ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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オリ展開タグを追加した方が良いのだろうか・・・。


17話

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 互いのベッドに座り。

 だんまり。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 向かい合わせ。

 目配せ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 何か言え、と。

 何か聞け、と。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 常日頃女の子の裸見てェな〜とか考えているオレも、今回ばかりは口を(つぐ)む。

 目の前に座り、こちらと目が合っては逸らし、目が合っては逸らしを繰り返す美少女。隠していた真実——暴かれた真実に、オレは何も言えなかった。何と言って良いのかが分からなかったのだ。

 どうしたモノかと考え、頭を抱えていると、シャルルちゃんがゆっくりと話し始めた。

 

「・・・・・・あの、さ」

「お、おう。どうした」

「騙しててゴメンね」

 

 シャルルちゃんは頭を下げ、謝罪した。

 

「確かに、風呂場でのアレは驚いたが・・・オレは別にシャルルちゃんに怒ったりはしてないからな?むしろ、男だと思ってたら女の子だったという途轍(とてつ)も無いお得感が——法律的に考えるとやったねって展開が」

「そうじゃないの!」

 

 中断。

 どうやら、あまり茶化してはいけないらしい。

 そりゃそうか。ただ単にIS学園に転入するのと、性別を偽って転入するのとは全く違うのだ。

 世間からの注目、そして嘘がバレた場合のリスク。理解していない筈がない。

 シャルルちゃんは、何故こんな事をしたのだろうか。

 問う。

 シャルルちゃんが語った事を大まかに纏めると、

 

 

 

 ・シャルルちゃんは、かの有名なデュノア社の社長の、愛人との間にデキた娘さんらしい。

 ・少し前からデュノア社は他国からの支援が無くなり、経営危機に陥っていた。

 ・それを脱する為には、ラファール・リヴァイブよりも一世代上の第三世代型のISを作らなければならないのだが、必要なデータも時間も無し。このままだと不味いと思ったシャルルちゃんパパがシャルルちゃんに「男装してIS学園入ってくんね?」とお願いしたらしい。

 

 

 

「男性の振りをして二人に近付いてISのデータを盗む為——とか、本当だったらそんな理由での男装だったんだ」

「違うのか」

「うん。光也がこの前の戦いで派手に暴れてくれたからね」

「この前のって言うと、アレか。クラスリーグマッチの時か。・・・で、アレに何の関係が?」

「光也が乗って暴れたラファール・リヴァイブを偉い人達が見てたらしくて、感心したんだって。『デュノア社の第二世代の量産機でもあれだけ動けるのなら、援助してやるから第三世代の制作も頑張りたまえ』って。それで、デュノア社の開発資金を援助してくれるスポンサーが増えたんだよ」

「成る程なァ」

 

 ルリちゃんが暴れたお陰で、図らずもルリちゃんが言っていた『量産機の地位向上』が達成された訳だ。お偉いさんも「ラファール・リヴァイブやるやん。これからも頑張りや」ってなって、開発資金もガッポガッポ。皆ハッピーってなったのか。

 

「早い話、男装する理由が無くなっちゃったんだよね」

「なら普通に転入すりゃ良かったじゃん」

「もう書類も出しちゃったし、僕が男性だという嘘の証拠も色々準備しちゃったから、引っ込みが利かなくなっちゃって・・・。お父さんは『バレたらなんやかんやフォローしてちょっとしたジョーク扱いにするから、取り敢えずバレるまでは男性って(てい)で転入してくれ』って言うからさ」

「シャルルちゃんパパの頭ヤバくね」

「うん。まぁでも、他に方法も無かったし良いかなって」

 

 シャルルちゃんは虚空を見て苦笑いながら、足をプラプラ。男性である事を取り繕わなくなったシャルルちゃんは、マジでオレの心臓に悪かった。さっきから心臓がバックバクしてやがる。

 

