若き裏の住人たちの青春   作:コーデリア

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見切り発車で書きはじめたもの
後悔はしていない
誤字脱字等は指摘お願いします


ハジマリ

 桜散る季節の中青年は戦慄していた。

 まだ大して気温が高いわけでもないのに汗が止まらない。彼としてはここ数年あの悪魔か天使かよくわからない家庭教師みっちり絞られ、多少なりとは成長したと自負していた。にもかかわらずこの事態はどういうことなのか。新天地で気が緩んだのか、それとも結局あいつがいないとまだまだ甘ちゃんなのか。少年としてはどちらも信じたくない。きっとまだ夢の途中なんだと現実逃避をしようにも目の前の現実がそれを許してくれそうにはなかった。

 一度深呼吸して手元の時計を改めて見てみる。が、時計は相も変わらず8時大きく過ぎた時間を指示していた。

 

「遅刻だー!!」

 

 小さなアパートにボンゴレ十代目候補沢田綱吉の叫び声が響いていた。

 

  慌てて制服に着替え、カバンにミトンと死ぬ気丸を放り込む。次にキッチンの棚から食パンを取り出し口に加え、ヘッドフォンを首にかける。ここまでかかった時間は10分。普段からダメな彼はダメなりに被害を抑える術を身に着けていた。そして洗面所で適当に身だしなみを直し、そのままダッシュで玄関を飛び出す。

  学校までは徒歩で20分。普通に行けば間に合わないのだが路地裏などの裏道を使えばギリギリ間に合う。しかしそうもいかないのが彼の性質。大空の彼の性質は全てを包みこみ調和する。しかしそれとともに厄介ごとにも巻き込まれやすいのだ。今日も今日とてそれは例外ではなかった。この道の先はなにかあると彼の中の血、ブラッドオブボンゴレが教えてくれる。そうそれが超直観。彼が生まれながらにして持つ素質。要は研ぎ澄まされた第六感なのだが彼のそれは物事の本質を見通す一種の予知と呼べるレベルまで昇華されている。

 つまり、このままいけば何かに巻き込まれるのは避けられないのだ。しかし彼は足を止めなかった。残された時間が少ない今遠回りする暇はない。最短であるこの路地を避けていくことはできないのだ。若干憂鬱になりながらも走る力はゆるめない。

 

  最期の路地に入る直前彼の超直観の警告がさらに強くなる。なにかありそうだなと思い気を引き締め路地に入るとニヤニヤした四人の男が一人の気絶した女の子を運んでいるところに出くわしてしまった。女の子の白と青の制服は見覚えのあるものである。それに対して男たちはどう見ても学生ではない。おそらくは不良的な社会不適合者の類だろう。走りながら状況を整理するとともに向こうもこちらに気が付いた。

 

「てめぇ、こんなところで何してやがる?」

 

 スキンヘッドの男が声を荒げる。むしろこっちが聞きたいと思うが聞く時間ですら惜しい。それくらい時間がなかった。正直さっさと高校に向かいたいがこういうところで見捨てられないのが沢田綱吉なのだ。さすがに見て見ぬふりはできないよなと思い足を止めた。

 

「その子を離してくれませんか? うちの学校の生徒みたいなんで」

 

 息をととのえてはっきりと言い放つ。

 はっきりとした物言いに思わず男たちはたじろいだ。路地裏で不良に絡まれるというのは普通に高校生なら緊張を隠しようがないはずなのだが彼は違った。リボーンと過ごした彼はちょっとやそっとのことでは驚かない。もっと怖い経験を何度もしてきた彼にとってはこんなことは日常茶飯事なのだ。

 そんな綱吉に男たちは恐怖を覚えた。物言いと言いこの状況に身を置いても恐れを見せない肝の据わり方といい普通の学生とは思えない。どこからどう見てもただの気弱な学生にしか見えないのだが“こいつはヤバい“と本能が告げているのがわかる。逃げるかと一瞬頭をよぎるも彼らのプライドがそれを許さなかった。

 

「や、やっちまえ!」

 

 一番奥のリーダーらしき人物が綱吉のじっと睨む無言のプレッシャーに耐え兼ね部下らしい三人に指示を出す。それと同時に彼らが綱吉に向って襲い掛かってきた。ただでさえ狭いこの路地では攻撃を避けるスペースなんてものはない。客観的に見れば勝てる要素なんてものは微塵もない。しかしあくまで彼は冷静だった。この路地は人通りがすくないし、周囲に監視の目はない……ような気がする、と思い大きく深呼吸をする。決意を強くし、心に炎をともす。すると額にわずかながらに橙の炎がゆらめいた。この二年で彼は死ぬ気丸や死ぬ気弾なしでも死ぬ気モードになることを可能としていた。これは数年前の最終決戦の経験から超直観で生み出したものである。本人曰くリングの覚悟の炎と容量はおなじでそれをもっと爆発的に燃やすイメージらしい。

 死ぬ気モードとなった後は予定調和だった。大ぶりの右のストレートを寸前で交わし、顎に攻撃をかすらせる。撫でるように右の掌が顎をとらえ脳を揺らすことで戦闘不能にする。二人目、三人目と同じ要領で沈める。瞬く間に残ったのはリーダーらしき人物一人となった。

