モノ好き!!   作:川崎りょゆあ

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山吹涼太の恋愛事情

 

プロローグ

 

 

「お前は何を求めているんだ?」

 

 

 

「あなたは何を求めているの?」

 

 

 大粒の雨が降り注ぎ、木々が悲鳴を上げるほどの風が吹いている中、とある男女は同じ質問を投げかける。

 

 

 

 

 

 

 

 二人は同時に口を開き同じ言葉、同じ気持ちを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 愛が欲しい……と。

 

 

 

 

 

 

「好きです! 付き合って下さい!」

 夕日が差し込む教室での告白。ロマンチックで誰もが憧れていると言っても過言ではないシチュエーション。

 頬を赤らめ、上目使いで見つめてくる女子。

 その一方で冷めた目をして、見下ろしている山吹涼太。

 

 こういう状況になった経緯は今日の朝、下駄箱に入っていた一通の手紙のことを話さなくてはいけない。

 

 

 いつも通り登校した涼太は自分の下駄箱に入っていた手紙に気付く。

 手紙を背中に隠し封を開けると可愛らしい文字が並べられていた。放課後になっても帰らずに教室に残っていて欲しいというものだった。

 (これはあれだな。ラブレターだ)

 涼太は慣れた手つきでその手紙を鞄に入れ、教室に向かった。

 

恐らく美術部が書いたのだろう。綺麗な絵画が廊下に飾られている。その絵画を眺めながら廊下を進む涼太。

 廊下を抜けると階段に出る。涼太の高校は学年ごとに教室の階が違う。一年生は一階で二年生は二階、三年生は三階といったように学年が上がるたびに階が上がっていくシステムだ。

 (来年はこの階段を二階も上がんねーといけないのか……)

 

 教室に着くとすでにほとんどの生徒が登校していて朝のホームルームを待っている状態だった。

 うちの高校は駅から少し離れているので電車組は他の高校と比べて早く登校しなければ間に合わない。

そんな電車組のクラスメイトを不憫に思いながら涼太も同様にホームルームの準備を始めた。

 

 

 

 準備を終えて自分の席に座ると後ろから声を掛けられる。

「出勤お疲れ様です! 本日のご予定は一から四限までは睡眠授業で午後は体育でサッカーをやる予定ですがよろしいですか?」

 クラスメイトの中山悠馬がノートを開きながらおどけてくる。

 悠馬はクラスの人気者。爽やかな感じの短い黒髪で顔も良く性格も明るくて世話好き。少しうるさすぎる気もするが基本的には良い人なのでクラス内ではムードメーカーのような立ち位置を獲得している。

「悠馬こそお疲れ。今日は何時に起きたんだ?」

「五時! 髪の毛のセットが大変でね!」

 そう言いながら髪をかき上げるしぐさをする悠馬。その立ち振る舞いは読者モデルが雑誌の立ち絵を撮っているポーズのようだ。

「そっか。大変だな」

 涼太は悠馬の冗談を受け流し、鞄の中から持ってきた本を取り出し前を向く。後ろから悠馬が「ツッコミしろよー」とごねていたが無視。

 

小説を読み始めること五分。やっと担任がやってきた。

 

 

 ホームルームを終えると退屈な授業が始まる。睡眠薬よりも強力な眠気を誘う教師の声が教室内に響き渡り被害者続出。

外では体育をやっているのだろう。ボールを一生懸命に追う男子生徒の声が微かに聞こえる。

 絵に描いたような穏やかな時間。

 

(こんな日常がいつまで続くのだろう……)

 手紙が入っている鞄に視線を向けながらそう小さく呟いた。

 

 

キーンコーンカーンコーン

「おはよう!」

 午前中の授業が終わると同時に起き上がり、挨拶をしてくる悠馬。

 朝話していた予定は何事もなく進行中のようだ。

「ねーねー! 休み時間になったけど何する?」

「とりあえず俺は学食に行くよ」

 涼太は立ち上がり、ぶら下げてある鞄から財布と携帯を取り出す。

「俺も行く! 今日はラーメンの気分!」

 悠馬も同様に必要な物をポケットに入れ、立ち上がった。

 

