カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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感想をもらったので、嬉しくて筆が進みました。なのでいつもよりも少しでも早く投稿。

この話で特異点Fは終わります。今回も遠征隊がボコボコにされます。人間と人外達の力量差を出すためにマックスには、サンドバックになってもらいました。結構、エグい内容になったので、後半からグロ注意です。


任務の終わりと任務の始まり

遠征隊は再び召喚サークルに戻り、体の予備パーツを受け取るとキャスターに接続してもらい両腕を取り戻した。パーツと消費した弾薬、蜂の巣にしたケッテンクラートの補給を要請した際、

 

『今度は何をしたんですか?出発してから30分ほどしか経っていませんよ。』

 

通信に出た女性は冷たい目で両腕を失った遠征隊を眺めていた。遠征隊は説教を待つ子供のように一列に並んで、聞いていた。

彼女はイザイラ・アワン、遠征隊の副隊長で兵站を担当する後方部隊の指揮官である。先ほど、送ったばかりの装備を溶けた金属の塊にしたと聞けば、後方部隊を預かる副隊長として無駄を許すわけにはいかなかった。

 

「必要な経費だった。勘弁してくれ、アワン副隊長。」

 

両腕で失い間抜けな格好で、言い訳をするマックスにアワンは溜息を吐いた。

 

『まったく隊長なのですから、しっかりしてください。とりあえず、この話はやめましょう。先ほどと同じ武器、弾薬、装備を送るので確認してください。』

 

 

 

 

 

 

そんなことが、あってようやく洞窟に着くことができた。遠征隊は洞窟の前に陣地を構え始める。

 

「我々はサーヴァントには勝てないので、入り口で街の方からやってくる骸骨どもを食い止めます。」

「ああ、その方がいいぞ。セイバーの攻撃に巻き込まれたら、チリも残らん。」

「とりあえず、洞窟の中にも反応があるので焼きますか。」

 

遠征隊は洞窟内に敵の反応があるので持ってきた火炎放射器で、焼くことにした。

 

「あの骸骨に火って効くんですか?さっき、火の中から襲ってきましたけど。」

 

立香には火の中から燃えることなく出てきて、襲ってきた骸骨に火が有効とは思えなかった。立香の問いに火炎放射器を背負った隊員が答える。

 

「種火と燃料に工夫を加えているので、大丈夫ですよ。守護者だった時に効果は確認してます。」

「工夫...やっぱり、人の油ですか?」

 

立香はサラエボ拳銃の弾丸を思い出し、燃料タンクから距離をとった。

 

「惜しいですね。」

「やっぱり...」

「正確には、カタリナの骨から流れ出る香油を混ぜています。また、種火にはプロメテウスが盗んだ火から落ちた火の粉を使用してます。」

 

聖者カタリナの骨。タマネギ騎士のカタリナの方が有名だが、聖者カタリナは十四救難聖人に数えられる偉大な聖人なのだ。ここでは、彼女の功績は省くが、彼女の遺骨からは香油が流れ出ていて、あらゆる病気を治すと伝えられている。

過去に行われた時計塔守護者達による世界中に散らばる聖遺物収集事業の際に、聖者カタリナが葬られたシナイ山から発見された遺骨は今なお香油を出し続けていた。

種火のプロメテウスの火は語る必要すら無いだろう。守護者達はプロメテウスの火を回収した際に、火の粉を密かに盗み出し、持ち帰ったのである。この火の粉から遠征隊は聖火を起こし、独自の兵器に改造していた。

 

「よくそんなもんを集めたな...」

 

キャスターは遠征隊の収集能力に呆れた。イギリスは過去に世界中に植民地を持ち、そこから貴重なものを大量に持ち出しているのだ。そんな、イギリスの血が流れている遠征隊は同じように時計塔に様々なものを運び込んでいる。たとえ、それが国際問題に発展するサラエボ拳銃のようなものでも。

また、聖遺物収集の際に聖堂騎士団とかち合い、その地域を壊滅させるほどの戦闘をしたこともあった。その戦闘は、泥沼化したことに(ごう)を煮やした教会が埋葬機関を投入したので、守護者達が大量に虐殺されることで幕を閉じたが。

 

「まあ、とりあえず、燃やしますか。」

 

3人の遠征隊が火炎放射器を構え洞窟を燃やそうとした時、キャスターは嫌な予感がした。

 

