ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
大遅筆、失礼しました。
一夏ちゃんは、千冬ちゃんの言葉通り、銀の福音に囚われていた。その片手が一夏ちゃんの身体を鷲掴みにし、ぶらぶらと意識の無い一夏ちゃんの両足が宙に揺られている。貫かれていたと思っていた体は、胴体の真ん中に風穴が開いている──なんて事はなく──ないのだが、ファンタジーの三日月のように、一夏ちゃんの胴体は抉られていた。
その姿に、オレは
時間は無い。
遂に、二度目の対面。銀の福音はこちらに視線を向けたまま攻撃には移らず(奴には目が存在しないので、本当にこちらを見ているのかは不明)、ただ一夏ちゃんを握り締めたまま動かないでいる。
一夏ちゃんは銀の福音の手の中で、一夏ちゃんの白式は箒ちゃんが持っている。オレ等は銀の福音から一夏ちゃんを救い出し、一夏ちゃんに白式を装着させ、尚且つ銀の福音をここで止めなければならない。
「……」
動かない敵と、そんな敵を前に迂闊に動けないでいるオレ等。この場合、けしかけるのが正解なのか、敵の動きを待つのが正解なのか。
分からない。
互いに目配せ。遠い所から敵に銃口を向けているセシリアちゃんが、『いつでも撃てますわ』と皆に声を掛ける。
「……行こう。一夏ちゃんを助けるんだ」
オレの声を受けて皆、動き出した。
✳︎
そもそもの話、一夏がこんなになってしまっているのは私の所為なのだ。
最初の出撃の時、はっきり言って私は舞い上がっていた。
やっと、私にも専用機が与えられるのだと。
やっと、一夏と同じ舞台で戦えるのだと内心歓喜し、姉に初めて感謝した。
その油断がいけなかったのだ。
与えられたに過ぎない力を、私は100%全て扱い切れると思い切っていたからだ。この力で一夏を助け、銀の福音を退けようと。光也の奴が起きたら胸を張って私が活躍したのだと自慢してやろうと。
私は、思い上がっていたのだ。
一夏が密漁船を助けようとした時も、私は人命救助という最優先事項が頭から抜け落ち、銀の福音を倒す事だけを考えてしまっていた。
そんな、稚拙でどうしようもない私の所為で一夏に負担をかけ、一夏は銀の福音に致命傷を負わされてしまった。
私の所為なのだ。
だから、私が。
私が。
自分の尻拭いは自分でしなければならないのだ。
一夏を無事に取り戻す為には。
一夏の目が覚めた時に、少しでも胸を張って謝れるようにする為には。
私が、しゃんとしなければならないのだ。
✳︎
「シャルちゃん、援護頼んだ!」
「任せて!」
援護なんて言葉を使ってはいけないくらいの、不恰好な突撃。シャルちゃんにほぼおんぶに抱っこの、この戦法で銀の福音に近付き、一夏ちゃんを掴んでいる手を離させる為の攻撃をしている。
しかし、この作戦はあまりにも難しく、銀の福音が負ったダメージはまぐれで当たったオレの攻撃によるかすり傷と、セシリアちゃんや皆の遠距離射撃によるダメージだけだった。HPバーが存在するなら、確かに銀の福音のHPは減っているのだろう。けれどもそれは微々たるもので、銀の福音を戦闘不能にしようと思ったら気が遠くなる程の時間を掛けなければいけないくらい、この戦いはスムーズに事を運べずにいた。
「クソッ……! どうすれば」
一夏ちゃんを、一刻も早く助け出さなければ。そんな焦りが、オレから平常心を失わせる。
ルリちゃんは動かない。
氷魚ちゃんは認めてくれない。
頼れるのは自分だけ。正真正銘、自分だけの力でデタラメに強いコイツをどうにかしなければならない。今までサボりにサボっていた分のツケが、ここに来て俺の背中に一気にのしかかって来ていた。
「またその攻撃かよ!」
銀の福音の身体から360度全方位に向かって放たれるエネルギー弾。銀の福音との距離間故に完全に避ける事は出来ないそれを、かすり傷に留められるくらいの位置取りで何とかやり過ごす。
続いて、オレの方向に放たれたミサイル。たった一発だと、易々と避けてみせるが、追尾機能のあるソレは背後を取ろうとオレの後ろでUターンしてくる。予想外の軌道に背筋が凍るが、後方にいるセシリアちゃんが撃ち抜いた。結構な速度が出ているミサイルを正確に撃ち抜くだなんて、やはりセシリアちゃんは凄いなァと思いながらも、気持ちはしっかり切り替えて銀の福音に接近。
手に持った太刀を振りかぶるが、銀の福音はあろう事か一夏ちゃんを盾にしやがった。振りかぶったまま動きを止めてしまい、銀の福音がその一瞬を見逃す筈もなく、オレの脇腹を蹴り抜いた。吹き飛び、海面を突き抜け、大きな水柱が上がる。これ以上の追撃は、と急いで海から飛び上がった所で。
『拙い!
