カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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立香が目覚める前の話です。21日には出来ていたのですが、マックスとオルガマリーの関係にこの1週間関ずっと悩んでいましたが、こんな感じに落ち着きました。

恋愛教えて...恋が知りたい...


本官には分からない

 

中央管制室には多くの人が集まっていた。立香のコフィンの周りにはストレッチャーが置かれ、医療班員が立香とマシュを待っている。遠征隊はマックス達の替えのホムンクルスを用意して、いつでも体を取り替えれるように冷凍保存から仮死状態にして、準備していた。

 

「レイシフト終了まで後、十秒。...3、2、1。到着!」

 

コフィンが輝き、中に立香が現れる。マシュもコフィンのすぐ側に出現する。

 

「マスターを早く、運び出せ!」

 

立香は気絶していたので、コフィンから出されストレッチャーで運ばれていった。マシュは気絶してはいなかったが、意識が朦朧としていたので、同じく運ばれていく。

 

「あとは、マックスだけ...」

 

ロマンは立香のことは医療班員に任せ、遠征隊と一緒にマックスを待っていた。

 

「なかなか、こないね。もしかして...」

 

ロマンはマックスがこないことに不安になり、隣にいたアワン副隊長に話しかけた。

 

「問題はありません。予想通りです。」

「というと...」

 

アワンは腕時計を見ながら、何事も無いように落ち着いて立っていた。

 

「遠征隊はマスターにゴルディアスの結び目で接続し、特異点に行きます。なので、その分だけ到着が遅れるのですよ。」

 

風船の紐についた人形をイメージしてほしい。風船を飛ばし一定の高さにくるまでの時間を計測するとしよう。風船はマスターを意味し、人形は遠征隊を意味する。風船がある高さを通過した時間と、人形がその高さを通過する時間はズレる。なぜなら風船の紐の分だけ人形が下にあるからだ。風船が紐の分だけ浮かび上がるのにかかる時間だけ、人形が通過する時間がズレる。

同じようなことがレイシフト時に起こり、特異点にマスターの到着時間と遠征隊の到着時間に若干誤差が発生する。

 

「そろそろです。」

「最後の通信で見たマックスは酷く怪我をしていたから、早く治療しないと...」

 

ロマンはマシュと通信していた時に、画面の端っこに写ったマックスが血塗れだったので、かなり心配していた。

 

「時間です。」

 

ロマンは立香のコフィンに近づきマックスを探す。しかし、コフィンの周りには居らず、ロマンが遠征隊に問題が発生したと言おうとした時、上から何かが降ってきた。それはロマンの前でグチャ!とすごい音を出して潰れる。

 

「マックスー‼︎‼︎」

 

上から降ってきたのは、マックスだった。ロマンはマックスに駆け寄り、脈を見る。ロマンが首元に手を当て、脈を見ると微かにあった。その事を遠征隊に伝えようと顔を上げると、副隊長が立っていた。

 

「言い忘れてました。遠征隊が出現する場所もかなりずれるので、今のように地面に叩きつけられることもあります。」

 

アワンは屁然とした顔で、マックスの体からドッグタグを毟り取り持って行った。ロマンは、え〜、という顔でアワンの背中を見送った。アワンは持ってきたホムンクルスにドッグタグをつけると、揺さぶって起こした。

 

「マックス...起きて下さい。」

「ん...イザイラか? カルデアには帰還できたか。」

 

マックスは身を起こして周りを見渡した。マックスがストレッチャーに腰をかけていると、アワンが抱きつく。

 

「心配したのですよ、マックス...」

「すまんな、イザイラ。」

 

ロマンは突然色々起こったので、ついていけずポカーンとしていた。

 

「それよりも、まずやる事がある。準備は?」

「後は最終調節だけです。」

 

マックスはアワンを剥がし、仕事の顔になった。アワンもほんわかした顔からキリッとした顔になり、周りに指示を出し始めた。マックスはマックスだったホムンクルスを抱えているロマンの元に行く

 

「ロマンお疲れ様だ。」

「あー...うん...お疲れ、マックス。」

 