「来るぞ!」

 

キャスターの言葉に遠征隊は伏せたが、火炎放射器を持っている隊員達は耐火装備を着ていたので素早く動けなかった。洞窟の奥から飛来した矢は隊員を貫くと、ダーツのように隊員を木に突き刺した。

 

「伏せろ!引火するぞ!」

 

タンクから漏れ出した燃料が、噴射口についていた種火に引火し爆発を起こした。マシュは立香に、マックスはオルガマリーに覆いかぶさり爆発から守った。

 

「隊長さん!紐が!」

 

立香は腕についていた紐をマックスに見せる。二本の紐が燃えていた。

 

「ドッグタグが壊されたか...一人は無事なようだな。レーダー反応は⁉︎」

 

隊員の一人が洞窟にセンサーを向ける。だが、そのセンサーもすぐさま矢に貫かれ、隊員の額にも矢が突き刺さる。

 

「この精度はサーヴァントだ!身を隠せ!」

 

遠征隊は身近な木や岩に裏に隠れる。物陰に飛び込む遠征隊を他所にキャスターは洞窟の入り口の正面に立ち、向かってくる矢を燃やしていた。

 

「アーチャーのサーヴァントよ、相変わらず聖剣使い護ってんのか、テメエは。」

「...ふん。信奉者になった覚えは無いがね。いきなり、燃やそうとしてくる来客を追い返す程度の仕事はするさ。」

 

キャスターが声をかけると洞窟の中からアーチャーのサーヴァントが出てきた。遠征隊は設置していた銃座に付き、アーチャーに狙いを定める。殺気立つ遠征隊を他所にキャスターはアーチャーに知り合いに会ったように話しかけていた。

 

「ようは門番じゃねえか。何からセイバーを守っているかはわからねえが、決着をつけようや。」

 

キャスターはアーチャーに向かって走り出した。アーチャーはキャスターと距離を開けようと森の中に紛れこむ。

 

「遠征隊よ、街から敵が来てる! 俺が合流するまで、入り口を守ってろ!」

 

キャスターはアーチャーを追いながら、遠征隊に街から大量の敵が迫ってくることを教えた。レーダーが壊された遠征隊は目を失ったと同じなので、キャスターに言われるまで気づかなかった。

 

「マスター殿、マシュ殿、我々はここでは敵を足止めします。その内にセイバーをお願いします。」

「分かりました。何かあったら、呼んでください。すぐに戻ってきます。」

「マシュ殿......我々はただの駒に過ぎません。例え、我々が助けを呼んでも無視して進んでください。我々の命よりも、人類に未来を優先してください。」

「でも......分かりました。もしかしたら、道に迷って入り口に帰ってきてしまうかもしれません。」

 

マックスはマシュの仲間を思う気持ちに安心した。マシュは遠征隊の仲間になったと言っていたが、仲間など任務の為ならすぐに切り捨てる自分らと同じにはなっていないことに。マシュの後ろで心配そうに立つ立香にマックスはポケットにしまっていたドッグタグを渡した。

 

「マスター殿にこれをお願いしたい。」

「ドッグタグですか?」

「我らが死んだら、こいつらも帰れなくなるので。」

 

立香はドッグタグをしっかりとポケットにしまった。

 

「隊長、早く!そこら中から足音が聞こえます!」

 

銃座について敵を待ち構えていた隊員達は森が震えるほどの敵の足音に肩に力が入る。

 

「所長もマスター殿と一緒に...人類をお願いします。」

「隊長さんも頑張って!」

 

マックスは洞窟の奥に消えていく立香達を敬礼で見送った。マックスが振り返ると大量の骸骨が森から溢れ出してきていた。

 

「野郎ども!ここで止めるぞ!一匹たりとも通すな!」

「「「「Sir, yes, sir!」」」」

 

マックスも銃座に付き、骸骨が迫ってくるのを待った。骸骨はマックス達を狙いまっすぐ向かってくる。地面が振動するほどの足音にマックス達の顔に汗が流れる。

 

「エリアに入りました!」

「爆発!」

 

洞窟周辺には大量のクレイモアを仕掛けていたのだ。一個あたり700個の鉄球が骸骨の波を襲い、砕く。仲間の破片に足を取られる骸骨に遠征隊は掃射を始める。

 

