ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
エグゼイドの最終話を観るのが怖いです。
場所は変わって、観客席。
シャルルちゃんが箒ちゃんを倒し、その直後に一夏ちゃんがエネルギー切れ間近になって戦闘続行不可能に。
シャルルちゃんとラウラちゃんの一騎打ちになったかと思えば、シャルルちゃんがブチ切れてラウラちゃんに怒涛の攻めを見せ、ラウラちゃんが墜ちて、シャルルちゃんの勝利かと思ったら——コレだ。
墜落したラウラちゃんは黒い何かに『シュヴァルツェア・レーゲン』ごと呑み込まれ、グニャリグニャリと表面を波打たせながら形を変えている。
「ISが・・・変形している、ですって!?」
左隣に座る鈴ちゃんが、黒い何かを見てそう言った。
あまりにも『マジで?』って感じの声色だったので、問うてみる。
「え、ISって変形出来ねェのか?合体したり車輌になったり色々出来るモンだとばかし思っていたんだが」
オレがそう言うと、鈴ちゃんから「アンタはISを何だと思っているのよ・・・」といった呆れの言葉と視線をいただいた。それに微笑んで返すと、無言で脇腹をつねられた。痛い。
そこで、つんつんと右の肩を優しく突かれた。向くと、セシリアちゃんが右の人差し指をピンと立ててから口を開いた。
「ISがその形状を変えるのは、『
「へぇ〜、そうなのか。ありがとな、セシリアちゃん」
「いえいえ。光也さんから与えられたこの試練、見事期待に応えてみせました」
「お、おう・・・」
無人機事件の時のアレはまだ続いていたらしい。丁寧な説明に感謝の言葉を述べつつも、戸惑う。
視線をセシリアちゃんから、アリーナの黒い何かへ。
数秒立ってから気付く。
「・・・・・・じゃあ、ラウラちゃんのアレってヤバいんじゃねェの?」
鈴ちゃんとセシリアちゃん曰く、前例には無い事態が起きているということだ。しかも、ラウラちゃんを呑み込んだ黒い何かはどう見ても身体に悪そうだし、展開的にも何だかヤバそう。
箒ちゃんはエネルギー切れ。
一夏ちゃんもそんな箒ちゃんを流れ弾から身を呈して守る程度の余力しか残っておらず、唯一満足に動けるシャルルちゃんでは、二人を庇いながらの戦闘は難しそうだ。
黒い何かはシャルルちゃんと一夏ちゃん達の間で蠢いていて、シャルルちゃんは来るべき攻撃に備えて下手に動けないでいる。
じゃあ
立ち上がる。
ベルトに引っ掛けられたルリちゃんの待機状態のキーホルダーを掴もうと手を伸ばすと、その手を鈴ちゃんに握られた。
「アンタ・・・まさか、行くつもりじゃないでしょうね」
「そのまさかだぜ」
握られてない方の手で鈴ちゃんの指を一本ずつ解き、手を離させた。
「駄目に決まってるでしょ!そりゃあたしだって行けるもんなら行きたいけど。・・・・・・もう少しすれば先生達からの指示が放送で入るから、それまで
「わたし達って。鈴ちゃんとセシリアちゃんは戦えねェじゃんか」
「うっ・・・。で、でも、取り敢えず今は勝手な行動は駄目!待っていれば——」
「ラウラちゃんはどうなるんだ?」
先生達がこれから何秒後何分後に指示を出すのかは分からない。
その間にラウラちゃんに何かあったらどうするのか。
誰が責任を取るのか。
誰の責任になるのか。
非常時だからこそ、迅速な対応が求められる。
ラウラちゃんを呑み込んだ黒い何かを見るに、時間はあまり残されていない。
オレが問うと、鈴ちゃんはかぶりを振った。
「・・・分からないわ。けど、もしかしたら、今までの関係じゃいられないかも知れない。例えこの事態が大事無く終息しても、あの状態になった原因が誰によるモノであれ、一度ドイツに帰って——なんて事になるかも。・・・あっ」
