閑話:サンタ大作戦 前編
12月24日深夜
これは、誰もが知る魔法の時間である。子供達は次の日の朝を楽しみに待ちながら眠り、大人達は純粋な子供達とは違い酒や恋人に酔っている時間だ。
そんな幻想的な時間にも関わらず、カルデアの廊下は物騒な雰囲気に包まれていた。廊下には真っ赤な服を着て、顔にはつけ髭と暗視ゴーグルをつけた遠征隊の隊員が並んでいた。
「これから、任務を始める。」
マックスは今までになく真剣な面持ちで話しを始めた。マックス本人も他の隊員と同じような格好をしていた。実に間抜けな様子である。
「これから、カルデアの全職員及び全サーヴァントにプレゼントを配る。これは、スニーキングミッションである。特にサーヴァントに見つかったら、命はないと思え。」
サンタさんはプレゼントを枕元に置いていく。つまり、サンタさんは一度部屋に侵入しなければならない。サーヴァントは基本的にその武により名を上げたものが多い。そんな、サーヴァントに侵入しているのが見つかれば、問答無用でミンチにされるだろう。
隊員達がプレゼントの納められたコンテナを確認していると
『こちら基地本部。レンズ・シバ制御装置へのハッキングに成功した。カルデア本館の廊下の様子は丸見えだ。誰にも出会わないように道を指示する。』
と隊員達の耳につけている無線に連絡が入った。基地に残っていた隊員達は、サンタ作戦がばれないようにする為に、カルデアを監視しているレンズ・シバにわざわざハッキングをしたのだ。ちなみに基地に残っていた隊員達は、サンタを助けるトナカイの格好をしていた。
彼らはもともとイギリスにいたのだ。イギリス海軍のホームページを見て貰えばわかるのが、イギリス人達はクリスマスに関しては手を抜かないのだ。
「作戦を開始する。」
マックスがそう言うと、プレセントを背負った隊員達は、静かにカルデアの各所に散っていった。
立香の場合
『改めて言うが、シバでは部屋の内部は見えない。十分に注意しろ。』
マックスが立香の扉の前に着くと、本部から注意された。ここでマスターのプライバシーを守る為の設定がサンタ作戦の行く手を阻んだ。
マックスは少し考えた後、何の警戒もなく扉を開けた。
『ちょっと!?何やってんですか隊長!ばれますよ!』
マックスの奇行に基地本部は一時騒然としたが
「よく考えろ。あの立香が起きていると思うか?。」
マックスは立香の性格をよく知っているので、サンタを待っているうちにうっかり寝てしまっている立香を簡単に想像できた。
『あ〜そうですね。マスター殿ならぐっすりでしょうね。』
本部の隊員も想像できたようで納得した。実際に中に入ると立香はぐっすり寝ていて、その枕元には、牛乳とクッキーが置かれていた。
『隊長それはもしや...手作りクッキーではないですか!オブジェクトの回収を要請します!』
立香が前日にマシュと共に作っていたのを知っている隊員達は、マックスのカメラにクッキーが映ると湧き上がった。
マックスはクッキーを手に取り、しばらく眺めた後、全て食べてしまった。
『隊長!ズルいですよ!』
無線の向こうでブーイングが聞こえてくるが、マックスは無視した。
『あれだよ...隊長の親バカが出たよ...』
マックスは反論しようとしたが、立香を特に可愛がっていることを自身でも気づいているので反論できなかった。マックスは牛乳を飲み干した後、立香がサンタさんに頼んでいた、自身から不幸を遠ざける護符を枕元に置いた。マックスは立香の頭を撫でた後、部屋を出て行った。
「う〜ん...お父さん...」
立香のつぶやきはマックスには届かず闇の中に溶けていった。
ロマンの場合
「ふふ...くるのはわかっていたよ!」
隊員が部屋に入った直後、隊員はライトに照らされた。そこには腕を組んだロマンが待ち構えていた。
「今年こそ、サンタを捕まえその秘術を暴いてやる!」
ロマンはサンタが秘術を使い世界中にプレセントを配っていると思っていたのだ。隊員はそんなロマンを無視して、懐を探っていた。
「おっと、プレゼントかい!楽しみにしてたんだよ!」
ロマンはサンタが何かをくれると思っているらしいが、ロマンはこんな時間にまだ起きている悪い子なのだ。隊員は懐からテーザーガンを取り出すと
「いい子は寝る時間だ。」
と言い、ロマンに撃った。ロマンは電撃により痺れた後、痙攣しながら倒れた。
「こちらサンタ8、対象の就寝を確認。プレセントを配る。」
『了解。次は隣の医療班員に部屋だ。廊下に人はいない。素早くやれ。』
隊員はロマンをベットに放り込み、枕元にロマンの欲しがっていた新しいマグカップを置くと部屋を出て行った。
オルガマリーの場合
「何やってくれてんだよ...」
