カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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第一特異点と第二特異点は遠征隊をひたすら悪者風に書いて行く予定です。


第一特異点 オルレアン
不信の種


side 立香

 

立香は自室で悪夢に魘されている。

あの後、茨木がロマンの治療で元気になったのを確認していたら、かなり遅い時間になってしまったので、立香は自室に戻り眠っていた。

 

「フォウ......? キュ、フウウ......?」

 

立香はフォウに起こされて起きた。正確には悪夢を見ていたので、フォウが起こしてくれたのだ。

 

「...おはよう、フォウ。」

 

立香は、何処かのお城で何かが呼び出されたり、人が燃やされたした光景を夢の中で見た気がしたがハッキリとは思い出せなかった。

 

「ミュー、フォーウ!キャーウキャーウ!」

 

思い出せないか考えていると、フォウが足を引っ掻いてきたので持ち上げ撫でてあげる。しばらく、撫でていると満足したのか、フォウは立香の膝から飛び降り、入り口に走っていった。

 

「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングのじ...きゃ⁉︎」

 

足元を見ていなかったマシュはフォウと激突し、フォウはコロコロと転がっていった。

 

「ごめんさない、フォウさん!」

 

マシュはフォウを抱き上げ、撫でながら謝る。フォウは気にすんな、と言う様にフォウと一回鳴く。

 

「避けられませんでした...でも朝から元気な様で嬉しいです。」

 

フォウは撫でられて満足したのか、マシュの腕から抜け出し、マシュの肩に移動する。

 

「先輩も。昨夜はよく寝られましたか?」

「あまり眠れなかったよ...」

「...やはりベットより床、あるいは畳が必要でしたか。私の不注意でした。確か遠征隊に人たちが大量の畳を持っているらしいです。交渉して貰ってきましょうか?」

 

マシュは昔、遠征隊がヘリで大量の畳を搬入している、と言う噂話を聞いたことがあった。

 

「ベットで眠れるから、大丈夫だよ。でも遠征隊の人達、欧米風の見た目なのに畳を集めてるんだ。」

「なんでも、日本各地の古い武家屋敷や廃寺から持ってきたシミつきの畳で、夜中に昔の人達が来てくれるって話です。」

「マシュ...それは絶対に関わっちゃいけない畳だよ...」

 

昔の人達とお話できると目を輝かせるマシュに、立香は絶対に止める様に言い聞かせる。マシュは廊下の時計を見る。

 

「所長のブリーフィングが始まるのです。眠気をは忘れてシャッキリしましょう。」

 

立香はネクタイを締め直し、気合を入れ管制室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

立香が管制室に入ると遠征隊がパイプ椅子に座り、ダブレットを操作し資料を眺めていた。

 

「総員起立!」

 

入り口に立っていた隊員の号令で、座っていた隊員は一斉に立ち立香に敬礼をする。

 

「えっと。み、みなさん座ってください。」

「着席!...マスター、マシュさんは最前列に席です。」

 

立香が最前列に行くと、オルタと茨木に挟まれたクーフーリンが疲れた顔で座ってる。また、隊員達が近くで何かを拭っていた。

 

「毒を盛りおって、ふざけるんじゃないぞ!」

「カフェインで倒れるとは、この子鬼はカフェインが苦手なお子様の様だな。そもそも、一気に食って倒れたのは自己責任だろ。私に責任転嫁するな。」

「菓子の包みの注意書きを教えんかったろ!鬼は伝承で毒が苦手なのだ!」

「神便鬼毒酒だったか? 他人から貰ったものを信用して飲むなど、馬鹿がすることだ。まあ、見るからに脳みそに行く栄養が、そのツノに行ってそうだからな。馬鹿なのも無理はないか。」

「お前ぇ、鬼を馬鹿にしたな! 表出ろ!」

「このカルデアの外はないと言うのに、どうやって出るのか教えて欲しいな。」

「ぐぐうぅぅ...揚げ足を取りおってぇ。」

 

クーフーリンは疲れきった顔で、立香とマシュに助けを求める。

 

「マスター、早く止めてくれよ。両側から半端ない圧力を食らって、参ってんだよ。早くしないと犠牲も広がる。」

「犠牲?」

 

クーフーリンは床を拭っていた隊員を指差す。よく見ると赤い液体、血を拭っていた。

 

