カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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第2部の2章が発表されたのに、紅葉餅はまだ一部の一章の始め部分。FGOが終わる前に、完結できるか心配になってきました。

一話1.4万文字って長いですかね?


英雄と兵士

 

「ふふ、頭がおかしくなりそう。あの日の絵画を見てるみたい。裏切られて武器を向けられている私。なんて、惨めなんでしょう。」

 

マックスは近くにいる立香をサーヴァント達がいる方へ押しやり、拳銃の安全装置を()()、先頭に立つ邪ンヌに銃口を向ける。

 

「敵性サーヴァント、魔女ジャンヌ・ダルク。他四騎視認。全隊員は遅滞戦闘に移行せよ。マスターを逃すぞ。」

 

撤退路を確保していた隊員達が裏路地を通り、サーヴァント達が睨み合う広場に集結する。隊員達は路地や廃屋の中に身を隠し、攻撃指示を待つ。

 

「見てよジル! あの哀れな小娘を! 馬鹿は死んでも治らないと言うけど、本当みたいね! また、仲間に武器を向けられて、裏切られているわ!」

「あの2Pカラーが魔女なんかねぇ。」

「属性的には私と同じだな。さしずめ、ジャンヌ・オルタといったとこか。」

「吾が道を作ったというのに。何故、逃げぬ。」

 

隊員達から敵サーヴァントの襲撃の伝達を聞いたオルタ達は、屋根を飛び越えて広場に着地し、集結する。立香率いるカルデア特異点遠征隊100名、サーヴァント5騎。邪ンヌ率いるサーヴァント4騎、ワイバーン約60匹。2勢力がオルタの嘲笑をBGMに睨み合う。

 

「ちっぽけね! 同情すら湧かないわ! 仲間に武器を向けられても、仲間だからと狂信的に信頼するなんて...ふざけるな‼︎」

 

怒り狂う邪ンヌは体から炎を吹き出し始める。ウラドなどの邪ンヌに従うサーヴァント達は炎に、迷惑そうな顔をして距離を取る。

 

「貴方は...貴方は誰ですか⁉︎」

 

邪ンヌの嘲笑に固まっていたジャンヌが、自分を嘲笑う自分そっくりの誰かに震える声で聞く。邪ンヌは嗤うのを止め、憎悪に濁った目をジャンヌに向ける。

 

「立場を理解していない様ですが...いいでしょう。冥土の土産というものです。私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ。もう一人の私。」

 

邪ンヌの"蘇った"と言う言葉にマックスが反応し、敵を見る目から観察する様な目に変わる。

 

「...貴方は聖女では無い。私がそうでは無いのと同じ様に...街を襲うのは何故です。」

「何故かって? フランスを潰すために決まってるじゃない。」

 

邪ンヌは今更と言う顔で、ジャンヌを見る。

 

「何故、こんな国を救うおうと思ったのですか? 何故、こんな愚か者達を救おうと思ったのですか?」

 

邪ンヌの言葉に歴史に詳しいオルガマリーやロマン、歴史の裏側を知り尽くしているマックスも納得してしまう。

 

『フランスは色々とやばいからね。箇条書きが不可能なくらいの多い税金とか。』

『共和制になったり、再び王政になったり、今も混乱中だしね。』

「今のフランスにも中東にも守護者は関わっていませんよ。文化財の破壊とか、あれでどれだけの予定が狂ったと思いますか?」

 

ジャンヌと邪ンヌの会話が続くので、この時間を利用してサーヴァント達のデータを集めているカルデア幹部達は些か手持ち無沙汰になり、雑談を始める。

 

「私が話しているのよ。うるさい蠅は引っ込んでなさい。」

『コンソールが燃えた!』

『服に火が! 誰か消して!』

「おっと...危ない。」

 

邪ンヌは雑談が気に食わなかったのか、マックス達を睨みつける。ロマンは情報収集のためにいじっていたコンソールを燃やさる。オルガマリーは服の背中に火がつきカルデアで留守番している後方部隊の隊員に消火器をぶっかけられていた。マックスも足元に火がつくが、横に跳んで避け、足を振ってズボンについた火を消す。

 

「...貴方は本と「長い。」

 

長い会話に飽きたオルタが剣を抜き邪ンヌに向かう。茨木もアイデンティティの炎を邪ンヌに奪われたと思ったのか、全身から炎を吹き出している。クーフーリンは立香に茨木の火が行かないようにルーンを刻んでいる。

 

「そうね。いくら話しても私の心は変わらないわ。最も分かりやすい原始的な方法で、己の意思を押し通しましょう。」

「本当に...それしか無いのですか?」

 

ジャンヌは最後に戦いを避けられないか尋ねる。

 

「まだ、全員が幸せになれる物語があると思っているのですか? これだから、残りカスはメンドくさい。」

「残り...カス?」

「ええ、貴女はルーラーでも無ければ、ジャンヌ・ダルクでもありません。私の捨てた残滓です。」

 

ジャンヌは自身の不完全なルーラーの機能、知識に説明がつくと共に、マジマジと自分はただの残滓にしか過ぎないと言う事実を突きつけられる。

 

「最後にジャンヌ・ダルク。一つ聞きたい。」

 