 

「こ、こいつがどうなってもいいーー」

 

 慌ててナイフを取り出し女の子に突き付けようとしたところで綱吉の左足が男の意識は刈り取る。ふぅと深呼吸をすると額のふっと消えた。一応女の子に外傷はないか確認すると特に目立ったところはなさそうだ。一安心し、時計に目をやると大体想定通りの時間を刻んでいる。このままいけばなんとか間に合うのだが……。

 

「やっぱおいていけないよなぁ」

 

 そうつぶやくと路地に残った女の子を背中に担いで学校に向かうのだった。

 死ぬ気モードでいけば全然間に合うのだが、あいにくあれ以降VGなどの死ぬ気の炎を原動力とした兵器を使うのは極力避けられている。なんでもタイムパラドックスを恐れてのことらしいのだがいまいち彼にはピンとこなかった。それを見かねてリボーンが「VGをマネしてかつての白蘭たちのように兵器として悪用する輩も現れる可能性も考えろ」とどやし、ようやくなんとなく理解した。これらよりなるべく人目の使うところでは使うのは避けるべきいうけつろんに至ったのだ。加えて死ぬ気の炎を扱うということは言わば自分がボンゴレということの身分証明をしているようなものである。十代目有力候補としてある程度顔の売れてきた今そうしてことで周囲に危険が及ぶ可能性があるということは平和主義な綱吉にとって死ぬ気関連の力を使わないという鎖として十分すぎる効果を示す。

 それでもこういう場面は使いたいと思うのが人間の性だ。それでも周囲のために彼は力を使わない。それが沢田綱吉という人物なのから仕方がない。しかし、現実は非常であった。ぜぇぜぇと肩で息をしながらなんとか校門にたどり着くも無情にもキーンコーンカーンコーンという予鈴がなりひびく。転校早々遅刻という不名誉な記録を作った瞬間だった。

 

「すいません、遅れました!」

 

 息を切らして勢いよく扉を開ける。たまたま保健室には人がいなかったので、とりあえずベットで休せ走ってきたのである。

 

「おい、転校生!初日から遅刻とはいい度胸してるなぁ!」

 

 教室に入ると教卓のそばで名簿をパしパシと持て余しあきれ顔している女性がとてもいい笑顔で待っていた。後ろに鬼のような顔が見えるのはきっと気のせいだろう。この眼鏡をかけた教師は日原教子といいキョーコ先生という愛称で生徒たちに慕われているらしい。一応お世話になる彼女には事前に挨拶を済ませた際に身分は伏せてはいるが特殊な目的で転校してきたと伝えてはある。まさか最初からやらかすとは思わなかっただろうが。

 

「すいません!」

 

 とりあえず頭を下げる。そもそもは自分の寝坊が全面的に悪いのだ。下手に言い訳したするのはよくない気がした。彼の真意が伝わったのか、事前に話しておいてのが良かったのかわからないがやれやれと言って遅刻の理由を深くは訪ねてこなかった。どうやら何か特別な事情があると勘違いしてくれているらしい。少し申し訳ないが藪蛇になりそうなのでこちらからも触れるのはやめておいた。

 

「みんな、まぁ抜けてるところはあるが悪いやつじゃないから仲よくするように。ほら自己紹介」

 

「並盛高校から来ました、沢田綱吉です。前の高校ではツナって呼ばれてたのでそう呼んでくれたらうれしいです」

 

 あははと照れ隠しをする。これがリボーンにばれたらどうなるんだろうと考えると気が重い。えげつない特訓が待っていそうだ……。

 

「なんだそれだけか? つまらないなぁ。はい、質問あるやつ挙手」

 

 遅刻のつけなのか悪戯っぽく笑い、生徒に質問攻めするように煽る。先生の呼びかけにハイハイと多くの生徒が手を挙げ、一気にクラスが騒々しくなった。えぇと内心で困惑するもどこかこの騒がしさになつかしさを感じうれしくなる。こっちの高校でもうまくやっていけそうだ。

 そんな時、彼の超直観が再び何かを感じ取った。思わず視線を巡らせると一人の少女?がこちらにものすごい殺気を放っている。男装しているがおそらく女の子なんだよねと一瞬失礼なことを考えるもブンブンと首を降る。それと同時になんとなく彼女のことを危険だと超直観が伝えているのがなんとなくわかってしまった。雰囲気からして多分彼女もまたこちら側の人間なのだろう。余裕のある服のどこかに武器を隠し持っているーーそんな気がした。

 そんなことを考えているとこちらの視線に気が付いたのか彼女が手を挙げる。思わず身構えてしまったが敵意はあるもののまだ攻撃するわけではないらしい。

 

「お、鶫が男に興味を持つなんて珍しいな」

 

「なになに、鶫ちゃんがひとめぼれ? さすが乙女なだけーー」

 

 一条楽と眼鏡の男が鶫を呼ばれた女の子をからかう。いやからかったのは後者だけのようだ。言い切る前に首をひねられガッと声にならない声を上げて突っ伏した。鮮やかな手口に思わず感心してしまう。普通ならドン引きするところなんだろうがやはり綱吉の感覚はづれてきているのだろう。

 

