この素晴らしい世界にイレギュラーを!   作:JAIL

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今回の回はこの小説でもかなり残酷な描写が含まれております。(作者比較による)
個人差があるかもしれませんが、この回の閲覧に関して気分を害されても作者は責任を負いかねますのでご了承下さい。


囚われの姫達

カリカリカリカリ・・・・・・

私のいるギルド長室に書類を書く音だけが響く。

ほぼ毎日が書類関係の整理だがギルド長として手を抜く訳にはいかない。

キィ・・・と扉が開く。

 

「リルムか」

「やほー」

 

リルムが来ると近くにいた執事が「飲み物はいかがなさいます?」と聞くも「いや、いらないよ」と言ってリルムはそのままソファーに寝転ぶ。

 

「レイモンド~構ってよ~」

「書類整理をしてるのが分からないか?」

「む~・・・」

「というかリュウヤ君の家に行って情報交換とかしてきたらいいじゃないか」

「いや・・・あまり行き辛いんだよね・・・」

 

リルムが苦笑いで目を泳がせる。

リュウヤ君と喧嘩でもしたのだろうか?

 

「何かあったのか?」

「あそこは桃源郷だからねぇ~・・・身体が勝手に動いちゃうんだよ・・・」

「お前な・・・」

 

しかも「お母さんにセクハラされたら私に言って?私が引っぱたくから」とレイシャに対策を施されたらしく、あまり手が出せないのだとか・・・

 

「ならギルドにリュウヤ君を呼んで話せばいいじゃないか」

「今日、リュウヤはクエスト行ってる・・・レイシャもそれに同行中」

「そうか・・・で何でお前はニヤニヤしてるんだ?」

 

リュウヤ君とレイシャの話をし出した途端、リルムがニヤついた。

 

「ん?まぁちょっとね」

 

リルムが本棚から本を出してソファーに寝転びながら本を読み始めた。

さて・・・私も書類整理を進めないと・・・

再びギルド長室に書類を書く音だけが響いた。

 

「・・・ねぇレイモンド」

「?どうした?」

「レイシャとリュウヤの事だけどさ・・・」

「?」

「私・・・彼等を認めようと思うんだ」

「認める?」

 

リルムがガバッ!と起き上がる。

 

「なんとなく、さ・・・リュウヤが君に似てるんだよ」

「・・・私に?」

「うん・・・以前サトウカズマの裁判の時に私が彼等に情報を渡しに行ったんだよ」

「・・・まさかそこで【データ】を使ったのか?」

「そりゃあねぇ・・・それで試しにリュウヤにこの【データ】の事を知りたくないか?って聞いたんだ・・・そしたら・・・」

「そしたら?」

 

リルムが懐かしむ目で遠くを見る。

 

「君と似たような事を言ったんだ・・・」

「私と?・・・あぁ、あの時の言葉か・・・」

「まぁね・・・その後もレイシャからリュウヤの事を聞いたらさ・・・」

「うん」

「レイシャ・・・告白したらしい」

 

ほぉ・・・レイシャはリュウヤ君に告白したのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は!?

 

「え!?今なんて!?」

 

突然言われた事に驚いてペンを机に置き、リルムと対面して座る。

 

「レイシャに相手が出来たんだよ」

 

レイシャに・・・そうか・・・

私の中で熱くこみ上げるものがあるのが分かった。

 

「レイシャも大人になったんだねぇ・・・」

「・・・そうだな」

 

なんというか・・・複雑な思いだな・・・

レイシャに幸せになってほしいとは思っているが、いざ相手が出来るとなると遠くに行ってしまいそうな感じだ・・・

 

「それでレイモンドはどうするのかなって・・・」

「・・・私は・・・・・・レイシャの選んだ相手なら認めよう・・・」

「そうか・・・そうか!やはり君もそう思ってくれたか!」

 

リルムの表情はパアッ!と明るくなり、嬉しそうにする。

「ならお祝いの準備に葡萄酒でも買ってこよう!」とリルムは執事に「この街で1番高い葡萄酒は何だい!?」と聞こうとする。

私は「聞くくらいなら【データ】を使ったらどうだ?」と聞くと「それだ!」と言って【データ】を起動した。

執事もリルムの【データ】は知っているが私は緘口令を出し、内密にする様に言っている。

リルムが高い葡萄酒を見つけた様で【データ】を解除した。

 

「レイシャは【データ】を使いこなせる様になったのか?」

「いや、まだまだだ・・・整理に手間取って頭に激痛が走ってしまう」

「少し位アドバイスでもしてやったらどうなんだ?同じ恩恵持ちなんだから」

「ノンノン!これに関してはレイシャ自身が学ばなくてはいけないのだよ」

 

全く・・・リルム独自の教育はたまにメチャクチャだからなぁ・・・

私にリルムが話し始めた教育論を聞いてる時だった。

 

ガタン!

