ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
23話
「——海だ!・・・あ、違った」
「違うのかよ」
長い長いトンネルを抜ければ、青い海が広がる。そんな爽やか夏ティックなシチュエーションかと思っていたので、バス内にも関わらず声を出してしまった。景色は明るくなったが、それは青い海が見えているからではない。視界の4割強を占める、高速道路の両サイドに茂る木々の所為だろう。
「——今度こそ海だ!・・・って、違うじゃんかよ!」
「何一人で楽しそうにしてるんだよ。ほら、
言外に、興奮して騒がず座れと言っている一夏ちゃん。オレはそんな日和った幼馴染を見下ろし、指をさして見下ろした。
「一夏ちゃんには
「そんな訳分からん力、不足してても何ら問題ないよ」
「いいや、大アリだね!問題大アリ!夏力ってのは、夏を大いに楽しむ力!これがなきゃ、箒ちゃんの心は掴めないと言っても過言じゃねェな!」
「・・・な、何だって!冗談だろ!?」
「考えてもみろ。一夏ちゃんは箒ちゃんの水着姿を見てどんな感想を言える?どうせ、『似合ってるよ』とか『可愛いね』とか『綺麗だね』とか無難なことしか言えねェんだろ!そんなんで箒ちゃんを自分のモノに出来ると思ってんのか!?」
「た、確かに・・・!」
「それはひとえに、一夏ちゃんに夏力が足りないからだ!夏を楽しみ切れてないから、箒ちゃんの水着を見てもそんな生温い感想しか返せねェんだよ!なんだお前は!名前に夏という文字が入っておきながら、なんだその体たらくは!」
「俺には、夏力が足らなかったのか・・・」
「それに引き換え、千冬ちゃんは違うぞ!千冬ちゃんにはキチンと名前に負けず、冬力がある!」
「何だって!?千冬姉にもあったのか!ち、ちなみに、冬力っていうのは・・・」
「厚着をすると、室内で上着を脱いだ時にオレが大興奮する」
「そ、それは凄い・・・!冬力っていうのが冬を大いに楽しむ力じゃないところが凄い!」
『おいそこの馬鹿二人。黙れ』
大型バスの最前列に座る一組の教師二人。その内の一人、担任の千冬ちゃんがマイクを通して叱責の言葉を飛ばす。オレと一夏ちゃんも、慌てて行儀良く座った。
窓の外には、いつの間にか海が見えていた。
「怒られちゃったね」
隣に座るシャルちゃんが、そう笑いかけてくれる。その笑顔に癒されながら返す。
「いやいや、流石にアレはあの童貞が悪いわ」
「誰が童貞だよ。この拗らせ童貞」
後ろの席から童貞の冷たい声が飛んでくる。窓と座席の間から後ろを覗くと、一夏ちゃんと箒ちゃんが並んで座っているのが見える。一夏ちゃんに向けて舌を出すと、一夏ちゃんは箒ちゃんに気付かれないように、こちらにこっそり中指を立ててきた。
「言っておくが、オレは別に童貞じゃねェからな。オレは常に一夏ちゃんの数歩先を行く男だか——痛いよシャルちゃん何でいきなり
「つまらない嘘はダメだよ?」
シャルちゃんが、先程の笑顔と寸分違わぬ笑みで、そう注意する。
「ご、ごめん。もう言いません」
「約束だよ」
目が笑ってなかった。
(光也の始めては僕のモノなんだから)
シャルちゃんが何かを呟いていたような気がしたが、多分独り言だろう。あまり突っつかない方が良いとオレの直感がそう告げた。
「お前って底無しの馬鹿だよな」
「おう。ところでオレと一夏ちゃんって結構似てると思うんだよな。主に頭のデキとか」
「上等だよ、夏力で圧倒してやるから覚悟しておけよ」
「やってみろおいコラ——な、何ィ!夏力が3万、4万・・・!まだ上がるだと!?くそ、こんなのハイパーセンサーの故障だ!何かの間違いに決まってる!」
「はっはっは、俺を誰だと思っている。夏力の体現者、織斑一夏様だぞ」
「ま、まさかお前、伝説の・・・!」
「ああ、そうさ。俺こそが伝説の——痛いって箒いきなりどうしたんだよああああ痛い分かったごめんなさいごめんなさいもう騒がない!心に誓うから!」
「周りの人に迷惑になるようなことはやめておけ。分かったな」
「は、はい!」
