カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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侵入者だよ!全員集合!

立香が司令室に入ると中は異様な雰囲気だった。

大きなホール状の部屋の奥には擬似地球環境モデル・カルデアスが置かれその前には立香と同じ服装をした青年・少女達が並んでいた。

 

しかし、異様な雰囲気のは目の前の地球儀や若者達ではなくその両側に乱れなく直立姿勢のまま並ぶ野戦服に身を包んだ遠征隊から発せられていた。彼らからはマックスのような優しさは感じらえず、ただただ任務のためには犠牲をいとわない強い忠誠心しか感じられなかった。そんないわば狂信的な意思を立香は人生の中で感じたことはなかったので、ただ異様としか思えなかった。

 

遠征隊の右列は左側を向き、左列は右側を向いていた。つまり彼らは中央にいるマスター達を監視するに並んでいた。マスター達はそんな状況に戸惑いざわついていた。

 

マシュは立香の胸についていたタグを確認すると

 

「先輩の番号は……一桁台、最前列ですね。一番前の列の空いているところにどうぞ。……先輩? 顔の色が優れないようですが?」

 

先頭の列まで手を引いていった。他のマスター達に手を引かれて歩く様子をジロジロと見られたが、マスター達の視線より遠征隊の方が気になっていた立香は他のマスター達を気にする余裕はなかった。

 

「……ごめん、まだ頭がぼうっと……ちょっとこの雰囲気にあてられちゃったみたい。」

 

マシュは確かに異様雰囲気になっている周りを見渡すとカルデアスの下にイライラした女性と、その後ろにさっき慌てて走っていった男がいるのに気づいた。

 

「もう少し先輩と一緒にいたいのですが無理そうですね...」

「時間通りとはいきませんでしたが、全員そろったようですね。特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。そして、私の背後にいるのが、魔術師から選抜されたマスター達は知っていると思うけど、時計塔の守護者だったマックス・アベルよ。彼はカルデア特異点遠征隊の部隊長をしているわ。」

 

オルガマリーは堂々と自己紹介をしたが、マスター達はあまりオルガマリーの話に集中しているように見えなかった。その原因は、オルガマリーを守るように左後ろに立つマックスだった。

実はこの時、カルデアでも幹部に当たるマックスが自分の説明会に遅刻しかけたのに腹が立ち、オルガマリーはハイヒールのピンの部分でマックスのつま先を踏んでいたのだ。

マックスとオルガマリーの顔は、真剣でほぼ真顔に近いのに、その足元は大層仲が良いよに見えそのギャップにマスター達はついていけなかったのだ。実際のところ、彼らは仲がいいその証拠に心の中で

 

(ふん!苦しみなさい!しばらく踏まれて反省するといいわ!)

(馬鹿め...コンバットブーツのつま先には鉄板が入ってんだよ...痛くもかゆくもないわ!)

 

と互いに罵り合っていたのだ。実に仲がいい。オルガマリーはマスター達の視線に気がつき、マックスのつま先から足をどけるとごまかすように咳をした後

 

「あなたたちは各国から選抜、あるいは発見された稀有な―――」

 

と真面目な話を始めた。すごく眠い立香は真面目な話に耐えられるだろうか。いいや、耐えられないだろう。立香はオルガマリーが話し始めた直後、自分の意識が遠のいてくのを感じた。

 

 

 

「……大丈夫ですか先輩?」

 

立香はいつに間にか椅子に座らされていた。

 

「……もしかして、寝てた?」

 

立香の顔はさっと青くなった。先ほどまで、職場でうまくやっていけるかどうか不安に思っていたのに、自分の居眠りのせいでうまくいかないことが確定してしまったのだから。

 

「はい。眠っていたかどうかで言えば、どことなくレム睡眠だった……ような。ともあれ、所長の平手打ちで完全に覚醒したようで何よりです。」

 

立香は自分の頬に手を当てるとじんわりと熱くなっているのを感じた。

 

「先輩はファーストミッションから外されたので、先輩を治療した後部屋に案内しようと―――きゃっ!?」

「フォウ!」

「い、いえ、いつもの事です、問題ありません。おそらく...」

 

マシュはフォウが走ってきた方向に目を向けると、2人の遠征隊の隊員が救急箱と担架を持ちやってくるのが見えた。

 

「フォウさんは遠征隊の人から逃げた後、わたしの顔に奇襲をかけ、そのまま背中にまわりこみ、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです。」

 

フォウはマシュの所に行こうと思っていたが、途中でトラウマとなっている遠征隊に出会ってしまい急いで逃げてきたのだ。

 

「慣れているんだね...後、遠征隊の人達そんなに避けられてんだ...」「はい。フォウさんがカルデアに住み着いてから一年ほど経ちますから。後、遠征隊の方達は避けられて当たり前ですよ。」

 

遠征隊の評価はマシュの中ではかなり低いのだ。そう話していると腕に赤い十字マークを付けた遠征隊の隊員が立香の前に跪いた。

 

「かなりの勢いで平手打ちされたので湿布を貼っておきましょう。」

 

そう言うと隊員は、口の中が切れていないかを確認した後、慣れた手つきで湿布を貼った。

 

「フォウ!クー、フォーウ! フォーウ!」

「...ふむふむ。どうやらフォウさんは先輩を同類として迎え入れたようですね...そして、悪魔から助けようと必死に威嚇してますね。」

「そんなに嫌われてるのかよ...」

 

治療の終わった隊員は苦笑いしながらフォウを見ていた。

 