マックスは屈んで、マックスだったホムンクルスの手をナイフで抉じ開ける。ホムンクルスの手には虹色の結晶がついたネックレスが握られていた。マックスはネックレスを持って、遠征隊の方に戻っていく。ロマンも後を追おうとしたが、今抱えているマックスだった物をどうするか困った。とりあえず、そっと地面に起き、急いで追いかける。

 

「マックス、マックス、色々と聞きたいのだけど。」

 

ロマンは遠征隊と一緒に培養器の周りの機材をいじっているマックスに話しかけた。

 

「そこの菅を取ってくれ...それだ...ありがとう...答えられることならいいぞ。」

「はい、これね...まず、体は大丈夫かい?」

 

ロマンは先ほどまで死にかけていたのに、もう働いているマックスを心配した。

 

「新しい体だからな。傷も疲労も無い、健康そのものだ。」

「マックスがいいって言うんなら、良いんだけど。後でちゃんと休憩を取ってね...それで、オルガマリー所長は?」

 

ロマンはオルガマリーの姿が見えないことに、最悪の結末を予想していた。悲しそうな顔をするロマンにマックスはネックレスを見せた。

 

「これが、所長殿だ。」

「このネックレスがかい?...もしかして...」

「ああ、遠征隊と同じく聖晶石に魂を封じ込めた。今は所長殿の肉体を準備しているところだ。魂が無いと、肉体の最終調節ができないからな。」

 

ロマンは培養液の中に浮かぶオルガマリーを見上げた。マックスは特異点崩壊間際にオルガマリーに聖晶石製のネックレスをつけて、ゴルディアスの結び目をつけることで、聖晶石と魂を結合させたのだ。その結果、オルガマリーの魂は肉体を失ったカルデアに来ても、消滅することなく存在できていたのだ。

 

「つまり、オルガマリー所長も遠征隊に仲間入りと。」

「所長殿には伝えず、内密に済ませようとしていたのだがな。レフがバラしたせいで、施術が不安定になった。魂がこのネックレスに無傷で入っているかは、分からない。」

 

ロマンはオルガマリーが無事に帰ってきていることを願いながら、作業を手伝う。手伝っている時に、視界に入ったアワン副隊長を見て、ロマンは恐る恐るマックスに尋ねた。

 

「あと...その...副隊長さんとはどういう関係で...」

 

ロマンは先ほどのやり取りを見て、マックスとアワンがかなり親密な関係であると見ていた。

 

「アワンとか?...そう言えば、教えてなかったな。アワンと俺は結婚してるぞ。」

「え〜⁉︎ 女性の思いと想いが区別できなさそうな、任務人間のマックスが⁉︎」

「...しばくぞ。」

「マックスは想いを理解できないんですよ...アウッ。」

 

ロマンは今までのマックスを見て、結婚できるような人間ではないと思っていたのだ。アワンは余計なことを言ったので、マックスに頭を小突かれていた。

 

「ファミリーネームが違うし! カルデアでは、そんなそぶり見せなかったじゃん!」

 

ロマンは今まで二人が結婚してそうな親しい素振りを見せたことがなかったので、結婚してるとは考えもしなかった。

 

「名前は守護者のしきたりで、魔名に変更してるのから違うのだ。カルデアに行くときは、任務関係だったからな。任務に私情は挟まない。」

 

ロマンは理解はしたが納得はしてない様子だった。

 

「でも、マックスって独身で終わる典型的な仕事人間じゃん。どうやって、結婚まで行ったか、想像できないよ。」

「私がマックスが頷くまで、毎日アピールしましたからね。」

 

ロマンの言葉にアワンが照れながら、返した。ロマンはマックスとアワンを改めて観察した。

マックスはイギリス人らしい金髪を短く切っていて、顔はそこそこイケメンだが表情が固く、任務一筋と言った印象を受けた。体格の方は並の軍人よりも筋肉がある。

アワンは黒髪で肩甲骨ぐらいまで伸ばしている。メガネを掛けていて、顔は美人だが冷たいと言った印象を受ける。体格は細マッチョと言った体格だが、胸などはそこそこあった。あと首に傷があり、それが気になった。

ロマンはこんな見た目の二人だからきっと任務であったのだなと予想した。

 

「私とマックスが出会ったのは、暗い夜に仕事をしていた時でしたね。」

(やっぱり、予想通り任務でか...)