ツインテールを揺らしながらオレにステイさせようとする鈴ちゃん。しかし、オレの問いに答え終わってから失言に気付いたらしい。口を手で隠すが、もう遅い。
そうだよな。ンな事聞かされたらオレがどんな行動に出るかは分かっちまうよな。
オレは悪どく、ニヤリと笑った。
「だ、駄目よ!一人でなんて無茶だから!集団でのルールを守りなさい!」
「ルールよりも守らなきゃなんねェ子がいるだろうが!オレは行くぜッ!!」
「あ、ちょっと!——」
鈴ちゃんの静止を振り切り、走り出す。無人機の時のように、まだシャッターは降ろされていない。今だったら、ピットからアリーナに降りる事が出来る筈だ。
急げ。
女の子が待っているのだ。・・・ついでに一夏ちゃんが。
廊下を何回も曲がった末に辿り着いたピット内。切れた息を整えながら、そう言えばクラス代表決定戦以来ここには入ってねェなァとどうでも良い事を思い出しつつ、ベルトからルリちゃん(キーホルダー)を手に取る。
「ルリちゃん」
『・・・また困ってるから呼び出そうってワケ?毎回毎回都合良過ぎない?』
オレの声に、少し間を置いて応答。
ルリちゃんは開口一番、ド正論をぶつけてきた。
「・・・ごもっともでございます。はい」
『しかも、今回の相手は中に人間が入ってるっぽいじゃない。テンションガン下がりなんですけどー』
「いやいや、頼みますって。何度も言うけど、コレはルリちゃんにしか出来ねェ事なんだよ」
虚空に向かって頭を下げる。社会人が目上の人との電話中によくやるそれを何度も。
やがて、ルリちゃんが面倒くさそうに溜め息を吐いた。
『ハァ・・・。分かったわよ。やってやるっての。どうせこの機会逃したらまた数ヶ月後〜とか言う展開になり兼ねないワケだし』
「マジで!?ありがとう!」
もしも協力を得られなかったら生身で飛び込んでやろうかとか考えてたんだけど、ルリちゃんはなんだかんだ優しいから大丈夫——と心のどこかで高をくくっていたりする。
兎にも角にも。
ルリちゃんの協力が得られるという事が決定したので、オレは急がなければならない。
ここからではアリーナの様子は見えない。
何が起こっているのかが分からない。
聞こえるのは、観客席の混乱と不安に満ちた数々の声。
幸いにも、爆発音やらの物騒な音はまだ聞こえてきていない。
良かった、間に合ったか。
そう安心しかけたその時、放送を通じて何倍にも拡大された一夏ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきた。
何がどうして一夏ちゃんがキレているのかは知らんけど、あの一夏ちゃんが人前にも関わらず怒鳴り散らしているのだ。何かがあったのは間違い無いだろう。
急がねば。
ピットの端。準備を終えたISが飛び立つ先には、限定的な青い空が見える。ピット内の天井や壁が空を囲っているので、まるで額縁に飾られた絵画のようだ。
空はこんな状況とは不釣り合いな程に綺麗で、戦いや誰かを助けるなんて理由じゃなければ、ISで自由に飛び回りたい気分だ。
前進。
段々とスピードを上げ、額縁に近付いていく。
そして、
「ルリちゃん、頼んだ——」
空の中に飛び込んだ。
青が視界一面に広がり、それから身体が下に向く。
落下する自分の身体。
風が制服をはためかせ、髪を後ろに
近付く地面。
恐怖は無い。
だって、ルリちゃんがいるから。
『——はいはい、っと』
気の抜けた声。それから、
ルリちゃんが操るラファール・リヴァイブは意図も簡単にオレの身体を宙に留め、浮遊する。
