カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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模擬戦闘を開始します

立香side

 

『模擬戦闘を開始します』

「あれ?ここは?」

 

電子ボイスの後、扉の紋章の光が強くなり思わず目を瞑ってしまった立香が、再び目を開けると周りの風景は先ほどの寒々しい吹雪の中から暖かい日の降り注ぐ草原に変わっていた。

 

「ワープでもしちゃったのかな?」

 

しゃがんで地面の草を触っても本物としか言えない感触が伝わってきた。地面を弄っていると

 

「マスター早くご命令を。」

 

と女性のような声と共に剣を抜く音がした。

 

「えっ!誰!?」

 

と急いで立ち上がると先ほどの草原を見渡した時には人っ子一人いなかった草原に三人の人影があった。剣を抜き堂々立っている金髪に鎧の女、赤い槍を持つ青タイツの男、弓を持ち女性と比べると比較的軽装の鎧を着た男の3人が立っていた。

 

「後ろの連中も待っているみたいだしな。」

 

呆然と眺めていると、槍を持っている男が立香の背後を槍で差した。

立香は慌てて振り返ると、立香の背後を守るように先ほどの3人とは違い、鎧などではなく現代的な迷彩服に身を包み、警戒するように周囲に銃を向ける4人の男たちが立っていた。

 

(さっきから何なの....お母さん助けて!)

 

立香は目を回し混乱した。改めて言うが彼女は平和な日本からきたのだ。

 

「マスターがグズグズしてるから準備もしてないのに来ちまったじゃないか。」

 

槍の男は頭をかきながら草原にある丘を眺めていた。

立香は涙目で丘の方を見るとゴーレムと呼ばれる茶色い個体が迫ってきていた。立香はさらに混乱し、半ば叫びながらサーヴァントに指示した。

 

「もうどうにでもなれ!みんなやっちゃえー!」

 

マックスはこの立香の順応?の早さに気づき、カルデアに配属されたマスターの中でも、使えそうと判断してた。後にマックスからこのことを聞かされ、立香は少し落ち込むことになる。

彼女としては、ひょっとしたら隊長さんは自分に指揮することへの隠されていた素質があると見抜いているのかもしれないと期待していたのだ。

 

「やっとか!暴れるぜ!」

 

とサーヴァントの3人はゴーレムに向かって突っ込んで行ったが、背後にいた4人はサーヴァントが行動するのとほぼ同時に立香の周りを囲み新たな敵への警戒を始めた。

 

(この人たちすごいな...練度が高いってこういうことを指すんだろうな...)

 

立香は少し気持ちが落ち着き、自分の斜め前に立ち、立香の前方への視界を塞がないように警戒する男たちを観察することにした。

男たちは現代的な迷彩服を着ているがヘルメットの後頭部や、防弾チョッキの肩の部分に遺跡など見るような模様が刻まれていた。

 

(不思議な服だな。すごい現代チックなのにいろんなところに、図鑑で見るようなマークが刻まれてる。これが魔術って奴かな。)

 

科学が過ぎれば魔術に見えるとあるが、立香は進んだ科学技術を持つ日本にいたのだ。彼女から見れば仮想空間などはまだまだ科学の範囲を過ぎておらず、魔術の産物とは思えないのだ。

なので、現代的な迷彩服の中にある魔術がようやく彼女に此処がどういう機関なのかを今更ながら教えることになった。

 

「そういえば、あの3人は!」

 

立香は男たちを眺めている間に視界から消えてしまったサーヴァントたちを探すために一歩踏み出した。

すると周りの男たちは綺麗な円陣を維持したまま立香と同じ方向に移動した。

 

「おぉ!すごい!後ろに目が付いているみたい!」

 

男たちは立香がいくら飛び跳ねても、立香から同じ距離を維持し続けていた。

 

「すごい!すごい!」

 

と飛び跳ねていると

 

「このマスターは大丈夫なのか?」

 

と声が掛けられた。弓を持ったサーヴァントは呆れたように立香を眺めていた。

 

「すいません!ちょっと気が散ってました。」

「まあいいだろう、戦闘は終わらせてきた。」

 

立香が飛び跳ねている間にサーヴァント達の戦闘は終わり、弓兵の背後にはただの岩に戻ったゴーレムが転がっていた。

 

