という訳で番外編は全て英語表記にすることにしました・・・
ギルド医務室内
俺の目の前には3日前から眠ったままの竜弥がいる。
そう・・・デュラハンを撃退した時からずっとこの調子だ。
看護師曰く、傷はもう少しで全て癒えるらしい・・・。
けど俺には悔しさが残る。
こいつは俺と同じ転生者だ。
なのに俺はこいつがデュラハンと闘っている時に何もしてやれなかった。
いや特別なスキルの無い俺に出来た事なんてたかが知れてる。
それでも・・・と、膝に置いた手に力が入り、ズボンに皺が寄る。
「カズマさん・・・面会終了の時間が・・・」
看護師が伝えに来る。
ふと時計を見た。
20:00・・・もうそんな時間か・・・
ふぅ・・・と息を吐き、俺は立ち上がって医務室を後にした。
「カズマ・・・」
医務室を出ると同時に竜弥を除くパーティメンバーが俺の元に近寄る。
皆も竜弥の事が心配なのか表情が曇る。
3日前のめぐみんは特に酷かった。
泣きながら自分のせいだと言って竜弥の面倒を見ると聞かず、竜弥の寝てるベッドを掴んで離そうとしなかった。
まぁ竜弥と一緒に魔法を撃ちに行ったのはめぐみんだから責任を感じるのも分からなくはない。
その時はなんとかアクアとダクネスで宥めることが出来たが・・・
向こうからギルド役員が近付いてくる。
落ち着きそうな頃合を計ったんだろうけど、こっちとしてはもう暫くほっといてほしかったが・・・
どうやら俺に用があるらしい・・・
話を聞くと、俺はこのパーティリーダーの為、撃退した際の詳しい説明を聞き、その後に竜弥が回復したらそちらでも説明をしてほしいようだ。
俺は、後はやっておくからと3人を半ば無理矢理帰らせる。
俺は説明をすべく、事務室に案内された。
◇◆◇◆◇◆
誰かが泣いている・・・
──誰だ・・・──?
──・・・・・・──。
返事をしようにも言葉が出ない・・・
何かを言ってるのはよく分かる・・・
何も見えない・・・
その言葉も聴こえてこない・・・
でも泣いているのは分かる・・・
正直言って俺は、俺がしてしまった事で他の奴等にも責任を感じさせるのは嫌いだ。
前世ではよく仲間の事を助ける事がある。
その時は偶に俺がミスをして怪我をした時もあった。
その時もそいつは言っていた。
『俺がお前にやらせたから・・・危険だって分かってたのに・・・』
と謝られた。
言ってしまうと実行したのは俺自身だ。
だから非は俺にある。
普段からそんな考えだ。
けど成功して、成功した奴らと喜びを分かち合うのは最高に気持ちがいい・・・その時は馬鹿みたいにはしゃいだものだ。
妹も俺のその性格はよく知っていた。
少しずつ視界が開ける。
これは・・・葬式・・・?
誰のだ・・・?
歩み寄って棺桶の中を見る。
──俺だ・・・──
俺が葬式をされている。
その棺桶に1人の女の子が張り付いている。
誰なのかはすぐに分かった・・・いや分からない筈がない。
俺が死ぬまで支えあってきた女の子。
『彩香・・・』
彩香は泣いていた。
聴覚も冴えてきたのか彩香の声が少しづつ聴こえてくる。
《やだ!!!!1人にしないで・・・!!!!起きて・・・起きてよ!!!!兄さん!!!!早くそこから出てきて・・・出て・・・またお話しようよ・・・!!!!まだ話したい事沢山あったのに・・・こんなの・・・酷いよ・・・!!!!置いてかないでよ・・・やっと普通に暮らせるのに・・・やっと自然に笑える暮らしが出来ると思ったのに・・・私1人残すんじゃ、あの家を出た意味ないじゃん・・・!!!!》
・・・泣くな・・・頼む・・・泣かないでくれ・・・お前は1つも悪い事はしてない・・・今迄そうだった・・・!
