ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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お久し振りです。大塚ガキ男です。
遂に学年別トーナメントが始まります。


18話

 ()()()()()が起きても、学園での生活は通常通りに進む。

 傷を負ったセシリアちゃんと鈴ちゃんを置き去りに。

 オレの心を置き去りに。

 進む。

 

「頼む、光也!」

 

 席に座っているオレの隣で、手を合わせて頭を下げる一夏ちゃん。

 次のトーナメント戦はタッグマッチだから、早めにパートナーを決めておけよ。

 千冬ちゃんがそう言って終わった朝のHR。

 その直後の出来事だった。

 

「一体何を頼む気だよ」

「俺とぺアを組んでくれ!」

 

 取り敢えず一発ぶん殴っておいた。

 

「何するんだよ!」

「馬ァ鹿かテメェは!オレより先に頼むべき相手がいるだろォが!」

「そんな事俺が考えていない訳ないだろ!むしろ、千冬姉の話の途中でパッと箒の顔が思い浮かんだよ!あー、箒とペア組めたら良いなーとか考えてたよ!けど駄目なんだ!」

「何でだよ」

「・・・・・・恥ずかしいだろ」

「教室内で堂々と箒ちゃんへの愛を叫んでる一夏ちゃんの方が余程恥ずかしいけどな」

 

 照れ臭そうに視線を斜め下に向ける一夏ちゃん。このイケメンうぜェと心の中で中指を立ていると、一夏ちゃんが兎に角、と気を取り直した。

 

「男子は俺と光也の二人だけなんだ!俺達で組まないと面倒な、こと・・・に」

 

 威勢の良い台詞だったが、語尾に近付くにつれて尻すぼみ。その顔は何かを恐れているようだった。

 何事かと一夏ちゃんの視線の先——俺の背後へと視線を向けると、何て事は無い。そこには笑顔のシャルルちゃんが立っていただけだった。

 

「よう、シャルルちゃん」

「おはよう、光也。それと一夏も。二人してどうしたの?」

「あ、あ、ああ。それは、え、えっと」

 

 突然会話が下手くそになる一夏ちゃん。

 代われ。

 

「一夏ちゃんにタッグマッチのペアになってくれって頼まれてたんだ」

「・・・へぇ?一夏は箒と組むかと思ってた」

「あ、あぁ。ちょっとな」

 

 シャルルちゃん相手にどもりまくる一夏ちゃんに、ふと感じる既視感。あぁ、そうだ。この反応は、クラスのマドンナに話し掛けられた時の童貞に酷似している。

 一夏ちゃんの童貞パワーが大炸裂。

 

「そっか。でも、残念だったね。光也は僕と組むんだ」

「そうだったのか?」

「ゑ?」

「って、何で光也まで驚いてるんだよ!」

「だって初耳だもの!」

 

 タッグマッチ云々の話が出たのは、先程のHR。一夏ちゃんがペアを申し出てきたのがその直後の小休みなので、シャルルちゃんとペアを組む約束をする時間は無かったのだ。

 だと言うのに、何故?

 そんな意味を込めた視線でシャルルちゃんを見上げると、シャルルちゃんは微笑んだ。

 

「大丈夫。必要な要項は僕が記入しておくから」

「オレが問いたかったのはそこじゃねェ!」

 

 ツッコミを入れると、シャルルちゃんは一転哀しそうな表情を見せた。

 

「そっか・・・。光也はもう他に組む人がいるんだね・・・。残念だなぁ」

「ぐ!むぐぐぅ・・・!おぉ・・・!!」

 

 罪悪感で爆散しそうになっている胸を押さえ、唇を噛み締める。

 

「シャルルちゃんも一夏ちゃんも本当にごめん!オレは誰ともペアは組めねェんだ!」

「「・・・・・・え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光也に断られたシャルロットと一夏。

 教科書の準備を始めた光也の近く。

 光也には聞こえない程度の声量で、シャルロットが一夏に囁いた。

 

「一夏」

 

 光也と話している時とは大違いの雰囲気。一夏は「はいぃ!」と情けない声を出してしまう。その声を聞いた光也が「どしたん?」と問うてきたので、「な、何でもない」と誤魔化す。

 

「な、何だ・・・?」

 

 気を取り直し、応答。シャルロットが一夏の方を向いていないので、一夏もシャルロットの方を向かない。まるで映画のワンシーン——パートナー同士の秘密の遣り取りのようだが、一夏の怯え具合により犯人と人質の遣り取りのようだ。