「それで、私がマックスに惚れ込んだのは、マックスが私の首を切り裂いた時ですね。」

「え〜...」

 

ロマンはロマンチックな話を期待していたのに、いきなり血生臭くなったことに、やっぱり遠征隊だ、と思った。

 

「早く手を動かせ。あと少しだ。」

 

マックスは手を止めて話を始めたロマンとアワンに声をかけ、さっさと作業をするように言った。アワンはマックスに、照れているんですか?、と絡みながら作業を始めた。ロマンは良い所で話を止められたので、モヤモヤしながら作業を始めた。

 

「よし、後はネックレスをつけるだけだ。」

 

魂の型が設定できたので、最後の工程として魂の入っているネックレスをホムンクルスの首につけた。マックスはオルガマリーを揺すり声をかけ、ロマン達は固唾を飲んで見守る。マックスが声をかけていると、オルガマリーはゆっくりと目を開けた。

 

「所長殿...所長殿...お目覚めで。」

「ん〜...マックス?...マックス!」

 

オルガマリーは目を覚ますと、目の前にいたマックスに抱きついた。突然の事にマックスは固まり、ロマンはポカーンと口を開け、アワンはマックスにいきなり抱きついたので青筋を立ていた。アワンはオルガマリーを引き剥がす。

 

「あぁ...あれ?...あ゛ぁ゛〜‼︎‼︎」

 

オルガマリーは自分が何をしていたか気付いていなかったようで、いきなり引き剥がされ混乱していたが、自分が抱きついていたとわかると顔真っ赤にして叫びだした。

 

「気のせいです! あなた達は何も見てない! いいですね!」

「でも...」

「元気そうで何よりです、所長殿。」

「おかえりなさい、オルガマリー所長。施術は成功。若干精神が不安定ですが、時期に良くなります。」

 

オルガマリーは何かを言おうとしたロマンの襟首を掴み、ロマンの頭を激しく振った。首をガクガクと振られたロマンは、青い顔をして吐きそうになる。マックスは、顔を真っ赤にしてロマンを振り回しているオルガマリーに淡々と挨拶をし、アワンは少しニヤけながら挨拶をする。

 

「いいですね!」

「アッハイ。」

 

ロマンはオルガマリーに睨まれ、大人しく返事した。オルガマリーはロマンを放り投げ今度はマックスを睨みつけた。

 

「マックス!」

「なんでしょうか?」

 

オルガマリーの睨みにも動じず、マックスは真顔で返答した。

 

「命令です! さっきの事を忘れないさい!」

「特定の記憶だけを消す方法は現在確立されてません。」

「早く、忘れなさい!」

「......Yes,ma'am .」

 

マックスは隣に立っていた隊員のホルスターから拳銃を引き抜くと頭を撃ち抜いた。記憶は魂の方に記憶されるので、頭を撃ち抜いたくらいで記憶は消えないのだが、マックスは取り敢えずオルガマリーを落ち着かせるために頭を撃った。

 

「私は部屋に帰ります!」

「待って下さい、所長! せめて、検査だけでも!」

「ついてこないで!」

 

オルガマリーは恥ずかしさで、此処から逃げることだけしか考えておらず、隊員の制止を振り切って走って行ってしまった。

 

「検査を受けるように説得してきなさい。」

 

アワンは近くの女性隊員の指示した。女性隊員の言うことなら、恥ずかしがらずに聞いてくれると考えたからだ。カオスな状態になった管制室は平常を取り戻し、隊員達も片付けを始めた。隊員達が機材を置きに基地に帰り、ロマンも立香の様子を見に行った。