「一条楽、言っておくがそういうわけではないからな。勘違いするなよ」

 

「おう、わかったからそんなに睨むな」

 

 顔を真っ赤にして弁明する鶫とそれに対して対応する一条楽。ほう、なるほどわかりやすい。秒で撃沈した彼の言うように彼女は乙女なのだろう。綱吉はこちら側にいながら学生を満喫しているような彼女に早くも親近感を覚えていた。

 

「何をニヤニヤしている」

 

 キッとこちらをにらむ鶫。どうやら思わず表情に出ていたらしい。昔に比べたら多少はマシになったもののやはりポーカーフェイスといものは苦手だ。

 

「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ。なんというかほほえましいなって思って」

 

 ポリポリと頬をかきながら思ったことを素直に言った。大事なところは隠したのでセーフだろう、と思ったのだが本人はそうは思わなかったらしい。顔を真っ赤にして体をプルプルと震えさせている。どうやらご立腹のようである。

 地雷ふんじゃったかなと思ったが思わぬところから横やりが入った。

 

「なかなか良い観察眼をお持ちのようで。そう、この鶫ちゃんはこの高校で一番の乙ーー」

 

 いつの間にかよみがえっていた眼鏡の彼がいつの間にか元気よく発言する。元アルコバレーノのスカル並みの不死身っぷりである。まぁすぐに首をトンとやられ再び意識を彼方に飛ばされたのだが。

 

「話を戻そう」

 

 ゴホンと咳払いをして場を落ち着かせる。さきほどまでの乙女の彼女はすっかり鳴りをひそめている。

 

「Sai la vongola?(ボンゴレを知っているか)」

 

 彼女の言った言葉の意味が分からず綱吉を除くクラス中の人間は頭に?を浮かべていた。しかし綱吉だけはこの意味が瞬時に理解することができた。何度かイタリアに留学していた彼は嫌でもその場の言語を覚えなくてはいけない。そう、鶫はイタリア語で話しかけたのだ。初見でわざわざイタリア語で話しかけてくるあたり彼女は大体綱吉の正体に感づいているということなのだろう。しかしこんな場所で裏の世界の話をするわけにいかない。うーんと少し考えたあと綱吉も口を開いた。

 

「Attendere sul tetto(屋上で待つよ)」

 

 上を指差しこちらもイタリア語で答える。

 それに対して鶫もうなずく。まだまだつたないもののなんとか通じたようでホッと胸をなでおろす。

 

「え、なにこれ?二人ともなんて言ってるの?」

 

「英語じゃないよな?」

 

「いきなりなんか意味深なんですけど!!」

 

 2人の会話に取り残されていた教室がようやく動き出す。このせいで注目を集めた綱吉はHRが終わった後も質問攻めにあった。どこから来たのか、実は帰国子女なのか、ヘッドフォンはどこのやつかなのか受けと攻めどっちがいいかなどなど。いろいろなことをきかれるも綱吉は普通に答えていく。さらっと変なのが混じっていた気がするがまぁ気のせいだろう。そして昼休みには当たり前のようにクラスに溶け込んでいた。

 

「ツナ、昼飯一緒にどうだ?」

 

「ごめん、屋上に用事があって」

 

 楽の誘いを申し訳なさそうに断る綱吉。足早に教室を出るときにちらりと視線を鶫に移すとうなずいているのが確認できた。聞こえるように大きめに言ったの功を奏したのかちゃんと聞こえていたようだ。

 

 屋上に入ると基本的には何もないところであった。奥の金網の向こうには貯水タンクなどがあるもののこの場所自体はは生徒たちが普通に談笑するには十分な広さがある。

 ふと見上げると空は雲一つない晴天であり、暖かく過ごしやすい気温である。そのまま見まわすと都合のいいことに人がいないように見えた。見かけだけは。

 

「こっちには戦う気はないから出てきてくれるとうれしいんだけど」

 

「よく気が付いたわね」

 

 呼びかけると金属の柵の向こう側の給水タンクの裏から一人の白い少女が現れる。軽く跳躍すると生徒の侵入を防ぐ金網を軽々と飛び越えてこちらの正面に降り立った。真っ白な髪に金の瞳。赤いマフラーと白いマントが特徴的な小柄な少女。鶫と同じくゆとりのある服装とさっきの跳躍の動きからしてこの子もどこかに武器を隠し持っているような動きだった。おそらく彼女も同業者なのだろう。

 

「なんでわかったの? これでも気配を消すのには自信があったのだけど」

 

「まぁ勘です」

 

 嘘は言っていない。たしかに半分はボンゴレの超直観のおかげなのだが、普通に考えればこの昼休みに屋上に人ひとりいないというのもおかしいのだ。このいい天気なら誰かしら某風紀委員のように昼寝でもしててもおかしくない。それなのに人の気配が全くしないということは逆に違和感があった。そして疑いをもった時点であとは超直観が教えてくれる。機械すら騙す幻術でさえ見破る彼の直観からは疑われた時点で逃れることなどはできない。

 

「それがボンゴレの超直観というやつですか」

 

「ゲッ、こいつボンゴレファミリーの回し者なわけ?!」

 