 

「タッグマッチ、僕と組むよ」

「え、シャルルは光也と組むんじゃないのか?俺だって箒と組みたいし・・・」

「一夏って馬鹿なの?光也が出ないって言ってるんじゃん。僕は光也の意思が最優先だから、残された方法は一夏と組むしか無いの」

「・・・あっ、ラウラとかどうだ?」

 

 提案。

 そして、瞬く間に却下。

 

「言っておくけど、僕がラウラとペアを組んだら誰も勝てないよ?ちなみに、一夏と箒がペアになった場合は、()()()だけどね」

「うっ」

 

 考えてみれば、シャルロットもラウラも専用機持ち。しかも代表候補生。

 相手は一般生徒。一夏だけならどうにかなるかも知れないが、何度も言っているようにタッグマッチなのだ。パートナーとのコンビネーションが大切になってくる。箒を置き去りに一人で戦っていては、タッグマッチの意味が無い。・・・いや、そういった作戦もあるのかも知れないが、少なくとも一夏には一対二で戦うという発想が無かったのだ。

 片や、ISの能力値が尖りまくっている男子生徒。

 片や、ISでの実戦経験は殆ど無しの剣道娘。

 誰の目からも、結果は分かりきっている。

 一夏は迷っていた。

 シャルロットと組んで勝ちを目指すか、箒と組んで関係を深めるかを。

 

(・・・・・・出来れば箒と組みたい。——だけど)

 

 怖い。

 

(誰がって?言っておくが、シャルルじゃないぞ。千冬姉だ)

 

 ふざけた結果を出せば、一組の担任であり一夏の実姉である千冬が黙っていないだろう。

 加えて、一夏はクラス代表。クラスメイトが上に進んでいるのに、クラス代表である一夏が負けてしまっていてはどうしようもない。

 赤っ恥だ。

 勝てた場合もまた然り。タッグマッチなのに一人で戦うというのは、それだけで誰かの反感を買うかも知れない。

 悩み、悩んで、悩み抜いた末に。

 

「・・・シャルル、俺とペアを組んでくれ」

 

 答えを出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 保健室。

 

「よう」

 

 オレは、今もベッド上での生活を強いられているセシリアちゃんと鈴ちゃんの元を訪れていた。

 

「光也さん!」「光也!」

 

 空気が抜けるような音と共に開いたドア。手を振りながらそう言って中に入ると、二人は談笑でもしていたのか、笑い合っていた途中でこちらを向いた。

 うんうん、二人共仲が良いようで感心感心。

 

「怪我の調子はどう?」

「日に日に良くなってるらしいけど、タッグマッチには間に合いそうもないわ」

「そっかァ」

「光也さんは、タッグマッチの御相手はもう決められたのですか?まだ決まっていないのでしたら、不肖このわたくしが立候補しようと思っているのですが」

「セシリアも間に合わないって先生に言われたでしょ。諦めなさい」

「残念ですわ・・・」

 

 肩を落とすセシリアちゃん。

 保健室に運ばれた直後は絶対安静と言われていた二人だが、今こうやって会話をしている限り、上体を動かせるレベルまでには回復しているらしい。

 しかし。

 ラウラちゃんが二人に負わせた傷は身体だけには留まらず、二人が操縦する専用機『ブルー・ティアーズ』と『甲龍(シェンロン)』をも傷付けた。

 ISはダメージレベルがC以上行くとヤバいらしく(理由はよく分からん)、怪我の状態を抜きにしても二人はISの修理がタッグマッチに間に合わない為、出場が出来ないのだ。

 タッグマッチ。

 ラウラちゃんからの奇襲により傷を負った二人は、本来出る予定だったタッグマッチに出られなくなってしまった。

 その責任は、オレにある。

 オレがどうしようもない所為でラウラちゃんが暴走し、二人が危ない目に遭ってしまった。

 猛省。

 

「あ、そうそう。二人共授業とかって大丈夫なのか?もう何日も授業に出れてねェけど」

「先生に相談したら、カメラを設置して保健室から授業に参加して良いって。だから勉強については問題ないわ。・・・まぁ、実技はどうしようもないんだけどね」

「回復したら猛練習、ですわね。光也さんの御側にいる為にも、わたくしは強くなければいけませんもの」

「おう。その時は是非オレも参加させてくれ。オレも流石に、そろそろ鍛えないといけねェしな」

「ラファール・リヴァイブに操られている——だっけ?」

「あァ」

 

