私の名前   作:たまてん

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さぁ、邪ンヌガチヤを回そう!
だけの短編です。
よろしくお願いします。

初投稿は残骸でしたが、本年もよろしくお願い致します。う


魔女のいる生活

――結論から言うと、鈴鹿はここにこれてよかったと思っている。

何せご飯はおいしいし、寒さ暑さに悩まされる心配もない。

ちゃんとふかふかのベットもあって、やることさえやれ超快適空間

何よりここにいるマスターは、単純に人間性が好ましい。

だから不満はない、不満はなかったのだが……。

 

「……だけど。なんか今はすこぉーしばかり後悔してるかも」

 

言いながら鈴鹿は大きなため息をついた。

すると隣にいるマスターが「なんでさ」と顔をしかめる。

 

「……君だってのりのりで満喫してたじゃないかここのカルデアライフ」

「いやそうなんだけど……流石に。アレは怖すぎるし」

 

言葉をきって、少女はちらり、と隠れてる物陰からソレを盗み見た。

……ガシンガシンと、まるで怪獣のように一歩一歩を重く響かせて。

絶え間なく辺りを見回し、何かを――隠れている自分たちを血眼に探している。

そしてソレは、見つからない苛立たしさを吐き出すかのように呪うように声高に叫んだ。

 

「――マスタアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」

 

 

「……ほんと。どうしてこうなったし」

 

そこにいたのは、普段の冷静沈着な彼女から想像もつかない。

 

件の竜の魔女、ジャンヌ・オルタの変わり果てた羅刹の姿だった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「……で。マジで何があったし?」

 

尋ねてもマスターは分かりません、の一言。

 

見も蓋もない

 

「いやさマスターさぁ。何かなきゃあれはおかしいし?ジャンちゃんがおがおになってる意味不明だし。実際なにやっちゃったの?」

「わからないものはわからない。本当に心当たりないんだって……」

 

首を捻る彼はしわを寄せて必死に考えている。

その様子だと、本当に心当たりがないようだ。

でもそうだからといってこの状況が好転すわけではないだよねーと鈴鹿は目頭を抑える。

 

――時をさかのぼること一時間前。

ここのところ、びっくりするぐらい平和な毎日が続いていたカルデア。

鈴鹿はマスターから借りていた漫画を返そうと彼の部屋に顔を出しにいった。

 

……がその時、部屋に着い鈴鹿が見たもの。

 

それは、まるで台風でも来たように無惨に散らかされた室内と。

 

「……いい加減にしてよ、ジャンヌ」

 

そう言って完全に構えに入っているマスター。

 

そして最後に、彼に対峙して立つ一人の少女。

 

暇があればマスターの近くにいる、それでいて別に何かするわけでもなくいっしょにいるという事実に満足しているという彼女。

なんともいじらしい、と思えていたが今はそんなことは微塵も考えられない。

 

何故なら少女はその可愛らしい顔にこれでもかと青筋を立てていて、かつ反比例して驚くほどスマイルでいたからだ。

 

「……そういう貴方こそ、いい加減にしてくれない?いいから早く返せ。返しなさい。返してくださいお願いしますマスターさま」

「……何の話?」

 

本当に彼女言うものに心当たりがないらしい。

困惑するマスターに、ジャンヌはふふふと低く笑う。

まるで壊れた人形のようにかたかたと笑いだす彼女。

その目から徐々にハイライトが消えていき、空虚な瞳に変わっていく。

 

そして魔女は「……ならいいわ」と呟く。

……ちょっと顔を赤らめ、若干半泣きになりながら。

 

「あくまで惚けるならそれで構いません。だったら――貴方殺して、私も死ぬから」

 

おうこれぞ修羅場だね、と鈴鹿は手を打った。

 

……というより、ここで逃げておけば関わらずに済んだんだろうな、と今になって思い返す。

けどジャンちゃんがわりとガチに見えてしまったため、ついついマスターを援護してしまう。

おかげで二人仲良く、彼女の抹消対象へと認定されてしまったというわけだ。

そして現在、二人はこのカルデアの地下倉庫まで走って逃げてきたわけである。。

 

「……いや。途中から明らかにジャンヌに誘導されていたね。人のあまりいない道にくるよう逃げ込まされ、退路のないここに追い込まれた……ああ、やっぱりうちの子頭良くてかわいい」