「何があったんです?」

「この喧嘩を止めようとした隊員を茨木がぶん殴って、鼻と頰の骨を粉砕した。」

 

茨木が激怒しオルタに殴り掛かろうとしたのを止めようと間に入った隊員は、運悪く茨木の拳が顔面に当たり顔面を粉砕された。隊員は意識を失い、担架で医務室まで運ばれた。鼻を折られた時、大量の鼻血を出したので、隊員達がその血の後始末をしていた。ちなみに殴られた隊員は、医務室で死亡が確認された。

 

「次の可哀想な犠牲者が俺になる前に、早くこれを止めてくれ。」

「分かりました。私は茨木の隣、マシュはオルタさんの隣に入って。」

 

マシュと立香はクーフーリンの両脇に座り、オルタと茨木を更に遠ざける。

 

「気に食わぬ! マスター、あいつになんか言ってくれ!」

「ちゃんと言っておきますからね。だから、あんまり喧嘩しないでください。これから一緒に戦う仲間なんですから。」

 

「ああ言う奴は確りと躾なければ、後でやらかす。そう思わないか、小娘よ。」

「私はマシュ、マシュ・キリエライトです。別に躾なくても、茨木さんは確りとやってくれると思いますよ。」

 

立香とマシュが茨木達の話を聞いていると、オルガマリー、ロマン、ダヴィンチ、マックスが前方の扉から入ってきた。座っていた隊員達が立ち上がるので、マシュと立香も慌てて立ち上がる。サーヴァント組は堂々と座ったままだった。所長が管制室を見渡し、全員揃っているのを確認する。

 

「座って結構です。それでは、ブリーフィングを開始しましょう。ロマン。」

 

ロマンはオルガマリーからマイクを受け取り、説明を開始する。

 

「えーと、立香君達は端末を持っていなかったね。誰か渡して上げて。」

 

隊員達は立香達に、隊員が操作していたタブレットと同じ物を渡す。

 

「そのタブレットは、カルデア内での携帯電話、作戦会議の資料閲覧とか色んな機能があるから、なるべく持ち歩いてね。」

 

立香は早速届いたメールを開くと、次の作戦の資料がインストールされた。

 

「うん、インストールされた様だね。まずは...そうだね。新人の立香君にやって貰いたい事を改めて説明しよう。」

 

ロマンが手元のタブレットを操作すると、立香達のタブレットに二つの項目が現れる。

 

「一つ目、特異点の調査及び修復。その時代における人類の決定的なターニングポイント。」

 

立香が項目の一つ目を押すと、所々が赤文字になった年表が出てきた。ロマンは台に手をつき身を乗り出し、真面目な顔で立香を見つめる。

 

「それがなければ我々はここまで至れなかった、人類史における決定的な"事変"だね。キミたちはその時代に飛び、それが何であるかを調査・解明して、これを修復しなくてはいけない。さもなければ2017年は訪れない。2016年のまま人類は破滅するだけだ。以上が第一の目標。これからの作戦の基本大原則ってワケ。」

 

立香はタブレットに表示される歴史の解説が、自分が使っていた参考書の数倍に分かりやすかったので、家に持って帰ろうと決めた。

 

「第二の目的。それは、『聖杯』の調査だ。」

 

立香が二つ目の項目を押すと、聖杯に関する全ての逸話の情報が出て来た。聖杯の成り立ち、聖杯探索、聖杯として教会に祀られている()()()黄金の盃の映像に目を通す。

 

「推測だけど、特異点の発生には聖杯が関わっている。『聖杯』とは願望を叶える魔道器の一種でね。膨大な魔力を有しているんだけど。恐らく、何らかの形でレフは聖杯を手に入れ、悪用したんじゃないかな。」

 

立香は冬木でレフが手にしていた結晶体を思い出した。盃の形をしていなかったが、多分あれが聖杯なのだろうと考える。

 

「というか、聖杯でもなければ時間旅行とか歴史改変とか不可能だから。本当に。なので、特異点を調査する過程で必ず聖杯に関する情報も手に入れられるはずだ。冬木で言えば、そこにいるキャスターが聖杯について教えてくれた様に、聖杯の情報を手に入れられるはずだよ。」

 

