ髭に暗視ゴーグルなので誰が誰だか分からなかったが雰囲気は伝わったようなので満足した。マックスは本部にこれからの作戦を確認するように促した。
『隊長からあったようにこれからサーヴァントの生活区域に侵入しプレゼントを配る。先ほどプレゼントと共に受け取った装置の確認をしろ。』
隊員達は先ほど受け取り腰と腕に付けた2つの装置を確かめ始めた。
『配った装置は気配遮断装置と探知装置だ。特に気配遮断装置は壊れたら全ての隊員に危険が及ぶことになる。しっかりと確かめろ。』
本部は全隊員からのチェック完了の合図を受け取ると機械の説明を始めた。
『気配遮断装置は言うまでもなく、気配を遮断する装置だ。あまり過信はするな。探知装置だがこれは最高の一品だ。』
本部員の声からもその凄さが伝わってきた。
『周知の通り、カルデアに召喚されたサーヴァント達は電気を魔力に変換することで現界している。探知装置は、それを逆手に取りサーヴァント達の探知に成功した。サーヴァントが就寝している時、サーヴァントの魔力消費量は減る。つまり電気の消費量も減るのだ!この装置は電気の消費量を探知しサーヴァントが起きているかどうかを探知する機械だ!この機械は議論に議論を重ね、最後に技術開発部部長のダヴィンチ殿に協力していただいたことで実現された機械だ!』
隊員達は目から鱗の装置に色めきたった。怪物に対して知力で対抗するという人間ならではの案だった。先ほどのように部屋に入ったら実は起きてましたといった自体を防げるのだ。起きていたら、問答無用でミンチにされかねない。
『そうはしゃぐな。この装置はそれだけじゃないぞ。先ほどハッキングした際に、サーヴァント個人の消費電力のデータを入手した。このデータとレンズ・シバからの映像でどこにどのサーヴァントがいるのかも探知できる優れものだ。』
機械によりサーヴァントとばったり遭遇する可能性はほぼゼロになった隊員達はこれからの配達の成功に確信し、やる気に満ち溢れていた。
しかし、彼らは重要なことを忘れていた。それは、サーヴァントの中には、電気を操れる英雄がいることだ。また、気配遮断装置や探知装置などの小細工を完全に無視し、一瞬のうちに遠征隊を全滅させることができる大英雄の存在をすっかり忘れていた。
「それでは、諸君!行くぞ!」
プレゼントの入ったコンテナを背負いマックス達は意気揚々と配達に向かっていった。
サーヴァントの生活区域に近づくと早速、探知装置に反応が出た。隊員達は壁にぴったりとくっつき様子をうかがった。通路に先には真っ黒い影があった。よく見ると隊員と似たような格好をしていた。
「くそっ!あれはアルトリア・ペンドラゴン・オルタサンタか!」
通路の先にはオルタサンタが待ち構えていた。
「遠征隊いるんだろう。姿は見えずともわかるぞ。このオルタサンタを出し抜きサンタをしようなぞ、千年早い。」
オルタサンタは剣を抜きサーヴァントの生活区域に行くための通路のど真ん中で立っていた。
「貴様らには、罰を受けてもらわなばならない。プレゼントを配り行ったらすでに、プレゼントが置かれていた私の気持ちがわかるか?」
オルタサンタは遠征隊とすれ違いで職員にプレゼントを配りに行ったのだが、職員の枕元にプレゼントがすでに置かれていて、オルタサンタのサンタとしての誇りを大きく傷つけたのであった。
「ちょうど私の服は黒い。貴様らにはブラックサンタとして対応してやろう。」
そう言うとオルタサンタは手に持っていた袋を振り回した。袋からは石のようなものがぶつかる音がした。ブラックサンタは悪い子に石炭を配るにだが、ここにいるブラックサンタは石炭の入った袋で悪い子をブン殴ろうとしているのだ。
「やばいぞあれは、殺す気満々だよ。俺ら生き返れるけど絶対痛い。死ぬほど痛い。」
「あんなのくらったら壊されて、蘇生不可能になるよ。」
探知装置のおかげで死は遠ざかったと思っていた隊員達は思わぬ殺害予告に恐怖のどん底に陥った。
「落ち着け。慌てるな。あれを見ろ。」
マックスが指差した先には通気口があった。
「俺らはサンタだ。撤退はない。ちょうどいい感じの煙突もあるしあそこから行くぞ。」
マックスは通気口の蓋を外すとダクトの中に潜っていった。隊員達もそれに従い入っていった。
サンタオルタはしばらく様子を伺い、ニヤリと笑った。
「上手く誘導に乗ったな。偽のサンタ共め一網打尽にしてやる。」
オルタサンタは通気口に大きな箱を置くと踵を返して、クリスマスメロディを歌いながらサーヴァントの生活区域に戻っていった。
遠征隊は探査装置を駆使し酔っ払って廊下をふらふらしているサーヴァント達を上手くよけながら、配達をした。途中、回避が間に合わずサーヴァントと接触してしまったが、サーヴァントは