ジャンヌの会話が終わったが、部隊の配置が終わっていないのでマックスは少し時間を稼ぐ事にした。邪ンヌはまだ話が続くのかとウンザリした顔をする。

 

「裏切り者の告解は不要よ。その裏切りの罪は何をしても消えないわ。」

「罪や赦しなんぞには興味はない。"蘇った"とは?」

「そのままの意味よ。私は死んだけど蘇った。まさに聖女ね。」

「方法は?」

 

邪ンヌは少し考えた後、思いつかなかったのか自身の信仰を口にする。

 

「神がそうさせたのでしょう。」

「そうか...知らないのか。」

 

マックスはとても、とても残念な顔をした後、右手で配置につき終わった隊員達に合図を送る。合図を受けた隊員達は銃を構え、路地裏、廃屋の窓、瓦礫の裏から銃口を覗かせる。

 

「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘と裏切り者を始末しなさい。この位いれば貴方達の腹も少しは膨れるでしょう。」

「よろしい、血を戴こう。」

「いけませんわ王様。血は私に。」

「では、余は魂を戴こう。」

 

邪ンヌは自身は高みの見物をするつもりなのか、邪ンヌの側に控えていた二人のサーヴァントに任せ自身はワイバーンで空高く舞い上がる。マックスは邪ンヌを観察しながら、遠征隊基地に通信をする。

 

「ジャンヌ・ダルク・オルタを守護者最優先任務検体と認定。映像記録、魔力波形、詳細にデータを収集せよ。」

『了解しました。全センサーを魔女ジャンヌ・ダルクに集中させます。』

 

サーヴァント達が斬りかかるのを合図に、遠征隊100名の持つ拳銃から邪ンヌ達に向けて一斉に弾丸が放たれる。エリザベートはアイアンメイデンを盾にし、ヴラドはスピードを生かして跳ね回りながら避ける。

 

「アサシンにはクーフーリン、ランサーにはオルタ。マシュは私を守って。ジャンヌ、茨木はワイバーンの相手を。」

 

立香も戦闘が始まったのに素早く反応し、サーヴァント達に指示を出す。

 

「クーフーリン殿とオルタ殿には30人ずつ! 他はワイバーンとマスター殿の援護だ!」

 

マックスは立香の指示を最適化し、隊員達に指示を出す。

 

「いいか! 勝つな(・・・)! 絶対に勝つな(・・・)!」

『な⁉︎ どうしてよマックス! 聖杯を持ってるのかもしれないのよ!』

 

オルガマリーはマックスの敗北主義とも取れる発言に驚き、怒鳴る。

 

「こちらが勝ちそうになったら、他のサーヴァントが参加してきます。そうなったら戦線の崩壊です!」

 

マックスは瓦礫に隠れ、腕だけを出してヴラド達に射撃する。

 

『じゃあどうやって戦闘を終わらせるのよ!』

「今考えてます! 逃げる事が前提で、この様な戦闘は予想していませんでした!」

『それでも隊長なの⁉︎』

「戦闘したら負けるって、簡単に予想できましたから、撤退計画を優先していたんですよ! 聖処女め、指揮系統を乱して!」

 

マックスは立香に迫るワイバーンに弾丸を叩き込みながら、指揮系統と作戦計画を大きく乱したジャンヌに苛立ちを募らせる。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ...近づけん。」

 

ヴラドは広場を高速で走っていた。

 

「弾幕を張れ! 動きを止めろ!」

「クソ! 当たんねぇ!」

 

瓦礫の隙間や廃屋の窓、裏路地など至る所でマズルフラッシュが見え、弾丸が立香を狙うウラドに殺到する。ウラドが1秒でもその場に止まれば、撃ち抜かれ無いだろうが弾丸の雨に動けなくなり、その隙にオルタに斬り殺されるだろう。

 

「そんなに光っては、此処にいますよと言っているものだ。まずは、一人。」

 

ウラドが手に持っていた槍をマズルフラッシュが見てた路地に投げ込む。

 

「うがぁぇえあげぁぁ...ぁ...」

 

槍に突き刺された隊員は吹き飛び、壁に縫い付けられる。突き刺された隊員は、飛び出るほど目を見開き、ガクガクと体を震わせながら槍を抜こうともがく。

 

「今抜いてやるからな!」

 

他の隊員が槍を抜いてやり、突き刺さっていた隊員を下ろす。突き刺された隊員の安否を確認しようと胸元からドッグタグを取り出すと、ドッグタグは黒く濁った色をしていた。

 

「槍に当たるな! 魂を喰われるぞ!」

 

槍に刺された隊員は魂をヤスリで削られる様な激痛を感じながら死んでいた。

 

「影の様な魂だな。黒く濁り歪みながらも、中身がない。ただ二人の為に尽くすだけの暴力装置。まさしく影だな。」

 

ウラドは瓦礫に身を隠すと、己が喰らった魂の薄さに、不満な様で口を曲げる。ウラドは背筋に寒い物が走り、急いで瓦礫から離れる。

 

「逃げたか。」

 

瓦礫からは黒い剣が生えていた。剣が黒い軌道を残し瓦礫を切り裂くと、粉塵の中から隊員を引き連れたオルタが現れる。

 

