ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
どうも、大塚ガキ男です。
ひと段落ついたので、今回から数話は光也とヒロインを交えて日常編をやろうかなと思っています。
とある日の休日。
タッグマッチ大会を終えたオレと一夏ちゃんは、ISの自主練はせず、弾ちゃんの家に遊びに行こうかと話を進めていた。まぁ、オレはいつも自主練してねェけどな!
そろそろマジで始めねェとな。取り返しが付かなくなりそうで怖い。
「遊べるらしいぞ」
弾ちゃんとの通話を終えた一夏ちゃんが、スマホを耳から下ろしながらそう言った。
「オッケー。じゃあ外出届、出しに行くか」
スマホと財布をポケットに入れ、部屋を出る。
自分の部屋を出る際に、シャルちゃんから行ってらっしゃいとだけ言われたのは、何気に初めてだったかも知れない。いつもは、どこに行くのか何しに行くのかやけに聞きたがっていたのだが。
聞く必要が無くなったのか?やだ、オレ遂に嫌われた・・・?
そんなこんなで、
「・・・誰だ」
それから数秒遅れて、ドアの向こうからダルそうな千冬ちゃんの声が聞こえてきた。もしかしたら、寝ていたのだろうか。時間帯的にはそこまで早いという訳ではなかったのだが、いつも多忙な千冬ちゃんの事だ。久々の休みに身体を休めていたのかも知れない。
「唐澤光也と、織斑i」
「待ってろ」
食い気味だった。
一度ドアを開けてオレと一夏ちゃんの姿を確認してから、ドアを閉じた千冬ちゃん。この間僅か一秒未満。
どったんばったんと、大騒ぎでもしていそうな程の大きな音が、部屋の中から聞こえてくる。
それから、
「・・・待たせたな。入れ」
疲れた笑みを浮かべた千冬ちゃんが、入室を許可してくれた。
入る。
一夏ちゃんが、足幅大きめに、そして足早にズカズカと中へ入っていく。どうしたのかと疑問に思っていると、一夏ちゃんがクローゼットの取っ手に触れた。
「あ」
千冬ちゃんの口から、千冬ちゃんらしくない声が出る。その直後、一夏ちゃんが勢い良く開けたクローゼットから大量の衣服と、ビール缶やら酒瓶やらのゴミが崩れてきた。
「千冬姉・・・。また散らかしてただろ」
「散らかしていたのではない」
「じゃあ何さ」
「物がここに居たいと懇願してきたのだ」
あらやだ、千冬ちゃんったらメルヘンチック。
あまりにもあんまりな言い訳に、一夏ちゃんがズッコケた。
「・・・もう良いや。それで?ここに居たいって懇願してきた服とかゴミとかを、無慈悲にもクローゼットに押し込んでいたのか?」
「うぅ・・・」
珍しく、一夏ちゃんに弱気な千冬ちゃん。表情がとてもぷりちーだったので、スマホでパシャパシャと写真撮影をしていると、千冬ちゃんがノールックでオレを引っ叩いた。
「痛い」
「痛くしたからな——さて、と。そろそろ本題に移るとしよう。何の用だ」
「あ、うん。外出届の紙を貰いに来たんだ」
一夏ちゃんがそう説明すると、千冬ちゃんは苦い顔をした。大方、昨日の内に取りに来てればもうちょっと寝れたのに・・・とか考えているに違いない。オレだったらそう思う。
しかし、そこは大人のレディ。先程は華麗な軌道でオレの頬を殴打したりはしたが、今回はグッと堪えてくれたようで。小さな舌打ちが聞こえてくるに留まった。
「はぁ・・・。書き方は以前に教えた通りに書けば良い。帰りはあまり遅くなるなよ」
「はい」
「りょーかい」
「ではな。書いたら山田先生にでも出しておけ」
そうやって話を終わらせると、オレと一夏ちゃんの背中を押して強制退出を求める千冬ちゃん。一夏ちゃんが掃除云々について何か言いかけていたが、千冬ちゃんの力の前ではそれも叶わず。廊下に押し出され、ドアは閉じられ鍵は締められた。
で。
場所は変わり、弾ちゃんの家へ向かう道の途中。ここを通ると思い出す、前回の記憶。オレは勢いそのまま一夏ちゃんに問うてみた。
「ンで、アレからどうよ」
「何がだ?」
「アレっつったらアレしかねェだろうがよ。箒ちゃんとの関係、アレから進展あった?」
「えー」
と、露骨に解答を嫌がる一夏ちゃん。「頼むからサ☆」と少々古めのお願いの仕方(片目ウインク+前傾で両手合わせ)でお願いすると、渋々ながらも一夏ちゃんは口を開いた。
「・・・えーっと、あのー」
「どしたよ。やけに歯切れが悪い。まさか、別れたとか!?」