チャンネルを通じて、ラウラちゃんの声が聞こえてきた。
「
『恐らく、たった今、鈴さんが破壊したウィングスラスターがトリガーとなっているのかも知れませんわ』
曰く、オレが蹴り飛ばされた時の一瞬の隙を突いた攻撃。じゃあ、オレの頑張りは無駄ではなかったのかと内心安堵してしまいそうになるが、それによって
銀の福音は先程とは形状を変え、大きな水色のエネルギー翼が嫌でも目を惹く。依然、一夏ちゃんは銀の福音に捕らわれている。シャルちゃんやラウラちゃんによる射撃──それを避けるならばどうしても生じてしまう
「どうするよ」
『私は光也殿がどのように動かれようとも、完璧に援護してみせるつもりではありますが──お気を付け下さい。とても嫌な予感がします』
「分かった。ありがとうラウラちゃん。他の皆は?」
『欲を言わせてもらうと、僕はもう少し射撃で錯乱させてほしいなって。銀の福音は近距離も遠距離をどっちも出来るみたいだけど、やっぱり決め技は遠距離みたいだから。ヘイトを受け持つなら、距離は遠い方が良いんじゃない?』
『善処致しますわ』
『しかし、一夏の事も考えねばなるまい。そんなに銀の福音をあちらこちらへ動かしていたら、一夏への負担も大変な事になる』
「……確かに。じゃあ、まず一夏ちゃんを奪還しよう」
『具体的な作戦は?』
「無いさ」
『アンタねぇ……』
「けど、アイツは、ラファール・リヴァイブ──ISの理論を戦闘に取り入れてないオレの動きは予測出来ない筈だ。スターターパックってヤツ?」
『……ビギナーズラックって言いたい訳?』
「そう、それ」
『ハァ……。本当なら、ちゃんと考える所は考えないと勝てるもんも勝てないわよ。とか、色々言いたいけど。光也は昔っから良くも悪くも馬鹿げてるものね。良いわ、出来る限り合わせるから、好きにやりなさいよ』
「鈴ちゃん、サンキューな」
『はいはい』
「セシリアちゃんも、サンキューな」
『いえ、こちらこそ』
「シャルちゃんも、サンキューな」
『ううん。どうって事ないよ?』
「ラウラちゃんも、サンキューな」
『私には勿体無い御言葉です』
「箒ちゃんも、サンキューな」
『……この戦いが終わったら何度でも言ってもらうからな』
ありがたい事に、オレ等の作戦会議中には大人しくしていた銀の福音を、睨み付ける。
それから。
銀の福音に向かって飛び出した。
エネルギー翼から放たれるエネルギー弾。その弾幕を掻い潜り、肉薄。眠ったように目を閉じている一夏ちゃんへと手を伸ばす。伸ばしたオレの手には何も握られていない。それもその筈、オレが先程まで握っていた太刀は、今この瞬間、銀の福音の頭上から地球の引力に従って真っ直ぐに落ちてきている所なのだから。
太刀が銀の福音の肩に突き刺さり、オペラ歌手のような超高音の悲鳴が空気を激しく震わせる。ほんの一瞬、一夏ちゃんの身体を掴んでいた力が緩まり──
「貰ったッ!」
一夏ちゃんを、取り戻す事に成功する。
「箒ちゃん!」
「応、受け取れ!」
箒ちゃんがこちらに向かって白式の待機状態であるガントレットを投げる。オレの手に届くまで突っ立っているのは、銀の福音に対して隙を与え過ぎなので、描く弧の先を予測して飛んでガントレットを迎えに行く。
「一夏ちゃん、お前の物だろ!」
片腕で抱き抱えた一夏ちゃんの手首にガントレットを嵌め込む。それと同時にチャンネルを通じて絶叫。
『光也、後ろ!!』
