カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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謝罪の連投。今回も戦闘はありません。次回から対マルタ戦です。


守護者は全てを記録する

遠征隊は解散し、送られてくる装備の組み立てを始めた。組み立ては簡単で、送られてくるブロック状のパーツを積み重ね、コードやパイプを繋いだ後、隙間がない様にしっかりとボルトで締めるだけなのだ。組み立てが簡単なので、10人で作業すれば20分程でBTR-90を1台組み立てられる。また、遠征隊の装備の殆どが、カルデラと共同で開発された圧縮技術でデータ容量が少なくなっているので、カルデラの通信設備に大きな負荷を掛けずに大量に送ることができている。

 

「なんか、複雑な気分。」

「しゃあねぇだろ。俺もドルイドとしちゃ、ちったぁ嫌な気分になるが。戦争なんだから細けぇこと気にすんな。」

 

クーフーリンと立香は遠征隊が組み立てたテントの前のベンチで作業する隊員達を眺めていた。作業場を確保する為に森は切り開かれ、重機と装甲車は花畑を踏み荒らしていく。

 

「お花が...」

「兵士に踏み荒らされる花畑。一曲作れそうだな。」

 

マリーも土と花が掻き混ぜられていく様子に、悲しそうな雰囲気だった。マリーは保護した花を、隊員が置いていったヘルメットに入れて抱えていた。アマデウスは遠征隊に五線譜を貰って、荒らされていく花畑を見ながら曲を書く。

 

「食事ができましたよ。」

 

立香達がぼんやりと見ていると、テントの中からマシュが出て来た。

 

「先輩、隊員の人達を呼んでください。早くしないとジャンヌさんの拘束しているオルタさんが全部食べてしまいます。」

 

保存用缶詰から作られた質より量の夕飯は、オルタの好みを直撃していた。オルタは炊事場で手伝いしていた隊員を薙倒して、摘み食いしようとしたが、ジャンヌとマシュに捕獲され食事まで正座させられている。

 

「うん、皆んな呼んどくからクーフーリン達は先に行ってて。」

「うし、飯だ! 今日は戦闘で腹減ってんだよ。」

 

立香は足の間に置いていた大型メガホンのマイクを取り、作業している隊員に呼びかける。

 

「皆んな〜! ご飯ですよ〜!」

 

立香の呼びかけに、隊員達は道具を放り出して台所に突撃する。

 

「プレートを受け取って下さい。」

 

ちゃんと並んだ隊員達はマシュとジャンヌからランチプレートを受け取り、並んだ食事を盛っていく。食事片手に隊員達はテントから出ると切り倒した木やパーツボックスを椅子に食事を始めた。

 

「私も下さ〜い。」

 

立香も列に並び食事を貰いテントを出ると、どこで食べようかと辺りを見渡す。

 

「マスターよ! ここだ!」

 

立香がキョロキョロしていると、遠征隊の建てた大きめの見張り台の上から茨木が手を振っていた。立香がロープで食事を上げて貰い、隊員達に心配されながら見張り台に登る。10m以上ある見張り台に登っているので、隊員は下で毛布を広げて立香を心配していた。

 

「おい...あれ。」

「あー、マスターが心配だな(棒」

「おう...最高のデザートです。」

「...茨木、オルタ。」

 

隊員達は立香を心配し登る様子をながめるとすると、当然立香を見上げる状態になる。また現在、立香はカルデラの制服を着ておりスカートである。立香が登りながらオルタと茨木を呼ぶと、オルタ達が上から飛び降りてきて、下にいた隊員をブン殴る。立香は下から悲鳴が聞こえてきたが、当然の事だと気にせず頰を膨らまし怒りながらハシゴを上がっていく。

 

「うわぁ...綺麗!」

 

立香が登り切ると見張り台からは、そこには一面の星空があった。

 

「凄いですよね、先輩。カルデラの標高でも綺麗に見えるらしいですが、カルデラは何時も吹雪に覆われていますから、私初めて見ました。」

「私もこの星空は初めて。」

 

見張り台にいたサーヴァント達も星を摘みに食後のお茶を楽しんでいた。立香とマシュが手摺に手をついて眺めているとクーフーリンが、呼びかける。

 

「飯が冷めんぞ。」

 

立香とマシュは床に座り、サーチライト用の大きなバッテリーを机に食べ始める。マリーは隊員が淹れた少し渋い紅茶を飲みながら、立香達の食事が終わるのを待つ。

 

「落ち着いたところで、改めて自己紹介させていただきますわね。私の真名はマリー・アントワネット。クラスはライダー。どんな人間なのかは、皆さんの目と耳でじっくりと吟味いていただければ幸いです。」

「僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。マリーと同じく召喚された理由は不明。」

「ご丁寧にありがとうございます。私は藤丸 立香です。こちらはマシュ、クーフーリン、オルタ、茨木です。」

 

立香は小さく頭を下げる。立香が立ち上がり下を見ると、隊員達は食事が終わり作業に戻っていた。立香は下にいる隊員をマリー達に指差しながら紹介していく。

 

「あそこに居るのがこの部隊の総隊長のマックスさん。映像は右から、イザイラ副隊長、オルガマリー所長、ロマン医療班長、ダヴィンチ技術部部長。ちょっと離れて、第1分隊長の...」

 

立香はマリー達と直接関わりそうな幹部級職員と隊員を一通り紹介していく。

 

「うん、全員覚えた。」

「楽譜暗記に比べれば余裕だね。」

「ちなみに全員30代から40代。」

「なんかズルいわ。」

「彼らみたいに改造人間になるなんて言いださないでくれよ、マリー。」

 

マリーは人間時代にスタイルや美貌を維持するために色んな事をしていたので、ホムンクルスの義体で20代の見た目をしている遠征隊を少し羨ましそうに見ていた。

 

「最後に、こちらが...」

「ジャンヌ。ジャンヌ・ダルクね。フランスを救うべく立ち上がった救国の聖女。生前からお会いしたかった方のひとりです。」

 

目を輝かせるマリーと対照的にジャンヌは目を伏せ暗い雰囲気を纏う。

 

「...私は、聖女などではありません。」

「そんな事みんな分かっていたと思いますよ。でも、少なくとも貴方が生き方は真実でした。その結果を私たちは知っています。だからみんな貴方を讃え、憧れ忘れないんですよ。」

 

ジャンヌはマリーの言葉に俯く事ですか答えられない。

 

「ま、その結果が火刑であり。」

「あの魔女だな。」

「良いとこしか見ないのはマリアの悪い癖だ。そうだろう、ジャンヌ・ダルク。君の人生にはいささかの変調がある。"完璧な聖人"なんて言われて傷付くのは、他ならぬジャンヌ自身だ。」

「他人からの憧れってのは、本人にとって、そうでなくてはいけないという呪いだからな。」

 

何故かアマデウスやオルタに批判を浴びたマリーは、慌てアマデウスを指差し(なじ)り始める

 

「こ、こうすれば良いのでしょう。ここ音楽バカ! 人間のクズ! 音階にしか欲情しなくなった1次元フェチズム!」

「...自分で言っておいてなんだけど、君に罵倒されると、こう、なんとも言えない感情が湧き上がるな。」

「我から3m以上離れてくれ。キモイ。」

「...君のはイマイチだな。だがまあ、やればできるじゃないか! そんな感じでジャンヌにもかまして上げなさい。」

 

茨木はアマデウスから謎の評価を受け、青筋を立て、殴りかかろうとするが、クーフーリンに頭を掴まれ押さえ込まれる。

 

「もっと早く、もっと強く、もっと辛辣に! 君の思うがままに欠点を口にするのだ。」

「ノン、それは無理よアマデウス。貴方のような人間のクズには欠点しかなけど。ジャンヌには欠点はありません。」

「そんな事はありません。欠点だらけです。」

 

ジャンヌは俯き、顔に影がかかる。立香とマシュは真剣な雰囲気を感じ、正座になり聞く体勢になる。

 

「マリー・アントワネット。貴方の言葉は嬉しい。でも、だからこそ告白します。私は生前も今聖女なんてものではありません。私は死んだ今でも自分の為に旗を振って、その結果、人々を死地へと誘い込み、人々を自分の為の生贄にしました。」

 

ジャンヌは目をつぶり、自分に従い共に戦場に並んだ何万ものフランス兵士達を、立香に従い立香を守る遠征隊の隊員達を思い浮かべる。

 

「後悔はありませんでした。誰もが神ため国のためと覚悟を決め戦いにいたと思っていたからです。いや...後悔するべきだったんです。」

 

ジャンヌは自分の胸元に拳銃を突きつけたマックスの姿を思い浮かべる。あの時、彼の怒りは聖女ジャンヌ・ダルクの行動ではなく、町娘ジャンヌの考えに向いていた。

 

「流した血が多すぎた。見ましたか? 街の広場一面に広がる血を、私はあの何倍もの血を生んだんですよ。田舎娘は自身の夢を信じた。その夢の行きつく先がどれほどの犠牲を生むものか、その時まで想像すらしなかった。」

