ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
二巻の内容は次回まで続きます。
先程までの攻撃も中々に強烈だったが、現在のラウラの太刀筋、銃撃は更に苛烈を極めていた。一夏も機体に攻撃が当たらないように『零落白夜』で鍔迫り合いに押さえているが、ラウラは単純な力でも一夏を圧倒していた。
「お前の身体のどこからそんな力が出てくるんだよ・・・!」
体格差や体重差の面で言うならば、一夏は圧倒的に有利。
しかし、ラウラは顔をしかめもせずに、
一夏が押し返して距離を取ろうとも、『零落白夜』は一ミリたりとも前に倒れない。あまりにも微動にしないので、知らない内にAICを使われているのではないかと疑ってしまう程だ。
一夏とラウラの視線が交じり合う。ほんの一瞬の出来事だったが、交じわったラウラの瞳は確かに濁っていて、正常ではないのはすぐに分かった。
しかし、強い。
いや。だからこそ、強いのかも知れない。正気を失っているからこそ、ラウラが今の力を出せているのかも知れない。一夏はそう結論付け、意識を現実に戻した。
「
「何言ってるのかさっぱり分からないけど、多分馬鹿にしてるんだろうな!」
ラウラの口から放たれるドイツ語(一夏にはドイツ語だという確証を得る術は無いので、ラウラの母国であるドイツの言葉だと仮定している)と共に振るわれる、嵐のような連撃。どうにかして防ごうと『零落白夜』を左右前後に構えるが、予想外のタイミングで大型レールカノンの砲口を突き付けられる。
「ッ!」
前回こそシャルロットの助けもあって回避出来たが、シャルロットは箒を仕留めようと本気を出しているので、一夏とラウラの攻防にはノータッチ。
一夏一人で相手取らなければならない。
よって、不可避。
白式のシールドエネルギーをごっそりと喰らっていったその一撃。衝撃で仰け反った一夏は、空中での姿勢を制御出来ずにキリキリと宙を舞う。
行動の自由が利かなくなり、防御さえも許されなくなった一夏。自分の思うがままに出来る今の状況にラウラは不気味に口角を吊り上げ、そんなラウラに一夏は恐怖した。
「織斑一夏を殺せば、私は生き易くなる。シャルロット・デュノアを殺せば、邪魔者が一人減る。この試合に勝てば——教官と光也殿に褒めてもらえるッ!!」
「勝手な事言うな!こっちだって負けられないんだよ!」
「なら、止めてみせろ」
侮蔑の
ワイヤーブレードで捕らわれている一夏には避ける術は無く、ラウラがほんの少し指を動かせば一夏のシールドエネルギーは零となり、シャルルとラウラの一騎打ちとなるだろう。
「クソッ!」
『零落白夜』で何とか出来ないかと右手を見やるが、それと同じタイミングで、今まで煌々と光り輝いていた『零落白夜』が消えた。連続使用によるエネルギー切れだ。
最早一夏には勝ち目は無い。数分飛ぶだけの僅かなエネルギーは残っていても、攻めに転じるエネルギーは残っていないからだ。
「——死ね」
『零落白夜』のエネルギー切れを見届けたラウラが、レールカノンの引き金を
「だから、ガラ空きなんだって」
張り詰めた空気の中で一際よく通るシャルロットの声。気付いた時にはもう遅く、ラウラが構えるレールカノンが、シャルロットが撃ち放ったショットガンの弾によって爆散した。
「しゃ、シャルル!悪い、助かった」
「本当だよ。僕が箒を倒してる間に、こんな事になっていたなんて・・・」
箒を倒した?
