私の名前   作:たまてん

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グランドオーダー二次創作、ぐだ邪ン時空でオルタさん三人のお話です。今回は暴走ギャグです。キャラクターや設定は作者独自の解釈を含みます。
よろしくお願い致します。


オルタ生活の始め方

「……というわけだ。これより新入りオルタ歓迎会を始めるぞ」

 

言葉と共に、少女はグラスを掲げる。

深くて濃い、鮮やかな赤。

薄く透明な一枚を隔て芳醇な香りを漂わせながら、蕩ける真紅は真白い指の中で踊る。

不敵に不遜に歪められた彼女の口元は、人の上に立つ者独特の高慢さを滲ませている。

目前にすれば、誰しも嫌でも理解させられることだろう

椅子に腰を下ろし笑いかけるこの女性こそ、暴君と畏敬の念を向けられるべき存在であると。

塵芥を傅かせる漆黒に、逆らう色などあるはずがなかった。

 

……同色にして亜種の、ほかの『漆黒』たちを除けばの話だが。

 

「……何が『というわけ』なのよ。主語を話なさい主語を」

 

そう言ってぺちぺちと自ら座るソファのひじ掛けを連打するのは、床まで届くほど灰色の髪を伸ばした少女。

黒いドレスの上から全身に蔦のように絡む鎖。

それは彼女が業火に身を焼かれた際、自らを縛り痛め続けた忌むべき拘束具。

けれどそんなものに巻かれながらも災厄の魔女はわずかも陰りの表情を見せず、むしろぐりぐりと指で弄びながら退屈を紛らわせていた。

まぁその苛立ち交じりの声を聴けば、全然紛らわせられてないことは明白だが。

 

「……相変わらず察しの悪い女だな。もう少し空気を読む努力をしたらどうなんだ?」

 

暴君が大きくため息をつく。

しかし魔女は悪びれず「アンタに気遣ってやる道理はない」と舌をべっと出した。

 

「てか、いきなり呼び出しておいて何の説明もない方がおかしくない?義務とか道理とか言うならまずアンタの方でしょ?」

「そんなもの、先ほどの『オルタ歓迎会』とそこの客人を見ればわかることだろう」

 

言うと騎士王はくいくいと横向けた親指でその『客人』を指し示した。

アルトリア・オルタが中心に位置し、ジャンヌ・オルタが右隣に腰を下ろす。

残る方向は左側。

そこに入るのは……第三にして最後の『黒』いサーヴァントだ。

……肩口で切りそろえられた灰色掛かった白髪、黄金色に輝く双眸。

それらの容姿は、二人のいずれかの特徴に通ずるものがあった。

しかし肌の色は、蝋や雪を思わせる二人と異なり、やや暗い褐色。

それはまるで炎で焼いたように赤く黒く、今でも熱を帯びていそうな肌

加えて彼女の纏う服はこの中で唯一の和を思わせるもの。

手に持った酒器もワイングラスではなくおちょこであり、無色の小さな水面に唇を落として傾けている。

そして一気に飲み干した後にほぅと息を吐いた彼女は、じっと見つめてくる自分と同じ色をした二つの視線に気づく。

 

「――すまない。まだ食べ始めてはいけなかったか?」

 

そう小首を傾げたのは、魔人にして魔神の剣士――沖田総司・オルタ。

先日カルデアに来たばかりの、第三の反転サーヴァントである。

まぁ例によって彼女も単純に『沖田総司』の裏返しというわけでもないのだが。

不安げな彼女に対し、アルトリアは「構わんさ」と苦笑する。

 

「もともと貴様の歓迎会が主なんだ。好きなように食べてくれ。ほら、おでんもあるぞ。日本酒のおかわりもいれてやろう」

「そうか。ではご厚意に甘えさせていただこう」

 

差し出されたほかほかの皿を手に取り、褐色の沖田は頭を垂れる。

それから空になった酒器に並々とついでやると、王は再び自らのグラスを掲げた。

 

「では仕切り直しと行こうか。改めてかんぱ……」

「待った待った待った説明終わってないわよ」

「貴様……先ほどから新入りの歓迎会だと言ってるだろう。なぜわからない?」

「わかるわけないでしょうが!?何が一番わからないってアンタが『歓迎会』なんてものをやろうなんて言い出したこの現状がわからないわよ!?」

 

