本当ダヨ?
【アルカンレティア】
別名【水と温泉の都】とも呼ばれていて、湯治を目的に観光客が来る場所として有名な観光地だ。
「すげぇ・・・」
正直に言うとそれしか言えなかった。
水は底が見えそうな程澄んでいて奥では高い岩山から温泉が湯気を立たせながら滝のように流れている。
「見ろ竜弥!エルフとドワーフだ!」
「おぉ!まさにファンタジーだな!」
多分、ここに澄玲を連れてきたら興奮は冷めないんだろうな・・・
土産屋も沢山あり、中でも【アルカン饅頭】が人気らしい。
よし、帰りに買っていこう。
めぐみん曰く、アルカンレティアは冒険者の間では有名な湯治場で効能も凄いらしい。
ダクネスもいくつかの街に行ったことはあるが、ここはそのどこよりも美しいと言っている。
いい湯治になりそうだ。
馬車を降りる。
昨晩、アクアの浄化魔法を喰らったウィズは俺が背負っている。
「あぁ・・・じゃりっぱが・・・」
・・・じゃりっぱって何ですか?
「さぁ皆!何処に行く?ここの事なら任せて!なにせここは私の加護を受けているアクシズ教徒の総本山なんだから!」
へぇ~それならアクアにあんな・・・・・・・・・今私の加護って言った?
え?ここって変わり者がいるアクシズ教団の総本山なの・・・!?
「和真・・・悪い予感しかしないんだが・・・」
「奇遇だな。俺もだ」
どこからか人が集まってきた。
「ようこそアルカンレティアへ!」
「観光ですか!?入信ですか!?冒険ですか!?洗礼ですか!?」
「仕事を探しに来たのなら是非アクシズ教団へ!」
「今なら他の街でアクシズ教団の良さを広めればお金が貰える仕事があります!」
複数の人が迫ってるんですけど!?
怖いよ!?
そして最後の人はネズミ講紛いじゃねぇか!!!!
「和真・・・一旦宿に向かおう・・・」
「そうだな」
俺達はなんとか言い訳を考えてその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
「・・・!ここは・・・?」
「気が付いたか・・・」
和真が宿でウィズにダクネスで【ドレインタッチ】して、今、目が覚めた。
「一応和真が【ドレインタッチ】したから大丈夫だと思うけど・・・」
「そうですか・・・なんだか綺麗な川の向こうでベルディアさんが楽しげに手を振ってました・・・」
おい・・・それってまさか・・・
アクアはフィーリィとめぐみんを連れてどこかに行ってしまった。
問題を起こさなきゃいいが・・・
ウィズはもう大丈夫らしく俺達は街を見て回ることにした。
◇◆◇◆◇◆
噴水前に和真、ダクネス、シノア、俺という組み合わせで来た。
ゆんゆん、レイシャは他に行ってみたい所があるらしく、途中で別れた。
「美しい女神像だ・・・」
ダクネスがそう言って女神像を見上げている。
近くで女性が転んでしまい、籠に入れていたリンゴが地面に散らばってしまった。
「大丈夫ですか?」
4人で駆け寄って全て拾い、籠に入れた。
「ありがとうございます・・・あの・・・」
急に女性がモジモジして「お礼をさせてほしい」と言ってきた。
「別にそれほどの事はしてねぇからいいよ。なぁ、かず・・・ま?」
おい、何頬を赤くしてんだ?
いや、これって和真のヒロイン化いくか?
女性が和真の手を取る。
いったな・・・
「ここの近くにアクシズ教団が運営するカフェがあるんです。そこで私とお話しませんか?」
・・・この世界は残酷だ・・・
少しでも漸く和真にフラグが立ったと思った感動を返せ。
和真も「結構です」とこの場を去ろうとする。
それを女性が無理やり引き止めた。
待って!?ねぇ待って!?
明らか目が血走ってるんだけど!?
和真がダクネスに救助を求める。
「済まない・・・私はエリス教の信徒でな・・・その男を勧誘するのなら私に一言断ってからに────」
「プッ」
今、目の前で唾を吐き捨てたよ!?
そして去り際に、こちらをチラッと見て、再び唾を吐き捨てて行ってしまった。
やっぱどこの世界でも教団の違いによるイザコザはあるんだな・・・
よく見るとエリス教徒のネックレスを持っている手が小刻みだが震えている。
やば・・・流石に切れるか?