「焼け付くまで撃て!」

「手榴弾も使え!面で攻撃しろ!」

 

遠征隊にはもう17人しか残っていないのだ。いくら粉砕しても森から湧き出る骸骨にだんだん押され始めた。

 

「手を休めるな! 我らの背後にはマスター殿がいるのだ! 恐れることは無い!」

 

押され始めたことにマックスは焦りを覚え始める。所詮、銃なのだ。撃っていれば、弾が切れ、装填する必要がある。その隙に骸骨達は距離を詰めてくる。マックス達が撃っていると上から人影が落ちてきた。

 

「ふんっ!」

 

マックスは素早く反応し、腰につけていたブロードソードを抜くと影に斬りかかる。

 

「うおっと! あぶねえな気をつけろよ!」

 

落ちてきたのはキャスターだった。先ほどとは違い、上半身が裸だったが。キャスターは杖を一振りすると迫ってきた骸骨を一掃した。

 

「これでしばらくは大丈夫だろう。今の内に立て直しな。俺は嬢ちゃん達のところにいく。あとは頼んだぞ。」

 

マックスはキャスターの背中を見送ると骸骨に向き直った。マックスは高ぶる気持ちに笑いが抑えられなかった。他の隊員も同じようで、笑っていた。英霊による言霊(ことだま)。悪霊になり霊的な物の影響を受けやすくなっている遠征隊には、凄まじいドーピング剤となる。魂が強化され、悪霊の力が増幅される。彼らの放つ弾丸には魔力だけでなく、骸骨への呪いが加えられる。

 

「我らは英雄に託されたぞ!英雄に託された!ならば見せてやろう、矮小な人間の意地を!」

 

マックスの言葉に隊員は拳を突き上げ雄叫びをあげることで返事する。敵を全て打ち倒そう。今ならそれができると遠征隊は確信していた。

 

 

 

 

 

side 立香

 

出てくる竜骨兵を砕くマシュの後ろを追いかけていた。魔術は素人の立香でもこの奥に、何かがあることを感じ取れた。洞窟の奥からくる魔力の波動を立香は感じ取っていた。

 

「隊長さん達は大丈夫かな...」

 

立香は森が震えるほどの敵にマックス達がやられてしまうのでは無いかと不安になっていた。

 

「マックスなら平気よ。あいつはどんな時でも生き残ってきたわ。」

 

立香の横を走るオルガマリーは前を向いたままつぶやく。立香はオルガマリーの横顔を見る。オルガマリーは昔を思い出しているようで、遠い目をしていた。

 

「少し前、カルデア周辺の国で内紛はあったのは知ってる?」

「はい、確か国の中枢が腐敗しているとかで、半年間ひどい内紛が起こっていたとか。」

 

立香はカルデアに行く際に外務省からカルデア周辺の国の治安が不安定で渡航は勧められないと言われたのを思い出した。

 

「電気、水道全てのインフラが破壊されるような内紛に遠征隊が投入されていたのよ。カルデアに被害が来ないように調節するためとかで。その時、マックスは敵に囲まれながらも無傷でカルデアに帰ってきたの。」

「そんなことが...」

 

世の中に興味がなく、俗世と関わりを持つことを嫌いそうな魔術師のイメージを持っていた立香は遠征隊が内紛の仲裁を行っていたことが意外だった。

 

「あの時から私の指示を聞かなかったのよ。危ないから行くなって言ったのに、これが最善だと言って私の言うこと聞かないで勝手に言ったのよ!全く...」

(最後はやっぱり隊長さんの文句か...)

 

立香はやっぱりツンデレだなと思いんがらオルガマリーを見ていた。オルガマリーはしばらくは黙ると恥ずかしそうに話し始めた。

 

「こ、ここまでの働きは及第点です。カルデア所長として、あなたの功績を認めます。」

 

立香はオルガマリーの言葉に素直になれない同級生を見ているような気分になった。オルガマリーは立香が余計なことを考えていることを感じ取って、ふんっ!と顔を背けた。

 

「どうせまぐれだろうけど、今はあなたしかいないのよ。マックス達はサーヴァントには逆立ちしても勝てない。人間としての限界があるから...」

 

マックスの話が出てきて、立香は再び不安な気持ちになった。立香が心配になり振り返ると同時に洞窟内に爆発音がして、その後、洞窟が崩落した振動と音が響いてきた。

 