 

外で音が鳴った。

聞かれたか!?

私はそう思って窓を開ける。

風が吹いていて窓が揺れたようだ・・・

 

「誰かに聞かれたのか!?」

「いや、風が強くって窓が揺れただけだ」

 

リルムが安心してホッ・・・と息を付く。

執事が「リルム様にお手紙です」とリルムに手紙を渡した。

リルムは封を切って中身を見る。

 

「内容は・・・ん?『そっちで面白い情報があったら聞かせて下さい』・・・か・・・まぁ対価次第だな・・・っと・・・対価は・・・・・・よしリュウヤの事を教えよう」

 

なぜにリュウヤの情報を!?と思ってリルムが出した小さい紙を取る。

 

「ああっ!それダメぇ!!!!」

 

紙にあったのは・・・可愛い女性2人が仲良くお風呂に入っている光景だった・・・

リュウヤ君の情報ってこんなに安いものなのか?と頭を抱えてしまう・・・

 

「リルム・・・お前な・・・」

「え?いや~・・・その~・・・ね?潤いとか必要じゃないか?」

 

リルム・・・それは多分お前だけだ・・・

リルムはすぐに手紙を書いて「これを頼む」と執事に渡した。

私は心の中でリュウヤ君に合掌をしておいた・・・

 

「それでは私はそろそろ失礼するよ」

 

リルムはそう言ってギルド長室を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「レイシャが彼氏かぁ~」

 

わたしの娘ながらやるじゃないか!

レイシャからリュウヤの事は聞いているが・・・やはりレイシャにとってもリュウヤは信頼に置ける人物なのだな・・・

ならレイシャの【データ】の事も話しておくか・・・

彼ならレイシャを必ず守ってくれそうだからね・・・

でも・・・

 

「今日の風・・・そんなに強かったかなぁ?」

 

今は全く風は吹いていない。

一時的な突風か?

私はギルドを出て、街を歩いている時だった。

何者かに腕を引っ張られて口を布で塞がれる。

 

「!!!!」

 

暴れて解こうにも私は女性。

抵抗の力なんざたかが知れてる。

 

あれ・・・?瞼が・・・お・・・もい・・・

 

 

あ・・・・・・しまった・・・・・・

 

 

意識が・・・・・・・・・・・・段々・・・・・・・・・

 

 

私の意識はそこで完全に途絶えてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「もう・・・魔法撃つのなら予め言いなさいよ・・・」

「いや言ったからな?言ったのにも関わらずお前が前に来て、当たる寸前だったんだろうが・・・直撃を免れたのが不幸中の幸いだろうよ」

「だからって・・・もう・・・白衣が焦げちゃったし・・・替えあまり無いのよ?」

 

レイシャがピラピラと穴の空いた白衣を手でたなびかせ、言外に「新しいの買って」と主張してくる。

はぁ・・・仕方ねぇなぁ・・・

 

「わーったよ・・・今度新しいの買うから」

「あらいいの?よかった~私もいい彼を貰ったわね♪」

 

よく言うよ・・・新しいのを買わせる為に誘導したくせに・・・

向こうに見知った人影が見えた。

和真だ。

それも仁王立ちした和真。

ん?なんか額に青筋立ててるんだけど?

