若き裏の住人たちの青春   作:コーデリア

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ようやく二話目
日常が書きたいのになぜかバトルばかりに……
誤字脱字は指摘お願いします


ゲイゲキ

 屋上でポーラ、鶫と情報を共有したあとに綱吉に待っていたのは普通の授業だった。しかしながら情報の錯綜などのことを考えると自然と授業に身が入らない。一応リボーンにメールは入れておき、調べておくとの返信はもらったのだが頭の中は今後どうするかでいっぱいである。とりあえず早急に集英組とビーハイブと連携を取らなければならないのだが……。授業そっちのけで頭を回転させているが徐々に瞼が重くなってきた。朝から二度の死ぬ気モード、慣れない環境、幸先の悪いスタートとすでに精神的に参ってきている。視界がかすみ、、全身が睡魔に蝕まれていく。そしてそのまま意識を手放した。

 

 

 綱吉が目を覚ましたのは授業が終わる少し前だった。どうやら隣の一条がシャーペンで小突いてくれたらしい。起こしてくれたことに軽く会釈して授業に戻ろうとするとキョーコ先生がとてもいい笑顔でこちらを見ていたために思わず息を飲んでしまった。超直観を使わずとも言わんとしていることがなんとなく察することができる。授業後に案の定呼び出され、一条楽への伝言というペナルティと小言をありがたく頂戴した。

 一条楽を探すべく職員室を出て廊下を歩いていると偶然を装ったポーラと遭遇した。実のところ職員室を出たときからつけられていたのだが本人のために言わないでおく。

 

「なんでポーラがいるわけ?」

 

「なんでってサポートするって言ったじゃない」

 

 横を歩くポーラに質問を投げるとあきれ顔で返されてしまった。確かに頼んだものの常に頼むつもりではなかったのにと心の中で苦笑いする。学校では自分なりに過ごしてほしいところなのだが裏の住人という肩書がそれを許さないのだろうか。鶫曰く一般人とは基本的になれ合わない主義らしい。

 

「この後はどうするの?」

 

「一条楽と一緒に集英組に出向いて協力を仰ぐつもりなんだけど」

 

 大きな金色の瞳がこちらをとらえていたので自分が考えていた計画を話す。綱吉は平和に終わるためには両方の組織の協力が不可欠だと思っている。事前の話が済んでいないのならこれからやるしかない。それに色々ときな臭い状況なのでとにかく情報の共有がしたいところである。ビーハイブの方は鶫がクロード様と話をしてくると言って授業が終わると同時に出って言ったので彼女に任せることにした。そうなると今日は集英組とのことを片付けるべきだろう。

 

「ふーん」

 

 聞いた割にはポーラの反応は実に味気がないものだった。だんだんとポーラのペースに慣れてきた綱吉はマイペースな性格なのだろうと割り切る。ポーラは興味がないという風に前を向きなおしたのだが相変わらず彼女がちらちらとこちらに目をやるのが気になった。

 

「あのー俺の顔になんかついてる」

 

「いいえ」

 

 流石に気になったので聞いてみるとまたそっけない返事が返ってきた。綱吉がいったいなんなんだと頭を悩ませていると不意にポーラ手が額に伸びてくる。そのまま前髪をいじる彼女の顔が近いことに気が付く。思わずドキッとして顔が熱くなるも彼女の言葉ですぐに我に返った。

 

「前髪焦げてないわよね?」

 

「そんなわけないだろ!?」

 

 ポーラの口から失礼な言葉が飛び出し、思わずそれに綱吉が反応する。確かに彼の髪色は茶色であり、栗のような色をしているが別に焼いたわけでも焦げたわけでもなくただの地毛である。綱吉が少しへこんでいるとポーラは俄然不思議そうに首をかしげた

 

 「じゃあさっきの額の炎をなんだったの?」

 

 「それは……」

 

 なんと説明していいかわからず言葉が出てこなかった。そもそも説明していいものなのかもわからない。どうするか綱吉の悩む一方でポーラは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「その反応ってことはあれがあんたの強さの秘密なんでしょ!」