 後ろから鶫が扉を開けて入ってきた同時に口を開いた。声音は落ち着いているが体から出る殺気は抑えきれていない。ギラギラと揺らめく彼女のオーラはとても攻撃的だった。それにつられてか白い女の子も再び戦闘態勢に入る。

 

「で、なんでポーラがこんなところにいるんだ?」

 

「さぁなんででしょうね、黒虎」

 

 バチバチと早くも闘志前回の二人に挟まれあわあわと当惑する。どうしてこうもこちら側の人間は血の気が多いのが多いんだろうか。

 

「あのーオレ話し合いにきたんですけど」

 

 綱吉としてはできるれば関わりたくはなかったのだがそういうわけにもいかず口をはさんだ。すると鶫の視線がギロリとこちらに向き、ポーラに向けられていた敵意もすべてこちらに向く。対照的にポーラは警戒を解いたようだ。どこかへそを曲げているように見えるのはきっと気のせいだろう。

 

「屋上で待つというのは果たし合いということではないのですか?」

 

 有無を言わさぬ様子の鶫が言葉を返す。どうやら聞く耳を持っていないようだ。綱吉としては正直戦いたくはなかった。そこそこの手練れに見えるし、同世代の女の子相手となるとどうにもやりにくい。

 そもそもなぜこんなにも敵意むき出しなのかわからなかった。リボーンの話だと両組織には大使を使って事前に話は通しておくとのことだったはずなのだが……。いろいろ考えつつとりあえず戦いを避けるべく一つの結論を出た。できればあまりこういうことはやりたくはないのだが仕方がないと無理やり自分を納得させる。

 

「これで納得してもらえませんか?」

 

 綱吉はポケットに入れておいた大空のボンゴレギアをつけて見せる。大空のリングにはかつての大空のボンゴレリングの面影が残っており、ボンゴレとはっきりと刻まれている。

 

「これは、まさか?いやでもこんなもの偽装できるはずは……」

 

「なに? どうしたの?」

 

 鶫は全てを理解したのかうろたえている。逆にポーラはまだ理解できていないのかうろたえる鶫に困惑していた。そこで改めてこれが示す意味を口にすることにする。

 

「改めて自己紹介しますね。ボンゴレ十代目候補沢田綱吉です。」

 

「十代目候補ぉ?そんなわけーー」

 

「ポーラ、それ以上はやめとけ。彼の手にボンゴレリングがある以上嘘であるとは考えられない」

 

 食ってかかろうとするポーラを口で制す鶫。それでもポーラは納得できないらしく声を荒げる。

 

「そのリングが本物なんて保証はないでしょ。それにいくら候補とはいえこんな子供に……」

 

「かのボンゴレリングの偽物など身に着けているところを見られてみろ、ふざけていましたではすまんぞ。それに私たちと同世代のボンゴレ十代目候補がいるとクロード様に聞いたことがある。どこかで見たことがあるとは思っていたがまさかな」

 

 鶫のまくし立てるような言い方に思わず言葉を失うポーラ。ようやく状況が理解できたようである。鶫の言うようにボンゴレリングはボンゴレ関係者からすれば守護者とボスを示す証であり、何人であろうとそれを愚弄することなど許されない。形が変わったとはいえVGも同様であり、偽物など身に着けていようものならば消されても文句は言えないのだ。

 

「デーチモ、これまでの我々の無礼な発言をお許しください」

 

「いやいやそこまでかしこまらなくていいですよ。まだ継いだわけじゃないですし」

 

 膝をついて頭を垂れる鶫に対して狼狽する綱吉。どうにもこう畏まられると逆にやりにくい。

 

「そういうわけにはいきません。そのリングが後継者の証ではないですか」

 

「まぁそうなんですけど、今は立場とかいいんで」

 

 それでも食って掛かる融通の利かない彼女に少しのデジャブを覚える。ああ、獄寺君もこんな感じだったなとしみじみと思う綱吉であった。でも今は立場とか抜きに友好関係を築きたかった。正直このままだと色々とやりにくいし申し訳ない気分になる。

 

「ここではそういうの関係なくいきませんか。表向きは一般市民ってことで転入してますし」

 

「しかしーー」

 

「いいですから、ね?」

 

 それでも何か言いたそうな彼女強引に説き伏せ手を差し出す。綱吉はあくまで対等ということを示したかった。態度からそれを理解したのか立ち上がり渋々軽く握手を交わしす。

 

「わかった。善処しよう」

 

「どうでもいいけど本題に入ってくれるー?」

 

 振り返ると暇を持て余したのか寝転がっているポーラがいた。どこから持ってきたのかわからないがポテチを開けて完全にオフモードである。先ほどまでの威勢はどこにいったのか。今ではただの年相応の女の子が自室でだらけているようにしか見えない。

 

「めっちゃくつろいでる?!って言っても本題終わったんですけど」

 

 あははとあどけなく笑う綱吉の姿はポーラからはどこからどう見ても普通の学生にしか見えなかった。わざわざここに呼び出しておいてそれだけなんてはずはないだろうがこの少年だと本当にそれだけかもしれない。こちらの所属やらここにきた目的やらいろいろ話しておいた方がいいことは多いだろうに。そもそもポーラはいまだに綱吉が十代目なんて信じられなった

 

