ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
勢いで書いたので、誤字脱字があるかも知れません。その時はご指摘いただけると有難いです。
千冬ちゃんだけだと少し短い気がしたので、少し書き足しました。
地味に、一話辺りの文字数最高記録です。
「・・・・・・ハァ」
織斑千冬は、
千冬に溜め息を吐かせる原因ーー悩みの種は、唐澤光也。
目の前には、背筋を伸ばし、正座で床に座る光也。心無しかワクワクしているように見えるのは、恐らく千冬の気の所為だ。
千冬はベッドに腰掛け、光也に問うた。
「・・・何故こんな事をした」
千冬は語気を強くしてもう一度問うた。
「何故、女子更衣室から光也が出てきたんだ」
「いや、千冬ちゃん。これにはちゃんとした訳がありまして」
恐る恐る弁解を始めた光也。言うべきか言わざるべきか言葉に詰まっているようだったので、千冬は目で『続けろ』と伝えた。
何故こんな風に育ってしまったのか。千冬は考えた。
光也との付き合いは長い。一夏と光也が出会った幼稚園の頃、当時学生だった千冬は二人の面倒を見ていたのだ。あの頃から、舌ったらずな声で『ちふゆちゃん、ちふゆちゃん』と呼ばれていたっけな。千冬は昔に思いを馳せた。
(思い出してみれば、あの頃から求婚されていたような気がするな。全く、嬉しいと言うか何と言うか)
「ーーって訳なんすけど。・・・・・・千冬ちゃん?」
「お、おう。何だ」
「ちゃんと聞いてた?」
「もう少しハキハキと話せ。やり直しだ」
「なんてこった!」
説教をしている手前、昔を思い出していて話を聞いていなかったとは言えないので、光也に責任転嫁。
頭を切り替え、今度こそ真面目に話を聞く。
光也の弁解を要約すると。
放課後、セシリアに部屋に来ないかと誘われた光也。
しかし、何となく雰囲気が怪しかったのでその誘いを(断腸の思いで)断る。
何故?と問われる光也。女子に面と向かって怪しいとは言えず、無言。問われる。無言。
いつの間にか始まる追いかけっこ。流石は代表候補生、女子とは言え、体力は常人よりも遥かに上。中々撒けず、息も絶え絶えに偶々見付けた女子更衣室に飛び込んだ。
千冬は全てを聞き、それから一言。
「馬鹿者」
「いやほら、曲がり角を曲がってすぐだったから、入った所は見られなかった訳ですよ。セシリアちゃんも、まさかオレが女子更衣室に身を潜めてるとは思わなかったんでしょうね。逃げ切りましたよ」
「女子の気持ちを考えろ。お前が逃げ込んだ所為で、女子の心がどれだけ傷付いた事か」
「あ、それに関しては幸か不幸か、女の子は誰もいなかったからセーフ」
「入った時点でアウトだ馬鹿者」
落ちる拳骨。光也の口から「ぐぇ」と声が漏れた。
それから、千冬は一つだけ疑問に思った事を聞いてみた。
「しかし、女好きのお前が女子から逃げるとはな。そんな事もあるのか。普通は逆だろうに」
「部屋に行ったら、間違いが起こるかも知れないじゃないすか」
「お前の理性は、女子の部屋に入った程度で崩れ去る程度のヤワな物だったのか?」
「危ないかも」
「おい」
千冬に世界レベルの眼光で睨まれたので、光也は慌てて言葉を訂正した。
「オレは全然大丈夫。だが、向こうから迫られたらその限りじゃねェ。据え膳食わぬは何とやらだ」
「お前の考えについてはこの際何も言わんが、それを周りに知られてみろ。ハニートラップを仕掛けてくる輩が現れる恐れがあるからな。決して口外するんじゃないぞ」
「分かってるって」
「分かっているなら良いが・・・・・・あぁ。最近のオルコットの様子が可笑しいとは思っていたが、そういう事だったのか」
「そういう事。ったく、決闘中のオレは何をしでかしてしまったんだか」