 

 びしっと指を綱吉に指をさし、どや顔で言い放つ。ちょこちょこ抜けているところはあるが妙に鋭いところがあるようだ。今更否定して誤魔化すのも面倒くさいので素直に肯定することにする。

 

 「確かにそうだけどそれ以上は教えられないよ」

 

 くぎを刺すつもりで語気を強める。お互いのためにもこれ以上深入りしてほしくはなかった。組織の秘密に触れればどうなるかウラの世界の住人の彼女ならわかるはず。そのつもりだったのだが当の本人はそんなことはどうでもいいようだった。

 

 「やっぱりね! あの力を手に入れれば今度こそ黒虎に……!」

 

 ポーラはこちらのことを気にも留めず一人舞い上がっていた。教えられないと言ったのが聞こえていないのだろうか。早くもポーラに手伝いを頼んだのを後悔していると廊下の先から女の子と悲鳴が木霊する。

自然と体が反応し、考えるよりも先に走り出していた。すぐに廊下を突っ切り、角を曲がると一人の青年とそれにおびえる少女がいた。

 

「楽、何やってんだよ……」

 

「誤解だ!」

 

 本日何回目かわからないため息が綱吉の口からこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず女の子の方に事情を聴こうとするも男性が苦手なのか震えているように見えたのでポーラに任せることにした。女の子の反応を見る限りどうやら顔見知りのようだが案の定ポーラは覚えていないらしい。そんな二人放置して綱吉は楽に事情を問いただす。彼は彼なりに一生懸命自分の潔白を証明しようとしているも途中で女の子の地雷を踏んだのかビンタされて撃沈した。

 

「で、何があったの?」

 

「この人が私のパ、パ、パンツ見たんですよ」

 

「だからわざとじゃないって」

 

 話を聞く限り楽が女の子のプリント運びを手伝おうとしたところ風でめくれたスカートの中を覗いてしまったらしい。否定すればいいところにご丁寧に感想を言ったところが余計に火に油を注いだようだった。まぁなんというかそれくらいであそこまでの悲鳴をあげるこの子にも問題はあるように思え少し楽が気の毒に思えた。フォローしようと口を開こうとするもそれより先にポーラが口を開く。

 

「下着くらいで大げさね。あんなのただの布じゃないの」

 

「下着くらいって……」

 

「お、お前も女なら恥じらいというものをだな」

 

 ケロッとしているポーラに対して二人とも赤面して反応する。血生臭い世界で生きてきた彼女からすれば下着を見られるなんてことは些細な事なんだろう。異性の視線よりも敵の視線、日々をどう過ごすかよりどう生き残るか、彼女の日常は彼らにとっての非日常であり、彼らの日常は彼女にとっての非日常になる。どっちも知っている綱吉は言っている意味がわからないという風に首をかしげる彼女を見て少し悲しくなった。

 

 「あら?一条君に沢田君、こんなところで何してるの?」

 

 いつの間にかたまたま通りかかったらしいクラスメイトの小野寺小咲が不思議そうにこちらを見ていた。

 

 「いやこれはそのアレだ」

 

 小野寺の登場に慌てふためく楽。クラスメイトの女子に知られるのはさすがに自分の評判にかかわると思ったのか頑張って否定しようとするも言葉がうまく出てこないようで意味不明な事を口走っていた。綱吉が代わりに説明しようとするも後ろから袖をクイッと引かれる。振り返るとポーラではなくポーラと顔見知りらしい少女がこちらを見上げていた。

 

 「一条ってあなたですか?」

 

 「いや俺は沢田だけど」

 

 この子がなんでそんなことを聞くのかわからず混乱するもとりあえず素直に投げられた質問に答える。すると女の子は目を細めニッコリと笑いお礼を言った。目が全く笑っていないのがとても恐ろしい。そのままスッと楽の前に立ちはだかる。

 

「あなたがあの一条先輩だったんですね」

 

 彼女はプルプルと体を震わせ声には徐々に怒気がこもっていた。あのと言われるくらいだから他にも何かやらかしたのかと思ったが本人に視線を移すと自分でも理解していないようだった。