「隊長さん⁉︎」

 

立香は立ち止まってしまった。立ち竦んでいるとキャスターが走ってくるのが見えた。

 

「やっと追いついたか! 大丈夫か、嬢ちゃん達!」

「キャスターさん! 今の音は⁉︎」

 

立香はキャスターにしがみ付き、マックス達の安否を訪ねた。

 

「すまねえが、わからん。俺が見た時はピンピンしていたが、突破されたかもしれん。急いでセイバーのところに行くぞ。骸骨共に追いつかれる。」

「でも!」

 

立香とマシュはマックス達の様子を見に戻ろうとしたが、オルガマリーに止められた。

 

「もしかしたら、生きているかもしれません。助けに行きましょう!」

「駄目よ。戻っても、骸骨に会うだけ。セイバーのところに行かなければ、特異点は修正できないわ。」

「でも、仲間なんですよ!仲間は助けるのが、当たり前でしょう!」

「任務が優先よ...そんな顔しないで。さっき言ったでしょ、あいつはどんな時でも生き残ったって。」

 

立香はオルガマリーに引っ張られながら洞窟の奥へと向かっていく。

 

 

 

 

 

side マックス

 

爆発が起こる数分前

 

マックス達の前には骨が散らばり、一面真っ白になっていた。骸骨の波が収まり、各々が残弾を確認したり、治療を行っていた。

 

「骸骨の波が収まったが、第二波がくると思われる。だが、我々にはそれを抑えるだけの物資がない。」

 

マックスは残弾を聞き、今後の戦闘活動は不可能だと判断していた。

 

「隊長、戦線の引き下げを提案します。一度洞窟内まで下がり、罠を仕掛けましょう。」

「その案を採用しよう。洞窟に爆薬と火炎放射器の残りの燃料を仕掛ける。」

 

遠征隊は洞窟の入り口から下がり、新たな陣地を築き始める。弾薬は残り少なく、最後は剣と盾を使った全滅前提の遅滞作戦をするしかない。

マックスは森を見て、違和感を覚えた。静かすぎるのだ。先ほどまで聞こえていた骸骨の足音が一つも聞こえなかった。

 

「頭を下げろ!」

「えっ?...うぎっ⁉︎...があぁぁアァァァ」

 

マックスは伏せるように叫んだが、爆弾を設置していた隊員が頭を上げてしまった。頭を上げた隊員の胸に刃が生える。後ろを振り向くとフードを被ったサーヴァントがいた。サーヴァントは鎌を持ち上げ、隊員を深く突き刺す。

 

「ああ、みずみずしい...」

 

サーヴァントは鎌に滴ってくると血を浴びながら(つや)のある声を上げた。隊員の血は肌に伝い、吸収されていく。

 

「また、サーヴァントか...ゴキブリみたいに湧きやがる。」

 

サーヴァントは鎌を振い、突き刺さっていた隊員を細切れにした。

 

「少し出かけている間に狩場に一杯迷い込むなんて、滾ってしまいます。」

 

遠征隊は少しずつ洞窟の奥に下がっていく。サーヴァントは舌舐めずりをし、どの獲物から(ほふ)るかを考えていた。

 

「まずは、捕まえましょうか。逃げてしまいます。」

 

サーヴァントの足元から鎖が溢れる。鎖は蛇のように鎌首をもたげると、遠征隊に向かって突き進む。

 

「下がれー!」

 

遠征隊は鎖に向かって撃ちながら奥へと走る。鎖は弾丸を避けながら進み、遠征隊の足に絡みつく。遠征隊は持ち上げられ、振り回される。遠征隊は壁に叩きつけられるなどして、どんどん数を減らしていく。振り回され、床に叩きつけられた時マックスの横に燃料タンクがあった。

 

「爆破しろ!」

 

隊員は拳銃を抜き、タンクに向かって撃ちまくった。最終手段として、洞窟を崩落させ、自分達ごとサーヴァントを巻きこむことを選んだ。

仕掛けていた爆薬が一斉に爆発したことで、鍾乳洞は崩れサーヴァントと遠征隊を埋める。サーヴァントは鐘乳石に串刺しにされ、消えていった。

 

 

 

 

 

side立香

 

洞窟の奥に着くと、大きな空間になっていた。洞窟内の一段高いところに、明らかに特異点の原因であろう物が鎮座していた。

 