誰もいなくなった管制室で、アワンは地面に転がっているマックスからドッグタグを外し別のホムンクルスにつけた。マックスは起き上がり、瓦礫に座る。アワンもその隣に座った。そこには、隊長と副隊長はおらず、疲れた夫婦がいるだけだった。

 

「全く、マックスは...」

「...イザイラ。いったい何がいけなかったのだ?」

 

原因を理解していないマックスをアワンが冷たい目で見て、アワンは女心を理解できないマックスにため息を吐いていた。

 

「...マックスは特異点の最後に所長に何をしました。」

「レフから助け出し、我々は認めていることを伝え、魂を固定した。」

「それです。絶望のドン底にいた女性が、目の前に命をかけて自分を助けてくれる男性が現れたらどうなると思いますか?」

「どうなる?」

「は〜、だから想いと思いが区別付いていないと言われるのですよ。」

 

マックスは人の思考を読む訓練を小さい頃からしていた。訓練の際に他人に影響されず、任務を遂行できるように調節されたので、マックスには愛や恋といった他人からの感情が理解できない。なので、人の思いは読み取れるが、人の想いは分からないという欠陥がある人間が出来上がった。アワンからの告白を了承したのも、愛していたからではなく、他の人より一緒に居て落ち着くという曖昧な感覚からだった。この感覚も一種の愛の形なのだが、愛というものを理解できないマックスにはよく分からない不思議な感覚であった。

 

「いいですか、マックス。オルガマリーにとって、今のあなたは白馬の王子様です。端的にいうと、オルガマリーは一定以上の好意をマックスに持っています。」

「そうか...俺のどこがいいのだ。任務の為なら平気で無関係の市民を殺す人間だぞ。」

「オルガマリーのあなたの闇は知らないのでしょう。あと、調節されたからと言って、乙女心を理解しないのは許されませんよ。全く、あなたの心は治りませんね。」

「ああ...俺には人の想いが分からん。イザイラからの感情も、イザイラに抱いている感情も、意識すると消えてしまう。だが、確実に俺の心の中にある。」

「守護者本部も酷いことをしますね...まあ、ゆっくりと治していきましょう。私達には、もう寿命というのはありません。ゆっくりと治していきましょう、一緒にね。」

「ああそうだな...俺は人間になれるのか。」

「さあ...でも、最近のAIはほぼ人間と言われていますよ。」

「機械はどこまで行っても機械で、人間にはなれないか...」

 

マックスは立ち上がり、基地に向かって歩き始める。アワンもマックスの横に並び、今後の予定を遠征計画を相談しあった。

 

「そうだ、マックス。」

「ん?」

「治療には、一人よりも二人の方が効率的ですよね。」

「冗談か?」

「私は本気ですよ。」

「しかし、所長殿も今は混乱しているだけだ。その内、落ち着くだろう。」

「私の予想では、所長は初恋を引きずるタイプですよ。」

「そいうデータがあるのか?」

「いいえ、女の勘です。」

「なら、俺には分からないな。」

「思考を放棄しないでください。考えることが治療になります。でも、一番を渡す気はありませんよ。」

「それが女心か?」

「そうですよ。一歩前進です、マックス。」

「そうか...あと何歩進めばいいのやら。まあ、検査の準備をしようか、イザイラ。」

「所長を待たせてしまいますからね。」

 

マックス達は後ろから見れば仲の良い夫婦にしか見えなかった。立香の持つ縁と縁を結ぶ力、マックス達も立香に影響され少しずつ結ばれていく。

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

マックスが基地で待っていると女性隊員がオルガマリーを連れてきた。オルガマリーはマックスを見ようとせず、そっぽを向いていた。そんなオルガマリーにアワンは近付き耳打ちした。

 

「そんな風では、彼は理解しませんよ。最も直球に行かなくては。」

「なっ...別にそんな気はありません!」

「そんな気って、なんのことでしょう。教えてくれますか?」

「ぐぬぬぬ...早く検査しなさい!」

 

