カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

27 / 31

一ヶ月ぶりです。申し訳ありませんでした。

忙しかったのと、ワイバーンの戦闘シーンが納得いかず投稿する勇気が出なかったからです。

戦闘シーンが下手でも、勘弁して下さい。文才と時間が欲しい。


聖女と賊軍

遠征隊の偵察班の情報で、砦までの道を見つけたマックス達は、立香からの提案で小休止を取っていた。

 

「どうやって砦で話を聞きます?」

「交渉しましょう。」

「こんなにボコボコにしといてですか?」

 

立香がマックス達にお願いして、フランス兵達を衛生兵が治療しているが、ボコボコにしといて今更仲良くしましょうなんて、虫のいい話が通じるとは思わない。

 

「我々はイングランド王国本隊に置いていかれた部隊で、この人質と代わりに休憩場所を求めると言えばいいでしょう。」

「うまく行きますかね。そこまで昔の人も馬鹿ではないでしょう。」

「それでは、部下を侵入させて砦の司令官を人質にとりましょう。」

「もっと穏便な方法でお願いします。」

 

マックスの提案に立香はあまり賛同できないが、他の代案も思い浮かばない。サーヴァント達は立香に一任すると言って、周囲の探検に行ってしまい相談もできない。立香がもっと良い案がないか、深く考え込んでいると、マックスがそこまで心配する必要は無いと声をかける。

 

「人質と代わりに休憩場所だけを求めるなら、向こうもダメとは言わないでしょう。」

「う〜ん...確かに場所を貸すだけなら無料ですし、人質も返ってくるし。向こうに損はない案なんですけど。」

「マシュ殿の言っていた通り身代金とかが、通用するほのぼのした戦争の時代ですからね。交渉が決裂しても直ぐに殺されると言う事は無いでしょう。」

 

立香は納得はいかないが理解し、決まった方針をカルデアに報告した。報告を受けたロマンと所長は、行き当たりバッタリの計画に苦い顔をする。

 

『うまく行くと思うの、マックスは? 下手したら砦の兵士たち全部を敵に回すのよ。すでにフランス兵を襲った後だけど。』

「戦闘になる可能性は低いと思われます、所長殿。砦の兵達に戦力的優位があると思わせ、油断させていれば平気でしょう。戦闘になっても、この時代の兵士ならば直ぐに鎮圧できます。情報の方は夜中にでも部下に侵入させて、盗ませます。」

『て言うか、そもそも、君達がイングランド王国軍って信じてくれと思うのかい? イングランド王国軍の鎧も着てないし、迷彩服だし。』

「その点に関しては、心配なく。遠征隊の旗は百年戦争の時に使いましたから、通じるでしょう。」

 

マックスの言葉に、所長とロマンはまたかと言う顔をする。

 

『...守護者は百年戦争にも首を突っ込んで、問題を起こしてたりする?』

 

ダ・ヴィンチの話のように、百年戦争に守護者が関わっていたのでは、と思いロマンは一応確認する。

 

「フランスに現れた聖人の調査に、支隊を派遣しただけで、戦闘には参加してません。」

『本当でしょうね?』

「1300年代はペストが大流行したので下部組織の壊滅と、時計塔や守護者支部の殺鼠作戦で、百年戦争に多くの人員を送る余裕がなかったと記録されていたはずです。」

 

所長とロマンはマックスの言い分と、過去の資料に矛盾が無いので不信感を和らげるが、紀元前から暗い事ばかりやっているらしい守護者の縁が、悪い意味で発揮されるか心配なって来た。ロマンは念のためもう一度確認する。

 

『本当に何もやってないんだよね? やだよ、地元民にいきなり襲われるのは。』

「大丈夫です。問題ありません。」

『ヨーロッパの殆どが、教会の影響下にあるんでよなぁ。聖堂教会とかを刺激しないかな?』

「両陣営ともペストで下部組織に甚大な被害を受けたので、互いに動こうにも動けない状態だったと、過去の活動記録に書かれていたので問題はないかと。」

『そうなの? 本当? でも、なるべく問題起こさないでね。』

 