「お前達はワイバーンを引き付けろ。彼奴は私がやる。」

 

オルタは隊員達にちょっかいを出してくるワイバーンを始末する様に指示する。隊員達は頷くと周囲に散っていく。

 

「貴様はランサーで、私はセイバー。意味は分かるな。」

「余はバーサーク・ランサー。有利不利など考えずに、ただ戦う事を求める。お前も王なんのだろう。一騎打ちと行こうか。」

「首を切り落として、晒してやろう。」

「塩漬けにしなくていいのか?」

 

オルタとヴラドは余波で瓦礫を吹き飛ばしながら、目にも止まらないスピードの戦闘を始める。

 

 

 

 

 

エリザベートは大きく跳躍すると、上空から贄を選ぶ。

 

「ヴラド様も楽しんでいるようですね。なら私も、私の流儀で楽しみましょう。」

 

バートリーは隊員達の真ん中に着地すると鎖を振るう。隊員達は盾やナイフで防ごうとするが、鎖はそれらを豆腐の様に切り裂き、隊員達の首を撥ねる。首の切り口から吹き出す血を全身に浴び、エリザベートは目を細める。

 

「婦人にそんな物を向けるなんて...悪い紳士ね。」

 

エリザベートを囲んでいた隊員達の胴体が崩れ落ちると、エリザベートはその影から自身に迫る隊員が見えた。隊員は仲間の死体で死角になっている位置から一気にエリザベートとの距離を縮めていた。

 

「でも...そこは私の位置よ。」

 

エリザベートは鎖を引き、アイアンメイデンを盾にする。隊員はエリザベートの動作についていけず、アイアンメイデンに自ら飛び込むことになった。隊員は拳銃を抜き、一矢報いようとするが、無情にもアイアンメイデンが閉まる。

 

「どんどん血を流しなさい。それが私を永遠にさせるわ。」

 

エリザベートはアイアンメイデンから垂れ下がり、血の滴る手を愛おしそうに撫でると次の獲物に向かう。エリザベートが背を向けると、アイアンメイデンから垂れ下がっていた手が動き、握っていた拳銃をエリザベートに向ける。アイアンメイデンの中からは、無機質な殺意を込めた目がエリザベートを見つめていた。

 

「紳士は、潔いことも大切よ。」

 

エリザベートはアイアンメイデンの中の動きを鎖から感じ、もう一度鎖を引く。さらに強く閉じたアイアンメイデンから血が吹き出る。拳銃から弾が放たれる事はなく、隊員の手が再び垂れ下がり、手から拳銃が零れ落ちる。

 

「さて、次は...」

 

エリザベートが次の獲物(若さ)を求めて周囲に目を向けると、足元が光り炎が吹き出る。エリザベート直ぐ様に横に跳ぶが、服の端が一瞬で灰になる。

 

「私の相手は貴方?」

「ああ、そうだ。焼き尽くしてやるよ。」

 

クーフーリンはルーンを展開しながら、エリザベートに近づく。クーフーリンに従っていた隊員達も半円状にエリザベートを囲む。

 

「貴方の血は質が良さそう。どれ位、私を綺麗にしてくれるのでしょう。」

「あ〜...俺は本当に、ろくな女に合わない。今回のマスターはましか? いや...後で変な風に覚醒しそうな予感がする。」

「伝承読むと貴方にも原因があるかと...それよりも、クーフーリン様、我々は。」

「10人付いて来い。後は...マスターを守れ。」

 

クーフーリンは隊員達に強化のルーンを刻んむと、エリザベートに火を叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

立香はワイバーンに集中的に狙われていた。どちらかと言うと邪ンヌがワイバーンにジャンヌを集中的に狙うように指示したので、巻き添えでワイバーンに(たか)られていた。

 

「グヌゥゥゥ...ヒラヒラ飛びおって当たらん!」

 

ワイバーンは空を飛び周り、茨木の剣の当たらない所で隙を狙っていた。茨木は手の届かない所で飛び回るワイバーンに降りて来いと怒鳴る。遠征隊も撃ってはいるが、ワイバーンを死に至らせる程のダメージは与えることができず、牽制にしかなっていない。

 

「マスター! 遠征隊を集めて下さい! 彼らの武器に祝福を授け、強化できます!」

 

ジャンヌは遠征隊の弾丸がワイバーンの鱗に火花を散らしているだけなのを見て、祝福で強化できると提案する。周囲にいた隊員達は、早く言えと思うがそれよりもワイバーンと射撃に集中する。

 

「本当⁉︎ 分かった直ぐに集める!」

 

立香は近くの隊員達に集める様に告げる。隊員は直ぐに瓦礫に隠れ、無線でマックスに連絡する。

 

『祝福か...選ぶ暇はない。第1分隊1班から順次、ジャンヌ殿の所に集合。武器に祝福を受けろ。』

 

順々に隊員が集まり、ジャンヌが祝福を授けて行く。祝福を授ける時、隊員達は全身を針で刺される様に感じたが、歯を食いしばり耐える。

 

「おおう...反動が減った...なんか撃ちにくい...」

「やっぱ慣れた反動が無いとタイミングズレんな...」

「口動かさないで早く撃て!」

 