「・・・覚えていないのか?」
言われてみれば、あの戦いでの光也は初心者とは思えない程の動きをしていた。動きの速さもさることながら、注目すべきは動きのトリッキーさ。速さを少しも落とさずに左右への方向転換。上昇や下降も予測出来るソレではなく、セシリアが戸惑っていた事が千冬には印象的だった。
戦いが終了した直後にISを解除した光也が倒れたので、千冬はその関係でワタワタしていてすっかり忘れていたのだ。
「全然。気が付いたら保健室のベッドの上で驚いた」
「原因の見当は付いているのか?」
問われて、光也は思わず固まった。
(・・・・・・参ったなァ。アレはーールリちゃんの事は話して良いものか。ルリちゃんから言うなとは言われていないが、言った所で信じてもらえるのかも問題だ。ISと話せるなんて、オレ自身聞いた事が無い。・・・うーん、どうしましょ)
視線を彷徨わせながら考えていると、千冬が気持ち優しめの声でこう言った。
「光也。何を悩んでいるのかは知らんが、私と光也の間に隠し事は不要。そうだろう?」
「ち、千冬ちゃん・・・!」
光也はその言葉に感動し、あの日の出来事を話す事にした。
ラファール・リヴァイブに触れた瞬間、時が止まった事。
少なくともラファール・リヴァイブは、人間を
少なくともラファール・リヴァイブには、自由に言葉を発する程度の自我がある事。
少なくともラファール・リヴァイブは、操縦している光也の頭の中に入って、光也を操れる事。
光也はラファール・リヴァイブ以外の機体とはまだ会っていないから何とも言えないので、言葉の最初に『少なくとも』と付けた。
全てを話した後、千冬を見る。
千冬は目を閉じたままピクリとも動かない。
(ラファール・リヴァイブ・・・ルリちゃん同様、打鉄や白式にも自我があるならば、オレとしてはどんな女の子ーーげふんげふん。どんな事を考えているのか気になる所だ。まぁ、もしかしたら自我が男のISとかもあるのか?
取り敢えず、今度見かけたら話し掛けてみようか。一夏ちゃんの白式の待機状態はガントレットらしいし、話し掛ける事は割りかし簡単。事情を説明すれば分かってもらえるだろ。そもそも、千冬ちゃんにも説明したんだから、一夏ちゃんにもいつか説明しなくちゃいけないしな)
「俄かには信じられん話だ」
目を開いた千冬は光也の話に対して、このような感想を述べた。光也はその言葉を予想出来ていたので、すぐさま返す。
「そりゃそうだ」
千冬ちゃんの周りの説教オーラが薄まってきたので、光也は口調を敬語からタメ口に戻しつつ言葉を返した。
ブリュンヒルデという輝かしい称号を貰う程ISに関わりがある千冬としては、光也が今語った話はそう簡単には信じられないのかも知れない。光也はそう思っていたが、次に千冬の口から出てきた台詞は予想外だった。
「まぁ、ISを作ったのはあのイカれ兎だ。そういう事もあるのかも知れんな」
「・・・え、信じんの?」
「嘘だったのか?」
「いや、真実だけど。本当なんだって!信じてくれよー!みたいなやりとりがあるもんだと思ってたから」
「ISは、未だに不明確な所がある」
「オレが体験したのは、それって事?」
「あぁ。それに、決闘前の光也のあの状況では不自然だった、『ISとか量産機じゃなくて、ちゃんとラファール・リヴァイブって名前で呼ばないか?』という発言にも説明が付く」
「おー」
思わず拍手。千冬の推測云々についてもそうだが、単純に、光也の台詞を千冬が覚えていてくれていた事が嬉しかった。
「・・・まぁ、説教はこれくらいにしておいてやるか」
「ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。子供は大人に迷惑をかけるものだ」