マックス達はカルデアと方針の共有ができたので、砦への進軍を再開する。偵察隊の情報通り歩いて行くと砦が見えてきた。マックス達が砦に近付くと、砦が慌しくなっていく。

 

「哨戒部隊が帰って来たぞ!」

「捕まってるぞ⁉︎」

「動ける奴は、城壁に上がれ!」

 

砦の城壁の上にフランス兵が集まり、立香達に弓を向ける。マックスは一人のフランス兵を掴み持ち上げ、盾にして砦に近付き交渉をする。

 

「人質と交換に安全な場所が欲しい!」

「安全な場所?...お前らもあれから逃げて来たのか⁉︎」

「?...ああ、そうだ!」

 

マックスは砦の上に兵士達に話しかけ、交渉をする。マックスはフランス兵の言う"あれ"がよく分からなかったが、取り敢えず返事する。

 

「お前らを受け入れるだけの場所も人員も無い!」

「どうするか...ん?」

 

砦に近付いた事で、()()()()()匂いが砦の中からすることに気づいた。

 

「これは、血の匂い...怪我人がいるなら、こちらは軍医を提供できる!」

 

強烈な血の匂いに気づき、遠征隊の衛生兵の提供を提案する。人質の解放に、軍医の提供と言う手札を加えて、マックスは再度交渉をする。

 

「軍医...ちょっと、待ってろ!」

 

門の上にいた兵士が砦の中に入っていった。その様子を見て、立香は上手くいったのか、隊員に通信機を借りてマックスに話しかける。

 

『上手く行きました?』

「中から血の匂いがします。ウチの衛生兵を交渉材料にしました。』

『中から血の匂いですか? 誰か怪我してんですかね?』

「結構な血の匂いですから、かなりの人数が怪我をしているはずです。こんな辺境の砦なんかには、まともな軍医なんて配属されませんからね。中は怪我人で溢れてるはずです。」

 

しばらく待っていると、兵士が戻ってきた。

 

「軍医と指揮官とその護衛は立ち入りを許可する! その他は城門の前で休む事を許可するそうだ!」

 

砦からの許可が出たので、立香達は砦まで行く。砦に近付くと、砦の異常さがハッキリしてきた。

 

「これは...酷い、ですね...」

『中がボロボロじゃないか...外壁はそこそこ無事だけど、砦とは言えないぞ、これ。』

「砦を落として拷問しても、良かったな。」

『マックス、聞こえてるわよ。』

 

マシュは砦に近付けば、城壁の上の防衛兵器が焼け落ちていたり、壁自体が崩れていて木で補強されていたり、この砦の異常さがよく分かった。

砦の門が開き、マックス達が砦に入ると、砦の中の広場には、傷付いたフランス兵達が大量に転がっていた。

 

「...衛生兵は兵士達を治療しろ。」

 

マックスは中の不衛生な環境に眉を顰める。衛生兵と隊員達は負傷兵の元に行き、包帯の取り替え、縫合、骨折の治療などを手早くして行く。

 

「戦争中ではないではずなのに...1431年にフランス側のシャルル4世とイギリス側についたフィリップ3世と休戦条約を結んだはずです。」

 

明らかに大規模な戦争した後の傷付いた兵士達に立香は手で口を覆い、言葉を失っていた。

 

「そちらの指揮官はどなたかな?」

 

他の兵士とは違い、装飾のついた鎧を着た壮年の男が立香達の所にやって着た。鎧は汚れで燻んでいたが、本人から放たれる軍人としての誇りは燻んでおらず、この砦の司令官である事を語っていた。

 

「はい、私が指揮官です。」

「ほう、君がかい? そこの男だと思っていたが...」

「指揮官は私ですけど...指令は隊長さんが。それよりも、どうしたのですかこの砦は?」

 

司令官は広場に転がる負傷兵を眺める。その負傷兵を見つめる目は、虚無感で溢れていた。司令官は溜息を吐いた後、立香に向き直り話す。

 