「涼太くんと悠馬っちも学食? 学食行くんだったら一緒に行こう!」

 話しかけてきたのは悠馬の幼馴染の桜井奈緒。

 胸まで伸ばした茶髪で、悠馬同様にテンションの高い女だ。

「学食だよー学食! 奈緒っちとご飯だできるの!?」

(なんだこの二人は……訳分かんねぇ)

 涼太は心の中で毒突きながら奈緒に話しかける。

「一人?」

「違うよー! 遥ちゃんも一緒! いいかな?」

 奈緒はそう言いながら遥に視線を送る。

 川口遥。黒髪で肩まで伸ばしたボブヘアーで大人しく優しい性格の持ち主だ。

 

そして遥は涼太が狙っている女の一人でもある。

 

 見た目は勿論のこと、性格もいい遥に何人もの男が突撃した。しかし結果は言うまでもなく失敗。

戦略も何も考えずに突撃する奴らには幸せは来ないのだ。

(周りのバカどもは変化球を知らないから失敗するんだ。俺ならもっとうまくやる)

「川口さんも? 俺は別にいいけど悠馬は?」

「勿論おっけい! 人数は多い方が楽しいし飯も美味くなる!」

 悠馬はピースを遥に向ける。

 笑顔で手荷物をまとめ、こちらに歩いてくる遥。歩き方も品があり、それだけでいい女ということが分かる。

「それじゃ行こう!」

 悠馬を先頭に涼太達は学食に足を進めた。

 

 

「味噌ラーメン大盛で! あ、コーンは抜いて下さい」

 学食に到着するやいなや席を確保して食事を注文する列に並ぶ涼太御一行。

「私も味噌ラーメン! 悠馬が抜いた分のコーン私のやつに入れて下さい!」

 奈緒と悠馬は学食のおばちゃんに対してワガママをマシンガンのごとく打ち込んでいる。二人のコミュニケーション能力の高さは青天井だ。

「私はサンドウィッチ下さい。イチゴサンドで」

 遥は女の子らしいメニューを選択。これが奈緒だったら体の心配をしていたところだろう。

 

「むっ!? なんか不穏な空気が! 涼太くんがイケナイことを考えている気がする!」

奈緒は涼太の方向に振り向くとジト目を向けてきた。

(なんだ!? こいつエスパーか!?)

「い……いや、変なことなんて考えてないよ? あ、おばさん。生姜焼き定食一つお願いします」

 奈緒の睨みつけるような視線から逃げるようにメニューを注文する。

 

「はいよ! 味噌ラーメン二つにイチゴサンド、生姜焼き定食ね。お待ちどうさま。熱いから気を付けてね」

 四人は料理を受け取り席に戻る。その間も涼太の視線は遥に向けられていた。

「川口さんはサンドウィッチだけで足りる? 足りなかったらデザートあげるよ?」

(まずはジャブ。俺は優しいアピールからはじめよう)

「ありがとう! でもサンドウィッチだけでお腹いっぱいになっちゃうかも」

(まだ遠慮があるな……さて、どうやって距離を近くしていくか)

「そっか。食べたくなったら言ってね?」

 涼太は満面の笑みを遥に向ける。それと同じように遥も笑顔を返し、サンドウィッチに口を付けた。

 

「涼太くん!? デザート要らないなら私にくれてもいいんだよ?」

 手のひらをこちらに向け跳ねるような声で言う奈緒。

 

(このクソガキが。お前なんかに好物のプリンは渡さん)

「桜井さん、ラーメンだけでお腹いっぱいにならない?お腹壊すと大変だよ?」

 涼太はできる限り優しい言葉で奈緒の進撃を止めようとする。

「いや、平気さ! なんたってプリンは別腹だからね! ね? 悠馬っち?」

「もちろんさ! 奈緒っちの胃袋は最強なんだ!」 

 バカ二人はお互いにグーサインをして、涼太のプリンに手を伸ばした。

「っ!」

 すかさず涼太も守りの姿勢に入る。

 しかし涼太のガードがプリンに届く前に悠馬、奈緒ペアーがプリンを獲得した。

「それでは頂きます! あーーん!」

 大口を開け一口でプリンを飲み込む奈緒。その光景を涼太は悲し気な視線で見つめることしかできない。

(お……俺のプリンが)