「私はサンタムだ。同志に危害は加えん!」
と言うとどこかに行ってしまった。夜遅くまでやっていたクリスマスパーティーのおかげでほとんどのサーヴァントは就寝しており大きな問題は発生しなかった。問題があるとすれば、服を脱ぎ同じ部屋で就寝していたアルトリア顔達にプレゼントを配ろうとした際に誰が誰だか分から無かったことだ。困った隊員達はプレゼントにメッセージカードをつけて、机の上にまとめて置いておくということでこの問題を解決した。
ほぼすべてのプレゼントが配り終わり、隊員達が一時通路に集合していると通路の向こうからオルタサンタが現れた。
「オルタサンタだ!い...いつの間に!」
突然現れたオルタサンタに隊員達は動揺した。探知装置のは一切の反応がなかったのだ。
「魔力により、サーヴァントを避けていると思っていたが、違うようだな。それでは、起きているサーヴァントを見分けて配っていることに説明がつかん。貴様らはサーヴァントが使っている電気で判断しているのだろう?ん?あっているか?」
オルタサンタの元となっているのは、アーサー王である。オルタサンタになったからといって、王として民のために使っていた知性がなくなったわけではない。隊員達の行動を観察し、隊員達がしていた小細工を見破ったのだ。
「その通りだ。オルタサンタ殿。本官達は質問に答えたのだ。こちらも質問してもいいか?」
隊員達を庇うように前に出たマックスはオルタサンタに質問した。
「偽物達を一網打尽にできて今気分が良い。質問してもいいぞ。」
「感謝する。オルタサンタ殿は探査装置に引っかからなかった。改善するためにもその理由が知りたい。」
「貴様らがその機械を使うことは2度とないだろうが教えてやる。」
そう言うとオルタサンタは後ろを指差した。すると通路の陰から
「ごきげんよう遠征隊の諸君。ニコラ・テスラ。見参である。」
ニコラ・テスラがパジャマ姿で現れた。
「なるほど。カルデアからの電力を受け取ると探知されるから、テスラ殿から電力を受け取りカルデアからの電力を最小限にして、探知から逃れたのだな。」
「その通りだ。私も貴様らのように少々頭を使ってみた。」
オルタサンタは先ほどのように遠征隊をあざ笑うようにニヤリと笑った。火花散るオルタサンタと遠征隊をよそにテスラは目をこすりながら
「英霊としての私は、雷電そのもの。故に今回雷電を使いすぎたので、眠いぞ。雷電は消えはしないが消耗する。先に失礼する。」
テスラはそう言うと自室に戻っていった。にらみ合いが続く中、マックスは手に持っていたコンテナを投げつけた。
「今だ!走れ!」
マックスはオルタサンタに背を向け走り出した。彼らには気配遮断装置があるのだ一度見失わせれば、闇に紛れ逃げることができるのだ。
「よんでいたぞ...そんなことは!」
「な...何!」
振り返ると槍を持ち白いサンタ服を着た少女がいた。少女は遠征隊に持っている大きな槍を向けると
「メリークリスマス!遠征隊のサンタさん、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ・ランサー・サンタ、先代サンタの命に応じ参上しました!」
と名乗りを上げた。彼女は最近、仲間になったばかりにサーヴァントで、遠征隊も彼女が本物のサンタになる手伝いをしたのでよく知っていた。
「サンタに危害を加えるとは、お説教ものなんですよ先代サンタさん。」
「奴らは偽物だ。煮ようが焼こうが問題はない。」
「なるほど!論理的ですね!真のサンタ道を見せてあげましょう!」
暗視ゴーグルをつけて金属のコンテナを背負った赤いサンタをミニスカの黒サンタと背伸びして大人ぶる白い子サンタが、はさみ込むという混沌とした状況が出来上がった。
「こうなったら仕方ない。」
マックスはコンテナの中に隠していたブロードソードを引き抜くと構えた。隊員達も習うようにブロードソードを構えた。
「得意の銃は使わないのか?」
哀れなものを見るような目でオルタサンタは遠征隊を見た。
「クラッカーを鳴らすとパーティーが始まったと思う奴が出そうだからな。」
マックスはそう返すとオルタサンタに突撃を開始した。遠征隊の隊員達がもマックスの後追いオルタサンタに突撃していった。
「全員私に向かってくるのか。」
「子どもを襲うほど落ちぶれていない!」
「サンタは永遠なのです!姿が変わらなくてもしょうがないのです!姿は小さくてもしっかりした大人です!」