「見ればわかる通り、兵は皆傷つき、戦う気力が無いほど萎えきっているのだよ。」

「シャルル4世は休戦を結ばなかったのですか?」

「シャルル陛下か? 知らんのか、あんたらは? まあ、こんな危険地帯に放置されるような部隊に情報が回ってなくてもしょうがないか...陛下は崩御された。魔女の炎に焼かれたよ。」

「「『『え?』』」」

 

話を聞いていた立香やロマン達が驚きの声を上げ、マックスは無線で部下に砦の兵に聞き取りするように指示を出す。

 

「...死んだ...? 魔女の炎に、ですか...?」

「ああ、ジャンヌ・ダルクだ。あの方は"竜の魔女"となって蘇ったんだ。お前らのイングランド本隊は、とうの昔に撤退している......だが、俺らは何処に逃げればいい? ここは我々の故郷なんだ。見捨てる事なんて出来ない。」

 

司令官は砦の外に並ぶ、杭が刺さっているだけの、もはや誰が埋まっているか分からないほど見すぼらしい部下達の墓を、見て唇を噛みしめる。

 

「ジャンヌ・ダルクが、魔女ですか...? 聖女だったはずです...魔女だったと言う伝承は無いわけではありませんが。」

 

マシュ達が新しく重大な情報に首を傾げていると、砦の半鐘が鳴り響く。

 

「敵襲ー!敵襲ー!」

「...ッ! 来た! 奴らだ!」

 

立香達と司令官は城壁に上がり、外の様子を確かめる。マックスは隊員から双眼鏡を受け取り、周りを見渡す。

 

『注意してくれ! 魔力反応だ! 少量の魔力と人体を用いた使い魔...骸骨兵だな。』

 

骸骨兵の軍団が、ゆっくりとした足取りで砦に近づいてきていた。マックスは下にいる隊員に合図を出した後、隣でフランス兵に指示を出していた司令官に話しかける。

 

「司令官殿、君の兵を傷付けた謝罪として我らに任してもらえないか?」

 

司令官はしばらく考えた後、腰に付けていた鍵をマックスに渡す。

 

「...武器庫から好きな物を持っていけ、使っていた奴は既に土の下だ。」

「感謝する...戦闘用意!」

 

マックスは城壁の上から外にいた隊員に大声で指示を出し、鍵を投げ渡す。

 

「武器を取ったら出撃だ!」

「隊長の命令が聞こえたな! 行け行け!」

 

隊員達は砦内の武器庫から、盾とメイスやウォーハンマーなどの打撃武器を受け取ると、出撃していく。

 

「弾は使うな! ...横陣3列用意!」

「「「「横陣3列!」」」」

 

隊員達は素早く横に3列に並ぶ。目の前に迫ってくる骸骨兵に狼狽える様子もなく、平然と並んでいる。マックスは通信機を握り、指示を出す。

 

『構え』

「「「「おう!」」」」

 

隊員達は中腰になり盾を構える。既に骸骨兵との距離は、十数mまでになっているが、誰一人敵の勢いに震える者はいない。

 

『突撃』

「「「「うおぉおおぉおぉおおお!!」」」」

 

波になった隊員は骸骨兵の先陣に当たり粉砕する。1列目は骸骨兵と戦闘を開始するが、後ろの2列は、1列目が押されないように支えるだけである。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

「問題ははありません。次の段階に移ります。」

 

一列目が骸骨兵をしっかりと抑えて、引き付けたのを確認すると

 

『第2、3列前進。包囲戦闘開始。』

 

2、3列が横に動き、1列目が戦っている骸骨を囲む。第3列は外側を向き敵の進行を抑え、第2列は内側を向き第1列と共同して囲んだ骸骨を粉砕していく。包囲された骸骨兵は簡単に粉砕されていき、急激に数を減らしていく。

 

『第1、2列反転。』

 

囲んだ骸骨を粉砕し終わった隊員達は、骸骨兵を抑えている第3列の後ろにつき、第3列を後ろから押しされないように支える。

 

『第1、2列前進。包囲開始。』

 

隊員は先ほどと同じ様に移動し、残っていた骸骨を全て囲む。しかし、攻撃をする様子はなくタダ攻撃を防いでいるだけだ。

 

「あとは、サーヴァント殿達に。」

 