飛びながら反転し、背後だった場所へと目を向けると、オレと一夏ちゃん目掛けて一発のミサイルが放たれていた。銀の福音の弾道予測よりも少しオレの立ち位置はズレているらしく、このまま棒立ちをしてもかすり傷程度の傷しか負わない。しかし、シールドエネルギーの残量やら一夏ちゃんの身やら色々な事を考えて──オレはルリちゃんを待機状態に戻した。
重力に従い、海へと落ちていくオレと、オレの腕の中の一夏ちゃん。
『光也さん!?』
「心配しないでくれ。大丈夫だから」
段々と地面が近付く。
それから、着水。
瞬間。
「──痛ってぇえええええ!!」
傷口に海水が染み込み、絶叫。それから、一夏ちゃんが目を覚ました。
「光也! 状況を説明してくれ!」
お腹が抉れているとは思えない程元気いっぱいで、それでいて即座に自分が置かれている状況を確認する一夏ちゃん。お前スゲェな。もうちょい驚けよ。
一つ一つの問いに答えている暇は無いので、「良いから、取り敢えず白式を起動させてくれェ」とだけ伝える。
「……銀の福音。そうか、まだ終わってないのか」
「おうよ。怪我してる所悪いけど、多分一夏ちゃんと箒ちゃんじゃないとトドメ刺せなさそうなのよ」
「それは了解したんだけど、光也は?」
「オレは一夏ちゃんの後に海面から飛び出して、適当な所で援護する」
「……」
「ほら、時間無ェんだって」
「…………分かった。来い、白式」
オレの言葉を聞いて、すぐさま白式を起動させる一夏ちゃん。その後ろ姿は、なんだかいつもと違う感じがして。
一夏ちゃんを見送ってから、自嘲気味に笑う。
俺の周囲の海水は、赤く濁っている。
「あのミサイル、追尾機能が付いてるんだったわ」
溜息。
「怪我人を助けようとして自分が怪我するなんて、笑えねェよな」
✳︎
凄い。
初めて白式を起動させた時の、俺の最初の感想はそれだった。
初めて会った筈なのに、どこか懐かしい感じ。そんな第一印象を白式から受けたのは今でもよく憶えている。
セシリアとの決闘から始まり、鈴とのクラス代表トーナメント。シャルと一緒にラウラと箒に挑んだ時もあった。
白式と俺は、ほぼ毎日、いつも一緒だった。光也がISと話せると聞いた時には俺にも出来るんじゃないかと、箒の居ない間に自室でガントレットに向かって懸命に話し掛けたりもした。残念ながら返答はなかったが、それでも毎日話しかけたら、白式に乗った時は何となく白式の機嫌が分かるようになった。
俺は白式に愛着があった。
白式は、中々癖のある奴だった。
燃費は悪いし、武器は刀一本しかない。
けれども、速さはピカイチだった。
「箒!」
銀の福音が俺を捕捉する前に、全速力で空を駆ける。ハイパーセンサーなんて使わなくても、箒がどこにいるかなんてすぐに分かった。
箒が驚いたような顔をして俺を見る。俺は箒の目の前で止まると、箒の手を取った。
「箒。聞いてほしい事があるんだ」
「ど、どうした」
箒が何やら顔を赤くしているが、関係無い。
この場にはそぐわない発言かも知れないが、関係無い。
銀の福音に攻撃されるかも知れないが、関係無い。
「俺、銀の福音にやられちゃったんだよな。さっきまで寝ててさ……それで、夢を見たんだ」
「夢?」
「女の子と、女騎士が出て来たんだ。光也がたまに言う、灰色の世界ってヤツ。俺にもそれが体験出来たんだよ。話した時間こそ少なかったけどさ。俺は何が大事か、何を守るべきかって、あの二人に改めて気付かせてもらったんだ」
「……そうか」