「落ち着け・・・ここで問題を起こしても意味ねぇだろ」
「そ・・・そうですよ!エリス教だっていい宗ky」
「んんっ・・・」
・・・今身悶えしなかった・・・?
「「「俺達(私達)の心配を返せ(返してください)・・・」」」
満場一致の意見だった。
◇◆◇◆◇◆
「・・・さすがはアクシズ教の総本山だな」
「まぁここは人通りも少ないし大丈夫だろ」
奥で悲鳴が聞こえた。
見てみると1人の女性が男性に追われている。
その女性が俺達に助けを求めてきた。
念の為、羽織の中で刀の柄に手を掛ける。
「あー!なんて事ー!ここに運良くアクシズ教徒の入団書が!ここに名前を書けばこのエリス教徒はどこかに行ってくれるかもしれないー!」
・・・俺はゆっくりと柄から手を離した・・・
そして俺達は3流芝居を続けている2人の横を通り過ぎる。
「ああっ!ちょっと!待って!大丈夫!何も怖いことなんてないから!ここに名前を書けばアクア様から授かる超アレなパワーを手に入れられます。その力を使って邪悪なエリス教徒を」
「私の目の前でエリス様を暗黒神呼ばわりすると────!」
さすがにダクネスも信仰しているエリスを暗黒神呼ばわりされたのに憤慨したのかエリス教のネックレスを見せ、抗議しようとした。
「プッ」
またかい・・・
そして再び去り際に唾を吐き捨てて去っていった。
アクシズ教団ってこんなのしかいないのか・・・?
横ではダクネスが身悶えてるし・・・
エリス教団はこんなヤツらばかりじゃないよな・・・?
◇◆◇◆◇◆
俺達は次に商店街に来ていた。
だがここでも・・・
「おめでとうございます!!!!貴方はこの大通りを通った100万人目の方です!記念品を贈呈したいのですがその記念品、アクシズ教団がスポンサーでして、ほんの書類上の事なので記念品受け取りにこの書類に名前をよろしいでしょうか!?」
と記念品受け取りの為に
「あれ?あれれ~?久し振り~!私私!元気にしてた?学校の同級生のクラスメイトだけど?アクシズ教に入信して私大分変わったから分かんないかもねぇ~!いっそ君も入ってみなよ!そうすれば世界が見違えるよ!」
と友人の振りをして勧誘してきたり・・・というかこっちは転生してんだから会ったことすらねぇっての・・・
それ以外にも────
「あらちょっと!もしかして新婚さん!?ねぇこの洗剤持ってって!いいわよお代なんて!おばさんからの御祝儀よ!この洗剤凄いのよ!なにせアクア様の御加護を受けてるからどんな汚れも落ちるのよ!それにね!この洗剤・・・飲めるの!」
・・・アンタらに飲ませて内側から綺麗にしてやろうか?あ?
俺達はダクネス以外は疲れ果てて近くのカフェで一休みすることにした。
◇◆◇◆◇◆
「つ・・・疲れる・・・」
「竜弥、言うなよ・・・余計疲れる・・・」
俺と和真、シノアはテーブルに突っ伏していた。
「これも異境の地における試練・・・あぁ・・・堪能した♪」
ダクネスはダクネスで楽しんでる・・・
・・・試練とか・・・絶対違うから・・・
てかマジでブレねぇのな・・・
「お待たせしましたお客様。あっエリス教徒のお客様、こちらは当店のサービスです。ではごゆっくりどうぞ」
店員はそう言って何かの骨が乗った皿を床に置いて去っていった。
それも満面の笑みで・・・
「なぁ3人とも・・・」
さすがのダクネスも痺れを────
「皆でここに住まないか?」
切らしてなかったよ・・・
「「「絶対嫌だ(です)」」」
満場一致で決まりました。
◇◆◇◆◇◆
裏路地を歩いている。
さすがにこっちは人通りが少ない。
「あっ!」
目の前で小さな女の子が転んでしまった。
「大丈夫か?」
和真がしゃがんで綺麗な布を使い、傷口を拭く。
「過擦り傷だ。これで大丈夫だろ」
「ありがとう。お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
お兄ちゃん・・・か・・・久し振りに聞いたな・・・
「どうしました?『お兄ちゃん』って呼ばれたのが懐かしかったですか?」
「・・・まぁな・・・」
和真が「立てるか?」と女の子に手を差し伸べる。
女の子は和真の手を掴んで立ち上がった。
「ありがとう!優しいお兄ちゃんとお姉ちゃん達!皆のお名前を教えて?」
「和真だよ佐藤和真。横にいる金髪で怖そうなのがダクネスだ」
「私は柊シノアですよ。黒髪で目付きの悪~いお兄ちゃんは一条竜弥ですよ」
「おいシノア。目付きが悪いのは余計だ」
「カズマも変な紹介をするな!」
向こうも向こうでからかって楽しんでるな・・・
「ねぇねぇサトウカズマってどんな字で書くの?書いてみて!」
「あぁいいよ」
和真が女の子から1枚の紙を受け取・・・・・・・・・・・・ん?