 

ジャンヌが勝利の戦旗を掲げる時には、何時も戦場は人馬で埋め尽くされていた。ジャンヌは今回も戦旗を掲げたが、昔と同じように広場は隊員で埋められた。

 

「考えたり想像しなかったから、私なのに(魔女)を理解できなかった。そして、わがままで7人も殺した。いや、本来なら100人も殺してたんです。」

 

広場に散らばる100人の隊員の死体。ジャンヌが逃げれば生きられるはずだった7人の隊員。

 

「後悔はなかったけれど、畏れもしなかった...それが私の罪。」

「そう。聖女では無いのよね?」

「ええ...そんな資格はありませんし。」

「それなら私は貴方をジャンヌと呼んでいい?」

「...え、ええ。勿論です。そう呼んで戴けると、何だか懐かしい気がします。」

「良かった。それなら私の事もマリーと呼んで。」

 

見張り台がお通夜状態になる。ジャンヌの語りに立香やマシュは正座のまま俯き、クーフーリン達も腕を組んで静かに見守る。

 

「ジャンヌは反省しているの?」

「はい...もっと自分や神(遥か彼方)ではなく、仲間(足元)を見るべきだったと。」

「仲直りしたい?」

「...はい。隊員の人達に、死んだ事はしょうがない。彼らは死ぬ運命だった、と言われました。ですけど、やっぱり少し壁を感じます。私が勝手に感じているだけですけど...」

 

少しお通夜ムードが和らいだので、立香と茨木は魔法瓶を取り出し、紅茶で一息つく。

 

「それなら、皆さんとの間に本当に壁があるか確かめてみましょう。」

「確かめるって?」

 

よく分からない様子のジャンヌを他所にマリーは立ち上がり、見張り台の手摺りに座り下で作業する隊員達に手を振る。クーフーリンとオルタは予想できたのか、ニヤニヤしながらジャンヌを見る。

 

「ああ、マリー、危ないよ。そんな所に座ったら、落ちちゃうよ。」

 

隊員達は作業の手を止め、見張り台から手を振るマリーを見て、何をするのかと見つめる。アマデウスは下手に触ると落ちてしまうので、ユックリ降りるようにマリーを説得するが、マリーは足をブラブラさせながら手摺りに座り手を振る。

 

「マリーさんは何をするんでしょうか、先輩?」

「演説とか?」

 

マリーは視線が集まったのを確かめると、見張り台のスピーカーに付いているマイクを掴み、ジャンヌも引き寄せる。ジャンヌと隊員が首を傾げていると、マリーは大きく息を吸い。

 

『皆んな〜! ジャンヌって呼んであげて〜!』

 

立香や茨木が飲んでいた紅茶を噴き出し、クーフーリンとオルタが爆笑し始める。アマデウスは頭を抱えうずくまり、ジャンヌは真っ赤になる。

 

「ちょ! えっ! 何してるんですか、マリー!」

「「「「yes,マリーさん!」」」」

 

隊員達は持っていた工具を掲げ、ジャンヌを冷やかし始める。

 

「えっ...あの...その。私は...皆さんの仲間を...まだ...ちょっと整理できてなくて。」

 

ジャンヌは自分はまだ恨まれているのではと思っていたので、ここまで慕われるなど考えもしなかった。

 

「「「「ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ!」」」」

「いやっ...やめて下さい! 待ってください!」

「「「「ジャンヌ! ジャンヌ! ジャンヌ!」」」」

「やめて下さいよ!」

 

ジャンヌは旗をブンブンと回し、未だにジャンヌコールをする隊員達を鎮めようとする。

 

「一方的に信じるんじゃなくて、支援する! これが女友達の心意気よね、アマデウス!」

「マリーがしたのは、ただの味方への後ろ玉だよ。」

 

手摺りに乗り、アマデウスに手を差し出しながらマリーは嬉しそうに語る。アマデウスは溜息を吐きながらその手を取り、手すりから降ろす。

 

「ジャンヌの心配もなくなりましたし、お話の続きをしましょう。」

「遠征隊の人達って、本当は良い人なんですかね?」

「いや、あれは馬鹿なのと命を塵と同価値とみなしているからだ。あいつらは良い奴なんかじゃないぞ。」

「厄介な事に馬鹿は馬鹿でも、場をわきまえる馬鹿だ。マシュよ、騙されるんじゃないぞ。」

 

未だに聞こえるジャンヌコールにマシュは隊員達を少し見直したが、一通り笑ったので落ち着くために紅茶を飲みながらクーフーリンとオルタはマシュの言葉を否定した。

 