「千冬ちゃん!いやーー千冬姐さん!愛してるうううう」
「えぇい、抱き着くな!」
「あ〜良い匂いーーぐぇぇ」
光也は千冬の腰に抱き着いて、どさくさに紛れてくんかくんか。直後に腹を殴られて距離を離された。
倒れたような姿勢で、うつ伏せでベッドに顔を埋めたまま、光也がくぐもった声で言う。
「・・・・・・何だかんだ、千冬ちゃんと二人きりで話すのって凄い久しぶりだよな」
言われて、千冬も記憶を思い起こしてみる。
「言われてみればそうだな」
「寂しかったなァ」
「本気か?私と会っても怒られるだけだろうに」
「そんな事ねェって。千冬ちゃんが優しいのはオレ知ってるから。怒ってくれるのも、オレの事をしっかりと考えてくれているからだよな」
「・・・・・・ハァ」
取っていた距離をゆっくり詰めて、光也の隣に腰掛ける。抱き着かれなかった事に安堵し、話を続けた。
「お前だけだ。私を普通の女の子としてみてくれるのは」
「普通の女の子だから当たり前だろ」
「ブリュンヒルデという称号の所為で恐れられているのにか?」
千冬は言ってから、心の中で訂正をする。
(いや、ブリュンヒルデに限った話ではないのか。学生の頃から私は、女子にあるまじきその膂力で同性からも異性からも怖がられていた。
怖がらないとは言え、束は私の力を実験に使おうとするし、幼少期の一夏は私をヒーローか何かだと思っていた節があったからな。そんな中で、光也は私に恐れず話し掛け、好きだ好きだと好意を寄せてくれる。
等身大の私を見てくれる。
光也には心から感謝している。・・・・・・そして、その感謝が今ではただそれだけの感情ではなくなっている事も、私も薄々分かっているのだ)
だけど、千冬はそれから先の事を敢えて考えないようにしている。千冬と光也は教師と生徒の関係。間違いが起こってはいけないのだ。
千冬からの問い掛けに、光也は「何言ってんの」と笑いながら返した。
「それは、千冬ちゃんが頑張ったが故の称号だろ?恐れる要素なんて何も無いじゃん」
(お前にとっては何気無い一言なのかも知れない。だがな、そんな一言で、私は救われているんだ)
決して言葉には出来ない、光也への想い。千冬は、これから先もこの想いを隠し続けるのだろう。言葉にはせず、心の中で語り続けるのだろう。
だが、それで良いのかも知れない。千冬は笑った。
「どした?」
千冬が突然笑ったので、不思議に思った光也が問い掛けた。千冬は「何でもない」と返す。
誤魔化しついでに時計を見る。そんな千冬を見て、光也も釣られて時計に視線を移した。
「あちゃァ・・・・・消灯時間過ぎちゃったな。この空間は名残惜しいけど、もう帰るわ」
光也は立ち上がり、千冬に別れの挨拶を告げた。
しかし。
「いや、消灯後に部屋から出る事は許さん」
「・・・・・・へ?でも、千冬ちゃんは寮長な訳だし。少しくらい融通利かせてくれても良いんじゃねェ?それに、オレがここにいたら千冬ちゃんも困るだろ」
「私は別に構わん」
「えェ!?」
「ほら、もう寝る時間だ。布団に入れ」
「真顔で何言っちゃってるんだ千冬ちゃん!熱でもあるのか!?」
「静かにしろ。こんな時間に寮長室からお前の声が聞こえたら、近くの女生徒が不審に思うだろう」
「うぐ・・・!だ、だが千冬ちゃん。どうしちゃったん?なんか千冬ちゃんらしくないような」
「何を言う。私はいつでも私だ」
「カッケー」
「遠慮するな。私が良いと言っているんだ。・・・それとも何だ?お前は寝ている私に襲い掛かるつもりなのか?」
「そんなまさか!オレはそんな卑怯な事はしねェぜ!やるなら甲斐性を備えたオトナな男になって、相手の同意を得てからって決めてンだ!」