「これが大聖杯...超抜級(ちょうばつきゅう)の魔術炉心じゃない...なんで極東の島国にこんなものがあるのよ...」

 

オルガマリーは大聖杯を見上げながら震えていた。恐怖なのか、歓喜なのか、嫉妬なのかは立香にはよくわからなかった。

 

「あいつらが見たら飛び跳ねて喜びそうね...持って帰ればカルデアの機材の向上も...解析して生産できれば、みんな私のことを...」

 

オルガマリーは大聖杯を睨むように見つめながら、独り言を言い始めた。キャスターは独り言を言うオルガマリーの肩に手を置き、後ろに下がらせる。

 

「悪い、お喋りはそこまでだ。奴さんに気づかれたぜ。」

 

大聖杯の陰からセイバーが出てきた。セイバーから放たれ始めた魔力にマシュの顔がこわばる。

 

「......なんて魔力放出......あれが、本当にあのアーサー王なのですか...?」

「間違いないね。何度も世話になったやつの顔を間違えるかよ。見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。聞い抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ。」

「ロケットの擬人化のようですね。...理解しました。全力で応戦します。」

 

セイバーはマシュを見つめていた。マシュは心の奥底まで見られているように感じ、背筋が寒くなった。

 

「ほう、面白いサーヴァントがいるな。」

 

セイバーの一言にキャスターが驚き声を上げ、オルガマリーと立香は王の威厳というものを声から感じた。

 

「なぬ⁉︎ テメエ、喋れたのか⁉︎ 今まで、だんまり決め込んでやがったのか⁉︎」

 

セイバーはキャスターの問いにそんな事かという様子で面倒くさそうに答える。

 

「何を語っても見られている。故にカカシに徹していた。」

 

セイバーは再びマシュに目を向け、興味深そうに呟く。

 

「だが......面白い。その宝具は面白い。構えるがいい、名の知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

「来ますマスター!」

「負けない!隊長さんのためにも!」

 

セイバーは剣を構えると、魔力放出で一気に距離を詰める。マシュが気づいた時にはセイバーはマシュの真横に立っていて、抜刀の体制をとっていた。マシュは横目でセイバーを捉えたが、体が追いつかない。

 

「気抜くなって言ったろ!」

 

キャスターは火をセイバーに向かって飛ばす。セイバーは火を切りながら後ろに滑るように下がっていく。

マシュは予想以上のセイバーの性能に冷や汗を流した。立香とオルガマリーには、大聖杯のところからマシュのところにワープした様にしか見えず、セイバーの性能に驚愕していた。

 

「近づくとキャスターに邪魔される。ならば、ここから打つ。」

 

セイバーを剣を掲げた。それを見たマシュは、己の中のサーヴァントが過去最大限に警鐘を鳴らしているのを感じ取った。

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を飲み込め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!」

 

振り下ろされた剣から、闇の奔流が放たれ射線上のものを飲み込んでいく。迫り来る闇に立香達を守るためにマシュも構えた。

 

「宝具、展開します。ああぁあああー!」

 

マシュは宝具を展開し、闇の奔流を受け止め散らしていく。マシュに受け止められたことに、セイバーは驚愕し止まってしまう。

 

「さっきから、好き放題やりやがって、燃えろ!燃やし尽くせ木々の巨人!『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!」

 

止まったセイバーの足元から巨大な木の腕が生まれ、セイバーを握り潰そうとする。セイバーが腕を壊そうとすると、巨人は握りつぶすのをやめ、自分の腹の中に放り込んだ。そして、そのままセイバーは(にえ)として焼かれた。

 

「.........フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。」

 

煙の中からセイバーの声が聞こえてきた。マシュは構えたが、先ほどとは違いセイバーの声には敵意がなかった。

 

「聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いた挙句、敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるということか。」

 

セイバーは小さく笑うと、黄金の粒子になりながら消えていく。

 

「ああ⁉︎ どういうことだ?」

 

セイバーの言葉にキャスターは食ってかかる。セイバーは立香をまっすぐ見ると

 

「グランドオーダー......聖杯をめぐる戦いは、まだ始まったばかりという事を覚えておくがいい。」

 

そう言い残すとセイバーは完全に消えた。セイバーの立っていた所には特異点の中心であろう渦が残っていた。

 

