私の名前   作:たまてん

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グランドオーダー二次創作です。
注意・新宿編ネタバレを含みます。
推奨は本編を終了してからです。
それでもよければ、どうぞよろしくお願いします。
最後にまた一言。

……新宿最高でした、本当にありがとうございます。


『私』と踊れ

「……それで。新宿で何があったのよ?」

 

 

ーーそうにらみをきかせて。

 

目の前に立つ白髪の英国人に、ジャンヌは尋ねる。

 

廊下を歩いていると、彼ことジェームス・モリアーティの姿が見えた。

 

先日カルデアにきたばかりの新人サーヴァント。

 

新宿では、同じくそこにいた別のジャンヌと途中までは共闘、最後は敵対したという犯罪界のナポレオン。

 

そんな男に、ジャンヌは尋ねたのだ。

 

新宿で起きた出来事のあらましを。

 

しかし、先日起きた事件の犯人様は「はて?」と首を傾げるだけ。

 

その反応に、少女はさらに苛立ちを露にする。

 

「だ・か・ら!私がいない間、新宿でマスターに何があったんだって聞いてんのよこのアラフィフ!」

 

「……何と言われても困るな。第一、新宿の私と今の私は違うわけだし、そこについての記憶はあやふやだ。そもそも、マシュくんからあらかた聞いているのではないかね?」

 

モリアーティの指摘に、ジャンヌは「ええそうよ」と頷く。

 

「けど、絶対それだけじゃないのよ。なんか他にあったのは確かなのよ」

 

「ほうほう。ーーしかし、何故そんなことを君が知りたがる。私から見た君という人物は『終わりよければ興味なし』という感性の持ち主だと思っていたが」

 

「勝手に人を観察して勝手に貴方の基準で判断すんなーー新宿の件自体に興味はないわ。私が気になるのは他のことーーここ最近の、マスターの行動が変ってこと」

 

「変、とな。それは具体的にどういった行動を指しているのかネ?」

 

モリアーティが尋ねると、そうねと顎に手をあて、ジャンヌはマスターの近況を報告する。

 

ーー大きな変化は二つ。

 

まず一つ目。

 

本を読むことが多くなった。

しかも何故かダンスに関するものばかり。

そのせいで、マスターと会話する機会が少し減ったという。

 

ーー二つ目。

 

自室でステップの練習をする。

しかも練習をするとき、ジャンヌは追い出されるかいれてもらえない。

 

しかもどちらからといえば、彼女から隠れてやっていることが多いらしい。

 

 

以上を聞いた教授はなるほど、と頷く。

 

それからジャンヌに向き直り、えらく真剣な面構えで言った。

 

「ーーつまり、マスターに構ってもらえずさみしいというわけかネ?」

 

「なんでそうなるのよっ!」

 

顔を赤く染める少女が放った一閃を、紳士は慣れた動作で受け流す。

 

……何故かは知らないがこの少女の攻撃(あとアルトリア)を避けることに関しては身体が勝手に動くのだ。

 

どうやら霊基に染み付くほどの思い出があるらしい。

 

「ーーてゆうか隠れてやるくらいならもう少しうまくやれっての。半端にわかるから気になるじゃない」

 

「それは君が彼のプライベートルームにさも当然のように踏み込んでいくから隠すもなにもないのでは?」

 

「あぁ?何か言ったかしら?」

 

「別に何も言ってないヨー」

 

ぎらりと刃物をちらつかせる少女に、老人はそう答える。

 

ーー今時の若者こわい。

 

「……まぁそれらはおいといておくとしてだ。彼の不可解な行動の原因には、少々心当たりがある」

 

「へぇ?なら聞くけどその原因はなにかしら?」

 

「……ではお答えしよう」

 

すると、彼はぴっ、とジャンヌを指差す。

 

それから自信満々な風に、彼女に告げるのだった。

 

 

「ーー犯人は君だ」

 

「…………はぁ?」

 

 

何言ってんのアンタ?と彼女は顔をしかめる。

 

しかし当のモリアーティはジャンヌのことなど気にせず「一度は言ってみたかったんだよネ!」と一人で勝手にご機嫌だった。

 

「ちょっと!?ちゃんと説明しなさいよ!」

 

「別に説明するほどのことではないと思うのだがネ。理由は単純なことだ」

 

「……アンタやっぱり知ってんの?」

 

「いや知らん。だが概ね検討はついた。マシュくんから聞いたのだろう?少しの間、彼がモニターに映らなかったと。それと君の話を照らし合わせれば……いやこれ以上は私が語るべきではないかナ。あとは彼に聞きなさい、オルレアンの竜の魔女。まぁ安心なさい。どう転ぼうが、『ジャンヌ(きみ)』は悪い思いをしないだろうさ」

 

それだけ言うと、かの紳士はさっさと立ち去っていった。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

……確かに、あの紳士のいう通り、回りくどいのは面倒だ。

 

気になるなら直接聞きにいこう。

 

そう思い立ったがゆえに、現在ジャンヌはマスターの部屋の前まで来た。

 

……一応何度か聞いてはみたのだ。

 