コイツ、将来は絶対箒ちゃんの尻に敷かれるな。今ので力関係がはっきり露呈し、夏の
そんな俺の、明らかに見下している視線に気付いたらしい。一夏ちゃんが、一言呟いた。
「何だよ。さっきのお前の姿だぞ」
無性に居たたまれなくなった。
そうこうしている内に、目的地である旅館に到着した。旅館のすぐ近くには、一般人が誰もいないプライベートビーチ的な海があって、少し歩けば山もある。至れり尽くせりの開放的な旅館だ。
旅館の入り口で待っていた女将のお姉さんに一年生全員で挨拶。今年の一年生は元気がよろしいとの、女将さんからの大変嬉しい評価をいただき、各々自分の部屋に向かう。今日は授業だ訓練だのおカタい行事は無い。全く
「光也、早く着替えて泳ごうぜ!」
「ちょっと待ってくれ。あれ、可笑しいなァ」
「どうした。もしかして、水着忘れたのか?」
「いや、水着はあるんだけどよ」
「じゃあ、今じゃなくても良いだろ。取り敢えず、今は泳ごうぜ!」
「オレにはアレが無きゃ泳げないんだよ!」
「カナヅチ?」
一夏ちゃんが、オレが浮き輪が無きゃ泳げないキャラなのではないかと勘繰ってくる。
「違う!チンカップだ!」
「チンカップって・・・あの、格闘技とかで付けるヤツか?」
「・・・恥ずかしながら、オレは女の子のISスーツを見て勃起するような男だからな。水着なんぞ目にしようものなら、それはそれは」
「お前って不思議な奴だな」
ようやく、荷物の中からチンカップを見つけ、海パンに着替える。流石に上裸で旅館内を歩く訳には行かないので、パーカーを羽織って外に出る。
そこは、楽園だった。
笑顔で浜辺を駆け回る女の子。
浅瀬で海水を掛け合う女の子。
髪先から水を滴らせる女の子。
ビーチバレーを楽しむ女の子。
パラソルの下で海を眺める女の子。
マジで、チンカップがあって良かったと心から思う。
「よし、一夏ちゃん!めいいっぱい遊ぶぞ!」
「おう!」
「って、一夏ちゃん。なんか可笑しくね?」
「何が?」
「いや、一夏ちゃんが3人くらいに増えて見えるんだけど。いつの間に影分身の術しゅうと」
「は?え、ちょ、光也!?大丈夫か!?光也!光也——」
「軽い熱中症だな」
突然浜辺で倒れた光也を部屋まで運んだ一夏。慌てて千冬を呼んで診てもらうと、千冬は深い溜め息を吐いた後に、そう診断した。
「原因は恐らく、寝不足による体調の不安定。それからロクに水分補給もせずに騒いでいた・・・だな」
「そう言えば今朝、臨海学校が楽しみで全然眠れなかったって言ってたような・・・」
「この馬鹿が目覚めたら、もうこんな真似はしないようにキツく言っておけ」
「わ、分かった。千冬姉」
戸を閉め、廊下を歩く足音が段々と遠ざかる。やがて、完全に聞こえなくなってから、一夏はぷはぁ、と息を吐いた。
「・・・何やってんだよ光也」
うなされているのか、「寒い、寒い」と苦しそうにしていている光也。一夏はそんな光也の身体に毛布をかけて、立ち上がった。
「よし、遊ぼう」
看病なら、あの4人の内の誰かがやってくれるだろう。そう確信していた一夏は、もう一度海へと向かうのだった。
「・・・・・・行ったみたいね」
シン。
静かになった室内。光也の寝息と寝言だけが聞こえる室内で、入り口の戸を開きながらそう呟く人影。
「これは抜け駆けじゃないわ。むしろ、あの3人だってあたしの知らないところで色々やってるみたいだし?」
右手にはスポーツドリンク。左手にはタオルや
偶然、浜辺にて光也が倒れる瞬間を目撃してしまった時には大層驚いたが、不安を押し殺し、鈴は見事チャンスに変えてみせた。
「ったく、こっちの気も知らないで呑気に寝ちゃってさ」
そう悪態をつきながら眠っている光也の頬を指で突くと、「・・・うーん、そっちは水深深めだぞ」と夢の中で臨海学校を楽しんでいる光也が、そんな寝言を洩らした。思わず笑ってしまう。
「取り敢えず、タオルで光也の汗を拭いて・・・」
額、頬、首、手足。露出されている部分は徹底的に汗を拭き取った。
「・・・・・・」
しかし、服によって露出されていない部分は。
「・・・・・・」
露出されていない部分は?