その紙・・・・・・・・・っておいそれ!
「和真書くな!」
「え~いいじゃん?向こうが知りたがって・・・」
和真がふと、視線を紙に落す。
その紙は・・・・・・・・・!
アクシズ教団入団の書類だ!!!!!!!!
和真も書く寸前に気付いた。
この子、これを狙って転んだのか!?
策士過ぎるだろ!?
和真が思いっきり破く。
「クソッタレエエエエェェェェェェェエエエエ!!!!!!!!!!!!」
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!!!!!!!!!」
和真と女の子の叫び声が路地裏に木霊した・・・・・・
◇◆◇◆◇◆
俺は1人、宿に帰ることにした・・・
道を歩いたら、また面倒臭い勧誘に会うと思ったので屋根伝いに宿に戻った。
「ただいま~ってさすがにまだ誰も帰って来てねぇか・・・」
「リュウヤさん?もう戻ってきたんですか?」
「まぁな・・・ウィズ、体調はどうだ?」
「もう大丈夫ですよ」
今、紅茶を淹れますね。と立ち上がろうとしていたが病み上がりを理由に座らせ、俺が紅茶を淹れる事にした。
「ほら」
「ありがとうございます」
お互いに1口飲む。
・・・砂糖もう1個入れるか・・・
俺は角砂糖を1つ追加する。
ウィズにも勧めたが向こうは遠慮した。
「ふあぁ~・・・」
「大分お疲れみたいですね?」
そりゃあなぁ・・・
ウィズに「アクシズ教徒に勧誘されまくってみるか?」と聞いたら「お・・・お断り出来ますよ・・・ね・・・?」と引き気味に言ってきた・・・
「さて・・・と・・・」
どうやらウィズは風呂に行くらしい。
まぁ・・・もう少しここでのんびりしたら入るか・・・
そう思ってベッドに横になる。
「リュウヤさん」
「ん?ってうおっ!?」
いつの間にかウィズが横に来ていた。
そして四つん這いになり俺が寝ていた布団に乗り上げてくる。
「ちょっ!?ウィズ!?」
「リュウヤさん・・・」
え!?何!?なんなのこの展開!?
「お風呂・・・一緒に入りませんか?」
「はいっ!?てか混浴ねぇと入れねぇだろ!?」
「ふふっ・・・それがあるんですよ♪」
なんでも混浴は男女別の風呂より大きいらしい為、誰かと行ってみたいのだとか・・・そしてその標的が俺になった・・・
そして退路を断つのを止めてもらえません?
「それで・・・どうします?入りますか?入りませんか?」
フワッと優しい笑みで俺に聞く。
え!?さすがにそれは・・・・・・!!!!
◇◆◇◆◇◆
俺は今、公共の風呂に入っている。
今の時間は昼と夕暮れの間。
周りには誰もいない・・・
ガラガラ!と更衣室のドアが開き、1人の人物が入ってくる。
えっと・・・はい・・・ウィズです・・・
まぁ・・・その・・・ね?
断る・・・ってどうよ?
分かったよ・・・以前と同様に黙りますよ・・・
「失礼します」
ザパッ!と風呂桶でかけ湯をして風呂に入ってくる。
勿論湯浴み着はお互いに着てる。
ウィズが入ってきて俺の横に並んだ。
き・・・緊張するんですけど!?
「はあ~・・・♪温かい・・・♪」
向こうはこっちの緊張を知らずに伸び伸びと入っている。
「リュウヤさん。お背中お流ししますよ?」
ウィズが俺の腕に抱き着いてくる。
ちょっ・・・!?
柔らかいのが当たってるんですが・・・!?
「いやさすがにそこまでは・・・!」
「いや・・・ですか・・・?」
ねぇ!悲しそうに目を潤ませないで!?