「話するために、隊員を抑えてもらいましょう。隊長さんは、2番っと......ん? 繋がんないな。」

 

立香は隊員を静かにして貰おうと、見張り台に備えてあった通信機でマックスに掛けたが何時も直ぐにでるのに出なかった。

 

「何か作業してるのかな? まぁいいか、代わりに所長とロマン呼びますか。」

 

ようやく隊員達を静かにしたジャンヌが疲れた様子で帰って来たので、立香は通信機でロマンを呼び出し、フランスについての話を始める。

 

 

 

 

〜お話中〜

 

 

 

 

「敵が強大なほど反動も大きい。つまり、他のサーヴァントがいる可能性が大きいです。」

「つまり、他にもサーヴァントがいると。」

 

呼び出されたオルガマリーとロマンはサーヴァント達と情報のすり合わせをしていた。

 

『とりあえず、今分かっている敵のサーヴァントの情報を遠征隊の大書庫を漁らせきたよ。シュヴェリエ・デオン、ヴラド三世、エリザベート・バートリー。ジャンヌの記録もあったけど、本人から聞いた方が正確だから、いいよね。』

 

立香達は送られてきた情報に目を通す。世界中に潜伏していた守護者達が歴史的に重要になりそうな人や伝説になりそうな人を監視して作ったもので、本人が気づかないような小さい事まで書かれていた。

 

「所々黒塗りなんですけど。」

 

立香が目を通しているとデオンの性別など所々が黒く塗りつぶされていた。情報を聞き出すのに拷問した人数などは塗りつぶされていないのに、塗り潰しの法則が分からず首をかしげる。

 

『守護者が部外者に資料を見せる時にする"人類史的検閲"だね。』

「人類史的検閲?」

『世の中には謎のままの方がいい事が多くあるんだよ。謎のままの方が、人はその謎に夢を持って覚え続け、人の信仰が集まるからね。いい例が、アトランティス大陸だね。その謎に包まれた感覚が、未だにアトランティスを探す冒険者を生み出しているし。』

 

ロマンは財宝のある座標を塗りつぶしている黒塗りを無くせないかなと呟く。予算が少なく苦しんだ記憶のあるロマンには、黒塗りされた財宝の座標はガラスの向こうのご馳走と同じなのだ。

 

「この書類読んでもな〜。情報量が多くて、逆に役に立たん。クシャミした回数なんて、なんの役に立つんだよ。」

「アマデウス...もしかして私も...」

「記録されてるだろうね。有名人だし。」

「恥ずかしいわ。」

 

マリーは細かく書かれすぎている守護者の情報に顔を赤くし、顔を覆う。

 

「...もっと言う事はないのかい?」

「神に背く事はしていませんもの。」

「でも恥ずかしいんでしょ。」

「乙女ですもの。」

「そう...ん?...もしや」

 

アマデウスは話の輪からこっそり離れ、先ほど立香が使っていた無線機をいじる。近くに置いてあった宛先のまとめられた手帳をめくりイザイラに通信を掛ける。

 

「イザイラ・アワン副隊長でしょうか?」

『なんでしょうか、モーツァルトさん?』

「その...僕の手紙って。」

『一つ漏らさず全て、記録してありますよ。ちなみに今手元に直筆の手紙があります。』

「マジか...マジで...なんで持ってんの。」

『うふふ、内緒です。1次元にしか興奮しないと勘違いしているマリーさんに教えてあげようかな。マリーさんも友人が1次元にしか興奮しない変態じゃなかったと安心してくれますよ。』

「待って! 待って! 1次元の変態じゃなくて、ただの変態になるだけだから! まだ1次元の変態の方がマシだから!」

 

イザイラに脅されアマデウスは思わず大声を出してしまう。まだ情報のすり合わせしていた立香達が何事かと、アマデウスを見てきた。アマデウスは受話器を隠し何でもないと笑って誤魔化す。

 

「また、アマデウスの発作?」

「あ...ああ...曲のインスピレーションが突然湧いてね。」

「芸術家のサーヴァントだからかな。」

「まあいいが、会議中は静かにしていろ。」

 

何とか立香達女性陣を誤魔化せたが、クーフーリンは何かを察したらしく同情の視線を向ける。クーフーリンとアマデウスの視線が合い、微妙な雰囲気になる。クーフーリンは耳を塞ぐジェスチャーをして、何も聞かないと伝える。アマデウスはクーフーリンとの間に、男子の絆を感じた。

 

