「ここを落とせばシュトュラは落ちたも同然だ!」
シュトュラ王都は戦場となっていた。理由は分からないが覇王は怪我を負って休んでいるようだ。そのためシュトュラの兵士は士気が今一だ。それでも祖国を守るために必死で守っている。
しかし、それを壊すように幻魔は侵攻する。
シュトュラ王都を囲む塀と堀も幻魔は容易く越えて侵攻してくる。何度も日が落ちても休む暇なく。
既に二日以上戦い続けている。それでも攻め続ける。
「別動隊はどうなっている?」
「魔女の森に向かわせた部隊は全滅しましたが焼き払うことには成功した模様です。他の部隊は被害軽微の上に順調だそうです」
シュトュラ王都を攻める軍団とは別に十を越える別動隊がシュトュラを蹂躙していた。恐らくシュトュラの人間は半分も残っていないだろう。この調子で行けばベルカを蹂躙することは容易いようだ。
「陛下!」
そこへ通信兵が声をあげる。
「どうした?」
「シュトュラ国境付近の別動隊から報告!聖王連合の方から巨大な船がこちらに向かって来ているそうです!」
「数は?」
「はっ!一隻のみとのこと。しかし、かなり巨大で速度も巨大なわりにはやいとのこと!」
巨大な船…。それは厄介だな。バーサーを向かわせるか?いや、ここにいるだけじゃ足りないだろう。イェーガーに連絡して艦隊をこちらに向かわせるように頼むか。それと幻魔界からバーサーの増援もダな。
「バーサー全てをその船に向かわせる。別動隊は監視せよ。残りはここを落とすぞ!」
俺は指示を出していき対空戦闘の準備をさせていく。
「報告!バーサー全滅!後一時間以内にここに到着する模様!」
予想以上に敵は早いようだな。まだ王都は落ちていないのに。いや、まだ報告を受けてから二時間もたっていない。それほどまでに強力なのか。
「…っ!?報告!王都から覇王が打って出てきました!前線の幻魔が殺られています!」
それはここからでも分かるな。幻魔が吹き飛んでいるんだもの。しかし、ここで覇王が到着するとは。いや、ここで覇王が死ねば敵の士気は完全になくなるだろう。そうなれば今までのような戦いは不可能だろう。
「覇王は俺が対処する。船が来たら対空戦闘を開始しろ」
「はっ!」
「さて、覇王の実力を見せてもらおうか」
「みんな無事か!?」
「ク、クラウス殿下…」
怪我を押して無理矢理防衛戦に来たクラウスは声をかけながら敵を倒していく。
そのとき一人の兵士が声をかけてきた。
「大丈夫か!?」
「申し訳ありません…、立ち上がりたい…のですか…先程から…感覚がなくて…」
クラウスの位置からは見えなかったがその兵士の両足は潰れており二度と歩けない体になるのは素人でも想像が出来るほどであった。
「大丈夫だ!今はゆっくり休め」
「クラウス殿下…もお気をつけ…下さ…い…」
兵士はそう言うと静かに息を引き取った。それを知ったクラウスは涙を流すが兵士を端に寝かせて他の者のもとへ向かった。
既に王都の中への侵入を許しており敵がどこから出てきてもおかしくない状態であった。その中をクラウスは気配を探りつつ走り回る。
「クラウス殿下!」
「っ!?無事だったか!」
走り回っていると土嚢に隠れる兵士を見つけた。クラウスはその者達のもとに駆け寄る。
「申し訳ありません。前線はもう壊滅しました。このままでは王城にも…」
「そうはさせない!君達は急いで後方に下がるのだ!俺が敵を引き付ける!」
「そ、そんな!?ダメです!」
「ここにいても敵に殺されるだけだ!今は俺の言うことを聞いてくれ!頼む!」
「…分かりました!後方で待ってます!」
兵士たちは土嚢を出て後方に下がろうとするが、
「んなことさせねぇよ」
男性の声が響いたと思ったら兵士たちがいた場所に炎が上がり一瞬で兵士たちを灰にしてしまったのである。
いきなりのことにクラウスは混乱するがやがてクラウスの目の前に一人の男が降り立った。
「初めましてと言うべきか?俺は幻魔王ハクア・ベルテルミーニ。この異形の化け物を率いているものだ」