ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
終わる終わると言って全然終わらないラウラちゃんパート。
次回で終わります!
灰色だった。
黒色だった。
その二色でのみ彩られた世界だった。
気が付けば、そんな世界にオレは立っていた。
周囲の時が止まっていたので、何となく「あぁ、クラス代表決定戦の時のアレみてェだな」と考える。
しかし、この場にルリちゃんは居ない。制服のベルトに手をやるが、そこにも居なかった。
前回はルリちゃんと話していたら元に戻ったものの、今回のコレはどういう事なのだろうか。
周囲を見渡す。
そう言えばオレは、ルリちゃんの作略によって生身のまま宙に投げ出されて——黒いのにぶつかったんだっけか。
じゃあコレは夢の中か?
いや、まだそう決め付けるには早い。誰かがオレをこの世界に呼んだという可能性もあるのだ。
ルリちゃんか。
ルリちゃん以外の誰かか。
オレ以外の時が止まっている世界。
客席も、シャルルちゃんも、箒ちゃんも、一夏ちゃんも。
疑問なのは、ルリちゃんと黒いヤツの姿が見えない事だ。
ラウラちゃんは黒いヤツに呑み込まれたので、黒いヤツを見付けない事にはラウラちゃんの安否も確認出来ない。
どうすれば良いのだろうか。
取り敢えず、歩く。
砂を踏んでも音はせず、制服の衣擦れの音もしない。
周りに気を配りながら歩を進めていると。
「・・・・・・ラウラ、ちゃん?」
ラウラちゃんが居た。
体育座りをし、両膝に顔を埋めている美少女を発見した。綺麗な銀髪に、見覚えのあるISスーツ。黒い何かはその背後にいるものの、やはり動きを止めていて、いまはただのオブジェと化していた。
間違い様が無い。ラウラちゃんだ。
「ラウラちゃん!」
駆け寄る。隣にしゃがんで肩を揺らすと、ラウラちゃんはゆっくりと顔を上げた。
「光也殿・・・ですか?何故、ここに・・・・・・」
億劫そうに返答してみせたラウラちゃん。取り敢えず、オレも隣に座る事にした。
「それはこっちの台詞だって。・・・いつからここに?」
「・・・分かりません。長い間、気付いたらここにいました」
「そっか・・・」
黒いヤツに呑み込まれた事は、覚えていないらしい。
伝えた方が良いのか迷ったが、混乱させたら困るのでやめておいた。
切り替え。
「兎に角、ラウラちゃんが無事で良かった。早く帰ろう」
「帰る・・・?ふふっ、光也殿は可笑しな事を仰る。どうやって帰ると言うのですか」
「・・・・・・あ」
確かに。
前回のアレも、ルリちゃんが何とかしてくれたから元の世界に戻れた訳で。
ルリちゃんがいない今、オレ等にはどうする事も出来ないのだ。
「な、何か方法がある筈だ。歩いて探してみよう」
「・・・もう、試しました。歩いてアリーナを出て、学園内全てを回りました。ですが、駄目だったのです。光也殿の姿は見付からず、教官に指示を仰ごうと向かいましたが、教官も静止していて。憎き敵も、客も、教師も、誰も彼もが動かない・・・!何なのですか、ここは・・・!」
怒りか、悔しさか。ラウラちゃんはアリーナの地面を左拳で思い切り殴った。やはり、音はしない。
ここは時が止まっている世界。現実ではいくら時が進もうとも、ここでは零。秒針は進まないし、デジタル電波時計の文字も増えないし変わらない。
そんな世界で、ラウラちゃんはどれだけの間、希望を探していたのだろうか。
自分以外は動かない、居ないに等しいこの世界。
可笑しくなるのも当然だ。
オレだって、ラウラちゃんを見付けられなければどうなっていたか分からない。前回だって、ルリちゃんと話していなければ狂っていたかも知れないのだ。
「・・・ラウラちゃん」
手を伸ばし、隣で震えているラウラちゃんの頭を撫でる。ラウラちゃんは一瞬硬直してから、ゆっくりとオレの方に身体を預けてきた。
「大丈夫、何とかなる」
無責任極まりない言葉だが、今はそうするしかない。
ラウラちゃんに出来なかった事が、オレに出来る訳がないのだから。
人事は尽くした。
後は天命を待つだけ。
「そうだ、少しお話をしよう」
「お話・・・ですか?」
「あァ。こっちに来てからまともに会話も出来なかったしな。丁度良い」
『まともに会話も出来なかった』の所でラウラちゃんがスッと目を逸らした。まぁ、原因はオレにある訳だし、オレからは何も言うまい。
「オレとラウラちゃんが初めて出逢ったのは、二年前のドイツだったよな」
「は、はい。教官と一緒に来たのでしたよね」
「千冬ちゃんったらオレに何も言わずに旅行しようとしてたから、無理言って一緒に連れて行ってもらったんだよ。そしたら、まさか行き先がドイツの軍地だったとはな・・・」
「えぇ、私も光也殿も呆けておりました」
懐かしい。
飛行機に乗って外国到着!と喜んでいたら、空港に銀髪の美少女が居たんだからな。
そりゃ呆けるさ。
ラウラちゃんが徐々に落ち着いていくのを感じながら、続行。
「それから、一週間ちょいの間だけだけど一緒に過ごして」