 

「ヤクザ集英組の組長の息子で超絶美人な彼女がいるにも関わらず、多数のきれいな女の子を従えて親の権力で裏から学校を牛耳っているんですよね? どおりで最低な人だと思いました」

 

 早口でまくし立てる彼女に圧倒される。そして綱吉とポーラの冷めた視線が楽に突き刺さったので本人はブンブンと首を振り否定する。クラスに来て間もない綱吉でも彼の周りにはきれいな女の子が多いとは思っていたので前半は擁護しようがない。しかし、後半は悪意のあるものだと思った。まぁ噂を流したであろう男子たちの気持ちもわからなくはない。綱吉も少し嫉妬するくらい彼の周りの女の子は綺麗な子が多かった。

 

「一条君はそんな人じゃないよ」

 

 助け船を出すべきか考えていると小野寺が真っ先にフォローに入る。こうやってかばわれるからなおさら敵意を集めるのだろうと思うと少し楽がかわいそうに思える。

 

「お姉ちゃんは騙されてるんだよ」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 彼女の口から発せられた瞬間驚きは広がった。そういえば髪型は違うものの顔や髪色はそっくりであり二人には共通の面影があった。違いとしては姉の方が体は一回り大きく、対して妹の方は髪が背中まで伸びている。

 

「私は小野寺春。小野寺小咲の妹です」

 

 楽と小野寺姉との間に入る小野寺妹。手を広げ、姉に近づけないように楽を威嚇する。妹の行動に流石の姉も困惑している。楽と小野寺姉妹がひと悶着している一方で綱吉とポーラは窓の外に気を取られていた。

 

「ポーラ」

 

「わかってる」

 

 2人の間にピリピリとした緊張感が走る。先ほど窓の外から感じたはっきりとした敵意。覗かれているような不快感が二人にまとわりついている。目を凝らしていると一つの点を視界にとらえる。その瞬間綱吉はミトンをつけ窓を開けて飛び出していた。

 

「ポーラ、みんなをお願い」

 

「ちょっ!? どういうことよ!!」

 

 飛び降りると直前にそんな言葉を残す。ポーラが何やら騒いでいたがそんなことを気にしている暇はなかった。言葉足らずだったかもしてないが彼女ならここにいれば危険ということは気が付いているだろうしうまくやってくれるだろう。そんなことを考えながら空中で死ぬ気丸を口に放り込み黒い点を迎撃するために最大出力で炎を展開する。

 

 黒い点がなんであれ桐崎千棘と一条楽がいる高校の近くで迎撃はなるべく避けたいところだった。何かあったらそれこそ自分がここに来た意味がなくなる。飛び始めてわずかの時間で黒い点の正体こちらへ向かってくる小型のミサイルということがわかった。はっきりと視認はできないが感覚的になんとなく理解できる。市街地でこんなものを使うのはどこの誰なのかとても腹立たしかったが今はそれどころではない。周囲に被害を出さないためには撃ち落とすのではなく受け止めて無力化する必要がある。そう考えミサイルの射線に入り両手を前に構え衝撃に備える。幸い高校からはかなり離れたので向こうからはこちらが何をやっているのかよくは見えないだろうと腹をくくった。空気を切り裂く轟音がミサイルの接近を教えてくれる。そしてはっきりとその姿を確認した瞬間全身に巨大な物理エネルギーがぶつけられた。ミサイルを受け止めつつ炎を逆噴射しミサイルの運動エネルギーを少しずつ相殺する。完全に速力を殺した後、誘爆しないように零地点突破初代エディションで凍らせ、ようやく一息つく。

 

 その時、前方から不意をついた射撃が綱吉を襲った。右手はミサイル、左手は空中での浮力を担っていたのでやむ終えず凍らせたミサイルで弾を弾き飛ばす。射線から相手の位地を割り出そうと視線をやると思わぬものを視界にとらえた。

 

 「モスカ……なのか?」

 