「ごちそうさまでした!」

 小学校の給食を彷彿とさせるようなお行儀がよく元気なごちそうさま。

「おおー! 一口!」

「奈緒ちゃん凄いね! あ、ほっぺにプリンついてるからとってあげる」

 悠馬は手を上げ拍手し、遥は奈緒の頬に付いているプリンをハンカチで取ってあげている。

 奈緒は腰に手を置き、涼太を見下ろす。

 その姿はまるで出来損ないの王様のようだ。

「はっははー!プリンも涼太くんも甘い甘い! 甘すぎるぜよ!」

 

(うっぜー! うざいよ! このクソチビ!)

「山吹くん。良ければイチゴサンド食べる?」

 首を軽く傾げながら聞いてくる遥。その姿は理想の女性と表現してもいいほど美しい。

「いや……大丈夫だよ。川口さんが食べな」

(危うく遥の笑顔に持っていかれるところだった)

「遥ちゃん! イチゴサンド要らないの?……フギャ!」

 これまた食料を確保しようと動いた奈緒に涼太のチョップが決まる。

「桜井さん……? いい加減にしようか?」

「は……い。ごめんなさい! 自分調子こいてました」

 素直に頭を下げる奈緒を冷たい視線を送る涼太。優しくて温厚というイメージが定着している人が起こると必要以上にビビッてしまうことがある。そして今はまさにそういう状況だ。

「奈緒っち。一旦落ち着こう」

「お……おう友よ!」

 バカ二人が黙るほどのプレッシャーを放つ涼太。そしてそんな光景を見守るように見つめる遥。そんな四人の食事は楽しく過ぎていった。

 

 

「それじゃ俺は帰るわ。涼太はどうするんだ? 一緒に帰るか?」

 授業が全て終わり、帰りの準備を始めると悠馬が話しかけてきた。

「ああ、俺は少し用事あるから先に帰っていいよ」

 

「分かった! そんじゃまた明日な」

 そう言いながら教室を出ていく悠馬とそのあとをさも当然のようについて行く奈緒。

(あいかわずの二人だな)

 涼太は少し笑みをこぼしながら二人の後ろ姿を見送る。

(さてと……戦闘開始か)

 自然と口角が上がり、武者震いのように体が震える。

(これから女を見下せる……最高の気分だ!)

 

 

 クラスの人が全員帰ってから約十分後、廊下に人の気配を感じた涼太は持参していた本を鞄にしまい、表情を作る。

 扉が開き、後輩と思われる女子生徒が顔を赤らめ入ってきた。

「あ……あの!」

「ん? 君が俺に用があるって子かな?」

 優しい笑みを浮かべ、後輩の女子生徒を見つめた。

「は……はい! えーと」

 緊張しているのか、上手く口を開けられないようだ。涼太はそんな女の子を暖かい目で見つめ言葉を待つ。

 

少しの間をおいて、意を決したのか、小さな声で言葉を紡いだ。

「好きです! 付き合って下さい!」

 

(あー……終了だ)

 先ほどの暖かい視線から打って変わって冷酷な視線に変わる。

 涼太は聞こえないくらい小さなため息をついて返事をした。

「ごめんね? 俺、好きな人いるから」 

 女の子は一瞬目を見開き、そして涼太を見つめる。

「っ! ……そうですか。分かりました。話しを聞いてくれてありがとうございます」

 そう言うと涼太に一礼して教室から飛び出して行った。

 

(ふぅー。やっと終わったか。張り合いねーな)

 涼太は一息つくと鞄を持ち、家路についた。

 

 

 

ピローン♪

駅前を歩いていると携帯が鳴った。その相手は……。

「あーもしもし? 加奈子?」

「……」

「んーそうだね。一時間後に集合でいいかな?」

「……」

「はーい。それじゃまた後でね……好きだよ」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!

今回の作品は単行本一冊程度のものを予定しております。

投稿は不定期ですが、できるだけ早く投稿いたしますのでよろしくお願いします!

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