ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
遅ればせながら、あけましておめでとうございます!今年も『ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。』をよろしくお願いします!
光也と蘭が買い物に出掛けた直後。残された弾と一夏。メンツとしては珍しい二人きり。
弾が低い声で呟いた。
「俺は光也を一生許さねぇ」
「言ってやるなよ。今は、蘭の成長を喜ぶべきだと思うぜ?」
冗談抜きで妹と親友がくっ付きそうな危うさ。それによって生まれた怒りで拳を強く握り締める弾。
そして、妹を心配する弾を宥める一夏。ついでに光也の身も案じる。
(・・・光也。蘭とくっ付くのも有りだとは思うけど、それはそれで拙い事になるぞ)
親友の妹を応援したい気持ちはあるのだが、それによってもう一人の親友の命が危ぶまれるとなると、一夏は苦笑いを浮かべるしかなかった。光也の周りの女子の顔を思い浮かべては、溜め息。それから訂正。命が危ないのは光也だけではなかった。
「クソ、こっそり付いて行って監視するか・・・?」
「やめとけって。ルーズリーフ買いに行くだけなんだろ?何か起きる訳が」
「いーや!
「・・・何て言うかお前、想像力豊かだな」
赤い髪をガシガシと掻き乱しながら、妹の身を案じるシスコ——弾。光也に義兄呼ばわりされるのをどうしても避けたいのが見て分かる。そんな状態の弾を冷ややかな目で見ながら、一夏は弾の目を盗んで、色々な意味を込めて『頑張れよ』と光也のスマホに連絡を入れるのだった。
意気揚々と家を出たオレと蘭ちゃんは、近くのバス停でバスを待つ事になった。
何と無しに途切れる会話。見知った仲なので、別に気まずくも何ともなかったオレは、ついでにシャー芯とか消しゴムとか買っておこうかな〜と向こうでの行動を予定してみる。すると、ちょいちょいと服の端を引かれた。
「あ、あの」
「どした?」
「ルーズリーフを買った後、デパートの中で光也さんと色々回りたいんですけど・・・駄目ですか?」
「可愛い」
「え?」
「間違えた。——良いぜ。あっちで色々見て回ろう」
「は、はい。ありがとうございます・・・?」
蘭ちゃんが何やら首を傾げているが、丁度良い所でバスが来た。一番後ろの座席が空いていたので、そこに二人並んで座る。オレ等の他の乗客もまばらで、そんな車内の状況に少し嬉しくなる。
「光也さんって、普段どんな生活をしてるんですか?」
バスが発進して数分と経たない頃。蘭ちゃんが問うてくる。逆に、オレとしては蘭ちゃんの普段の生活を根掘り葉掘り聞いてみたいものだが、問われたのなら仕方がない。答えよう。
「普段の生活?・・・そうだなァ。タッグマッチとかあったぜ。そのちょい前に転入してきた女の子二人がどっちも海外の代表候補生で、しかもその二人がタッグマッチの時に対戦相手として戦う所は胸熱だったな。レベルが高いのなんのって」
「光也さんはどうだったんですか?」
「オレ?出てねェよ」
「出てないんですか!?」
「あぁ。女の子を傷付けるのは嫌だからな」
オレはキメ顔でそう言った。
しかし、絶妙なタイミングで蘭ちゃんが停車ボタンを押したので、見られていなかった。虚しい。
バスから降りて、着いたのは駅前。ここらに住んでいる人なら誰でも利用するデパートがすぐ近くに見える。
今の季節は夏なので当たり前だが、暑い。一刻も早く冷房の効いた店内に入ろうと、二人並んで足を進める。
「IS学園の話ですけど」
「おう」
「IS学園って確か、実技とかも成績に入りますよね」
「まぁ、そりゃな」
ドアに近付いたオレと蘭ちゃんにセンサーが感知し、デパートの出入り口の自動ドアが開く。それと同時に、中から心地の良い冷気が通り抜けた。オレこの感覚大好き。
「女の子とは戦いたくないとか言ってますけど・・・光也さん、大丈夫なんですか?」
「まぁ言っちまえば、実技以外で良い成績を修めてたらなんとかなるんだけどな」
「なんとかなってますか?」
「なってねェ」
「駄目じゃないですか!」
「もしもオレが留年したら、蘭ちゃんと同級生だな」
「そ、そんな事っ・・・ゆ、許しませんから・・・?」
「何で疑問形?」
「い、一夏さんとかお兄に見下される光也さんを想像したら面白かっただけです。それだけですからっ」
「うおぉ、確かにそりゃァ中々にムカつくな。やっぱちゃんと進級した方が良いわ。サンキュー蘭ちゃん」
礼の言葉と共にバチコーンとウインクを送ると、何故だか蘭ちゃんが複雑な顔をしていた。