隊員達は祝福の結果、拳銃の威力が増しワイバーンに対して通常弾でもダメージを与えられる様になった。しかし反動が減った結果、数十万発撃って身に染み込ませた銃の癖との差が出て、若干扱いに戸惑っていた。

 

「祝福が有っても当たらなければ、どうて事ないのだ! 誰かワイバーンを地面に落とせ! マスター令呪を寄越せ! 宝具を撃ち込んでやる!」

 

茨木は今だにワイバーンに攻撃が当たらず(わめ)き散らす。宝具の羅生門大怨起であれば忌々しいワイバーンを直ぐに握り潰せる事も茨木を苛立たせる。

 

「茨木様!」

 

隊員はバレーのレシーブの様な体勢になり茨木を呼ぶ。

 

「ん?...!...しっかり構えてろ!」

 

茨木は一瞬"何やってんだあのバカは"と思ったが、隊員が何をしたいか理解し隊員に向かって全力疾走をする。

 

「真上に上げよ!」

「Yes! Ma'am!」

 

茨木は隊員の手に飛び乗る。隊員は満身の力を込めて上に投げ飛ばす。ホムンクルスの肉体を持つ遠征隊は、50kgしかない茨木を投げ飛ばすのは容易だった。

 

「いい感じだ!」

 

茨木は投げ飛ばされた先にいたワイバーンを鎌鼬(かまいたち)のように、大剣で切り裂いて行く。

 

「上を見ろ! もう一度だ!」

 

茨木は体勢を整え、隊員がいる所に落ちる様に調節する。隊員は何事かと見上げて茨木に銃を向けるが、直ぐに全てを察する。隊員は銃を投げ捨てて、先ほど茨木を空に打ち上げた隊員と同じ様に構える。

 

「もう一丁!」

 

茨木は隊員の手に上手く降りる。茨木は自身の踏ん張りと隊員が投げ飛ばすタイミングを合わせ先ほどよりも高く飛ぶ。

 

「今や、空は吾の領土! 見下ろす事は許さん!」

 

跳んだ先にいたワイバーンをまさに鬼面毒笑といった顔で見ると、今までの苛立ちを込めてその頭蓋に大剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘は始まり、屍山血河は築かれる。

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まって僅か数分、遠征隊は多大な被害を受けていた。

 

「状況確認!」

『第1分隊生存14、死亡17、破壊2』

『第2分隊生存9、死亡23、破壊1』

『第3分隊全滅、死亡29、破壊4』

『遠征隊基地から各隊員へ、"傾き"は召喚サークルが築かれていないので実行できません。』

 

オルタの支援についた第3分隊はウラドとオルタの流れ弾で全滅し、その他の分隊も戦力として数えられない程の被害を出していた。

 

『本当に、どうやって収集をつけるの⁉︎』

「遠征隊は最早、足止めにもなりません! 待機中の他の分隊は⁉︎」

 

マックスは遠征隊の死体が散らばる広場から離れた所に遠征隊を一時集結させ、弾の再分配をしている。オルガマリーはどんどん減っていく遠征隊の残存兵力を見ながら、爪を噛んでいた。マックスも流れを変えることができず、死んでいく部下を眺めるしかできない。

 

「到着まで最低でも30分です!」

「間に合わんか...それよりも不味いぞ。」

 

マックスが広場を見るとヴラドやエリザベートに優勢に戦うサーヴァント達がいた。遠征隊も援護射撃するが、頭を出した瞬間、鎖が頭を引き千切っていく。

 

「負けそうなら、残りのサーヴァントも投入してくる。こっちの正規のサーヴァントは3騎、向こうは正規のサーヴァントが5騎。数で潰される。」

 

カルデアも全部で5騎いるが、2騎は半人前の

デミ・サー(マシュ)ヴァント、故障中のサーヴァント(ジャンヌ・ダルク)なのだ。聖杯という正規手段で召喚されたサーヴァントに一対一で勝つ事は難しい。

 

「隊長!」

 

マックス達が瓦礫の陰でサーヴァント達の戦闘を見守っていると、立香に現状報告に行かせた伝令が帰ってきた。

 

「マスターから指令。一点突破をし現状を打破、その後、戦闘エリアから離脱。」

 

マックスは直ぐ様に作戦がほぼ不可能と気づく。まず、現戦力で突破は難しい、敵にはワイバーンという素早い乗り物がある、敵に追撃された場合マスターを抱えるカルデアは十分に対処できない。

 

「作戦に一部変更。遠征隊は突破後、反転し敵サーヴァントの足止め。その間にサーヴァントはその脚力を持って、全力で離脱。」

「マスターに伝えますか?」

「...マスター殿には何も言うな。了解したとだけ伝えろ。」

「了解しました。」

 

マックス達が機会を伺っていると、ヴラド達がオルタ達に吹き飛ばされた。マックス達は素早く瓦礫から出ると立香の元に集まる。

 

「隊長さん...」

 

立香の元に集まったのは先ほどよりさらに数が減り、たった14人だった。他の隊員達は全員広場にできた血の池に沈んでいた。

 