 皆に話した、オレの桁外れなまでの戦闘能力のタネ。それはズルと何も変わらないので、正直非難やらをされると覚悟していたのだが、オレが思っていたよりも皆は優しかったようで、「ISと会話出来るって凄い」としか言われなかった。

 いやまァ、そうなんだけれども。

 実力云々について何も言われなかったので、何ともまぁ釈然としない気持ちがオレの中に残っている。

 

「オレ自身の力も付けとかねェと、いざという時(まず)いし」

「いざという時、とは?」

「オレとルリちゃんを繋いでる()()が無くなった時」

「そんな事あるの?」

「無いとは言い切れねェだろ」

「・・・そっか」

 

 無人機事件のような展開がまた訪れた場合。

 そんな時にもしも、ルリちゃんがオレを操れなくなってしまった場合。その可能性も考えておかないといけないのだ。

 女の子を守らなければいけない場面で、オレが馬鹿してたらどうしようもならないのだ。

 ふと時計を見ると、ここに来てから一時間以上経っている事に気が付いた。オレが何を見ているのかを気付いた鈴ちゃんが、

 

「もうそろそろ帰んなさい」

 

 と言ってきた。

 

「もう少し居れねェか?」

「あたし達もそろそろお風呂の時間だし、アンタも夕飯の時間でしょ?」

「・・・・・・そうか。んじゃあな。鈴ちゃん、セシリアちゃん」

 

 手を振り、退出。

 後ろから「毎日は来なくても良いからね」「また会える日を楽しみにしています」と二人の声が聞こえた。

 二人と楽しく会話をしていた事もあり、寂しく感じる静かな廊下。一人で昇降口まで歩いていると、誰かと誰かの会話が聞こえてきた。

 一人は声を荒げている。

 何だ?

 気になったので声のする方へと歩いてみると、そこにはラウラちゃんと千冬ちゃんがいた。

 今の自分の近くに身を隠す物が何も無いので、出来るだけ壁に寄り、存在感を消す事に努める。

 

「何故こんな所で教師など!」

「やれやれ・・・」

 

 千冬ちゃんとの身長差故、千冬ちゃんを見上げながらラウラちゃんが怒鳴る。それに対して千冬ちゃんは額を押さえるのみ。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

「こんな極東の地での役目とは何ですか!?」

 

 ラウラちゃんがここまで声を荒げているのは珍し——くもないな。

 まぁ、それはそれとして。

『千冬ちゃんの言う事は絶対!』という信念を持つ(持ってそうな)ラウラちゃんが、あろう事かその千冬ちゃんに不満をぶつけているのだ。尋常ならざる事態だという事は理解出来た。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再び御指導を」

「無理だ」

「光也殿と一緒に、またドイツへ来ていただけませんか!」

「ッ、・・・」

 

 ピクリ。千冬ちゃんが何やら反応したような気がするが、多分気の所為。この距離感だから、僅かな動作は見え辛いのだ。

 

「ここでは、あなたの能力は半分も生かされません」

「ほう」

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません。——光也殿たった一人を除いて」

「何故だ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど」

 

 拙いよラウラちゃん。千冬ちゃんの顔がドンドン怒りを帯びているというのに、ラウラちゃんったら自分の主張に夢中で気付いてない。

 案の定、千冬ちゃんがドスの利いた声で言った。

 

「——そこまでにしておけよ、小娘」

「っ・・・!」

 

 ラウラちゃんの肩が跳ねる。恐らく、ドイツでの鬼のように厳しかった教官としての千冬ちゃんを連想しているのだろう。早くも涙目だ。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は・・・」

 

 ラウラちゃんは弁解しようと口を開く。だが、千冬ちゃんはそれを許さない。

 

「そんなつもりでは——か?言っておくが、お前が否定した生徒の中には、光也が信頼している生徒も含まれている。お前はそいつ等を信じる光也をも否定したんだ」

 

 ガクガクと、ラウラちゃんの膝が子鹿のように震えている。

 何だか可哀想に思えてきたので、フォローに入ろうと足を踏み出した所で、千冬ちゃんが言った。

 

「・・・そろそろ夕食の時間だ。お前も戻れ」

 

 普段の声色に戻した千冬ちゃんがそう促すと、ラウラちゃんは泣きそうな顔をしながらこの場を去っていった。オレがいる場所とは反対側へ歩いて行ったのが幸い。バレていたら気不味いなんてモノじゃない。

