ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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遅筆・・・!圧倒的遅筆・・・!
お久し振りです。大塚ガキ男です。



22話

「————ッ」

 

 戻ってきた。

 そう最初に実感したのは、360度全方向から浴びせられる歓声によってだった。

 隣にはラウラちゃんが居る。黒い何かに呑み込まれたあんな姿じゃない。いつもの美少女が、隣に居る。文字に起こせばそれだけの事なのに、オレはどうしようも無く胸がいっぱいになった。

 

「戻って・・・来れたのですね」

「そうみたいだな・・・」

 

 取り戻した色彩。

 あちらでのモノクロに慣れ始めていたこの眼では少しばかり刺激が強く、目を細めてしまう。

 それから、遅れて安堵。ふぅ、と息を吐きながらその場に座り込んだ。

 実を言うと、座り込んだというよりかは疲れのあまり膝が崩れて落ちた、というのが正しいのだが——まぁ、座り込んだのだ。

 べちゃり。

 尻に感じた嫌な感触。下を見ると、そこにはラウラちゃんを呑み込んでいた黒い何かの残骸が散らばっていた。よく見れば、それはオレの下だけではなかった。雨上がりの地面のように、点々と辺りに黒い水溜りが出来ている。

 

「良かった・・・。良かった・・・!」

 

 感極まったのか、ラウラちゃんが抱き着いてきた。断る理由も無いしむしろウェルカム。身動(みじろ)いで正面に向き直り、太陽光を反射して煌めく眩ゆい銀髪を撫でた。

 歓声が一層大きくなる。

 

「ありがとうございました・・・!光也殿が居なかったら、私・・・!」

「オレの力じゃねェさ」

 

 ルリちゃんが戻してくれたから。

 そして何より、あの空間でラウラちゃんが心を折らずにいてくれたから、オレ等は帰ってこれたのかも知れない。

 空を見上げる。

 飛び込みたい程に美しい青空は今の状況にピッタリで。

 オレは思わずそれに見惚れてしまっていて。

 ラウラちゃんもオレの胸に顔を(うず)めてしまっていて。

 だからこそ、オレは反応が一瞬遅れた。

 周囲に散らばる黒い何かが、いつの間にか収束し、再びオレ等を呑みこもうとしていたのを。

 ほんの一瞬、気付かなかったのだ。

 

「なッ!?」

 

 その一瞬が命取り。

 気付いた時には遅過ぎて、ルリちゃんの展開はどうやっても間に合わない。

 駄目だ。

 やられる。

 そんな切迫した状況の最中(さなか)でも、『せめてラウラちゃんだけは助けなければ』と思考が至った自身を褒めてやりたい。

 密着していたラウラちゃんの両肩を精一杯の力で押す。押し飛ばされたラウラちゃんは信じられないモノを見るような目でオレを見ていて、その表情がオレの脳裏に焼き付いて離れない。

 段々と視界の上部から黒が侵食してきて、嗚呼、呑み込まれるのかと半ば悟りの境地に達しようとしていた頃。

 

「光也ァァァァアアッッ!!」

 

 どこからか、聞き馴染みのあるイケメンの声が聞こえた。

 凄まじい速度で近付いてきたソイツは黒を斬り裂き、地を滑りながら少し離れた所に停止した。

 

「な、ナイスだぜ。一夏ちゃん」

 

 震える手で親指を立てると、イケメンボーイ一夏ちゃんもニッと笑って返した。

 そうだ。ラウラちゃんは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気が付いたか」

 

 目が覚めた後の第一声。ラウラ・ボーデヴィッヒは寝起きながらもその声の主の正体に気付き、上体を起こした。しかし身体は言う事を聞かず、手の支えもままならずに再びベッドに背を付ける事になってしまった。

 

「無理をするな。・・・あの戦いの後だ。その日に目覚めただけでも上等だろう」

 

 声の主——織斑千冬はラウラが横たわるベッドの近くに置かれた椅子に腰掛けると、そう言った。

 ()()()()