「・・・・・・っ!」
どうするのか!?
「・・・し、仕方ないわよね。汗で身体を冷やしちゃったら風邪引いちゃうし」
そんな大義名分を掲げた鈴は無敵だった。光也のパーカーを脱がせ、露わとなった上半身をまじまじと見詰める。ゴクリの喉を鳴らしてから、微かに震える手でお腹に触れた。巧妙に、左手はキチンと汗を拭き取りながら。
「・・・っ!」
ぷに。
ぷにぷに。
柔らかいが、決して肥満ではないそのお腹(恐らく、ロクに自主訓練をしていない上に、ラファール・リヴァイブのオート戦闘機能があるので、筋肉の付き方がおかしいのだろう)に、何度も指を押し付ける。それが何だか楽しくなって——
「・・・何してんの?」
「ひゃあああああ!!」
額にのせられていた氷嚢を
バチコーン。鈴のビンタが炸裂し、再び寝転がることになった。
「オレが何したってのよ・・・」
「びょ、病人が起き上がろうとするからよ」
「病人じゃなくて怪我人になっちゃう」
自らの頬をさする光也を尻目に、バレたか?バレてないのか!?と内心おっかなびっくりな鈴。
海で光也と素敵な時間を過ごそうと思っていただけに、倒れた光也によってその計画がおじゃんとなった事に対して何か思うことがあったのだろう。
「み、見てた・・・?」
「何が?」
寝起き特有の間抜け面を見る限り、どうやら見てなかったらしい。鈴は胸を撫で下ろし、安堵の溜息を吐いた。
「・・・そう言えば、オレは何で寝てたんだ?」
「覚えてないの?アンタ、浜辺でぶっ倒れたのよ」
「えェー・・・。じゃあアレは夢か」
「夢よ。楽しそうに寝言言っちゃって」
「あー、鈴ちゃんと遊びたかったなァ」
「本当それ——ゴホンッ、兎に角、今はしっかり休んで明日に備えなさい。良い?間違っても、今から遊びに行こうだなんて考えないこと」
「ギクリ」
分かり易過ぎる反応をしてくれた光也を睨みつつ、鈴は2リットルのスポーツドリンクを差し出した。
「はい、喉が渇いてるかは知らないけど、水分はしっかり摂っておきなさい」
「・・・常温か」
「アンタに冷えた飲み物渡すと絶対一気飲みするじゃない。駄目よ、また身体悪くするわ」
「あのキンッキンに冷えた飲み物でくぅ〜!ってやりたかったんだけどな」
「一夏じゃないけど、身体に悪いわよ」
「多少身体に悪くても、オレは気持ち良い人生でありたいンだよ。・・・まぁ、こんなこと一夏ちゃんの前で言ったら即お説教コースだけどな」
光也は、中学生時代にゲームのやり過ぎで二日間断食していたのが一夏にバレた時のことを思い出す。
あの時は凄かった。光也は一夏にボッコボコにされて、一夏が泣きながら料理を振舞っていたのだから。夏休み期間だったとはいえ、光也も反省している。・・・少し。
そんな訳で、健康に関しては人一倍厳しい一夏。しかし、ドリンクの温度でそこまで怒るとは思えないが、光也は過去の出来事を思い返して震えているのだ。
「その一夏に怒られないためにも、部屋でゆっくりしてなさい」
「そうだな。そもそも、今海行ったら確実に一夏ちゃんと出くわすもんな」
遊びたかったなァと残念そうに呟く光也。それから、思い出したように。
「てか、鈴ちゃんは良いのかよ。折角の自由時間だってのに。オレのことは良いから遊んでくれば良いじゃん」