オルガマリーはアワンに弄ばれているようで悔しかったが、今は早くマックスから離れたいのでさっさと検査することにした。アワンがふふふっと笑っているのを見たので、オルガマリーは頬を膨らませながら検査室に入っていった。

 

「やり過ぎてしまいましたか。」

 

オルガマリーが検査室に入ると、古びてヒビの入った台が置かれていた。指示通り横になっているとアワンがオルガマリーを固定しに来た。オルガマリーの固定が終わると、アワンは耳元でそっと囁いた。

 

「マックスは譲りませんよ。私のです。貴方には貸すだけですよ。」

「なっ!さっきから!......良いでしょう...宣戦布告と受け止めました。アニムスフィアを舐めたことを後悔させてあげます。」

「楽しみにしてますよ。」

 

検査室の隣の部屋の機械室のアワンが入るとマックスがいた。

 

「宣戦布告といていたが、さっきから何をしているのだ、アワン?」

「なんでもありません、隊長。ちょっとした雑談です。」

「今は任務中だ。雑談は控えろ。」

「申し訳ありません、隊長。」

「それより、アワン、カルデア復旧班の指示に行ってくれ。」

「はっ! 了解しました。」

 

アワンはマックスに敬礼するとカルデアに向かっていった。マックスはマイクにスイッチを入れ、オルガマリーに話しかけた。

 

「これより、検査を始めます。」

「は、早く終わらせてよね。」

 

マックスの指示で隊員はオルガマリーが載っている台に魔力を通し始めた。魔力が通り始めるとオルガマリーは台の方から、血の匂いと悲鳴が聞こえてきた気がした。いきなりの事でオルガマリーはパニックになる。

 

「マックス! これ外して! 幻聴が聞こえる!」

「幻聴ではありませんので安心してください、所長殿。もう少しで終わるので、動かないでください。」

「幻聴じゃないの⁉︎ この石の台なんか血生臭いし、冷たいし、時々悲鳴が聞こえるんだけど! 本当に大丈夫なの! これはなんなの⁉︎」

「その台はヘロフィロスの解剖台です。今の所長殿を検査するにはぴったりの遺物ですので、我慢してください。匂いや悲鳴には今の所、害は確認されてません。」

「今の所⁉︎」

 

ヘロフィロスの解剖台。ヘロフィロスは古代ギリシアの医学者で、世界で初めて解剖に基づき理論を構築した人物と伝えられている。彼は、脳が神経系の中枢であり、知性の在処だという事を突き止めた。

遠征隊が回収した石の台は、ヘロフィロスが解剖の時に使っていたもので、台の上に乗る者の体をくまなく調べることができる。また、ヘロフィロスの偉業の"知性の在処の発見"の影響で、知性つまり魂の状態の検査もできる優れものである。

ちなみに治療もできるが、台の影響で麻酔が無効化される。これは古代ギリシアには、麻酔がなく、検体の意識があるまま解剖をしていた事が影響していると遠征隊は予想している。つまり、治療するときは麻酔なしで行われるので、患者は治療中は激痛に耐えなくてはならない。なので、よっぽどの事がない限り、治療には使われていない。

マックスは台に繋いだコードから送られてくるオルガマリーの状態を確認していた。マックスに医療隊員が報告する。

 

「ん〜、初めて見る数値ですね。」

「まずいのか?」

「遠征隊は幽霊と悪霊の間のような存在で、周りの環境によってどっちかに傾いたりする不安定な存在です。」

「しかし、所長殿は違うと。」

「はい。」

 

マックはオルガマリーの胸元にある、虹色の結晶がついたネックレスがつけられていた。マックスは精神状態が不安定なまま、聖晶石にオルガマリーの魂を入れた時に何か問題が起きたのではないかと不安になった。

 

「隊長は所長の魂を聖晶石に固定して、特異点から回収しました。施術の方はほぼ完璧で、魂を欠損することなく回収に成功しています。しかし、問題は所長の体の方です。」

「爆散した所長殿の体を材料に作ったホムンクルスだったな。」

 