 綱吉の前にはかつて何度か戦ったモスカらしきものが背中のスラスターのようなものを使い浮いていた。ガスマスクとサングラスをつけた顔に大柄な体。両手のマシンガン。どれも見覚えのあるものかつて綱吉を何度か苦しめた機械人形の特徴にそっくりだった。

 この時代のモスカはまだ表立っては軍事利用されていないにも関わらずここにこいつがいるのはどういうことなのか。モスカの機密を元に誰かしらが改造したのか、それともボンゴレの中に裏切者がいるのか、そもそもいつの間にこいつは現れたのか、頭をフル回転させるも結論はここで出すのは厳しそうだった。なんにせよ早く決めなければならない。ここは市街地の上空ではあるが下手に下に被害が出れば集英組、ビーハイブを刺激する可能性があるし、一般人の視線もあるため長期戦は避けたいところだ。また後方には楽たちがいる高校がある。こいつがどこの組織の兵器かはわからないが先ほどのミサイルとは無関係なはずはなかった。それに加えてモスカには動力源となる人がいる可能性がある。前の九代目のようなことを起こさないためにも破壊することは避けたい。また破壊せず捕縛することができれば何らかの手掛かり情報が得られる可能性もある。それらを踏まえ、この場で速やかに無力化することを第一目標にした。頭の中で考えをまとめ呼吸を整える。

 

 

 

 先に動いたのは綱吉だった。最大出力で突っ込み左手を伸ばす。VGを使ってはいないとはいえ綱吉の炎の出力はリング争奪戦の時とはくらべもののならないものだった。ゴーラ・モスカでさえ対応できないだろうこの速度についてこられるわけがない。そしてこのまま触れて零地点突破初代エディションで凍らせれられれば安全に戦闘を終わらせられる。

 しかしそんな慢心が命取りとなった。モスカは綱吉の想定よりもかなり早い反応速度を示し、まるで行動を読んでいたかのように素早く身を引き右手のカウンターを合わせに来る。懐まで入っていたために回避しようにもミサイルが邪魔であることと、慢心により反応が遅れために間に合わない。体に鈍い衝撃が伝わり、口の中に鉄の味が広がる。そして右手が体の中心をとらえたままモスカの背中のスラスターが開き一気に加速する。そのまま綱吉ごと高校の方へ押し返す。綱吉は風圧で動きを制限されるもなんとか体制を立て直し、モスカの顔に下から蹴りを入れて距離を取った。

 

 ダメージはそこまでではないがかなり押し返されてしまったのが辛いところである。せっかく離れた高校がすぐ近くまで迫っていた。それを見て綱吉は警戒のレベルを一気に押し上げ、集中する。敵対組織のヒントになるかもしれないと思いミサイルを確保していたがやむを得ず破壊することにした。片手で相手をするにはリスクが高すぎる。

 モスカが仕掛けてこないことを確認するとミサイルを上空へ放り上げ渾身の右ストレートで粉砕する。せめて下への被害が最小限で収まるようになるべく小さな破片にしたかった。パラパラときらめく光とともに仕掛けようとするもモスカの行動でそれを中断される。右手を構えた先には高校があった。この距離では威力が死ぬ前に高校に直撃する。見た瞬間にそれに気が付き咄嗟に射線に入るために一気に加速した。ガガガという重低音とともに銃弾の雨がばらまかれ、それらは全て校舎へと吸い込まれる。

 両手の炎圧を一気に上げて直撃の前に銃弾と後者の間に滑り込んだもののせまる銃弾に対してXBURNERも炎の壁を展開するのも間に合わない。必然的に綱吉に残された選択肢は全て受けとめることのみだった。両手を使って空中の弾丸をすべてつかみ取ろうと試みるも無造作にばらまかれたそれらを捕まえるのは不可能であった。どうしても両手でさばけないものは足を使って無理矢理に受け止める。しばしの空中での綱吉と銃弾の格闘が続き、銃弾の雨が終わったころには綱吉は肩で息をしていた。しかし、それでも闘志は消えていない。待っていたと言わんばかりに雨が止んだすきに攻勢に出ようと両手のグローブに炎を灯す。