「……ねぇこいつ本当にデーチモなわけ?」

 

 その疑問は自然に口からこぼれた。この時点でポーラは綱吉のことが気に食わなかった。裏の住人の癖にどこか抜けた態度といい、甘々な考えといいただの餓鬼にしか見えない。何より憧れの黒虎がこいつに謙っているのも納得いかない。

 

「やめろ、ポーラ。ボンゴレと対立してみろ。うちが無事で済むわけないだろう」

 

「でも仮に本当にボンゴレなら私たちに事前に話が来てそうじゃない?」

 

「え? 話されてなんですか? 一応話は通してあるって聞いたんですけど」

 

「私は聞いてない」

 

「私も聞いてないな」

 

 綱吉は疑いの目を向けてくる二人の発言に思わず驚いた。確かに今回の件は基本的には修行という名目で本人に一任されてはいる。決して事前に話を通すところまでは任されていない。しかしあのリボーンが任務を忘れるなんてこともないだろう。だとすれば大使に何かあったか何らかの理由で組織内での連絡ミスがあったかということになる。初日から思わぬトラブルで頭が痛くなった。

 

「ま、まぁこちらの連絡ミスの可能性もある。あとで上のほうに聞いてみよう」

 

「すいません。お願いします」

 

 頭を悩ませる綱吉を見かねて鶫が慌ててフォローを入れてくれた。とにかく今の状況をはっきりさせる必要がありそうだと思い綱吉も頭を切り替える。

 

「で、デーチモ様はなんでこんなところにいるのよ」

 

 はぁと溜息をついて厭味ったらしく聞いてくるポーラ。確かに向こうとしてはそれがはっきりしないと色々と困るのだろう。傍から見ればただの縄張りを荒らしに来たようにしか見えない。しかし、それならば綱吉としては聞いておかないといけないことがある。

 

「いいですけどその前に君たちの所属を教えてもらえませんか?」

 

 今更ながらもっともな疑問である。こちらが名乗った以上相手の情報を一応聞いておかないといけない。どこの組織の誰なのか。ウラはどちらにせよ取るが確認するかしないかの違いは意外と大きかったりする。よく考えればこの二人が今回の騒動の中心組織に属しているとは限らないのだ。多少成長したとはいえこういう場面だとまだまだ年相応の対応しかできていないことに気が付き少し悔しい。

 

「私たちはビー「待って」」

 

 鶫が言い切る前にポーラがそれを遮った。その表情に悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。一瞬でそれの意味を理解した鶫が止めようとするもポーラが手で制した。

 

「それって拒否したらどうなるのかしら」

 

「うーん。それは困るんですが」

 

「あら力づくで聞くようなことはしないのね」

 

 残念だわとわざとらしく顔をしかめる。しかしその目に闘志の色はめらめらと燃えている。その瞳はボンゴレの雲の守護者のような戦闘に対しての貪欲さというより子供らしい好奇心に満ちていた。殺気も少しずつ漏れ始め、明らかに戦闘態勢に入ろうとしている。

 

「俺争い事は嫌いなんですけど……」

 

「苦手の間違いではなくて?」

 

「ポーラ!!」

 

 煽るポーラに対して我慢の限界に達した鶫が止めに入る。しかし捕まる前にすぐさまその場からジャンプして退避するポーラ。それに対して同じように跳躍してポーラのあとを追う鶫。二人とも屋上を縦横無尽に駆け巡るもこの追いかけっこは中々終わりそうにない。捕まえようにも体格の差のせいかスピードにおいてはポーラの方に分があるようだ。

 

「よく考えて見なさい、黒虎。私たちと同年代のデーチモがどこまでやれるか知りたくない?」

 

「興味がないと言えばうそになるが組織のためにもここは抑えてくれ。万が一傷をつけでもしたら……」

 

「そん時はそん時よ」

 

 2人の追いかけっこは金網を倒して足場を奪ったり、煙玉で視界を奪ったりと徐々に激しさを増していく。そしてついに鶫が隠し持っていた拳銃を抜き、それにつられてポーラも同様に自分の獲物を構える。サイレンサーを付いてはいるとはいえ徐々に屋上に被害が出始めていた。最初は一応周囲に気を遣う気はあったのだろうが気が付けば本気の撃ち合いになっていた。鶫の銃弾による複数の牽制によりルートを絞られるも、ポーラもまた拳銃で鶫を近づけないように牽制する。

 流石に黙認するのも限界に達し隠し持っていた死ぬ気丸を飲みXグローブを装着する。額に炎を灯しこちらも戦闘態勢に入る。

 

「しょうがないから相手してやる。だからこれ以上屋上を壊すな」

 

 声を張り上げて二人を止めようとする。しかしすでに二人とも当初の目的を忘れつつあった。お互いに瞳には相手しか目に入っておらず、すでに相手を倒すことしか考えていない。これ以上の破壊行為はもみ消すのも大変だろうし、早く止めなければならない。そして深く溜息をつき、グローブを構えた。

 

 