「あの小娘達や雑兵を殲滅できないなんて、もしや恩情をお掛けになったのかしら。吸血鬼(バケモノ)らしくないですね。」

『吸血鬼...まさか、ヴラド3世か! ルーマニア最大の英雄! 通称"串刺し公"か!」

「人前で我が真名を露にするとはな。不愉快だ。実に不愉快だ。」

「良いではありませんか。悪名であれ忘れられないのであれば、私はそちらを選びます。」

 

ヴラドとエリザベートが罵り合いを始める。マックス達はヴラド達からは目を離さないようにしながら、落ちている拳銃を拾い弾倉を抜く。補給のないまま二度の戦闘を行なった結果、重度の弾丸不足に陥いった。死んだ隊員達の拳銃に残っている数発の弾丸も不要と切り捨てる事が出来ない。

 

「マスター...もう一人はおそらくエリザベート・バートリです。」

「確か...血の伯爵夫人だっけ。」

 

マシュが立香に敵に悟られないように盾で口元を隠しながら、もう一人のサーヴァントの正体を教える。立香はエリザベートの伝承を思い出し、逃げられなかった時の自分の未来を想像し身震いする。

 

「マックス、なんか役に立つ事、知ってら教えろ。」

 

クーフーリンはエリザベートを仕留めきれなかった事に焦りを抱き、何か決め手がないかマックスに尋ねる。宝具が使えれば一撃で仕留められるが、サーヴァントがまだ3騎もいる中で、宝具を使ったせいで立香がガス欠を起こせば戦闘もままならなくなる。

 

「ヴラド3世、オスマン帝国に断頭され死亡。エリザベート・バートリ、逮捕され獄中にて衰弱死。伝承を使って倒す事は、現状では不可能。」

「ヴラド3世、遺物収集対象者。収集品、槍林の穂先、ポエナリの折れた骨、帝国の断頭斧、スナゴヴ修道院の棺桶。」

「エリザベート・バートリ、遺物収集対象者。収集品、血染めのバスタブ、鉄処女の錆びた棘、告発者の証言集、狂人の従者達。」

 

隊員達はサーヴァントに関する情報と収集品を報告するが、どれも今は役に立ちそうにない。

 

「...もうやめなさい。」

 

今まで戦闘を静かに見守っていた邪ンヌがヴラドとエリザベートの争いを止める。

 

「貴方達は他の者より残忍ですが、だからこそ遊びができます。遊びでない残りの3騎に任せましょう。」

 

無傷のサーヴァント3騎が、戦線に投入される。

 

「まずい...突撃だ!」

 

オルタは敵が戦闘態勢に入る前に、立香の指示通り一点突破を仕掛ける。

 

「マシュさん、逃げて下さい! 私がこじ開けます!」

 

オルタ達とジャンヌは3騎に先制攻撃を仕掛け、敵が立香に狙い付けるの防ぐ。マシュは立香を抱えると、僅かな戦線の隙間から逃げ出す。

 

「茨木達は!」

 

抱え上げられた立香は未だに戦っている自身のサーヴァント達を置いていくのかと泣きそうな顔で尋ねる。

 

「令呪で呼び戻せます! 今はご自身の心配を!」

 

マシュの後について来ているマックス達が答える。マックス達はマシュがサーヴァントの全力を出しきれていないのと、戦闘で傷を負っていてそこまで走れないおかげで、なんとか追走できていた。

 

「あの森まで走って下さい。あそこには霊脈もあります。森に着いたら、令呪でオルタ殿達を呼び戻して下さい。」

 

マックスは遠くに見える森を指差す。立香が遠くに見える森に目を向けると、背後から低く冷たい声が聞こえ全身に鳥肌が立つ。

 

「逃げれると。」

 

マシュ達が振り返ると、立香達が逃げるのを見て追いかけて来た邪ンヌとエリザベートがいた。

 

「反転! 突撃!」

 

マックス達は追いかけて来ているの気づいた途端、残っていたマックス含め17人の隊員達が逃げるのをやめ、邪ンヌ達に向かって特攻する。

 

「隊長さん!」

 

マックス達がサーヴァントと戦っても、3秒も持たないだろう。しかし、3秒あればサーヴァントの足なら数十m移動できる。ならば、その3秒に命を賭けることに大いに意味があるとマックス達は考えていた。

 

「狙うは敵司令官のみ!」

 

隊員達は邪ンヌのみを狙い吶喊する。エリザベートは向かってくる隊員に鎖を突き刺し、捻り切る。

 

「邪魔をするな!」

 

遠征隊は誰か一人でも邪ンヌに届かせようと突破を図る。隊員達は立ちふさがるエリザベートに次々と殺され、邪ンヌに到達しても直ぐに焼き殺される。

 

「燃えろ!」

 

邪ンヌは目の前まで迫る遠征隊に火を投げつける。隊員は炎で体の前面が焼け焦げ、即死する。

 

「よくやった! 先に休んでいろ!」

 

マックスは焼けて崩れ落ちようとしている隊員を掴み、盾にした。そして未だ勢いの衰えない邪ンヌの炎を、体を焦がしながら抜ける。火を抜けると、火を投げつけた姿勢のままの邪ンヌに斬りかかる。

 

「フンッ!」

「雑魚が調子にのるな!」

 