「マスターの体調が悪いようなので担架を持ってきました。マスターの自室までお運びします。」

 

そう言うと隊員は担架を広げ立香が横のなるのを待った。

 

「やだよ!恥ずかしい...」

 

立香は担架で運ばれていく自分を想像し、恥ずかしくなった。しかし、横目で見ているところちょっとは興味があるようだ。

 

「そうですか...しかし、自室までお送りするように命じられているので、一応我々もついていきます。」

 

そう言うと隊員は担架を片付けた。マシュは立香の手を取ると先ほどのように立香の自室まで案内を始めた。隊員達はその仲がいい様子に少しほっこりしていた。ちなみにまだ、マシュの首元でフォウは威嚇をしている。

立香は先ほどとは違いすごく優しい雰囲気を醸し出している隊員達を不思議に思いつつ、マシュに手を引かれていった。

 

マシュは部屋の前で止まると

 

「目的地に着きました。こちらが先輩用の個室となります。」

「……ここがそうなのか。ここまでありがとう。」

「なんの。先輩の頼みごとなら、昼食をおごる程度までなら承りますとも。」

 

立香はあって数時間の人にここまでするマシュの将来が少し不安になった。人理は焼かれ、将来はないというのに。

 

「キュー……キュ!」

「フォウさんが先輩を見てくれるのですね。これなら安心です。それでは、わたしはこれで。運が良ければまたお会いできると思います。」

 

マシュは立香に頭をさげると通路の向こうに消えていった。立香は最後まで見届けると休むために早速部屋に入ろうとしたが、険しい顔をした遠征隊により止められた

 

「あの...どうかしましたか。」

 

先ほどの優しい雰囲気はなくなり再び、真剣な雰囲気を醸した隊員を不思議に思い立香は尋ねた。隊員は扉の横にあるパネルを指差すと、腰のホルスターから魔術的な模様の入ったグロック18cを引き抜き構えた。

 

「部屋に誰かいる...数は1。」

 

立香がパネルを見ると確かに、パネルには『入室:1』と書かれていた。隊員達は廊下の壁のくぼみを触り壁から立香の身を守るための防壁を展開させた。その後、守るため立香の体を覆うように立香の頭越しに銃を構えた隊員が基地に無線を飛ばした。

 

「こちら、第4分隊キース。緊急事態発生。」

『こちら、基地本部。何が発生した。』

「マスターの部屋に侵入者を確認。対応部隊を要請する。」

『了解。こちらかではマスターの自室を覗けないので、部隊の申請を許可する。』

 

しばらくすると、大きな盾を持った隊員達が通路の向こうから集まってきた。盾を持った隊員は素早く立香を背後に隠した。

 

(なんか...大事になってきちゃった!なんで、休むだけでこうなるの!)

 

立香は何も悪くない。ただ、神様に余計な体質を与えられただけなのだ。

 

対応部隊は盾を持った隊員を先頭に立ち、その背後にMP7を持った隊員が並び突入の合図を待った。

隊員の1人が腕に刻んである紋章を触ると、手のひらに魔力が集まり長さ15cmほどの棒の形に集まった。隊員は仲間に合図を出すと扉を開け中に放り込んだ。

 

「はーい、入ってまー―――って、うぇええええええ!?何だ!?」

 

棒状の魔力は、部屋の中で弾け、凄まじい光と轟音を発生させた。フラッシュバンを魔術で再現したのである。

中で混乱した男の声が聞こえると、部隊は一斉に突入していった。しばらくすると、手錠をかけられ顔に袋を被せられ白衣の男が廊下に投げ捨てられた。

 

「ここは空き部屋だぞ、ボクのさぼり場だぞ!?誰のことわりがあってこんな酷い事をするんだ!?」

 

隊員達はその声と白衣に覚えがあるようで互いに顔を見合わせていた。立香を守っていた隊員が男から被せられていた袋を外すと、中から髪がボサボサになった長髪の男の顔が見えた。

 

「あの...みなさん...この人知っているんですか...」

 

隊員の盾の後ろからひょっこりと顔を出した立香は、小さく手を上げながら周りの隊員に質問した。

 

「君の部屋? ここが?あー……そっか、ついに最後の子が来ちゃったかぁ……いやあ、はじめましてマスターちゃん。」

 

男は周りの様子を見渡した後、事態を把握したのか誤魔化すように笑いながら答えた。

 

「予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。なぜかみんなからDr.ロマンと略されていてね。理由は分からないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれていいとも。」

 

立香は何でこの人がロマンと言われているのかが、すぐに分かったがロマン為に言わない事にした。

 

「実際、ロマンって響きはいいよね。格好いいし、どことなく甘くていいかげんな感じがするし。ところで名前を聞いていいかな?」

「はじめまして、ドクター。私は藤丸立香です!これからお願いします!」

 

またしても、立香は名前を紹介しながら、医療部門のトップという事で幹部に当たるはずのロマンに自分の名前が伝わっていない理由も何とな察した。こんな、ゆるふわな頭では、機密情報などは簡単に漏れ出してしまいそうだ。

 

「うん、はじめまして。 今後ともよろしく。あれ? 君の肩にいるの、もしかして噂の怪生物?うわあ、はじめて見た!マシュから聞いてはいたけど、ほんとにいたんだねぇ……どれ、ちょっと手なずけてみるかな。はい、お手。うまくできたらお菓子をあげるぞ。」

 

ロマンがそんな事を言っていると後ろで遠征隊の隊員達が何か準備を始めていた。

 




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