「最初は険悪でしたけど、帰国の日が近付くにつれて仲が深まっていきました」
「最後はお互いワンワン泣いてな」
「空港内だというのに。今思い出すと少し恥ずかしいです」
「懐かしいな」
「そうですね」
「・・・ドイツ、また行きたいな」
「えぇ、いつか必ず。皆も私も、喜びます」
笑い合う。
もうラウラちゃんから不安の表情は消えていて、オレとラウラちゃんの輪郭だけ切り取れば、今のコレは日常の会話と何ら変わりは無かった。
しかし、ここは現実ではない。
それを改めて口にすると変な空気になるから。
オレは会話に徹した。
「光也殿がテレビに出てた時はビックリしましたよ。『二人目の男性操縦者』が云々って」
「あー・・・。あん時かァ」
「何かあったのですか?」
「そりゃあったさ。あの頃は色々大変でな?白衣のオッサンに追い掛け回されたり、白衣の美女に追い掛け回されたり、スーツが似合うクールビューティに泣きながらぶん殴られたり。全国ネットへのデビューを切っ掛けにモテねェかな〜とか思ってたけど、全然だった」
「へぇ・・・?」
「
「どっちなのですか・・・」
言った瞬間、周囲の気温が下がったので訂正。
結果、嘘と真実がごちゃ混ぜになった回答になってしまった。
ラウラちゃんの小さなツッコミを最後に、会話が途切れる。静寂の間があまりにも長かったので、何とか会話を復活させようと「あー」とか「えー」とか言いながら思考していると、ラウラちゃんがポツリと呟いた。
「・・・・・・提案があるのですが」
「提案?何だよラウラちゃん。言ってみ」
「ここで、私と二人で暮らしませんか?」
・・・、
・・・・・・、
・・・・・・・・・。
は?
「え、ちょっ、どういう事?もう一回言ってくれるか?」
「私達二人以外の時が止まっているこの世界で、残りの人生を送りませんか?と言ったのです」
「な、何言ってるんだよラウラちゃん。諦めちゃ駄目だ」
「諦めではありません——」
本望です。
ラウラちゃんはそう言って、オレに抱き付いてきた。突然の行動に対応出来ず、そのまま倒れる。
「ら、ラウラちゃん!?」
「大丈夫です。時が止まっているだけで、食糧は無事な筈。むしろ、消費期限が来ない分こっちの世界の方が過ごし易いかも知れませんよ?」
「そういう事じゃねェって!」
ラウラちゃんの肩を押して(本当は抱き付いてもらっていても大いに結構だけど、雰囲気がイチャラブモードに適していないので取り敢えず)離れてもらおうとしたが、ラウラちゃんはオレの背中に両手を回しているのでビクともしない。
「動かない生物など死んでいるも同然。生きている光也殿と私で、アダムとイヴになりましょう!」
「こんな場所が楽園な訳あるか!」
「楽園ですとも!現に私は、あちらでは幾ら願っても叶わなかった——夢にまで見た光也殿とこんなに触れ合えています!」
抱擁がホールドに変わりそうな程、オレの背中に回した両手に力を入れるラウラちゃん。
身体が圧迫されていく。オレは抵抗を諦め、腕の力を抜いた。
「嗚呼、光也殿・・・!光也殿・・・!光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿光也殿・・・!」
オレの胸がそんなに良いのか、ラウラちゃんはオレの胸骨付近に鼻先をグリグリと押し付けて、くぐもった声でオレの名前を呟き続けている。
ふぅ、とオレは息を吐いた。
「・・・本気で、言っているのか?」
何とかしてラウラちゃんを説得し、この世界から脱出しなければ。そんな使命感に駆られてはいるが・・・。
「えぇ、本気ですとも」
ラウラちゃんは、この世界に居残ろうとしていた。
オレと一緒に。
二人で一緒に。
どうしたものかと空を仰ぐも、青くもない灰色の空を見ても特に何も思えなかった。
オレとラウラちゃん以外はモノクロテレビに映された画面の中のような、この世界。
こんな所で生活していたら、気が狂うぞ。
「ドイツは、どうするんだ」
もう為す術無しかと思われたが、オレはふと、先程の会話の内容を思い出した。
今度またドイツへ行こうという、口約束を。
ラウラちゃんの動きが止まる。
その隙に上体を起こし、追言。
「言っておくけど、飛行機は飛ばないぞ?何せ、操縦士も固まっているんだからな」
「・・・・・・」
「あー、残念だなァ。ラウラちゃんとドイツデートしたかったなァ」
「・・・・・・!」
「まァ良いか〜。ラウラちゃんがこの世界に残りたいって言ってるんだし。ドイツには行けないけど、このまま二人で過ごすのもありっちゃありかな〜」
「ッ・・・!ッ・・・!・・・・・・・・・光也殿は、意地悪です」
「だんでぃな大人の男は、時に意地悪なんだぜ——で、どうするよ」
「私は・・・光也殿と一緒に居たい」
対面座i——げふんげふん。至近距離での向かい合わせ。文字通り目と鼻の先にあるラウラちゃんの顔が曇った。
「・・・けど、ドイツにも行きたいのです」
オレと目を合わせないように俯きながらそう言ったラウラちゃん。
可愛いなァ。
可愛いなァー!