 

「どした?」

「どした?・・・じゃねぇよ・・・お前に昨日言ったよな?照明がちょっとおかしいから点検してくれって・・・そしたらお前、『分かった、明日やっとく』って言ったよなぁ?」

「・・・あ゛・・・」

 

すっかり忘れてた・・・

レイシャに今日のクエストの報酬受け取りを頼み、直しに行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「リュウヤってちょっと抜けてるよねぇ・・・」

 

まぁそれもそれでいいんだけど。

ギルドの受付で報酬を受け取る。

因みに今日の報酬は50万エリスだった。

さて・・・帰りましょうか・・・

夕暮れの街を歩く。

ふふっ・・・リュウヤと恋人か・・・

ダーリンって言ったら反応が面白そうかも。

自然と口角が上がってしまう・・・

 

「まぁ、夜の相手とかは向こうはまだお子様だからこっちからしてあげないとね・・・♪」

 

私が浮かれ気分でとある宿屋を通り過ぎた時だった。

何者かに腕を引っ張られて、裏道に引き込まれ、口を布で塞がれてしまう。

嘘・・・!?誰か・・・!!!!

叫ぼうとしても布がそれの邪魔をする。

・・・あれ・・・・・・?

 

 

目が・・・・・・・・・霞む・・・・・・・・・・・・

 

 

私の意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夕飯の時間になってもレイシャが帰ってこない。

 

「竜弥、レイシャのやつ、まだ帰ってこねぇ?」

「あぁ、まだだな・・・」

 

あれ~?

ギルドって今日、そんなに混んでたっけ?

あ・・・一応照明は直してあるよ。

 

「他の奴に絡まれてるとか」

「ねぇ、縁起でも無いこと言うの止めません?」

 

一応俺の彼女(の1人)ですよ?

因みにレイシャは自らシノアとめぐみんに俺の彼女になった事を伝えた。

・・・まぁ2人はジト目で俺を見たけど・・・

 

「先に夕飯済ませるか?」

「先に済ませていいよ、俺は自室で待ってるから」

 

俺はそう言って2階に上がろうとした時だった。

バン!と玄関が開く。

そこには息を切らしたレイモンドがいた。

・・・って・・・

 

「レイモンド!?何してんの!?」

「リ・・・リュウヤ君・・・これが・・・」

 

1枚の紙を渡される。

 

〈お前の妻と娘は預かった。

返して欲しければ1億エリスを明日の朝までに用意しろ。

出来なければ【データ】の事を王都に流す。

ギルド長なら用意は出来るよな?〉

 

その紙にはそう書かれていた。

って待て・・・これは・・・!

 

「脅迫状・・・」

「・・・どうやらギルド長室で話していた内容を聞かれていたみたいだ・・・」

 

そうか・・・【データ】はリルムしか持っていない・・・だから狙われ・・・・・・・・・ん?なら何故レイシャまで・・・?

 

「なぁ・・・レイシャは【データ】を持ってないんだよな・・・?」

「やはりリルムは黙っていたんだな・・・実はレイシャも・・・持ってるんだ」

 

・・・・・・・・・・・・え?

嘘だろ・・・!?

リルムのやつ・・・レイシャが【データ】を持ってる事を隠してたのか!

なら【広域読心(サテライト)】で2人の居場所を!

 

「2人の居場所はアクセルの町外れだから貴様のオリジナル魔法を使っても範囲外だから探せぬ故、無意味だぞ?」

 

何処からかバニルが現れた。

 

「今お前と構ってる暇はねぇんだよ・・・」

「まぁ固いことを言うな。それに・・・あと30分も経てばリルムという者は亡くなって、貴様の友人の女性は身体を弄ばれるから無事に助ける事は出来なくなるがな」

「・・・・・・あ?」

 

俺はバニルの襟を掴んで壁にドン!と押し付けた。

 

「リュウヤ落ち着け!」

 

和真が何か言ってるけど俺の耳には届かない。

 

「テメェ・・・適当な事言ってると本気でその「吾輩は全てを見通す悪魔だぞ?なら今回は吾輩の協力を得た方が良いのではないか?」・・・」

 

今すぐ殴り飛ばしてやりたいがレイシャとリルムの事が心配だ・・・

 

「一時的に信用してやる・・・けどもしその30分も満たない間にレイシャとリルムに何かあったらテメェの仮面を砕く」

「・・・約束しよう」

 

俺は一時的にバニルの協力を得る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

竜弥がバニルと接触している頃・・・

 

「ん・・・・・・」

 

目が少しづつ冴えていく・・・

あれ・・・?ここは・・・?

確か私はレイモンドの所に行った後・・・ワインを買おうとして・・・それで・・・

・・・!そうだ!私・・・街で襲われて!