『おほん...えーっと...−ごきげんいかが?どんな服着てんの?おt。』

「あ゛〜! 君達のために曲書くから。書くから読み上げないで!」

『いいでしょう。取引成立です。あなたの手紙は誰の目にも触れないように奥底にしまっておきます。』

「はぁー、なんであんな手紙書いたんだろ。あぁ...確か3徹した後だったっけ。」

 

アマデウスは受話器を戻し、俯く。見張り台の端っこで蹲るアマデウスにマリーは心配になり、声をかける。

 

「アマデウス、大丈夫? 何かあったの?」

「いや、急いで曲を書かないと、と思って。」

「? よく分からないけど。こっちのお話は終わったから、ゆっくり休みましょう。」

 

アマデウスとマリーは話が終わったので、食器を持って見張り台から降りていく。立香達も降りるかと考えていると、梯子のところから降りていたマリーの顔がヒョッコリと出てきた。

 

「周囲は私達と兵隊さん達で見張りますから。」

 

マリーはそう言うとスーっと降りていった。

 

「先輩、私達も行きましょう。あそこのテントで先輩の作業をするようですし。」

「俺たちがマスターの作業中周りの護衛すっから、安心しな。」

 

クーフーリン達は見張り台から梯子を使わず、飛び降りていく。マシュは梯子を降りようとしたが、直前で止まり下を見下ろす。

 

「私も。」

「マシュはダメー! 怪我しちゃうよ!」

 

マシュもオルタ達の真似をして飛び降りようとしたので、立香は慌てて止め普通に降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マックスや分隊長達はテントの中でヘッドフォンをつけ、タバコを吸いながらヘッドフォンから流れる声を静かに聞いていた。テントに中は紫煙が立ち込め、隊員がキーボードをタイプする音だけが響く。

 

『周囲は私達と兵隊さん達で見張りますから。』

 

マックスはテントの窓から見張り台から降りてくる立香達を見る。マックス達はヘッドフォンを外し、タバコを水を張ったアモ缶に放り投げる。

 

「特に収穫はありませんでしたね。」

「サーヴァントの情報はこちらに通達されるはずですから。あるとしたら英霊同士が抱いている感情でしかね。」

「これが会話記録です。」

 

マックス達は見張り台に指向性マイクを向け、ずっと会話を聞いていた。分隊長達は隊員が文字起こしした会話記録に目を通す。会話記録を読んでいて一人の分隊長が手を挙げた。

 

「一つ気になることが。」

「何だ?」

「マシュさんの言う15騎のサーヴァントによる聖杯戦争の形跡とは?」

「確かにコレはどういう意味だ? この世界での聖杯戦争は冬木で一回のはずだろ。しかも通常方式の。冬木のは守護者の総力を挙げて隠蔽したから痕跡は残っていないはずだ。」

「マリスビリーが聖杯に願った全聖杯戦争の記録が漏れたか? そもそも形跡とは何を指す? 戦闘跡か? 魔力残滓か?もし、15騎の聖杯戦争が起こっていてその形跡があったとして、我々守護者の情報網にカケラも引っかからないのは何故だ?」

 

マックス達はマリスビリーが守護者に持ってきた聖杯戦争の資料には15騎のサーヴァントによる聖杯戦争のことが書いてあった。しかし、この資料は並行世界に関わる危険な物で、他人に気安く見せれるものでは無い。この資料に目を通したのは、マルスビリーの弟子のロマンと守護者の幹部のみで、一般の隊員達は存在は知っていても内容までは知らない。オルガマリーも特異点Fで存在は教えてもらったが、まだ目を通してはいない。

 

「いや、マリスビリー前所長はマシュさんの様な一般職員に漏らす様な人ではなかった。ロマンもあんな危険物を、大切にしているマシュに教えるわけがない。遠征隊から漏れたか?」

「ここの誰もが喋っていないのなら遠征隊経緯では無いだろう。マシュさんが直接読んだというのは?」

「禁書保管庫の立ち入りは遠征隊幹部が持つキーカード5枚がいる。誰も渡していないから、マシュさんは聖杯戦争記録を保管してる禁書保管庫には入っていない。なら一体、なぜ15騎の聖杯戦争を知っている?」

「もしかして、マシュさんと同化しているサーヴァントの記憶か? クーフーリンさんが冬木で別の聖杯戦争の記憶があることを匂わせていたぞ。」

「我々に提供された記録で、15騎が参加した聖杯戦争で盾を持つサーヴァントと言えば...アキレウスか。なら、マシュさんの英霊はアキレウスか?」

「う〜ん、それならなぜ盾だけしか出てこない。槍は? 戦車は? それよりもアキレウスの不死性は何処に行った? 普通に怪我をしていたぞ。盾にしても、世界を展開しているにしては、効果は低かった。」

