カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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立香のお勉強

立香の隣でずっと授業していたオルガマリーは橋が視界の端に写り始めたので、一時中断することにした。

 

「わかりましたか? 私に説明してみなさい。」

「えっと...カルデアは不安定な人類の歴史を守っていて、所長のお父さんが頑張って作った施設で、カルデアスで未来が観測できなくなった原因の排除が今の任務になっている。そして、今いる特異点Fが原因で排除する必要があって、私たちが集められた。」

「まあ、いいでしょう。何回説明したことやら。説明会で話した内容と同じことよ。寝てるから、簡単なこともわからないのよ。」

 

何度も復唱させられて、くたびれた立香は一通りの授業が終わったので、マシュとマックスの方に逃げることにした。立香は後ろでオルガマリーが、カルデアに帰ったらテストします、と言っていたが、周りの炎のせいで聞こえなかったことにした。

 

「橋も近いし、マスター殿も授業が終わったようなので、実戦形式の訓練をしましょう。マスター殿も我々に指示を出さねばならない時がきます。オルガマリー所長がいない時でも、我々をうまく活用する必要が出てきます。」

「うへぇ...また勉強か。」

 

オルガマリーは基本的にカルデアから指示をするので、通信が悪い時には立香が指示を出さなければならない。

 

「そう言わずに。では、あの橋を調査するにはどうすればいいのかわかりますか?」

 

マックスは燃え盛る橋を指差した。

 

「えっと、向こうまで調査しなきゃいけないから...近くにある消火栓で火を消してから向こうに行く...のかな?」

「そんな時間の余裕はありません。もっと独創的に考えてください。もっと簡単に向こうにわたる方法があります。」

 

そう言われ立香は橋を見たが、橋の道路は漏れた燃料で燃え盛っていた。

 

「こう、魔法で飛んで渡る。」

「魔力も使いません。」

「もう、答え教えてください。」

 

若干拗ねながらマックスに言うと、マックスは橋の手すりを指差した。

 

「あそこを渡ります。」

「わかるわけないでしょう⁉︎」

 

道を歩かないという選択に立香は驚き、そんな問題わかるわけないと文句を言い出した。

 

「特異点では、普通ではないことが起こり得ます。なので、状況に見合った柔軟な発想が必要です。」

「私は今日来たばかりの元一般人なんですよ。」

「そうでしたね。」

 

マックスも立香が来たばかりで1日も経っていないことを思い出した。濃い一日だったので、マックスですら感覚に狂いが生じていた。

 

(感覚が狂ったか?後で、調整が必要だな...しかし、精神的な疲れは少なく、肉体的な疲れは見受けられない。このマスター殿は他のよりもずっと優秀だな。)

 

マックスが立香を見ながら考えていると

 

「変なこと考えてないで、早く調査してきてくださいよ。敵が来ちゃいますよ。」

 

拗ねた立香が早く行ってと、マックスをシッシッと追い払った。

 

「了解しましたマスター殿。橋と対岸の偵察をしてきます。5人来い。2人は俺の後ろ、3人は向こうの手すりを行け。」

 

するとマックスは手すりの飛び乗り、幅10cm程しかない手すりを銃を構えたまま低い姿勢で進んでいった。

 

「ぜんぜんふらついてない。」

「これがカルデアの遠征隊よ。精鋭の時計塔守護者の中から選ばれた最高の部隊なんだから。こんくらい余裕よ。」

 

オルガマリーが胸を張って自慢しだし他のをよそに、立香はマックス達に何かないかじっと見守っていた。すると、マックスとは反対側を進んでいた隊員達が大声で

 

「contact! Open fire!」

 

すると手すりの上から橋の中央へとマックス達が撃ち始めた。オルガマリー達と一緒にいた隊員達の半分はすぐさま、盾を構えて円陣を組みオルガマリー達を守り、残りの半分はマックス達の援護のために手すりの上を走って行った。

 

「やはり、集団行動は難しいですね。」

「サーヴァント殿は基本的に単騎で運用されます。ですので、あまり気になさらないでください。今回は、不甲斐ない遠征隊の手助けをしてもらっているだけなので、将来的に集団行動をする可能性は低いです。」

 

マシュは円陣を組む際に、少し手間取ったことを気にしたが、マシュの隣で盾を構えていた隊員がマシュのフォローをしていた。

 

「所長殿、魔力計は周囲に魔力が漂っているので、針が回ってしまい原因特定ができません。なので、魔力度計の数値を見ながら探すしかありません。測定結果では、魔力度計の数値は時代を改変するには低すぎるので、原因はここではありません。」

「特異点の原因になるなら、その地を代表するような建物や霊脈にあると思うけど...流石に橋は違いましたか」

 

背中に機械を背負った隊員が所長に色々なグラフや数値の書かれた紙を渡すと、オルガマリーは持っていた地図と見比べた。

 