日ごろから数限りなく憎まれ口をたたき合ってるだけあってジャンヌはこの黒の騎士王の気性をよくわかっている。

こんな面倒くさいことをわざわざやりたがるような性格でないことも、重々承知しているのだ。

アルトリアは睨んでくる竜の魔女に対し「別にやましいことなんて考えていないさ」と肩を竦めた。

 

「私だって面倒だし仕切りたくはなかった。だが何を隠そう、これを企画したのは我らが愛しきマスター殿だったのでな」

「またアイツか……」

 

余計なことを、とジャンヌは天を仰ぐ。

 

……アルトリアの話によると、新入りの沖田さんがいち早くカルデアに慣れてくれるようにということで、同じ反転組の王と魔女に白羽の矢が立った。

ついでに、「いがみ合ってばかりいないでこれを機に二人も仲良くしてみたら?」なんてことも言ってたらしい。

 

「仲良くぅ?」

 

話を聞いたジャンヌはそう唇を尖らせる。

語った黒王も「まったくだな」と苦笑した。

 

「奴のお気楽具合にもほとほと疲れてくる……が、生憎これはマスター命令。仕方がないから、こうやっていい子に幹事をしてやってるわけだ。大変だったんだぞ。場所取り注文その他諸々……だが、当初マスターと想定していた予算より安く済んでな。せっかくなので、偶然余った金額は私がチョイスしてきた料理に回させてもらったぞ」

「アンタそれが目的でしょ?無銭飲食で豪華なもの食いたかっただけでしょ?」

 

そんなことはないとフライドチキンにかぶりつきながら答えるかの王。

口元を油まみれにしながら口をもごもごする彼女に、ジャンヌは両肩をがっくりと落とした。

 

……搔い摘むとこうだ。

 

この歓迎会はあの能天気が企画した『茶番』で。

それもこの大食らいが私的有効活用してすでに目的を見失っている。

つまり……私が出席し続ける必要性はゼロ、といわけだ。

 

「帰るわ」

 

かつんと踵を響かせ、ジャンヌは立ち上がる。

アルトリアも止めはしない、自分の取り分が増えるだろうからむしろ大手を振って喜ぶことだろう。

きっとマスターから小言を言われるだろうが、そんなものは右から聞いて左に流してしまえばいいこと。

扉の方へと少女は足を踏み出す。

しかしその時、立ち去ろうとする彼女の背中に声が掛かった。

 

「……待ってくれジャンヌ。よければ話を聞かせてほしい」

 

呼び捨てかよ、と心の中で魔女は突っ込む。

ちらりと背後を振り返ると立ち上がった長身で褐色の女の姿。

暴走女は変わらず上顎と下顎の運動中。

 

「……別に話すことなんてないけど」

 

そっけなく返す。

実際にそうだ、新しいオルタだかなんだか知らないが自分には関係がない。

ジャンヌ・オルタが気にかけるべきことは己自身とほんの少しだけの……アイツのことである。

あとは野となれ山となれ。

しかし沖田はそっけない態度も気にせず言葉を重ねる。

 

「ジャンヌが一番、マスターの傍にいると聞いた。いろんなことを見て聞いて知っていると、マスター自身から聞いた。だからどうか、オルタの先輩としていろいろと教えてほしい」

「……せんぱい?」

 

ぴくんと、魔女の触角が揺れる。

ああと魔神が頷くと、「ふーん……」と少女は首を揺らす。

そしてしばらくすると「……しょがないわね」と言って再び席に着いた。

 

「どうしてもって言ってるわけだし。まぁ今回は特別に先輩として答えてあげましょうかね。先輩として」

「助かる」

 

魔神も微笑して席に戻った。

 

 

……本当にちょろいな、貴様。

 

嬉々として語り始める田舎娘を見ながら、王は言った。

無論そのつぶやきは誰に聞かれることのない、己が胸内でのことである。

 

 

■ ■ ■

 

――話してみれば、案外と内容はあるもので。

開始から二時間経った今でも、三人は言葉を交わしていた。

そして会話に比例して杯も交わし、気がつけば空の酒瓶がそこいらに転がる始末。

 

「そういえばこの前、マスターが香水作ってたのよ。誰から作り方教えてもらったのか知らないけど、今のマイブームはそれみたいね」

「ああ、アレは自作だったのか。なかなか上手く作れているじゃないか」

「嗅ぐ分にはね。でもこの前、アイツが私の部屋で作ってるときこぼしてくれちゃって、もう掃除が大変で大変で……しばらくは嗅ぎたくないわ、あの香水」

「それは災難だったな……だがマスターも、香水などつけずにともいいでしょうに。マスター自身の香りもとても落ち着く……」

「落ち着くぅ?あんなのどこがよ?」

 