立香が下を見ると、サーヴァント達が指示を待っていた。茨木は戦闘勝手に行こうとして、オルタに襟を掴まれていた。最初はクー・フーリンが茨木を捕まえたが、筋力差で茨木に引き摺られたのでオルタが変わりに掴んでいる。

 

「さあ、指示を。」

 

マックスは新しいサーヴァントの戦闘情報を得るために、獲物を残していた。立香はマックスとサーヴァントから見つめられ、骸骨に手を向け、指示を出す。

 

「マスターが命じます。あの敵を粉砕しなさい。」

 

サーヴァント達は、立香の合図で骸骨に向かって、一直線に突っ込んでいく。サーヴァントの接近に気づいた遠征隊は包囲(コロッセオ)の一部を開け、サーヴァント(剣闘士)の入場口を作る

 

「待ってたぜぇ。」

「消えるがいい。」

「血が滾る!文字通りな!!」

「戦闘です。マスター指示を。」

『サーヴァントが突入した。陣形を維持していろ。』

 

サーヴァント達は骸骨を粉砕していく。立香は一連の戦闘を眺めて、遠征隊実働部隊236人による規律の取れた行動に、鳥肌が立っていた。

 

「隊長さん。」

「何でしょう、マスター殿。」

「これが遠征隊なんですね。」

 

冬木の6倍の規模の兵士達による一糸乱れぬ集団行動に、一種の畏怖を抱いていた。

 

「至極恐悦であります。しかし、これは本来の遠征隊ではありません。武器弾薬、車両の支援を基地から受けて初めて本当の遠征隊となります。」

「皆さん、互いの行動を完璧に把握して、邪魔しあってないですね...私、日本に暮らしていたんで、こう言う軍人さんとかに慣れてなくて。なんか、怖いく感じるんです...日本って本当に平和だったんだ...」

「良い...いや...善いマスターの証拠です。その心を忘れない様に。」

 

立香は困った様な笑顔をマックスに向ける。マックスは立香の不安を払う言葉をかけるが、内心では立香を観察し、今後の方針を決めていた。

 

(力を恐れるか...善いマスターであるが、良いマスターではないな。優しすぎる。作戦の大半を秘密裏に行う必要があるな。もし人の死を見て、壊れられたら......ん?)

 

一瞬、マックスの目に温もりが灯ったが、そ火はすぐに掻き消され、何時もの何処か相手を監視する目に戻る。

 

(今、何を考えた?...まあいい、あれだ...困る。)

 

立香はマックスの冷たい目に気づかず、サーヴァントによる試合を見ていた。サーヴァント達は、触るだけで壊れるほど脆い骨の無い骸骨兵を倒す量を競い合っていた。

 

「流石、我が砦の哨戒部隊を壊滅させただけある。」

 

司令官は負傷兵を一人も出さず、骸骨の軍団を殲滅した遠征隊とサーヴァントに感心する。

マックスは遠征隊に骸骨兵の残骸を処理を命じ、サーヴァントには休憩するように提言した。サーヴァント達は、マックスの提言を受け入れ、砦に帰ってきた。

 

「ふう、疲れました。」

「これくらいで疲れちゃ、後が大変だぜ。」

「キャスターの言う通りだ。マシュには体力だ足らん。カルデアに帰ったら私が鍛えてやろう。」

「吾も参加してみたいぞ。そうだ、マックスも鍛えてやろう。生意気も治るはずだ。」

 

サーヴァント達は城壁の上にいた立香達の所にやってきた。マシュ達はマックスから水筒を受け取り、一息つく。

 

「あんた達、あいつら相手によくやるな。」

 

司令官はカラフルで女性だらけのサーヴァントに、立香のお飾りの護衛かと思っていたが、遠征隊以上の実力に驚いていた。

 

「...慣れです。それでは申し訳有りませんが、一から事情をお聞かせ下さい。ジャンヌ・ダルクが蘇ったのは本当ですか?」

 

司令官はジャンヌの話が出ると、眉を顰め苦々しい気持ちを抑えながら、話し始める。

 