お前は嫌な顔1つせずに苦手だった家事や炊事もしていた・・・俺も一緒にやった・・・!
見せてくれ・・・あの笑顔を・・・俺はお前の笑顔があったから今迄やってこれた・・・。
悪いのは・・・悪いのはあいつらだ・・・
両親と兄・・・この3人がいたから俺の家は・・・家庭は壊れた・・・。
だから泣き止んでくれ・・・。
高野家の母親が彩香に歩み寄り、耳元で囁く。
すると彩香は涙を拭き、立ち上がった。
そして──────
《今迄有難う・・・兄さん・・・私頑張るから・・・空で見守っててね・・・》
────優しい目でそう言った。
やっと見せてくれた・・・。
これだ・・・この笑顔で俺はあの家に居ても耐えられた。
突然暗くなったかと思ったら場所が学校に変わる。
1人の短い白髪の女の子が、座っている彩香に近寄る。
高野澄怜だ。
《彩香、何見てんの?》
《ん~?これ》
彩香が携帯の画面を見せる。
どうやら俺達の殺人事件がマスコミを通してネットニュースとして情報を上げたみたいだ。
よかった・・・携帯は上手く使えてるみたいだ・・・
《あ~それか・・・でも奇跡だよねぇ~・・・あんな家にいたのに無傷なんて》
《うん・・・何でだろう・・・今でも不思議なんだよね・・・》
《兄がもう1人いたら助けてくれてたんじゃない?》
・・・え?
澄怜が笑ってそんな事を言っている。
《みーちゃん、夢見すぎ》
《・・・まだ呼び方みーちゃんのままなんだね私・・・じゃなくて可能性だよ!可能性!男女1人ずつで妹になった彩香はそうかもしれないけど、もし次男とかいて彩香が一番下なら体張って守ってくれるかもよ~?》
・・・待て・・・!
《みーちゃん・・・また何かの漫画か小説に影響された?》
違う・・・!彩香はずっと俺が守ってきた!
《フッフッフ・・・よくぞ聞いてくれました・・・じゃ~ん!これ!異世界転生ものなんだけど、次男が長男に○されちゃって新しい世界で生きていくって話で・・・》
《好きだよねぇ・・・みーちゃん、そういう転生もの・・・》
・・・何で覚えてない・・・!?
澄怜はいいとして唯一の家族で兄の俺を・・・どうして・・・!?
《好きなものは好きなの!あ!次移動教室だ!急ご!》
《あっ!待って!今教科書出すから!》
そう言って彩香と澄怜は教室を出て行く。
俺も走って追いかけるがドンドンと距離を引き離される。
後ろからは暗闇が襲い掛かる。
・・・待って・・・行くな・・・行くな・・・!!!!
「彩香!!!!」
気が付いたら知らない天井だった。
コチッコチッと振子時計が時間を刻む音だけが医務室に響く。
夜のようだ・・・窓から見える月が輝いている。
「・・・ここは・・・?」
壁には盾と剣が書かれた旗が飾られている。
てことはここはギルドの医務室か・・・
・・・あ・・・そうだ・・・思い出した・・・
俺はデュラハンと闘って意識を失ったんだ・・・
あの時の戦闘の様子が頭の中で鮮明に再生される。
だがデュラハンと闘った映像を塗り潰すかのように先程の映像が流れる。
・・・そっちも思い出した・・・俺は女神のエリスに頼んで、あいつらから俺といた記憶に鍵を掛けたんだった・・・
あいつらが自分を責めないようにと・・・
ハハ・・・自分で言っといててなんだけど・・・
「結構キツイな・・・これは・・・」
俺は目を隠すように包帯が巻かれた右腕を顔に乗せた。
そこから一筋の水が頬を伝ってベッドに零れ落ちる。
とあるギルドの1室から啜り泣く声が小さく響くがその声が聴こえた者は誰1人いなかった。
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