「箒の事を考えると鼓動が速くなって、顔が熱くなって。でも全然嫌じゃなくて、その感情は俺にとって初めてで」
「……一夏」
「この気持ちをどう伝えたら良いのか分からなくて。そもそも伝えて良いのかも分からなくて。いきなりこんな事伝えたら迷惑になるんじゃないかとか、もし断られたら同室なのにこれからどうすれば良いんだとか。今度出掛けた時に伝えよう。臨海学校の自由時間に伝えよう。今度こそ、今度こそって怖気付いて──それで、この思いを伝えるのは、もしかしたら今なんじゃないかって。あぁ、もう。少し長いよな」
緊張で、どうにかなってしまいそうだった。
顔から火が出る。いや、確実に出てる。
周囲の事なんて全く目に入らない。俺の目には箒しか映ってないからだ。
深呼吸。
少し回り道をしてしまったが。
今度こそ、意を決する。
「箒、好きだ。俺とずっと一緒に居て欲しい」
伝えた。
目の前が真っ白になる。真っ白になって真っ白になって──俺の視界の中心で箒が笑っていた。
「何をそんな思い詰めた顔をしている。男ならしゃんとしろ」
「わ、悪い」
「残念ながら、私は耳が遠くてな」
「え?」
「今夜──そうだな、食後の自由時間にでも、二人きりになれた時にもう一度、一夏の口から聞かせてくれ。二人きりになれたら、私は耳が遠くならない自信がある」
「……おう!」
「ふふっ。そうと決まれば、銀の福音には一刻も早く退場してもらわねばなるまい! 受け取れ、一夏!」
箒が俺の手を握る。何をするのかと一瞬思考が止まったが、箒の掌から不思議な力が伝わってきて、自分のエネルギー残量を確認して。
「す、凄ぇ! シールドエネルギーが!」
「姉さんに教えてもらったのだ。私の紅椿は、一夏の白式と対になるIS。一夏の無茶を支える事が出来るISなのだと」
やがて、繋がれていた手が離される。
「行くぞ、一夏。二人なら出来る」
「……あぁ、そうだな」
「皆、少しばかり勝手な事を言わせてもらうが、構わないか」
『どうせ、援護してくれとか合わせてくれとか言うんでしょ。全く! 好きにしなさいよ! 今日の主役はアンタ達なんだからね!』
「……ありがとう。では──頼んだ」
✳︎
「……おいおい、今日の主役は一夏ちゃんと箒ちゃんじゃねェのかよ」
毎度お馴染みとなりつつある、灰色の世界。
つい先程、一夏ちゃんによる一世一代の大告白が終えた所で、大人になった親友の姿に涙すら浮かびそうな場面で、唐突のコレ。
この世界に入る前に海面から顔だけ出して波間に揺られていたオレは、灰色の世界では海中の身体は海水によって固められ、首から下は身動き一つ出来ない状態になっていた。
負った傷は海水によく
傷は痛いけど。
首を回して、周囲を見渡す。灰色の世界なので、空中にはISを身に纏って戦う仲間達。
目の前には、ハンカチで涙を拭く氷魚ちゃん。レーシーアイマスク付けてるから、ハンカチで拭っても意味無いんじゃ? という疑問は置いておく。
「氷魚ちゃん、何で泣いてるの?」
言ってから、そう言えば氷魚ちゃんの言語はオレには理解出来ないのだと思い出す。今度こそ、その未知の言語を解析出来やしないかと耳を澄ませば、氷魚ちゃんの口からは衝撃の言葉が放たれた。
「……ぐすん。嗚呼、やっぱり箒さんと一夏さんの絡みは最高ですね」
「日本語じゃんかよォ」
スラスラと流暢な日本語で頬に流れる涙をハンカチでチョチョチョと拭う氷魚ちゃんに、オレは思わずツッコミを入れてしまった。
氷魚ちゃんはハンカチを黒いドレスのどこかに仕舞ってから、こちらに向き直った。いや、海面に埋まってるオレを見下ろした。
