カルデア特異点遠征隊   作:紅葉餅

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この回で遠征隊の秘密を全て説明します。


遠征隊の秘密

マシュは、遠征隊の遺体を運ぶのを手伝い陣地の端っこに並べて安置すると、体育座りのままピクリとも動かないオルガマリーに近づいていった。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長。」

 

立香は遠征隊の隊員と共に怪我人の手当てをしていた。手当ての時に立香は違和感を感じたがそれが何なのかは分からなかった。

 

「.........どういう事?」

 

マシュがオルガマリーに前でしばらく立っていると、オルガマリーはようやく話し始めた。

 

「所長?...ああ、わたしの状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は----」

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。見ればわかるでしょ。わたしが聞きたいのは、どうして今になって成功したかって話よ!何で早くできなかったの!そしたら、遠征隊も...」

 

オルガマリーは自分を守るために、喜んで矢の盾になって死んでいった遠征隊の光景が目に焼きつき、涙を流していた。マシュは自分が運んだ矢でハリネズミのようになっていた隊員を思い出し、自分の力不足を思うと、オルガマリーの質問に答える事ができなかった。

 

「いえ、それ以上にあなたよ!わたしの演説に遅刻した一般人!」

「あ...自分で演説っていちゃってるよ、所長。」

 

遠征隊は仲間の死を悔やむ様子もなく、所長の言う事に茶々を入れてきた。むしろ、マシュが安置していた遠征隊の遺体を壁の上に並べ矢が壁で跳ね返り隊員の顔に飛んでくる事を防ぐ肉壁にしていた。

立香はいきなりの飛び火と遠征隊の心のない行為に驚き上手く言葉を言えなかった。

 

「何でマスターになっているの⁉︎サーヴァントと契約できるのは、一流の魔術師だけ!あいつの方が絶対あってるでしょ!」

 

陣地の壁を補強する作業の指示をしていたマックスを指差した。

 

「あんたなんかがなれるわけないでしょ!その子にどんな乱暴を働いたの⁉︎」

「誤解にもほどがあるよ⁉︎」

 

上手く言葉を言えなかった隙に、自分がかなりの悪者扱いされた事に立香は驚き両手を横に振り必死に否定した。

 

「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろわたしの方です。」

「何ですって?」

「経緯を説明します。」

「ああ、互いの状況を知るのは重要だ。」

 

作業を指示していたマックスがいつの間にか立っていた。

 

 

 

「......以上です。わたしたちはレイシフトに巻き込まれ、ここ冬木に転移してしまいました。」

 

静かに聞いていたオルガマリーはマックスの方に目を向け

 

「遠征隊も隠し事は辞めて、全部話しなさい。緊急時の隠し事は不和を招くわ。」

 

オルガマリーの真っ当な意見にマックス少し考えた後

 

「分かった。すべて話そう。遠征隊の秘術の事も。」

「待ってくださいマックス隊長!さすがに秘術の事は、まずいですよ。」

 

マックスが遠征隊の秘術を話そうとしている事に驚き周りにいた遠征隊の隊員達はマックス秘術の事は話すと時計塔守護者の戒律に反すると説得し始めた。しかし、マックスは、

 

「ここには我々以外に仲間はいない。仲間同士での疑心暗鬼は全滅を招く。出し惜しみして、負けるのは馬鹿のする事だ。」

 

通し切った。隊員は引き下がり周りの警戒を始めた。

 

「これから話す事は、時計塔守護者の秘術に関わる事だ。他者に話したら、時計塔守護者が敵になると思え。」

 

マックスの強い言葉に立香達は、強く頷いた。

マックスは近くのテラスから机を持ってくると、隊員の遺体に近づき腰についていた紐と隊員の肘から先が無くなった腕を切り落とし、机の上に置いた。

 

「何やってるのよ...マックス。」

 

オルガマリーはマックスの行為に眉を顰めた。

 

「現物があったほうがわかりやすい。」

 

そう言いながら、マックスはさらに服の胸ポケットから死んだ隊員のものと思われるドッグタグを置いた。

 

「この3つに、遠征隊の秘術は全て詰まっている。」

 