「ああ。俺はオルレアン包囲戦と式典に参加したからよく覚えている。神や肌の色は異なるが、あれは紛れもなくかつての聖女様だ。イングランドに捕らえられ、火刑に処されたと聞いて俺たちは憤りに震えたものさ。」

 

マックスは過去の守護者支隊の報告を思い出し、聖女にも神の御子のような祝福が降ったのかと考える。

 

「やはり、神の御子の様に蘇ったのか? 神が彼女の魂を返したのか?」

 

司令官はマックスに言葉に、拳を城壁に叩きつけ怒鳴り返す。

 

「そんな訳あるか!...悪魔と契約して蘇ったんだよ!」

「悪魔?」

 

立香やマシュの視線が、茨木の角に集まる。茨木は視線に気づき、少し頰を膨らませながら文句を言う。

 

「我は鬼だ。悪魔でないぞ。」

「でも、悪魔を悪鬼って言うし...」

「まだ言うか! マスターでも、怒るぞ!」

 

重い空気に耐えられなくなった立香が空気を変える様に茨木とじゃれつき始めたのを、他所にマシュは司令官に話を続ける様に言う。

 

「悪魔、とは?...先ほどの骸骨兵の様な?」

「あれじゃない。あれだけなら俺らでも対処できる。」

 

司令官が言おうとした時、再び砦の半鐘が響く。司令官は俯いていた顔を上げ、部下が指し示す方を睨む。

 

「...ッ!」

「くそ、やっぱりだ! 来たぞ、迎え撃て!」

「ほらほら立て立て!ドラゴンが来たぞ! 抵抗しなきゃ、食われちまうぞ!」

 

遠くの空から何かが高速で迫ってくるのが見えた。影はだんだん大きくなり、コウモリとトカゲを合わせたような生物が迫って来ていた。

 

「目視しました。あれは!」

「ドラゴン⁉︎」

「はい。ワイバーンと言うドラゴンの亜種です。間違っても、絶対に、15世紀のフランスに存在していい生物ではありません! マスター、全力で対応を! 」

『今直ぐ、遠征隊を助けなさい! 今の装備じゃ、全滅するわ!』

 

ワイバーンがやって来た方向は、骸骨達がやって来た方角と同じで、遠征隊が骸骨兵の残骸を漁っている現場の方角だった。

 

「マシュ、オルタ、クーフーリン、茨木! マスターが命じます! 遠征隊を助けなさい!」

 

サーヴァント達は城壁から飛び降り遠征隊に向かおうとするが、立香に襲いかかるワイバーンの迎撃でなかなか遠征隊を助けに行けない。マックスは通信機に怒鳴る様に指示を出す。

 

『迎撃するな!撤退だ! 砦まで戻れ!』

 

マックスの指示に外に展開していた遠征隊は、素材の詰まった袋を投棄し砦に向かって走り出す。しかし、人間の足で、ワイバーンの飛行から逃げきれるわけがない。

 

『テストゥド!』

 

遠征隊は逃げるのを諦め、マックスの指示にその場で盾を掲げ、亀の甲羅の様な陣形を組む。ワイバーンはその陣形の周りをグルグルと周り、隙間を探す。

 

『発砲を許可する。陣形に近付けるな燃やされるぞ。』

「発砲許可! 撃て撃て!撃てぇ!」

 

遠征隊は拳銃を抜き、盾と盾の隙間からワイバーンに撃つ。拳銃の弾はワイバーンに当たるが、火花を散らして弾かれる。

 

「弾かれる!」

「APだ! AP弾を使え!」

 

隊員達は弾倉を引き抜き、赤いテープが巻かれた弾倉を叩き込む。先ほどの弾丸とは違い、込め直した弾丸はワイバーンを貫くが、少し怯むだけで倒せる気がしない。

 

「貫通されど、効果低!」

 

警官の防弾チョッキを貫通する弾を使っても、ワイバーンの巨体には9mm弾は小さすぎたのだ。弾の補給が受けれない今、連射ではなく単発で撃っていて、しかも盾で片手しか使えなく命中率は下がっている事も、効果を薄くさせている原因だった。