クーフーリンはロマンに軽く手を振って返事する。茨木は速攻飽きて寝ていて、オルタは持ち込んだポットヌードルを食べていた。オルタは職員に管制室は飲食禁止と言われたが、一睨みで黙らせた。

 

「歴史を正しい形に戻したところで、その時代に聖杯が残っているのでは元の木阿弥だ。なので、キミたちは聖杯を手に入れるか、あるいは破壊しなければならない。以上、二点がこの作戦の主目的だ。ここまではいいかな? もし、分からなくなったら後で端末に簡潔にまとめたす資料を送るから見てね。」

「分かりました。」

「はい、私も大丈夫です。」

「俺もいいぜ。」

「私は知ってた。」

「zzz」

 

茨木を除いた立香達は返事をする。

 

「...さて任務に他に遠征隊からお願いがあるんだっけ。マックス。」

 

マックスはロマンからマイク受け取る。

 

「お願いといっても大した事ではありません。冬木でもやった様に、霊脈を探し、召喚サークルを作って欲しいのです。あれが無いと、遠征隊は重度の武器弾薬不足に陥ってしまいます。」

「お前らと一緒に装備はレイシフトで送れないのか?」

 

ポットヌードルの空きカップの山を築きつつオルタが尋ねる。

 

「装備をコフィンと同調し送る仕組みはありましたが、爆破の影響でレイシフトの数値に揺れがあり、うまく同調できなくなってしまいました。よって、比較的揺れの少ない召喚サークルで送る方法に変更しています。」

 

遠征隊は特異点で素早く活動できる様に、装備をレイシフトの流れに乗せ、特異点に()()させる技術を確立していた。しかし、爆破により数値に揺れが発生してしまったので、狙った年月に送れなくなっている。送れなくもないが、前後数年ずれた時期に送られる可能性が高い。

 

「面倒な事してくれたよね、レフは。」

 

ロマンは機械が破壊され、仕事の手間が数倍になったのを思い出す。ロマンはマックスからマイクを返してもらう。

 

「召喚サークルに関しては、ボクからもお願いしたい事だったから、なるべく早めに作ってね。前と同じ様に、マシュに宝具を設置すればいいから。」

「...了解しました。まずはベースキャンプの作成ですね。」

「どっちかと言うと、前線基地の意味合いが強いかな。遠征隊の武器弾薬集積所にもなるから。」

「必要なのは安心できる場所、屋根のある建物、帰るべきホーム...ですよね、マスター?」

「うん、いい事言うね、マシュ!」

「いい事言うじゃねえか、嬢ちゃん。」

 

クーフーリンで立香が見えないので、マシュは少し前屈みになり立香を見る。マシュに立香は親指を立ててサムズアップし、クーフーリンはマシュの頭をワシャワシャと撫でる。そんな、立香達を見ながら、ロマンはボンヤリと考えた。

 

(遠征隊の事だから、安心できる塹壕、対空砲のある建物、帰れない地雷原、になりそうだなぁ。)

 

到着して早々、カルデアの要塞化をした前科がある遠征隊なので、ロマンはベースキャンプが凄い事になるだろうと予想する。

 

「それにしても、あの大人しくて、無口で、正直何を考えているのか分からなかったマシュがこんなに立派になって...」

 

ロマンは目頭を押さえる。そんなロマンをオルガマリーとダヴィンチは気持ち悪そうに見ていた。ダヴィンチは嬉し涙を流すロマンからマイクを奪い、ロマンにハンカチを渡し部屋の隅に追いやる。

 

「あの、お調子者は置いておいて、サーヴァントの諸君は初めまして、立香くん達にもちゃんとした自己紹介はまだだったね。」

 

クーフーリンとオルタは目の前に、見知らぬサーヴァントいるので、いつでも動ける体勢になっていた。

 

「私はカルデア技術局特別名誉顧問、及び()時計塔守護者客員開発局長。そして、ルネサンス誉れ高い、万能の発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチその人さ!」

 

ダヴィンチはマントを翻してポーズを決めて、立香達に自己紹介した。ダヴィンチの後ろでマックスが苦い顔になっている。

 

「はい、気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼ぶように。こんな綺麗なお姉さん、そうそういないだろう?」

「え...ちょ、待っ...お姉さん?」

 

立香はダ・ヴィンチの名前は知っていたが、同姓同名の人だと思っていたので、本人と分かると自分の知識との差に混乱した。

 