そう言いながらマックスは紐をオルガマリー、立香、マシュの3人に差し出した。3人は紐を引っ張ったり、その編み目を眺めていた。

 

「これは、樹皮でできていますね...それに複雑な編み目。それに、魔具というよりも、呪具でしょうか...」

 

マシュは紐を軽く触ると立香に渡した。立香は指で編み目を辿っているとある事にきずいた。

 

「この紐の結び目...解く事ができない?」

 

立香は結び目を触った時にこれは解く事ができないと感じたが

 

「ほう...それに気づくとは、さすがだマスター殿。」

 

マックスは立香が紐の秘密に気づいた事に、嬉しくなった。近くにいた隊員は、マックス目を見て、ありゃ子の成長を喜ぶ親バカの目だと思った。顎に手を当てて考えていたオルガマリーは紐の正体が分かった。

 

「紐...樹皮...解けない結び目...マックスこれって...」

 

オルガマリーがマックスを見ると、マックスは頷き答えを言った。

 

「これはアレクサンドロス大王...つまり、イスカンダル大王の伝承の1つ、ゴルディアスの結び目を複製したものだ。」

 

ゴルディアスの結び目、鷲に神託を受け王となったゴルディアスは、王都ゴルディアスを立てた。その後、乗ってきた牛車を神サバジオスに捧げた。そして、牛車をミズキの樹皮で神殿に結び付けて、これを解いたものはアジアの王となると予言を残した。数百年後、遠征中に訪れたイスカンダル大王は複雑な結び目を解かず剣で紐を切る事で、縄を解きアジアの王となるとゼウス神から祝福を受けた。

 

「この紐には、マスターとの繋がりは解けないという呪いがかかっている。遠征隊は神殿の廃墟からゴルディアスの結び目の残骸を発掘し複製した。イスカンダル大王は切る事で結び目を解いた。言い換えると、切る事でしか解く事ができなかったのだ。イスカンダル大王ほどの英雄にも解く事ができなかった結び目は、マスターと遠征隊を解ける事なく結び続ける。しかも、イスカンダル大王は遠征中にだったこともあり、結び目には遠征の成功を高めるという祝福の効果もある。」

 

立香は手に持った紐一本にも、過去の英霊との繋がりや魔術的な意味が詰め込まれている事を思うと、軽かった紐が重くなったのを感じた。

 

「面白いわね。解かれた事にしか注目されてこなかったゴルディアスの結び目をこんな風に利用するなんて...」

 

オルガマリーは、立香から紐を受け取ると、結び目を観察しながら感心したように呟いた。

 

「ちなみに、伝承通りその紐は刃物で簡単に切れる。マスターとの繋がりが無くなった遠征隊は時空の狭間を漂流する事になるから大事に扱ってくれ。」

 

マックスは立香の腕に巻きついている、現在多くの隊員と繋がっている紐を指差した。

 

「さて、ここからが本題だ。ここからは遠征隊の秘術に関わってくる。」

 

マックスの雰囲気が変わり、立香達も姿勢を正した。

 

「遠征隊が、マスターの資格がないのにも関わらず、レイシフトできる事だ。」

「そうよ!なんでできるのよ!それさえ分かれば、私も!」

 

オルガマリーはマックスに怒鳴りつけた。

 

「まあ落ち着いてください、所長。この、ドッグタグも見てもらえますか。」

 

立香は血についたままのドッグタグを受け取ると思わず落としてしまった。

 

「どうしました、先輩!」

「これ...生きてる。」

 

立香がドッグタグを取った時に、ドッグタグの表面が蠢いていて、ドッグタグは立香の心に何か語りかけてきたように感じた。

 

「そうだ。このドッグタグは生きている。正確には、ドッグタグは取り憑かれている。」

「どういう事よ...」

 

話が全く読めないオルガマリーはイライラしたようにマックスを睨んだ。

 

「話は、遠征隊が結成される前、我々が守護者をしていた時に戻る。我々は最初はカルデアに行く事を断ろうと思っていた。」

「なんでよ!」

 

オルガマリーはマックスが断ろうとしていた事に理解できず思わず怒鳴ってしまった。

 