「だから、そんなクールに分析するならちゃっちゃっと謝るなりなんなりしてよ!とばっちり受けてる私からしたらたまったもんじゃないもん!」

「謝って済むのか、アレ?」

「知らんし」

 

言いながら、再び物陰の隙間からジャンヌを覗き見る鈴鹿。

火を吹かんばかりに荒れ狂って倉庫を闊歩する彼女の姿を視認する。

……確かに謝ってすみそうには見えないな、と鈴鹿は頬をひきつらせた。

 

そう思うと同時に、再び彼女の咆哮が響く。

 

「マスターっ!!隠れてないで出てきなさい!!あと返しなさい!!読まずに私に返しなさい!!読んでたら……もう殺るしかない!!」

「……だってさ。あの言い分だと、マスターが何か持ってるらしいよ?読めるようなもんで」

「別にジャンヌからとったものなんて……あ、待てよ」

 

そういうと、マスターは胸元のポケットから一冊の赤い手帳を取り出す。

……何度か見たことがある。

それは、マスターがよく使っているスケジュール帳だ。

確かに読むものではあるだろうが、恐らく違うだろう。

 

「他にはないの?」

「ない。けどさ、実はこれと同じのジャンヌにも買ってあげたんだ。オレと揃いにしたくて新宿で買ってきたの」

「やることがまさに女子のそれ」

「乙女なんですー……ま、それはさておき。もしかしたら入れ替わってたりするのかなぁなんて。まぁ中身確認すれば一発だよね」

「乙女とか言ってた人が躊躇なく乙女のモノを見るなし」

「こうゆうときの男は捨てられないんだよねーって、うわ」

 

 

真偽を確かめるべく手帳を開いた途端、マスターの顔が凍てついた。

それから横からみてもわかるほど、少年の頬をから血の気が引いていくのがよくわかる。

 

「……どうしたのマスター?」

 

尋ねると応答はなく、以前固まったままの彼。

あんまりにも意外な反応だったので好奇心に勝てず、鈴鹿もちらりと横から手帳を覗き見る。

――瞬間……予想だにしなかった内容に、彼女の顔も凍りついた。

 

 

 

○月×日

 

今日はマスターのとこに遊びに行ったよっ!

だけどマスターは会議で大忙し。

遊びに行って五分で追い出されちゃいましま(T_T)

でも私めげないわO(≧∇≦)O

明日も一日がんばるっ!

 

○月△日

 

相変わらずマスターは作業作業で私に冷たい……( ノД`)

結構アピールしてるつもりだけど軽くあしらってくるだけ。

まるで子供を宥めるみたいに私を嗜めてくる。

正直腹が立つ。

けど……頭ナデナデされたのはすっごく嬉しい!( 〃▽〃)

明日も誉めてもらえるように、レッツでゅへいんっ!

 

○月□日

 

マスター好き、大好き!

髪とか目とか肌とか、あと膝の――!

 

 

パタリ。

 

 

全部読み終わる前に、マスターが閉じた。

その顔から表情は相変わらず消えている。

思わず唸る。

 

――いやなんかもう。

なんて言えばいいかわかりません……。

ああ、でも一つだけ確かなのは。

 

「ジャンちゃんまじごめん……」

 

心の底からの謝罪を口にする鈴鹿

反対にマスターはなるほどねぇと合点が言った模様。

 

「贋作の時から乙女っけあるのわかってたからねー。そういえば、昨日ジャンヌの部屋泊まったときに机の上の二冊同じ手帳があったんだよね……間違えて持ってきちゃったかーオレ」

「マスター。ちょい冷静過ぎな気がする」

「まぁ実は結構喜んでる」

「そっかー」

 

駄目だねーこのひとーと、呟いて鈴鹿は空を仰いだ。

その時である。

 

――ぬぅ、と二人の背後から飛び出してきた白い手が、マスターの握っていた手帳を掴んだ。

 

さらに二人の耳元に、「見つけたわよ……」と地に響くかのような声が聞こえた。

振り替えると、いつの間にか銀色の髪をした少女が立っていた。

……目にいっぱいの涙を貯めながら。

 