どうやら、今回もある程度まで意識はあるようだ。
皆との会話をルリちゃんに任せるとロクな事にならないのは前回証明されているので、一安心。
目を動かす。
ラウラちゃんとシャルルちゃん。そしてカップルの姿はすぐに見付かった。
「クソ!離してくれ、箒!」
「離すものか!落ち着け一夏!」
ハイパーセンサーで確認会話の内容を盗み聞く。
箒ちゃんに羽交い締めにされている一夏ちゃんが暴れていた。どうやら黒い何かが持っている武器に怒っているらしく、千冬ちゃんがどうとか言っていた。
取り敢えず、二人よか距離が近いシャルルちゃんの元へ。声を掛けると、シャルルちゃんが肩を浮かせて驚いた。
「よう、シャルルちゃん」
「み、光也!どうしてここに!?」
「皆を助ける為、かな☆」
そんなシャルルちゃんの問いに対してウインクをかまし、シャルルちゃんの前に出る。
「シャルルちゃんは一夏ちゃん・・・を頑張って押さえている箒ちゃんを助けてやってくれ」
「光也はどうするの?」
「オレはラウラちゃんを助ける」
「・・・・・・分かった」
オレの瞳を数秒見詰めてから、了承。シャルルちゃんはアリーナの壁ギリギリを這うように迂回する形で二人の元へと向かった。
黒い何かがそれに気付いて刀を構えたので、相手が行動に移す前にルリちゃんが銃をぶっ放す。
よし、これで黒い何かはオレを狙うだろう。
黒い何かがこちらを見る。
しかし、反撃はおろか動きさえ見せない。
不審に思って首を傾げると、ルリちゃんが話し掛けてきた。
『多分だけど、驚いてるっぽいわよ』
「驚いてる?急に攻撃された事にか?」
『いや。多分、アンタが現れた事に対してじゃない?』
「・・・・・・まさか」
ルリちゃんの言葉を聞いて、頭に浮かんだ一つの可能性。
「る、ルリちゃん」
『何よ』
「もしかしてさ。あの黒い奴にもまだ、ラウラちゃんの意識があるんじゃないか?」
『あー、かもね。それがどうかした?』
「ど、どうかした?って。どうすりゃ良いんだよ。黒いのを殴ってラウラちゃんが痛みを感じるようだったら——」
『あーはいはい。オレは攻撃出来ない〜とか言うんでしょ?お馴染みのアレね。分かってる分かってる』
——オレが掲げている信念が発動する訳だ。
女の子は攻撃出来ない。
黒い何かをぶっ飛ばす分には、何も問題は無い。むしろ、それでラウラちゃんが救えるなら万々歳だ。
だが、オレが黒い何かをぶっ飛ばす事によってラウラちゃんが痛みを感じるのなら、オレは黒い何かを攻撃出来ない。
危害は加えられない。
逆に、ルリちゃんを止めなければならなくなるのだ。
いや、でもなァ。ルリちゃんが本気出したらオレが止める事なんて出来ねェしなァ。
どうしたものかと知恵を絞っていると、ルリちゃんが『ねぇねぇ』と声を掛けてきた。
『良い事思い付いたんだけど』
「何だよ、言ってみ?」
『あの黒いのってさ、柔らかそうじゃん』
「んー・・・。まぁ、よく分かんねェけど、そうかもな」
『だったらさ、アンタがあの中に飛び込んでラウラ・ボーデヴィッヒを直接引きずり出せば良いんじゃないの?』
「・・・・・・はぁ!?」
一瞬、言っている意味が分からなかった。
だから問い直そうとした瞬間、ルリちゃんの意思で勝手に身体が前に動いた。
『そうと決まれば善は急げってね。頑張りなさいよ!』
「え、は?ちょっ、タンマタンマ!一旦落ち着いて他の案も——うわああああああああああ!!」
一度動いてしまった身体は説得を受け付けず、みるみるとスピードを上げて黒い何かに迫る。
つい先程までは「うわぁ、おそらきれい」とか言っていた気がするのに、いつの間にやら目の前は真っ暗だ。