「そんなこと出来る訳ないでしょ」
「何でさ」
「な、何でって・・・それは・・・」
言葉が詰まる。まさか、光也がいないなら海で遊んでも楽しくないからとは口が裂けても言えない。
「それは?」
「それは・・・」
言葉が出てこない。
「・・・・・・い、色々あるのよ!」
例えば、鈴がそうやって説明される立場だったなら確実に納得しないであろう台詞。しかし光也は「そりゃ女の子だもん。色々あるよな」自分なりに納得していた。鈴は想い人がチョロ過ぎてハニートラップに引っかかりはしないかと心配になるが、今は久々の2人きりの空間を楽しもうと、その懸念を心のどこかに押しやった。
「何か食べる?食欲があるなら、ちょっとしたものなら作れるけど」
「うーん・・・。鈴ちゃんの手料理ってのは心躍るけど、残念ながら食欲無ェんだよな」
「そう。じゃあ、夕飯は食べれるようにしっかり治しておきなさいよ?こんな旅館に泊まる機会なんて、これから先あまり無いと思うから」
「それな。IS学園の年間予定表がどんなんかは知らねェけど、あんまし外部に出てたらIS学園の意味無くなっちゃうもんな」
外部からの接触を受けない、治外法権的な何とか。光也は、授業で聞き齧ったことをふと思い出す。安全的にも政治的にも、学園内に留まっていた方が良いのだろう。知らんけど。
「学園祭もあるらしいけど、完全チケット制で来る人選ぶしね」
「そうなん?じゃあ知り合いしか誘えないって訳か。じゃあ、弾ちゃんか蘭ちゃんか、それとも・・・」
「弾にしておきなさい」
「?」
「ほ、ほら、弾だって、常日頃IS学園を羨んでる訳だし、年に一回くらいは良い思いさせてあげてもバチは当たらないんじゃない?」
「成る程。確かに、弾ちゃんにはいつも世話になってるしな。蘭ちゃんは来年IS学園に入学するらしいし、校内見学も兼ねて一夏ちゃんに蘭ちゃんを誘ってもらおう。んで、オレは弾ちゃんを誘おう」
「・・・やっぱりどっちでも良いわ」
鈴は、中学生の時には互いに牽制し合っていた
ふと時計を見ると、鈴がこの部屋に
本当、楽しい時間は早く過ぎる。楽しいが、それに比例して体感時間がドンドン減っていく。
鈴は複雑な気分になった。
「そろそろ帰るわ。夕飯の時間になったら起こしてあげるから、それまではしっかりと寝ること。もしも、スマホを弄ってたりなんかしたら、一夏に光也の諸々を報告するからね」
「ゲッ。マジかよ。お休み鈴ちゃん!」
「はいはい、お休み」
持ってきた荷物は光也に渡したので、鈴は手ぶらで退室する。その直後にゲームアプリの起動音が聴こえてきたので、取り敢えずぶっ飛ばそうともう一度今閉めた戸を開けるのだった。
一夏ちゃんに誘ってもらう→一夏ちゃんの方がISについて詳しいし、色々解説しながら校内を案内してやれるだろう。という誰も得しない迷案です。恐らく一夏に却下されます。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
-
千冬ちゃん
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束ちゃん
-
蘭ちゃん
-
弾ちゃん
-
光也