 一方でポーラ達はそんな綱吉のことを気にも留めていたなかった。何か言っているようだがすべての意識が後ろの黒虎に集中していたためよくわからない。

 黒虎と白牙の異名を持つ二人はお互いにお互いの実力は認めている。だからこそ遊びとはいえ負けたくなかった。

 互いの着地点めがけて同時に放たれた銃弾は同じタイミングで交わされる。再び自由の利かない空中戦となるも互いに体を翻し羽が生えているかのように弾の雨を交わしていく。しかし、やはり黒虎の異名は伊達ではないのか着地と同時に一発の弾丸がポーラの肩をかすめた。

 冷やりと嫌な汗が噴き出る。死のにおいをわずかに感じたことでポーラの神経がまた一段と鋭くなる。

 素早く立ち上がると鶫の放つ足元へ来る弾丸をあえて距離を詰めるように紙一重でかわし、先ほどよりも狭い間合いで発砲する。リスクを冒した彼女の行動に虚を突かれるも、後ろに退避し距離を空けようと試みた。しかしポーラはそれを許さない。引きながら放たれる弾丸を鶫の視線から狙いを逆読みしかわし続ける。鶫はそのまま捨て身のポーラに押され壁まで追い込まれた。

 が、鶫も簡単に終わらない。銃のシリンダーを変えるように見せかけて煙玉を落とし目をくらませ、宙返りでポーラの後ろを狙った。

 だが、鶫が後ろを取った時点で彼女は息を飲んだ。視線を落とすと足元にはあるはずのない手榴弾が転がっている。おそらく彼女の手を先読みしたポーラが予め投げておいたものがはまった結果だろう。

 現状を理解した瞬間、彼女の世界は一瞬とまりものすごい勢いで脳が回避方法を弾き出そうとする。しかしどうしたってこの距離では彼女にできることはなにもない。鶫は負けを悟り、ポーラが勝ちを確信した瞬間だった。

 

「返すぞ」

 

「へ?」

 

 顔を上げるといつの間にかにポーラの目の間には先ほど投げたはずの手榴弾らしきものがあった。今度はそれを見たポーラが息を飲む。とっさに顔をそらし全身を強張らせ爆発に備える。しかしいつまでたっても爆発はしない。おかしいと思い恐る恐る目を開くと先ほどまで雰囲気の変わった沢田綱吉が凍った手榴弾らしきものを持って目の前に立っていた。

 

「いつの間に……」

 

 目前のなぜか凍った手榴弾を見て命を拾ったのを察し全身の力が抜けて腰をついた。危機が去ったの実感しホッと一息つくも、それと同時に怒りがこみ上げてくる。こちらはこれでもプロのヒットマンなのだ。こんな平和ボケしそうな子供に情けをかけられたことが彼女のプライドを傷つけた。

 奥歯をかみしめ立ち上がり、すぐに銃を構えなおし距離を取りながらばらまくように発砲する。殺意のこもった弾が綱吉に向って飛んでいく。急所を狙う弾丸と牽制を狙う弾丸は着実にこちらの逃げ場を狭め、かわすことを困難にする。いくら感が良くともこれはかわせないとポーラは腹をくくっていた。が、かわせないのならば受け止めればいいだけである。綱吉は目を見開き直撃コースの弾丸だけ目にもとまらぬ速度でつかみ取る。

 

「うっそ……。」

 

 パラパラとグローブから落ちる弾丸を見て思わずポーラの口から彼女の心情がこぼれていた。まさかかわすどころか掴まれるとは思わなかったのだろう。しかし、思考停止もわずかの間で回復し、改めて狙いをつけようとする。だがすでに勝負は決していた。狙うはずの標的はすでに彼女の正面にはいない。思考停止している間に見失うことなんてあるのだろうか。焦る気持ちを隠しつつ視界を見まわすも彼の姿は見当たらない。

 

「こっちだ」

 

 思わず振り返るとグローブが目の前に迫っていた。そして彼女の鼻先をかすめる寸前で止まる。びゅんと風を切る音がこのこぶしの威力を彼女に教えていた。

 

「降参よ」

 

 両手を上げへなへなとその場にペタンと座り込む。さすがのポーラも実力の差を完全に理解したようで完全に脱力している。一人が降参したので視線を鶫に移すと見ていたはずの鶫も口を開けて呆然としていた。手をくいくいとやって戦う意思を確認するも首を振り両手を挙げて降参の意を示す。そうして二人の無力化を確認して綱吉もようやく死ぬ気状態を解いた。ぷしゅーと橙の炎が額から消え元の沢田綱吉に戻る。ようやくこの戦いが終わった。

 

「まさか黒虎以上の化け物がいるとはね」

 

「どうやったらそこまでの力を……」

 

「まぁそこは企業秘密?だからさ。ごめんね」

 

 手を合わせ申し訳なさそうに謝る彼に気が抜ける二人。とても先ほどまでの動きをした青年には見えなのがどこかおかしくて座り込んだ彼女たちに思わず笑みがこぼれる。それにつられて綱吉も照れくさそうに笑った。

 

「ビーハイブのポーラよ」

 

「同じく鶫だ」

 

「ボンゴレの綱吉です」

 

 改めて綱吉も自己紹介しポーラに手を差し出す。一瞬理解できずに顔をしかめるもすぐに理解し手を取る。鶫にも同様にしようとするもその前に立ち上がっていた。

 

「ねぇ、あんたも敬語やめなさいよ。こっちも普通に接するから」

 