だが彼は「ひみつだよ」と答えるだけ。

 

しかし、今回ばかりははぐらかせない。

 

必ず、問いただしてやる。

 

 

「……入るわよ」

 

そう一言断って、けれど返事などは待たずにジャンヌは部屋の扉を開ける。

 

「……あれ?ジャンヌだ。いらっしゃい」

 

ーーそこには、予想通り能天気な顔。

 

自身のマスターが、椅子に腰掛け本を読んでいる姿。

 

……相も変わらず、緊張感がないわねよねコイツ。

 

いきなり入ってこられても慌てることはなく、彼はむしろ嬉しそうにジャンヌを歓迎した。

 

「……また読んでるのね、それ」

 

「え?ああ、うんまぁね……」

 

言いながら、彼はちょっと目をそらす。

 

……やっぱり言うつもりはないみたいね。

 

そうは行くか、と彼女は口を開いてーー直前に、あることを思い付いた。

 

「どうしたの、ジャンヌ」

 

「ーー教えてあげましょうか?」

 

え、と彼はポカンとする。

 

こほん、とジャンヌは咳払いをする。

 

「……だから、ダンス。私も多少は出来るから、教えてあげるわ」

 

 

……言え言えと脅すよりは、この方が効果的だろう。

 

それに彼と踊るのだって……まぁ悪くはない。

 

ジャンヌは提案に、マスターはしばし呆然となる。

 

それからにこりと、彼は笑った。

 

……ここまでは、ジャンヌの予想通り。

 

「ありがとうジャンヌーーでもいいや。自分一人で練習するよ」

 

ーーこれは予想外。

 

まさか断れるとは思っていなかったジャンヌは、唖然として固まった。

 

「……ってちょ、冗談でしょう?私が踊ってあげるって言ってるのよ!?」

 

「うん。すごく嬉しかったけど、まだ駄目だ。だって、もっと上手くなったらって約束だし」

 

「けどアンタねぇ……『約束』ですって?」

 

聞き返すジャンヌに、彼はあ、と口を開けた。

 

しまった、という顔。

 

「……ねぇ貴方。この間の新宿で何があったのかしら?ーー主に、新宿の私とだけど」

 

「ーーひみつなので、これ以上は語りません」

 

汗を流しながらも、目をそらす少年。

 

……それが答えみたいなもんでしょう。

 

そうジャンヌは嘆息した。

 

ーーなるほど、大体読めた。

 

具体的なことは無論わからないし、何があったのかは彼が語らない限り想像の域を出ない。

 

ただひとつだけ確かなのは。

 

ーー新宿の私も、相当コレが気に入っていたらしい。

 

……まったく、まさか二人して骨抜きにされるとは。

 

いささか以上に恥ずかしさを感じる少女であった。

 

ーーそんでもってこの男は。

 

ご丁寧にもそっちの私との『約束』とやらを守っているわけだ。

 

「……馬鹿ね、ほんと」

 

思わず、少女は言葉を漏らす。

 

だってそうとしか言いようがない。

 

 

あっちはあっち、こっちはこっちと区別しているのに、それでいて二人のジャンヌ・オルタとも両方と仲良くしようとしてる。

 

 

なんてお人好しで、強欲な男。

 

 

……だがまぁ、あの紳士のいう通り。

 

ジャンヌ・オルタ(わたしたち)』という存在が大事にされてるのは事実だから、悪い気分ではない。

 

「……いいわよ。なら、貴方が上手くなったら踊ってあげるわ。それでいいんでしょう?」

 

すると、途端にぱぁと明るくなるマスターの顔。

 

ーーコイツは子犬かなにかなのか。

 

一言一言でコロコロとテンションが変わる。

 

しかし、とジャンヌは思う。

 

ーーこれでは少々、こちらのジャンヌに対する扱いがおざなりに感じる。

 

同じと定義するなら、こっちももっと大事にするべきだ。

 

ーーつまり、何が言いたいのかというと。

 

新宿の私ばかり優遇されるのはおもしろくないってこと。

 

だからーー。

 

「……その代わりマスター、こちらに来なさい」

 

「え。あ、はい」

 

歩みよってくるマスター。

 

近づいて立ち止まる男の頬に、少女は手を伸ばす。

 

やわらかくて、ほんのり暖かい、彼のほっぺた。

 

「ーー私を敬うのはいいことよ。これからも、それぐらい謙虚でいなさい。……だけどね」

 

ぐい、と少女は彼の胸元を引っ張った。

 

思わずマスターの姿勢も崩れる。

 

そうして、少女は彼の顔を寄せる。

 

ーー自らの口元へ。

 

 

「ーーここにいるのは『私』だってこと……忘れるんじゃないわよ」

 

 

ーー改めて。

 

彼を守ってくれてありがとう、新宿の私。

 

そしてどうやら、その『何か』についてはそっちに先を越されてしまったみたいね。

 

けど、ざんねぇん。

 

それでも、『私』は負けてないわ。

 

だってほら。

 

 

やわらかくて、暖かな彼の感触は。

 

 

 

ーーこの『私』だけの特権なんだから。

 

 

 

 


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