一夏がシャルロットが飛んできた方(ラウラと向かい合わせになっていた一夏には、ラウラの死角からシャルロットが飛んでくるのが見えていたのだ)に視線を移すと、そこには箒が地面に膝を付いて悔しそうにしていた。
「さて、ラウラ。借りを返させてもらうよ」
「貴様・・・!どこまで私の邪魔をすれば・・・!」
怒りに顔を歪めるラウラ。それとは対照的、むしろこの場には相応しくない程に冷静なシャルロットがショットガンを構える。
「悪い。援護したいのは山々なんだが、エネルギーの残量が・・・」
「うん。実はあんまり期待してなかったり」
グサリ。シャルロットの言葉が一夏の胸に深く刺さった。
「流れ弾とかの危険もあるから、念の為アリーナの端で箒を守っておいてくれる?いくら戦えなくても、女の子の盾くらいにはなれるんでしょ?」
「わ、分かった。任せてくれ」
これ以上会話を続けると心の傷が増えそうだと危ぶんだ一夏は、シャルロットとの会話を途中で切り上げて箒の元へと飛んで行った。それを見送ったシャルロットは、身から溢れ出る殺意を隠す事無くこちらにぶつけてきているラウラに向き直った。
「——さて。この前の恨み、果たさせてもらうよ」
「恨み?・・・さて、全く覚えが無いのだが。
実際。
ラウラには、思い当たる節があった。忘れもしない、青色と桃色の機体を地に堕としたあの日。光也との溝が決定的なモノになってしまったあの日の事を言っているのだろう。セシリア・オルコットと鳳 鈴音はシャルロット・デュノアと友好的だった記憶がある。仲間の敵討ち、と言った所だろうか。
しかし、口にはしない。忘れた振りをして惚けていれば、相手の怒りを誘う事が出来るからだ。
仲間想いならば、尚更。
ラウラが内心ニヤついていると、シャルルが吼えた。
「覚えてんだろ!?光也を悲しませたあの日の事だよォ!!」
予想外である。
シャルロットの怒りの原因も、その怒り具合も。
予想外だから、ラウラは柄にも無く目の前の同い年の少女を
ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人だ。
かつて世界を制した織斑千冬から指導を受けた事もある、どこに出ても恥ずかしくない立派な軍人だ。
そんなラウラが怖れたのだから、今のシャルルがどれだけのプレッシャーを放っているのかは分かるだろう。
「・・・一応、私達の会話は放送を通じて客席にも聞こえて——」
「関係無いッ!!」
いつの間にか、先程まで暴れていたラウラがシャルロットを宥めてしまっている今の状況。シャルロットの想い人である光也も見ているのだが、シャルロットは気にせず続けた。
「ラウラが何を思ってあの行動に出たのかは知らない。けど、光也がそれで悲しむのなら」
ショットガンと盾。己の手で握る武器を握り直し。
「容赦はしない!」
飛び出した。
それがただの怒り任せの突撃だったのなら、ラウラは対処に困らなかった。避けるなり迎え打つなり方法は幾らでもあったのだ。
そう、ただの突撃だったのなら。
「————
シャルロットは疾かった。ラウラにはどうしようも無く、ショットガンによる零距離での連続射撃を一身に受けた。
射撃。
被弾。
射撃。
被弾。
やがてショットガンの弾が尽きると、それを捨てて盾を構えた。
(防御に転じるつもりか?距離を取るなら今がチャンス!)
距離を取って、AICで動きを封じて・・・・・・あとはどうとでもなる。
勝つ為の算段を立てた。
しかし。
過剰に分泌されたアドレナリンと、排除すべき邪魔者を殺すチャンスが訪れた事で、ラウラは気が付かなかったのだ。
自分の身体が、いつの間にか動かなくなっている事に。
「な、何故だ!?」
身体に巻き付くはワイヤー。それが自分のモノだと認識した時には、シャルロットの準備は終わっていた。
盾の中に隠していた切り札。
復讐には最適な必殺の武器。
盾の装甲が弾け飛び、中からソレは現れた。
六九口径パイルバンカー、
「『
眼前に迫るソレの名を忌々しげに叫ぶラウラ。それに呼応するように、
歪む視界。
青い空。
茶色い地面。
湧く客席。
相手との距離感を合わせようと揺れる自分の腕。
勝ちを確信したシャルル・デュノアの顔。
アリーナの端でこちらを見る織斑一夏と篠ノ之箒の姿。
そして、脳裏には
(嗚呼)
(私は負けるのか・・・?)
落下を始める自身の身体。上へ上へと手を伸ばすも、伸ばした手は空を切り、何も掴めない。
(こんな所で・・・負けるのか?)
周囲の景色が線となって前へ進んでいく。
(負ける訳にはいかないのに)
落ちる。
(勝たなければいけないのに!)
今の自身の心と同じように。
(私は負けられない・・・!光也殿の為にも、負ける訳にはいかないのだ・・・!)
下へ。
下へ。
堕ちる。
(力が欲しい・・・!何者にも負けない力を!光也殿との幸せを掴み取れる力を!)
自分の身体と地面との空間が無り、身体が勢い良く地面に叩きつけられた瞬間。
世界が止まった。
いつかの光也の時のように。
誰も彼もが静止した世界で、ラウラに語り掛ける声があった。
やけにスッキリとしている脳内。
やけに澄んだ視界。
しかし、理解が追い付かずに呆然と声を聞いた。
『——願うか?・・・・・・汝、自らの変革を望むか・・・・・・?より強い力を欲するか・・・・・・?』
どこからか聞こえる声。それが誰の言葉かなんてラウラにはどうだって良かった。たった一つの勝利に飢えるラウラは、空に向かって叫ぶ。
「寄越せッ!!」
次回の分も、ある程度は書けているので、前回と今回程間は空かないと思います。すみませんでした・・・。
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