私は立ち上がろうとしたが腕や身体の自由がきかない。

私の腕は後ろで結ばれ、その紐は柱に繋がれていた。

そして視界の端に見知った人物がいた。

嘘・・・何で・・・何でレイシャまで・・・!?

 

「レイシャ!・・・レイシャ!」

 

私が呼び掛けると「ん・・・」と唸り声を上げ、目を開ける。

 

「あれ・・・お母さん・・・?・・・ってここは・・・?・・・っ!な・・・何・・・何で私・・・」

 

さすがにレイシャも驚きを隠せない。

 

「よぉ?お目覚めですかい?」

 

上から階段を伝って1人の男が降りてくる。

ターバンにジャケットといった・・・明らかな山賊だ。

 

「貴様・・・私と娘に何の用だ?」

 

私の口調は自然に冒険者当時の口調になっていた。

 

「おぉ怖い・・・と言っても用は簡単だ。アンタらで身代金を用意させて俺が次のギルド長になり、アンタらの【データ】を公表する」

 

なっ・・・そんな事をしたら!

 

「まぁ色んな所に行かされて洗いざらい情報を吐かされるだろうなぁ?」

 

私は飛び掛ろうにも拘束されて身動きが取れない。

 

「まぁ落ち着け。そうだなぁ・・・1つゲームでもしようか?」

「・・・ゲーム?」

「そう、俺が今からお前に魔法を掛ける。その魔法に30分耐えられたらお前と娘を解放してやろう」

 

魔法に30分耐えたらか・・・

 

「・・・分かった・・・だがその間、娘に手を出すのなら私も考えがあるぞ」

「へいへい。分かりましたよ・・・では・・・」

 

男が私に手を翳す。

 

「【ウィークニング・デス】」

 

ゾクッと身体に寒気が走った。

まさか・・・これは・・・!!!!

 

「衰弱死の魔法か・・・!!!!」

 

【ウィークニング・デス】

この魔法は本来、捕虜の拷問や尋問に使われる魔法だ。

死に際まで追い詰めて情報を吐かせるために使われる。

だがこれは死の恐怖を漂わせて無罪の者に虚言を言わせ、有罪にさせることが出来てしまう為、使用を禁止されていた。

 

「へぇよく知ってるな?まぁアンタが30分で死ななかったら約束通り解放してやるよ・・・でもアンタはその先でも待つのは死しかねぇけどな?安心しなよ。もしアンタがくたばってもこの娘で楽しませて貰うからよぉ?」

 

男は下衆地味た笑みを浮かべる。

こいつ・・・元から約束を守る気なんて無かったのか!!!!

 

「お母・・・さん?」

 

レイシャが心配そうに私を見詰める。

レイシャはこの魔法を知らない・・・

なら私は耐えるしかない・・・

 

「大丈夫だレイシャ・・・私は元冒険者だからこんな魔法には耐性はある・・・だから安心しなさい」

 

弱々しく微笑み掛ける。

恐らく向こうは無理をしてるのは既に分かっているであろうな・・・

 

「いい親子愛だな?泣かせるねぇ?」

 

この衰弱死の魔法で私の命の猶予は30分・・・

後は・・・

リュウヤのあらゆる魔法を無効化する【人間失格】に頼るしかない・・・

 

だから・・・

 

「頼む・・・急いでくれ・・・リュウヤ・・・」

 

私に今、出来ることはリュウヤが来てくれる事を信じるだけだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

俺は今、家の裏庭にいる。

自分の身を屈め、地面に手を付け、魔法を唱えた。

 

「【死者召喚】」

 

俺の自作魔法【死者召喚】

超能力者達に天才女性刑事と坊主刑事が立ち向かうあのドラマを再現した魔法だ。

ボコボコと俺の左手周辺にドス黒い泡が立ち始める。

そして一気に引き上げた。

 

『イダダダダダダダダ!!!!!!!!』

 

引き上がったのは黒い甲冑をしたデュラハン・・・そう、ベルディアだ。

 

『う~痛かった~・・・って、ん?リュウヤじゃないか』

「久し振りだな」

『そうだな・・・それで何でそんなに暗いのだ?』

 

俺はベルディアに指摘される。

どうやら自分は気付かない内に暗い雰囲気を出していたようだ。

俺は階段に座り、今回の件をベルディアに話してみた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

『そうか・・・リュウヤの仲間が・・・』

 