オルガマリーの寝室に侵入した隊員の目に映ったのは、大量のトラップだった。中には即死級のものもあり、隊員はオルガマリーの本気さにおののいた。
『オルガマリーのサンタ経歴を確認したが、彼女が小さい頃サンタに扮した前所長に泣かされているとある。そのせいだろう。』
カルデアの前所長は色々とおかしな人だったので、何かの拍子にオルガマリーにサンタに関してのトラウマを植え込んだのだろう。
『サンタに撤退はない。作戦を続行せよ。』
そう命令された隊員はまずトラップの解除を始めた。トラップの解除に配達の終わった隊員達も参加したのだが、トイレに行こうと目を覚ましたオルガマリーは闇の中に顔に機械をつけたサンタ達が部屋の中を漁り蠢いているのを目撃することになった。
オルガマリーは悲鳴をあげて気絶した。オルガマリーはサンタに対してさらに警戒し、次の年からトラップの凶悪さは増し隊員を苦しめることになった。
ちなみにプレセントはフォウのぬいぐるみで、ちゃんと枕元に置かれていた。
マシュの場合
隊員が部屋に入ると、マシュはクッキーと牛乳が置かれた机のそばに座っていた。
「すいません。こんな時間にまだ起きている私は悪い子だと思うのですが。初めてのサンタさんなので、楽しみで眠れませんでした。あと、少し質問があるのですが、よければ座ってください。」
マシュに勧められ隊員は思わず座ってしまった。隊員達は、対象が起きていた場合、魔術やテーザーガンを使い強制的に眠らせるように指示されていたのだが、遠征隊のアイドルであるマシュにそんなひどいことはできず隊員は座るしかなかった。
「手作りのクッキーですが、よければ食べてください。」
マシュはそう言いながら隊員にクッキーを差し出した。隊員はジャンケンで勝ちこの部屋に配達することができた、己の幸運をたたえながらマシュの手作りクッキーを味わった。
「サンタさん。質問してもいいですか?」
マシュはサンタさんがクッキーを食べ終わるを見届けると、声を掛けた。
「こんなに美味しいクッキーを準備してくれたのだから、なんでも聞いていいぞ。」
魔術により声を老人のように変えた隊員は答えた。
「まず、その顔につけている機械はなんですか?」
マシュは隊員がつけている暗視ゴーグルを指差しながら質問してきた。
「こ...これは、最近老眼がひどくてつけているのじゃよ。」
とかなり苦しい言い訳をしたが、マシュは納得したように頷いた。
「次に、サンタさんは1人なんですか?」
「いやたくさんいるぞ。世界中に配らなければいけないからの〜」
純粋なマシュの目に隊員は心がひどく傷んだが、今更あとには引けないので自らを奮いたたせた。この隊員はしばらくの間、罪悪感に悩まされ、カウンセリングを受けることになった。
「フォウ...」
マシュのベットで寝ていたフォウが話し声により起きてしまった。
(まずい!声は変えているが、匂いを変えていなかった。威嚇されれば、ばれる!)
マシュの部屋にフォウがいることを予想していなかった隊員は、自身の体臭を変えていなかったのだ。もし正体がバレれば、マシュに夢を壊すとともに隊員は床とマシュの盾にサンドイッチされるだろう。
「......フォウ」
フォウはしばらく隊員を眺めたあと、再び眠りについた。フォウは賢い生き物なので、全てを理解し見逃すことにした。
(ありがとうございます!フォウさん!)
隊員はしばらくの間、豪華な食事をフォウに提供することを決めた。
「フォウさんも寝てしまいましたし、私も寝ます。サンタさんありがとうございました。」
マシュは頭を下げそう言うと、上目づかいで隊員に尋ねた
「こんな時間まで起きていた悪い子なのですが、プレゼントはもらえるのでしょうか?」
隊員の心は罪悪感のメーターが振り切れ、自身の心が砕けるのがわかったが、最後の力を振り絞り、
「あ...ああ...も...もちろんあげよう...おやすみ...なさい。」
震えだしたサンタさんをマシュは不審に思ったが、布団に入りフォウを抱きかかえるとすぐに寝息を立て始めた。
隊員はマシュが欲しがっていた思い出の写真を飾るための、可愛い額縁を枕元に置くと部屋を出た。しかし、出た直後隊員は床に倒れてしまった。
『サンタ17応答せよ!どうした!...くそっ!早速犠牲者が出たか...本部に待機中のトナカイ部隊に通達。サンタ17がやられた。回収せよ。』
サンタ17は速やかにトナカイ部隊に回収された。
しかし、遠征隊はまだサーヴァントにプレゼントを配っていないのだ。サンタの夜は長い。これから、遠征隊は次々と犠牲者を出していくことになるのだから。
勢いで書いてしまいましたが、後悔はない。
後編は遠征隊がサーヴァントにプレゼントを配りいく様子を書こうと思います。サーヴァントとの初戦闘がクリスマス回になるのか...これもクリスマスって奴が悪いんだ