「おかしいです。異常です。倒錯です! だって、レオナルド・ダ・ヴィンチは男性...あ」

 

そこまで言ってマシュは隣を見る。タブレットのミニゲームで遊んでいる隣の女性は、伝説では男性として書かれているアーサー王なのだ。

 

「実は男だったとか女だったとか、最初に言いだしたのは誰なんだろうね、まったく。私は美を追求する。発明も芸術もそこは同じ。全ては理想を----美を体現するための私だった。そして私にとって理想の美とは、モナ・リザだ。となれば----ほら。こうなるのは当然の帰結でしょう。」

「フォウ...」

「で...結局どっちなんですか?」

「知りたい?」

「はい!」

「私も気になります。」

「教えなーい。」

「えー、誰か知らないんですか?」

 

ダ・ヴィンチは杖でマックスを指し示す。カルデア職員達の視線がマックスに集まる。

 

「マックスは知ってるよ。」

 

目をつぶって、静かに聞いていたマックスが片目を開けダ・ヴィンチを見る。

 

「知っていると言うか、読んだ事があるが正しい。あと、契約はいいのか?」

「そうだよ。喋っちゃダメだからね。」

「「「契約?」」」

 

ダ・ヴィンチとの契約と言う、初めて聞くワードにオルガマリーやロマンが首をかしげる。

 

「そう、契約。昔の事は水に流すから、私についての情報を一切開示しないという契約さ。」

「昔の事?」

 

今度は興味しんしんで目を輝かせた立香が話に入って来た。

 

「何しでかしたか、教えて上げなよ。減るもんでもないでしょ。」

「水に流すと言う、話では?」

「水に流したから、こうやって一緒に仕事してるんだよ。それに、昔の事話さないとは契約にないからね。」

 

マックスは腕を組み、何とかこの話をやめられないか考える。ダ・ヴィンチはマックスの考えを察し、トドメを刺す。

 

「マックスがそうならいいや。後でいろいろ盛って、立香くんに教えてあげよ。」

「...分かりました。何があったかと言いますと、500年くらい前に存命のダ・ヴィンチ殿がフィレンツェに来た時、時計塔守護者の研究に協力して貰った事があるんです。」

「そう、紀元前からある秘密結社に興味があって、協力したんだ。」

「その後、ダ・ヴィンチ殿の発明品で、遠征隊が仕事をしたせいで、意見の食い違いが発生し...」

 

ダ・ヴィンチはチッチッチッっと、人差し指を左右に振りながら、マックスの話を止める。

 

「誤魔化しちゃダメだよ。本当はね、守護者ったら発明品で暗殺ばっかするからさ、私はもう協力しないって怒鳴りつけて、守護者から去ったんだよ。」

「へ〜、そんな事が。」

「逃げたら逃げたで、暗殺しようとしてくるから、守護者と敵対してた聖堂教会の傘下だったサンティッシマ・アンヌンツィアータ修道の修道僧達に匿って貰ったんだ。」

 

立香が後ろを振り向くと、座っていた隊員全員が目を逸らした。マックスにカルデア職員達の冷たい視線が集まるので、マックスは肩をすくめ。

 

「10代以上前の守護者がした事で、本官達に

に言われても。」

「私も別に気にしてないよ。そう言う事が当たり前の時代だったからね。」

 

ダ・ヴィンチは空気を変えるように、パンパンと手を叩く。

 

「私の自己紹介はこれで終わり。これからは主に支援物資の提供、開発、英霊契約の更新等でキミ達のバックアップをする。何か欲しい物があったら、私かアワン副隊長に相談しなさい。あと、私はカルデアに召喚されたサーヴァントだからね。マシュのように各時代にそうそう跳んでいけないからね。」

 

ダ・ヴィンチは泣き止んだロマンにマイクを渡し、出口に歩いて行く。

 

「でも立香くんと正式に契約できたのなら話は別だ。その時は一介のサーヴァントとしてキミの力になるよ。そうなる運命を楽しみにしているよ、マスター。」

 

そう言うと手を振りながら、管制室からいなくなってしまった。ダ・ヴィンチと言う、守護者の黒歴史が去って言ったので、後ろの隊員達が息を吐く声が聞こえてきた。

 

