気が付くとビルの壁に立っていた。
周りには数え切れない程のビルが建っている。
視線の先にはウェーブの掛かった長い紫色の髪をたなびかせ、片目はその髪で隠れ、全体的に紫色のしたワンピースを着ている背の低い女性と思わしき人物が片膝を付き、俺を見ながら不敵な笑みを浮かべて座っている。
「やぁ」
言葉こそ少なかったがそれでも伝わる威圧感。
「アンタ・・・誰だ?」
「ボク?そうだなぁ・・・【終わりのセラフ】の本体であり、邪神ウェイルスの1部・・・とでも言っておくかな」
まぁ長いからボクの事はセラフって呼んでよ。と言いながら立ち上がる。
こいつが・・・【終わりのセラフ】の本体・・・待てよ?
だとしたら・・・
「言っておくが邪神ウェイルスの目的なら分からない。なんせボクは【魔法生成機】に搭載されて少し経ってから出来た人格だからね」
セラフはそう言いながら1本の刀を発現させる。
和真達が言ってた、【終わりのセラフ】が発動した時に俺が持っていたといわれる、緑と紺の刀。
俺と殺り合うつもりだ・・・
俺は腰にしていた刀を抜き、構えようとした。
だがそれは出来なかった。
セラフが俺の腕を抑えたからだ。
「遅いよ─────」
「なっ・・・!?」
セラフはすぐに左手の中指と親指で俺の腹目掛けてデコピンする。
俺の腹は殴られたようにへこみ、俺は隣のビルへ吹き飛ばされた。
ビルの窓ガラスを割り、ビル内を転げる。
再び壁を壊す事は無かったが腹を殴られた感覚は残っていて激しい嘔吐感が俺を襲う。
「うそ・・・だろっ・・・!」
あいつ・・・何しやがった・・・!?
デコピンでここまでいくかよ!?
「おーい死んでないかーい?」
明らかに煽っている・・・
立ち上がろうにも全身が痛み、よろける。
俺は自作の回復魔法を使って自分を回復し、再びセラフの前に現れた。
「へぇ・・・結構やるね・・・」
死にたがりなのかな?と刀を肩に担ぐ。
「お前が本体って事はあのワイバーンの時も・・・」
「ん?ワイバーン・・・?あぁ、初めて【終わりのセラフ】が発動した時か・・・まぁね、君に話しかけたら面白いくらいに暴れてくれたから楽しかったよ♪」
さぞおかしそうにセラフはケラケラと笑う。
【終わりのセラフ】は圧倒的な力を持っていた。
もし今、こいつに力を貸してもらえれば俺はアメルダを倒せるかもしれない・・・
「セラフ・・・一つ頼みがある」
「ん?何?」
「【終わりのセラフ】の支配権を俺に譲って─────」
全てを言い切る前にセラフは俺の首を左手で掴みながら飛躍し、俺をビルの壁に押し付ける。
そして右手にある刀を俺の首スレスレで刀はビルの壁に突き刺した。
首を掴んでいる左手は今も尚、俺の首を締め付けている。
「君は自分の立場を理解していないようだね?確かにボクは君をここに呼んだ。それは君の身体が欲しいからだ。この世界は退屈でね・・・君の身体を貰って暴れたいんだよ」
こいつ・・・暴れたいから俺の身体を貰うだと・・・!!!!
そんなの・・・!!!!
「お断りだ・・・!!!!」
「・・・へぇ?」
セラフは壁から刀を抜き、何の躊躇も無く俺の腹に突き刺した。
「が・・・っ!!!!ぐ・・・あっ・・・・・・!!!!」
何かが込み上げてきて吐き出す。
俺は赤い液体を吐いていた。
「ボクは頼んでない。これは命令だよ?それに【スサノオ】すら使う事が出来ない君に何が出来るの?」
「スサ・・・ノオ・・・?」
スサノオ・・・?
何だ・・・?それ・・・?
