リリカルな世界の転生者   作:鈴木颯手

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第二十話 絶望そして涙

「…何で…」

 

王城から少し離れたところで俺は馬を止めた。いや、馬の制御すら出来ていなかった。

 

ここからでもよく見える。

 

木に吊るされ十字架に縛られた妹は体をたくさんの槍で貫かれていた。

 

ミーナは最後まで苦しんだのだろう。目を見開き口を開けて絶命していた。

 

死んでいるはずなのにミーナの叫び声が聞こえてくる。

 

「…何で…」

 

何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

 

「あ…ああ…」

 

馬に振り落とされても受け身をとることすらできない。

 

俺に気づいた王城の兵士が此方に向かってきても逃げられない。

 

後方で俺を呼ぶ声が聞こえても返事すらできない。

 

ただ、ミーナを見ておることしか出来なかった。

 

やがて俺を殺そうとするアルテミラ皇国兵と俺を守ろうとするベルテルミーニ王国兵がぶつかり合った。しかし、そんな中でも俺は動けない。

 

そして、俺がやっとの思いで立ち上がる頃にはベルテルミーニ王国兵は全滅していた。

 

逃げなきゃ。と思っても体が言うことを聞かない。

 

「ハクア・ベルテルミーニ…覚悟!」

 

アルテミラ皇国兵が槍を突き刺そうとしてくるがそれを避けることもできない。

 

避けろと脳が伝えても体はピクリとも動かない。まるで体が乗っ取られたみたいだ。

 

槍は目の前まで迫っている。 確実に心臓を貫くコースだ。このまま動かなければ貫かれて死ぬだろう。

 

瞬間死への恐怖のためか体から力が抜けて後ろに倒れる。

 

そのお陰で槍は右肩に突き刺さる程度ですんだ。

 

「グッ!」

 

しかし、右肩に突き刺さっても痛みは感じる。だが、そのお陰で体が少しだけ動くようになってきた。

 

アルテミラ皇国兵は槍を手放して剣で俺の首を切ろうと水平に払った。

 

今度こそ死んだと思ったが次の瞬間にはアルテミラ皇国兵の首に矢が突き刺さっていた。

 

他のアルテミラ皇国兵が怯えるような声をあげて俺の後ろを見ている。

 

俺も後ろを見ると矢を構えた弓足軽の姿が。地下研究所はもしもの時のために王城以外にも出入り口が存在する。恐らくそこから出てきたのであろう。

 

瞬間俺は力を振り絞って弓足軽の方へと走った。未だにうまく走れないがそれでも力の限り走った。

 

それを見てアルテミラ皇国兵が追いかけてくるが弓足軽がそれをさせない。

 

俺は弓足軽をこえて王城近くの森へと走る。そこに出入り口が存在する。

 

ここは白董も知らないから追っ手が来ない今なら楽には入れるだろう。

 

俺は出入り口を見つけて転げるように地下研究所に入った。瞬間出入り口が肉の壁におおわれてやがて地下研究所にある壁となった。これでこの出入り口は消失した。弓足軽は戻ってこれないが森にいればなんとかなるだろう。

 

俺は壁に寄り添うようにして座り込む。落ち着くことで再びあの光景が浮かんでくる。

 

「…うぅ、…ミーナァァ…」

 

ミーナを思えば思うほど涙が止まらなくなる。

 

『にいさま、私はパーティーが楽しみです』

 

『にいさま、ダンスは一緒に踊りましょう』

 

浮かぶは泊で行われたパーティーへ行くときの話。結局ミーナと踊ることは出来なかったがあのあと足がいたくなるまでベルテルミーニ王国の王城で踊った。それを見て二人して笑った。

 

他にも国王即位の前に話したことやこの戦いに行く前に一緒に遊んだことが甦っていく。

 

しかし、もうミーナと一緒にいることはできない。

 

ミーナはもう死んでしまったのだから。

 

それを考え俺は薄暗い地下研究所で泣き続けた。

 

『にいさま、いつまでもミーナは一緒です』

 


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