「話すだけ話して帰って言ったな、カレは。話が大きくズレたが戻ろう。休む暇もなくて申し訳ないが、ボクらも余裕がない。12時間後にレイシフトをしたいが、いいかい?」

「今すぐにでも、いけます!」

 

やる気がある事を示す立香に、ロマンは笑みを浮かべるが。

 

「いい意欲だ。でも、何せ240人位を一気にレイシフトさせるから、もう少し調整する時間がかかる。部屋で資料に目を通しておいてね。これでミーティングは終わったかな?」

 

ロマンが見渡すと、マックスが手を挙げていた。

 

「権限の正式な付与の話がまだだ。」

「そうだったね。」

 

ロマン達は、奥の机から徽章などが乗ったトレーを持ってきた。

 

「立香君が活動するに当たり、様々な役職が与えられる。面倒だけど、組織として動くには必要な事だから、ちょっと付き合ってね。」

 

立香はロマンから任命書とIDカードを渡される。

 

「カルデアからは、もう付与してるけど、正式にカルデア筆頭マスターの権限を与える。」

「筆頭マスター?」

「48人のマスターの代表に与えるものだったんだけど、今は立香君しかいないからね。権限はカルデアのあらゆるエリアの自由通行許可と緊急時に他のマスターへの指揮権とか色々あるけど、今まで通りやってくれればいいよ。」

 

今度はマックスから、任命書、徽章、拳銃、剣を渡される。

 

「遠征隊からは、遠征隊実働部隊指揮官の階級と権限を。」

「...冬木で思ったんですが、指揮官なんて無理ですよ。」

 

立香は冬木で遠征隊に上手く指示を出せなかった事を思い出し、自分がこの役職になるのに相応しいか迷う。

 

「指揮官の役目は大雑把な方針を決めるだけです。あとは、実働部隊隊長の本官が調節します。なので、そんなに深く考えなくても大丈夫です。」

「じゃあ、一応貰います。」

 

立香は襟元に徽章をつけられる。

 

「権限は実働部隊への指揮権、弾薬庫などの危険区域を除く遠征隊基地内自由通行権です。拳銃と剣は指揮官の嗜みです。」

「どっちも私には扱えないかと...」

「慣習の様な物なので、自室に閉まっておいて下さい。」

 

立香が剣の重さに困っていると、クーフーリンが持ってくれた。カルデアの制服に徽章などの飾りがついた立香は、嬉しそうにマシュの前でクルリと回る。

 

「なんか、制服がカッコよくなった。」

「素敵です。」

「階級章とかが好きなのか? ならば私が大騎士勲章をやろう。」

 

オルタはポッケから勲章を取り出す。でっかい星がついた勲章に、立香は流石に大き過ぎると遠慮した。

トレーなどの片ずけが終わったロマンは、管制室をも一度見渡し、ミーティングの終了を通達した。隊員達は座っていたパイプ椅子を持って、基地に帰って行く。

 

「私はどうしていればいいですか?」

「自室でゆっくりしていて。」

 

ロマンに遠回しに仕事がないことが告げられた立香は、サーヴァント達と一緒に住居区画に帰る。帰り道、クーフーリンが立香が貰った剣を抜き、眺めていた。

 

「すごい剣なんですか?」

「ん〜、現代では最高級、神代では下の上の剣だが...原料に何使ってんだこれ?」

「すごい効果があるんですか?」

「切った相手の神聖、魔力を散らす効果があるな。」

「それって、凄いんですか。」

「相手による。この感じだと散らす量はそこまで多くないと思うから、神聖が濃い相手には無意味な代物だ。だが...」

「だが?」

「神からも、力を奪い取りんだぜ。絶対変な物を原料にしてるから、使わずにベットの下にでも押し込んどけ。銃の方の刻印は、魔力を弾に纏わせるだけの普通の魔術だな。」

 

クーフーリンは剣を鞘にしまうと、封印のルーンを刻み、何かの拍子に剣が抜けない様に固定した。

 

「さてと、レイシフトまで時間があるから、探検にでも行くか。」

「吾も行くぞ!」

「寝てたから、元気いっぱいだな、茨木は。オルタはどうだ?」

「帰って寝る。食ったら、眠くなった。」

「お、おお。じゃあ行こうぜ、茨木。」

 

クーフーリンと茨木は立香達から離れ、カルデアの通路に消えて行く。

 