光也は手をブンブンと振って否定。それを見て、千冬がニヤリと笑ったのだが、光也は気が付かなかった。
「なら何も問題無いだろう。ほら、入れ」
「え、あれ?」
千冬が布団に入り、一人では十分過ぎる程広いベッドの右半分を開けて、そこをポンポンと叩いた。
「早くしろ、寒い」
「わ、・・・・・・わっかりましたァ・・・・・・!」
何に耐えているのか、どんな葛藤と戦っていたのか、下唇を思い切り噛みながら光也は布団に入った。電気はすぐに消えた。
光也が一人部屋だったのが唯一の救いだろうか。仮に一夏が光也の立場だったなら、箒が黙っていないだろう。
すぐ隣には弩級の美女。消灯時間は過ぎ、眠らなければいけない筈の時間だが、当然ながら今の光也は睡眠出来る状態ではない。鼓動は早くなるし、嗅覚は正常に働いて、不思議と心が落ち着く千冬の匂いを光也に届ける。
想いは言葉にはしない。光也が学生の内は、光也からの熱烈アプローチにも応えるつもりは無い。千冬はそう決めている。
しかし、千冬は時折見せる男顔負けの男らしさを発揮しーー前言を易々と撤回し、こう結論付けた。
確かに、想いは言葉にしてはいけないし、光也からのアプローチに応えてもいけない。
だが、誰にもバレなければ何も問題は無いだろう。と。
【あの時のセシリア】
「あら、光也さん。奇遇ですわね」
「おうセシリアちゃん。オレがトイレから出てきた瞬間に話し掛けてくる事を奇遇と言うなら、確かに奇遇だな」
放課後、トイレから出てきた光也に横からセシリアが笑顔で話し掛ける。待ち伏せていたのかと聞かれれば、セシリアは含みのある笑みを浮かべながら『いいえ』と答えるだろう。
「じゃあな、セシリアちゃん。夕飯の時一緒に食べようぜ」
そう言って、立ち去ろうとする光也。しかし、目にも止まらぬ速さでセシリアが立ちはだかった。動作に数瞬遅れて動く金髪を綺麗だなァと思いながらも、一連の流れは偶然だと思い、セシリアを避けて再び歩き出す。また通路を塞がれた。ここまでくれば、偶然ではあるまい。光也は問うた。
「・・・セシリアちゃん?」
「部屋の間取りという言葉で思い出したのですけれど、わたくし、少々部屋の間取りを変えてみたんですの」
「オレそんな事言ってねェよな!?」
「はしたない事は承知ですが・・・・・どうでしょうか?わたくしのお部屋でお茶でもしませんこと?」
「オレの話聞いてないし・・・」
いつも通りのやりとりに光也は溜め息を吐きつつ、目の前で提案してきた金髪美少女を見詰めてみた。
美人は三日で飽きるという言葉は嘘だな、と光也はしみじみと感じた。
「うーん・・・・・・」
セシリアからの誘いは飛び上がりたい程嬉しいものだが、少し考えてみる。
セシリアの話ではお茶をするだけらしい。が、光也は一度思い返してみる。最近のセシリアからのアプローチを。本当にお茶だけなのか?易々と部屋に入って大丈夫なのか?と。ニコニコと笑顔で光也の返事を待っているセシリアだが、その笑顔をどこか怪しく感じてしまった。
(・・・・・・危ないな!主にオレの理性が!)
という事で。
「本当に悪ィけど、遠慮しとくわ」
「理由を聞かせていただけますか?」
「・・・・・・」
笑顔で問うてくるセシリアに、何となく怪しいから。と、言える筈がなく。光也は黙ってしまった。そこにセシリアからの追撃。
「理由を聞かせていただけますか?」
先程と台詞こそ一緒だが、その笑顔には段々とよく分からないモノが追加されていて、光也は後退った。建前の言葉は思い浮かばない。
「理由を、聞かせていただけますか?」
「ま」
「ま?」
「また後で!」
「あ、ーーお待ち下さいな!」
身体を反転させて、逃げ出した光也。セシリアもすぐさま追い掛ける。レディにあるまじき?