「おぉお! ここで強制帰還かよ!マスター!お嬢ちゃん!後は任せた!...次はランサーとして喚んでくれよ!」

 

キャスターも光となり消えてしまった。立香達は息を吐き、力を抜いた。

 

「不明な点が多いが、ここでミッションを終了します。多くの犠牲を払いましたが、ミッションは大成功とします。」

 

オルガマリーが水晶体に手を伸ばした時、洞窟の奥に人影が見えた。

 

「いや、まさかここまで君たちがやるとは。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。数合わせの48人目を見逃した私の失態だ。まあ、いちいち計画の邪魔をしてきた目障りなマックスを消せたのは儲けものだったがな。」

 

洞窟の奥から近づいてきた人物はレフ教授だった。レフ教授がカルデアの時と全く違う様子に立香は寒気を覚えた。

 

「どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで、吐き気がする。指揮できないトップ、聖遺物(危険物)を勝手に持ち込む遠征隊、予想通りに動かないマスター。人間というものはどうしてこう、定められた運命から逃れたがるんだ?」

 

レフ教授は悪態をつきながら、ドンドン近づいてくる。マシュは悪の塊が近づいてくる様に見え、立香達を後ろに下げようとしたが、オルガマリーはマシュの手をすり抜けてレフ教授の元に走っていってしまった。

 

「ああ、レフ......レフ、レフ、生きていたのねレフ! よかった、あなたがいなくなったら、どうやってカルデアを守って、遠征隊を指揮していくのかわからなかった!」

 

レフが遠征隊の名を聞くと顔が歪み、オルガマリーに怒鳴る。

 

「やっぱり遠征隊か! あの、イレギュラーは早く始末するべきだった!本当に予想外のことばかりで頭にくる!」

 

怒鳴るレフにオルガマリーは怯え下がる。下がるオルガマリーを逃さない様に、肩を掴む。

 

「余計な奴らを呼び寄せたお礼に一ついい事を教えてやろう。君は死んでいる、肉体はとっくにね。」

 

オルガマリーは全身の力が抜ける。オルガマリーは否定したいが、彼女の優秀な脳がこの事実を肯定する証拠を上げた。魂だけの存在なのでレイシフトできる遠征隊、サラエボ拳銃を触った時に言われた霊的に干渉を受けやすくなっているという事。これらの事実が自分はマックス達と同じ様に幽霊であると証明していた。

 

「わかるかな。君は死んだことで初めて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だから、カルデアに戻った時点で君は消滅する。君は帰れないのだよ。」

「私が...戻れない...ウソ...」

 

レフはオルガマリーを優しく座らせ、幼子をあやす様に優しく語り続ける。

 

「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ。身をカルデアに捧げた君のために、今のカルデアスを見せてやろう。」

 

レフが手を振るうとカルデアスが現れた。特異点に行く前、立香が見た時と同じく寒々しい赤色をしていた。

 

「なにあれ...カルデアスが真っ赤になってる。」

「君のために時空をつなげてあげたんだ。本物のカルデアスだよ。聖杯があればこんな事も出来るんだよ。」

 

アニムスフィア一族の誇りをかけて作り上げたカルデアスが真っ赤に(けが)されていることにオルガマリーは怒りも湧かず、ただただ無気力になっていく。

 

「さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがお前達の悪行の末路さ。君の至らなさが、この悲劇を起こしたのさ。それに、君はこのミッションのために、何人の人の命を犠牲にしたのかね?」

「ふざ、ふざけないで!私の責任じゃない、私は失敗していない、私は死んでなんかいない...私のカルデアスになにをしたのよぉ......!」

「あれは、君のではない...全く最後まで耳障りな小娘だったよ...」

 

レフはやれやれと言いながら立ち上がり、膝についた塵を(はた)く。レフがオルガマリーに手を向けると、オルガマリーが浮き始めた。

 

「最後に"君の宝物"に触れさせてあげよう...触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の地獄を味わいたまえ。」

「どうして⁉︎ どうしてこんなコトばっかりなの⁉︎ 誰も私を評価してくれなかった⁉︎ みんな私を嫌っていた!」

 

オルガマリーは立香達に手を伸ばし、助けを求める。立香は駆けつけようとしたが、マシュに止められる。立香が行っても死ぬだけなので正しい判断だが、オルガマリーには関係ない。立香が止められたことにオルガマリーの目が完璧に絶望に染まった。