「?あぁそうか・・・あの駄目神はボクの事を消すのに必死で【スサノオ】の事を言ってないのか・・・さすがは知力最低値をいってるだけあるね」
まぁこっちとしては大助かりだけどねと言いながら刀を腹から抜き取った。
抜かれた部分から血が流れる。
「ではイチジョウリュウヤ。君の身体を─────」
「渡さねぇっつってんだろ・・・!!!!」
セラフは俺の返答が気に入らなかったのか俺の左腕を自分の刀で斬り飛ばした。
「いっ!?があああぁぁぁぁぁあああッッッ!?!?!?」
あまりの激痛に意識が飛びそうになる。
セラフは追い討ちとして俺を壁に倒し、斬り飛ばした腕に刀を突き刺して横に90度程拗じる。
「やめっ・・・・・・ろっ・・・・・・!!!!」
「神器を授かった身で偉そうにしないでくれない?君なんて神器が無ければもう死んでるよ?なら今すぐにでも殺って欲しい?」
最初とは違って真顔で声も低く殺気もある。
「ねぇ冷静に考えてみなよ?ボクは【終わりのセラフ】そのもの。だとしたらその扱いに長けてるんだよ?ならボクに任せてあのアメルダって奴を倒し─────」
「うる・・・せぇっ・・・!!!!俺自身で使ってあいつらをまも─────」
俺は言ってる途中で蹴り飛ばされる。
そしてセラフは一瞬で俺の後ろに回り込んですぐに2撃目の蹴りを背中に喰らった。
「が・・・・・・っ・・・!!!!!!!!」
セラフはすぐに後ろから襟を掴んで俺をうつ伏せにし、俺の顔を左手で押さえ付ける。
「ふざけるのもいい加減にしてくれない?神器を借りてる身で強くなったとでも?笑えるね・・・確かに神器は強い・・・でもそこでお終いだ。結局自分自身が強くならないと神器もそれ相応の力を発揮できない。現に君はボクや【スサノオ】を使えてないじゃないか。宝の持ち腐れ・・・相応しくないよ」
相応しくない・・・?
そんな事知ってんだよ・・・!!!!
でも・・・それでも・・・!!!!
「それでも・・・仲間を守る為にその力が必要なんだよ!!!!」
「・・・」
セラフは何かを思ったのか俺から退いた。
「分からないな・・・何故そこまで彼等を守ろうとする?」
そろそろ諦めてあの身体を寄越しなよ?と冷えた声で言ってくる。
なぜここまでしてあいつらを守ろうとするかって?そんなの決まってんだろ・・・!!!!
「あいつらを・・・失いたくないからに決まってんだろうが!!!!!!!!」
「・・・」
セラフは俺の首を掴んで持ち上げる。
「たとえそれで君が死んでも?」
「あいつらを守れるんなら本望だ・・・!!!!」
セラフはハァ・・・と溜息を付いて俺の腹に手刀を叩き込んだ。
いた・・・・・・くない・・・?
左腕の痛みも消えていた。
というか既に生えてた。
「ハァ・・・ここまで頑固とはね・・・呆れたよ・・・」
セラフが手刀を叩き込んだ腹から黒い靄が立ち込めて引き抜いた。
「5分だ」
「え?」
「君が【終わりのセラフ】を起動した直後の5分間だけ【終わりのセラフ】を君の制御下にしてやった・・・今回だけだ、次は無い。もしまた懲りずに『【終わりのセラフ】を使いたい』と言うのなら君の心をぶっ壊してでも君の身体を奪ってやる・・・」
「・・・分かった」
セラフはそう言って俺を離した。
「ったく・・・神器越しに君の行動は見てたけど君は無茶苦茶過ぎるよ。あまりアドバイスとかするのは嫌いだけどこんな事続けてたら君の彼女達、崩壊するよ?」
「あ・・・まぁ・・・うん・・・気を付けます・・・」
セラフは途端にフッ・・・と笑みを見せる。
「まぁ・・・君みたいな猪突猛進な人も時には必要か・・・」
呆れられた顔で俺を見る。
「行ってきな・・・【終わりのセラフ】起動って言えばあっちの世界に戻れる」
「あぁ・・・」
俺は深呼吸して解除ワードを告げた。
「【終わりのセラフ】──────起動」
◇◆◇◆◇◆
「行ったか・・・」
ボクは退屈になって座り込む。
イチジョウリュウヤの言葉を思い出していた。
『あいつらを・・・失いたくないからに決まってんだろうが!!!!!!!!』
その時の目がボクの焼き付いていた。
あの真っ直ぐで勇敢な目・・・
正直に言うと彼の力のある言葉に惹かれた・・・ってのもある・・・だが彼の身体を奪おうとしたのも事実だ・・・
そして・・・ボクは知っている・・・
ボクを・・・【終わりのセラフ】を消す唯一の方法がある事を────────
でも・・・それをしたらリュウヤ・・・君は
【魔法生成機】を失う事になる────────
【魔法生成機】が壊れないとしたらその確率は僅か10%
奇跡でも起こらない限り、君は確実に【魔法生成機】を失う。
君はそれを覚悟してるのか?
だが恐らく彼は何の躊躇も無く【魔法生成機】を失おうとするだろうな・・・
「だから・・・見させてもらうよ」
君の選ぶ
能力を取るか─────────
仲間を取るか─────────
「さぁ、君の選ぶ
天を見上げながら言ったボクの心は、なぜか分からないが高揚していた。
竜弥の意識が行った所はBLEACHの黒崎一護の精神世界をイメージして下さい。
誕生秘話は次回お送りします。
感想、誤字脱字報告、お待ちしております。