「あー、じゃあそうしようかな」

 

 またポーラに何か言いたそうな鶫だが綱吉がそれをいいからと宥める。そしてコホンと咳払いをし本題を切り出した。

 

 「えっとオレがここに来た理由だよね。二人ともこの町の状況はわかっているかな?」

 

 「ああ、うちと集英組のことだろう」

 

 あまり深くは語らないが鶫の言葉の意味はそれだけで伝わってきた。申し訳なさそうにしているのは彼女としてもこの戦いはあまり望んでいないからなのだろうか。しかしやはり彼女たちは今の変わりつつ状況を知ってはいなかった。

 

 「そう、じゃあここに第三勢力が加わりかもしれないのは知ってる?」

 

 「まさかボンゴレがこの抗争に参戦するなんて言わないでしょうね」

 

 露骨に嫌な顔をするポーラ。ボンゴレと言えばヨーロッパ全土を牛耳るマフィアの中のマフィアだ。いくらビーハイブとはいえ抗争すれば大きな損害を受けることは避けられないだろう。

 

「いやいや、そういうのじゃないから。何度も言うようだけど争い事は嫌いなんだよ」

 

「そ、そうだぞ、ポーラ。第一仮に沢田がボンゴレからの刺客だとしたら先ほどの戦闘で二人とも消されてもおかしくないんだ。信用してやらんと」

 

「そういいながらこっそり銃に手をかけるのやめてくれないかな……」

 

 一見フォローしているように見えて全然フォローになっていない鶫にげんなりする綱吉。彼の超直観は制服のそでに隠してある銃にこっそり指をかけていることでさえ見抜いてしまった。だが、彼女たちからすれば無断で縄張りに侵入した綱吉が怪しいと感じるのは無理もないことである。

 

「すまん」

 

「こちらこそ紛らわしくてごめん」

 

 手をかけたのは半分無意識だったらしく指摘されるとしおらしく謝る鶫につられて綱吉も思わず謝ってしまった。きっと死線を潜り抜けてきた彼女の本能がそうさせたのだから仕方がないのだろう。

 

「で、第三勢力ってなんなの?」

 

「二人はディッルって知ってる?」

 

「ディッルーーアフリカ語で影みたいなニュアンスだったか? 私は知らないな」

 

「あークロード様が言ってたのそのことだったの」

 

 なるほどと一人納得しようとしているポーラにすかさず鶫が食いつく。

 

「なにか知ってるのか?」

 

「私はクロード様からディッルの動向を探るように言われてここに派遣されたのよ」

 

「私はそんなこと聞いていないのだが」

 

「確定情報じゃないからね。今の状況だと何がトリガーになるかわからないんだからウラが取れるまでは教えたくなかったんじゃない」

 

 ぐぬぬとそれでも納得のいかなそうな鶫と対照的にポーラはすっきりとした様子だった。鶫としては千棘の護衛としてたとえ未確定とはいえそういう危険分子の情報は耳に言えれておきたかったいのだががクロード様が伏せていたのならしょうがないと渋々納得すせざるを得ない。

 

「でもデーチモがそういうからには確定情報なのよね」

 

「うん。確かに狙ってはいる。だけど、あっちとしても正面からはやり合いたくはないみたい。今のところはあくまで漁夫の利を狙うスタンスかな。あとデーチモはやめて、聞かれたら困るし」

 

 知ってる情報を共有しつつちょっと困ったようにお願いする綱吉。

 綱吉自身まだ継いだわけでもないのにその呼ばれ方はどこか気持ち悪いのであまり好きではなかった。

 

「じゃあなんて呼べばいいのよ」

 

「ツナでいいよ」

 

「ツナね。わかったわ」

 

 ニッと笑うポーラを見て不思議そうに鶫がそれを見ていた。彼女が人の名前を覚えようするのが初めて見たように思える。基本的に他人に興味がない彼女は人の名前を覚えようとはしないのだ。鶫自信名前で呼ばれたことはほとんどなく覚えられているのか疑問なラインだった。

 

「ポーラが名前を覚えるなんて珍しいな」

 

「その言い方だと私がお馬鹿さんみたいになるからやめてくれないかしら」

 

 ポーラはそう言って心外だと言わんばかりにムッと起こる。鶫としては軽い冗談のつもりだったが予想外に気にしていたらしく少しポーラに申し訳なくなる。

 

「すまん。まさかそんなに気にしているとは思わなかった。私の名前も黒虎としか呼ばないからその手のことが苦手とばかり」

 

「そうでもないわよ。友達の名前くらいちゃんと覚えてるわ、ツミレ」

 

「いやそれだと肉団子なんだが」

 

 真面目な顔してボケをかますポーラに思わず鶫の突っ込みが入る。鶫の突っ込みに対しておかしいなーと言ってうんうんと唸るポーラ。確かに鳥の名前だが勝手に肉団子にされては困る。ちゃんと覚えているとは一体なんだったのか。

 

 「つ、つ、つくね?」

 

 「それも肉団子だろ」

 

 「思い出した!グミ!」

 

 「思い出したってやっぱり覚えてないじゃないか!」

 

 「どうでもいいけどなんかおなかすいてきたわね」

 