「話の腰を折らないでください、所長。我々は時計塔の守護者。いくら人理のためとはいえ、時計塔を離れるわけにはいかない。」

 

守護者という特性上、マックス達には時計塔を離れるという発想はなかったのだ。

 

「でも離れた。」

 

マックスに注意され、落ち着いたオルガマリーは落とされたままだったドッグタグを拾い上げ眺めていた。

 

「ええ、所長。我々がカルデアに行こうと決めたのは前所長が持ってきた資料でした。その資料は、過去に起こった聖杯戦争の記録。」

 

オルガマリーとマシュは、聖杯戦争が関わってきたことでますますわからなくなってきた。

 

「我々がこのカルデアに興味を持ったのは、資料に書いてあった一文でした。その内容は『ライダーとして召喚されたイスカンダル大王は受肉を願っていた』です。」

 

またもや、出てきたイスカンダル大王に立香達はドッグタグと紐を見比べた。

 

「我々守護者は、第三魔法の独自の開発を目指していた。」

 

オルガマリーは第三魔法といういきなりの大きな話題になった事に驚いた。

 

「第三魔法ですって⁉︎なんで第三魔法を守護者が⁉︎」

「時計塔を守りつずけるためだ。今のままでは、寿命により守り続ける事ができない。」

 

立香は説明会での遠征隊と今のマックスを見て、遠征隊の本質を理解した。彼らは狂っている、任務に狂っていると。

 

「サーヴァントとは、魔力の塊。いわば魂だけの存在。もし、サーヴァントが受肉したらどうなる。魂は肉を持つ。まるで、第三魔法のようではないかと。サーヴァントを研究すれば、第三魔法を完成できると!」

 

自分の語りに酔ってきたのかマックスの口調は強くなっていった。

 

「我々はサーヴァントをまじかで見れる、カルデアに行く事を決めた!不老不死の存在に至るために!」

 

マックスはそこまで語ると、いきなりテンションが落ちて自分が首につけていたドッグタグを眺め始めた。

 

「だが、失敗した。もともと、サーヴァントでもない我々が目指すのが間違っていた。我々はカルデアに来る見返りとして聖晶石300個を求めた。前所長は同意し、我々は聖晶石を使いこのドッグタグを作り、不老不死になるための触媒にした。」

 

オルガマリーはカルデアが聖晶石不足に陥っていた原因が前所長であった父と分かり、今度墓に文句を言いに行く事を決めた。

 

「我々は肉体を一度捨て、再び受肉する事で不老不死を目指した。だが、サーヴァントではない我々は、触媒のドッグタグに魂を囚われた悪霊になった。我々は今、任務という未練をもとに存在している悪霊だ。オルガマリーが持っているドッグタグにも隊員の魂が入っていて、肉体を失ってなお生き続けている。皮肉な話、我々は今、不老の存在となった。こんな結末は望んでいなかったのに...」

 

初めて見るマックスの弱音にオルガマリー達はどう声をかけるか迷った。マックスは机の上に置いてあった腕を取るとその断面をオルガマリー達に見せた。

 

「何よ...気持ち悪い。」

 

オルガマリー達は眉を顰めたが、その断面を見て驚いた。

 

「白い...筋肉?」

 

普通なら赤黒いはずに腕の断面が白かったのだ。

 

「私たちは、悪霊となり肉体を失った。前所長は我々のためにアトラス院と交渉し、ホムンクルスの技術を手に入れてきた。悪霊となった我々は、前所長と協力して肉体を作り、それにドッグタグをつける事で肉体を操作しているにすぎない。」

 

マックスは壁の上に置かれた隊員の遺体を指差し

 

「我々の本体はドッグタグだ。あんなものに価値はない。いくらでも作れる。肉体を失ってもまた作りのっとればいいだけだ。ドッグタグが破壊されない限り我々に死はない。」

 

今まで、静かに聞いていたマシュが口を開いた。

 

「でも、どうやってレイシフトをするんですか?」

 

そう言われるとマックスは紐を指差した。

 

「我々がレイシフトできるのは、悪霊という霊体だからだ。肉体を持っているとレイシフトできないのだが悪霊である我々は可能なのだ。そして、ゴルディアスの結び目を使う事でマスターの魂に我々の魂を接続し引きずられるように特異点に行く。」