ベルディアも横に腰掛けて俺の話を聞いていた。

 

「あまりさ・・・聞きたくは無かったんだけど・・・」

『ん?』

「ベルディアも・・・人を殺した事はあるんだよな?」

『まぁ・・・あったな』

「・・・」

『・・・』

 

沈黙が流れる。

だが俺がそれを断ち切った。

 

「怖くは無かったのか?」

『・・・』

 

ベルディアは答えない。

やはり聞かない方が・・・

 

『怖くなかった』

「え!?」

『と言えば嘘になるな』

「なんだよ・・・」

 

ちょっと気が抜けて寝転んでしまう。

 

『けど・・・』

「?」

 

ベルディアが不意に立ち上がる。

 

『愛する者を守る為であればその行為は必要となるかもしれないのだろうな』

「・・・」

 

そうか・・・だとしたら俺はやはり・・・

 

『怖いのか?』

「・・・」

 

俺は黙って頷いてしまう。

ベルディアの言葉は言外に“人を殺すのが“と言っているようなものだ。

 

『リュウヤ』

 

ベルディアが優しく俺の右肩を掴む。

 

『それでいい・・・でも1つだけ・・・元騎士として言わせてくれ』

 

ベルディアが一旦言葉を切る。

俺は次の言葉を待っているとベルディアは口を開いた。

 

『自分を見失うな』

 

ベルディアは左手に持った顔で俺の顔を正面から真っ直ぐ見て言った。

 

『・・・俺はそれを出来なかった・・・前にも言ったろ?俺のようになってくれるな・・・とな』

 

覚えている。

ベルディアはレーニン・クーザによって家族を・・・部下を・・・恋人を奪われた。

そしてベルディアは壊れ、レーニン・クーザを・・・

 

『殺すな・・・とは言わない・・・だが復讐に駆られて自分を見失ってしまえばそこでお前は負ける・・・』

「・・・分かった」

『そうだ・・・お前なら出来るはずだ』

 

俺は目を閉じた。

もし・・・結晟さんだったらなんて言う?

もし・・・翔だったらなんて言う?

もし・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし・・・彩香だったらなんて言う?

 

『竜弥君─────』

『竜弥──────』

『兄さん─────』

 

俺の頭の中で皆が後押ししてくれた。

 

決意は固まった。

 

「あんがと・・・ベルディア」

『役に立てたのならよかった』

 

ベルディアはそう言って地面に沈んでいった─────

俺は暗くなった空を見上げる。

一条竜弥・・・ゴメン・・・また約束を破らせてくれ・・・

そして師匠・・・すみません・・・

貴方の教えてくれた素晴らしい流派を・・・

 

「俺は今日──────────汚します」

 

俺は無言で【銃剣製】を使い、神機を作る。

 

「決意は固まったようだな?」

 

バニルが来た。

 

「貴様の仲間の居場所はここだ」

 

バニルが紙を渡す。

ここから数kmは離れてるな・・・

 

「言っておくが残りは数分程度・・・時間は無いからな?」

「あぁ・・・知ってる」

「それとリルムという者は衰弱死の魔法が掛かっている。貴様の創作魔法でのみ解除が可能だ」

 

俺は頷いて、すぐにリルムとレイシャの元へ向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

意識が朦朧とし始め、床に倒れてしまう。

身体中から嫌な汗が滲み出て、嫌な寒気も止まらない。

 

「お母さん!」

 

レイシャも心配そうに私を見る。

今にも泣きそうな目だ。

 

「大・・・丈夫だ・・・お母さんは・・・強いから・・・」

 

弱々しく微笑むもレイシャが心配そうにして私を見るのには変わらない・・・

 

「へぇ・・・結構粘るねぇ?あ~でももう少しで限界かな?」

 

山賊の男が下衆な笑みを浮かべて私を見に、下に降りてきた。

 

「だ・・・まれ・・・まだ・・・だ・・・!」

 

必死に強がろうとしても頭がふらつく。

 

「ま・・・そろそろ限界かもしれねぇけどな?終わったらこの娘で楽しんでやるからよぉ?」

 

男はレイシャに近付いて顔を自分に向かせる。

 