話しながら歩いて、エスカレーターを上って、また歩いて。デパートに着いてから五分と経たずに、目的の文具店に着いた。
店内は全体的に明るめの配色で、色とりどりの文具とは対照的に、壁に掛けられた文具や棚に置かれた文具が見えやすいようになっている。
お目当てのルーズリーフは店内の中央のノートや下敷きなどのコーナーに。ここに来たのは始めてじゃないらしく、蘭ちゃんは迷う事無くスイスイと辿り着いて見せた。手に取ったのは、15行タイプのルーズリーフ。
「私はもう会計に行きますけど、光也さんはどうしますか?ついでに色々見てみますか?」
自分だけじゃなく相手の事もキチンと考えられるとは。流石は蘭ちゃん。よく出来ている。
「いや、オレは特にない。大丈夫だ。んで——これで良いのか?」
と問うと、
「はい。いつも使っているやつなので」
と返ってきた。それから、
「ちょっと借してみ」
と、蘭ちゃんからルーズリーフを借りる。へー、ほー、と表裏面を眺めてから、隙を突いてそのままレジに持っていく。会計。店を出た。
「ほらよ」
ビニール袋に入れられたルーズリーフを手渡すと、蘭ちゃんが頬を膨らませている事に気が付いた。
「・・・光也さんはズルいです。不意にそういう事しちゃうんですから」
「ズルかったか?」
「えぇ、とっても。これはもう、光也さんにはもう少し私の都合に付き合ってもらわないとですね」
「わー、ソイツは大変だ。そんな事言われちゃ断れねェー」
わざとらしい演技と、棒読みの台詞読み。言い終えてから、二人して吹き出した。
「どれ、次はどこに行こうか?」
「そうですね——」
近くにあったデパート内の案内板の前でそう問いかけると、蘭ちゃんはさり気なくオレの手を取って歩き出した。リードされてばっかじゃ男が廃る。手を引かれるのではなく、オレも隣に並んで歩く。
直後。
「あ、」
プルルル、と着信音。蘭ちゃんが持っているバッグから聴こえてくる。蘭ちゃんの視線がオレとバッグとを往復。
「オレの事は良い、出ておいで」
「は、はい。少し外しますね」
繋いでいた手を離し、バッグから取り出したスマホを耳に当てながらオレから遠ざかる蘭ちゃん。
つい先程まで女の子と握っていた自分の右手を、しげしげと眺める。
「・・・柔らかかったな」
IS学園に入学してから、女の子との接触は劇的に増えた。しかし、何というか・・・えーっと、状況が普通じゃないのがほとんどなので、今回のようなThe.青春と言った感じのシチュエーションだと、不思議と
ラウラちゃんは、何だかんだ言って良い子だ。タッグマッチトーナメントの次の日こそあんな行動に出てしまったが、それ以降は特に——いや、あったな。朝起きたら全裸で隣で寝ていた時は遂にやらかしたのかと思ったぜ。
その後シャルちゃんに見付かったラウラちゃんがガチ説教を受けて涙目で反省するというオチがあるのだが、詳細は省く。
特にする事も無いので辺りに視線を行ったり来たりさせていると、見覚えのある女の子が遠くに見えた。お目にかかった事の無い私服に身を包んでいるからか、ぱっと見では気付かなかったが、今確信した。
千冬ちゃんだ。
それからのオレの行動は早かった。確信するや否や、千冬ちゃんに向かって走り出したのだ。
「お待たせしてしまって申し訳ありません!」
「おう、全然大丈夫だぜ。こっちも今終わった所」
「何かしてたんですか?」
「さっきまでそこに千冬ちゃんがいてさ。挨拶ついでにイチャつ痛い痛い痛い痛い!」
「すみません。急に指を火傷しそうになったので」
「だとしたら触るのは自分の耳たぶだと思うぜ!?」
突然に
知らない人から見たオレは、さぞかし情けない男に見えるのだろう。
蘭ちゃんとのデート中(主観)に他の女の子の名前を出したから怒っているのか?・・・いやでも、それだと蘭ちゃんは、今の状況をデートだと認識している事になる。——いやでも——待てよ?——やっぱり違うのか?——
・・・謎だ。
「「楽しかったか?」」
夏に備えて、蘭ちゃんの水着を選ばせてもらったり、蘭ちゃんと喫茶店に入ったり。青春のワンシーンどころか、もうこれデート確定じゃんとニヤニヤしながら満喫した日曜の午後。蘭ちゃんを家まで送る為、そして一夏ちゃんを迎えに行く為に再び五反田家へ。
裏口から入り、先導する蘭ちゃんの後ろを歩く。階段を上って弾ちゃんの部屋のドアを開けると、二種類の笑顔を見せる一夏ちゃんと弾ちゃんが居た。
イケメンスマイルと、アクドイスマイル。
「そりゃもう。めっちゃ楽しかったぜ。な〜?」
