「クソ!ふざけやがって!」
ベルテルミーニ王国の居城のとある部屋でベルテルミーニ王国第二皇子であるサクヤ・ベルテルミーニは怒り狂っていた。その怒りはすさまじく元はきちんと整頓されていたであろう部屋の装飾品は無惨にも崩れ去りガラクタと化していた。
サクヤがなぜ怒っているかは言うまでもない。
「あのクソハクアめ!!俺に恥をかかせやがって!」
幼い頃から何でも出来る兄と比べられた所為かサクヤはかなりひねくれた形で成長した。そのため何かと兄に張り合う弟になったのだ。しかもそれはかなり悪い方向に張り合うためサクヤの父と母もかなり呆れていた。それでも呆れるだけですんでいるのは二人の息子という訳もあるのだが。
「クソ、あいつが国王になっちまったらこの国はそれこそ終わりだ。何とかしないと…」
そして酷いことに自分は兄よりもすべてにおいて優れていると思っており兄が国王になればこの国は滅亡するからなんとしても自分が国王にならないといけないと本気で思っていた。
「先ずは父に相談…、イヤ、そもそもあいつを国王にすると言い出したのは父ではないか。ならば無理だな。となると将軍達に言ってみるか?」
ぶつぶつと一人話していると部屋の窓が少し開いた。
「…ん?風でも吹いたのか…」
サクヤは最後まで言えなかった。窓のところには小柄の人がいたのだ。
「…サクヤ・ベルテルミーニ様でございますな?」
「だ、誰だ!この俺に許可なく近づくとは!」
サクヤは喚くが小柄の人はいに返さずに口を開く。
「我が主、泊添和様より御言葉を預かっております」
「は、泊添和だと…!?」
泊添和とはハクアが六年前に喧嘩を売った皇子である。
「ハクア・ベルテルミーニが国王になるのは可笑しいと思いませんか?もし、あなた様がその気なら我ら泊は喜んで加勢させていただきます」
「…それで、貴様らは代わりに何を望む?見返りを求めぬほど愚かではないだろう」
「我らは泊を中心とした世界の構築を目指しています。サクヤ様もそれに賛成していただければ」
「ふん、つまり貴様らの傘下に入れと言っているものであろう」
しかし、とサクヤは続ける。
「確かに泊が後押ししてくれればこれほど頼もしいものはないが大丈夫なのか?泊添和はあくまで皇子だ。現皇帝は反対するのではないのか?」
泊の現皇帝は六年前の戦争以来ベルテルミーニ王国と同等の友好関係を築いてきた。そのため泊添和の行為は許さないと思われた。
「だからこそですよ。泊添和様は実力行使も辞さないと考えております」
「…クーデターか」
「サクヤ様にも同時期にクーデターを起こしていただきたいのです。日程はハクア・ベルテルミーニが即位する当日でどうでしょうか?」
「成る程、国王に即位させて一気に叩くつもりか。よし、こちらもそれまで準備を怠らないようにしよう」
「ご賛同していただき感謝しています。それでは、そのときまで」
そう言うと小柄の人は音もたてずにその場をあとにした。
サクヤはしばらくその場にとどまっていたがやがて口を歪めて笑い出した。
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!ハクアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!貴様の即位まで後一週間!!!!!!貴様の命もそこまでだァァァァァァァァァァァァ!!!!!!貴様を一度でも即位させてやるのだ!!!!!!感謝するんだな!!!!!!フハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
サクヤは笑い続ける。絶望に歪む兄の姿を想像して。
その笑い声は何処までも響くのであった。