宣戦布告の使者が帰ってから数日後泊は軍の編成を行っているという情報が入ってきた。更に回りの属国にも命令をして軍勢を送ろうとしていた。
総勢五十万。これは泊のみの単位である。最も増長している可能性は高いがそれでも驚異である。ベルテルミーニ王国の軍勢は五万がいいところだな。
普通ならこんなのには勝てるわけがない。だが、俺に言わせればこれはとてつもないチャンスでもある。
この機会に生産したウイルスの効果を試してやるよ。
先ずはこのウイルスを敵軍に広める必要がある。これは敵軍に潜入して井戸にでも蒔いておけば後は簡単に広げってくれるはずだ。思い立ったが吉日。早速行動に移すぜ。
~とある泊の兵士の独白~
今回の遠征は楽なものだと聞いていた。そもそもの発端がベルテルミーニ王国の王子が泊の皇子に横暴な態度を取ったことが原因らしい。
俺はそれを聞いてその王子のことをバカだなと思いつつもこれからどうやって手柄をたてるか考えていた。
今回動員された軍勢は五十万。これだけの軍勢が編成されるのは始めてだ。手柄が何時ものようにとれない可能性もあった。
俺はそう考えつつ軍の宿営地に建つ酒場で今後のことを考えていた。軍の編成も既に終わり明日の昼頃に出発となっていた。それまでに英気を養おうと考えていると酒場の隅に人だかりがで来はじめた。俺も気になって近づいてみると一人の兵士が苦しそうに喉を閉めていた。
俺はたまらず近くの兵士に聞いた。
「お、おい。いったい何があったんだよ!?」
「それが分からねぇんだ。こいつは下戸だから一人水を飲んでいたんだが急に苦しみだして今に至っているんだ。医者は呼びに行った奴がいるからもうすぐ駆け付けてくるだろうがこの調子だとそれまで持つか」
そのときそんな話をしたためか苦しんでいた兵士が意図の切れた人形のように動かなくなった。
「お、おい。死んだのか?」
「医者はまだ来ないのか!?」
「誰か見てやれよ」
そう言い合っていると一人の男が倒れた兵士に近づいていった。恐らく友人なのだろう。
「お、おい、大丈夫か?」
男はそうこえをかけるが兵士は反応しなかった。
やっぱりしんでんじゃねぇか?と回りの兵士が騒ぐが倒れた兵士は呻きながらも立ち上がった。
何だ、無事だったのかと思ったが次の瞬間だった。
「ヒィ!?何するだ!?や、やめろ!?」
兵士が男に噛みついたのだ。よく見ると噛みついた兵士の顔は青白く目は赤く光っていた。
「お、おい。何やってんだ!?」
「と、止めろ!止めるんだ!」
回りの兵士たちは慌てて押さえにかかるが驚くべき力で振りほどき噛みついていく。
噛みつかれた兵士たちは全員喉を抑えながら苦しみに耐えるように身をよじっては動かなくなり少しすると起き上がり他の兵士たちを襲い始めた。酒場は一瞬で地獄と化した。
俺は運よく酒場から逃げ足すことに成功して脇目もふらずにただ走り続けて兵舎のところまで一気に走ってきた。
遠くからは人の怒号や悲鳴が聞こえてくる。
今はとにかく遠くまで逃げるべきだろう。違反行為だがあれを見てもここに留まる気にはなれない。自分の命は何者にも変えられない。
荷物などは惜しいが今はこのまま逃げることを考えよう。そう思い再び走ろうとしたとき、
俺の視界が回った。
「…は?」
口からは間の抜けた声と共に大量の血。朦朧とする意識の中前方をよく見ると少し離れたところに俺の下半身がそしてその奥には不気味な紫に輝く鎧を来た騎士の姿であった。
俺はそれを見た瞬間意識を手放した。