遠征隊は管制室に散らばったオルガマリーだった物を集めて、オルガマリー用のホムンクルスを作った。自分の体を材料に作ったホムンクルスの方が、本人もいきなり別の器に入るよりも安心できるだろうという余計な配慮だった。実際にオルガマリーが自分の体が材料になってると聞いた時、物凄く嫌そうな顔をしていた。当然だ、自分の体が材料と聞いて安心する人はまずいない。

 

「はい。遠征隊のホムンクルスはアミノ酸スープで作ったものですが、所長の体は爆散した所長本人の肉体を材料に作ったものです。ホムンクルスに魂と親和性が材料を使ったので、魂の性質が遠征隊に比べて安定しています。」

「つまり、我々のように環境に影響されないと。」

「それどころか、魂が肉体に癒着してます。」

「幽霊ではないのか?」

「正確には、半分人間、四分の一幽霊、四分の一悪霊ですね。そのせいで、レイシフト成功率が一桁になってますけど。」

 

オルガマリーは親和性の高い自分の肉体が材料のホムンクルスに入ったので、魂がホムンクルスに定着し、魂の半分ほどが生きている人間と同じ状態に戻って、魂の状態が非常に安定している。欠点として、遠征隊のように肉体の乗り換えが難しくなっているのと、レイシフトがほぼ不可能になっていることだ。

遠征隊はホムンクルスと魂の親和性があまり無いので、肉体の乗り換えが容易になっていて、マスターにくっ付いて特異点に行くことが可能になっている。欠点としては、周囲の環境や霊的な干渉により、悪霊に傾いたりすることだ。悪霊に傾くと頭に血が上りやすく、理性的な判断ができなくなる。

 

「良くも悪くも無いと言ったところか。」

「はい。しばらく、様子を見て判断した方がよろしいかと。」

「分かった。所長殿の固定を外すか。」

 

マックスは検査室に入り、オルガマリーに固定を外した。オルガマリーは靴を履き、服を整えるとマックスを見つめる。

 

「もうそろそろ、立香が起きる頃だから行くわよ。」

「了解しました。」

 

二人はカルデアに向かって、歩き始める。オルガマリーは自分の斜め後ろにいるマックスに話しかけた。

 

「マックスはいつまで私について来てくれる?」

「必要とされる限り。」

 

オルガマリーはマックスの顔を見るが、いつもと変わらず固い表情をしていて感情を読めなかった。しかし、オルガマリーは機嫌が良くなり、足取りが軽くなった。

 

「あなたは我らの戦い方を見ても、必要と思い続けるられのか…」

 

マックスが振り返ると自分の歩いた道に屍山血河を幻視した。死体の誰もがマックスを怨んでいる。マックスはそれを見るが何も思えない。後悔も恐怖も何も感じれない。

 

「どうしたのマックス?」

 

振り向いているマックスをオルガマリーは不思議そうに見ていた。

 

「いえ...何も。」

「そう...き、きっと疲れてるのよ。」

「そんなことはありません。」

 

オルガマリーはマックスをジトーと見て、膨れる。

 

「疲れてんでしょ。」

「いえ。」

「疲れてるのよ。だから...つ、連れてってあげる。」

 

オルガマリーはマックスに手を差し出した。マックスは掴むかどうか迷った。自分に掴むか資格があるのか迷ったからだ。オルガマリーはオルガマリーの手を見つめて固まるマックスを見て、溜息を吐いた。

 

「あなたは私を認めているんでしょう。ならば、私も認めます。さあ、握りなさい。」

 

マックスは恐る恐る握った。いつも握っている剣の握りや銃のグリップの固く冷たい感触とは、違う暖かく柔らかい感触に不思議な気持ちになった。オルガマリーはマックスを引っ張りながら、歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所長殿、歩きにくいです。」

「...あんたには心がないの?」

「心はあります。心は。」

「...始末書提出ね。」

「勘弁して下さい。」

 

オルガマリーは手を繋ぐのをやめて、マックスに蹴りを入れる。オルガマリーはこいつが自分の気持ちに気づくまで、何時もの関係でいいやと思うのであった。


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