「貴様!!!!レイシャには手を出さないと約束した筈だ!!!!」

「あぁしたなぁ?でもアンタだってそろそろ限界だろ?ならちょっと位遊んだって問題ない筈だ」

 

私は余りある力を振り絞って食らいつこうとするも拘束された紐が邪魔をする。

 

「冗談冗談。そうヤケになるなって、まだ手は出さねぇからよぉ?」

 

男は立ち上がって私に近付く。

 

「まぁいずれアンタは死ぬんだ・・・そこで楽しみにしてな」

 

男は高笑いして上へ上がっていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あそこか・・・」

 

草むらから1件の家を見る。

2人の男が玄関の前に立っていた。

俺は【転移】を使って男の背後に移動し神機の峰で首を叩いて気絶させる。

 

「テメェ!何者だ!」

 

もう1人の男は鉈を振り回すが所詮は素人。

全く当たらない。

俺はそこに二連撃で相手の脛と胸を狙える神統志丞流の型【骨喰(ほねばみ)】を放つ。

脛と胸に当たり、男の右足は斬り飛ばされ、胸の方は神機によって肋骨と肺、そして背骨を斬られ、吐血して倒れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「レイ・・・シャ・・・」

 

私はもう殆ど限界だった。

レイシャを見ようにも目は掠れて歪んで見えた。

だからレイシャを安心させる為に名前を呼ぶ。

 

「どうしたの!?」

「少し・・・昔話でもしようか・・・」

「え・・・?」

 

レイシャの顔が少しづつ青ざめる。

 

「レイシャも・・・大きくなったよね・・・昔はおかーさんおかーさんって言って抱き着いてきてさ・・・」

「・・・めて・・・」

「覚えてるかい?レイシャが・・・・・・【データ】を使える・・・ようになった日・・・私は嬉しくって家族で・・・お祝いしてずーっと・・・一晩中レイシャを抱きしめて寝た・・・よね・・・」

「・・・止めて・・・お母さん・・・」

「でも私・・・はちょっと・・・・・・怖くなってね・・・利用・・・・・・されるのを・・・・・・恐れてレイシャ・・・には人前では・・・使わないように・・・言って私は・・・無理矢理・・・・・・レイシャを・・・人から遠ざけたよね・・・」

「分かった・・・分かったからお願い・・・もう止めてよ・・・・・・」

 

ポタ・・・ポタ・・・とレイシャが涙を落としてるのがよく分かる・・・でもゴメンよ・・・こうでもしないと私はもう・・・

 

「レイ・・・シャ・・・」

「何・・・?」

 

あまり言いたくは無かった。

でも・・・言うしかなかった。

 

「ゴメンよ・・・」

「え・・・?」

「辛いだろう・・・?そんな力を持って・・・コソコソと隠れるようになって・・・私のせいだ・・・」

「違う・・・!違うから・・・!!!!もう止めてよ!!!!お願い・・・!!!!絶対に助かるから・・・!!!!」

「レイ・・・・・・シャ・・・・・・」

 

瞼が少しづつ重くなっていく・・・

あぁ・・・もう・・・

その時だった。

ドゴォォォォン!!!!!!!!

と天井が割れ、何者かが降り立つ。

誰だ・・・?

その者は私に近付いて触れ、魔法を唱えた。

 

「【人間失格】」

 

パアアァァァ・・・!と私に掛けられた魔法は消える。

息苦しさが消え、少しづつ身体が言う事を聞くようになった。

そして私を拘束していた紐も斬る。

 

「全く・・・遅いよ・・・君は・・・」

「悪ぃ・・・っとレイシャもだ」

 

リュウヤは急いでレイシャを拘束している紐を斬った。

私達は地上に上がると私は近くにあった鉈を拾う。

 

「リュウヤ、ちょっとレイシャを連れて先に街に帰ってもらってもいいかな?」

「え?いいけど・・・なん「悪いが私にはやる事があってね・・・これに関しては詮索はよしてもらいたい」・・・分かった」

 

リュウヤは【転移】を使ってこの場を離れてくれた。

まぁやる事は向こうも分かっているだろう・・・

さて・・・私はいいとしてレイシャも襲ったんだ・・・攫った(ゴミ)のような奴はそれ相応の覚悟はしているんだろうな・・・?