ウォーハンマーで殴りかかるが、邪ンヌはウォーハンマーを掴み握り潰す。マックスは次の攻撃に移るが、邪ンヌの攻撃の方が早く、マックスは蹴り上げられる。

 

「...チッ」

 

マックスは今までに戦闘経験で無意識に仰け反っていた。しかし、避けきれずウォーハンマーを持っていた右腕が蹴り飛ばされ、弾け飛び辺りに肉片を撒き散らす。邪ンヌは首を獲ったつもりだったが、外した事に舌打ちする。

 

「⁉︎⁉︎」

「逃げれるとでも。」

 

マックスは後ろに下がって腰のナイフを取り出そうとするが、何かに引っ掛かったように体が引かれる。視線を下げるとマックスの左足が邪ンヌのハイヒールに串刺しにされ、軍靴から血が吹き出していた。

 

「さあ、次はどうしますか?」

 

マックスはその場で右足を軸にターンし、串刺された左足を引き抜く。ハイヒールが刺さったまま無理に引き抜いたのでマックスの左足は裂けていき、左足は真っ二つに裂けターンと共に丸く血をまく。マックスはターンしながらナイフを抜くと、回転の勢いを乗せて邪ンヌの首に向かって突き刺す。

 

「ほお。痛みも気にせずに戦う。いや、痛みを感じていないのですかね。」

 

邪ンヌ達、サーヴァントにはマックスの攻撃はどれも遅すぎる。いくら体をホムンクルスにして強化しようと、人生を戦闘に捧げようと、人は人なのだ。英雄には届かない。邪ンヌは冷静にナイフを、持っていた旗竿で弾く。マックスは左手を弾かれたので、手を大きく広げる様な体勢になり、体の全面を邪ンヌに差し出すことになった。邪ンヌは狙い放題のマックスに薄笑いを浮かべ、無防備なマックスの首を掴み力尽くで跪かせる。

 

「雑魚が英霊に勝てるわけないでしょ。」

 

マックスは引き剥がそうと残っている左手でもがくが、筋力Aの邪ンヌは微動だにしない。引き剥がそうと暴れるマックスに、邪ンヌは旗を地面に突き刺すと空いた手で心臓目掛けて貫手をする。

 

 

 

ズプッ ブチッ!ブチブチッ! グチュ...

 

 

 

立香はマックスの背中に心臓を見た。立香は自分に優しくし、目を掛けてくれていたマックスの悲惨な姿に悲鳴を上げ、泣きながら駆け寄ろうとする。しかし、マシュはマスターを危険に晒すわけにも行かず、立香を抱きとめる。立香はマックスに手を伸ばすが、マックスには届かず、()が溢れるのを眺めるしかない。

 

「いやあぁあああぁあ! マックスさん! 」

 

邪ンヌの手はマックスの心臓は抜き取り、胴体を貫通し背中から心臓を持って生えていた。外科的な強化もしているのか心臓からはコードが伸びていて、血を吹き出すと共に火花も散らしていた。

 

「私の邪魔をするから。」

 

邪ンヌは弱っていくマックスを眺めようとマックスの顔を見るが、そこには未だに燃え尽きぬ忠誠心があった。マックスは心臓を抜かれても、立香を傷つける邪ンヌの首を折ろうと左手を伸ばす。マックスは口から血を吹き出しながら、呪詛を吐く。

 

「我々...は...死なん。我々の...任務(不死)は...始まっ...たばか...り。再び...相俟つ...時には...貴...様を...殺...」

 

邪ンヌはマックスの忠誠心が、ジャンヌの盲信のように見えた。邪ンヌは首から手を離すと、ジャンヌの姿をマックスに被せながら顔面を何度も殴る。

 

「...神はあなた達には、神の国の門を開かれないわ。」

 

殴られながらも邪ンヌの細い首を折ろうとしていたマックスの手は、邪ンヌの首に微かに触れたがその首を折ることなく垂れ下がる。そして、遂に動かなくなった。

 

『遠征隊 100名の戦闘不能を確認。カルデア特異点遠征隊マスター護衛支隊全滅。データ収集対象者、ジャンヌ・ダルク・オルタの戦闘データは遠征隊大書庫に保管。』

 

邪ンヌのデータを収集していたイザイラは、立香に淡々と部隊の全滅を告げる。邪ンヌは手に力を込め、立香達に見せつけるようにマックスの心臓を焼き尽くす。邪ンヌが動かなくなったマックスに目を細め、口元を歪めている。

 

「どうしますか? 貴方の兵士は皆、死にました。次は何を犠牲にしますか?」

 

邪ンヌはマックス達の全滅に足を止めてしまったマシュと立香に、楽しそうに話しかける。マシュは自分が足を止めてしまっている事に気づき、急いで森に向かって走ろうとするとマックスの足元で何かが光った。

 

「何?」

「ガラスの...薔薇?」

 

マックスと邪ンヌの間にガラスの薔薇が咲いた。

 

「優雅ではありません。」

 

 

 

 

マックスの血で真っ赤に染められ、輝くガラスの薔薇は鮮やかな赤薔薇になる。

 

 

 

 