 

「おい、光也。そこにいるのは分かっている。こっちに来い」

 

 ・・・気不味いなんてモノじゃない。

 

「お前がどんな性癖をしていようが別に構わんが、今回は話が別だ。・・・お前も分かっているだろう?」

「・・・まぁ、うん。確かに、向こうとここじゃあ違うわな。千冬ちゃんも——ラウラちゃんも」

 

 ラウラちゃんが教師である千冬ちゃんに怒鳴ったのも悪くないし、ラウラちゃんを言葉でボコボコにした千冬ちゃんも悪くない。

 勿論、オレも悪くない。

 うーん。

 (オレ)ながら、とても大きな問題に関わっているのだなァと今更ながら再実感。ふとした千冬ちゃんへの我儘(ワガママ)が、まさかこんな所まで糸を引いていたとは。

 何とも言えない顔で過去に想いを馳せていると、千冬ちゃんが溜め息を一つ。それから言った。

 

「ラウラは今度落ち着いたら私からフォローを入れておく。光也は、今度のタッグマッチに向けて練度を高めておけよ」

「・・・・・・あー、その事なんだけどさ」

「何だ」

「オレ、タッグマッチ出ねェから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六月の最終週。

 タッグマッチ。

 またの名を、学年別トーナメント。

 その当日。

 三年生は三年生の。

 二年生は二年生の。

 一年生は一年生の。

 各自は各自の目的を持って臨む、学年別トーナメント。お偉いさん方も沢山来ているようで、誰もが緊張し、自らの活躍に期待と不安を同住させていた。

 ——そんな一日とは無関係なオレは、セシリアちゃんと鈴ちゃんと一緒に観客席にて皆の登場を待っていた。

 観客席に座ると、否が応でも無人機事件の事を思い出してしまう。キョロキョロと左右を、そして前回突き破られた天井を見る。

 あれから、何かしらの対策は練られたのだろうか。今回も、もしかしたら無人機が——そう考えてしまい、ベルトに引っ掛けているルリちゃん(ISフィギュアバージョン)を握る。

 

「光也さん。喉は渇いていませんか?お腹は空いていませんか?御気分は大事無いでしょうか?」

 

 右隣に座るセシリアちゃんが、オレに世話を焼いてくる。

 

「セシリアは光也に甘過ぎなのよっ」

 

 左隣は鈴ちゃんだ。久し振りに元気なツインテールが見れて幸せ。

 そんな感じに、今日の空気のピリつき具合など物ともせずに和気藹々(わきあいあい)と話していると、アリーナの中央にホログラムの画面が出現した。そこには——

 

【第一試合。織斑一夏&シャルロット・デュノア対ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒】

 

 と、書かれていた。

 

「・・・一回戦目からこの面子かよ」

「一年生の専用機持ちの約半分が集結って豪華過ぎない?」

 

 この面子だと誰を応援したら良いのか分からないので、取り敢えず『頑張れ!』と言えば全員に伝わるよな。と、考える。

 腰に振動。見ると、ルリちゃんが小さくバイブレーションしていた。どうやら、自分の出番はまだかとアピールしているらしい。

 だが残念。今日はルリちゃんはお休みだ。

 売店で買ったお菓子を食べ、話していたら時間は過ぎ、いつの間にやら試合の時間になっていた。

 アリーナに四人が降りてくる。

 一夏ちゃんは、緊張を滲ませた笑顔で。

 シャルルちゃんは、普段通りの微笑みで。

 箒ちゃんは、目を閉じたままの無表情で。

 ラウラちゃんは、怒りが一周回って獰猛(どうもう)な笑顔で。

 四者四様。

 普段見知った顔が大きな舞台に立っていると、こちらも緊張してくる。鼓動がドクドクと自己主張。

 アナウンスが流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより、織斑一夏&シャルロット・デュノア対ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒の試合を始めます』

 

 アナウンスが流れ、アリーナ内が静寂に包まれる。

 ISのハイパーセンサーを使えば、普通では耳に入らないような小声での遣り取りもバッチリ聞こえるのだが、一夏は集中する為にハイパーセンサーは使わなかった。

 対戦相手は、ラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒。

 一夏の想い人である箒が相手なのは大変心苦しい。

 そんな一夏の心情を知ってか知らずか、隣にいるシャルロットがこんな提案をしてきた。

 

