俺達は今日は冬越しに必要な資金を集める為、ギルドでクエストを受けることにしていた。
そして俺はあるクエストを見つける。
《クエスト名:雪精討伐 参加条件なし
報酬:1体討伐に付き10万エリス》
「雪精?」
「あれ?リュウヤは知りませんか?」
えぇ全く
めぐみんの説明では雪精は弱いモンスターで、雪深い場所に集団で漂い、剣で斬れば簡単に討伐する事が出来るらしい。
でも気になる記述がある。
その弱いモンスターが1匹10万エリスなのだ・・・弱いのに・・・なぜ?
それに横にいるダクネスが頬を赤らめている・・・
俺は受付の女性にこのクエストの紙を出しに行った。
「雪精の討伐ですね?あちらは寒いので体調には気を付けて下さい」
このクエストに違和感を感じつつ俺達は雪山に向かった。
◇◆◇◆◇◆
「うぅ・・・結構冷えるな・・・」
俺達は今雪精がいる平原に来ている。
目の前には綿菓子みたいな雪精がフワフワと漂っている・・・旨そう・・・
ダクネスが剣をブンブンと振ってるがキャベツの時と同様に全く当たらない。
頑張ってよ・・・
レイシャは矢を次々に射って討伐数を稼いでいる。
恐らくこのパーティで今1番雪精を討伐していると思う。
そういう俺も武器屋で買った剣を振るが、剣を振った際に起こる微風でも雪精は飛んでいってしまう・・・めんどくせぇ・・・
めぐみんは魔法を撃つ準備が整ったのか1日1発が限度の爆裂魔法を撃った。
「10体・・・倒しました」
めぐみんはそのまま雪に顔を突っ込み倒れる。
凍死するぞ?
その横でゆんゆんも火球をバンバン撃ってる。今回は魔法の方が良いのか?
奥ではフィーリィとアクアが網を持って、地道に雪精を捕獲してた。
ん~・・・さっきから剣を振っても当たる気配はない・・・なら作った魔法でも試してみるか・・・ここは雪が多いからな、火属性の魔法でも使おう。
俺は魔力を3cm程の紐状にして雪精達のいる中心に伸ばす。
「【 空斬糸】【七獄】」
俺が魔法名と唱えると同時に伸ばした魔力がバッ!と細かく複雑に絡む糸の様に広がる。
魔力の紐を掴み、引っ張ると一気に収縮が始まり、20匹程の雪精を絡めとった直後に魔力の糸は爆発を起こした。
魔法名【空斬糸】【七獄】
【空斬糸】は自分の魔力で糸を作り出す魔法。
太さや長さは任意で操作可能となっている。
【七獄】はその【空斬糸】で細くなった魔力を発火させる魔法だ。
このクエスト、結構簡単だな。
それに経験値もいい。
俺はこの時点でランクは27になっていた。
・・・引っ掛かるんだよな・・・こんな簡単なのに受ける奴は誰1人いない・・・それに1匹の報酬が高過ぎる・・・
「・・・来たか・・・」
ダクネスが待ち侘びたように剣を構える。
・・・え?何あれ?
全員が身構える。
「・・・カズマ、リュウヤ。なぜ冬になると、冒険者達がクエストを受けなくなるのか。その理由を今教えてあげる」
いや・・・うん、コレ見たら大体想像つく。
「2人も日本に住んでいたんだし、昔からこの時期になると天気予報やニュースで名前ぐらいは聞いた事はあるでしょう?」
俺達の目の前に立つそいつは真っ白な鎧と兜をしていて一言で表すなら将ぐ・・・そういう事ですか・・・もうやだぁ・・・この世界・・・
「雪精達の主にして、冬の風物詩とも言われている・・・」
ガシャと音を立てながらその者はゆっくりと俺達に近付く。
「そう・・・冬将軍の到来よ!」
俺達の前に日本にいた戦国武将の様なモンスター(?)が立っていた。
まんまですよね!?そのネーミング!
冬将軍は刀を構え、ダクネスに急接近して刀を振り下げる。
ダクネスの剣は冬将軍の刀により、真ん中で折られてしまった。
マジかよ・・・あの剣を一撃で折るなんて・・・
「カズマ!リュウヤ!聞きなさい!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれるわ!」
アクアはそう言って、白い雪が積もる雪原に、そのまま素早くひれ伏す。
「DO☆GE☆ZAよ!DO☆GE☆ZA!ほら、皆も武器を捨てて早くして!謝って!」
あの・・・こう言っちゃあ何ですけど元とはいえ貴女・・・女神ですよね?