 迷っている時間はない。綱吉の瞳から余裕が消える。

 

「オペレーションX」

 

 両手を前後に構え、つぶやく。コンタクトディスプレイに写る炎圧を確認しながら出力を調節する。後ろを守りながら戦うならばこれしかなかった。銃弾の雨もミサイルもすべて消し去り、相手を破壊する。すぐに発射可能となり、右手から炎を放出しようとするもシューっという空気を切り裂く音がそれを阻止する。姿は見えないが、音がそれとの距離を教えてくれた。そしてその音は確実に綱吉に近づき、追い越した。その瞬間ハッと敵の狙いに気が付く。見えない何かを追うために全力で後ろに飛び感覚を研ぎ澄ました。相変わらず姿は見えないものの空間のゆがみを超直観が教えてくれる。しかしこの距離では高校も射線に入るためにXBURNERは使えない。受け止めるにしても数が多すぎるし、勢いを殺すには距離も足りなかった。先ほどから完全に後手に回っていることに苦渋の表情を浮かべるが覚悟を決める。

 そして凡矢理高校の校庭上空で爆発が起きた。

 

 

 

 爆風に流され三半規管のリンパ液がぐるぐると回る。体制が立て直せないまま窓ガラスを突き破り、廊下の壁にたたきつけられた。

 

 「ちょっと大丈夫なの?」

 

 うっすらと目を開くとポーラが体をゆすっていた。むくりと体を起こして周囲を見渡すとポーラだけでなく、小野寺小咲、小野寺春、一条楽と先ほど会話していたメンバーがそろっている。銃弾で傷つけられた脹脛、爆風で裂傷した肩などあちこちから出血している綱吉を見て三人とも顔を青く染めていた。

 

 「大丈夫だ。早く離れろ!」

 

 足に力を入れスッと立ち上がり、全員に聞こえるよう言い放つ。窓の外に視線をやるとモスカが再び右手をこちらに向けようとしていた。モスカの存在に気が付いたポーラがすぐさま楽と姉寺を抱えて慌ててその場を飛び出す。距離があったせいか取り残された妹寺に脅威が晒されようとするもそちらには綱吉が割って入った。再びマシンガンから放たれる銃弾の雨が校舎の壁を破壊しつつ綱吉たちに襲い掛かるも今度は炎の壁がそれを拒む。圧倒的な出力をほこる炎の盾は銃弾を消し炭にし、一発たりとも通るようには見えない。モスカは銃弾が聞かないとみると腹の粒子法に切り替えエネルギーを貯め始める。それを見て打つ前に止めに行くか迷うが後ろで震える彼女を見てそれをやめた。

 

 「絶対守るから」

 

 うまく彼女を安心させる言葉が思いつかず、自分なりの精一杯の言葉を彼女に伝える。目の前の状況にまだ頭がついてきていないようだが震えは収まったようだ。彼女を背中にかばい、右手の手の平と左の甲を相手に見せるようにして四角形を作り、受け止める体制を整える。モスカのエネルギーはゴーラ・モスカと同じならばおそらく死ぬ気の炎がもととなっているはず。それを裏付ける証拠として先ほどのミサイルはモスカの背中に搭載されていた小型のミサイルが霧の炎をまとったものだった。死ぬ気の炎によりステルス機能を得て幻騎士の霧蛞蝓のような見えない攻撃を可能としたのだ。つまり、向こうには死ぬ気の炎の存在を知るものがいるということになる。そしてそこまで知っているならば死ぬ気のエネルギーを放出することも可能なのではないかという結論に至ったのだ。それを裏付けるように超直観も死ぬ気のエネルギーがモスカの腹に充填されていることを感じ取る。ゆえに被害を抑えるための最善手は炎の壁ではじくのではなく、吸収すること。だが、何か嫌な予感が綱吉の集中をかき乱した。何かを見落としている気がすると頭の中で警笛が響き続ける。

 しかし、何が引っかかっているのか理解する前にモスカのエネルギー砲が放たれる。予想通り死ぬ気の炎のエネルギー砲だった。それを確認し死ぬ気のレベルを極度に下げ零地点突破改の体制をとる。直撃とともに炎を吸収し、自分の力に変えようと試みた。