「うむ...何処かで自動車を手に入れて回らないか?」

「お前が運転する車には2度と乗らねぇて決めたんだよ。」

「あれは、足が滑っただけだ! 今度はうまく行く!」

「はいはい、行くぞ。」

「お前、聞いてないな!」

 

オルタも自室に行ってしまったので、廊下に立香とマシュが残される。

 

「私も、もう一度寝ようかな。特異点に行ったら、寝る時間も無さそうだし。」

「分かりました、先輩。私は遠征隊基地に行って、現地での役割分担について話し合ってきます。」

 

立香はマシュと別れ自室に戻る。立香は剣をベットの下にしまうと、箱に入った拳銃を眺める。立香は銃を取り出すと、拳銃を持つ手が震えた。人を殺す事を追求して作られた拳銃は、まだ人を殺す覚悟のない立香には重すぎた。立香は銃を急いでしまうと、クローゼットの奥に押し込んだ。

 

「寝るか...」

 

立香がベットに入ると、端末にメールが入った。メールはダ・ヴィンチからだった。

 

(キミに聞かせた通り遠征隊は、平気で暗殺をする時計塔守護者から来た者たちだ。彼らはカルデアではなく、守護者に忠誠を誓っている。気をつけたまえ。今、彼らが協力しているのは、彼らの目的とカルデアの目的までの道が重なったからだ。もし、道がズレたのなら彼らは私たちに銃を向ける。今は信用していいが、任務が終わりに近づいたら警戒しなさい。)

 

立香は貰った徽章を撫でながらメールを読む。メールを閉じると、立香は不安を誤魔化ように布団を被り眠った。

 

 

 

 

 

-12時間後-

 

 

 

 

 

「さあ、準備はいいかい?」

 

立香、マシュ、サーヴァントは管制室に集まっていた。

 

「これから、レイシフトをする。目標は観測された7つの特異点の内、最も揺らぎが小さい時代を選んだ。向こうに着いたら、遠征隊と違ってカルデアは連絡しかできない。」

 

立香がコフィンに入ると、コフィンの周りに職員が集まりチェックを開始する。

 

『いいかい? 繰り返すけど、まずは遠征隊と合流、次に召喚サークルのための霊脈を探す事。』

 

コフィン内のスピーカーから、念を押すようにロマンの声が聞こえる。

 

「大丈夫です。やって下さい。」

『分かった。行くよ。健闘を祈る、立香君。」

 

 

『アンサモンプログラム スタンバイ。遠征隊第一から第二三六コフィン準備完了。藤丸立香に第一から第七、マシュ・キリエライトに第八から第二三六、のコフィンを接続開始。

全コフィン 接続完了。』

 

立香が手につけていた、ゴルディアスの結び目がほんのりと暖かくなる。立香に接続されたのはマックスと各分隊長の精鋭で、その他の隊員はデミ・サーヴァント化し、いくら接続しても千切れないほど魂の強度が上がったマシュに接続している。

 

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。レイシフトまで、あと、3、2、1......全行程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証を 開始 します。』

 

 

 

 

 

 

立香が目を開けると、一面草原で心地よい日に光が降り注いでいた。現代ではもはや見ることのできない、原始的な光景に立香は感動する。

 

「...ふう。無事に転移できましたね、先輩。」

「ふむ、奇妙な感覚だな。」

「吸い込まれるってより、落ちて行くって感じだな。」

「ふむ、山が無いな。吾がいた日本では広い草原はなかったぞ。」

 

マシュ達サーヴァント組も転移して来たようで、景色を眺めていた。

 

「前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンによる正常な転移です。身体状況も影響がありません。遠征隊はレイシフトまで、位置にも時間にも誤差があるようですが、この草原では直ぐに見つけられますね。」

 

マシュが端末で健康状態などを確認していると、モフモフした物が草むらから飛び出しマシュに飛びつく。

 

「フィーウ! フォーウ、フォーウ!」

「フォウさん⁉︎ また付いて来てしまったんですか⁉︎」

 

マシュはフォウに付いた草を払いながら、抱き上げる。

 

「フォーウ......ンキュ、キャーウ...」

 

マシュに少し怒られ、フォウの尻尾と耳が垂れ下がる。マシュはそんなフォウを肩に乗せる。

 