 そう聞いて思い出すのはシャルロット・デュノアとの激闘。

 が、普通である。

 しかし、ラウラが思い出すのは唐澤光也の勇姿。愛する男の姿だった。

 

「光也殿・・・。そ、そうです!光也殿は!?光也殿は御無事なのですか!?」

「心配するな。アイツも筋肉痛で済んでいる」

「筋肉痛・・・」

 

(そう言えば、光也殿について()()()調べている時にそんな事が書いてあったような。確か、戦闘後は全身が筋肉痛のような痛みに襲われて、自力では歩く事も出来ないとか)

 

「・・・ラウラ、鼻から血が流れているが。どうかしたのか?」

「光也殿の身の回りの御世話はお任せ下さい!なんなら今すぐにでm」

 

 頭の中で何を妄想(想像)したのか、鼻血を垂れ流しながらイイ顔になるラウラ。こうしてはいられないとベッドから降りて光也の元へ向かおうとするが、力が入らずにベッドへ逆戻り。

 

「うぐぅ」

「無理をするな。今日はゆっくり休むと良い」

「み、光也殿の御世話はどうなるのですか?このままでは他の雌共に(寝)取られてしまいます!」

「安心しろ」

 

 ラウラが心の底から感じている不安。こうしている間にも、あの金髪二人や中華娘が光也に近付いているのではないかと心中穏やかではいられないラウラに、千冬は優しく諭した。

 

「アイツ等に暴走はさせん。もう充分に釘は刺してある」

「お、織斑教官・・・!」

「・・・・・・まぁ、しかしだ。そうなったらなったでアイツが誰にも頼れずに不便な思いをするのも確かだ。仕方無いが、ここは教師である私が世話をしてやらねばならないな」

「あー!織斑教官が『やれやれ、全く仕方の無い』って感じに子供に付き合わされる大人な女性を演じているけど、その実嬉しそうに口の端を緩めています!ずるいです!」

 

 恋敵、というか泥棒猫に殺意を燃やしていて千冬の光也へ見せる表情や言動には何も不自然さを感じなかったラウラだが、ここに来て千冬も味方ではない事に気が付く。

 千冬を止めようにも、身体は自由に動かない。

 どうすれば・・・!

 ラウラがどうにかして千冬を止めようと考えを巡らせていると、ドアが開いた。

 

「おーい、ラウラちゃん。大丈夫か?」

 

 そんな馬鹿な。今の光也殿が一人で歩ける筈がない。

 驚愕の思いで入口を見ると、そこには一夏に肩を貸されている光也がこちらに手を振っていた。

 

「・・・・・・チッ」

「え、オレ何かした?」

「いえ、光也殿には何も。しかし、光也殿も変わった松葉杖を使用していらっしゃるのですね」

「あれ、俺ってまさか人とすら認識されていないやつ?」

 

 光也には笑顔で。そして自分の役目である筈の立ち位置に、当然のように陣取っている一夏に暴言を吐いてから、『まぁ女じゃなかっただけマシか』と自身の心を落ち着かせる。

 

「喜べ一夏。お前のISの実技の成績は十段階評価で一になる事に決定した」

「何で!?」

 

 千冬が一夏に何やら私怨をぶつけていたが、そこはもうラウラの与り知らぬ所である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から男子の大浴場の使用が解禁です!!」

「「な、何だって〜!?」」

 

 疲労に疲労を重ねたオレの身体(といっても、ほとんどルリちゃんが動かしていたのだが)。

 いつもの如く筋肉痛に襲われたオレの身体。

 セシリアちゃんがオレの身体の状態をいち早く察して『私に全てを委ねて下さい』と気遣ってくれたのだが、千冬ちゃんの一言(オレにはよく聞こえなかった)によってあえなく撤退。シャルルちゃんや鈴ちゃんも同様で、残ったのは一応の恩人である一夏ちゃんだけとなった。