 

マックス達は唸りながら考えるが上手い説明が思いつかず、時間だけが過ぎていく。誰も考えてつかないので、マックスは手を叩き煮詰まった空気を変える。

 

「よく分からんな。それとなくマシュ殿に聞くとしよう。」

「そうですね。話を戻しましょう。マスターとサーヴァント達の会話でしたね。」

「英霊達の会話だから遺物回収に役立つ何かがあるかと期待したのですがね。」

「マリー・アントワネットの時代は、時代の変遷期だったから、何もかもが記録されているからな。新しい情報はないな。」

「ああ、城の中にいた貴族の(まばた)きの回数やタイミングすら記録してるからな。」

「マックス隊長、どういたしますか?」

 

分隊長達は会話記録を机の上に放り投げ、マックスに視線を向ける。マックスはジャンヌ達の写真を眺めながら、新しいタバコに火をつける。

 

「マスター殿の会話については、十分な収穫だ。これにより作戦が実行できるかを確認できた。」

「それは?」

「ジャンヌ殿は我々に対して大きな罪悪感を抱いている。これが知れただけ、十分な収穫だ。」

「罪悪感を盾にして、何らかの要求を飲ませると。」

「多用できないから、使い所を見極め必要があるがな。今後はマスター殿の方針通り、オルレアンを目指す。オルレアンに向かう途中で行う作戦はすでに出来上がっている。ファイル開示を許可する。コード"victim 's reason "」

 

分隊長達は端末を取り出し、事前に配布されていた作戦計画書のロックを解いて目を通す。

 

「これは...聖女が怒りますね。」

「だから、あの罪悪感は良い。この作戦にピッタリだ。質問は?」

「「「「「ありません。」」」」」

「では..."春小麦"作戦を開始する。」

 

マックスの号令にテント内の温度が上がる。分隊長達は立ち上がり、マックスに敬礼をして、隊員達に作戦を伝えるためにテントから出て行く。マックスもタバコを吸い終えると、魔術でサッと匂いを消しテントから出る。

 

「ふむ...マスター用の寝室も出来上がっている様だな。マスター殿を案内しに行くか。」

 

マックスは無邪気に手を振ってくる立香のもとに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わお...すっごい豪華。そして不穏。」

 

立香の案内されたテントの中にはクイーンサイズのベットが置かれていた。

 

「何、このコード?」

 

立香はベットから伸びる大量のコードを不安そうに持ち上げる。不穏な空気を放つコード群の唯一の救いは、全てクリップ型で針状の突き刺す様なコードがないことぐらいだ。

 

「寝相悪かったら首締まりそう。」

「それなら見張りをつけておきます。」

「それは、結構です。所長達が見守ってくれる手筈ですから。」

 

立香はスカートを覗いて茨木とオルタに締めれた隊員達を思い出した。テントに来るまでに、顔面を腫らしながら腕立て伏せをする隊員がいた気がしたが、気にするほどでもないと記憶の隅に追いやった。

 

「横になってください。」

 

立香がベットに横になると隊員達が立香を囲み手足の各所にコードをつけて行く。

 

(UFOに攫われたみたい。)

 

隊員達はコードの最終確認をすると、魔法陣が刺繍された毛布を立香にかける。

 

「こちらマックス。此方側の準備は終わった。どうぞ。」

『ロマン、了解しました。もう一度確認するよ。まずは、英霊契約枠を増やすのと令呪を回復するのに必要な量の魔力を確保する。普通はこんな事しないけど、立香はまだ未熟だから自力のみでの回復だと一週間ぐらいかかちゃうからね。今の人理にはそんな余裕は無いし。』

「分かりました。修行頑張ります。」

『一般人候補の立香君にはキツイだろうけど、そこの霊脈を立香君がパーンしない量に調節して、立香君に流し込んで確保する。』

「パーンて何⁉︎ 聞いてない!」

 

立香はロマンの擬音に恐怖し震える。周りにいる隊員達は立香のいい反応に、機械を操作しながら笑う。

 

『そりゃ...頭とか?』

「破裂するの⁉︎」

『冗談だよ。破裂するのは魔術回路だよ。』

「立香知ってる! それ破裂しちゃいけないやつ!」

『まあ、緊張が解れた所で説明の続きするよ。』

「逆に緊張してきた。」

『心配しないでよ。最高の技術を持ったカルデア幹部と遠征隊幹部がモニタリングするんだよ。心配ないさ。話を戻して、魔力の確保が終わったら、立香のサーヴァントへの契約枠の増設だね。』