女神なら精霊より格上な気がするんですが・・・?
今の貴女、女神っていう感じが微塵も無いんですけど?
もしもこの世界にスマホがあってツイートするアプリがあるなら──
『女神が雪精の主に土下座してるw神と精霊なのに立場逆転してんじゃねぇかw腹痛ェww』とか写真付きでツイートされるんだろうな・・・
そもそもそんなんで冬将軍が見逃すわけが・・・
俺はチラッと冬将軍を見る。
アクアはもう見てない
嘘ぉ~・・・
俺も仕方なく頭を下げた。
和真もダクネスを頭を掴み、無理矢理頭を下げさせた。
多分ダクネス・・・喜んでるな・・・
「カズマ!武器武器!早く持ってる剣を捨てて!」
冬将軍が頭を上げた和真に刀を振り翳す
ヤバい・・・!!!!
俺は咄嗟に和真の元に魔法を唱えながら駆け出す。
「【鋼皮(イエロ)】!」
俺の左腕全体に魔力が集まり、皮膚が硬くなる。
俺は和真を抱えると冬将軍の刀を左腕全体で受けた。
魔法名【鋼皮】
文字通り皮膚を鋼の様に固くする魔法だが、その硬さは総魔力量に比例している。
ゴッ!と音が鳴り、和真を抱えた俺は3m程飛ばされる。
ジンジンと痛みが走る。
良く見ると左袖は破れ、左腕からは血が雪の上に浸たり落ち、肩から先がブランとしていて動かない・・・【鋼皮】使ってもここまでか・・・これは普通に骨逝ったな・・・
「す・・・すまん!」
「そこにいろ!」
俺は【剣製】でIXAを作り、冬将軍と交戦する。
デュラハンの剣の早さに慣れたのか冬将軍の刀の動きが良く見える。
とはいえこちらは右腕1本、力の差は一目瞭然。
冬将軍が刀を横に薙ぎ払う。
俺はIXAの装甲を展開し攻撃を防ぐも軽く飛ばされた。
不味いな・・・これじゃあジリ貧だ・・・
後ろから1本の火を纏った矢が俺の横を通り過ぎ冬将軍に当たるも、鎧に当たって弾かれる。
「リュウヤ!援護するから貴方は冬将軍に集中して!」
「私も出来る限りサポートします!」
レイシャが矢を引き絞り、シノアは【四鎌童子】を構える。
俺とシノアは駆け出した。
俺は正面、シノアは後方から攻める。
レイシャが放つ煙霧の矢が冬将軍に直撃して冬将軍の視界を奪う。
シノアは【四鎌童子】を横に薙り、俺は正面からIXAで冬将軍の胴体を狙い突く。
ゴッ!と音が鳴る。
よし入った・・・!
少しずつ煙霧が晴れる。
だが冬将軍は鎧に罅が入っただけだった。
「マジかよ!?」
「竜弥さん!離れて下さい!」
シノアが【四鎌童子】を振って人型を創り出し、冬将軍を襲わせる。
だが冬将軍は正面で刀を思い切り振り下ろし、人型を両断した。
そしてシノアに標的を変え、接近する。
「くっ!」
シノアは標的にされた事に危険を感じ、横に飛ぼうとした──だがバランスを崩しその場に転んでしまう。
冬将軍は目の前まで迫っていた。
「ひっ・・・」
「シノア!」
俺は駆け出して、動く右腕でシノアを抱え、後方に投げる。その後俺も横に飛び避けるも転がってしまい、変な着地をして左腕の上に身体が乗ってしまう。
腕全体に激痛が広がり、腕が悲鳴を上げた。
「ぐああぁぁぁああッッッッ!!!!」
「竜弥さん!」
「このっ・・・!!!!」
レイシャの炎を纏った矢が冬将軍に当たるが鎧に罅が入るのみ。
不味い・・・どうすれば・・・
「リュウヤ・・・」
後からめぐみんの声がして横を見る。
皆が心配して俺を見ていた。
恐らくデュラハン戦と同じ事になるのを恐れているんだろう・・・
・・・やってみるか・・・
「下がってろ・・・」
俺はそれだけを言って冬将軍と対立する。
レイシャとシノアも下がらせた。
今から使う魔法は危険だ・・・
俺はIXAを消して右拳を身体の中心に持ってくる。
そして魔法を唱えた。
「第666拘束機関解放!!!!次元干渉虚数方陣展開!!!!【BLAZBLUE】起動!!!!」
俺が魔法を唱えた途端、俺の右腕が紫に染まり、みるみる巨大になっていき、指の1つ1つが鋭利な刃となった。
魔法名【BLAZBLUE】
元は某対戦格闘ゲームの《死神》と呼ばれてる奴が使ってた技(?)だ。
あれは腕自体を攻撃する武器に変える為、個人的に使えそうだと思い、魔法として作ってみた。
左腕にあった激痛が不思議と消えている──
「行くぞ!冬将軍!」
冬将軍との交戦が始まった。
冬将軍は刀を振り回すが俺はそれを【BLAZBLUE】で受け流し、反撃する。
痛みはない・・・行ける・・・!