 

「やだ、やめて、いやいやいやいやいや......! だってまだ何もしていないの!生まれてからずっと、ただ一度も、誰にも認めてもらえなかったのにー!」

「......もう間に合わない...」

 

立香は悲惨な光景から目をそらすように、目をぎゅっとつぶった。立香は悲鳴が聞こえてくるのをぐっと堪えて待っていると、自分の横を高速で何かが通過したのを感じた。

 

「...えっ?」

 

立香は爆発音に目を開けると、レフが立っていた所は黒煙に包まれ、オルガマリーは落ちて尻餅をついていた。

 

「...我々はオルガマリーを認めている。だから指揮官を任せた。」

 

立香が入り口に目を向けると、使い終わったAT4を投げ捨てているマックスがいた。遠征隊はマックス合わせて9人しか居なく、誰もが服も破れ、全身傷だらけのボロボロであった。マックスはオルガマリーの元に近づいていく。

 

「......マックス...ごめんさない、ごめんなさい、ごめん、なさい。」

 

オルガマリーはマックスに抱きつくと、永遠と謝り始めた。マックスはオルガマリーを急いで抱え上げ、立香の元に下ろした。オルガマリーは感情が大きく揺さぶられ過ぎたので、意識が飛んでいてぐったりとしていた。

 

「マスター殿、急いで戻ってください。我々が彼奴を止めます。」

「そうはいかないよ。」

 

マックスがマシュにオルガマリーを渡し、逃げる様に言うと背後の煙の中からレフの声が聞こえた。

 

「やあ、生きていたのかマックス。会えて嬉しいよ。」

「ああ、久しぶりだ。とりあえず、お前をぶっ殺す。」

 

遠征隊は弾が切れ用無しになった銃や装備を投げ捨て、剣を引き抜き、盾を構えた。レフは戦闘体制に入る遠征隊を目の前にしながらも、散歩する様な足取りで歩いていた。

 

「お互い、ちゃんと自己紹介しようではないか?」

「今さら何を言う。」

「私はちゃんとしたフルネームを言っていないし、君も偽名だろ。」

 

予想以上に遠征隊のことをしているレフにマックスたちはさらに警戒のレベルを上げ、肉体の限界を引き上げるために詠唱を始める。

 

「「「「私は川の対岸に独り残り、私は夜明けまで戦った。腿の関節は外れ、酷く痛むが私はあなたを離さない。ああ、祝福を、祝福をください。今この時、ここをペヌエルと名付ける。

人類の勝利と神の祝福(創世記32章23節)』」」」」

 

肉体の強化により、傷口から血が噴き出すが遠征隊は気にする様子もなかった。レフは遠征隊の詠唱が終わるのを待ち、終わると美しいお辞儀をして自己紹介を始めた。

 

「改めまして、私はレフ・ライノール・フラウロス。君たち人間を排除するために遣わされた2015年担当者だ。」

「改めまして、私はマックス・アベル。本当の名は、何処かに置き忘れてしまったよ。」

 

両者はしばらく見つめ合う。レフが遠征隊に向かって歩き始めると同時に、遠征隊は斬りかかる。

 

「暇なので少し話をしよう。」

 

レフは9人の遠征隊の斬撃を紙一重で避けながら、休日にあった友人と立ち話するかの様にマックスに話しかける。

 

「未来が観測できなくなり、お前たちは"未来が消滅した"なぞほざいていたな。まさに希望的観測だ。」

 

マックスたちの同時攻撃も杖と靴でずらし、涼しい顔でいつもの様に微笑みを浮かべながらマックスに話しかける。マックス達はレフのカウンターに対応するだけで、精一杯で返答する余裕などない。

 

「未来は消滅したのではない、焼却されたのだ。カルデアスが真っ赤に染まった時点でな」

 

レフはマックスにカルデアスを見せるために、二人の隊員の腕を掴むとカルデアスに投げつけた。二人の隊員は壮絶な断末魔を上げながらカルデアスに飲み込まれていく。マックスは飛んでいく隊員を目で追ってしまったので、レフの思惑通り真っ赤なカルデアスを見せつけられた。

 

「結末は確定した。貴様達の時代は存在しない。いくら抵抗しようと虚しい抵抗だ。カルデアス内の時間が2015年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。」

 