後ろから何か聞こえるがオルタサンタに集中した彼らには届かなかった。マックスは態勢を低くすると正面から突き刺すように、左右の隊員は首と腹を狙い斬り払う、マックスを踏み台に飛び上がった隊員は剣を逆手に持ち串刺しを狙った。四方向からの同時攻撃。
しかし、そんな小細工はサーヴァントには通じない。オルタサンタは回転するように剣を振るうと左右の隊員を真っ二つにし、回転の勢いを袋に乗せると飛び上がった隊員とマックスを叩き潰した。
「貴様らは胸元以外ならどんなに攻撃しても生き返るのだろう。なら容赦はいらないな。」
剣に付いた血を振り払うと残りの隊員に向かってオルタサンタは歩き出した。先ほどの同時攻撃は遠征隊のトップ4による攻撃なのだ。それを簡単に振り払ったオルタサンタに隊員達は下がるしかなかった。
「私を忘れてもらっては困ります。」
オルタサンタが一歩進むと、同じように一歩下がっていった隊員の背後からジャンヌサンタの声が聞こえた。前にも後ろにも退がれなくなった隊員は互いに背を合わせるにかなかった。
オルタサンタは、どうやってケジメをつけさせるか考えていると
「隙を見せたな!アホが!」
死んだふりをしていたマックスはオルタサンタに後ろから組み付いた。オルタサンタは目の前の獲物達に集中し背後への警戒を怠ったのだ。
マックスは死んだ隊員から気配遮断装置を剥ぎ取るとサンタ服を脱ぎ、機械を包み金属の当たることで起こる音を防ぐと自分に括り付けた。複数の気配遮断装置によって、オルタサンタにくみつくことに成功したのだ。
「今だいけ!」
それを聞いた隊員達は弾かれたように走り出した。隊員達はオルタサンタの横を通り抜けて行った。
「待ちなさい!...あいたっ!」
ジャンヌサンタも走り出したが、オルタサンタの横を通り抜ける際にマックスに横から蹴りを入れら、壁に叩きつけられたのだ。
「貴様!子どもに手を出さないのではなかったのか!」
柔道の組み付きをされたオルタサンタは、力を入れれば入れるほど締まり抜け出せなかった。
「部下のためだ!鬼にもなる!」
オルタサンタはさらに力を入れることでマックスの両腕をへし折り抜け出した。
「両腕を骨折、背骨と肋にはヒビか?」
地面に倒れボロボロになったマックスをオルタサンタは見下ろし観察した。ジャンヌサンタも蹴りを入れられたことに不満なのかふくれっ面でやってきた。
「貴様のせいでほとんどのやつを逃してしまったぞ。偽サンタは現行犯でしか捕まえられないのだよ。」
「いくらお世話になった隊長さんとはいえ、サンタに危害を加えたので、説教です。」
マックスは目をつぶり覚悟を決めたかのように見えた。
「好きにするがいい......だが、今回は私の勝ちだ!」
「なに?...まさか!」
オルタサンタは不審に思ったが、すぐにマックスが勝った理由がわかった。壁にかかった時計は既に6時を回っていたのだ。朝になり、夢の時間は終わり、サンタは帰らなければならないのだ。
「なるほどな...あのにらみ合いも、組み付きも時間稼ぎか...そしてサンタ服を脱いだことで、サンタを止め、サンタの持つタイムリミットから逃れたのか。」
オルタサンタはマックスを睨みつけるとジャンヌサンタを担ぎあげて去って行った。
(今回はタイムリミットがあったから勝った...いや引き分けられたか。次は死ぬことになる。まだまだ、鍛える必要がありそうだ。)
マックスはそのまま気絶した。ダクトを通ろうとしてオルタサンタのトラップに引っかかり、若干時間がかかったが基地に帰った隊員達は装備を整えると急いでマックスを迎えに行った。
マックスのところに到着すると予想していた展開が待っていた。
「なんていう怪我ですか!すぐに治療が必要です!」
マックスを部屋に引きずり込もうとしていたナイチンゲールがいた。隊員達は自分たちを身を挺して助けてくれた隊長を取り戻すために戦闘を仕掛けた。
サーヴァント生活区域で、朝から盛大に戦闘することになった。戦闘はクラッカーと勘違いした酔ったままのサーヴァント達がパーティーと勘違いし大乱闘になった。騒ぎを聞きつけた立香に怒られるまでこの騒ぎは続いていた。
その後の荒れ果てたカルデアの片付けは、年末の大掃除になり、サーヴァントと全職員、全隊員が参加してカルデアを新品同様にピカピカにした。
マックスは両腕を折られているので、大掃除への参加は認められず端っこで大人しくしていた。しかし、マックスの横には立香とオルガマリーがいて酔っ払って階段から落ちたことになっているマックスを叱りつけていた。
その後、ホールにカルデアにいるサーヴァント、人類、動物は集まり聖人の誕生日を祝った。
前編と後編に分けたのにかなり長くなちゃいました。初めての戦闘回で楽しくなちゃって、書きすぎました。