恋する乙女は盲目なのだ。
光也に負けず劣らずの体力で、追い続ける。階段を上ったり下ったり。幸運にも(光也にとっては不運にも)教師には見付からず、追いかけっこは中々終わらなかった。
そして、曲がり角を曲がった所で。
「・・・・・・あら?」
数メートル後ろをぴったりと張り付いて光也を追っていたセシリアだが、光也を見失ってしまったのだ。
「・・・流石は光也さん。瞬間移動などお手の物、という事ですわね」
逃げられてしまった事は残念だが、セシリアは自分なりに納得してその場を後にした。
テクテクと廊下を歩く。光也とのお茶会がなくなってしまったので、暇を持て余してしまったのだ。
ルームメイトの子に光也とお茶会をする件を伝えていなかった事に今更ながら気付いたが、今となっては関係無かった。
(お茶会を断られてしまった事は気になりますけど、光也さんの事です。きっと、わたくしには到底理解出来ないような理由がおありなのですわね)
それを言葉にしなかったという事は、言われても理解が出来ないセシリアに対する光也なりの気遣いなのだろう→嗚呼、光也さん・・・!なんて素晴らしいお方なのでしょう!
と、頭の中で光也への賛辞をマシンガンの如く放ちまくりながら歩いていると、組み合わせとしては意外な人物に出くわした。
「・・・あら」
「おう、オルコットさん。今日は光也とは一緒じゃないのか?」
互いに、光也が間にいなければ話さない者同士。ばったりと廊下で出会った。
クラスの女子やルームメイトの子は一夏に対して好意的な意見だが、セシリアとしては疑問を浮かべるしかなかった。『光也さんを差し置いて、このような男を?』と。こんな具合に。
近々、手始めとしてクラス内に光也がいかに偉大な方なのかを布教しよう。そう決意しつつ会話を続けた。
「先程までは一緒でしたわ」
「へぇ。てか、オルコットさんが一人でいるのを見るのって久し振りな気がする」
「光也さんの腰巾着が何か言ってますわね」
「悪口にしても酷過ぎる!」
「それで、何の用でしょうか?」
「何の用って・・・。会ったから話し掛けただけだけど。ーー何か知らないけど怒ってる?」
「いいえ、怒ってなどいませんわ」
否定しながら目を逸らしたセシリアを見て、一夏は確信した。
「分かった。その理由って、今光也が側にいないのが関係してるんだろ」
いや、光也の側にいれない。か?一夏は頭の中で訂正した。
「そ、そんな訳ありませんわ!光也さんは多忙な御方。わたくしのような者と会話していただけるだけでも光栄の極みなのですから!」
「・・・・・・本当、光也と決闘してから、オルコットさん変わったよな」
「前にも言ったでしょう。あの決闘があったからこそ、わたくしは自らの過ちに気付けたのだと。覚えが悪いですわね」
「光也との扱いの差で泣けてくるわ。・・・・・・まぁ、良いけど。何かあったなら、話くらいなら聞くぜ?」
一夏がモテる由縁の一つ、【簡単に女の子の相談に乗る】が発動。
普段のセシリアならこんな言葉に引っかかったりはしないのだが、暇潰し程度に話してみる事にした。
「・・・・・・成る程な。何でか知らないけど、光也が逃げ出したのか」
「と言いましても、わたくしとしては理由はどうでも良いのですけれど。光也さんがわたくしの誘いをお断りになったーーそれだけで十分ですわ」
「不満は?」
「ありませんわ」
(・・・・・・光也に対しての理解が良すぎて怖いな)
「まだ話があるのですか?」
「え?ーーあ、お茶会だっけ?やろうとしてたの」
「えぇ。わたくしお気に入りの紅茶と茶菓子を用意して、光也さんと優雅なティータイムを・・・と思っていたのですが」
「あのさ、オルコットさんの為に言っておくけど」
「何ですの?」
「光也って、甘い物苦手だぜ」