 ンだよ野郎かよ〜って具合に、オレは身体でなく心も疲労。

 そんな矢先に、真耶ちゃんのこの一言である。そりゃテンション上がりますよ。ぶち上がりですよ。

 

「今日は元々大浴場のボイラー点検があったので、元々生徒達は使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子の二人に使ってもらおうって計らいなんですよ!」

「流石真耶ちゃん!愛してる!!」

「ありがとうございます、山田先生!」

「いいえ、二人ともいつも頑張ってますもんね!本使用は来月からになっちゃいますけど、今日くらい肩までゆっくり浸かって疲れを取っちゃって下さい!」

「あ、そうだ!どうせなら真耶ちゃんも一緒に」

「じゃあ、ごゆっくりどうぞ〜」

 

 入って裸の付き合いでも・・・と言おうとした所で真耶ちゃんが去って行ってしまった。まぁしょうがねェよな。先生だから色々やる事あるもんな。

 ウザがられているとかそんなんじゃねェよな。

 

「泣くな光也。きっと山田先生も事後処理とかで忙しかったんだと思うぞ」

「一夏ちゃんの優しさが風呂より温かい・・・」

 

 一夏ちゃんに肩を貸してもらい、向かうは大浴場。もうこの男女比だし、どうせなら混浴にした方が良いんじゃないかと思うのだが。駄目だろうか。駄目か。そりゃそうだ。

 筋肉痛の為自力では服を脱げないので、一夏ちゃんに脱がしてもらう。

 (ちな)みに今まで二回ルリちゃんと共に戦ってきたオレだが、その二回とも筋肉痛になっているので、もう既に二回も一夏ちゃんにお世話になっているのだ。三回目ともなると羞恥心も薄れてきて、裸体を見られても「サンキューな」の一言で済ますことが出来てしまう。

 カポーン。

 そんな音がどこからか聴こえてきそうな、いかにもな大浴場。早速湯船に飛び込もうとした所で一夏ちゃんに髪を掴まれた。

 

「いってェ!掴むならせめて肩とかにしてくれよ!」

「こっちの方が掴み易いだろ。全く、湯船に浸かるのは身体を洗ってからだ」

「あいよ・・・」

 

 野郎の身体を洗うシーンを描写しても仕様が無いので、割愛。

 汗を洗い流してスッキリしたオレ等は、泳げる程に広い風呂に入る。最初に入れた右足から伝わる温かさに「ああああああああ」と気の抜けた声が出た。

 入浴。

 タオルを頭に乗せながらリラックス。部屋の風呂とは格段の気持ち良さだった。良いねェ。これで女の子と混浴だったら更に良いねェ。

 そんな事を考えながらボーッと温まる。

 互いに無言というのもアレなので、話を振った。

 

「そういえばさ」

「どうした?」

「あの時、一夏ちゃんが『零落白夜』で黒いのをぶった斬ってくれたじゃんか」

「そうだな」

「確か、あの時の白式のエネルギー残量ってギリギリなんじゃなかったっけか?何であんな大食らいの武器使えたんだよ」

「あー、アレ?シャルルからエネルギー分けてもらったんだよ。『悔しいけど、何かあった時に一撃で決められるのは一夏しかいないから、分けておく』ってな」

「流石シャルルちゃん。天使かよ」

「あぁ。お前は天使の部分だけ知ってれば良いさ」

「え、どゆ事?」

「気にすんな。それよりも——」

 

 はぐらかされたような気がするが、疑問をぶつけるよりも先に話題が移ってしまった。

 風呂に浸かりながらの長い会話。

 それは、どうにかして非日常から日常に戻そうとしているかのようだった。

 そして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝坊したッ!!」

 

 寝坊した。

 まだ眠りたいと叫ぶ身体に鞭打って壁掛け時計を見れば、時刻は九時の少し手前。まずいと飛び起きるが隣のベッドにシャルルちゃんの姿は無く、枕元に『一度起こしたんだけど、眠りたいって言ってたから寝かしておいたよ。無理せずに今日はゆっくりお休み(=^x^=)』と置き手紙が。

 優しい!優し過ぎるぜシャルルちゃん!でも駄目なんだ!オレってばただでさえ授業についていけ切れずに成績悪いんだから、休むと確実に置いていかれちまうんだよ!