「一夏はラウラの相手をして。僕が箒を引き受けるから」

「良いのか?」

「まぁ、僕もラウラには復讐しなきゃいけない(やらなきゃいけない事がある)んだけど・・・・・・あ、別に良いんだよ?一夏が箒と戦えるんなら、僕がラウラと戦っても」

「うぐっ」

 

 無理だ。

 そんな甘チャン思考。シャルロットの提案に「よし、箒は頼んだ」と乗り、自分の相手となったラウラを見詰める。視線に気付いたのか、ラウラが鋭い視線を交わせてきた。

 

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す——』

「ヒィッ!」

 

 プライベートチャンネルで伝わってきた強い呪詛の言葉。思わず小さい悲鳴を洩らす。

 

「どうしたの?」

「い、いや、何でもない」

 

 こんな恐ろしい奴と相手取らなければならなくなってしまった事に少し後悔しつつも、試合開始までの残り時間を確認。

 五。

 四。

 三。

 二。

 一。

 ————零。

 

「ふんっ・・・!」

 

 開始直後。ラウラが右手を前に突き出す。

 ガシリ。

 不可視の大きな手に掴まれたかのように、一夏の動きが止まった。

 AIC。正式名称を『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』。

 ラウラの専用機、シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器の事だ。

 慣性停止能力。

 細かい説明を抜きにして言うと、()()()()()()()()()()()だ。

 AICの力によって捕らえられた一夏は、身動きが取れなくなる。そんな一夏に容赦無く、ラウラは銃口を向けた。

 

『敵ISの大型レール(カノン)の安全装置解除を確認、初弾装填——警告!ロックオンを確認——警告!』

 

 白式のハイパーセンサーが一夏に警告を出す。

 これが、クラス対抗トーナメントのような一対一の試合だったならば、今の状況に置かれた一夏に勝ち目は無いだろう。

 しかし、これはタッグマッチ。

 二対二なのだ。

 

「させないよ」

 

 シャルロットが一夏の頭上を越えて現れ、同時に六一口径アサルトカノン《ガルム》による爆破(バースト)弾の射撃を浴びせる。

 

「クソが・・・!」

 

 シャルロットの射撃によって照準がズラされ、砲弾は一夏の横を通り過ぎた。

 そのままの勢いでシャルロットは箒への攻撃を始める。

 それを好機と見たのか、ラウラは再び一夏にAICを——

 

「馬鹿だなぁ」

 

 向けた所で、射撃。ラウラが振り返ると、箒からの攻撃を避けながらシャルロットがラウラにアサルトライフルを乱射していた。

 

「『高速切替(ラピッド・スイッチ)』ィ・・・!」

 

 ギリギリと歯を噛み締めながらシャルロットを睨む。

 

「ハアァ!」

 

 シャルロットの援護によりAICを受けなかった一夏が、『零落白夜』を手に後ろからラウラに斬り掛かる。

 

(これだとAICが使えない・・・!)

 

 シュヴァルツェア・レーゲンのAICは、捕らえる相手に意識を集中させなければならない。一夏を捕らえても、シャルロットに邪魔されてはAICの意味を成さないのだ。

 幾らシャルロットの隙を突いて一夏を捕らえても、どこからともなくシャルロットが射撃で邪魔をし、それを未然に防ぐ。

 ラウラはパートナーである箒を援護しないので、箒はシャルロットの攻撃にじわじわとエネルギー残量を減らしている。

 

「ここで私が失態を晒せば、教官に——そして光也殿の顔に泥を塗る事になる。それだけは!そんな展開だけは、決してあってはならない!」

 

 なら、どうすれば良いのか。

 その展開を避ける為には、何をすれば良いのか。

 ラウラは、自分の装備を見直す。

 両手にプラズマ手刀。そして、ワイヤーブレード。

 発案。

 そして、決断。

 

 

 

 

töten(殺す)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マジで戦闘シーンで頭ゴッチャになってて困ります。自分の書きたい事、伝わってますかね?
今回光也は学年別トーナメントに出ないです。
光也曰く、

「だって・・・なァ?女の子が怪我しているってのに、ISなんか乗ってられっかよ。それ抜きにしても、そもそもオレ女の子と戦えねェし」

だそうです。
トーナメントよりも、セシリアちゃんと鈴ちゃんを優先した光也でした。
あ、そうそう。光也がラウラちゃんと親しげな理由は、一段落付いたら番外編か何かで書こうと思っています。
お楽しみに。

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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