俺は吹き飛ばされるも冬将軍を見据え、【BLAZBLUE】を後ろで構える。
足に力を入れ、一気に駆け出す。
冬将軍は刀を横に薙ぎ払う準備をしている。
冬将軍の横薙ぎを俺は上半身を反らして躱し、冬将軍の懐に入る。
「【ソニックシャドゥ】!!!!」
【BLAZBLUE】が更に大きくなり冬将軍の身体を細かく切り刻んだ。
魔法名【ソニックシャドゥ】
【BLAZBLUE】発動時限定の魔法で、まぁ簡単に言えば【BLAZBLUE】の攻撃範囲を広げ、すれ違いざまに切り刻む魔法だ。
冬将軍は唸り声を上げ消滅した。
それと同時に【BLAZBLUE】が消え、元の腕に戻る。
冬将軍が消えたのを機に皆が駆け寄るも俺は再び来る激痛に襲われ左腕を抱えて座り込む。
「リュウヤ!腕が・・・!」
めぐみんとゆんゆんが俺の腕を心底心配してくれている。
めぐみんは特に焦ってる。
「フィーリィ!竜弥の腕に【ヒール】を早く!」
和真に促され、フィーリィが俺の腕に手を翳す。
「【ヒール】」
フィーリィが回復魔法を唱えると俺の左腕が淡い緑色に薄く光り、痛みが消え、傷も無くなる。
「これで大丈夫かと・・・」
「助かった・・・あんがとなフィーリィ・・・」
「全く・・・無茶ばかりするんだから・・・心配するこっちの身にもなりなさいよ?」
うっアクアに痛い事を言われた・・・まぁ・・・肝に銘じますよ・・・
めぐみんが泣きそうになっていたので優しくあやして和真がおぶると今日は帰還となった。
「・・・所でさぁ・・・お前ら何体討伐した?」
うん、俺も気になってた。
「3体よ」
「私は10体です」
「えっと・・・0」
「私もアクアさんと捕まえてたので3体です」
「私はシノアさんと討伐していたので2人で8体です」
「私は15体ね」
アクアとフィーリィは3体、めぐみんは10体か・・・
ゆんゆん、シノアで計8体。
レイシャは15体ね。
0は・・・まぁ言わないでも分かるよね?
「俺は9体討伐した、んで竜弥は?」
「俺は20体・・・合計で65体・・・報酬は650万って所か、かなりいったな」
「いやもっと加算されるだろう」
ん?何で?
「先程の冬将軍は国から高額賞金を掛けられてる特別指定モンスターの1体でな。金額は確か・・・1億かそれ以上だった気がする」
ダクネスの発言に俺を含め皆が驚く。
雪精を65体討伐して650万、
冬将軍の最低金額が1億なら計1億と650万
・・・8人で分けても8人1331万2500エリス・・・Wow・・・
俺達はこのクエストで相当な額を手に入れた。
ギルドに帰って報酬を受け取った。
報酬金額は雪精の討伐数が65体で650万エリス。
冬将軍討伐による追加報酬が1億5000万エリスで
小計1億5650万エリス。
クエストクリア報酬が50万エリス。
合計で1億5700万エリス・・・
皆で分けても1962万5000エリス・・・俺達はこのクエストで一気に成金冒険者となりましたとさ。
その後、和真の提案で夕飯はギルドで摂ろうということになったがその際、竜弥にはもっと栄養を!と皆がサラダや分厚い肉等を沢山頼み、俺にドンドン食べさせてきた・・・ウプッ・・・
明日はベルディア戦・・・かなり凄い事になりました・・・