「……ふ、ふふ。ふふふ。見られてしまったからにはしょうがないわね。悪いけど二人にはご退場願いましょうか――現実からのフライアウェイ」

「待つし!確かに見たの悪かったけどこれは不可抗力だし!やるならマスターだけにしてし!」

「さっすが才知の祝福、変わり身がはやい。サーヴァント失格な気もするけど」

「乙女の純情さらりと踏み潰すマスターも男失格だし!」

「それもそうだね……ところで、実はちょい古い女子高生の絵文字を多用してる竜の魔女さんや」

「え、もうわざと!?わざとなのマスター!?」

 

 

何考えてるし、と叫びながら半泣きになる鈴鹿。

しかし構いなしに、彼は立ち上がってジャンヌに向き直り、彼女の目をまっすぐ見る。

 

「……改めて、君に一つ尋ねたい。ジャンヌ・オルタ」

「な、なによ。急に改まって……」

 

その雰囲気に若干気圧されながらも、ジャンヌは言い返す。

ごくりと生唾を飲み込んで、そんな彼の様子を見守る鈴鹿。

 

――次の瞬間、彼の口から発せられた言葉は予想を遥かに越えていた。

 

 

 

 

「――ジャンヌは、オレのことが大好きなんだよね」

 

 

 

淡々と、でも満面の笑みで。

少年ははそういい放った。

 

――絶句。

 

開いた口が塞がらないとはこのことだった。

だけれど一番の見物は彼女。

ジャンヌは一瞬ぽかんとした表情をし、その意味を理解した途端、顔が真っ赤に染まった。

林檎よりも赤い紅色に。

そしてマスターを指差し「な、な、な……!?」と言葉にならない声を出す。

 

その反応を見たはふむ、と頷く。

さらに彼は続けてこうも言うのだった。

 

「……そうか。なら君はオレに日頃からの気持ちを知られてくやしいわけか。ほうほうなるほど……じゃあ、今回は痛み分けにしよう」

「い、痛み分けって何するのよ……?」

 

ぐっと身構えるジャンヌ。

すると簡単なことだよとマスターはジャンヌの傍に近づきながら語る。

そして告げた

その解決方法を、少女の耳元で……。

 

「……今から、ジャンヌの日記に書いてあったのと同じ日数分、いつもジャンヌに抱いてるオレの想いを囁いてあげる。そしたら、オレも恥ずかしんだから許してよ」

「……は?アンタ、何言ってんのよ!そんなの聞くわけ……」

「はい開始」

 

するとマスターはごにょごにょとジャンヌの耳元でささやき始める。

小さすぎて鈴鹿には聞こえなかったのが、大体内容は察せた。

なにせ雪のように白いジャンヌの肌が、着々と赤色に染まっていくのである。

まるで沸騰したやかんのように、しゅーしゅーと煙を吐き出しながら。

止まらない熱膨張、しばらくしてようやく耳元から顔を離した彼はにこりと、紅の少女に微笑みかける。

 

「……まだ二日目だけど、大丈夫?」

 

とどめとばかりに、ちゅいと頬に唇を落とした彼。

 

……それが、限界。

 

次の瞬間、竜の魔女は走り出していた。

逃げるように全力疾走。

「覚えておきなさいよ、このばか!!」と、半泣きになりながら捨て台詞を残して。

 

「……本当、かわいいよねジャンヌって」

「……私ジャンちゃんが気の毒になってきた」

 

しみじみと語るエモいマスターに、はぁと肩を落とす鈴鹿。

マスターも確かにねと苦笑する。

 

「まぁとりあえず、あとでケーキでも持ってご謝りに行くよ。実際に悪いことはしちゃったし。鈴鹿の分も誤っておくから」

「……何言ってんのマスター。私も行くに決まってんじゃん」

 

いうと鈴鹿はマスターの前に顔を出す。

そしてにこりと、少年に微笑んでこう言った。

 

「……だって友達だからね、ジャンちゃんとは」

 

にこにこと、微笑んでいう鈴鹿。

マスターは一瞬目を見開いたが、すぐに同じように目を細めて「……じゃあよろしく」と笑う。

 

「それに乙女心のわかんないマスターじゃあまたジャンちゃん怒らせちゃうじゃん。やっぱ私が適任っしょ!」

「ははは、ひどい言われようだな」

 

そう言って、二人は歩き出す。

きっとぷっくりと膨れてしまった、彼女に頭を下げに。

 

……そうだ、ここにきて本当によかったと鈴鹿は確信する。

だってここに来れた私は、こんなにも愉快な日常と。

 

―――二人のすごくおもしろい友人に、出会えたのだから。

 


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