拳銃を盾と盾の間から出したことでできた隙間にワイバーンが突っ込む。ワイバーンは隙間に頭を突っ込むと隊員の腕に噛みつき、そのまま飛行する。

 

「クソトカゲがぁ!!」

 

ワイバーンに右腕を噛まれた隊員は、陣形から引き抜かれ攫われる。噛まれた隊員はナイフを抜き、ワイバーンの目に何度も突き刺す。

 

「目は守れねぇだろ!...うをっ! マズッ!...うわぁあぁあ!」

 

ワイバーンは痛みで隊員の腕を離したが、空中にいたので隊員は地上に落下する。立香は地上に激突する隊員の末路を思い、目をそらす。

 

「間に合いましたか...兵たちよ、水を被りなさい! 彼らに炎を一瞬ですが防げます!」

 

隊員が地上に激突する前に受け止められた。受け止めたのは大きな旗を持った女性だった。

 

『おおう、サーヴァントだ! しかし、反応が弱いな。彼女は一体...』

『マックス、目標の変更よ。撤退しつつ、あのサーヴァントを確保しなさい。』

「了解しました、所長殿。』

 

ロマンは隊員を受け止めた女性が、サーヴァントである事に気付いたが、その数値の弱さに首をかしげる。

サーヴァントは受け止めた隊員を地面に下ろし、傷を見る。

 

「腕を止血しなくては!大丈夫ですか?」

 

隊員は腕を気にするサーヴァントを押しのけ、周囲を見渡し目的の物が無いとワイバーンを睨みつける。

 

「腕はどうでも良い! クソトカゲに銃を飲み込まれた!」

 

隊員は牙に噛まれ、千切れかかった右腕を気にせず、銃の事を心配する。隊員は武器を失った事をマックスに報告する。

 

「マックス隊長! ワイバーンに拳銃を食われました!」

『了解した。今、武器を失いたくない。全隊、ナイフが刺さったワイバーンを攻撃せよ。繰り返す、ナイフが刺さったワイバーンだ。』

 

遠征隊の拳銃による対空砲火が一匹のワイバーンに集中した事により、ようやく一匹を殺す事に成功した。しかし、殺した事でワイバーンの攻撃が激化する。

 

「ワイバーンが高速で接近! 来るぞ! 固めろ!」

 

ワイバーンが陣形に突っ込む。陣形を固めたが、数百kgの物体の勢いの乗った突撃に耐えられず陣形が崩壊する。ワイバーンは逃げようとする隊員に噛みつき、振り回す。

 

「陣形崩壊! 現状での戦闘継続は不可能!」

『サーヴァントを確保しろ。確保するまで、戦闘を継続せよ。』

「了解!負傷兵を中心に人を組め!」

 

マックスの指示で、遠征隊は撤退を中止し、女性サーヴァントの周囲に小さい陣形をいくつも作り、サーヴァントからワイバーンの注意を逸らそうとする。遠征隊が負傷者を次々と出しながら、耐えているとワイバーンの攻撃が少なくなっていった。

 

「任務、ご苦労だ。下がれ。」

「よく耐えたな、此処からは俺たちの仕事だ。」

「クハハ!情けなのぉ! 吾の強さを目に焼けつけるがいいぞ!」

 

遠征隊を囲むワイバーンはオルタ達に一瞬でけら散らし、遠征隊を逃がそうとする。遠征隊の分隊長に、マシュは持ってきた布を渡す。分隊長は足や腕を失った部下の腕を布で縛らせる。

 

「遠征隊の皆さんは今のうちに!」

「サーヴァントの確保がまだです。」

「そんなこと言ってる場合では! 早く撤退して下さい!」

「隊長からの指示の撤回がありませんので。」

 

マシュは何度言っても、撤退しようとしない遠征隊に、立香が指揮官だった事を思い出す。

 

「先輩! 遠征隊に指示して下さい!」

「えっ⁉︎ 」

「任務のせいで遠征隊が動いてくれません!」

 

マシュは逃げてくれない遠征隊をどうにかしようと立香に指示を出すように大声で伝える。なんだかんだで、冬木での大声を出す訓練の成果を出した。

 