断ってる俺が悪者みたいじゃねぇか!!!!
仕方なく俺は折れて背中を流してもらうことにした。
「やっぱり男の人って背中がガッチリしてますね~」
「ま・・・まぁな・・・」
すっげぇ緊張する・・・気が休まらない!
てか勧誘を受けてる時よりこっちの方が気が持たねぇって!
「リュウヤさんってアクセルの街の前はどこにいたんですか?」
「ん?あ~・・・かなり遠い所だな・・・」
「そうなんですか・・・そういえばリュウヤさんが言った遠い所って言う方の中には『極東』や『ニホン』っていう所から来た人が多いんですよ」
お~い、他の転生者~・・・いらねぇ情報流すんじゃねぇよ~・・・
ウィズも調べたらしいがそのような所は地図に載ってないとのこと。
そこで推測して地下や天空にあるのでは?という考えにも一時的になったのだとか・・・
天空ってどこぞの天空都市ですか?
バルスって言ったら崩壊でもするの?
「リュウヤさんはアクセルの街に来る前の所ではどんな生活をしてたんですか?」
どんな生活・・・か・・・
あんな生活・・・思い出したくもねぇな・・・
「悪ぃ・・・あんまり昔の生活の事は話したくねぇんだ・・・」
「す・・・すみません!思い出したくない事を思い出させるようなことをして・・・!!!!」
「まぁ・・・アクセルの街での生活がかなりマシに見えるとだけ言っとくわ」
「そう・・・ですか・・・あの・・・そちらにいたご友人とかは・・・?」
「あいつらはもう別の所に行ったよ・・・まぁ・・・生きてりゃ会えるだろ・・・いずれはな・・・」
でも・・・こっちで合うってことは、それは日本で死んだ────という事になる・・・
そう思うとあまり会いたくないとも思ってしまっていた。
「仲が良かったんですね」
「まぁな、数少ない親友・・・とでも言うべきなんだろうな・・・」
「親友・・・ですか・・・」
・・・?心做しかウィズの声のトーンが下がった感じがした。
「・・・ウィズ?」
「・・・あっ!背中にお湯、掛けますね!」
どうもはぐらかされた感じしかしなかったが・・・まぁいいか・・・
◇◆◇◆◇◆
風呂から上がって宿に帰る途中だ。
2人で談笑しながら帰っている。
向かいからフード目元まで被った2人が歩いてきている。
1方は相当疲れてそうだ。
・・・あの
その2人組とすれ違う。
「・・・っ!」
ゾワッとした感覚が身体中を駆け巡る。
振り向いて2人組を見たが既にいなかった。
「?どうしました?」
「あ・・・いや・・・何でもない・・・」
俺はその感覚がなんなのか、よく分からなかった・・・
◇◆◇◆◇◆
帰ってきたが誰もいない。
「まだ帰ってきてませんか・・・」
「まぁ、ゆっくりしようや・・・」
そう言ってベッドに身体を投げる。
「リュウヤさん、子供っぽいですよ」
「ほっとけ」
ん~!のんびり出来るっていいねぇ~
ベッドで寛いでいた時だった。
玄関のドアが開いてパーティメンバー全員が帰ってきた。
「おう・・・おかえ・・・めぐみんとフィーリィは何があった?」
めぐみんとフィーリィはガタガタ震えていた・・・
「まぁ・・・なんだ・・・アクシズ教徒にトラウマを植え付けられた感じだ」
「お疲れさんです・・・」
「そっちは?」
「ん?こっち?」
「あっ!そういえば!」
ウィズがパン!と両手を合わせる。
うん、ヤバい感じしかしねぇ!
俺は足早にその場を離れようとした。
「?竜弥、どこ行くんだ?」
「ちょいと買い物に・・・」
まぁ・・・実際はこの場を離れたいってだけですけど!
すぐに帰ると言って外に出る。
それと同時に────────
「「「「リュウヤアアアァァァァァァアアアアアア!!!!!!!!!!!!」」」」
俺を呼ぶ叫びが響いてきた。
逃げた俺は悪くねぇ!!!!!!!!!!!!
皆の望んだ風にやってみましたよ?(ニヤニヤ
これを望んでいたんでしょう?(ニヤニヤ
ほら、怒らないから正直におっしゃいよ?
感想、誤字脱字報告等、お待ちしております。