私の名前   作:たまてん

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続き物です。
今回は一人のオリキャラが出ます


私の罪 上

Pr.

 

 

ーー私の前に立つ者。

 

行く手を阻み、私を殺そうとする。

 

だから敵。

 

容赦なく、慈悲など与えず、私は切り捨てる。

 

ーー私の後ろに立つ者。

 

そいつらは私のあとについてこようしたり、私を関わるのを避けようとする。

 

だから、私はそいつらを無視した。

 

ついてこようが、避けようが、前を向いて歩く私には関係なかったから。

 

独りでいる私には、関係ない。

 

ーーだからわからない。

 

どう接すればいいか。

 

どう思えばいいのか。

 

ーー私の隣。

 

肩を並べて歩こうとする、貴方の気持ちが。

 

この御旗を取り上げようとも、ついてこようともせずに私の傍にいてくれようとする貴方の存在が。

 

……私には、わからない。

■ ■ ■

 

 

「ーーやりましたよトナカイさん!ついに私のステータスが最大になりました!さぁ、存分に誉めてください!」

 

えっへん、と両脇に手を当てて胸を反らすジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ。

 

そんな自慢気な表情をする彼女に対して、マスターはそうだね、と屈託のない笑みを浮かべながらその頭を撫でた。

 

「オレとしても、思ったより君が早く成長してくれて嬉しいよ。よく頑張ったね、オルタちゃん」

 

とーぜんです!と彼女は答えながらも、マスターに頭を撫でられてまたご機嫌なご様子であった。

 

それからマスターは振り返り、「みんなもありがとう」と頭を下げた。

 

すると、「礼を言われるまでもないさ」とアンデルセンが肩を竦める。

 

「サーヴァントとして当然の仕事をしたまでさ。これで戦力増強になるなら万歳だ。人手が増えて、私の労働時間も削れるなら万々歳だな」

 

「はい。ますたぁが喜んでくださるならこの清姫、例え恋敵を増長させることなろうと構いません……あとでまた潰せばよいだけのこと、ふふふ」

 

「はい。先輩とオルタちゃんのお役に立てて、私も嬉しいです」

 

「……リリィお姉さまのためなら、私は全力を尽くします」

 

清姫とマシュ、ブリュンヒルデも同意する。

 

……一部追及したいことはあるが今は見逃してもいいだろう。

 

せっかくめでたいことがあったわけだし。

 

……けれど、一つ問題なのは。

 

あと一人から反応が返ってこないことである。

 

ーー最後のパーティメンバーであるジャンヌ・ダルク・オルタは、そっぽを向いてマスターである彼と目を合わせようとしなかった。

 

すると、マスターはリリィのもとから離れて彼女に歩み寄る。

 

「ーージャンヌもありがとう。君のおかけで本当に助かったよ」

 

そう話しかけて彼は彼女の顔を覗きこんだが、ぷいとまた視線を反らす。

 

「……さっさと帰るわよ」

 

そう、彼女はつぶやいて、それ以上のことは言わなかった。

 

……どうやら、今日は相当虫の居所が悪いらしい。

 

さてどうしたら機嫌がなおしてもらえるかな、と考えつつ「わかったよ」と彼はマシュにカルデアへの帰還準備を始めてもらうようにお願いした。

 

「……これはまた初々しいものを見せてもらったな。可愛らしい嫉妬だな」

 

「あらそうでしょうか。私は先程から胸焼けが少々。これがいわゆる『砂糖を吐く』とでもいいますか……とにかく、まじきれそうです」

 

「馬鹿め。それがよいのだろうが。ああゆうのが近頃の流行り、『ツンデレ』というやつさ。いや奴の場合『ツンギレ』か」

 

「アンデルセンさん。『ツンデレ』とは何ですか?私にはよくわからないのですが……」

 

「普段は素っ気ない、むしろ嫌うような『ツンツン』した態度だがいざとなると砂糖菓子並みに『デレデレ』と甘い態度になる性格の総称だ。覚えておくことだな、リリィ」

 

「なるほど。勉強になりました」

 

「そうでしょうか。私には年中『でれでれ』に見えますが」

 