「少し不安なマスターだが、俺らカルデアはマスターを歓迎する。」

 

そう弓兵が言うと周りの風景は溶けるように消え始めた。

 

『模擬戦闘を終了いたします。すでに登録は完了しているのでどうぞお入りください。歓迎します。マスター藤丸立香様。』

 

天高くから電子ボイスはそう言うと、立香再び強い光に包まれた。

立香が再び目を開けると草原ではなく先ほどいた吹雪の中に戻されていた。

 

「やっぱりあれは魔術だったのかな...夢みたい。」

 

立香は先ほどの体験を思い返し、しばし余韻に浸っていた。吹雪の中で。

 

「うわぁ!さむっ!」

 

立香の意識が再び戻るのにかかったは、十数秒間だけだったが。吹雪はその間に立香の体温をかなり下げていた。

立香は開いた扉に素早く入ると扉の影に隠れて風をしのいだ。立香扉が閉まるのを見届けると、その場に座り込んだ。

 

「やっと一息つけるよ。草原やら雪山やらで疲れちゃった。」

 

草原で疲れたのは、飛び跳ねて立香を守るように囲んでいた隊員で遊んでいたのが原因である。濃い数時間のことを思い出していると立香は自分の意識が薄れているのを感じた。

 

(寒い所から暖かいところに来たから眠くなちゃったのかな...きっと隊長さんが来てくれるから少し休憩...)

 

そう考えている間にも意識はどんどん薄れていって、ついには廊下の壁に寄り掛かるように立香は寝てしまった。

 

 

 

 

 

マックスside

 

「どうだ準備ができているか?」

 

慌ただしく局員が動くなか、マックスは壁に寄りかかり隣にいる副隊長に話しかけた。

 

「はい。遠征隊でもできるような調整や力仕事は全て終わっています。あとは専門家の局員達による最終チェックだけです。」

 

副隊長はタブレットで説明会の工程表を確認しながら答えた。

 

「全く所長は見栄っ張りなんだから。演説のためにわざわざレンズ・シバを動かすんだろ。しかも失敗しないように何回もチェックしろとの要請だしな。」

「演説ではなく、説明会です。隊長。」

「こんな大掛かりでやるなら似たようなものだろう。」

 

そうぼやきながら、2人は説明会準備に追われている局員達を眺めていた。すると1人の隊員が2人に元にやってきた。

 

「どうした?問題でも発生したか?」

「いえ、そうではなく。少し気になることが...」

「なんかあったのか?」

「保安のための入退室記録を見ていたのですが、マスターの1人が自室に入った記録がないんです。カルデアには来ているのですが...」

「誰だ?」

「えっと、No.6の藤丸立香ですね。」

 

マックスは先ほどの道案内をした少女を思い浮かべ、自分の説明漏れを思い出した。

 

(確か仮想空間に慣れていないと脳に来るんだったな。どっかで倒れている可能性があるな。所長が来る前に探す必要がある。)

 

マックスはそう考え、少女が所長に叱られないためにもすぐさま見つけることにした。

 

「副長、今待機している分隊は何番隊だ?」

「現在、3番隊が待機中であります。」

「3番隊に藤丸立香の捜索を命じろ。本館の玄関付近を重点的に捜索させろ。」

「分かりました。」

 

副長は早速耳につけていた無線で命令を伝達した。マックスは慌ただしく動く局員を眺めると

 

「俺たちがここにいても邪魔だ。俺たちも捜索に行くぞ。3番隊がいる待機室よりもこちらの方が玄関に近い。」

「そうですね。局員の邪魔をするわけにもいきません。」

 

マックスと副長は説明会をするホールから離れていった。これが大きな間違いだった。彼らとすれ違うように袋を抱えたレフ教授はホールのなかに入っていった。

 

(今レフから嫌な気配がしたが、気のせいか。説明会を前に気を張りすぎたか...)

 

マックスは1人そう納得し、立香を探しに玄関に向かっていった。




一話と三話の誤字修正ありがとうございました。
戦闘はと言いつつ全くないですね。少し書いたのですがあまりにも下手だったので、遠征隊の軽い御披露目会にしました。

書くのにも慣れてきてきて、最初よりも長くかけるようになりました。これからも誤字報告などお願いします。

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