 

立香はロマンの話を聞きながら、不安のせいで早くなった脈を鎮めるために深呼吸する。

 

『立香君の持つ枠は、今オルタさん達で埋まってる。マリーさん達と契約するには増設するしかないんだよ。トリスメギストスの試算では、立香君が特異点で存在を確立させられる限界は6騎だね。現地にいるサーヴァントは聖杯によって存在が確立されているからいくらでも契約できるよ。』

「どういうことですか?」

『まあ、カルデアから連れて行けるサーヴァントは6騎、現地での契約は無制限って感じ。これ以上は専門用語満載になるよ。』

「...いいです。」

『じゃあ、始めるよ。アワン副隊長お願いします。』

『はい、立香さん目を瞑ってください。心を落ち着けて〜。じゃあ、非挿入型基点の活性化を。』

 

立香の周りで待機していた隊員達が一つ一つ声に出し確認しながら、立香に繋がる装置のレバーを上げていく。すると機械からコードを伝い、立香に光が流れ込んでいく。

 

『今から魂に干渉しますね。少し怖いかもしれませんが落ち着いて。まずは意識に干渉する為に立香さんを無意識の領域に落としますね。』

 

立香は目を瞑ると、海の中にいる気分になった。海の中で日が差し込み輝く水面を眺めているような、ゆったりとした気分になってきた。

 

『では、私は集合的無意識から立香さんに干渉しますね。3...2...1...お休みなさい。』

 

立香が精神の海の中で漂っていると、腕に掴まれた。立香が振り解こうとするも数多の腕がさらに立香を掴み、深海へと引きずり込んで行く。

 

『立香さんの精神を安定状態にしました。作業を始めてください。効果は朝までの7時間。任意のタイミングで解除できます。』

『ご苦労、イザイラ。さあ、ロマン、ダヴィンチやるわよ。』

『はい、僕は健康状態のモニタリングを。』

『私は汲み上げ量の調節だね。』

『貴方達もしっかりやりなさい! 遠征隊にカルデアはサボってるて、陰口を叩かれるわよ!』

『『『『はい、所長!』』』』

 

オルガマリーはカルデラ職員に檄を飛ばした後、自分もコンソールに座り作業を始める。

 

 

 

 

マックスは立香の作業が終わり、テントの外に出る。自分の仕事も終わりする事がないので銃に整備でもしようかと考えていると声が聞こえた。

 

「マックスさん、コッチです。」

 

焚き火の側にマシュ達サーヴァント組がいた。マシュはテントの入り口で考え事をしていたマックスに声をかけた。マックスはマリーとアマデウスに挨拶をしていないのを思い出し、マリーの元へ行く。

 

「貴方がマックス・アベル隊長ね。」

「はい、こうして面と向かって話すのは初めてでしたね。本官はマックス・アベル。カルデア特異点遠征隊隊長の職を任されております。」

「ご丁寧にどうも。私はマリー・アントワネット。以後よろしくお願いします。」

「僕の名前はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。マリー共々よろしくね。

 

マックスは深々とお辞儀をし、マリーもスカートを掴み優雅にお辞儀をする。

 

「そこに座れよ。」

 

クーフーリンは空いていた丸太にマックスを座らせる。マックスは座るとベルトポーチを漁り、箱を取り出す。

 

「どうですか?」

「私は大丈夫ですよ。」

「俺は貰う。」

「私も貰おう。」

「僕も。」

 

アマデウスとクーフーリン、オルタはマックスが差し出したシガレットケースからタバコを取る。マリーとマシュは少し口寂しそうだったので、マックスは近くの食料箱からマシュマロを取り出して差し出す。

 

「火を。」

「俺結構だ。自前がある。」

 

マックスはアマデウスとオルタのタバコに火をつけ、クーフーリンにも差し出したが、クーフーリンはルーンで火をつける。マシュ、マリー、茨木は小枝にマシュマロを突き刺して、焚き火にかざしていた。

 

「随分揃ったな。」

「遠征隊は兵種で言えば、機械化歩兵ですから、全員が乗れるだけの装甲車が必要なので、この規模になっております。」

 

チェンタロウⅡ戦闘偵察車 6両、BTR-90装甲兵員輸送車 12両、 M939 5tトラック12台、ハンヴィー3両、MH-6 リトリバード12機、特別車1台、偵察用オートバイ多数。それらがズラッとマックス達の前に並んでいた。

 