「どちらにせよ、お姉さまは素敵です」

 

「ーー貴方たち。それ以上くだらないこと喋ると殺すわよ」

 

 

ジロリと睨むと、小声で話し合っていた彼らは素知らぬ顔をして離れていった。

 

「ーーみなさん、準備完了しました。こちらにお集まりください」

 

マシュの掛け声で、サーヴァントたちが集まる。

 

すると、辺りが光で包まれ、彼らの視界も白く染まる。

 

そうして次の瞬間、彼らはカルデアに帰還を果たす。 

 

ここまでいつも通り。

 

ーーただ一つ違うのは。

 

ところどころ破壊され、見るも無惨な光景が広がっていたことだ。

 

■ ■ ■

 

 

「ーーなんですかこれは!?」

 

あまりの光景に、リリィがそう声を上げる。

 

「なんかあちらこちら壊れてませんか!?こう、なんか爆破されたあとみたい!?あ、あれですか、ステラですね。きっとアラーシュさんがステラったに違いありません!きっとそうなんです!!」

 

「そんなわけあるか。とゆうかまず騒ぐな馬鹿者」

 

急展開に追い付けなくなって目が回りだしたジャンヌにを、アンデルセンが勇めた。

 

まぁ彼女の慌てる気持ちもわからなくない。

 

何せここにいる全員の予想外の出来事であろうから。

 

だが、慣れというのもあってか、あとのメンバーは冷静な様子であった。

 

辺りを見回したあと、ちっ、と舌打ちをするアンデルセン。

 

「……敵襲か。まぁいつかはあるかもとは予期してたアクシデントだがなーーマスター、ロマニとやらに連絡はとれたか?」

 

その問いかけに、マスターは首を振る。

 

「ーーダメみたいだ。まぁダ・ヴィンチちゃんが着いてるから無事だとは思うけど……」

 

「ーーますたぁ。失礼します」

 

 

そう断りを入れると、清姫はいきなり彼の身体を抱えて、その場所から跳躍した。

 

同時にダン、と大きな音を立ててソレが落ちてきて、地面に亀裂を作る。

 

間一髪で回避をしたマスターは清姫に抱きかかえられながソレを見た瞬間、目を見開いた。

 

ーー全身が黒く染まった影のような存在。

 

人の姿をしながらも、顔も自我もない出来損ないの亡者。

 

ソレは、シャドウサーヴァントと呼ばれるもの。

 

だがそれよりも、マスターである彼が驚愕したのはその姿だ。

 

ーーそのしなやかな体つきは、一目で女性だと分かる。

 

けれどそれにしては短い切り揃えられた髪を持ち、似つかわしくない鎧を纏っている。

 

そして何より一番の特徴はーーその右手にもった大きな旗。

 

ーー斬、と空気が引き裂かれる音がした。

 

同時に、シャドウサーヴァントの首も宙に舞う。

 

「ーーなるほど。そういうことね」

 

ーー剣を横に振るったジャンヌが、そう呟く。

 

「ーージャンヌ。今のって君の……」

 

そうマスターが尋ねようとしたときだ。

 

突然、ジャンヌは走り出した。

 

「ちょ、いきなりどうしたんですか私!?マスターを放置してどこに行く気ですか!?職務放棄ですか!?」

 

「ぴーぴーうるさいわね。ただの野暮用よ。マスターには貴方がついてなさいーーマスター。悪いけど一人で行かせてもらうわよ」

 

断りはしたが、彼女はマスターの返答も聞かずに走り去っていった。

 

「……なんなんですかあの態度!?横暴過ぎませんか、未来の間違った私!?」

 

「まぁそうは思うが……どうするマスター。追いかけるか?」

 

そうアンデルセンが問いかけたが清姫から下ろしてもらったマスターは首を横に振る。

 

「……それよりまずはドクターたちと合流したい。こんな状況になった原因を聞き出さないと。それに他にもシャドウサーヴァントの気配があるし、たぶん留守番してたサーヴァントたちが応戦してくれてる。それの援護もしないとね」

 

「ーー先輩。それでも一人はジャンヌさんについて行くべきだとは思いますが……」

 