両手を広げ、ありえないとジャンヌは言った。

普段に比べてさらに大げさなしぐさに、だいぶ酔いが回ってきてるのだと伺える。

沖田はマスターの匂いについて、そうでもないと首を振る。

 

「本当に良い匂いだった。私は好きだ。確か似たものがあったはずだが……」

「ほうそれは興味深い。思い出せそうか?」

 

黒王にしては珍しく、ほんのりと赤みが出てきた頬。

沖田は腕を組み思い出そうとするが、思考はぼんりと霧がかかったように半透明でうまくいかない。

なのに全員が酒を煽る手を休めることがなく、ぐいぐいと重ねるのでひたすら悪化する一方である。

 

「……そーいえば。以前自爆女がマスターの体臭についてどうこう言ってたな」

「やめ、それやめなさい!あのあとアイツ、引きこもって大変だったんだから……」

「ああ思い出したっ!!マスターの匂いってアレに似てるんですよ!!」

「アンタ、口調がなんか元ネタにもどってない?」

「貴様も同じぐらいキャラがぶれてた時期があったろ……それでだ。何のにおいがするんだ奴は……?」

「ふふふ。それはですね……こんにゃくです!マスター、どことなくこんにゃくの香りがすんですよ!おでん好きの魔神さんにはたまりません!」

 

嬉々として、口調がオリジナルと大差なくなってきた沖田がそう言う。

 

瞬間ぶふぅっ!?と見事な爆破音とともに赤い飛沫が飛び散った。

 

「……なーんでみんな笑ってるんですか?」

 

ひっく、としゃっくりを上げながら、熱っぽく潤んだ瞳の沖田は首をひねる。

対してジャンヌ・オルタはひーひーと声を枯らしながら机を叩いた。

 

「こんにゃ、こんにゃく……よりにもよって、こんにゃく……だめ、おなかいたくてしぬ……」

「ええーこんにゃくおいしいですよーまぁ沖田さんはちくわぶが一番の推しですが」

「いやそうじゃなく……ああ、もうこれどう説明したら……」

「……とりあえず、貴様が以前言った『イカ臭い』よりは洒落が利いてるじゃないか」

「ちょっとおお!なんでアンタそれ言っちゃうのよ!?」

 

ジャンヌはそう声を上げるが、アルトリアも両手で顔を覆ていて完全にダウン状態だ。

沖田も沖田で「イカかぁ……」とつぶやきながら何もない天井を見ている。

 

「でもマスターなんでこんにゃくの匂いしたんですかねぇ。もしかして、おでん食べた後だったり?マスターもちくわぶ気にってくれますかねぇ……」

「……駄目だ。この会話の流れだと、おでんもちくわぶも意味が深すぎて笑いが止められん……」

「ツボり過ぎよアンタ……それにちくわぶっていうよりどちらかといえばするめの足じゃない?」

「過少評価し過ぎだ。それに奴のは切っても再生しない」

「再生したらホラーすぎるわよ……でも絶対、ちくわぶもないわよ」

「いいや妥当だ」

「お二人ともなにについて話してるんですか?」

尋ねてみたが二人同時に「ナニについての話だと」返されてしまい、結局意味がわからずゴクリとまた一杯。

 

しばしの間ジャンヌとアルトリアで口論が続いたが、お互いに譲らず平衡状態は崩れない。

いつもなら「くだらないことだったわ……」と冷静になるはずだが、今はいつもからかけ離れてしまってるから終わりはない。

 

……むしろ、事態はより深刻に発展する。

 

「……どうしても譲る気がないのね」

「お互いにな」

「だったら結論は一つね」

「……ヤるか」

「ヤるわよ」

「やりますっ!」

 

にやりと愉快に笑う黒色の王と魔女。

 

そして、そんな楽しそうな二人につられて快活に手を伸ばす沖田総司・オルタだった者が加わって。

 

クライマックスなお開きが、幕を開ける……。

 

 

■ ■ ■

 

「……だるい。今すぐ布団に入りたい……」

 