「私の願い、叶えてくれたんですね」
「願いってのが何の事なのかは分からねェけど……叶ったなら良かった」
「はい。お陰様で、推しの笑顔が見れました」
「……推し?」
「はい!」
格好に似合わず、大声で溌剌と返事をしてみせた氷魚ちゃん。オレの中の掘り下げるなセンサーが反応したので、スルーして話を進めさせてもらう。ごめんね。女の子とお話したいのは山々なんだけど、色々時間ねェんだよね。
この世界だから時間とか関係無いけれども。
「……ま、まァ。これで、氷魚ちゃんはオレの事を認めてくれたって事で良いんだよな?」
「はい!」
先程までの苦労は何だったんだってくらいに、トントンと話が進む。もう少し達成感というか、ご褒美的な何かがあってもいいんじゃないかとか、少し邪な感情が湧いてくるが、抑えて問い掛ける。
「じゃあ、氷魚ちゃん。早速で悪いけど、力を貸してくれ」
手を合わせる事も出来ないが、首を少し前に傾けてお願いする。1秒程経ってから頭を上げる。
「戦うのは全然構いませんが、一つだけ」
ピンっと人差し指を立てた氷魚ちゃん。何? と問えば、こんな言葉が返ってきた。
「美味しい所は、箒さんと一夏さんに譲る事」
「お、おう……」
「ルリさん同様、私にも操縦者様を操って戦闘を行う力はあります。私はルリさんのような気分屋でもなければ戦闘狂でもないので、基本的には貴方の指示に従いますが──これだけは憶えておいて下さい。私は、箒さんと一夏さんが輝くような戦い方しかしませんので。私が望むのは自分の勝利でも貴方の勝利でも無ければ、量産型ISの地位の向上でも何でもなく、箒さんと一夏さんが良い感じになる事なので。
最後にキッチリと念を押した氷魚ちゃん。この子もやっぱりクセ強いなとか色々な事を一瞬のうちに考えてから、「分かった。これからよろしくね」と笑えば、氷魚ちゃんも「はい。よろしくお願いします。と笑ってくれた。
「では、私の
「その四文字に凄い意味を孕んでそうな言い方は置いといて……。銀の福音を退けようぜ」
「は?」
「一夏ちゃんと箒ちゃんの幸せを願って裏方に回りつつ、なるべく操縦者に傷は付けないように銀の福音を退けて下さい」
「分かりました。操縦者様の
「取りたい気持ちは山々なんだけど、動けないんだよな」
ニッコリ。
氷魚ちゃんは、良い顔で笑った。
✴︎
銀の福音に抉られた脇腹の痛みは、気付かない内に何故か治っていた。白式の様子が変わって(皆が言うには、
しかし、勝負を決するには一手分足らず、攻撃しては攻撃され、守られては守っての均衡状態に陥ってしまっていた。
刀を握る。力は幾らでも湧き上がってくる感覚なのに、
「一夏、どうする」
「……どうすれば良いんだ」
刀を投げて、両手で頭を抱えたくなるような状況。指揮を執る事の責任の重さをとくと味わっていると、海面で何かが爆発した。
「──箒さん! 一夏さん!」
海面から現れた、水滴でキラキラと輝く半透明の機体は、俺と箒の名前を呼びながら瞬く間に銀の福音の背後を取った。恐るべき速度で銀の福音の動きを封じたソイツはとても見知った顔をしているが、口調が普段とは全く違くて。聞きたい事は山ほどあるが、今は一言。偶然にも箒と言葉を被らせながら、こう言った。
「「でかした!」」
✳︎
「──いッッッてェ!!!!!!!!」
「おいそこの馬鹿二人。黙れ」
「ほら、光也の所為で怒られただろ」