「・・・・・・これからどうすんの?」

「お父さんに電話して、バレちゃったって報告するつもり」

「大丈夫か?連れ戻されたりとか・・・」

「大丈夫だよ。多分、明日からは女性として再転入すると思う」

 

 どうやら、祖国に強制送還とかそんな展開にはならずに済むらしい。心のどこかでその展開を危ぶんでいたオレは、ホッと胸を撫で下ろす。

 聞きたかった事が聞き終わったのと、バッドエンドにはならなそうな展開に安心したのとで、オレは少し会話を忘れていた。シャルルちゃんも、オレからの質問を待っているのか、自分からは話し掛けてこない。

 てな訳で、無言の室内。しかし、冒頭のあの気不味さや空気の重さは無い。

 ただ、会話が無いだけの室内。

 

「じゃあ、オレも風呂入ってくるわ」

 

 時刻を見れば、二十一時を回った辺り。そろそろ風呂に入らねば、健康云々の面で一夏ちゃんに色々お小言を言われてしまう。立ち上がり、シャルルちゃんに一声掛けた。

 

「う、うん。浴槽のお湯は飲んじゃ駄目だからね」

「シャルルちゃんはオレを何だと思ってんだ・・・」

「・・・・・・で、でも、どうしても飲みたいんだったら」

「あ?何か言ったか?」

「ううん!ごゆっくり!」

 

 声が小さくなったり大きくなったり、何やら楽しげなシャルルちゃんの行動に首を傾げつつも、着替えやら何やらを用意して洗面所へ。

 

 

 

 

 

 

 ポツンと、一人残されたシャルル・デュノア——本名、シャルロット・デュノア。

 シャルロットは光也が消えていった洗面所の方を見ながら、ニッコリと笑った。

 

「・・・・・・ふふっ。これで僕と結婚出来るね、光也」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転入生、ラウラ・ボーデヴィッヒは怒っていた。

 昨日までの自分の中には、そんな感情は無かった。

 むしろ、あったのはプラスな感情。想い人である唐澤光也との再会に心を躍らせていたからだ。

 しかし、今日になって——転入当日となって、ラウラ・ボーデヴィッヒは怒っていた。

 あれだけ自分を愛してくれた光也が、他の女性も愛していたからだ。

 自分にしてくれたように。

 自分以外の女性にも。

 光也に怒りの鉄槌を下しても心は晴れず、しかもそれ以降は光也とまともな会話も出来ていない。会話のネタは転入前から色々用意していたのに、モヤモヤばかりが胸中に積もっていた。

 イライラする。

 ムシャクシャする。

 その感情は日を跨いでも収まらず、日毎に強く大きくなっていた。

 最近、自分と同時期に転入した金髪の女(制服がスカートに変わっていたので驚いた)が光也の隣にいるのをよく見掛ける。仲良さげに談笑する様を見せ付けられているような気がして、その度にギリっと歯に負荷が掛かる。

 何故、そこにいるのが自分ではないのか。

 何故光也は、自分を愛してくれないのか。

 自分はこんなにも光也を愛しているというのに、何故結ばれないのか。

 歩きながら考え、いつの間にか辿り着いたのはアリーナの客席。

 放課後()は、学園の生徒が今度のタッグマッチに向けて、実戦訓練に勤しんでいるらしい。

 特に意味も無く、上からアリーナを見渡す。

 その中に見覚えのある顔を幾つか見付けて、ラウラの口角が(いびつ)に吊り上がった。

 嗚呼、そうだ。

 何故最初からそうしなかったのか。

 光也の隣を陣取る邪魔者がいるのなら、潰してでもその座を奪い取れば良い。

 そうすれば、夢にまで見た光也との学園生活を送る事が出来るのだ。

 決意。

 実行。

 手始めに、青色と桃色の機体に攻撃を仕掛ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————光也ッ!!」

 

 放課後。自室にて寝転がりながらスマホゲームでポチポチと遊んでいると、勢い良くドアが開かれた。入口には、肩で息をしながらドア枠に手を付いているシャルルちゃん。

 尋常ではないその様子に「どした?」と問い掛けながら起き上がって、シャルルちゃんの方へと寄る。

 