「橋の向こうには明らかに怪しそうな地名がありますね。」

 

立香は横から地図に丸が付けられている校舎や屋敷という地名があるの見た。オルガマリーはため息を吐くと

 

「それを確かめたいけど橋がこれじゃね。マックス達はいいけど私たちが渡れないし、素早く逃げられないじゃない。」

「逃げること前提なんですか?」

「何よ、撤退は禁止なの? 私は転進なんて言わないわよ。逃げることも立派な戦術よ、これからサーヴァントや遠征隊を指揮することになるんだから、しっかり覚えておきなさい。」

 

オルガマリーは、今まで逃げずにカルデアを守った。しかし、一度だけ逃げてしまった。カルデアをどうやって守るのか考え続けたが、遂には思いつかず時計塔に逃げてしまったのだ。逃げた先で、オルガマリーはマックス達に会った。

時計塔から来たから、マスターの資格のない自分は馬鹿にされて、命令を聞いてくれないだろうとオルガマリーは思っていたが、マックス達はオルガマリーの今まで逃げなかったことを尊敬し、最大限の敬意を払った。オルガマリーは逃げた先で、時計塔の守護者に認められたので、オルガマリーは逃げることの大切さを知った。

しかし、前所長が死にオルガマリーが所長に就任した時には、すでに遠征隊は悪霊化していた。所長としては性格が前とは違い若干めんどくさくなった遠征隊の隊員が苦手になったが、オルガマリーとしては遠征隊を信頼していた。

 

立香がオルガマリーの言葉に感心しているとマックス達が帰ってきた

 

「安全は確保できました。しかし、車を退かすには工作車がない以上、発破する必要があります。しかし、橋にダメージが入っているので発破はできません。川沿いを見てきましたが桟橋等はありませんでした。」

「そうですか。それなら湾口の港を見に行きましょう。港なら橋もしくは船があるはずです。対岸へのルートを確保次第、霊脈のある教会を見に行きましょう。」

 

地図を見ながら進行ルートをマックスとオルガマリーが相談していると

 

「contact!橋のから骸骨約30! 剣、槍、弓きます!」

「ヒッ⁉︎ さ、さっさと片ずけなさい! わた、私は隠れているからね!」

 

オルガマリーはマックスの背後に隠れた。マックスは自身を盾にしているオルガマリーを見て指揮は無理だったかと、ため息を吐いた。そして、立香を見ると

 

「マスター殿、指揮をしてください。初めてとなりますが、緊張せずに指示を」

 

立香は走ってくる骸骨を見ると体が強張ったが、目の前に城壁のように並ぶ遠征隊を見ると不安はなくなっていった。

 

「分かりました。マシュは突撃して蹴散らして、隊長さん達はマシュの援護!」

「制圧陣形展開! 弓を優先しろ!」

 

マシュは円陣から抜け骸骨に向かっていった。マシュが抜けてできた円陣の穴から隊員が出てくると横一列に並び、盾と盾の間からそれぞれが持つHK416を出した。

 

「前進!制圧射撃開始!」

 

分隊長の命令で前進を始めた遠征隊は、マシュの左右を撃ち始めた。マシュの左右にいた骸骨達は、弾丸を避けたがマシュの前に移動することになり、マシュのフルスイングでバラバラにされていった。

 

「これが本来の遠征隊の任務です。歩兵により、サーヴァントが戦いやすい環境を作り、マスターとサーヴァントの疲労を抑える。車輌による移動と運搬の補助。航空機による、奇襲と掃討。遠征隊はマスター殿が戦いやすい舞台を作り上げ、特異点の早期解決を目的にしています。」

 

その間にも、骸骨の数は減っていき最後の数体になっていた。骸骨が中央に集められ、マシュは一直線に進むだけで30ほどいた骸骨を粉砕できた。

 

「マスター、殲滅が完了しました。」

「マシュ、お疲れ!遠征隊の人たちも、お疲れ様でした。」

 

笑顔を向けられた遠征隊は、へへへっと頰を掻いて照れていた。遠征隊の女性は、戦乙女といった雰囲気が強いので、威嚇的な笑顔ではなく純粋な笑顔は遠征隊の男達には眩しすぎたのだ。

 

「ふ、ふん。どうやら指揮はできるようね。司令官は全体の指揮をしなくちゃいけないから、これで専念できるわ。」

 

怯えて指揮できなかったオルガマリーは、恥ずかしさに頬を染めながら言い訳を始めた。先ほどの攻撃を指令していた分隊長が、マックスの方に来て、小声で相談してきた。

 

「マックス隊長。」

「どうした、分隊長?」

「オルガマリー所長は、指揮官として大丈夫ですか?このままじゃ、無謀な作戦による全滅で、ドッグタグの回収が不可能になりそうなのですが。」

 