「そもそもまだ付き合えてすらいないんだよ!——って、違う違う。箒との関係は、悪くはなってないんだ。むしろ」
「むしろ、好転している?」
「・・・そうだよ」
イケメンの照れ顔程殴りたい顔はない。
視線を逸らして頬を染める一夏ちゃんに軽く殺意を覚えつつ、続きを促す。
「じゃあ、どうなったんだよ」
一夏ちゃんと箒ちゃんの関係は。
「それが・・・その・・・今度買い物に行く事になりました——って、おいやめてくれ!道端でクラッカーを鳴らすな!どこから出した!」
「いやぁ、まさかあの女の子に興味ナッシングだった一夏ちゃんが箒ちゃんを買い物に誘うだなんて!こいつはめでてェ!」
一夏ちゃんの肩に腕を回し、一夏ちゃんの髪をグシャグシャと撫でまくる。「おいおいやめろよー!」と一夏ちゃんも返し——はしなかった。
オレの顔のすぐ横には、間抜け顔で「へ?」と惚ける一夏ちゃん。
嫌な予感。脂汗がたらりと
「な、何だよ」
「いや、買い物に誘ったのはオレからじゃないんだけど」
「おいおい・・・、嘘だろ・・・!まさか、あの箒ちゃんに『異性を買い物に誘う』なんて無茶をさせたってのか・・・!?」
「あ、あぁ。そうだよ。いつに無く真っ赤な顔で『私と、つ、付き合ってくれ!』だなんて誘われたからな。危うく勘違いして心臓が止まりかけ」
「それ以上喋るなこのクズ野郎!!」
肩に回していた腕に力を入れ、そのままチョークスリーパーへ持っていく。
「な、何するんだよ!」
「お?まだ話す余裕があったとはな。自主練で鍛えた身体は伊達じゃないってか!」
「落ち着けって!変なスイッチ入っちゃってるから!」
閑話休題。
「何でいきなりキレたんだよ。訳が分からん」
つい先程までシメられていた首元をさすりながら、一夏ちゃんがこちらに抗議の視線を向ける。オレはそれに中指を立てて返した。
「この鈍感野郎!お前なんか夏の暑さに気付かず死ねば良いんだよ!」
「そこまで——いや、そもそも鈍感じゃないからな!?そんな事言ったら、光也の方こそ鈍感じゃないか!」
「ハァァァァァァ!?!?寝言は寝て言えってのボケナス!オレのどこが鈍感なんだよ!鋭利だわ!超鋭利だわッ!」
「おーい」
危うく、あと数秒で『ドキッ!真夏の街中ISバトル!(一夏ちゃんの内臓)ポロリもあるよ!』が開催しかけたが、予期せぬ方向から発せられた声に動きを止め、二人して「「何だよ!」」と声の方を向く。
「・・・店前で喧嘩しないでくんね?」
そこには、困り顔の弾ちゃんが立っていたのだった。
「それで、どっちが鈍感か言い争ってたってのか。へぇ、人ん家の目の前でねぇ」
「悪かったよ。あの話は満場一致で一夏ちゃんが鈍感だって事で決着が付いたンだ。もう言い争わない」
「おぉい!言ってるそばから火種投下するなよ!」
現在地。
弾ちゃんの部屋。
オレ等の言い争いの原因を鼻で笑いながら聞く弾ちゃんと、鈍感の称号をなすりつけ合うオレと一夏ちゃん。それと、その輪に入ってるのか入ってないのか、当然のように部屋にいる蘭ちゃん。今日も清楚系なあの服を着ていて、とてもぷりてぃ。
「ハァ・・・。何て言うか、二人共楽しそうだな」
「そういう弾ちゃんは、最近どうなのよ。彼女の一人や二人出来た?」
「お前と同じ数だよ、光也」
「へぇ、じゃあ七人も居るのk冗談だよ。冗談だからそのカッターを下ろしてくれ弾ちゃん。蘭ちゃんも、右腕を極めようとしないで。関節はそっちには曲がらないように神さまに決められてンだから」
「何だよ嘘かよ。勢いあまって病院送りにする所だったぜ」
「おい」
「まぁ、私は分かってましたけどね。光也さんに彼女が出来る訳ありませんし」
「蘭ちゃん知ってるか?女の子からのコメントって滅茶苦茶胸に刺さるんだぜ」
何事も無かったかのようにカッターをペン立てにしまう弾ちゃんと、オレの右腕から手を離して隣に腰を下ろす蘭ちゃん。とんでもない兄妹だ。
数秒、室内がエアコンから出る音のみで満たされる。それだけで、話は終わり、変わった。
「それにしても、アレだよな。高校生にもなって、こうして夏休みに男三人で集まる事になるとは」
弾ちゃんが、頭の後ろに手をやり、寝転がりながらそう言った。
「オレも。高校デビューでお前等二人を置き去りにしてやろうと思ってたのに」
「え、そんなの許しませんよ」
「オレって高校デビュー禁止なの!?」