 

 その時自分の嫌な予感の正体が姿を現し綱吉に襲い掛かる。エネルギー砲にはさりげなく霧の炎を纏った弾丸が紛れ込んでいた。もちろん後ろの妹寺のことを考えると回避はできない。咄嗟に思考をフル回転させるもあまりに時間が足りなかった。そしてその弾丸が無防備な綱吉の体を捉える。霧の弾丸は死ぬ気の炎で強化された彼の体を貫くことはできなかったが鈍い音とともにダメージを与えた。集中力をそがれたせいで零地点突破改も不完全に終わり、ダメージだけをもらった形になる。さすがにダメージが蓄積し、綱吉は思わず膝を着いてしまった。それを見て好機と見たのかすかさず再びエネルギー砲を放つ体制になる。同時に後ろの小野寺春が立ち上がった。

 

 「も、もうやめてください! これ以上やったらこの人死んじゃいます」

 

 綱吉の前に立ち、消えそうな声で相手に訴える。声音も膝も震え、表情は恐怖でゆがんでいた。それでもがむしゃらに自分を守ろうとする姿に心をうたれた。彼女のやっていることは明らかに無謀であり、本来なら早く逃げろと怒るべきところだ。それでもそんな彼女の姿にかつての自分を重ねてしまう。お前はヒーローにはなれない。かつてリボーンに言われた言葉が浮かんできた。自分はいろんなこと考えすぎではないのか? 情報が洩れるだとか、情報を持ち帰るだとか、被害を抑えるとかそんなことはどうでもいい。両方の組織を刺激したところでそれがどうした。抗争が起きればその時止めればいい。オレにできることは今この時間にいるただ大切な人たちを守ることだけ。

 

 だから死ぬ気で小野寺春を守る!

 

 決意を固め、彼が灯していた死ぬ気の炎の質が変わる。今まで温存してきたVGを開放し両手を赤いガントレットが覆う。ゆらゆらと揺らめく炎の純度は先ほどまでとは完全に異質であることをなんとなくわかる。そして再びエネルギー砲が放たれる直前に綱吉の姿がモスカの目の前から消えた。気が付けば綱吉の右手が腹の発射門を捉えている。パチパチと回路がショートする音と焦げ臭いにおいが空気中に漂い、モスカは距離を取った。しかし、それを許す綱吉ではない。いつの間にか後ろを取った綱吉はモスカを遥か上空に蹴りあげる。回転しながら上へと吹き飛んでいくモスカの先に回り込み拳を構えた。が、モスカもただで終わるつもりはないらしく背中のミサイルを放ち、それが先ほどの妹寺に向かって飛んでいく。綱吉はそれを確認したと同時にモスカへ一気に接近し背中のミサイルの発射門を蹴りでつぶし、放たれたミサイルの迎撃に向かう。

 

 VG解放した綱吉の速度は圧倒的であり、余裕をもってミサイルを追いこしすべてミサイルを焼き払った。花火のような音が再び空中に響くとモクモク煙が展開される。ただの爆風にしては煙の量が多いと思ったらどうやらミサイルの中にスモークグレネードを積んだものがあったらしい。拳圧で素早く煙を払うとモスカはすでに遠くへ逃走し始めていた。追い付けない距離ではなかったのだが色々考えた末に諦めることにした。一つ目は自分のダメージ。二つ目は霧の術者がいるとすればとらえることが困難になる可能性がある。三つめは伏兵がいないとは限らない。以上のことから一先ず下の小野寺春のところまで戻る。

 

 「大丈夫?怪我してない?」

 

 「私は大丈夫ですけどあなたの方が……」

 

 「これくらいならまぁなんとか」

 

 ボロボロの綱吉を妹寺は心配そうに見ていた。確かにあちこち傷だらけなものの内臓や骨に被害はなく、比較的無事な部類だと勝手に自己解釈する。

 

 「は、早く保健室に、いや病院に行かないと」

 