「よし、じゃあ決まりだな」
「へ?」
ラウラちゃんの頭を少し乱暴に撫でてから、ラウラちゃんの脇腹を掴んで立たせる。鈴ちゃんに高い高いをしまくって鍛えられたオレの両腕では、ラウラちゃんの体重なんてあってないようなモノ。ラウラちゃんの呆けた声を聞きながら、オレも立ち上がった。
「帰ろう、ラウラちゃん」
「で、でも・・・。向こうに戻ったら、また光也殿と一緒にいられなくなってしまいます」
「お馬鹿だなァ、ラウラちゃん。何で現実に戻ったら一緒にいられないんだよ」
「だ、だって——」
「オレはラウラちゃんに嘘吐いて泣かせて、ラウラちゃんはオレや一夏ちゃん達をボコボコにして何となく気不味くなっている。だったらよ、仲直りすれば良いじゃねェか。それから一緒の時を過ごせば良いじゃねェかよ」
「許して・・・下さるのですか?」
「むしろ、ラウラちゃんはこんなオレを許してくれるのか?」
「当然です!」
「オレも同じだ」
ニヤリと笑うと、一瞬遅れてラウラちゃんも笑った。
「長い間お待たせして申し訳ございませんでした。ラウラ・ボーデヴィッヒ、光也殿と共に現実世界へと帰還致します」
「気にすんな。一秒も経過しちゃいねェからさ」
ラウラちゃんの見事な敬礼にそう返す。
それから、ラウラちゃんは不安気にこう問うてきた。
「セシリア・オルコットは、許してくれますか?」
「セシリアちゃんは立派な一人前のレディだ。相手が真摯な態度で謝っているかどうかは分かる。心配すんなって」
「鳳鈴音は、許してくれますか?」
「鈴ちゃんだって、もう気にしちゃいねェさ。負けず嫌いな鈴ちゃんの事だから、もしかしたら『もう一度、一対一で真剣勝負よ!』とか言うかも知れねェけど、そん時は戦って仲良くなっちゃえって」
「篠ノ之箒は、許してくれますか?」
「箒ちゃんだって、心配は要らねェよ。むしろ、ラウラちゃんの強さに惚れ込んで剣道部にスカウトしちゃうかも知ンねェぜ?」
「シャルロット・デュノアは、許してくれますか?」
「シャルルちゃんとのアレだって、勝負の中の出来事だ。悔しいとか憎たらしいとかは思っていたとしても、勝負と日常は違う。きっと許してくれるさ」
「織斑一夏は・・・許してくれますか?」
幾度と掛けられたラウラちゃんの問い。その最後の相手である一夏ちゃんの名前を聞き、オレはニッと笑ってから言ってやった。
「一夏ちゃんは何だかんだ言ってお人好しだからな。一番心配要らねェよ」
言い終えた直後、予感。
原因がよく分からない為に細かくは言えないが、これだけは分かった。
「・・・ラウラちゃん。どうやら、お話はお仕舞いみたいだぜ」
現実へ戻れる——。
瞬きすれば、現実へと——色彩鮮やかなあの世界へ戻れる。
何の根拠も無いソレだが、不思議とオレは信じていた。
帰ろう、ラウラちゃん。
皆が待っている現実へ。
オレ等が待ちわびている現実へ。
「最後に、聞きたい事があるのですが」
「どした?何でも来い。オレがラウラちゃんの不安を綺麗さっぱり取り除いてやるからさ」
「教官は、許してくれますかね?」
「ゴメンそればっかりは自信無ェ」
ラウラちゃんのパートが一息付いたら、番外編を幾つか書くかも知れません。
もしくは、ラウラちゃんと光也の出会いの話を書くかも知れません。
乞うご期待。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
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蘭ちゃん
-
弾ちゃん
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光也