マックスが見ると、オルガマリーは、手をワチャワチャさせながら、マシュと立香に必死で言い訳していた。一方、マシュと立香は生暖かい目で、見守っていた。

 

「前線指揮官としてはダメだが、総司令官としては申し分ない。」

「そうですね。こんな前線に迷い込んじゃって、オルガマリー所長も運がないですね。」

 

「何喋ってんの、マックス! 準備はできたの⁉︎」

 

オルガマリーは生暖かい目で見られ続けたことに怒ったのか、膨れっ面でマックスのところに来た。分隊長は先ほどの話が聞かれていたら怒られるので、オルガマリーがマックスに視線を向けた時点で逃げていた。

 

「マックス! 港に行くわよ! 次は私が指揮するわ! 」

(((まじかよ...まだ死にたくねぇ)))

 

マックスがオルガマリーは指揮官としてはダメと言ったばかりなのに、やる気満々のオルガマリーに隊員達は死んでいるのに、死の予感がした。

 

「指揮は...」

「私がやるの! 指揮官なの!」

 

そう言うとオルガマリーは港に向かって走って行ってしまった。

 

「円陣を解けオルガマリー所長を追いかけるぞ。」

 

護衛もなく勝手に行ってしまったので、マックス達も急いで荷物を担ぎ、追いかけていった。

追いかけていると、港近くの階段に差し掛かったところで、オルガマリーがこちらに向かって駆け下りてきた。

 

「ふう、どうやら...自分から帰ってきてく...」

「助けて! 骸骨! 骸骨!」

「うわぁ!すごい量だよ隊長さん」

「まずは、所長殿を助けろ!かかれ!」

 

オルガマリーは大量の骸骨をトレインしてきたのだ。遠征隊は慌てて、オルガマリーと骸骨の間に入り骸骨の波を盾で抑えた。

オルガマリーがいたので、銃が使えず階段の途中で殴りあうことになった。

 

「これ知ってる!カリ○ストロの城だ!」

 

日本で根強く人気がある映画の一場面が完璧に再現されていて、立香は興奮を抑えられなかった。

 

「そんなことよりも早く助けなさい!」

 

遠征隊は盾の向こうに手榴弾を投げ込んで骸骨を粉砕しているが、オルガマリーが叫びながら逃げてきたので、そこら中から骸骨が集まりいくら粉砕しても減っている様子はなかった。

オルガマリーは押され始めた遠征隊を見てマシュに、早く何とかしてと叫び始めた。

 

「分かりました所長。先輩行ってきます。」

 

マシュが走り出すと最後尾の隊員が振り向き、盾を斜めに構えた。マシュはそれを踏み台に飛び上がり盾を真下に構えることで、多くの骸骨を押しつぶした。

 

「構えー!突撃ー!」

 

空白ができ態勢を立て直した遠征隊は、マシュに続き突撃した。マシュに吹き飛ばされ弱った骸骨は、遠征隊の隊列に簡単に轢き殺されていった。

 

 

「ふう、なんとかたどり着いた...勘弁してください、所長。所長を守るために我々がいますが、所長の最低限の協力がないと守りきれません。」

「ごめんなさい...」

 

遠征隊はオルガマリーと立香を抱え、突撃した勢いのまま港まで進み、港の事務所で一時休憩を取っていた。

オルガマリーはいきなり走って行ったことをマックスに注意され、新人の立香に良い所が見せられなかったので端っこで落ち込んでいた。

 

「マックス隊長、橋がありました。フォークリフトが数台燃えていたので、海に落としておきました。すぐに渡ることができます。」

「そうか、なら教会に行こう。冬木で第3位の霊脈があるはずだ。何か痕跡があるだろう。」

 

立香達と軽食をとっていると、警備をしていた隊員が飛び込んできた。

 

「隊長!緊急事態です!」

「どうした!」

「とりあえず外に!」

 

マックスが外に出ると空に赤い光が上がっていた。

 

「赤い信号弾...陣地防衛組が襲撃に遭っている!急げ、仲間の危機だ!」

 

マックスの大声にオルガマリーが反応し

 

「荷物の大半をここに放棄。身軽になって助けに向かいます。」

 

オルガマリーの指揮に遠征隊は、素早く反応し数十秒で出発準備が整った。

 

「では、出発します。今、陣地を失うわけにはいきません。」

「「「Yes,ma'am!」」」

 

立香をマシュが、オルガマリーをマックスが抱えると遠征隊は止まらずに陣地まで走り続けた。

 




今回の戦いは、「hellsing」のバレンタイン兄弟のグール部隊、「ルパン三世 カリオストロの城」の機動隊をイメージしました。

盾の戦い方の参考にしようとダクソをプレイしてたのですが、集団であの動作は無理だなと思いやめました。アニメや映画で盾で戦う登場人物って少ないんですよね。海外の機動隊の動画が、結構参考になります。

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