 「いやいいって」

 

 「ハーイそこまで。で、あのでかぶつは?」

 

 腕をつかみ病院に強引に連れて行こうとする妹寺をポーラが制した。このまま病院に連れてかれても困るところだったので助かったと息を着く。そのまま軟膏や包帯をマントの下から取り出し、綱吉の応急処置を始める。

 

 「逃げられちゃった」

 

 「まぁ仕方がないわね。追い払えただけよかったんじゃない」

 

 申し訳なさそうに謝る綱吉に対してポーラは思いのほか優しい言葉をかける。てきぱきと作業する彼女の手際は流石に慣れており簡単な処置はあっという間に終わった。

 

 「ツナ、無事か?」

 

 「春、大丈夫?怪我はない?」

 

 駆け足でポーラを追ってきた楽と姉寺もやっと合流した。心配そうに声をかける楽を軽く笑って無事の意を示す。姉寺は妹寺に抱き着き、どこもケガはないか入念にチェックしていた。恥ずかしそうにする妹寺と無事でよかったと笑う二人がほほえましい。抱き合う見て小野寺姉妹を含め全員の無事を確認したところでゴホンと咳払いをし、一旦空気を整える。先ほどの襲撃を見る限り相手側はこちらの動きを把握していると考えた方が良い。おそらくボンゴレ側に裏切者がいるのだろう。霧の術者のことや綱吉の性格を考えた攻撃のことを考えると内部のものでないと説明できないことが多すぎる。それらを考えたうえで綱吉が考えたことは一つだった

 

 「とりあえず集英組までみんな来てくれる? そこですべてを話すからさ」

 

 それは終わったかに見えた彼らの非日常はもう少し続くということを示していた。今綱吉が知っている安全地帯は集英組しかなかった。ビーハイブでもいいのだが、残念ながら場所を知らない。

 

 「小野寺達もいかないとダメなのか?」

 

 綱吉の言葉に対して食い掛ったのは楽だった。爆発とポーラと集英組ということで自分たちが何に巻き込まれているのか分かったのだろう。だからこそ友人だが、一般人である彼女たちを巻き込みたくはないのが楽の意見なのだ。

 

 「馬鹿ね、今はそれよりここから離れるのが先よ。こんなところで捕まったら今日は身動き取れなくなるわよ」

 

 「そういえば野次馬が一人も来ないのも変だな」

 

 ポーラの言葉に楽が不思議そうにつぶやく。あんだけ派手な爆発があったのだから何人か野次馬が来てもおかしくはないのだがそんな気配はなかった。というか周囲に他の人の気配がそもそも薄い気がする。

 

 「めんどくさそうなやつらは近づけないように沈めておいたからね。しばらくは起きないんじゃない」

 

 「思ったより野蛮なことしてる!?」

 

 ポーラの危ない発言に思わず突っ込む綱吉。このボロボロに壊れた壁といいポーラの無差別攻撃といい、今から謝罪する手間を考えるとゾッとした。

 

 「しょうがないでしょ。それより早くいくわよ。警察がもう動いてるらしいわ」

 

 ポーラがそう言って駆けだすので自然と全員それについていく。ポーラ以外状況が読めていないためとりあえず彼女についていくしかなかった。階段を駆け下りていると遠くからサイレンの音が聞こえてきている。おそらくモスカの引き起こした爆発を目撃した誰かが通報したのだろう。

 

 「行くあてあるのか?」

 

 楽は校舎を出る前にポーラに一応確認を取った。綱吉には楽がどこまで知っているのかわからないもののおそらくポーラを信用しきってはいないのだろう。敵対組織のヒットマンを信用している方がむしろおかしい。楽の質問に対してあきれたような反応を示し、ポーラは口を開いた。

 

 「ビーハイブよ」

 

 そう言って校舎を出ると鶫を中心としたビーハイブの構成員が待ち構えていた。

 




今回も10000字ということでだいたい一話あたりこれくらいの量で書き進めたいと思います。
次の投稿は年明けですね。
感想、アドバイス等もらえると励みになります。

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