 

マシュとオルガマリーは納得したように頷いた。

 

「あまり多く繋ぐとマスターの魂が引っ張られすぎて、ちぎれる可能性があるから、我々はマスター、一人当たり5人ほどしか接続しない事にしていたが。」

 

立香は、ふとレイシフトに巻き込まれる前の事を思い出した。

 

「隊長さん。」

「なんだ?」

「いっぱい繋ぐと魂が千切れちゃうんですよね。」

「ああ、そういったが。」

「レイシフト前、何人の人が私に接続しました?」

「46人だ。」

「それって、かなり危ない事ですよね!なんで、そういう事をするんですか!隊長さんは私に言わない事が多すぎです!」

 

立香は机を叩きながら抗議した。

 

「それには理由がある。」

「理由ってなんですか?また、忘れたとか言ったら怒りますよ。」

 

立香はジト目でマックスを見たが、マックスは悲しい表情をしながら答えた。

 

「我々は悪霊で世界からは浮いた存在。世界とちゃんと繋がっていないのだ。だから、レイシフトできるのだか。我々がレイシフトの際、何かに魂を縛り付けないとレイシフトの余波で、我々は世界から弾き飛ばされて次元の狭間に落ちてしまう。あの時、カルデアに設置してある魂を縛り付けるための杭が壊れていたのだ。仕方なくマスター殿に接続した。」

 

立香もマックス達が危険な状況にいたのを理解し、怒りを収めた。

 

「まあ、遠征隊の皆さんが助かったのなら良かったです。」

「いや、全員は無事ではない。管制室にいたのは、消火のために来た第四分隊33名とコフィンの防衛をしていた後方部隊20名がいた。しかし、レイシフトしたのは46人しかいなかった。7人がどこにも接続できず、レイシフトにより世界から弾き飛ばされた。」

 

立香は、ドッグタグで死なないと思っていた遠征隊に死者が出ている事に驚いた。

 

「しかも、レイシフトも完璧とは言えない。重装備をしていた後方部隊がレイシフト中に時空に引っかかり手足を持って行かれた。」

 

机の上に乗っていた腕のナイフで切った方とは別の断面をマックスは顎で差した。その断面は、無理やり引きちぎったような汚い断面だった。

ここで、立香は隊員の治療中に抱い違和感に気づいた。それは、重装備の隊員ほど重症で、軽装な隊員は軽症だった事だ。重装備な隊員は時空に引っかかり手足を失っていたのだ。

 

「難しい話はここまでだ。召喚サークルを作ろう。そうすれば、遠征隊も装備を整えられる。」

 

マックスは立ち上がり紐とドッグタグをオルガマリーから受け取ると他の隊員の方に歩いて行った。

 

「......遠征隊の方々も様々なものを抱えていたのですね...でも、まずは召喚サークルを作りましょう。」

 

マシュは立ち上がり霊脈の方に歩いて行った。立香は、お父さんを思い出し好ましく思っていたマックスの闇に触れしばらく座ったまま動けなかった。オルガマリーもマシュの後について行ったが、その背中を見つめるマックスの視線には気づかなかった。

 

「所長がここにいるといことは、所長はすでに......必ず助ける、約束するぞマリー。マリスビリーからの任務だ。」

 

 

 




オルガマリーがレイシフトした理由をもとにこの設定を思いつきました。紐は最初ただの呪具にしようと思っていたのですが、たまたまゴルディアスの結び目を思い出したので設定に厚みを持たせる事ができました。
3話の伏線は、カルデア本館と基地の入り口の違いでした。カルデア本館の扉は魔除けがありマックスは通れませんでした。一方、基地の扉は何も刻んでいないので悪霊であるマックスも入る事ができました。

設定に矛盾があったら教えてください。考え直して修正します。

追記
FGOで一度しか聖杯戦争が行われていない事を教えていただきました。さっそく矛盾を作ってしまったので、次話で矛盾解消のための独自の設定を加えます。前所長に設定を加えるだけなのでFGOの原作から乖離はしないはずです。

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