 「どうでもよくないわ!」

 

 そんなどうでもいい漫才をかます二人を見て綱吉も楽しんでいたのだが残念ながら時間は有限だった。時計をちらりと見るとすでに一時を回っている。綱吉年は昼休みが終わる前にこの話を済ませたいので名残惜しいものの口をはさんだ。

 

 「あのーそろそろ話し戻してもいい?」

 

 「すまん、話がそれた。で、ティッルがここを狙っているのはわかったが、沢田がここにいる理由は結局なんなのだ?」

 

 「俺は緩衝材みたいなものだよ。ティッルとしては何とか抗争を引き起こして漁夫の利を狙いたい。そこで自分たちの影をあえてちらつかせて抗争を引き起こそうとしている。比較的規模の小さい集英組なんてビーハイブとティッルとの連戦は避けていだろうからね」

 

 「あーつまり、集英組はティッルの準備ができる前にうちだけでも片づけてしまおうって考えになるかもしれないわけね」

 

 「うちもティッルに先を越されないように無理に攻め込むということも考えられなくもないな」

 

 ふむふむと顎手をあてて可能性の洗い出しを行う二人。綱吉としてはあっさり理解してくれたので助かるところなのだが自分が理解するのに時間がかかったことをこうも簡単に理解されると少し複雑な気分になった。

 

 「しかし、考えようによってはティッルの危険が引くまでお互いに守りを固めるという線もないか?」

 

 「その場合でもティッルがどちらかに成りすまして刺激するなりしてやりようはあるんじゃない。お嬢様か一条楽が何かあったらその時点でこの膠着状態は終わるわよ」

 

 鶫がもっともらしい疑問を口にするもあっさりポーラに切り捨てられる。お互いの跡継ぎに何かあったとなればさすがにどちらの組織も黙っているわけにはいかない。組織の体面をかけて危害を加えた敵対組織に制裁を加えに行くだろう。

 

「そう。だからオレはその二人の護衛役でもある」

 

「それに加えてボンゴレが参戦するかもしれないっていう牽制もかねているわけね」

 

「なるほど、それでわざわざ沢田が派遣されてきたのか」

 

 2人ともようやく合点がいったようだ。綱吉は見た目は学生でも一応はボンゴレの若頭みたいなものである。鶫のようなヒットマンでもうっすらと顔を覚えられる程度にはウラの世界では顔が売れてきていた。真偽はどうであれボンゴレ十代目がいるところなんて襲えばボンゴレにケンカを売ることになりかねない。

 

「まぁそんな感じかな。オレとしてはできるだけ平和にいきたいから君たちとも協力していきたいんだけどどうかな?」

 

「心得た。むしろ沢田ほどの実力者ならこちらから協力を申し込みたいくらいだ」

 

「私も構わないわよ」

 

 2人ともあっさりと提案を受け入れてくれた。とりあえずビーハイブとの連携はこれで取れそうだ。話がついていないならばこれから早急に話し合う必要があるだろう。綱吉は一つの問題が片付きそうでようやく胸をなでおろす。

 

「よかった。じゃあオレは一条楽の護衛を中心にやるから。桐崎さんの護衛は今まで通り鶫、お願いね。女の子同士の方がいろいろやりやすいだろうし」

 

「じゃあ私も一条楽の護衛にまわるわ」

 

「「え?」」

 

 ポーラの提案が予想外だったのか二人とも目を丸くする。その顔に腹が立ったのかポーラの顔が不機嫌そうに変わった。鶫はもちろん綱吉としても彼女がそういう提案するようにはとても思えなかったのだ。短い時間ながらマイペースで子供っぽいキャラクターなのだと綱吉は認識していた。

 

「なによ、あんたまだこっちの世界に入って日が浅いんでしょ。護衛っていうのは意外と難しいし、私がサポートに入るわ」

 

 ふんと鼻を鳴らし顔を背ける。どうやら彼女なりに綱吉を気遣った提案だったらしい。正直綱吉としてもこの提案はありがたい。そもそもリボーンや仲間たちがいない単身で仕事をこなすというのははじめてなのだ。ボスを継ぐ前に一種の裏社会勉強だとリボーンに言われあれよあれよという間に今日まで来てしまったため色々と準備不足なのはいなめない。

 

「じゃあお願いするね。ポーラ」

 

「ええ、私に任せなさい」

 

 胸を張る彼女に頼もしさを感じる。が、それ以上になぜか不安を感じるのは何故だろうか。彼女の隣の鶫が何とも言えない顔をしているのがますます嫌な予感を裏付けようとしていた。やはり自分ひとりでやろうかと考えていると昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響く。

 

「じゃあとりあえず解散で。これ連絡先だから。なにかあったらこれで連絡して」

 

 考えるのをいったん切り上げて急いで屋上を出ようとする。その前に二人にラインのIDを慌てて手渡す。そうして沢田たちはどたばたと屋上を後にし、屋上での若きヒットマンたちの会合は終わる。彼らの青春交響曲の幕が上がろうとしていた。

 

 




初投稿のせいか気がつけば15000字近くまで行ってしまった

バトル二つもいれるからこうなるんだよなぁ
次はもうちょいまとまった感じで書きたいと思います

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