広場の血の池からも次々とガラスの薔薇が咲き、泥沼から花を咲かせる蓮の華を彷彿させる。

 

「どれも優雅ではありません。この街も、その戦い方も、思想も、主義もよろしくありませんわ。血と憎悪に縛られる貴方も。自分が死ぬ事がどんなに人を悲しませるか知ろうとしない兵士も。善であれ悪であれ、人間ってもっと軽やかで在るべきではないですか?」

『またサーヴァントだ! 何だここは⁉︎ 魔境か⁉︎ 魔境なのか⁉︎ サーヴァント反応が12騎もあるぞ⁉︎』

 

ロマンはまた現れたサーヴァントに絶叫する。ところで、サーヴァントが増えていくカルデアは一体何なのだろう。現在166騎のサーヴァントが座から呼び寄せられるが、全部のサーヴァントが揃ったカルデアは何と呼ばれるのだろう。いつかカルデアが舞台の特異点(イベント)が発生すると思う。

 

『あのサーヴァントは...多分まともね。魔女とも敵対している様だし。今の内に逃げましょう。』

「どうしましょう、先輩。」

「もう少し様子を見て...隊長さん達のドッグタグを集めてから逃げます。」

『マスター、逃げる時に一言、言ってください。敵の注意を反らせます。』

 

オルガマリーは邪ンヌの注意が逸れたので、さっさと逃げるように言うが、マックスを見捨てるなんて選択肢にはない立香はドックタグを回収する隙を伺うことにした。邪ンヌはマックスの死体をゴミのように放り投げると、地面から旗を引き抜き構える。

 

「サーヴァントですか。」

「ええ、そう。これが正義の味方として名乗りをあげる、というものなのね!」

 

新たに現れたサーヴァントはポーズを決める。凛々しくもあどけないポーズに、立香達はサーヴァントの周りに薔薇が舞っているように幻視した。

 

「貴方が誰だか知っています。貴方の強さ、恐ろしさも知っています。正直に告白すると、今までで一番怖いと震えています。」

 

サーヴァントは邪ンヌに近づきながら、邪ンヌを諭すように優しく話しかける。

 

「それでも!」

 

サーヴァントはビシッ! と邪ンヌを指差し、力強い眼で邪ンヌを見つめる。

 

「貴方がこの国を侵すのなら、私はドレスを破ってでも、貴女に戦いを挑みます。なぜならそれは...」

「っ...貴女は⁉︎」

「わりぃ、抜かれちまった!...マックス達は逝ったか。」

 

クーフーリン達の包囲網を抜けた、バーサーク・セイバーがサーヴァントを見て固まる。クーフーリン達はサーヴァント達を包囲するのをやめ、立香を守る為に立香の周りを囲む。クーフーリン達は瓦礫に中に捨てられているマックスを見て、顔を歪ませる。バーサーク・サーヴァント達も邪ンヌの周りに集まり、振り出しに戻った。違う点を上げれば、遠征隊が全滅していることぐらいだ。

 

「まあ。私の真名をご存知なのね。知り合いかしら、素敵な女騎士さん?」

「セイバー、彼女は何者?」

 

バーサーク・セイバーはサーヴァントから目を逸らし、口を固く閉ざす。邪ンヌは一向に答えようとしないバーサーク・セイバーに苛立ち、強い口調で命令する。

 

「答えなさい。」

 

バーサーク・セイバーは渋々命令に従い答える。

 

「彼女の精神の強さ、美しさは、私の目に焼き付いていますからね。ヴェルサイユの華と謳われた少女。彼女は...マリー=アントワネット。」

「はい!ありがとう、私の名前を呼んでくれて!」

 

マリーが満面の笑みになり、周りの再び薔薇が待っているように見える。と言うか実際にガラスの薔薇が舞っていた。

 

「マリー・アントワネット王妃⁉︎」

『なんだって⁉︎ あの有名な⁉︎』

『アントワネット王妃ね。もっとしっかりした人だと思っていたのだけど。少女みたいな人なのね...名前が被ってるのが少し引っかかるけど。」

『所長、サーヴァントが大量に集結しているからといって錯乱しないでください。王妃は守護者の記録とも一致しますね...服装を除いて。あと、遺物保管庫の首飾りを隠さないといけませんね。』

 

マリー・アントワネットの姿にマシュとロマンは驚き、オルガマリーは訳のわからない事を言い始め、イザイラは冷静に分析する。

 

「貴女の事を沢山知りたいし、色々言いたい事がありますがまずはこの人達を助けましょう。民を助けるは(王妃)の仕事ですから!」

 

マリーの合図にまたサーヴァントが現れる。

 

『また、サーヴァントだよ。もうマジィ無理ィ。マギ☆マリに相談しよ。"サーヴァントがいっぱいいます。どうしたらいいですか?"。早速返信だ! なんだって、"英雄って自由な人ばっかりだよね! 飽きていなくなるのを祈って☆"。ダメだ...どこにも救いがない。』

『誰かロマンを医務室に。こいつが医療班長だった。』

 

ロマンはサーヴァント大集合に心が折れる。オルガマリーの指示に保安員達がロマンを抱え、仮眠室に連れていった。

 