「私のには居なかったと思うから、マシュのコフィンに忍び込んだのかな?」

「そのようです。幸い、フォウさんに異常はありません。私たちのどちらかに固定されてますから、遠征隊と同じ様に私たちが帰還すれば自動的に帰還できます。」

「フォウの為にも帰らないとね。」

 

そう言っているとマシュの端末から、音が聞こえた。

 

「時間軸の座標が特定出来ました。どうやら1423年です。現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです。」

「戦争に休みってあるの?」

 

立香は休み暇もなく砲弾が降り注ぐ戦争をイメージして居たので、休止期間に違和感を感じた。

 

「はい。百年戦争は名前の通り、百年間継続して戦争を行っていた訳ではありません。この時代の戦争は、今の戦争と違って比較的のんびりしたものでしたから。」

 

立香は空を眺めて、固まった。立香の心に畏怖が満ちていく。

 

「先輩?」

「なに...あれ?」

「え?」

「おいおい、冗談だろ。」

 

マシュ達は空を見て、驚く。マシュは固まり、オルタとクーフーリンは空を睨みつけ、茨木は何だかよく分からず首をかしげる。

 

『よし、回線が繋がった。遠征隊はまだ到着していないようだね。事故防止を厳重にし過ぎたかな。って、どうしたんだい見上げて?』

「ドクター、画像を送ります。」

 

空には天使の輪のような、巨大な光帯が浮かんでいた。

 

『光の輪...いや、衛生軌道上に展開した何らかの魔術式か...?なんにせよとんでもない大きさだ。下手すると北米大陸と同じ大きさか? ちょっと、待ってデータを漁るから。』

 

立香達は丘の上に移動し、草の上に座り光帯を眺める。はるか上空に浮かぶ光帯は、見ているとほのかに()()()なる物だった。

 

『やっぱり、1431年にこんな現象が起きた記録はない。間違いなく未来消失の理由の一端だろう。アレはこちらで調べるしかないな...アレの調査は後で遠征隊にやらせるから、まずはキミ達は現地の調査に専念してくれていい。遠征隊もそろそろレイシフトから抜けるから、合流してくれ。』

 

そう言うとロマンは通信を切った。端末に遠征隊到着までの残り時間が表示されていた。

 

「あと、3分ほどだね。」

「随分掛かるんだな。」

 

立香達が座っていると、立香とマシュはオルタに押し倒された。

 

「え⁉︎ 何⁉︎」

「静かにしろ、マスター。あれを見ろ。」

 

オルタが指差した先には、鎧を着て、槍や剣を持った人達が歩いてきていた。マシュが写真を撮り、兵士の持つ旗や紋章を照合する。

 

「どうやら、フランス東部の砦の斥候部隊の様ですね。」

 

兵士達は列を組んで、丘の上で伏せている立香達の目を通り過ぎていく。

 

「どうしますか、先輩?」

「遠征隊到着まで、あと20秒位だから、隊長さんが来るのを待とう。勝手に話を進めるのもね。」

 

立香達は目の前のフランス達を監視しながら遠征隊の到着を待つ。

 

『遠征隊レイシフト完了。』

 

立香は軍団の上の空間が歪んだように見えた。立香は物凄く嫌な予感がする。

 

「あ...これはマズイやつ。」

 

遠征隊は軍団の上にレイシフトをして、意図せず空挺強襲を仕掛けることになった。マシュは驚きで口を覆い、クーフーリンとオルタはタイミングの悪さに溜息を吐く。

 

「真下に武装集団確認!戦闘開始!」

 

真下のフランス兵を確認した遠征隊234人は一斉に銃とナイフを抜き、下にいるフランス兵に襲いかかる。

 

「殺しちゃダメー!」

 

フランス兵にナイフを突きたてようとする遠征隊を見て、立香は立ち上がり叫ぶ。魔物を殺すことへの抵抗は特異点Fでの経験でほとんど無くなったが、人間が殺されるのを見過ごすのは法治国家で育った立香にはできないことだった。

 

「「「「了解」」」」

 

遠征隊はナイフを突きたてようとしたのを止めて、ナイフの柄で顔面を殴る。フランス兵は鼻の骨が折れたようで、鼻血を吹き出しながら倒れる。

 

「鞘を使え!」

 