 

「光也!お前も遅刻か!」

 

 急いで着替えて寮から出て、校舎までの道を走っていると、後ろから一夏ちゃんが追い付いてきた。どうやら一夏ちゃんも寝坊したクチらしい。

 

「筋肉痛は大丈夫なのか?」

「昨日よりはマシ!」

 

 このランニングで筋肉がほぐれてくれる事を祈りつつ、走る。

 ラウラちゃんは大丈夫だろうか。まだ保健室で寝ているのだろうか。一度様子を見に行った方が良いのだろうか。

 心配になったので一夏ちゃんに提案すると、「兎に角、先に出席はしておこう!」と言われたので、後回しとなってしまった。心苦しい。

 

「「遅れました!」」

 

 パシュッと自動で開かれたドアをくぐって教室に入る。教科書片手に教鞭を振るっていた千冬ちゃんが笑った。

 

「遅いぞ馬鹿共。・・・まぁ、いつもなら拳の一つや二つ落としている所だが、昨日の今日だ。免除してやる。さっさと席に着け」

「千冬姉!ありがとう!」

「ありがとう千冬ちゃん!愛してる!」

 

 千冬姉発言(失言)によって一夏ちゃんが早くも拳を落とされていた。馬鹿だアイツ。

 頭頂部から煙を出している一夏ちゃんと共に席に着こうと千冬ちゃんの横を通り抜けると、「光也殿!」と名前を呼ばれた。

 

「おぉ、ラウラちゃん!もう動いて大丈夫なのか?」

 

 笑顔で手を振るラウラちゃんに手を振り返す。それだけでは足りなかったのか、ラウラちゃんは席を立ってこちらに近付いてきた。

 

「ら、ラウラちゃん?あんましやると千冬ちゃんが——」

 

 ラウラちゃんの行動をやんわりと窘めようとしたのだが、オレはそれから先の言葉を口にする事が出来なかった。

 何故なら、塞がれたから。

 手で?

 いやいや、唇で。

 軍隊仕込みによるモノなのか、いつの間にか視線はラウラちゃんに合わせられていて、唇は重ねられていた。驚いて目を見開いていると、首の後ろに手を回されて、キスは更に力強くなった。

 

「むぐ、ちゅっ、ちゅるっ、じゅるるるるる・・・!」

 

 キスも初めてなのに、舌も入れられてしまった。洋画などで見たアツいロマンティックな雰囲気はココには無く、むしろラウラちゃんに犯されているような感じだった。唾液を根こそぎ吸われて口内がカラカラである。

 成る程、これが逆レイ——げふんげふん。積極的な女の子ってヤツか。

 

「っ、ぷはぁ!」

 

 数秒だったか、それとも数十秒だったか。兎も角、体感ではとても長く思えたラウラちゃんとのアツいキス。あまりの非現実さに童貞を拗らせたオレの夢ではないかと自分を疑い始めてきたが、目の前で息を荒くしながら頬を染めるラウラちゃんを見ると、とても夢の中の出来事とは思えなかった。

 

「はぁ・・・!はぁ・・・!み、光也殿。もう離しません。あんな哀しみはもう沢山です!」

 

 唐澤光也。十五歳。彼女無し。

 今日、一生忘れる事のないディープなキスをされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、一件落着です。約一カ月も間を置いての投稿申し訳ありませんでした!
そしてありがたい事に!この作品のUAが200000を突破しました!目出度い!
評価を付けて下さる皆様に、感想を下さる皆様!そして、この作品を読んで下さっている皆様に感謝を!本当にありがとうございます!

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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