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「はあっ!・・・はあっ!」

 

くそっくそっくそっ!!!!

計画が全部総崩れだ!

なんだあの黒髪の餓鬼は!

俺達の攻撃は一切当たらねぇのにあの餓鬼は急所を突いてきて腕や足、首を斬り飛ばしてきたり、武器から黒い何かが出て仲間の身体は無惨に食い千切られていった!

10人もいた俺の仲間は全員やられた!

俺は影に隠れて隙を狙って逃げたはいいが、あんなバケモンいるなんて聞いてねぇぞ!

走ってる俺の足にナイフが刺さり、俺は地面に倒れる。

咄嗟に振り向く。

俺が拘束した奴だ・・・!

ジリ・・・ジリ・・・と近付いてくる!

 

「ま・・・待て!悪かった!アンタの事は話さねぇ!だか「黙れ」」

 

物言わせぬ威圧に震える。

 

「悪かった・・・!だから命だけ「聞こえなかったのか?黙れと言ったんだ」」

 

全身に嫌な汗がにじみ出る。

本気だ・・・

俺は立ち上がって、持っていた鉈を構える。

 

「ち・・・」

「ん?」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!!このクソアマがアアァァァァァアアア!!!!!!!!」

 

乱暴に振り回すも、奴の持ってる鉈で全ていなされる。

そしてついに弾かれ、俺の手から鉈が消えた。

 

「私を襲ったのはまだ許そう・・・だが・・・」

 

奴の目には怒りのみが浮かんでいた。

 

「私の娘を・・・レイシャを巻き込んだのは間違いだったな!!!!!!!!!!!!」

 

その言葉と同時に俺の首は胴体から離れて宙を舞った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

アクセルの街の防壁で壁に背中を預けて立っていた。

見知った人物が血塗れで歩いてくる。

その者も俺の存在に気付いたようだ。

 

「リュウヤ・・・」

「リルム・・・」

 

俺は「話がある」とだけ言って俺の家に呼び、先に身体を洗わせてから自室に招き入れる事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・」

「・・・」

 

コチッコチッと時計が時を刻む音だけが部屋に響く。

 

「レイモンドから・・・聞いたのか・・・?」

「まぁな・・・」

 

リルムは震えていた。

そりゃあそうだろう・・・雇い主を騙したんだからな・・・

 

「済まなかった・・・」

「・・・」

 

リルムが頭を下げる。

まぁ理解出来なくはなかった・・・

自分の息子や娘の危機となれば誰もが守ろうとする・・・だからこそ俺は言った。

 

「・・・怒ってねぇよ」

「・・・何故・・・?」

 

リルムの声は震えていた。

 

「自分の子どもなら身を呈してでも危険から遠ざけて守ろうとする・・・それが親ってもんだろ」

 

・・・まぁ・・・俺にはそれすら無くなって・・・いや・・・元から無かったみたいなもんだけどさ・・・でも・・・分かる・・・

 

「良かったよ」

「・・・え・・・?」

 

ここで確実に言える事がある。

リルム()レイシャ()を守ろうと嘘をついた・・・なら・・・レイシャは・・・

 

「レイシャは・・・2人に愛されてたんだって事が分かったからさ・・・アンタが守ろうとしてんなら俺だってレイシャを守ってやるよ」

 

それを言った途端、リルムは泣いて「ごめんなさい・・・貴方を騙して本当にごめんなさい・・・」と何度も頭を下げた。

 

「リュウヤ・・・」

「ん?」

「1つ・・・依頼を受けてくれないか?」

「依頼?」

 

リルムは深呼吸して自分を落ち着かせ俺に言った。

 

 

「レイシャを宜しくお願いします」

 

 

リルムは深々と頭を下げた。

ま、答えは出てる。

 

「当然だ・・・あいつはもう────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────俺の彼女なんだからな」

 

そう言うとリルムは嬉しそうに笑ってくれた。




まぁ個人差もありますでしょうが個人的に必要かなと思って一応、注意事項は書かせて頂きました。
次回は打って変わってこの小説では珍しい3話連続の激甘回となります。(一応描写的に頑張ったヨ)
まぁ要するに、1話で1人ずつ、竜弥と彼女達をイチャつかせる訳ですわ。
想像するなよ?
いいか?絶対だからな?振りじゃないからな?

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