そう言って深いため息を吐くのは、黒髪の少年。

その身は白と黒のすすけた衣装をまとい、よろよろとおぼつかない足取りで廊下を歩く。

言わずもがなカルデアのマスター、その人である。

先ほどレイシフトから帰還し、報告も終え、一日のノルマをすべて達成してようやく帰路へとたどり着いた。

もう両脚とも棒のようになり、眠気が彼のわずかばかり残った意識を刈り取ろうとする。

あと少しだけがんばれと自らに言い聞かせて一歩、また一歩と足を動かす。

……ああ、でも。

全部こなしたといえど、ほんの少し気がかりなことがある。

……オルタたちのことだ。

沖田さんの歓迎会をしてほしいとお願いしたけど、果たしてうまくいってるだろうか。

不安に思っていたが……おそらく大丈夫だろうとどこかで感じていた。

面倒くさがってはいたが、アルトリアもジャンヌもきっと気遣ってくれる。

そういう人間だというのは他でもない、彼女たちに助けてもらっていた自分だからこそ断言できる。

だから、あの沖田さんも……。

 

「……笑ってくれると、いいな」

 

……叶うなら、そんな優しく穏やかな未来に至れますようにとマスターは願った。

 

 

――この、背後から響く爆発音を耳にするまでは。

 

 

「……え?」

 

振り向けば、そこは廊下だったもの残骸。

黙々と立つ煙、ぱらぱらと宙を舞う塵。

そして大きく穿たれた廊下の穴から見えたのは……三人の人影。

うち一人が、「見つけたぁ!」とこちらをびしりと指差した。

 

「やっと見つけたわよマスター、うぃっく……さぁ、観念しにゃさいよぉ……」

「ジャンヌ?いったいどうしって、うわ酒くさっ!?」

 

思わず鼻を覆う少年。

すると少女は「やな感じー」と唇を尖らせた。

 

「女子に向かってくさいとかどうかと思うわよー自分なんてイカ臭いくせにぃ……」

「あ、あれはちょうど海のイレシフト先から帰ってきたから匂いがついちゃっただけで……」

「もういいだろう特攻女。さっさとやろう」

「アルトリアさんまで……いったい何が目的?」

 

見た様子飲み過ぎて完全に出来上がっているのは明白なのだがただ暴れてるわけではなく、何らかの統一された目的があるようだ。

尋ねるとアルトリアは「ああ実はな……」と意外なことに説明を始めた。

 

「実はこの戦車女と言い争ってな……マスターのモノがするめかちくわぶかって話になったんだがまるで決着がつかん」

「ごめん、何言ってるのか全然わかんない」

「それでだ、これじゃあ拉致があかんからここは手っ取り早く……貴様を押し倒して、身ぐるみ剥いで、ヤって確かめようという話になった」

「とりあえずオレの貞操が危機的状況にあることだけは理解した!!」

「マスターちゃん覚悟しなさい。私と蝋人形女と、剣士ちゃん三人でかかるから」

「え、沖田さんも!?」

 

愕然とする。

するとジャンヌとアルトリアの背後からもう一人、長刀を携えた褐色肌の少女が顔を出す。

見間違えようがない。

彼女こそ、マスターが先日招いた英霊。

今ジャンヌたちに面倒を任せたことを死ぬほど後悔してる、沖田総司・オルタである。

 

彼女はその金色の目に少年を映すと、小さく「マスター……」と名を呼んだ。

 

「……ありがとう。マスターの言う通り、よい先輩たちだった。実際に会ってみなきゃどうなるかわからない……その言葉を、身をもって知ることができた」

「うんほんと、何が起こるかわからんないよね……」

 

沖田の左右に立つ二人をにらみながらげんなりと、マスターは同意する。

すると沖田は微笑む。

優しく慈しむような笑みを、彼女は向ける。

……その指先を、長刀の束へかけながら。

 

「……郷に入っては郷に従え。その言葉に従い、私もこの二人に倣って楽しんでみようと思う。このオルタ生活を」

 

だから、と彼女は続ける。

きらりと輝く刃。

その漆黒は一本に留まらず、三つのきらめきをかざす。

 

オルタ三体の、完全な構え。

 

そして、彼女は言った。

にっこりと笑みは、どこか懐かしさを漂わせて。

ぺろりと舌舐めずりをして、黒の剣士は告げる。

 

「――マスターのちくわぶを、味見させて頂こう」

 

「……畜生、まるでときめかない」

 

 

そうほんのりと淡い涙を流して。

 

迫りくる三人からの、マスターの全力の逃走劇が始まった。

 

 

……さて、これにて本日のオルタ会はお開き。

 

第二回オルタ会は、正気にもどった三人が今回の件の罰としてカルデア大掃除させられたときになるだけど。

 

それはまた、次の機会に。

 

 

 


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