「一夏ちゃんがポーカーで負けたからってオレの脇腹抓るからだろ! 一夏ちゃんと違って、オレの傷はパッと治らねェの! 包帯の下は普通にR18グロテスク警報出てんの!!」
「はぁ!? 元はと言えば、光也がイカサマなんかするからだろ!」
「バレなきゃイカサマじゃねェんだよ!」
「バレてるからイカサマだろ!」
「確かに!!!!」
「おい、降ろすぞ」
「「失礼しました」」
長いようでとっても短かった臨海学校も終わりを告げ、バスの車内。荷物のチェックや点呼、先生方の色々な事情によりまだバスは発車しておらず、暇なオレ達はトランプで仲良く遊んでいたのだが、オレのイカサマ(後ろの席で観戦してるラウラちゃんから良い手札を貰う)がバレてしまい、今の状況となっていた。
千冬ちゃんに怒られてしまったので、今度は(恐らく)静かに出来るブラックジャックでもやろうかとカードを集めた所で、バス車内の前方から美人な女の人が歩いてきた。
「私はナターシャ・ファイルス。
突然現れたナターシャさんは、そう言って一夏ちゃんの手を取ると、両手でブンブンと振った。握手。それから、段々と一夏ちゃんに顔を近付けさせていって──
「あ、あの。俺、彼女居るので」
キリリ。とても格好良い一夏ちゃんの一言に、隣(窓側)に座っていた箒ちゃんがウットリとしていた。
「そう? じゃあ、君にあげる」
チュッ。
一夏ちゃんに拒まれてしまったナターシャさんは、不意打ち気味に俺の頬にキスをしてきた。いや、して下さった。あまりの出来事に意識を失いかけているオレに気付いていないらしい。
「貴方にも感謝してるのよ? 貴方のISが私の
「あ、どうも」
「──え、ボウヤ?」
信じられない一言によって意識を戻すが、ナターシャさんはもうバスから降りてしまっていた。
「……光也さん?」
隣(窓側)に座るセシリアちゃんが、涼しげな笑顔でオレと腕を絡めた。
「……光也殿?」
後ろ(通路側)に座るラウラちゃんが、オレの右手を掴んでスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
「アンタねェ……」
後ろ(窓側)に座る鈴ちゃんが、溜め息と共にオレの耳を引っ張った。
「……光也」
隣(補助席)に座るシャルちゃんが、オレの脇腹を容赦無く抓った。
この場面に関わりたくないのか、一夏ちゃんと箒ちゃんは前を向いたまま二人で仲良く談笑をし始めている。
IS学園御一行様を乗せたバス数台が発車しすると同時に、開いているバスの窓から外へと、この地にオレの声が高らかに響いた。
「──いッッッてェ!!!!!!!!」
これにて、銀の福音編終了です。いやぁ、遅筆も相まって滅茶苦茶長かったです。
実は自分、これから先本編を進めるか迷っていまして。
番外編はいくつか書くつもりでいるのですが、これから先の本編のお話が自分の中であやふやな物となっているのです。8月中は実家に戻るのでISの原作を読む機会があるのですが、9月以降はどうなるか……というのが正直な所です。
まぁ、小説持って帰ってくれば問題無いので、書かせていただきます。何度も言うように遅筆ではありますが、こんなちゃらんぽらんな作者ではありますが、今まで応援して下さってありがとうございました。これからも、応援よろしくお願いします。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
-
蘭ちゃん
-
弾ちゃん
-
光也