遠征隊はナイフの金属製の鞘を腰から外し、それを使ってフランス兵に襲いかかる。フランス兵は突然の襲撃とCQCという未知の体術で一方的にねじ伏せられていく。反撃しようにも行軍中で密集した隊列を組んでいたので、剣や槍を振ることができない。掴み掛かろうにもCQCで、いつの間にか地面に倒され、困惑している内に顔面を踏まれ気絶する。

 

「先輩...あれでは死んだ方がマシです。」

「...うん。峰打ちより、酷いことになっちゃった。」

 

フランス兵達は悲鳴と呻き声を上げながら地面に倒れていき、犠牲者はどんどん増えていっている。

 

「あ〜あ〜、可哀想に。何人かはワザと気絶させてないな。酷ぇ事しやがる。」

「吾も混ざりたい。」

「お前じゃ、殺しちまうからダメだ。」

 

クー・フーリンは悲鳴を上げる哀れなフランス兵を眺めながら呟く。実際の所、遠征隊は何人かを気絶しないギリギリで、痛めつけ放置していた。

 

「そうなんですか?」

「ほら、あの兵士を見な。助けを求める仲間の所に行くか、遠征隊を止めるか悩んでいるだろ...あっ、投げ飛ばされた。」

 

人間と人間がぶつかる戦闘を始めて見たマシュにはそれが正しいかどうか評価できないが、仲間を思う気持ちを利用したなかなか非道な戦い方だと感じた。マシュは草原に響くフランス兵の苦悶の声に同情を覚える。

 

「小細工なぞせずに圧倒的な力を見せればいいのだ。」

 

オルタは遠征隊を眺めながら、つまらなさそうに言う。オルタから見れば、相手の戦意を無くすために一人一人を痛めつけていく行為は無駄でしかないのだ。彼女の力を使えば、でかい攻撃を一つ放ち、本能に敵わないと刻み込めば、直ぐに戦意を失わせる事ができるのだ。

 

「まあ、そんな事言うなよ。彼奴らはまだ、人間なんだぞ。英霊の俺らと一緒にしちゃ、可哀想だ。」

「彼奴らは人間ではない。中途半端な化け物だ。夜に子供を怯えさせる事すらできない中途半端な化け物だ。」

「...まぁな。人間とも、化け物とも言えない微妙な存在だよな。」

 

オルタは草原でフランス兵を投げ飛ばしている遠征隊眺める。オルガマリーの悪霊化やダ・ヴィンチとの契約のように内密に処理しようとする気質がある遠征隊を警戒していた。遠征隊は立香が気づかぬ内にその足元に屍山血河を作り、立香を苦しめる事になるとオルタは予想している。

オルタは遠征隊に釘を刺しておこうと思ったが、ああいった最善のためと言って独断行動をとる連中は、忠告を聞き入れないので、どうするか腕を組んで考える。

立香達が眺めていると、フランス兵達は武器を捨て降伏し始めた。遠征隊は降伏した兵士達を拘束して一箇所に集め、武装解除をしていく。

 

「第一分隊から、偵察隊を編成し、追跡しろ。」

 

マックスは部隊に指示を出すと、丘の上にいた立香達の元にやってきた。

 

「遠征隊234名、特異点に到着しました。これより、藤丸立香指揮官の指揮下に入ります。」

「戦闘、お疲れ様です。どうするんです、これから?」

 

立香は丘の下に転がるフランス兵達をどうするのか悩んだ。ここに放置して行くと言う選択肢は、立香には一切ない。

 

「フランス兵が案内してくれますから、付いて行きましょう。」

「案内ですか? あの人達にお願いするんです?」

 

丘の下で一箇所に集められ、遠征隊に囲まれているフランス兵達を立香は指差した。

 

「いえ、10人位わざと逃して、部下に追跡させています。フランス兵の砦まで案内してくれるはずです。人の居る所に行けば、情報も早く集まるでしょう。」

 

遠征隊はフランス兵達を立たせ、頭に手を組んだ姿勢で歩かせる。反抗的なフランス兵は遠征隊に殴られ、無理矢理歩かされていた。

立香とサーヴァント達は、顔を腫らしたフランス兵の隊列の最後尾について行く。




特異点をはしっかりとやった方が良いですかね。話の流れが遅いですかね? 原作通りに話を進めたいけど、そうすると話の流れが遅くなりそうな気がするんですよ。早く進めた方が良いですかね?

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