まさか、高校デビューをするには蘭ちゃんからの許可が必要だったとは。という事は、一夏ちゃんも弾ちゃんもデビュー前に違いない。デビュー前って言うと何だか新人アイドルみたいだ。side
弾ちゃんもまあまあイケメンの部類に入るし、一夏ちゃんとコンビ組ませて売り出せばアイドルとして充分やっていける。
「一夏ちゃん、それに弾ちゃん。アイドルの夢は、二人に託したからな」
「「何が!?」」
「・・・あー。何となく、何考えてるか分かった気がします。気にしなくて良いですよ」
「そんなに訳分からない事考えてたのか」
弾ちゃんが問い掛けると、蘭ちゃんは目を瞑って首を横に振った。先生、光也はもう助からないんですか?えぇ、状態は依然深刻で、手の施しようがありません——って馬鹿野郎。
「光也の訳分からん発言は兎も角として、だ」
「酷い」
「これは由々しき問題だとは思わないか?人間が四人も居て、誰もが異性と付き合っていないってのはよ」
「言われてみれば・・・って、あれ?蘭ちゃんって彼氏いないの?」
「いません!」
怒られた。
そらそうだよな。
女の子に易々と異性の話題はタブーだわな。
「イケメン一夏ちゃんと、まあまあイケメンな弾ちゃんと、ワイルドだんでぃ光也君と、キューティガール蘭ちゃん。字面だけ見れば、一人くらいリア充がいても良いくらいだけどな」
「そうだな。俺はツッコまないからな」
「そもそもボケてねェよ」
「ボケじゃねぇの!?」
「あー、もう!話が進まないじゃないかよ!」
先程までツッコミ以外にロクに話せていなかった一夏ちゃんが、ようやく
「光也さんとお兄は置いておくとして、一夏さんはどうなんですか?中学の頃とかモテモテだったじゃないですか」
「そんな事は無かったと思うけどな」
「無駄だ蘭ちゃん。一夏ちゃんは自分にアピールしてくる女の子を、皆ただの友達だと思ってやがるんだ」
箒ちゃんとの甘酸っぱい関係を二人に言う訳にはいくまい。一夏ちゃんも話さなかったし、多分あまり知られたい事ではない筈。オレは一夏ちゃんの現在を隠し、過去をディスる事にした。
誰かが口を開けば誰かがボケる。そんな時間はやがて停滞し、皆、天井を見上げたり爪を見たりし始める。仲の良い親友同士でも、たまにあるこの光景。何をしたら良いのでしょうかねぇと心中の台詞を右京さんで再生していた、そんな時。蘭ちゃんが「あっ」と何かを思い出した。
「どしたん?」
「・・・ルーズリーフを切らしていたのを思い出しました」
「マジかよ。ヤバイぜ、明日月曜じゃん。早く買いに行かないと」
思い立ったら——というか、思い出したら吉日。後に回してしまうと、忘れて結局月曜日を迎える・・・なんて事になってしまうかも知れない。
オレがそう提案すると、蘭ちゃんは途端に身体をモジモジと捩らせ始めた。心なしか頬も赤い。
「あ、あのですね。・・・お、お願いがあるのですが」
「何でも言って」
「か、かか買い物に、付いてきてくれませんか!」
「良いぜ!」
「予定とか都合があったり、面倒だったりしたらこ、断ってもらっても全然構わないんですけ——良いんですか!?」
「お、おう。良いぜ」
オレの手を取り再確認してくる蘭ちゃんに、オレは何度も頷く。蘭ちゃんみたいな可愛い子とお出掛け出来るなら、オレとしては大歓迎だし。ちゅーか、オレの方からお願いしたいくらいだ。
「では行きましょう!今すぐに!」
「よっしゃ、行くか!」
先に立ってオレの手を引く蘭ちゃんにつられ、立ち上がる。
時刻は午後三時。買い物をするなら充分間に合う時間帯。
一夏ちゃんと弾ちゃんに「じゃあ、行ってくるわ」と手を振り部屋から退出。蘭ちゃんとの予期せぬ買い物イベントに、オレは心を躍らせるのだった。
最初のヒロインはなんと蘭ちゃんです。上下構成で、蘭ちゃんとの出会いを書けたらなと思っております。
蘭ちゃんって・・・良いですよね。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
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蘭ちゃん
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弾ちゃん
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光也