二重の意味で。
実姉である織斑千冬がかつて使っていた刀。
それがラウラ・ボーデヴィッヒを呑み込んだ黒い何かの手に握られていた事により、一夏は憤慨していた。
では
尊敬する姉だけが使用していた刀、だった筈なのに。
何食わぬ顔で——表情を読み取る為の顔のパーツ等無いけれど——振るおうとしているのだ。
許せない。
箒に止められればその怒りも少しは収まるかと思いきや、行く手を阻まれた一夏にはむしろ逆効果だった。
得体の知れない相手と、攻防の術を持たない二人。
ラウラを圧倒したシャルロットも、黒い何かの行動が予測出来ないので、視線を外せないでいる。
援護は望めないだろう。
圧倒的に不利な状況を認識しても、収まらない怒り。
無防備のまま飛び出しそうになっていた所で、彼は現れた。
「・・・・・・光也?」
一夏の呟きに気付いた箒も、見る。
現在は試合中(ラウラの暴走によって試合が止められていなければ、の話だが)。何故部外者の光也がこの場にいるのだろうと疑問に思っていると、光也はシャルロットの隣に立った。それから二、三言葉を交わし、シャルロットがアリーナ内を大きく遠回りして一夏と箒の元へやって来た。
「一体どうしたのだ?それに、何故光也は——」
「はいはい。細かい説明は省くけど、僕は二人を守る事になったから」
「じゃ、じゃあ光也はどうなるんだ?」
一夏が、少女を形取った黒い何かを指差す。
シャルロットは、「あぁ」と小さく頷いてからこう言った。
「光也が何とかしてくれるって」
シャルロットの、光也を信頼し切ったその表情に、一夏と箒は納得した。二人は
そこで、一夏の中に疑問が生まれた。
(そう言えば、シャルルは光也の戦闘を見た事無いよな。何でそこまで安心していられるんだ?)
そんな感じに問う。
「だって光也だよ?光也がラウラを助けるって言ったんだから、もう大丈夫だよ。ラウラは助かるし、一夏と箒にも危害は及ばない。光也が来てくれたから、もうこの一件は解決したようなモノなんだよ」
仲間の腕を信頼している、青春的な良い場面。
しかし、語ったシャルロットの目が酷く濁っていたので、それを見た一夏と箒は背筋を震わせた。
『変な宗教に嵌った人みたいだった』
『唐澤教の信者が三人に増えた』
『駄目だ』
『もう手遅れだ』
後に、今の出来事を二人はそう語った。
「そ、そうなのか。なら安心だ。はは、ははは」
「お、大船に乗った気持ちで、という訳だな。そうだな。み、光也なら安心だ」
頬を引き攣らせながらの返答だったが、二人と話している今も光也に意識を傾けていたシャルロットはそれに気付かなかった。
シャルロットが光也に視線を移したので、二人も光也を見る。ラファール・リヴァイブと何やら言い争っていた光也はやがて——勢い良く飛び出した。
「あれに攻撃する気か?」
恐るべき速度黒い何かに迫る光也に、箒がそう洩らす。
しかし、違った。
機体が触れ合うまで残り十メートル付近。ラファール・リヴァイブが消えた。
宙に放られる光也。光也自身もこの展開はルリから知らされていなかったのか、手足をバタつかせて慌てている。
が、空中。暴れても然程効果は無く、ただ真っ直ぐ、黒い何かとの距離だけが縮まる。
そして——
「——あ、」
黒い何かに、光也が呑み込まれた。
最近空の境界にハマりました。原作を読んだ方が良いんだろうなぁとか思いつつ観ています。
どのキャラが好き?
-
一夏ちゃん
-
箒ちゃん
-
セシリアちゃん
-
鈴ちゃん
-
シャルちゃん
-
ラウラちゃん
-
千冬ちゃん
-
束ちゃん
-
蘭ちゃん
-
弾ちゃん
-
光也