「この街には鎮魂が必要ね、アマデウス。機械みたいにウィーンとやっちゃって!」

 

マリーの合図で現れたアマデウスは、宝具を開帳する。

 

「任せたまえ、宝具『死神にための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

アマデウスの宝具に邪ンヌの側にいたバーサーク・サーヴァント達が耳を塞ぎ苦しむ。

 

「くっ! 重圧か...!」

「っ...!」

 

邪ンヌ達を止めたのを確かめたマリーは、立香達に近付いてくる。立香は邪ンヌ達の動きが止まったのを見て、涙を振り払うとオルタ達に指示を出す。

 

「皆さん逃げましょう! 」

 

オルタ達は身構えたが、敵意も何も発さずポワポワした雰囲気に戻ったマリーに警戒を解き、立香を抱えて森に向かって走り出す。

 

「では、御機嫌よう皆様!オ・ルヴォワール!」

 

マリーは一度止まり振り返ると、邪ンヌ達に挨拶をして立香の後を追いかける。しかし、立香はマックス達が置いて行かれていることに気づき、右手を掲げ令呪を使う。

 

「待って逃げる前に! 令呪をもって命じます『遠征隊のドッグタグを今直ぐ全て集めなさい!』」

 

立香の令呪にオルタ達は戸惑うが、体が勝手に動く。マリーもなぜドックタグを集めるのかわからず首をかしげる。

 

「え⁉︎ ちょ...まじ⁉︎ 戻んの⁉︎」

「令呪だ。さっさと集めるぞ。」

「吾に任せ、マシュはマスターを抱えて先に逃げておれ。」

 

オルタとクーフーリン、茨木は己の全力以上の速度で走り、街中に散らばる遠征隊の死体から100枚のドッグタグを回収する。マシュは茨木に言われた通り、立香を抱きかかえ走る。

 

『ドックタグの回収を確認。錬金術式を起動。援護します。当戦闘地域から急いで離脱して下さい。』

 

ドックタグを集めた立香達に追い付き、立香にドックタグを渡すと逃げ出す。しかし、宝具の影響が切れたのか邪ンヌ達が動き始めていた。

 

「僕の宝具はもう使えないどうするんだい?」

 

アマデウスは動き出、邪ンヌをどうしたら足止めできるのかと思考を巡らす。今のアマデウスは宝具を使い魔力が底を尽きかけていたので、連発することはできない。

 

『安心してください。その為の我々です。』

 

全速力で邪ンヌ達から距離を取ろうとする立香達の前の草むらから、沢山の人影が現れる。

 

「こちらです! 案内します!」

 

そこに居たのは遠征隊の隊員だった。前居た森に怪我人の為に最低限の人数を残して、隊員達は急いで駆けつけた来たのだ。立香達は遠征隊の案内に従い森の奥に逃げ込む。森に立香達が入ったのを確認すると遠征隊は任務を果たす。

 

「投擲用意! 投げ!」

 

遠征隊はマックス達の任務を引き継ぎ、邪ンヌ達の足止めをしようとする。隊員達は腕の術式を起動させると魔力の塊を生成する。そして、魔力の塊を邪ンヌ達の足元に大量に投げつける。

 

「爆破!」

 

邪ンヌ達は爆発と聞いて、逃れるために飛び退く。しかし、魔力は爆発することはなく代わりに、閃光と爆音を発生させる。

 

「脚を撃て!」

 

邪ンヌ達は視覚と聴覚を潰される。隊員達は機動力を削るために脚に向かって撃つが、邪ンヌ達は空気の動きと勘で弾丸を切り落としていく。

 

「効果は薄い、弾の無駄だ。マスター達も逃げたし、我々も引くぞ。」

「逃げるな!」

 

邪ンヌの叫びに反して、遠征隊は次々と草木に解けるように姿を消していった。そして、街には、邪ンヌ達を残して誰も居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪ンヌ達は視力が回復し、見渡すと立香達の姿は無かった。

 

「ライダー!」

「...何かしら。」

「追いなさい。貴女の"馬"の鼻なら血の匂いを纏った彼女らを直ぐに見つけられるでしょう。」

 

ライダーは"馬"を顕現させると、上空高く舞い上がっていった。邪ンヌがコケにさせられた事に舌打ちし、広場に散らばる遠征隊の死体をゾンビにして嫌がらせをしようと見渡す。広場に散らばる遠征隊の死体が急激に黄色くなり、そして茶褐色に変色していた。

 

「なにこれ。」

 

邪ンヌは変色していく死体に眉を顰める。邪ンヌは屈んで、死体を眺めるていると雑音の後、隊員の腹の位置からイザイラの声が流れ始める。

 

『コード入力。我々は全滅しましたが、任務は続きます。(不死)を求め、探求し続けます。その為には贄が必要。まずは貴女を贄としましょう。」

 

死体から電気の弾ける音がする。その瞬間、邪ンヌ達は衝撃波に包まれる。




いくら強化しようと兵士は兵士。サーヴァントに勝てるわけないですよね。やっと、遠征隊がサーヴァントにボコボコにされるシーンが書けました。サーヴァント対一般兵の一方的な戦いって、絶望感が溢れて良いですよね。

次もまた2、3週間後だと思います。

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