「効くのか?」

「砲口に石を投げ込むのはやめて下さい、筒内爆発を起こします。まあ、ワイバーンには効くでしょう。サーヴァントは...120mmが効かなけれ諦めます。」

 

茨木は砲口に石を投げ込んでいたが、マックスに取り上げられる。マックスは近くに通りかかった隊員に声を掛け、砲身の掃除をさせる。

 

「ところで、あの車はなんですか? 少し違うようですが。」

 

マシュが指差した車は6輪ハマーをふた回り大きくしたような物で、刻まれた魔法陣の放つ魔力の濃さも違った。

 

「あれは特級要人護送車ですよ。層一枚一枚に防御陣を刻んだ厚さ30cmの複合装甲に覆われ、対生物・化学兵器、対衝撃、対放射線、対魔力汚染.etc。ありとあらゆる物からマスターを守るモンスターマシンです。技術局局長の話ではバンカーバスターの直撃にも耐えられるらしいです。」

「聞くだけで過ぎそうですね。」

「乗り物としては、世界一安全と言えますね。ただし、スペースの関係で、一切の攻撃手段を持っていません。」

「どれ試すか。」

「やめて下さい! あれ一台で主力戦車2両買えるんですから!」

 

剣片手に立ち上がるオルタの腰のリボンを掴み、マックスが必死で止める。

 

「冗談だ。離せ。服が脱げる。」

「申し訳ありません。今直します。」

 

オルタはマックスを蹴り飛ばし、引き剥がす。マックスは立ち上がり、オルタの形の崩れたリボンを綺麗に整える。

 

「私の記憶では、主力戦車は平均で8億円ぐらいだったと思うのですが。」

「そうですね。」

「あの護送車一台で16億円。守護者の予算って何処から出るんですか?」

「守護者の持つ企業の利益です。」

「企業ですか?」

 

マシュの疑問にマックスは懐中電灯の様なもので地面に企業のロゴや商品の画像などを投影し、説明する。

 

「守護者の表の顔は色々な分野に事業を展開している超巨大多国籍企業です。そのタバコも企業が持つ農園の最高級品ですよ。」

 

オルタ達は自身の持つタバコを眺める。クーフーリンの中にボンヤリとある、どっかの港で釣りをしながら吸ったタバコの記憶よりも数倍美味しい。クーフーリンはしっかりと思い出そうとしたが、謎の頭痛と共に"回転して突撃する蒼い槍兵(ブーメランサー)"と言う謎の単語が頭に浮かんだので、思い出すのをやめた。

 

「守護者は企業の利益で成り立ってますよ。時計塔から出る予算だけでは、武器の維持は不可のですからね。」

「企業ですか?」

「マリー殿には、リキニウス商会と言った方がよろしいでしょうか。」

「あぁ、あのお城に美術品と嗜好品を卸していた老舗の貿易商の。」

 

マリーはよく城に出入りしていたイタリア系の商会を思い出した。

 

「だてに2000年存在しているわけでは無いですからね。世界中に持つ祖先代々の人脈で事業がスムーズに展開できますから、今も成長を続けてますからね。私も表の顔は、民間警備部門の最高責任者です。」

 

企業の枝分かれした分野一つが浮かび上がり、マックスの表の個人情報が表示される。経歴には初陣のイラン・イラク戦争から様々な戦争に行っている事になっていた。

 

「そう言えば、企業の武器はないんですね。どれも他の会社の武器ですよね。」

「遠征隊は国連の要請でカルデアに来たので、西欧財閥と国連理事国から武器の提供されてますから、企業の武器を持ってくる必要がなかったんですよ。一応、企業の武器もありますよ。どれも実験の為に持ってきた試作型ですけど。」

「へー、例えば?」

「試作型対艦電磁加速砲とかですね。」

「対艦...電磁加速...砲?」

「某国家からA国の空母の原子炉を撃ち抜く砲が欲しいと言われ開発した奴です。」

 

そのまま、それぞれの思い出話をマシュに披露していると、遠征隊が設置した対空レーダーの赤いランプが灯る。

 

 

ウゥゥ〜〜〜〜〜!

 

 

神経を逆撫でし、聞く者全てを不安にするサイレンが拠点中に響き渡る。マックスは持っていたタバコを焚き火に中に投げ捨て司令部に走っていく。サーヴァント達も立香の元に向かう。

 




マジで、原作のオルレアンでマシュが言ってた15騎での聖杯戦争の痕跡って何でしょう?数的に fate/ apocrypha なんでしょうけど、FGOでの聖杯戦争は冬木の一回だけらしいし。紅葉餅が調べてもよう分からんので、何か知ってたら教えてください。

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