レフはマックスの腕を優しく握る。マックスは振りほどこうとするが、全く離れない。レフが投げようとしたので、マックスは自分の腕を斬り、抜け出す。マックスはカルデアスに投げ飛ばされるのは防げたが、勢いよく地面を転がっていく。マックスは地面に擦り付けられたので、傷口が広がりマックスの通った後にレッドカーペットが出来上がる。レフは杖で他の隊員を小突き、風穴を空け始末する。

 

「お前達は進化の行き止まりで衰退するのでもなく、異種族との交戦の末に滅びるのではない。」

 

レフは剣を杖に立ち上がろうとするマックスの腹を蹴り上げる。レフに殺意を向けられた時点で、痛覚を鈍くしているマックスだったが、レフの蹴りは肉体を通り越し魂すらも蹴り上げたので、マックスは激痛に動けなくなる。レフはマックスの近くに屈んで髪を掴み、カルデアスに顔を向けさせ、説明を続ける。

 

「自らの無意味さに! 自らの無能さ故に! 我らが王に寵愛を失ったが故に! 何の価値もない紙クズの様に、跡形もなく燃え尽きるのさ!」

 

マックスは最後の抵抗として、レフの足にタクティカルナイフを突き立てるが傷一つ付けることなく弾かれる。レフはマックスを哀れむ目で見ると、そのままマックスの顔面を地面に叩きつけた。

レフは全ての掃除が終わったように手をはたくと、遠征隊の死体を踏み越えながら立香達のところに行こうとした。立香まで、あと十数mになった時、空間が揺れた。

 

「おっと、この特異点も限界か。...セイバーめ、大人しく従っていれば、生き残らせてやったものを。維持しようなぞ、余計な手間を取らせてくれた。」

 

レフはひどく歪んだ笑顔を立香に向ける。

 

「私も仕事があるのでね。君たちの末路を愉しむのはここまでにしよう。散々計画を邪魔いてくれたこいつらも、存分に料理できたしな。」

 

レフは足元の遠征隊を踏みにじる。立香は悔しさで顔が歪むが、圧倒的な力量差を見せつけられたので迂闊に動けなかった。

 

「このまま時空の歪みに飲まれるがいい。私も鬼ではない、最後の祈りぐらいは許容しよう。」

 

レフが溶けるように消えると、洞窟を覆っていた重圧が消えた。立香とマシュは急いでマックス達に駆け寄る。立香がマックスを見つけると、顔面を潰され両目を失いながらもオルガマリーに這い寄っていた。

 

「隊長さん!」

「ああ...マスター殿、マシュ殿。カルデアにレイシフトの要請と、部下のドッグタグの回収をお願いします。」

「「はい!」」

 

立香は隊員達から急いでドッグタグを集めて回り、マシュはロマンにレイシフトを要請していた。立香がドッグタグを全て回収し、マックスを見ると目が見えないはずなのに、優しくオルガマリーに虹色の結晶がついたネックレスをつけ、ミサンガのようなものを腕に巻いていた。

 

「...隊長さん。」

「これは賭けです...施術の時には精神が安定している必要があります。しかし、今の所長殿は非常に不安定です。無事に帰れるかどうかは、所長殿の想いの強さ次第です。」

 

マックスはオルガマリーを抱きかかえていた。マックスの目からは血が滴り落ち、現実の悲惨さに泣いているようだった。

 

『マシュ! 間に合わない!そっちの崩壊が先だ!耐えてくれ!』

 

ロマンの叫び声と共に、空間が悲鳴をあげ崩れていく。マックスは立香、マシュ、オルガマリーを抱きしめ、少しでも瓦礫から守ろうとする。

宇宙空間に放り出されたのは、10秒ほどだったが、立香は静寂な空間に10分はいた気がした。宇宙放射線が立香達を襲うがマシュの力によって、守られていた。

そして、立香は特異点に来た時と同様に渦に飲み込まれる感覚と共に気を失う。

 




遠征隊を墓地に送り、オルガマリーを特殊召喚! 誰だって、オルガマリーを助けたいよね。この小説で死ぬのは遠征隊と一般市民だけで十分です。

この後の予定は後日談2、3話と設定集を上げてから、オルレアンに突入します。後、書いてて思いついた聖堂騎士団 vs 遠征隊の大規模戦闘をどっかで書きたい。聖堂騎士団について書いてある資料ってありますか?教えてください。

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