「大変なんだ!セシリアと鈴が!」

「セシリアちゃんと鈴ちゃんが?え、どういう事よ」

「良いから早く!」

 

 状況を理解出来ていないオレは、呑気に事情を聞こうとシャルルちゃんの背中をさすろうと手を伸ばす。しかし、シャルルちゃんはそんなオレの手を掴んで走り出した。男顔負けのその速度に、部屋のドアが閉まる音が遥か後方に聞こえた。

 着いたのはアリーナ前。

 ゴクリと息を呑んだ。

 実を言うと、一夏ちゃんに「今日の放課後、一緒に特訓しようぜ」と誘われていたのだが、「今日は良いや」とオレはその誘いを断っていたのだ。

 だから、アリーナに入るのは少し気まずかったりする。

 今からでも前言を撤回して、特訓に合流した方が良いのだろうか。

 と、オレはシャルルちゃんに連れてこられた理由をそう解釈していた。オレが特訓をサボりまくっている事に、一夏ちゃんとセシリアちゃんと鈴ちゃんが腹を立てているのだと——そんな理由だと解釈していた。

 ふぅ、と意識の切り替え代わりに息を吐き出してから、扉を開いてアリーナ内へと足を踏み入れる。

 瞬間、一夏ちゃんの叫び声が聞こえた。

 呑気に歩いていた自分を心の中で叱咤し、声の方へと走りだす。

 視界が開け、太陽光に照らされるアリーナ。

 その中央付近で行われている戦闘。

 一人は、叫び声の主である一夏ちゃん。

 もう一人は、ラウラちゃんだった。

 

「何が・・・起こってンだよ」

「最初は、皆で仲良く訓練してたんだけど」

 

 話を聞いている途中、見付けてしまった。

 苦痛に顔を歪め、箒ちゃんに介抱されている、満身創痍の二人の姿を。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

 勢いのまま駆け寄ったので途中で転んでしまったが、痛みも制服が汚れるのも気にせずに二人の方へ。

 

「み、光也さん・・・」

「光也・・・」

 

 返事をするのがやっと、といった二人の状態に涙が出そうになる。

 

「酷ェ・・・!誰にやられたんだ!?誰が二人をこんなにしやがったんだ!?」

 

 女の子をこんなにした犯人への怒り。オレはわなわなと震えながら二人に問うた。

 鈴ちゃんがゆっくりと手を地面から浮かせて、指を指す。その方向へと首を曲げて。

 

「・・・・・・え?」

 

 信じられなかった。

 鈴ちゃんの指へ視線を戻し、もう一度。

 

「嘘だろ・・・」

 

 銀色の髪を風に靡かせ、一夏ちゃんにとどめの一撃を叩き込んだラウラちゃん。

 鈴ちゃんの指は——鈴ちゃんは、確かにラウラちゃんを犯人だと告げていた。

 

「ラウラちゃん・・・君が、二人をこんなにしたってのか?」

 

 頭の中で不気味に(うごめ)く何かに吐き気を覚えつつも、問う。震えながらの問いは、とても小さなモノだったのだが、ハイパーセンサーで聞き取れたのだろう。ラウラちゃんは先程まで戦っていた一夏ちゃんには目もくれずオレの元までやってきた。

 

「光也殿!」

 

 展開していた黒いISを解除。笑顔でオレに抱き付くラウラちゃん。良かった、今朝のアレは許してもらえたらしい——なんて呑気な事は言ってられない。

 

「私はやりました!光也殿の周りに(たか)るゴミ虫共を駆除する事に成功したのです!最初は四対一だったのですが、光也殿の事を想えば私は百人力!人数差を物ともせずに潰してやりました!どうですか?褒めて下さい!以前のように、頭を撫でて下さい!なんならkussでも大歓げ」