「はい。とても」
オレが振ると、蘭ちゃんも微笑みながら同調。それを見た弾ちゃんがキレた。
「テンメェ!蘭に何しやがったゴルァ!!」
胸倉を掴み上げられる。目の前には漫画みたいに額に青筋を浮かべる弾ちゃんの顔が。キスしそうなくらいに距離が詰められていたので、ビンタでもして距離を取ろうしたのだが、それよりも早く蘭ちゃんが弾ちゃんの背中に正拳突きを打ちかます。胸倉から手を離し、膝から崩れ落ちる弾ちゃん。良かった、手間が省けた。
「どうも、お兄がお騒がせしました」
「慣れてるから大丈夫よ」
「いやいや!それよりも今の蘭の正拳突きの鋭さって大丈夫なのかよ。色々と心配だぞ」
「弾ちゃんの容体が?」
「それもそうだけど、蘭はそれをどこで習ったのか、とか」
「それなら心配要りません。私は手加減してますし、正拳突きと言っても、反射的に出してしまっただけの、型も何も覚えが無いマグレですから」
「マグレであの美しいフォームの正拳突きを兄に繰り出せるってヤバいな」
「こら、一夏ちゃん。女の子に向かってそういう言い方は良くない。女の子の身体には不思議がいっぱいなんだぜ?」
「・・・まぁ、確かに不思議だ」
今日はありがとうございました。
また来いよ!
五反田兄妹との別れの挨拶を済ませてから、夕焼けに照らされたIS学園への帰路を辿る。
「なぁ、光也」
「何だよ一夏ちゃん」
「ぶっちゃけ、蘭との買い物で何かあったのか?」
「一夏ちゃんや弾ちゃんが想像してるような事は無かったと思うぜ?蘭ちゃんの可愛さを堪能しながら買い物したりお茶したり手を繋いだり」
「
「あ、そうそう。珍しいことに、デパートに千冬ちゃんがいたんだ。何の買い物をしてたのかは分からなかったけど、絡みに行ったら大層ウザがられたそうな」
「何で最後昔話風なんだよ。・・・確かに、千冬姉が一人で買い物って珍しいかもな。買い物するなら、山田先生辺りを付き合わせてそうなものだと思ってた」
そもそも、一人で買い物出来たのかあの人。一夏ちゃんが滅茶苦茶失礼な事を呟く。
「ちゅーか、オレと蘭ちゃんの事を聞くのは良いけどよ。一夏ちゃんはどうするつもりなんだ?今度のデートで何か考えてたり?」
「デートってちょっと照れるな」
「はいはい、ほっぺた赤くしてねェで早く言えよ」
「うーん、そうだな。臨海学校の期間に、二人きりになれるように話し合う。とか?」
「・・・まぁ、それで良いんじゃねェの」
「何だよその諦めたような表情は。何か駄目だったか?」
「駄目じゃない駄目じゃない。陰から見守っててやるから安心して行動に移せよ」
「・・・付いてきたら、臨海学校の時に光也とシャルを一つの部屋に閉じ込めるからな」
「いつも通りじゃん。ちょっと仲が発展するだけで、何も起こらないと思うぞ」
「・・・・・・」
「何だよその諦めたような表情は。何か駄目だったのかよ」
「・・・・・・」
「フォローしろよ!」
「あ、千冬姉」
「私の事は織斑先生と——いや、今は別に構わないか。何だ、一夏」
「今日、デパートで何してたんだ?光也が千冬姉を駅前のデパートで見たって言ってたんだけど」
「何を馬鹿な事を。私は外出などしていないぞ?今日は午後から職員の方々と打ち合わせがあったんだ。デパートでのんびり買い物している暇は無い」
「・・・え?」
——あの時の通話——
「・・・もしもし?」
『あ、蘭?私よ私』
「ど、どうしたの?いきなり電話なんて掛けてきて」
『今さ、駅前のデパートにいるでしょ』
「へっ?な、なな、何で」
『見ちゃったんだよねー私。蘭と男の人が一緒に歩いてるところを』
「み、見てたんだ・・・」
『まさか、今まで浮いた話の一つも無かった蘭が、男の人と仲良さげにショッピングとはねぇ。——んで、誰なのよ、あの人。彼氏?』
「・・・」
『蘭?』
「・・・・・・」
『お〜い』
「そ、そうだよ」
大遅刻申し訳ありませんでしたm(_ _)m
次は誰の番外編を書こうか迷っているので、活動報告にてアンケートを取ろうかと考えています。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
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蘭ちゃん
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弾ちゃん
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光也