「た、隊長さん!急いで、撤退させて下さい!」

「藤丸指揮官からの指示を受諾。『全隊、砦まで撤退せよ。』」

 

遠征隊はサーヴァント達の援護の元、ようやく砦の中まで避難した。サーヴァント達は遠征隊が砦に入ったのを確認すると、枷が無くなったので伸び伸びとワイバーンを殲滅していった。

 

「隊長さん、怪我人の治療を!」

「マスター殿は、ここでサーヴァント殿の指示を......あのサーヴァントをどう確保するのか考えなくては...最悪、現戦力で排除することも視野に入れて。」

 

砦に戻って来た遠征隊はボロボロで、30人近くが手足を失い、半分以上が何らかの怪我を負っていた。マックスは立香の護衛に数人の隊員を残すと、砦に帰って来た遠征隊の方に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今ので、最後の様ですね。」

 

マシュ達サーヴァントは遠征隊の血とワイバーンの死骸が散らばる平原で、残りのワイバーンが居ないか見渡す。何かが動く気配が無くなったのを確認すると、マシュは一緒にワイバーンを倒して居た女性のサーヴァントに駆け寄る。

 

「ありがとうございました。」

「いえ、当然の事です。」

「その...申し訳ないんですが。マスターに合って頂けますか?」

「大丈夫です。最初から合うのが目的でしたから。」

 

マシュがサーヴァントと話しながら、砦に戻っていると足元に矢が刺さる。慌てて顔を砦に向けると、砦の上ではフランス兵と遠征隊が互いに獲物を向け合って居た。

 

「そんな、貴方は...いや、お前は! 迎撃準備! 魔女だ!」

「弓を下げろ! 今直ぐに! 」

 

城壁に上では遠征隊が立香を背中に隠しつつ、フランス兵に銃を向けている。一触即発の状態で睨み合い、今にも戦闘が起きそうである。

 

「え?...魔女?」

 

マシュが女性のサーヴァント視線を向けると、サーヴァントは悲しそうな顔をし、話し始める。

 

「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名をジャンヌ・ダルクと言います。」

 

マシュ達サーヴァントは、ジャンヌから距離をとり、警戒する。

 

「ジャンヌ......ダルク!」

「魔女になったはずでは?」

 

ジャンヌはマシュ達に武器を向けられても、身構えることなく懇願するようにマシュに言う。

 

「その話は後で...彼らの前で、話すことでもありませんから。こちらに来てください。お願いします。」

 

マシュは立香に通信をし、相談する。

 

「誘われてしまいました。どうしましょう、先輩。この時代に精通していると思われます。詳しい話を聞いてみるべきかと。」

「手掛かりになると思うから、付いて行こう。」

「まさにこの時代に生まれたサーヴァントですから、地形、情勢などに付いても詳しい情報が手に入れられると思われます。」

「キュキュ、キュウ!」

『僕も賛成だ。弱っているようだけど彼女はサーヴァントだ。』

『私も賛成よ。サーヴァントが多いに越したことはないわ。』

 

カルデアの要職に付いている者達の意思が統一され、サーヴァントについていく事になった。立香は遠征隊を掻き分け、砦の司令官の前に立つ。

 

「司令官さん、私達は直ぐに出て行くので、どうか武器を納めてください。」

 

司令官はしばらく立香を睨んだ後、自身の剣を仕舞い立香の前から去って行く。

 

「...魔女について行く奴らに、この砦の中に居場所はない。こいつらを砦の外に追い出せ。」

 

司令官は階段の手前で止まり、立香達に振り向きもせずに、ぶっきらぼうに言う。

 

「...武器は持って行くがいい。部下の治療と砦を守ってくれた謝礼だ。」

「感謝する。」

 

マックス達は速やかに、荷物を纏め、負傷兵を抱えながらジャンヌの後に付いて行く。マックスが立香の後を歩いているとロマンからの通信が入った。

 

『マックス、召喚サークルを確立したら、彼女の状態を調べて欲しい。より多くのサーヴァントの情報を得たい。』

「了解した。」

 




次は早くても1週間後ですかね。もっと早く書けるように精進します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。