「ラウラちゃん、一旦離れてくれるか?」

 

 楽しそうに事の成り行きを語ってくれたラウラちゃん。その台詞を途中で中断させ、ついでに離れるように言う。普段のオレからしたら考えられないような言動だった。

 ラウラちゃんも、ショックを受けているらしい。いやァ、男としては嬉しい限り——あれ、なんか様子が可笑しいような。

 

「・・・・・・何故」

 

 数歩分距離を取ると、返ってきたのはそんな言葉。

 

「・・・・・・何故褒めてくれないのですか」

 

 オレが離した距離を、そっくりそのまま詰めてくる。

 

「・・・・・・何故光也殿の視線は私ではなく、私の後ろの二人へと心配そうに注がれているのですか」

 

 両腕を掴まれる。

 

「・・・・・・何故私を見てくれないのですか」

 

 赤い瞳がオレを射抜く。

 

「・・・・・・何故、何故!何故!何故なのですか!」

 

 腕を前後に揺すられ、オレも抵抗できずに揺られていると、ラウラちゃんが突然ISを展開。その直後に、ISの装甲に火花が散った。

 離された両腕。オレはたたらを踏みつつも、後方へと下がった。

 

「Hey, allemand」

「・・・貴様」

 

 ラウラちゃんが忌々しげに睨んだのは、同じようにISを展開していたシャルルちゃん。何やらフランス語を言っているが、意味は分からん。

 

「光也を傷付けるのは許さないよ」

 

 カッチョ良い台詞と共に、銃口をラウラちゃんに向けた。

 一触即発。

 今にも戦闘が始まりそうな空気に、オレは二人の間に割って入った。

 

「止めてくれ!」

「退いて光也!ソイツ危険だよ!」

「退いて下さい光也殿!ソイツ殺せません!」

「止めろ!」

 

 懇願から命令へ。

 

「・・・止めてくれよ」

 

 命令から、哀願。

 泣きながらの、哀願。

 

「み、光也殿・・・・・・泣いていらっしゃるのですか?」

 

 ここに来て、ラウラちゃんは震えていた。先程までの怒りはどこへ行ってしまったのか、オレが涙を流しているのを見ながら震えていた。

 

「も、申し訳ありませんでした!私、光也殿の事を考えずに勝手な真似を・・・!」

「ラウラちゃん・・・ごめん」

「謝らないで下さい!」

()()()()()()()()()()()

「ッ」

「怒ってやらなきゃいけねェのに。間違いは正してやらないといけねェのに。・・・オレはラウラちゃんを怒れないんだ」

 

 何故なのか。

 そんなの決まってる。

 ラウラちゃんが美少女だからだ。

 怒って、美少女に嫌われるのが嫌だから。

 怒って、美少女との関係が崩れるのが嫌だから。

 怒って、美少女が悲しむのが嫌だから。

 どれが本心なのかは分からんが、オレは兎に角ラウラちゃんを怒れなかった。

 そんな自分の失望感。遣る瀬無さに、涙が出る。

 

「そんな、嫌・・・!泣かないで下さい!」

「ごめん・・・!ごめんな・・・!」

「謝らないで下さい!嫌・・・!聞きたくない!嫌です・・・!嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 どこかへ駆けて行くラウラちゃん。

 心配そうにこちらへ駆けてくるシャルルちゃん。

 肩を押さえながら荒い息を吐く一夏ちゃん。

 一夏ちゃんを介抱する箒ちゃん。

 意識が無いのか、倒れたまま動かないセシリアちゃんと鈴ちゃん。

 騒ぎを聞き付けて、話を聞きに来た教員。そして野次馬。

 全方位から入ってくるオレへの情報が何故かとても遠くの出来事のような錯覚を感じながら、オレは涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




kuss。ドイツ語。英語で言うとキスです。
Hey, allemand。フランス語。日本語で言うと「おい、ドイツ人」です。

病み気味なシャルルちゃんと、病んでるラウラちゃん。

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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