ーーマシュのいうことはもっともだ。

 

突発的過ぎる彼女の行動に不安がないわけじゃない。

 

何を気づいたかはわからないが、それがあまりよくないことだというのかなんとなく分かる。

 

けれど……。

 

「ーー『一人で』行かせてもらう、って言われちゃったんだよね。たぶんあの様子だと下手に君たちを向かわせるとむしろ返り討ちにされそうな気がする」

 

「それはご遠慮願いますわ……まぁ恐らく大丈夫でしょう。一応強いですし、あの方。そう簡単にやられたりはしないかと。むしろやられてくれたらどれだけ楽だったことか。とゆうかやられてください、本当に」

 

「息をはくように淡々と言うよな。お前は……」

 

さらりと告げる清姫に、アンデルセンはげんなりとした表情をする。

 

「ーーとにかく、まずはドクターたちと合流だ。途中、状況に応じて君たちにもオレとは別行動をとってもらうかもしれない。そのときはよろしくお願いしたい」

 

了解、と頷いて一同は行動を開始する。

 

……ただ、少し気がかりなのは。

 

なるほど、と頷いたときの彼女の表情。

 

まるで、はじめて自分に会ったときみたい。

 

ーー面倒くさい、なんて言葉をいいそうな、気だるげな表情だった。

 

■ ■ ■

 

 

ーー呼ばれてる気がした。

 

カルデアに戻ったときから、そんな錯覚を抱いた。

 

でもそんなのは気のせい。

 

主から見放された私に語りかけるものなど、もういるはずはないのだから。

 

……だがその疑念も解決だ。

 

自分を呼ぶとしたらジルとマスター以外に、あと一人ぐらいの心当たりを思い出す。

 

そして、あの自分の姿をしたシャドウサーヴァントを見てそれは確信にかわる。

 

ーー呼び声に従って、彼女はたどり着く。

 

自らの部屋の前に。

 

……いる。

 

確かにいる。

 

忌々しくも、覚えのある気配。

 

ーーああ、本当に面倒だ。

 

けれど、止めないわけにいかない。

 

だから意を決して、彼女は扉を開けた。

 

ーー本来なら、誰もいないはずのそこに。

 

彼女ではない誰かが、椅子に腰かけていた。

 

そいつは、部屋に入ってきたジャンヌを見て、少し驚いた顔をする。

 

「ーー少し見ないうちに、また随分と様変わりしたな。確か君は、剣よりも旗の方が四十倍好きだと話していたが……あれも嘘だったのかな」

 

「ーーさぁどうかしらね。少なくとも、貴方に語ったときは本当にそう思っていたわ。今は、この重みもなかなかいいとは思っているけどね」

 

「ふむ。後になって意見をコロコロと変えてくる。実に君らしいよ、ジャンヌ」

 

そう言うと、彼は口端に笑みを浮かべる。

 

……その笑み一つで、苛立ちが臨界点を越えそうになる。

 

ーーやっぱりか。

 

この時代の姿に見覚えはないが、その卑しさを含む笑みを見るだけでーーあの男本人だと嫌でも思い知らされる。

 

「ーー何故、貴方がここにいるの?」

 

ジャンヌが訊くとさぁどうしてかね、と彼は首を傾げる。

 

「それこそ私が聞きたいくらいだーーだけど、今の君を見て納得した。私がここに喚ばれたのは……君を裁くためだとね。なら、私に与えられたこのクラスにも合点がいく」

 

そういうと、彼は立ち上がり、ジャンヌと向き合う。

 

ーー白い法衣に、胸元には十字の首飾り。

 

その手には主の教えが記された聖書。

 

向かい合う二人……それは、あのときの法廷のようで。

 

 

ーーそうして彼は、ジャンヌに告げる。

 

「ーーサーヴァント、ピエール・コーション。主より賜りしこのクラス、ルーラーを以て、ジャンヌ……君を、今一度裁こうじゃないか」

 

ーー厳かに。

 

けれど、どこか楽しげに。

 

かの裁判官は、罪深き少女へ告げた。

 

 

 


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