「な、何ですって!?」
「意外だろ。女子に渡されたら笑顔で何でも食べるけど、実は苦手なんだ」
男子同士だからこそ分かる光也の情報。セシリアが大層驚いたのを見た一夏は、少しだけ優越感に浸った。
「光也さんの事は徹底的に情報収集したつもりでしたが・・・・・・わたくしもまだまだですわね」
悔しがるセシリア。光也との付き合いの差があるとは言え、一夏に負けたのが悔しかったようだ。
「見た感じ暇っぽいし、こんなので良いならまだまだ話せるけど?」
「・・・・・・ふ、ふふふ。織斑一夏さん。間抜けだ不能だと馬鹿にしていましたが、中々の知識をお持ちのようで」
「光也に関する知識だけだけどな。あと、まだ不能ネタ続いてんのかよ」
一夏のツッコミも、セシリアは特に拾わずにこう言い放った。セシリアにとっては上級の、相手を認める台詞。余程の相手に対してじゃないと言わないような台詞を、腰に手を当てながら言い放った。
「織斑さん。貴方の知識に免じて、わたくしを名前で呼ぶ事を許可致しますわ」
勿論、一夏は固まった。確かに、セシリアとはあまり仲が良い気がしていなかったのでファミリーネームで呼んでいたが、改めて名前呼びを許可されると戸惑うのだ。
「・・・・・・セシリアさん?」
「『さん』は要りませんわ。わたくしと貴方は同級生。そうでしょう?」
「せ、セシリア」
「はい。上出来ですわ」
名前で呼ぶだけなのに上出来もクソもあるか。と一夏は言い出しそうになったが、グッとその言葉を飲み込む。以前迄は不仲と言われても言い返せないような関係だったが、その仲が良い方向に動こうとしているのだ。一夏は心を躍らせてこう言った。
「じゃ、じゃあ、俺の事も一夏って呼んでくれよ」
「お断りですわ」
「は?」
我が耳を疑う。もう一度言ってみた。
「俺の事も一夏ってーー」
「断固お断りですわ」
「何でだ!仲良くなったんじゃないのかよ!」
「確かに、光也さんの情報を通じて以前よりかは数ミリレベルでわたくしと貴方の仲は縮まったかも知れません。ですが、だからと言って、わたくしが貴方を名前で呼ぶかどうかはまた別の話ですわ」
「・・・・・・何か、凄いな。セシリアって」
「当然ですわ。わたくし、一人前のレディですから」
おーっほっほっほ!と笑い出しそうな程に機嫌の良い(光也の情報を知れたからか、それとも一夏をからかう事が出来たからなのかは不明)セシリアを、一夏は呆然としながら見る。
名前で呼んでもらえない事はガッカリしたが、同時にセシリアが眩しく見えた。好きな人の為に真っ直ぐに、好きな人を最優先に考えられる、一夏にはどうしても考えられないその思想を、素直に凄いと思うのだった。
「わたくしが男性を名前で呼ぶのは、唐澤光也さんただ一人ですわ。
暇潰しが済んだのか、一夏に背を向けて立ち去るセシリア。それが格好付けているように見えたので、一夏は少し意地悪をして。
「じゃあな!セシリアちゃん!」
と光也っぽく言ってみた。こちらに背を向けたまま即座に立てられる中指。
とんだ一人前のレディだった。
あと一、二話程書いたら本編に戻るつもりです。
前回、千冬ちゃんには怒っているよりも笑っていてほしいとか格好付けてた光也が次の話で早速怒られててコイツマジかと思いました。書いたの自分なんですけど。
千冬ちゃんと来たら、次は・・・・・・。
どのキャラが好き?
-
一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
-
シャルちゃん
-
ラウラちゃん
-
千冬ちゃん
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束ちゃん
-
蘭ちゃん
-
弾ちゃん
-
光也